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重度の歯周病

 一年を振り返ってみて、重症の歯周病や、それによる併発疾患のわんちゃんや猫さんを診察する機会が多かったので、今月、もう一度、待合室に歯周病のことを掲示することにしました。今回はいつもの軽度歯肉炎からの病態悪化ではなく、重度歯周炎がどんなものなのか、ちょっと怖い写真も載せましたので「うへ~」ってなるかもしれません。でも、目をそらさずに現実を知っていただきたいので、あえて、これまで伏せておいたものもお見せします。(キリッ!)

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実は歯が汚れるだけの病気じゃない!

<歯周病は歯が汚れる病気?>

歯周病は「歯が汚くなる病気」ではありません。ひどくなると骨まで溶けて(骨吸収といいます)、骨が折れてしまう病気なのです。さらに、心臓や腎臓、肝臓、免疫系の病気まで呼び起こしてしまいます。とても怖い病気です。

 

<膿が出てくる>

初期は歯肉炎として、歯と接している歯茎の炎症ですが、歯周炎は細菌感染のために、歯が接する面全体としての歯周の炎症になります。歯周病は2つのパターンがあります。辺縁性歯周病は歯と歯茎の間の歯周炎です。歯茎が腫れて赤くなります。

もう一つは根尖性歯周病です。歯の根元に細菌が入り込んで、根っこの部分で炎症を起こします。こちらは目に見えない分、厄介ですし、重症になりやすいです。歯の根元に膿が溜まると、膨らんだ膿は出口を求めて「瘻管」(ろうかん)を作ります。膿の排泄口です。これが口の中に出たものは「内歯瘻」(ないしろう)になります。ほっぺの皮膚から口の外に出たものは「外歯瘻」(がいしろう)といいます。

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お顔の様子が変わってきてしまいます。

<鼻に抜ける穴ができる>

上顎の犬歯は鼻の骨まであと1~2mmくらいのところに歯根があります。上顎犬歯の歯根部に問題が起こると、簡単に鼻の骨が溶け、口と通じる穴が開きます。くしゃみを頻発したり、常に鼻水や膿性の鼻汁が出てきます。

 

<骨が溶けて骨折する>

下顎の犬歯から臼歯(奥歯)で起こりやすいのですが、歯根部の炎症はそのまま、下顎の骨を溶かします。徐々に骨が溶け、最後は薄っぺらになった骨が折れてしまいます。


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顎の骨が折れることがあります。

<全身への影響>

歯周病の原因は「食べかす」ではありません。細菌の塊です。菌が血管に入り、血液とともに全身を巡り、心臓へ(細菌性心内膜炎)、肝臓へ、腎臓へと回って悪さを起こします。また免疫系の病気を発症することもあります。

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歯周病に関する間違い、6つあげました。

<治療がむずかしい>

進行した歯周病は麻酔下でないと処置できません。たいていは高齢で麻酔リスクが高くなっています。すでに心臓病や腎臓病を発症しているために、麻酔をかけることができないようなことも出てきます。
ほとんどの場合は歯を喪失することになります。歯槽骨に問題を起こしている場合、抜歯は必須です。
ごめんなさい。費用もそれなりにかかります。

ちなみに、麻酔をかけずにできる歯科処置の範囲は軽度の歯肉炎までです。それでも、おとなしくしていられない犬では歯の裏側まで処置することはできないので、できても完全ではありません。


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痛いです。それを我慢しています。
歯の痛みは鎮痛薬をのんでも効かないことは
ご自身のからだで、みんな知っていますよね。

<ちゃんとサインがあったはず!>

歯周病のサインは次の様なものがあります。

   口臭がある

   食餌中にごはんをこぼす

   唇が腫れている(汚れが付いている)

   頭をよく振る

   歯や顎をカチカチさせる

   口の周りが濡れている

   軟らかいものしか食べない

   ドライフードを噛む音がしない

   片側だけ目やにが付いている、涙が多い

   前足に血や汚れが付いている

   前足で口をこすっている

   口を床にこすりつけている

とにかく、痛いです。それで常にイライラしていたりしますが、わかりにくいサインのため気づかれにくいようです。十分に食べられなくなるため、体重減少がみられることもありますが、これまでの体重と今の体重を知らなければこれもわからないかもしれません。

「わかりにくいですよね。仕方がありません。」と飼い主さんを慰めるつもりはありません。むしろ「ちゃんとした飼い主さんだったら、わかりにくい症状だとしてもわかっています。」になります。「これまでの体重?え?知らん。ん?こんな症状?あったかなぁ?」は見ていなかった印です。十分反省していただきたいです。犬の飼い主さんだけではありません。猫も同じです。猫も歯周病になります。

