急性前立腺炎

細菌が感染したときの前立腺の病気についてお話しします。
細菌感染による前立腺の病気は3つあります。
急性前立腺炎、慢性前立腺炎、前立腺膿瘍の3つです。
 

<細菌感染がおこる>

前立腺には正常な防御機構が働いています。前立腺尿道を膀胱から排泄された尿がザーッと勢いよく流れて菌の洗い流し効果があるのもその一つですし、前立腺液そのものには前立腺抗細菌因子(PAF)と呼ばれる抗細菌物質が産生されているので、細菌感染から守られているのです。けれどこのシステムに障害が発生(尿の流れの勢いが無くなる、前立腺のIgA産生が低下するなど)すると、前立腺炎をおこすもとになります。

前立腺は尿道の病気(尿道内に石ができている、尿道に何らかの原因で狭くなっているところがあるなど)や尿路の感染などに付随して感染をおこします。また良性の過形成であっても、前立腺内にのう胞ができると、細菌が繁殖するのに好適な場所になります。感染のルートは血液や精管なども考えられないことはありませんが、たいていは尿路(尿道)を経由して感染します。

前立腺の細菌感染は急性のことと、慢性のことがあります。さらに慢性の炎症が重篤になったり前立腺内のう胞に細菌が感染して「膿瘍」を作ることがあります

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1.急性の細菌性前立腺炎

非常に急に(甚急性といいます)発生します。症状も重く(劇症型とでも言いましょうか)、犬の様子が「オカシイ」ことにすぐに気づかれます。「死んじゃうんじゃないの?」と感じられるくらい調子が悪いです。

ですので、見逃さないように「チェックポイント」とか、「こんな症状に要注意」的なものをあらかじめ見て知っておこうとしなくても犬の異変には間違いなく気づかれると思います。むしろ、私たち獣医師の側で「他の病気と間違えた!」ということがないように、気を引き締めておきたいと思うようなところがあります。急性の前立腺炎を発症するのは未去勢のオス犬ですけれど、中年齢にくくるにはちょっと可愛そうだよねと思うような年齢層の成犬に多いイメージで、ほかの前立腺疾患が中高年であるのと対照的な感じがします。

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<どんな様子になる?>

・ぐったりします。(無気力といっています)

・嘔吐することがあります。(高熱のためです)

・ぎこちない歩き方をします。(後ろ足がこわばった感じ)

・ぐったりしすぎて歩けないこともあります。

・包皮から汁が出ることがあります。

 

<病院で診察すると・・>

・発熱が見られます。40℃とかそのくらいの高熱です。

・沈うつで、ふだんなら診察に抵抗するような犬も無抵抗です。

・触診すると前立腺周り(お腹の後ろの方)に痛みを示します。

・直腸検査で前立腺が大きくなっているのが分かります。

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<検査をすると・・>

・尿中に炎症性の細胞や細菌が出現しています。

・血液検査で白血球増多が確認できます。(少なくなっていることもあります)

・超音波やX線などの画像検査で前立腺が大きくなっているのが確認できます。前立腺にはのうほうができていることが多いです。

 

<診断には・・>

おうちでの様子、診察した所見、検査の結果などから総合的に判断して「急性の前立腺炎」を診断します。他にも発熱性の疾患はあります。前立腺意外の病気でも同じような症状が出ることがあるので、別の病気では無いことも確認して決定します。

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<念入りな治療になります>

高熱でぐったりしていることがほとんどです。これは急性の前立腺の細菌感染はそのまま、敗血症(全身に菌が回っている)になっていることが多いためです。できるだけ早く解熱させてやりたいです。それで、

・補液剤とともに静脈性の抗生剤を点滴で入れていきます。

・嘔吐して電解質のバランスが崩れていると補液剤を調製しなくてはいけないかもしれません。

・中枢性の制吐剤で嘔吐を止めてやります。

・点滴による抗生剤治療は3日から7日くらい続け、効果の判定ができたらその後は内服薬に切り替え、さらにしばらく投薬を続けます。

・炎症が鎮まり、病態も安定したら再発が起こらないように去勢手術の同意をお願いします。



<注意>
菌血症による発熱がおさまり、平熱になると犬はものすごく元気になります。たいていの飼い主さんは「もう点滴治療なんかしなくたって餌も十分食べるし大丈夫だ」と思われます。中には「早く点滴を止めてくれ」と言われる方もおられます。しかし個々で油断をすると抑えられていた菌の残りが再活動を始め、慢性の前立腺炎に発展する可能性があります。
慢性の前立腺炎の方が扱いはやっかいです。せっかく急性の症状を出し私たちに積極的なアピールをしてくれたわけですから、ここは大事に扱い、これだけで病気を鎮めてやりたいと思います。



