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犬と猫の尿石症

 犬と猫の尿石症についてのお話しです。

6月から待合室で「犬猫の尿石症」について掲示しています。暑くなってくる前に、飲水量を増やすことに注目していただきたいので梅雨時だけど今がいい頃合いだというのと、たまたま某メーカーさんの予防食リニューアルというのもあって、オリジナルの説明プレートを用意してみました。今日までに2週間ほど経過しましたが、初診で尿石症を診断することが多く、尿石症はどちらかというと少し冷えてくる秋に多いイメージでしたが、そんなこともない、やっぱりオールシーズンいつでも発生している一般的な病気であることを痛感しています。

尿結石の中には、注意しておけば予防できるものがあります。今はなんともないように見えて、問題はこれから発生するかもしれません。決して他人事の病気ではないのです。

そんなわけで、尿路にできる石のお話にお付き合いください。

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尿路結石についてご紹介しています。
別の用件で診察に来られても、
「あっ!そうだ!オシッコがおかしかった!」
なんてことがあれば、ついでにお話しください。

<尿路に石があるとどうなるか>

尿路はオシッコができて、流れて、排泄される経路です。腎臓~尿管~膀胱~尿道になります。

腎臓~尿管を上部尿路、

膀胱~尿道を下部尿路

といって、分けています。尿管と尿道は一文字違いですが、別の組織です。

尿結石はこのうちのどこかに存在する石です。

尿結石は尿路のさまざまな場所を自然に通過したり、ずっとそこに居続けたりします。そのあいだ、そのままの状態で成長せずにいることもあるし、自然に溶解してしまうこともありますが、成長を続ける(大きくなる、数が増える)こともあります。どこかにある石全部が何かしらの症状を出すのではなくサイレントで、気がつかれないこともあります。たった一度血尿を出したけれど、その後はなんともない、なんていうこともあります。たまたま画像検査をしたら発見するということもあります。

けれど、好ましくないことも起こします。

いくつかの、怖い例を挙げてみます。

・石がある組織の内側の壁、たとえば膀胱なら膀胱の粘膜を傷つけます。傷がつくと粘膜表面から量の問題はありますが出血します。

・傷があると、細菌感染を起こしやすいです。

・慢性的な刺激によって粘膜はポリープを作るかもしれません。それは腫瘍と区別がつきにくいものです。

・腎盂(やや広い)→尿管(とても狭い)→膀胱(広い)→尿道(狭い)という構造になっていますので、石が移動し、狭い部分を通過する途中で閉塞を起こすかもしれません。

・両腎に影響するほどの完全で持続的な閉塞が起こると、腎障害を起こします。それは急性の尿毒症を起こすかもしれません。

・重篤な閉塞が生じた後、尿の流れを早急に再開させないと腎臓は急速に壊れ、2日から4日くらいの間には亡くなることも予想されます。

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いろんな石があります。
石毎にでき方に特徴が有ります。
手術しなくても大丈夫な石もあります。
きちんとしてれば予防も再発しないようにもできる石もあります。

<石によって組成が違います>

尿路結石にはいろいろ種類があります。石の成分のことです。

昔、激しく昔ではないけど、そう、昭和の頃です。犬も猫も、「尿石ができているぞ」とわかったとき、その石はほとんどがリン酸アンモニウムマグネシウム(ストルバイト)でできていました。この石は長いこと、結石の原因のNO.1でした。それも80%くらいはこの石でした。今は減ってきています。この石は予防が可能になったからかもしれないし、飼い方が良くなったせいかもしれません。

近年増えてきているのがシュウ酸カルシウム結石です。これまで80%を占めていたストルバイト結石は、その半分(よりちょっと多く)をシュウ酸カルシウム結石に譲った感じです。猫のシュウ酸カルシウム結石は腎臓から落ちて(膀胱まで行く途中の)細い尿管で石が立ち往生してしまうと、急性の腎障害を起こし命の危険が高いので、特に注目が集まっています。この状態に対しては外科、それも緊急の外科が必要ですし、手術ができたからといってこうなった猫たちを100%救えるかというとそうではなく、もし危機的状況を一旦回避できても難しい状態が継続します。亡くなる確率も高いし、救えても慢性の腎臓病となってしまうことも多い厳しい病気です。