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歯科ケア用品を展示してあります。

<治療をはじめますか?>

動物の出しているサインに気づき、対処してやらないとだんだん悪化していきます。ただ、主訴が「口のにおい」であり、これに対しては「我慢できる」と言われてしまうと、手が出せません。動物の痛みや不都合さ(噛みにくいとか食べにくいとかいう問題です)に気づいて、これからのために治療をしてやれるかどうか、欲しいのは飼い主さんの「愛」です。

「ニオイのないお口」は、
①細菌の除去
②きれいな環境の維持
によってしか得られません。積極的な治療参加が欲しいところです。

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間違ったやり方ではきれいな歯をキ-プできません。

<歯を丈夫にするためのケアはしています>

歯に関しては、歯ブラシがけができない分、ほかのことでしっかり対応しています。と言われることがあります。よくあるのは「硬いガム、牛の蹄(ひずめ)、豚の耳など、硬いものを噛ませていると歯石は付かない、これらを噛ませていれば丈夫な歯ができる」というものです。これは大いなる誤解です。これらは歯を折ったり、欠けらしたりすることはあっても歯石のコントロールにはなりません。残念ながら歯にとっては有害になることの方が多いのです。物理的に歯石が付かないようにと、硬いものを噛ませてくださっていますが、歯石の元は食べかすではなく細菌だからです。

歯科ケア専門のデンタルガムも、正しい物を選び、正しい方法で使ってこそ、有効な効果が得られるということも伝えてきます。つまり、ただ、与えておけば良いというものではありません。


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歯科ケアはいろいろあります。
年齢や症状、手軽な方法から手間がかかるものまで。

<歯石を落としたらそれでおしまい?>

「麻酔をかけてスケーリングをした。」でも、それはこれまでの汚れをリセットしただけのことに過ぎません。①細菌の除去、これだけです。ここから歯肉の炎症を取り、これまでスルーしてきた歯科ケアに向き合い、②このままのきれいな歯をキープする努力が必要です。

デンタルケアは必ずしもブラシングだけではありません。状況に応じていくつもの方法があります。基本はブラシングですが、犬の性格やこれまでの習慣などもあって、すぐに到達できないこともあります。口腔内の悪玉菌をコントロールするサプリメントが利用可能です。また口腔内の洗浄のためにデンタルリンスやスプレーを使うことも有効です。「ブラシングまではできない」という場合でも、「なんとか指で歯肉をこするところまでは行けそうだ。」ということもあるかもしれません。ぜひデンタルジェルを併用して使い、口腔衛生に役立ちててください。こうしてお口に触らせることからはじめ、徐々に歯ブラシでのケアまで持っていく、ここを目標地点に置いて頑張っていただきたいと思います。痛みがなくなればお口を触らせるようになります。頑張ってください。



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歯ブラシには一般用よ歯周病用があります。
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歯周病用は下の、ブラシの先が不揃いになっているものです。
歯周ポケットまでブラシが入って、汚れを掻き出します。

 もういちど繰り返します。今日はちょっとキツいこと言っています。すみません。あまりにかわいそうな子がいたせいかもしれません。「口が臭う」ではなく「歯が痛そう」の感覚を持ってください。あなたが感じるニオイの問題じゃなくて、動物の立場になって痛みを想像してみてください。そして病気を知ったらすぐに治療、そしてケアをはじめてくれませんか。もちろん、「気になったから歯科検診」に来てくださるのが一番です!

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シキミにご注意

すす払いというのは大きなお寺さんの行事のことかと思っていましたが、「すす払いの日」というのがありますね。一般のお家でも大掃除とは別に行なう、歳神様(としがみさま)をお迎えするための準備をする日になるのだそうです。この日はお仏壇やら神棚を中心に、お台所や玄関まわりをきれいにしておくのだとか。それが1213日。今週の木曜日です。

 神棚、仏壇、玄関はなんとなくわかる気がしますが、キッチンのお掃除はピンときません。
「キッチンじゃないの。台所。かまどですよ。火を使ったでしょう。そのね、すすを払うんです。それはね、そのまま厄を払うことなんです。きれいにしてお正月料理を作るんです。」
というので、なるほど、納得しました。すべてはお正月に向かうにあたっての決まりごとなんですね。