細菌感染による前立腺の病気、慢性前立腺炎と前立腺膿瘍は次に続けます。大変お寒くなってきました。どなたさまもお身体をおだいじにしてください。

 

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前立腺の過形成


犬の前立腺の病気のうちで、一番多いと思われるのは良性の過形成です。一般に「前立腺肥大」と言われているのがこれです。

 

<前立腺の良性の過形成>

良性の前立腺過形成は加齢性の変化です。腺の過形成は若くても始まっています。腺細胞が大きくなることや数が増えることで前立腺全体がボリュームを増します。

組織の中に嚢胞(のうほう)を作ることがあります。嚢胞は拡張した腺で、尿道と通じていることもあります。嚢胞のかたちやサイズはいろいろで、数も一つと決まっているわけではありません。ぽこぽこと複数できていることが多いです。私たちは「蜂の巣状」と表現することが多いです。嚢胞の中には粘調度がうすい透明の(すこし黄色みを帯びた)液体が入っています。

過形成によって前立腺の血管は増え、出血しやすくなっています。

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<前立腺過形成の犬が見せるサイン>

実は、大部分の犬はこれといった症状を現しません。

肥大した前立腺が腹腔から骨盤腔に進入してしまった場合には排便するときに「う~ん」ときばる感じになることがあります。

ときおり尿道から分泌液がぽたぽたっと漏れて(「尿なのか何なのか分からないけど、お汁がたれています」と言われることが多いです)、それが血の混じった様子になることがあります。

血尿が出ることがあります。

元気がない、食欲がない、熱っぽいなどの全身症状は出ないことがほとんどですが、前立腺内にできた嚢胞に感染があるとこのような症状を出すことがあります。

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<検査のこと>

直腸の壁を通して前立腺を触ります。超音波検査で確認をします。臨床的にあまりにも典型的だった場合は、この二つの検査だけで、それ以上の検査を行わないこともあります。

また、たまたま他の検査(膀胱疾患など)で超音波検査を実施しているときに発見されることもあります。

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<手術しましょう>

もっとも効果的な治療は去勢手術です。去勢手術をすると前立腺は数日後には小さくなり始めます。前立腺の分泌物も抜糸する頃には無くなり、1か月後の再診時には半分くらいのサイズになっています。

しかし、前立腺の過形成が発生するまで去勢手術を行わないで来ているには飼い主さんなりの理論があることが多く、さらに「高齢の今になって!?」という不安要素も有り、なかなか受け入れてもらえないこともあります。高齢になったから発生している状態の治療に高齢であることがネックになってしまっているわけです。去勢手術の欠点は、全身麻酔と手術のリスク、これに尽きると思います。年齢の問題は考えても乗り越えられるものではありません。術中はモニタリングをしていますから不慮のトラブルがあってもすぐに対処できますが、術後の回復は若い頃と比較したらゆっくりであることは否めません。「手術を機に被毛が真っ白に(白髪に)なってしまった!」、「毛刈りした部分の毛がなかなか生えそろわない!」、「耳の聞こえが悪くなったみたい!」など、個人の方の主観でマイナスに感じるところも出てくることでしょう。

高齢になった動物の手術に関しては、手術をすることで得られる良いこと、手術をしないでいることで被る悪いこと、手術をすることの悪い点、手術をしないでいることの良い点をそれぞれ考え、じっくり検討して貰った上でご家族の皆さん全員で決定していただき、納得の結論を出していくのが良い方法だと思います。

それでも基本の治療法は手術です。前立腺の過形成に、左右の睾丸の大きさが違うなど、睾丸の病気なども併発していれば、なおさら手術はおすすめの治療です。

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<手術には抵抗があります>

「それでもやっぱり手術は恐い」と思われる方から、「手術意外には方法が無いのですか?」の質問をお受けします。答えからしますと「内科療法が無いわけではありません」になります。