ストルバイト結石が大半を占めていた昔でも、シュウ酸カルシウム結石がその半分を譲られた今でも、変わらず10%~20%くらいは別の石が占めています。それが代謝に関係してくる石と不明の石です。一部の犬では腸から肝臓に行く血管(門脈)に異常があったり、また肝臓に障害のある犬があり、そのために尿酸アンモニウム結石を形成することがあります。またダルメシアンに代表されますが、遺伝的にプリン体の代謝ができない個体でも発生しやすいことがあります。それから腎尿細管で再吸収されないことから発生してしまうシスチン結石があります。まれなのですが、これも遺伝的疾患で、できてしまう犬には繰り返し石ができてしまいます。原因はわかっているけれどコントロールが難しい結石です。

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犬も猫も、よく見られる石の種類は変わってきています。

<尿結石を発見する>

石の発見に使われるのは、レントゲン検査や超音波検査などの画像検査(と尿検査、可能ならば血液検査)です。レントゲン検査するとき私たちは、「KUB」:腎臓(K)~尿管(U)~膀胱(B)を全部入れて撮影しますが、さらに尿道とその先の出口までしっかり撮影するようにしています。ときに、一枚では治りきらず、前の方、後ろの方の2枚に分かれて撮影することもあります。(横から撮影するだけで)

読影するときはじっくり見ていきます。小さい動物ではできている石も、ほんの小さな石であることがあります。撮影後も色合いの調整や拡大など、画像を調整して確認します。X線の「透過性」と私たちは呼んでいますが、くっきり写る石からぼんやりレベルの石、また、X線をすり抜けて写らない石というのもあります。レントゲン撮影そのものは皆さんもご存じの通り、「はい、息を大きく吸って~止めて~はい」「バシャン!」の数秒のことなのですが、読影には時間がかかります。

超音波検査では、動物にじっとしていただくことが要求されます。一瞬の撮影タイムであるレントゲン撮影と違って、それなりの時間が必要です。石のようなもの、石かどうか怪しい物体があるような場合は、尿道に管を入れその管から生理食塩水を流し、水の流れや物体の動きを通して、怪しい物体を探ります。大きな石でしっかり影を作るようなものだと判断しやすいのですが、微妙なときは判断するのに困ることがあります。直腸にウンチがいっぱいあってわかりにくいということもあり、「浣腸してから撮りなおししようか」なんてことにもなります。

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腎臓から尿管、膀胱、そして尿道まで、
石はどこにでもできてしまいます。
レントゲン検査でわかる石を載せています。

<見つかった石、取らなきゃいけない?>

「悪さをしている石」は無くした方がいいです。たまたま偶然見つかっただけで「悪さをしていそうに無い石」の場合は見守りもありです。

「悪さをしている」、「悪さをしそう」などの判断は重要ポイントです。たとえば腎結石が見つかっても、流れを妨げている、感染症を繰り返している、痛みを出している、腎臓が圧迫されるくらいでっかいなどは「悪さをしている」ので「切る方」に入る石です。偶然見つけた小さな腎結石で、流れも妨げていない、感染もしていない、痛みももい、とても小さな石の場合は「見守り」になります。また膀胱にあって「悪さをしそうにない石」というのは、今も問題を起こしていない(血尿とか尿路感染などの症状が全く出ていない)し、適度な大きさがあって尿道に落ちそうにない(閉塞しそうにない)石です。症状が出たときにどうしようか考えれば良い「見守り」になります。

そして「手術でなければ取り出せない石」と「内科的に溶解が可能な石」があり、溶かせることができる石ならば(何か緊急に困ることが無ければ)ゆっくり溶かしていくのが動物にやさしい方法です。「手術しなければならない石」で「予防法がない石」ならば、何度も繰り返し手術するくらいなら、見守り続け、必要以上に手術回数を増やさない方法もあることになります。

「見守る石」は「様子を見ましょう」と言われるかもしれません。これは「そのままにしておいて良い」という意味ではありません。定期的にチェックが必要ですが今は手を出さないという意味です。獣医師からの言葉をちょっとアレンジして判断されてしまっている飼い主さんもおられますのでお伝えしておきます。

基本的にストルバイト結石は溶かす石に分類されています。尿酸結石とシスチン結石も一度は溶解を検討してみる石です。見守りや取り出しの手術になりやすいのはシュウ酸カルシウム結石です。

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今月からリニューアルの尿石予防食です。

<石の種類は体内にあるときに特定できるか>

石によって切らなくても溶かせる石がある、となると、取り出してから検査するのでは無く、体内にあるうちに決定して処置を決める必要があります。出てきていない石がどの組成の石なのか、外から見て分かるものでしょうか。