 そしてきれいにし終わったら、神棚には新しい榊(サカキ)を、お仏壇には樒(シキミ)をお供えするわけです。シキミはシキビとも言われています。地方によって、また宗派によってもシキミをお供えするご家庭とそうでないご家庭があるかと思いますが、シキミには毒があるので動物が近くにいるときには注意が必要です。
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神社でお供えするのはサカキです。

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ヒサカキの葉です。

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シキミの葉です。
似ているようで、葉の付き方や柔らかさに違いがあります。


<シキミには毒がある>

今日の本題。シキミは有毒ですので、犬や猫のいたずらにご注意ください。

シキミは葉、茎、花、根、実すべてに毒があります。なんと、シキミの実は「劇物及び毒物取締法」第二条に定義された劇物。「劇物一覧」のNo111に掲載されています。掲載されている劇物はみな化学物質で、植物は毒キノコすら載っていないのですから、シキミの実の威力たるやさぞかし強かろうというものです。

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新芽は薄緑で軟らかいです。


<シキミの葉>

シキミの葉の方は、仏花というか供花のコーナーで、(サカキやヒサカキの隣に)売られています。簡単に手に入ります。(地方によっては売られていないところもあると思います。)劇物一覧に載っているのは実だけですが、この植物全体に毒があるので、葉っぱといえども安心できません。

屋内飼育の犬猫が簡単に手に届く所に置いておくのは危険です。シキミの葉は、サカキよりも柔らかいです。特殊なニオイがあるので、猫がシャミシャミしてくるかどうかわかりませんが、いたずら好きな犬や猫、何でも知りたがりの興味津々な成長期の子ならなおさら、いたずらに走ってしまうかもしれません。なにせ、犬猫に注意を払いながら神棚やお仏壇のお掃除などできません。おそらく夢中になっているはずです。お供えするまでの間、いたずらされないような所に置いてください。

時々SNSで猫が神棚から顔を出している写真とか、お仏壇でお昼寝しているような写真を見受けます。こんな習慣のある猫だと、お仏壇にシキミをお供えすることそのものも心配になります。花瓶を倒し、シキミの樹液の入った水をこぼしてしまったあと、猫は必ず濡れた身体を舐めてしまうからです。日頃から神さまや仏さまのところに猫がお邪魔しないように躾けていただきたいです。

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一束ずつになって売られています。


<シキミの実>

シキミの実が市場に出回ることはありません。植物に関心のある方だとお寺の敷地とかお墓の周辺を散策していたら見つけるかもしれません。春には黄色の花が咲き、秋には実がなります。実がはじけると中から猛毒の種が飛び出してきます。ドングリの実より一回り小さいようですが、地面に落ちた実を散歩中の犬が遊んでいて誤飲すると命に関わる事態です。注意して散歩するように、というより、お寺やお墓のまわりに犬を連れて行かないことをおすすめします。

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中華料理に登場する八角。
星の形をしています。

<シキミの実・そっくりさん>

シキミの実は見たところお料理に使う「八角」(「スターアニス」と呼ぶこともあります)にそっくりです。中華料理のお皿に載っている「八角」を見て、有毒植物を勉強中の娘が勘違いしたくらいです。「八角」は乾燥させたものがスーパーの「香辛料」のコーナーで売られています。
「八角」は中国産のトウシキミの実で、無毒です。安心してクリスマス用のお料理や、中華風のお正月料理を作るのに利用してください。定番は豚の角煮でしょうか。

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お皿の右上に八角があります。

  さて、今年の日の並びのすごいところですが、クリスマス前が3連休なんですね。(当院はいつも通りの日・月休みで22日は診療しています。)気張ってお料理を作るには好都合かもしれません。すす払いの行事に参加するよりもクリスマスの献立を考える方が楽しいような気がしてなりません。

    

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目薬に関する質問

 目薬のことでお受けする質問をまとめてみました。

「前にもらった。あれを使えばいいかね?」という「前」はどのくらい前までなら「大丈夫ですよ」って言えると思いますか?2週間前のもの?1か月?3か月ではどうでしょう。
「冷蔵庫で保管してあるんだけど?」保管場所はどこにあったものなら安心して使えるでしょうか。

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<どこに保管するのがいい?>

    冷所保存

こう書いてある目薬は冷蔵庫で保管してください。冷凍ならもっと安全?ということはないです。目薬の成分が固まってしまうことがあります。冷蔵庫でお願いします。冷蔵庫に保管する必要のある目薬は、室温に保管すると性状が変化して品質が低下する心配があるものです。安定性が弱く温度による影響で成分が変化する可能性があります。「冷たい目薬を差すのはかわいそう」な気がするかもしれませんが、ご面倒でも毎回点眼後は冷蔵庫に入れるようにしてください。