内科療法ですが、一般的にはアンドロゲン(雄性ホルモン)の濃度を低下させるようなホルモン剤を投与します。1週間ほどのませたところで、お薬はお休みです。長期にわたって服用するのは身体に好ましくないからです。しかし数ヶ月もすると同じような症状が出てきます。そこでまた、同じように1週間のホルモン剤投与を行います。延々と同じことを繰り返します。しかしそのうちには、はじめ半年くらい効いていた薬がだんだん効いている期間が短くなってきて、「3か月かそこいらしかもたないなぁ」なんていうことも出てきます。それで当院では1週間のホルモン剤投与のあと、体にやさしい生薬系のお薬を継続して服用して貰っています。副作用に苦しんだ犬はこれまでのところ見ていません。欠点というと、①投薬の手間と②経済的な問題、③手術ほどのストレートな縮小効果が無いこと、④併発している睾丸の病気には効果が無いこと、⑤前立腺内にのう胞があるときは常に感染の心配をしていなければいけないことなどです。

それでも内科療法では去勢手術と同じくらいの効果は望めないことを心の隅にとどめておいてください。

なお、症状が出ていない前立腺の良性の過形成(たまたま超音波検査で発見されてしまったようなとき)には、あえて治療をおすすめしていません。「肥大してきていること」とお伝えして、今後もし症状が出るようであれば、そのときは治療を検討してもらうことにしています。

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<予防することができます>

良性の前立腺過形成(通常、前立腺肥大とよばれています)は予防ができます。ずばり去勢手術です。幼少時に雄性ホルモンの分泌を抑えておくと、高齢になっても過形成による肥大にはなりません。そして若い頃の手術の方が個体に対する負担が少ないことも添えておきます。

 <注意>
前立腺の過形成は良性の変化で、内科治療をするにしてもロングスパン、手術を検討するのにそれなりの時間を費やしたとしてもそうそう問題にはなりません。しかし非常に似た症状を出す前立腺の病気は他にもあり、治療後も症状にぐずつきが見られた場合は単純な「前立腺肥大」ではないのかもしれないことを頭の隅に置いといて下さい。そのような場合は「まだ症状が改善されません!」と来院して下さい。「薬が残っているし、終わるまで再診はいいかな」とのんびり構えないで下さい。

今日のお話はここまでです。

次回は細菌性の前立腺炎についてお話しします。

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犬の前立腺の病気

 今月はモーベンバー。前立腺がんについて知っていただく月です。犬の前立腺がんはあまり知られていませんが、前立腺に関係する病気は意外と多く見受けられます。ふだん病院に来られるのはご家族のうちお母さんが多いことからも、「前立腺」という名前にはなじみがないのかもしれません。今月は前立腺の病気についてご紹介します。チェックポイントとして症状を上げますが、前立腺の病気でみられる症状は別の病気でも表れる症状です。「これって○○病の症状じゃなかったの?」ということもあるだろうと思います。でも「えっ?もしや!」があればご来院いただき、検査を受けて貰えるといいなと思います。「あぁ、勘違いだったわ。」ならば言うことありませんから。

 

<前立腺のある位置>

前立腺はオスだけにある組織です。膀胱のすぐ後ろのところの尿道にくっついていて、しっかり尿道を取り囲んでいます。そして腺構造の導管(ブロッコリーでいうと、花の部分が前立腺で茎のところが導管になります)が尿道に開口しています。穴は一つではなく複数あります。

前立腺は生まれてすぐのときは腹腔内にありますが、子犬から青年期あたりまでは骨盤腔(骨盤で囲まれた部分、お腹の中の組織ですがかなり尻尾に近い後方です)の中にあります。そして加齢とともに腹腔内にまた戻ってきて、5歳以上のオス犬であれば、ほぼ腹腔内にあります。

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今月の掲示板は前立腺の病気についてです。

 <前立腺のはたらき>

前立腺の役割は、射精するときに精液を輸送すること、そして前立腺液を産生することです。通常は基礎分泌される少量の前立腺液が常に前立腺の導管と前立腺尿道を流れています。雄性ホルモンにより成長し、成熟した犬の重量は性ホルモンにより維持されます。そして加齢とともに前立腺の重量は増します。ビーグル犬の研究になりますが、2.5歳以下では40%で、6歳以上になると80%で、9歳以上になると95%が前立腺の良性の過形成が認められるようになります。

 

<主な前立腺の病気>

前立腺の病気は高齢から老齢のオス犬によくみられます。主だった病気は下に示す4つくらいです。

・前立腺の良性の過形成(一般に前立腺肥大と呼ばれています)