動物の品種・性別・年齢やできている石の場所、代謝異常などの病気の様子、尿路感染の有無、食餌などから、どの石なのかを予測することは可能です。また画像検査で推測することも可能です。例えば、X線には写らないけれど超音波検査だとはっきりわかる石、X線でぼんやりわかる石、X線で小さくてもくっきりわかる石などの写り方によっても判断できます。それから超音波検査でいろいろな角度からあててみて推測されるおおまかな形、石の大きさと数なども参考になります。尿検査で尿のpHを調べることができますが、酸性度、アルカリ度によってできやすい石に違いがあるので、これも参考になります。結石成分が過飽和であったとき、管に入れた尿を回転させ沈んだ物を顕微鏡で調べてみると、結晶成分を見つけ出すことができます。有力な手がかりです。

こんなことをヒントに、だいたい推測することができます。しかし、ある石が原因で感染が起こり二次的に感染性のストルバイト結石を形成することもあります。血液検査でミネラル成分を調べ、高カルシウム血症があるなど、というのもヒントにはなります。

しかし状況証拠が一つの方向に正しく導かれるとも限りませんので、判断に苦しむこともあるし、複数の成分が絡み合ってできている「混合結石」の場合もあるため、決定が難しいときもあります。

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サンプルフードが並べてあります。
石ができていない犬猫でも、
肥満を含めたほかの病気がないときには
これらを利用することが可能です。
予防になります。

<特殊な犬?普通の犬?>

遺伝的疾患を持った特別な犬や猫だけに尿結石ができるのはできた石全部のなかで10%~20%未満です。あとは「こんな風に飼っていると石ができちゃうかも」というのがあります。もちろん体質によって「すぐにできちゃうぞ」から「いずれできちゃうぞ」くらいの巾は有るかもしれません。「うちの子は一度もできたことないし、関係ない病気じゃないかな」と思われていらっしゃる飼い主さんはとても多いです。でも人生における「まさか」は犬でも猫でも起こりますので、「関係ないぞ」なんて思わないで予備知識を入れておいていただけると良いなぁと思います。

 

<続きますが、ひとこと>

「様子を見ているうちに変化して、すぐになんとかしなければいけなくなる結石」は一定数あります。はじめはきっと「見守り」だったのだけど、どこかで「悪さをし始めた石」に変わったはずです。はじめから「切除が必要だったけれどそのままにしちゃった石」も無いとはいえませんが、すべてがそうではないと思うのです。「定期的な検査で様子を追っていく」ことで「切りどき」を逃さないようにすることが大切です。「様子を見る」というのを「何もしなくてもいい」と読み違えてしまうと、「切りどき」を過ごしてしまう危険があります。

「見守り」「様子観察」「様子見」はいつも以上に「神経を細やかにして臨床症状が出ていないかどうか気を配る」必要があるし、忘れずに再診に出かける必要があるというのを心に留め置いてください。

<改正動物愛護法のこと>

話は変わりますが、動物愛護法が変わりました。これまで以上に罰則は強化されました。心を痛める事件もありますが、これによって無くなればウレシイです。
ショップで売られる子犬の週齢も、今後引き上げられることが決定しました。小さい方がかわいい、幼い方がなつきやすいといった逸話は、動物行動学からは完全に否定的です。幼少時には親子のスキンシップと同腹子同士の遊びを通じて得られるものが多く、これが日本犬に適応されなかったことはとても残念です。日本犬だけを除外するエビデンスはありません。
飼育者にとって関連してくるのは「マイクロチップ」の埋め込みです。これまで飼育されてきた動物には努めて入れて欲しいということになっています。終生飼育の義務づけ的な側面もありますが、むしろ、万が一大きな災害が起こって迷子になっても、最後はマイクロチップの情報を頼りに飼い主さんと再会することができます。いつでも挿入は可能です。この際にぜひ、ご検討ください。不安に思うこと、知りたいことがあれば診察のときにどうぞ。






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猫を家に連れて帰るときの注意

 「猫を動物病院に連れてくる」のお話しの後に、「家に連れて帰る」のお話しをしておこうと思います。単頭飼育の猫さんにはあまり関係ないことですが、同居猫がいる場合は帰宅時のことも考えておく必要があります。