    遮光保存

こう書いてある目薬は遮光袋を付けてお渡ししてあります。必ず専用の袋に入れて直射日光を避け、涼しいところで保管してください。もし遮光袋を無くしてしまった場合は、光が当たらない袋や箱に入れて保管してください。なお、遮光袋に入れてあっても直射日光の当たる場所に目薬を置くのはやめてください。太陽エネルギーって強いんだ、という覚えでお願いします。

    室温保存

日本薬局方によると、室温は1℃から30℃です。真夏の場合、室内にエアコンを入れておかないとこの範囲内に当てはまらなくなります。常温保存という言葉を聞くことがあると思います。同じように日本薬局方によると常温は15℃から25℃です。室温よりも適温範囲がだいぶ狭くなっています。けれど、お渡しする目薬のほとんどは室温保存のものが多く、常温保存ではないのでご安心ください。室温保存の目薬を冷蔵庫に入れて保管してくださっても大丈夫です。なぜなら庫内の温度は5℃くらい。室温条件の中にあります。真夏なら冷蔵庫に入れてもらう方が安全です。


追)
 
懸濁性の目薬の保管
濁ったタイプの目薬は必ず「立てて」保管してください。横に置いたり、キャップを下に向けて逆さにしておくと、小さな粒子が集まってノズルの小さな穴に詰まる場合があります。

*保存場所の基本は①②③です。でも「子供の手の届かないところ」もこれらと併用してお願いしたい保管条件です。

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<ここに置いた目薬は使っても大丈夫?>

    車の中に置き忘れた目薬

真夏ではこの置き忘れた目薬を使うのはアウトです。30℃を超えています。氷点下になる可能性のある真冬の夜間の置き忘れもアウトだと思ってください。冷凍庫に入れたのと同じです。目薬の成分は分解、変質している可能性があります。使うのはやめてください。

    遮光袋に入れ忘れて蛍光灯の室内に置いた目薬

カーテンを引いてある室内の蛍光灯下で袋に入れ忘れたくらいでは変質する可能性は低いと考えられます。おそらくこちらは使って大丈夫です。直射日光の当たるところに置き忘れたのは使わないでください。

    暖房のそばに置いた目薬

すぐに使えるようにケージの上に目薬を置いたけど、エアコンをつけたらここに直接暖気が当たっていた、という事例があります。細かいようで、こういうこともありがちです。気づいたのがすぐならまだしも、すでに数日経過しているような場合、継続使用はお勧めできません。

    お風呂場に置き忘れた目薬

うそのようで、実際にあったはなしです。ちょっと高めでいつも行かないアウェーな場所だと犬が緊張してお母さん一人で点眼することができるので、お風呂場で点眼していたのです。そのまま忘れて夜、お風呂の湯気に当たり、翌朝気が付きました。ここは湿気の多い場所ですので、微生物が繁殖しやすく目薬の汚染につながります。継続使用に不安が残ります。

    外用薬専用の箱に入れて保管した目薬

外用薬の箱の中に目薬も保存しました。まだ封は開けてありません。けれどたまたま湿布薬の封が開いてあり、使おうと箱を開けたら湿布のキツいにおいがした、というものです。目薬はプラスチック容器に入っていますが、揮発性のある化学物質はプラスチックを透過する性質があります。もしかすると点眼したときに刺激を感じるかもしれません。やめておいた方が無難です。

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<いつまで使って大丈夫?>

目薬のキャップをあけたらどのくらい使っていて大丈夫なのか。これは「使い忘れの目薬が冷蔵庫にあるから、あれを使っても大丈夫なの?」という、最も多く受けるご質問です。薬局で購入した一般薬である目薬はたいてい3か月くらいを使用期限にしているものが多いです。病院からお渡しするものは一般薬ではないのでひと月くらいを目安にしていただくといいです。どうして1か月かというと、目薬の中に雑菌が混入して汚染されてしまうことを心配してこのくらい、とお願いしています。注意して使っていても目薬の先端がまつげや目頭、まぶたなどに付いてしまうと、そこから雑菌が混入してきます。ある調査によると、使用後1か月の目薬のうち半分くらいに細菌が入っていたそうです。

「言われたとおりに使っていても1か月以上あるし、余っている。」そのとおりです。特に動物用の点眼液は失敗も含めて多めに入っています。そのため余りが出るかもしれません。でも1か月の目安を守ってください。

点眼薬のラベルには使用期間が印字されています。おそらくお渡しするお薬のたいていは2年くらい先のことが多いです。けれどこの期日はキャップを開けていない(未開封の)状態での品質を保証する期間です。誤解のないようにお願いします。