・前立腺の感染(急性の前立腺炎や慢性の前立腺炎)

・傍前立腺のうほう

・前立腺の腫瘍(一般的には前立腺がん)

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よくある前立腺の病気は?
タイトル字の色が濃いのは重篤な病気です。

<前立腺の病気の兆候>

飼い主さんが気づく異常点、チェックポイントを並べます。

・血尿

・尿道からの分泌物がある(ときに赤い、膿のようなことも)

・オシッコが出にくい(ちょろちょろ、ぽたぽた)

・オシッコがくさい

・いきんでウンチを出す

・元気がない、食欲がない、熱っぽい

・局所の痛み(動かない、動きがぎこちないなど)

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前立腺の病気が疑われるときの検査です。

<前立腺の病気を疑ったときの検査>

前立腺の病気の種類によって、治療内容が変わります。そのような意味からも、「前立腺が大きい」というところからいくつかの病気をはっきり区別する(鑑別診断と言います)ことが重要になってきます。主な前立腺の病気を区別するために行われる検査は以下のようなものです。

 ①視診

睾丸に異常はないか、生殖器全体をみます。

②触診

お腹側から前立腺に触れて大きさを確認します。お腹の筋肉が張っていたり、犬の大きさによっては触ることができないこともあります。

③直腸検査

直腸に指を入れて、直腸側から前立腺を触ります。犬の大きさによっては指が前立腺まで届かないこともあります。直腸からは、前立腺の大きさだけでなく固さ、左右対称なのか片方だけが大きいのか、また表面がなめらかなのかごつごつしているのかなども触知することができます。また触れたときに痛みはないかどうかもチェックしています。

④血液検査

感染性の前立腺疾患が考えられるとき、全身へ影響が及んではいないかを見るため、また別の前立腺の病気を疑う場合も、全身のコンディションを知るために血球の検査や生化学的な検査を実施します。

⑤尿検査

一般の尿検査に加え、尿沈渣の検査(顕微鏡の検査)も行います。もし細菌が認められた場合は尿の培養検査を行います。

⑥前立腺液の検査

尿道からの分泌物や、前立腺マッサージによる標本で細胞の検査を行います。感染性、腫瘍性の場合にたいへん有用な検査になります。

X線検査

前立腺の大きさやかたち、また、近隣のリンパ節の様子も観察することができます。膀胱や尿道などの尿路系についても評価することができます。造影剤を使って尿路を描き出す検査を行うこともあります。この検査により、似たような彩度をもった組織がどの組織で、それらがどのような位置関係にあるのか明らかになります。

⑧超音波検査

前立腺の内部構造を知ることができます。前立腺の中に空洞があること、その空洞の広さなどを確かめることができます。

⑨前立腺の吸引

もし空洞を見つけられて、それがお腹の皮膚から針を刺して吸引できそうな位置であれば、針を刺して抜き、細胞の検査を行います。(もし吸引したものが膿であれば、すぐに点滴治療で抗菌薬療法を始めます。)この検査は必ず実施するものではありません。

⑩前立腺の細胞検査

特に腫瘍を強く疑うような場合、鎮静剤または短時間の軽い麻酔の下で、前立腺の組織に針を刺して細胞を採取することがあります。

 

 

今日のお話はここまでです。

次回から個々の病気について少しずつお話ししていきます。

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視力の低下した犬の生活のヒント

 失明したとき、犬はそれまでと違う行動を取るようになります。ただ、年齢や身体の状態、これまでされてきた訓練(学習した内容)、もし同居の動物がいればその動物との関わり、また家族との関係などさまざまな要因によっていろいろな反応が出てきます。攻撃的になったり沈うつになったり、中にはあんまり変わらないという犬もいるかもしれません。

まずは失明によって起こされる行動の変化と注意点をお話しします。それから失明した犬でもそのまま日常生活を送ることができるようにするためのお手伝いや訓練のことをお伝えします。何でもかんでも手を焼き世話をすることができれば良いかもしれませんが、もしお世話する人が留守になったら犬が困ります。犬には失明してからも自立した生活を送ってもらいたいです。