 <わが家の猫のこと>
先日、家で飼育している猫の、還暦を迎えた(
11歳になった)猫だけ入院させ、12日で健康診断を行ないました。2頭飼育していますが、どちらも去勢手術済みのオス猫で日常的には何ら問題なく過ごしています。今回シニアくんが帰宅すると家でお留守番していた成猫が「シャーシャー」けんか腰で、制御しようとしてもなかなか興奮が収まりませんでした。互いの頬をタオルで拭いて匂いを嗅がせるなど、それなりの対処法はあるのですができません。やろうにも、こちらが八つ当たりされ攻撃を受けそうな気配です。一晩は部屋が凍り付いたような緊張ムードに包まれてしまい、急遽別々の部屋に閉じ込めておくことにしました。そして翌日攻撃を示した猫を病院に連れてきて半日隔離し、夜帰宅するといつもの関係に戻っていました。またその後は、なんら問題は発生しませんでした。

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<よくあることです>
病院から猫を連れ帰ったとき、同居している他の猫が威嚇したり攻撃しかけてきたりすることはよくあることです。病院の匂いをまとって帰ってきた同居猫を「知らない猫」と誤解し、攻撃の対象にしてしまうことがあります。日帰り通院くらいならあまり起こりませんが、入院し、退院した後には比較的起こりやすいです。

 

<退院のお迎え>

激しい攻撃性を発生させないようにするための、いくつかの対策があります。
お帰りの際は、キャリーを病院に預けていたとしても、普段猫が使い古してきたような(匂いがしっかり染みついた)敷物を用意して、キャリーで帰宅するまでの間に入院していた猫の病院臭を家庭臭に変えるようにします。

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<帰宅したら>

まずはお留守番猫の反応を見ましょう。

キャリーの扉を開けて、帰宅猫を早く自由にさせてやりたいと思うかもしれませんが、少々お待ちください。キャリー内で待機させます。

お留守番猫が落ち着いていれば、キャリーの扉を開けても大丈夫かもしれません。

お留守番猫が「シャーシャー」うなって攻撃性をしかけて来る場合や、半ば身体を隠すようにして遠巻きに見て近づいてこない場合は、緊張が高まっているときです。帰宅後もしばらくそのままキャリーの中に居させる方が良いでしょう。たいてい1日くらいでなんとかなると思われます。うなり声が聞かれるようなときは、別の部屋で待機させてください。

同居猫の匂いを認識させるのに、退院猫の頬をぬぐったタオルを留守番猫に嗅がせる方法があります。これは互いにさせた方が良いので逆も行なうわけですが、あまり攻撃性が強いときには頬をタオルで拭くことができないかもしれません。興奮している猫は見境なく、タオルを持つ飼い主さんに向かっても攻撃を示す(八つ当たりのような)事が発生し得るので、注意し、無理な場合は実施しないでください。なお、お互いの匂いを嗅がせるときに大好きなおやつも与えると「プラスイメージの効果」が得られやすいです。

それでもまだ受け入れが難しい場合は、新入り猫さんと先住猫さんに行なうような「お見合い」からスタートさせます。時間をかけてゆっくりと、です。

特に、もともと仲が悪かった、けんかをしたことがあるような関係の猫同士では、これを機会に別居せざるを得なくなることもあるのでよく観察してください。

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念のため、新入りさんを迎えるときの基本について載せておきます。慎重にお願いします。

<新入りさんを迎えるときの基本>

はじめは「声が聞こえる、新しい猫の気配がわかる」の関係です。声がわかる程度の距離に置きます。たいていは扉を挟んで別の部屋です。

次は「姿を見せて食事」の段階。これは扉を開けて猫を認識したときだけ食事を与える「プラスイメージ強化」の作戦です。

それから「互いの匂いの交換」の段階へと進めます。先ほどの頬タオルで認識させることです。ここでもプラスイメージが湧くようにおやつと併用します。

それから「解放」の段階へと進めます。

急がず慌てずゆっくりと、行なってください。

 

猫の通院についてのお話しはこれでおしまいです。

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猫のハンドリング訓練

 「猫を病院に連れてくるのが大変」というお話しは実によく聞きます。まずお家でキャリーに入れるまでに大格闘があるそうです。キャリーを見たとたんに逃げる猫や、家族のただならぬ気配に異変を感じ既に前日から物陰に隠れて出てこない猫もいるようです。この状態の猫を無理矢理キャリーに押し込め、それから延々と猫の嫌いなことばかりが発生しています。猫は移動中の車の音も嫌いですし、病院に着いてから知らない人や動物に遭ったり、聞き慣れない音を耳にしたり、嗅いだことのない匂いを感じたりなど、猫は診察前にすでに多くのストレスがかかっています。中には「静かにしなさい!」と大声で叱ってくれたり、「このくらい我慢しなさい!」と頭を叩いたりなどしてくれるので、いよいよ診察が始まります、という段には猫のご機嫌悪化は最高潮になっています。
そんなにキャリーがキライでも、キャリーに入れてきて貰わないと、表で猫が車から脱走しちゃったら一大事です!