それから、用時溶解(使う時に別包装になっている粉や錠剤を点眼用の液体に溶かす)目薬に多いのですが、こちらは溶解してから1週間、2週間、3週間などと特別に記されています。特に安定性に問題がある薬です。その場合は、適切な場所(冷蔵庫等)に保管されたその日数だけが安心して使える期間です。

 

<添加剤のこと>

点眼薬の中には「保存剤」を添加してあるものもあります。点眼薬は無菌的に作られたお薬ですが、雑菌に汚染される機会があります。そのため細菌汚染を防ぐために保存料を加えてあります。保存剤というとちょっと身構えてしまわれるオーナーさんもいらっしゃるかもしれません。指示通りの使用法であれば角膜に影響を及ぼすものではありません。

「保存剤」のほか、目に対する刺激が強くならないように涙と同じくらいの浸透圧に調整するための「等張化剤」、pH変化を防ぐための「緩衝剤」、点眼薬の成分が変化するのを防ぐ「安定剤」、薬が目にとどまるように粘性を持たせるよう配合される「粘ちょう剤」などが添加された目薬もあります。どれも安全性に問題はありません。

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<複数の目薬を使う時>

2種類以上の点眼液を処方することがあります。2つの目薬を使う時、片方から先に差して、もう一方を使うのは5分から10分ほど後にお願いします。(水性+水性)のとき、どちらを先に使うのかをお伝えします。(水性+懸濁性)や(水性+ゲル状)、(水性+油性)、(水性+眼軟膏)のような場合もありますが、こうした場合、
水性⇒懸濁性⇒ゲル状⇒油性⇒軟膏
の順で点眼するようにお願いします。後に行くほど、目の中での滞留時間が長くなる目薬です。

緑内障の目薬の場合、こちらは朝だけ、こちらを夕方だけなど状態に合わせて細かい指示を出すことがあります。特別な指示がない限り、続けて点眼しないようにお願いします。

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<そのほか>

「お父さんが眼医者でもらってる薬があったんで、それを差しといた。」という、初診時に身震いするようなお話を伺うことがあります。眼科で処方された点眼液なら市販の目薬より安全だと判断されたそうです。たまたま抗菌薬の点眼液でしたので問題はなかった事例です。市販の点眼薬も、ご家族の誰かが使用している点眼液も、それぞれの状況により効能が違うため、「ちょっと借りて点眼しておく」のが危険な場合があります。動物病院を受診するまでのつなぎとしての使用であっても使わないでください。

「じゃ、犬に貰った目薬なら大丈夫なのね。」というご質問もありましたが、こちらも同様の理由です。該当する犬や猫に処方されたもの以外の(ほかの犬用に処方された)点眼液は使用しないようにお願いします。

 

今日のお話はここまでです。

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ジャンル : ペット

重症筋無力症

 「すぐにへばって動かなくなるんだよね。まぁ、ちょっと休むとまた動けるようにはなるんだけど、また少しすると、またへたれる。」と言うことで来られる犬の中には「心臓病で運動不耐症が起こっていますね」という犬や、「あらら、肝機能が落ちていますよ」という犬、「片方の足の筋肉が落ちていますよ、関節症の悪化かもしれません」という犬などがいます。おうちの方が感じている「歩けないわけじゃないけど、少し歩くと一休みしてしまう」という症状には、心臓病や肝疾患、関節症などさまざまな病気が隠されている可能性があります。そして、これらの病気のほかに重症筋無力症のこともあります。これはちょっと厄介な病気です。今日は「重症筋無力症」のことをお話しします。

 

<いくつかのタイプがあります>

重症筋無力症には臨床症状から分けたいくつかのタイプがあります。

「食べるけどゲロをはく。ぜらぜらという音がする。」

「よだれが出る。口のまわりがいつもずるずるして汚れている。」

「顔が前と違う。頬がたれてる。」

このようなことで来られる犬の検査をすると、巨大食道症を見つけることがあります。巨大食道症では食道の一部が拡張しています。食道は筋肉でできていて、ぜん動運動により食べたものをじゅんぐり胃の方へ押し進めていきますが、その動きが悪く、筋肉がだるっと弛緩したところが広がっています。こうなると食べたものがここで停滞してしまい、しばらくすると重たくなった食物を口から吐き出すことになります。胃まで行ってからもどすのは嘔吐(おうと)、胃までいかないうちにもどすのは吐出(としゅつ)といって、わたしたちは同じように見えるこの二つの現象を分けています。(胃の調子が悪くて嘔吐するのではない場合があることをご理解ください。)