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<失明によって起こされる行動の変化と注意点>

1、攻撃行動

窮地に立たされたとき、「攻撃する」かまたは「逃げ出す」というのはよく知られたことです。犬は恐怖から「攻撃行動」を起こします。もしそれまでも「ビビリ」な犬であれば、見えない恐怖からうなったり、咬もうとしたりするかもしれません。いきなり犬に触って咬まれるというのは良くあることです。

注意:このときに叱ってしまうと状況は悪化してしまいます。こうすると攻撃性が増加してしまいます。決してご家族の方は噛んできた犬に対し叩いたり叱ったりしないでください。逆に「仕方ないよね、かわいそうなことになったのだから」と甘やかし、抱きしめたりおやつを与えるのも良くありません。攻撃行動に対しご褒美をもらえるわけですから攻撃行動を助長させることになります。必ず声がけしてから触るようにしましょう。びっくりさせないことが大切です。

2、沈うつ

中には置かれた状況に困惑してしまう犬もいます。どうしたらよいのか分からないのです。動きが緩慢になり、頭や尻尾を下げ、じっと静かになってしまいます。遊びもせず、日中寝ていることが多くなります。部屋の中で立ち尽くしているとかもあります。不安を感じています。

注意:飼い主さんが失明に対し落ち込んでいると犬にもそれが伝わります。悲しみの感情は犬には見せないようにお願いします。マッサージは心を落ち着かせることができます。1日に何度でも構いません。やさしく声掛けしながら体を触ってあげてください。

3、依存

自分から何かをするのをためらってしまう犬もいます。部屋を動き回りません。ご家族が時間になるとトイレに連れて行ってくれたり、ベッドルームに運んでくれたりして、手助けがくるのを待つだけになってしまいます。

注意:愛犬のためにいろいろとしてやりたくなりますが、甘やかしているとますます受け身になり、何もしなくなります。トレーニングを始め、新しい環境に対する自分の行動に対して自信を持たせてやりたいです。

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<生活に加えたいヒントいろいろ>

失明してもほとんど飼い主さんに気づかれない場合もあります。それまでの生活の繰り返しから、頭の中に家の中の構図を描けているのです。メンタルマップといいます。

全く見えなくなる前のぼんやりと見えているくらいの段階から補助してやると、完全失明の後にメンタルマップを描きやすくするための訓練もほとんど不要になるはずです。

目的は危険を最小限にすることで、危険回避が中心になります。その中で犬の生活上の楽しみや家族に依存しすぎない自立した生活にするための工夫が入ります。これまでと同じことを犬に要求することはできません。トイレの介助、食事の手助けなどいろいろありますが、できるだけ自立してやってもらうための「見守り・プラス・アルファ」で、人でいうところの「支援」になると思います。まだ「介護」にならない段階です。

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 1、特別な場所

安全な場所の提供をお願いします。昼間過ごす場所、夜寝るときに過ごす場所、それぞれが必要です。ベッドやケージを用意してください。できれば家族が最も多く時間を過ごす場所が理想的です。できるだけ孤独を感じないようにしてやってください。もしソファの上が定位置であったとしたら、落下トラブルを防ぐため、ソファの下に犬のベッドをおろしてください。またはソファに上りやすいようにスロープを設置してやってください。

屋外飼育であった場合、安全な屋内に移動させてやると犬は不安が減ります。

2、照明は明るく

犬が出入りする場所は明るい照明をつけたままにしておいてください。廊下にも常夜灯がともっているとそこを通って別のところに行く場合に案内になるはずです。

3、コントラストのエッジライン

視力低下とともに似たようなトーンの色合いを区別することができなくなってきます。視力が健常である私たちでも階段の縁にカラーの目印が付いていると安心して段を降りることができます。犬の視力が低下してきているけれどまだ完全に見えないわけではないという段階で目印をつけてやってください。ここから先は危険だという意味も含めて、玄関からたたきに降りるところ、角ばった壁のでっぱり部分などに、床や壁とはできるだけ色合いが違うものを張って目印にしてもらいたいです。ソファの座る部分の縁もそうです。私たちからすると膝の後ろが当たる部分ですが、からだ全体が乗る小型犬にとっては広いスペースの一部分が欠けたところがソファの縁になります。薄い色が多い調度品の中で、濃い色がついたビニールテープは重宝します。ビニールテープにはにおいもありますから嗅覚での覚えにもなると思います。また足裏で感じる期間があれば、完全な失明をした後でも、カラーテープを頼りにすることもできます。ビニールテープは短い周期で新しいものに交換してください。触れた感覚よりも嗅覚を頼っている場合のほうが多いと思われますので、ビニールテープのにおいが薄らぐ前に新しくしてもらいたいです。