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<こんな論文>
 
「猫のキャリートレーニングは動物病院受診ストレスを軽減する」という論文があります。昨年出されたものです。6週間のうちに28回キャリーに入れて車移動をした猫(トレーニング群)と何もしなかった猫(コントロール群)に分けて、診療所を訪問したときの猫の様子を観察した研究です。その結果、28回のトレーニングの前後で、キャリートレーニング群は何もしなかった猫(コントロール群)に比べて、車中のストレス指数が有意に減少していました。そしてごほうびを探す時間、口を舐める回数や姿勢を変える回数が増え、座っている時間も増えました。こうした診療前のストレス軽減効果は診察にも影響はあり、身体検査に手間取らないため検査時間が短縮されたそうです。

Carrier training cats reduces stress on transport to a veterinary practice
Lydia Pratsch, et,al
Applied Animal Behaviour Science , 204 , p64-74 , 2018

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<おねがいしたいこと>
さて、前回はキャリーケース・トレーニングについてお話ししました。
キャリーを異質な物と認識しないようにするため、またキャリーに入るのが恐怖にならないよう普段からならしておくためでした。飼い主さんが猫をキャリーに入れるまでの格闘を無くすことに主眼があります。

この実験では、その先のハンドリングも、トレーニングすると猫のストレス軽減になることを示してくれました。目的もなく猫を車に乗せるというのはなかなかできないことかもしれませんが、診療開始までの状況が改善されると猫にとっても私たちにとっても有益になります。今回は第3段階の訓練もお願いしたいと思います。

<ハンドリング・トレーニング>

キャリーケース・トレーニングの次の段階は「車に乗せる」ハンドリングトレーニングです。車に乗せるには一旦外に出るわけですが、ここで室内との温度差や音の変化が出てきます。キャリーを外から布で覆ってもらうと、外が見えなくなるし温度差が減り、また音を少しでも遮蔽する効果があり、猫に不安を与えません。

はじめは「キャリーで屋外に行く」だけで帰ってきてください。
次に「キャリーで外に出て」「車に乗せる」になります。車のドアを開けて車内に入れてドアを閉める、そしたらまた家に戻ってきます。
次の段階では「エンジンをかける」を行ないます。発車せず、車のエンジン音を聞かせるだけで戻ってきてください。
さいごは「短距離ドライブする」段階です。急発進、急ブレーキ、急停車どれも禁忌です。安全運転で家の周りくらいをぐるっと一周してきてください。少しずつ病院までの距離に慣らしてきてください。

車の乗り方から始める、まるで自動車学校の生徒になったような気分になるかもしれません。猫にとって車に乗ることは日常の出来事ではありません。どれだけうまくならしていただけるかはこの後の診察にも影響が出てきます。やさしいトレーニングをお願いします。くれぐれも、途中でコンビニによってお買い物、その間は車内に放置、ということがないようにしてください。

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<三方にとっていいことばかり>
このように猫の来院ストレスがなくなると、飼い主さんは猫を動物病院に連れてくることが「かわいそうだ」と思わなくなって、ちょっとした異常を見つけた段階で診察に来てくれるでしょう。定期的なワクチン接種や定期健康診断にも来院しやすくなるに違いありません。猫の病気を予防し、早期発見し、早期治療するのに欠かせない「来院」という第一段階がクリアーされます。

猫にストレスがなくなると、より日常的な猫を診察することになります。さらに、身体検査で体中を触られることにも、採血や採尿をされることも抵抗なく受け入れてくれるでしょう。猫が緊張のあまりウィークポイントをマスクして状態がよくわからない、というようなことがなくなりますから臨床徴候の見誤りや見逃しを無くすことができます。また血圧や血糖値も安定していれば「本当の値」として見ることができます。状態を判断するのに好都合です。

猫の方でも、ここではこの手順に従って触られる、この体勢を取って静かにしていればそれ以上のことは起こらないと学習するので、余計な恐怖を感じることもありません。不快度数減少です。そして順化してくれると診察や検査もスムーズに行きますから、不快持続時間も減少になります。猫のストレスは間違いなく減ることになります。