また、よだれで顔が汚れているのは嚥下困難(えんげこんなん)のためです。飲み下しの機能が落ちているせいでこのような症状が出ます。

さらに顔面神経の麻痺により頬の筋肉がだるんとしていて、顔の表情が変わってみえることもあります。

全身の筋肉にも障害が出てくると、冒頭でお話ししたような全身の筋肉の虚弱による症状が見られます。

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勢いよく走れたはずなのに。。。



<こんな子が注意?>

中年齢から高齢の犬で見ることが多いです。でも若い犬にも発症はあります。

ゴールデンレトリーバーやコッカスパニエルに多いような気もしますが、シェルティーやシュナウザーでも診察の経験があります。どの犬にも見られる病気といっていいと思います。

 

<どんな病気?>

筋肉を動かすために神経から信号が来ます。「動きなさい」という神経の命令が筋肉に伝えられる手段は「神経伝達物質(アセチルコリン)の分泌」です。神経の末端部から伝達物質が放出され、神経と筋肉の接合部で筋肉の伝達物質を受け取る部分(受容体)に伝わり、筋肉は命令通り動き出します。先天的にキャッチする側の機能障害がある犬もいますが、たいていは後天性の自己免疫性疾患で、キャッチ部分(受容体)の数が減っているために命令が十分に伝わらず筋肉が動かなくなっています。

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どんな歩き方かな?



<検査します>

はじめは軽く「飲み込みが悪い?」くらいのことが、「吐き戻す」、それも「繰り返す」になってきます。飲み込みに障害があると「誤嚥性肺炎」を起こしやすいので、疑いのある犬は食道拡張を確認することのほか、肺炎を起こしていないかを確認するために胸部のレントゲン検査を行ないます。

歩き方の検査は繰り返し行ないます。はじめは普通に歩いているように見えていても、歩幅が狭いことがあります。繰り返し歩かせているうちにロボットのような歩き方になったり、ぴょんぴょん飛びのような歩き方になったりします。そこまで数分です。そして少し休ませるとまた同じように普通に歩けるようになります。

顔面神経の(特に目を瞬きさせる様子を調べる)検査も同じで、何回か繰り返します。連続して検査をしているうちに瞬きをしなくなってきます。

特殊な薬を注射して、その反応を見る精密検査がありますが、これは疑いが深いとき、二次病院などで実施して貰います。その方が安全だからです。

ほかの自己免疫性疾患(IMHAIMTPなど)を併発していることがあるので、血液検査も行ないます。また甲状腺機能低下症を併発していることが多いため、甲状腺ホルモンの値も調べます。これも血液検体で可能です。

 

<治療とケア>

抗コリンエステラーゼ薬が主薬です。

免疫介在性疾患ではプレドニゾロンなどの免疫を抑える薬を使うのが主ですが、プレドニゾロンは長く使うと筋力が低下してしまうので、この病気だとわかったときには使いません。そのほかの免疫抑制剤を使うことにします。

巨大食道症の犬には、身体を支えてやりながら、頭を高い位置に保ち食事をさせるようにお願いしています。大型の犬の場合など特にこうした食事介助は困難であることが多いですが、ご協力お願いします。

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予後は良くないことも。。。



<この先のこと>

軽い場合は、お薬で良くなってしまうことがあります。その場合は少しずつお薬を減らしていきます。経験はありませんが再発もあるようなので、一度良くなっても注意は必要です。

すでに経過が長い場合は症状が悪化していることが多く、薬に対する反応もあまり良く無いことが多いです。誤嚥性肺炎に気をつけながら食事をとらせていきますが、やはりたいていは痩せてきます。胃ろうチューブを設置したこともありますが、必要栄養量を管から注入するのもなかなか大変ですし、これによって肺炎を完全に回避できるわけでもなく、全体的な予後はあまり芳しくありません。

まれに甚急性に症状が進んでしまう犬がいます。呼吸も筋肉によるため、呼吸筋障害(筋無力性クリーゼといいます)があると人工的に呼吸をさせること以外生きる道がなくなってしまいます。楽にしてあげることも考慮に入れなくてはいけません。こうした場合はお気の毒ですとしか言えません。ごめんなさい。

 