4、遮へい

犬がこれより先に行くのは危険なことが多いと思われるところには柵をして、行けないようにしてください。階段の降り口や登り口、玄関につながる廊下へのドア口、キッチンへの侵入口など、見ていられないときに行ってしまってはいけない部分は「通せんぼ」してください。

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5、場所のにおい

例えば洗面所や脱衣室に犬のトイレがある場合、洗濯用洗剤やお風呂で使うシャンプーのにおいを頼りにトイレに行けるかもしれません。犬にとっての重要な場所にこのようなにおいと関連付けた指標をつけておきます。香りのアロマは犬に好ましくないものもありますので、お手軽ですがご注意ください。バニラエッセンスやメイプルの香りなどのキッチン用品も活用してください。これらは特に犬のフードボウルや水食器の位置を知らせるのに役立つかもしれません。

6、カーペット

目的のところへ誘導するのに細くしたカーペットも有効です。パッチワークのようにつなげるカーペットも活用すると便利です。家の中には特に犬にとって重要な場所があります。トイレ、ベッドルーム、食事の場所などです。ここへの移動がスムーズにいくように、ほかの床とは違う感触で、しかも目立つ色合いのカーペットを用意すると良いです。滑り止めのため、カーペットの下に特別なマットを敷くとか、縁をテープで止めるなど工夫も必要になると思います。DIYのホームセンターまたは通販で見つけることができると思います。

7、食器を置くところ

カーペット通路の先に、少し広めの別素材のカーペットを敷きます。犬の足4本が全部乗るくらいの広さがほしいです。ここが食事をする場所であることを足裏の触感で学べます。食器は専用の置き台を利用してください。普通の平台の上に食器を置くのでは食事中に食器が動いてしまいますので、専用の台を用意できない場合は、食器が動かないような工夫が必要です。食器がすっぽりとはまるようにダンボールの上面を円形にくりぬいてもらい、さらにそのダンボール箱をテープで台に固定するなど、専用の食器台を購入しなくても工作で代用品は作れます。

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8、音で知らせる

もし同居の犬や猫がいるのであれば、それぞれに違う音がする鈴をつけるのも別の動物が近づいてきた合図になります。お母さんを大好きな犬であれば、お母さんのエプロンポケットに鈴を忍ばせておくとお母さんの音がするのは近くにお母さんがいる印となり、犬は安心できます。猫の首輪のようなものをお母さんの足首につけてくれるのもうれしい工夫です。

9、家具の配置

基本的に、家具の配置を変えないことは古くから言われていることです。新しい家具が配置されるとこれまでのメンタルマップを脳内で新しく描きなおさなければいけないことになるからです。ただ、ちょうど犬が目的地に行こうとするライン上に家具が配置されていた場合は、それを別のところに移動させるほうが良い場合もあります。部屋の中央にあったベッドを壁際に押し付けるとか、動きやすいところを広く取ってソファに乗るための踏み台に乗りやすくさせるなど、犬にとって最善の方法を考えてやるとよいと思います。

10、家具の縁

リビングルームに置かれるテーブルの中にはガラステーブルのように縁がとがったものもあります。リビングのテーブルはやや低めで、屋内を動く小型犬の頭の高さに等しい場合があります。犬の顔を守るためにはガラスの縁などはやわらかな材質のものでカバーする必要があります。同じように尖った家具の足などはないか、チェックしてください。ここをカバーするのにはキルトの布がおすすめです。ちょっとそぐわないかも知れませんが、パイプ用断熱材のようなチューブ状の発砲スチロール材もよいですし、梱包材のぷちぷちも役立つと思います。工夫してもらえるとありがたいです。

11、新しい訓練

「マテ」はこの際、強化したい号令です。犬が何かしようとするとき、危険だと判断されたときは一時停止させることができます。また正しい位置になったときに「ジャンプ」とか「オッケー」の言葉かけと一緒にソファや床をトントンさせるなど、犬が安心して行動に移せるような練習を繰り返すことができると、声掛けのない場所で飛び乗る、または飛び降りるのをやめさせることもできます。

12、新居

全く新しいメンタルマップを描く必要が出てくるのが新居への引っ越しです。足裏の感触と嗅覚による案内を中心に転居前から匂いと生活の要所の関連付けを行っていきます。これには大変根気がいると思います。