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<おわりに>

猫がキャリーに入っていたら扉を閉めて、ちょこっと部屋を移動してみるくらいの段階から始め、車でぐるっと回ってどこにも寄らず帰宅するなどの訓練。これは猫が忘れないくらいの間隔、週に1回くらいの頻度で行なうといいと思います。

今日は猫のハンドリング・トレーニングについてお話ししました。
猫の通院はどうして必要なのか、ことに高齢になった猫の場合については以前お話ししました。

「猫が病院嫌いなので連れていきたくないです」のお話しはこちら。

http://heartah.blog34.fc2.com/blog-category-102.html




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猫のキャリートレーニング

 猫の通院ストレスを軽減するためのキャリーケーストレーニングについて、診察室でお伝えしていることをお話しします。
猫を病院に連れてきていただくとき、「洗濯ネットに入れて段ボール」は最低限お願いしています。とても慣れている猫でも(病院にも他所のお家の犬にもぴくりとも反応しないほどのまったりさんでも)、リードの装着もなくバスタオルで包まれただけで来院いただくのは、駐車場でドアから出たと途端、急な飛び出しになってしまうかもしれず、避けていただきたい来院方法です。一番のおすすめは「猫用キャリー」での来院です。けれどキャリーに慣れていないとここに入れるだけでお家の人と猫が大格闘になってしまうそうで、「入れるのがめんどくさい、連れてきたくない!」ということになるそうです。困りました。
とにかく、猫に「キャリーに慣れてもらう」ことから始めましょう。

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 <通院ストレスを減らす必要があります>

猫が快適な生活を送り、長生きするために、定期的なケアは不可欠です。動物病院が苦手だといっていると、治療の好期を逃してしまうことになるかもしれません。まず移動手段であるキャリーケースが「安全な場所」だという認識を持たせてあげてください。これで通院ストレスが軽減されます。キャリーに慣れることは簡単で、とても重要なことです。

 

<キャリーを選びましょう>

おすすめのキャリーケースは、上下に分けることができるタイプです。箱と蓋と扉に分けられて、ロックを外すと蓋が外れます。蓋の持ち手が倒れるときに音がしますが、持ち手を布で巻くと音量軽減が可能です。

もし、トンネルタイプのキャリーを選ぶとしたら、出入り口が二つある、通り抜けできるタイプの方を選んでください。

キャリーの大きさですが、小さすぎると、猫が身体を曲げなければ入ることができず、呼吸に問題があるときに不都合が生じます。猫が伏せをした状態で「前足のつま先から尻尾の付け根まで」の長さがあると安心です。あまり大きすぎても猫は落ち着かないし、車中で安定しません。

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<キャリーケース・トレーニングの方法>

はじめはキャリーをリビングルーム(猫が一番長く居る部屋、落ち着ける静かな場所)に置きます。上下分かれるタイプなら下の部分だけ、トンネルタイプなら両扉を開けたままにしておきます。中に猫が好きな素材や匂いの敷物を入れておきます。母猫を思い出せるようなふわふわした素材の布がおすすめです。(ペットシーツではないことに注意してください。)

大好きなおやつを少し入れてみます。何度も猫が自由に出たり入ったりを繰り返させます。慣れてきたら一度扉を閉めます。はじめはすぐに扉を開けてください。最初は10秒も経たないうちです。それから徐々にキャリー内にいる時間を長くしていきます。トレーニングしている間は、キャリー以外の場所でおやつを与えるのはやめておきます。肥満が気になるときはキャットフードで代用してください。扉を開いて、自分から出てきたときにはまたおやつを与えます。リラックスして入り、リラックスして出てくるを繰り返します。扉を閉めて猫が目をまん丸にしていたり、耳を伏せていた場合は猫に緊張がある印です。「ほら、出てきなさい。おやつだよ。」と強引に猫を引きずり出してはいけません。扉を開けたまま、その場を離れ、猫が自分から出てくるのを待ちます。

15分くらいいられるようになったら、室内の別の場所で同じ事を試してみてください。

さらに慣れてきたら、キャリーを別の部屋まで運びます。取っ手の部分を持つのではなく、キャリー全体に腕を回して両手で抱えるようにして持ちます。別の部屋で扉を開けて、出てきたらおやつ、を繰り返しましょう。

 

<次のステップ>

次のステップは、「胴輪とリードを付けてからキャリーに入れる」になります。首輪を付けた猫なら首輪が外れないことを確認してリードを付けるだけで大丈夫です。最終的に病院でキャリーの扉を開けたときには胴輪でリードがついていると安心です。