 1129日は「いい肉の日」だそうです。筋肉の調子もいい日でありますように。

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薬剤耐性菌のおはなし

 11月は薬剤耐性対策推進月間です。世界保健機関(WHO)は1113日からの1週間を「世界抗菌薬啓発週間」として設定しています。薬剤耐性については主に「風邪は抗生物質では治りません」などとして人の方で言われているのを耳にすることが多いかと思われますが、犬や猫にあっても無関係ではありません。細菌と抗菌薬について、そして薬剤耐性についてご理解いただき、処方の抗菌薬を正しく服用することにご協力いただけるとうれしいです。

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AMR臨床リファレンスセンターのぽすたーです。



<感染症と細菌>

身体に病気をおこす元になる微生物が侵入して、症状が出た状態を感染症と言います。病原微生物には細菌のほかウィルスや真菌、寄生虫などがあります。病原体が体内に侵入しても免疫力が高くて感染が成立しないときは病気にはなりません。体内に微生物が入りこむルートはいろいろで、空気感染で呼吸器から入ってきたり、食べ物に混じって口から入ってきたり、蚊やマダニなどに刺されて入ってきたりなどです。

細菌は私たちの身体の中にも存在しています。皮膚の表面や腸などがよく知られている場所ですが、常在細菌は菌のいる場所を良い環境に保たせています。環境の中にも病原性を持つ悪い細菌だけでなく、良い仕事をしている細菌があります。醸造に関わっている細菌、ヨーグルトの菌や納豆菌などは良い菌の代表です。

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抗菌薬と耐性菌について院内に
資料を掲示しておきます。




<抗菌薬>

抗菌薬は抗生剤とか抗生物質と呼ばれることもあります。抗菌薬は細菌に作用する薬で、細菌の繁殖を抑えるように働いたり、細菌を死滅させるように働いたりします。(ウィルスや真菌などには効果がありません。)増殖を抑える作用は静菌性といわれますが、体内の食細胞などのはたらきによって最終的に殺菌されます。高濃度ならば殺菌的に働くというような抗菌薬もあります。

抗菌薬にはいろいろな種類があります。たいていは化学構造によって分類されて〇〇剤とか〇〇系という風に呼ばれます。開発された年によって第一世代の、とか第二世代のというようなグループ分けをされている薬もあります。抗菌薬はそれぞれの薬に特性があって、こんな細菌に効果が大、あんな細菌に効果が大というように、細菌に対して得意不得意があります。細菌の特性と攻撃の特性によって、効く効かないがあるという方が適切な表現かもしれません。抗菌薬を使用する量、使用期間でも有効性に違いが出ることがあります。

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人も動物も。そして環境も。
すべて健康であることが大切です。




<薬剤耐性菌>

細菌に対して効果がある抗菌薬でも、すべての細菌を攻撃しきれなくなることがあります。薬の攻撃を受けても生き残った細菌です。この細菌は抗菌薬のある環境でも増殖することができます。これが薬剤耐性菌です。薬によって死滅した菌が弱い菌だとすると、薬によって死滅することがなかった菌ですので、薬剤耐性菌は「手強い菌」です。

メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)はよく知られた薬剤耐性菌です。皮膚や軟部組織の感染に見られることが多いです。またバンコマイシン耐性腸球菌(VRE)も有名です。これは抗MRSA薬に対しても無効な腸球菌です。またペニシリン系だけでなくセフェム系の抗菌薬にも抵抗を示す基質特異性拡張型β-ラクタマーゼ産生菌(ESBLs)や、多剤耐性緑膿菌(MDRP)なども出てきています。さらに手強いのは、カルバペネム耐性腸内細菌科細菌(CRE)です。悪夢の耐性菌と呼ばれています。カルバペネム系の抗菌薬はある意味最終兵器的存在ですから、これにも抵抗を示す細菌が出現したのは私たちにとって脅威でしかありません。

さらに「スーパーバグ」という悪魔の耐性菌もできています。最近のニュースを添付しておきます。

https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2018/09/post-10979_1.php

抗菌薬が効かない状況は、抗菌薬がなかった時代の状況に同じです。医療ドラマ「仁」ではペニシリンのない時代背景で主人公が手作りして患者を救うシーンがありました。効く薬があるのが当たり前の時代に生きていますが、薬の無い時代に逆戻りする恐怖を考えてみてください。

薬剤耐性菌が発生すると、身体を飛び越えて、人から人へ、また人から環境へと拡散していきます。環境の中には動物も関係してきます。薬剤耐性菌はみんなの努力で①作らせない、②感染しない、③広めない、④効く薬を残しておくことが大切です。

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ペットを介しての薬剤耐性についても
解説があります。




<医療・獣医療と薬剤耐性菌>

薬剤耐性菌は飛沫感染や接触感染、また血管や尿路に設置したカテーテルからの感染、抵抗力が低下することによる感染など複数のルートで感染が発生します。病院内で感染が起こらないようさまざまな配慮が採られています。