13、家の庭

屋内と同じような要領で家の庭のメンタルマップを描けるようになると犬は屋外も楽しめます。低木の木をよけるとか、石組みを操作するのは難しそうではありますけれど。

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完全な失明になり、日常動作が思うようにならなくなるとご家族の手助けの度合いが大幅に増加します。たいていは高齢犬ですので、失明だけでなく聴覚の低下や運動麻痺なども徐々に入ってくるかもしれません。さらに認知機能障害も出てくるとすべての世話が「支援」から「介護」になりご家族の疲労が高まります。少しの工夫とお部屋の造作で愛犬の自立を助けることができます。早期のうちはできるだけ犬に「自分のこと」をしてもらえたらと思い、視力が弱くなってきたころからの行動を支えるヒントをお話ししました。

 

目が見えなくなる病気「白内障」に続いた「目」関連のお話は今回でいったん終了します。

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犬の白内障・4

犬の白内障について4回目です。
いいことばかり書いてあるけど、実際、違うじゃないの、ということがないように。マイナス面についてもおしらせしておきます。

 <白内障手術に伴うリスク>

白内障手術は非常に成功率の高い手術ですが、リスクもあります。手術後の視力改善の可能性は、ほとんどの犬にとって(90%〜95%と)高いです。けれどその残りの5%〜10%は合併症のために良好な視力を取り戻すことができません。最悪の場合は手術した目の片方または両方に永久的な失明となることがあります。白内障、炎症、および眼内手術に対する反応性には違いがあるため、白内障手術は人ほどの成功はありません。どのような手術においても常に完璧であるとは限らないこともご理解ください。特に(何度か言っていますが)水晶体起因性ぶどう膜炎(LIU)がある場合は成功率が低下します。
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失明を起こす目の病気はいくつかあります。
代表的なのが白内障や緑内障、網膜の病気です。
どこに異常が出るのかわかりやすくするため色をつけました。

 

術後の心配点を示しておきます。

①眼内の瘢痕組織のリスク

全てのイヌは眼内の瘢痕組織を発症します。瘢痕組織というのは、傷が治るときに全く同じ組織に置き換わることはなくて、傷を治そうというする組織が過剰に出てくる炎症性の組織のことです。皮膚にできた傷ならば「やけどの跡」のような毛が生えないつるんとした組織になりますが、目の場合、主に水晶体嚢が不透明になります。過度の瘢痕組織は視力を低下させます。子犬や若齢の犬は高齢犬よりも混濁を発症しやすいです。抗炎症薬と抗酸化剤ビジョンサプリメントで生涯サポートすると重度の混濁を形成するのを軽減させることができます。

②緑内障のリスク

緑内障は眼圧の上昇で知ることができます。これは白内障手術を受けたあと一時的に起こります。ほとんどの場合、眼圧上昇はほんの一時的で、手術後最初の12日以内に治療をすればすみやかに解決します。ただ手術後数ヶ月から数年たってから緑内障を発症することもあります。 緑内障は完全な失明の原因になります。愛犬の目がおかしいことを発見したら速やかに診察が必要です。追加の薬物療法、もしくは外科手術(眼圧制御のために行われる手術)で治療します。緑内障は「頭痛」のような症状でも発見が可能です。もし痛みのコントロールができないようであれば、残念ながら眼球摘出の手術が適応になるほどです。

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緑内障は目の中の水が溜まりすぎ眼圧が高まる病気です。



③網膜剥離のリスク。

網膜剥離はたいてい完全な視力喪失につながります。早期に対応されれば、手術成功率は高いようですが。

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網膜が定位置から分離したのが網膜剥離です。
網膜が裂けて眼内出血を起こすこともあります。




④眼内感染のリスク

これはまれです。しかし発生したら完全な視力喪失だけでなく眼球摘出手術が適応です。愛犬が不用意に目を掻いたり、こすりつけたりして目に感染をおこさないように細心の注意が必要です。

⑤全身麻酔のリスク

麻酔の安全性は近年著しく進歩してきています。私たち獣医師とそのスタッフはとても真剣に麻酔処置に当たりますし、麻酔中も幅広い項目(血液の酸素化、二酸化炭素レベル、呼吸数、体温、心拍数、および血圧)をモニタリングしています。モニタリングしていると身体に発生した異常をいち早く表示しますから、術中にそれに対応してすぐに処置することができます。
ですが、健康な動物でも一般的な麻酔下で亡くなることはあるので、一定数のリスクがあることもご承知ください。