 

*連れてきてくださる猫の行動パターンが読めないため、初診の方には「洗濯ネットに入れてから」キャリーに入れることをお願いしています。キャリーや動物病院に慣れてきた猫ではネットが不要なことが多いです。最終的な理想は、そのままの状態で「リード」+「キャリー」です。
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<トレーニングのポイント>

訓練を行なう飼い主さんがまずリラックスしてください。決して急いで次のステップに進もうとしないようにお願いします。あせる必要はありません。いつから始めるのが良いかという問題ですが、できるだけ小さいうちに、子猫の頃が一番です。動物病院デビュー前なんて最高だと思いますが、なかなか理想のようにうまくいきませんね。


次回、ハンドリング・トレーニングについてお話しします。


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高血圧性脳症

 高血圧性脳症は、人のこととして考えたときに理解が進むと思います。比較的身近な人に発症していることも多いかと思います。理論的には動物でも似たようなことが起こります。しかし検査と診断、急性治療とその後の予後については大差があるのではないかと思います。

高血圧症によって脳内血管に出血性の障害が発生したときに考えられることをお話しします。

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<脳出血?脳梗塞?>

人で脳血管関連の障害が発生したときに、「くも膜下出血」とか「硬膜下出血」とか「硬膜外出血」などと伝えられるかと思います。これらは出血性の疾患です。それから似たような言葉として「脳梗塞」というのもあります。こちらは虚血性疾患で、出血性疾患とは病態が異なります。

出血性疾患では血管が破綻して周囲組織に血液が出てきます。血液凝固状態が良くなければ出血はしばらく続きますが、やがて「血腫」を作って出血は止まります。腕や足を強く打ったとき、「青あざ」ができたり「血豆」になったりして皮膚の色がくすんで見えることが有るかと思います。それが脳の中で発生していると想像してみてください。一方、脳梗塞は血管が詰まって、その血管が酸素や栄養素を配ることになっていたエリアに酸素や栄養素の供給が行かなくなることから発生した脳細胞の障害です。細胞の壊死から細胞障害性浮腫が発生します。

 

<出血の原因>

高血圧は脳血管出血の原因の一つに過ぎません。腫瘍ができていて血管が破綻することもあるし、出血性素因がある個体だったという可能性もあります。脳血管に動脈瘤があったのかもしれないし、血管奇形が有ったかもしれない。すごくまれな病態まで含めてしまうと(TVにそんな番組が有ったように思いますが)寄生虫の迷入だって出血の原因になり得ます。そして探ることができ、いろいろ見たけれど原因がわからない場合ももちろんあります。

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<出血が起こると>

出血した血液による「血腫」が作られます。血の色をしたゼリー状の塊、生のレバーに似たような感じですがもっとふわっとしたババロアのような物です。これが脳の実質を圧迫します。Mass effect(マスエフェクト)といって、脳腫瘍と同じような状況を作り出します。そして、その塊によって局部的に血液の流れは障害を受けることになり、二次的に虚血性の状態(酸素や栄養素が行き渡らないために浮腫が発生してきます)にもなってきます。圧迫によっても、虚血による浮腫によっても、頭蓋内の圧は上昇してきます。

血腫は時間が経過すると吸収されますが、圧迫から組織が壊死したり、壊死部分がぽっかりと空洞になったり、他の組織に置き換わり瘢痕組織を作ったりなど、その後も脳組織が完全に再生することがないため、影響を残すことになります。

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<脳神経症状の出現と経過>

脳血管障害は急性に発症します。数時間から数日かけての経過で、一時的には悪化したようになりますが、そのときをピークにその後はあまり変化がないかあるいは少しばかり改善したような経過をたどります。多くは数日で改善傾向になって、支持療法をしているうちに寛解する(症状が落ち着く)ようになるのです。「大多数は」、という言葉を前置きすることを忘れました。

あまりにも重症だったりすると、急性期のうちに、診断を付ける間もなく亡くなってしまいます。甚急性です。

猫で、原因不明の死亡例の中には、これがあるのではないかという先生もおられるくらいです。例えば、ドスンという音がして行ってみるとさっきまでタンスの上で寝ていた猫が落下していて見るともう息がなかった、というとき、落下で死亡したのではなく、死亡した結果、落下したというようなことです。