私たち小動物の獣医科病院でも、院内の一般消毒、動物を扱う前後での手指の消毒など対策をとっています。

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薬剤耐性菌はこんな風にして
できてきます。

 <耐性菌を発生させないために>

人の医療で主に言われているのは、①風邪に抗菌薬は効きません、②ウィルス感染に抗菌薬は意味がありませんだから、③むやみに「抗生物質を処方してください」とお願いするのはいけません、ということです。

動物病院で特にお願いしたいのは「決められたとおりに服用させてください」です。「良くなったから薬はやめた」、「いやがるから半分であきらめた」というのが実はがっかりのナンバーワンです。中には「次に同じようになったときのために、あえて残しておいて、すぐに病院に行けないときのために手元に置いてある」とおっしゃる飼い主さんもいらっしゃいます。そのお気持ちはわからないわけではありませんが、「やってはいけないこと!」です。さらに、「13回は無理だったから2回にした」というのもNGです。1日3回は、「8時間おきに投与する」の意味で、おそらく8時間を超えて12時間目までの4時間は薬効が低くなっています。勝手に中止したり、薬の量を減らしたりすると、血中の抗菌薬濃度が下がり、細菌が抗菌薬のある状況に慣れてしまいます。そうすると確実に殺したかった細菌を生き延びさせることになり、これが耐性菌を作らせてしまうのです。また症状がなくなったことと、体内の細菌が消滅したこととは違います。「良くなったのにまだのませなくちゃならないなんて、飲ませる方もしんどいんだよ」ってお気持ちも、ちゃんとわかっています。そうした努力があってこその今の状態ですから。でもきっちり細菌をやっつけずに過ごしてしまうと、感染症をぶり返してしまうことがあります。感染症の原因となった細菌が体内からいなくなるまできっちりと抗菌薬を飲ませてください。

抗菌薬はどこに発生した感染症なのかによって選択する薬が変わります。「11回なら飲ませられる」「チュアブルなら大丈夫」「甘いのが欲しい」などかなり無茶なご要望をいただくことがありますが、想定される細菌の種類によって、また年齢とか肝臓や腎臓の機能のことを考慮に入れて選んだお薬の中には、どうしても13回になってしまうお薬や、錠剤しかないもの、苦いお薬(!)になってしまうことがあります。ごめんなさい、これはどうにも変更しようがない、というお薬があることをご理解ください。「それじゃ、だめ。のませられないんだもの。無理矢理のませるなんてかわいそうだもん。薬はやらない。」なんてつれないことは言わないで!ご協力お願いします。

それから「お願いする再診日にきて欲しい」というのがあります。お薬の反応を見たいのです。だらだらと同じ薬は使いたくないのです。「その日はこれないから余分にちょうだいな」が耐性菌を発生させやすい環境を作っていることをご理解ください。

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薬剤耐性菌が増えるとこんな影響が出ます。
今からできる薬剤耐性予防6つを解説しています。




<どうして耐性菌を作ってしまってはいけないのか>

抗菌薬ができれば、必ず耐性菌ができる、これはペニシリンができたときにフレミングによって、すでに予言されていました。その通りになっています。ですが、今、新たな抗菌薬が作り出されてはいません。一つの薬をつくり出すには膨大は時間と費用がかかるのです。そこまでして創薬に成功しても企業にはあまり利益を生まないという事実もあります。それであんまり開発されなくなっています。けれどそんなことには関わらず耐性菌はできています。将来、耐性菌だらけの環境になってしまうと、抗菌薬はあっても無いに等しい状況になります。免疫力の低い子供や高齢者はその悲劇に最初に遭うことになります。

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重度の歯周病のある犬からたくさんの菌が分離されました。
耐性菌の疑いが認められました。




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各種抗菌薬で菌の感受性をみる検査です。
効果が無いことを示す左の方に多く
*マークが並んでいます。

 <悲劇を作らないようにするために>

薬剤耐性菌を作らないようにすること(正しく薬を使うこと)や、そうした菌に感染しないこと(手洗い消毒はすごくいい予防方法です)、感染したときにまわりに広めないようにすること(これは私たち獣医療を行なう者にとっての戒めでもあります)、耐性菌と戦える抗菌薬を残しておくこと(むやみやたらと新薬の処方はしません)は残念な将来にさせないために大切なことです。ご協力をお願いします。

テーマ : 動物病院
ジャンル : ペット

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Author:ハート動物病院
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