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今回お話をしているのは白内障のこと。
水晶体が混濁した状態です。

 

<合併症リスクを減らすために>

このような合併症を発症するリスクを軽減することはできます。

①速やかに診察を受けること

白内障が疑われたらなるべく早いうちに診察にお越しください。もし糖尿病に罹患している犬であればなおさらです。早期に発見できたら手術の最適期を逃すことなくいけるかもしれません。「きっと白内障だわ。この子も歳だし、当然だよね」と間を開けないことです。水晶体が完全に不透明で目が見えなくなるまで待つのは良くありません。はじめはホームドクターの診察から。そして獣医眼科専門医の診察につながれます。

②治療時の指示に従うこと

治療時に受けた指示を守り、点眼やまたはサプリメントの投与を行ってください。点眼が困難な犬でも、根気よく点眼を続けるとうまく目薬をさせるようになります。「うちの子は目薬をささせない」とあきらめず、がんばってみてください。

③再診を受けること

専門病院で手術が済んでからも獣医眼科専門医が推奨する再診日には犬を連れて行ってください。眼科専門医による定期的な再検査が必要です。
残念なことに獣医眼科専門医への再診が予定通りではなく、数ヶ月から数年後になってしまっている犬もあります。実は彼らはベストなタイミングでベストな治療を行えなくなった患者さんを嘆いています。せっかく白内障の手術により素晴らしいビジョンを獲得したにもかかわらず、のちに発症した緑内障の治療が遅れたために視力が再び失われていることがあります。そうした事態を起こさないためにも診察にお出かけください。

④サプリメントの投与をすること

特定の犬用抗酸化剤ビジョンサプリメント(点眼液ですが、薬効的にサプリメントの扱いになっているものがあります)を使用して生涯、眼のサポートをしてください。

⑤胴輪をつけること

目の手術後は首輪を避けて胴輪で散歩するようお願いしていますが、目の異常が見つかった場合は手術の有無にかかわらず胴輪にしていただく方が、知らないうちに合併症を発症していた場合にも有益になると思います。

 IMGP0565.jpg
悪くならないように。
目のチェックポイントと点眼方法について、
掲示してあります。




<おまけのおはなし> 

さて、獣医眼科専門医と彼らのスタッフたちはすばらしい眼科ケアチームで、白内障手術が済んだ後も犬の眼科ケアを生涯にわたって行ってくれます。手術した眼がうまくいっているかどうか、もう一方の目はだいじょうぶなのか、ときには詳しい検査なども含めて診療していきます。ご希望により獣医眼科専門医を紹介いたします。犬の目ができるだけ健康で良いビジョンを保てるように、ホームドクターは獣医眼科専門医と一緒に愛犬のケアをしていきます。

もう過ぎてしまいましたが、10月13日は「じゅういさんの日」なんです。多くの方は獣医師をホームドクターとして見ていることと思います。獣医学は非常に早いスピードで進歩しています。それに伴って、それぞれの獣医師は自分の関心のある分野についてより深い知識や技術を習得しています。ホームドクターの中でも「自分は○○の専門医です」と名乗っておられる先生もいますし、「まだ学習途中であるけれど○○分野については詳しいです」という先生もおられます。分野によってはまだ国内で「○○専門医の制度」が立ち上がっていない分野もあり、広く看板に掲げられていません。ある先生が得意としている分野があるのだけれど一般の患者さんが知る機会が無いということもあるでしょう。たまたまその得意分野の病気に遭遇したら分かるのにと思いますが、病気になるのは好ましいことではありません。ホームドクターのほとんどは「専門の」または「得意の」分野を持っています。もし機会があったら診療の合間に尋ねてみると良いかもしれません。キラキラした瞳で専門分野のお話しをしてくださるだろうと思います。

さて、そのようなこともあり、今回、白内障については、ホームドクターがしていること、そしてご縁があればご紹介させていただく獣医眼科専門医のことも交えて白内障のお話しをしました。私は眼科は専門ではないためご紹介を取らせていただいております。これからもジェネラリストとして、それぞれの動物の最善を考え、間違いのない治療をするよう努めていきます。




次回は失明した犬との暮らしについてお話しします。


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