どこにどの範囲で病変があるのかによって重篤度に違いが出ます。場所的には脳幹(脳の中心部)に病変がある方が辺縁よりもしんどいですし、できた血腫のサイズは小さい方が予後は良好です。またイベントが発生した時に飼い主さんが不在で治療開始までに時間が経過していたというような場合も、すぐに治療できた場合と比べると予後は良くありません。基礎疾患が明らかにあるとき(例えば慢性腎臓病とかクッシング症候群とか)、基礎疾患のコントロールができていても再発する可能性はあります。繰り返すことにより予後は悪くなるし、それに伴って生存期間も短くなります。

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<あらわれる臨床症状>

障害を受けた血管が走る場所によって、脳血管障害が見せる症状は少しずつ異なっています。専門の先生から見ると、この症状の細かな分類で、大体どのあたりに発生した障害なのかを推定することができるようです。①前頭・頭頂葉とか②側頭・頭頂葉とか③後頭葉、④視床や中脳、⑤小脳、⑥脳幹というざっくりした部分わけです。(すみません、私は自信持って「この場所でしょう」と言い当てることはできません。)また病変が広範囲にできていたり、複数箇所有れば、症状も重なります。

全部を箇条書きに記します。いわゆる中枢神経系の症状です。出血性でなくても同じ症状が出ることがあるので、これらが見えるからと言って、すべては脳血管の障害によるものではないこともお伝えしておきます。

・精神状態の変化(攻撃的、静か)

・意識レベルの変化(はっきりしている、眠っているよう)

・姿勢反応の低下から消失(しっかりと立っていられない)

・唇の痛み感覚が鈍る

・瞬き反応が低下から消失(目の前に手をかざしても目を閉じない)

・同じ方向にぐるぐる回る

・頭を傾ける、首をかしげたままになる

・頭を押しつける

・てんかん発作

・眼の向きがおかしくなる

・眼球がゆらゆら揺れる(くるくる回る)

・瞳孔の大きさが左右で違う

・四肢の麻痺

・顔面麻痺

 

<診断するとき>

一般に全身状態を診て、血圧測定をしたり、血液検査をしたりするくらいではわかりません。神経学的な検査を行なってもそれを確認することができるという範囲内にとどまります。症状が緩やかに落ち着いてきたところで「おそらく脳血管障害だったのでしょう」ということになるくらいです。

いわゆるゴールドスタンダードはCRMRIの検査です。可能であれば両方とも受けてもらえると、今の症状が「脳腫瘍」や「脳炎」「認知機能不全症候群」ではないという除外診断もできるし、異常が発生した部位や範囲を特定することも可能かと思います。いざ、そうなったときに大きな設備のある病院に行ければ、画像検査による判断が可能です。

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<脳血管障害の治療>

人医療と大きく異なるのは治療にも及びます。特に発生直後の急性期では「きっとそうだろう」レベルの診断になります。普通のホームドクターができる範囲内の治療は、救急的に内科的な脳圧をコントロールする治療になるでしょうが、それらの薬を使う根拠の見つけどころがわかりません。高血圧という既往歴、今発症している脳神経学的な症状から、「おそらく脳圧が上がっているに違いない」と脱水症に気をつけながら脳の降圧剤の点滴治療をするというのも危なっかしい橋を渡るような治療です。激しいけいれんがあるようであれば、特殊な系統の麻酔薬で眠らせ、気管に管を通して酸素療法があります。またけいれんに中休みがあり内服投与が可能であれば抗けいれん薬による内服療法ということになります。

それらに加え、ほとんどは支持療法、つまり、食事がとれない状態ならば水分や栄養素の補充のための点滴や流動食的な給餌療法、立てないときにはそれなりの看護をするといった内容です。

さらに経過して状態が安定すれば、リハビリテーションを含めた看護や介護が必要になってくるかもしれません。

高血圧が原因の脳症だと判断がついても、神経系のトラブルが発生したイベント時に、すぐ降圧治療を施すことはありません。脳内圧が上昇しているときには障害部位で脳の血流を調整する機能が壊れているため、急に血圧を低下させることは、障害の起こっている部分でさらにかん流が低下してしまう危険もあるからです。症状が落ち着いてから、血圧系のお薬を服用して貰います。

いずれにしても動物の様子をじっと観察しながら、行きすぎた治療にならないよう気をつけて実施することになります。

 

というわけで、標的器官障害としての脳血管障害の怖さを知っていただき、これはやっぱり高血圧症をコントロールして、予防的に備える方が賢明だとわかっていただけるとありがたいです。

今日のお話はこれでおしまいです。

テーマ : 動物病院
ジャンル : ペット

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