- 2023-09-17 :
- こころの病気など
犬の分離不安症5(重度の)
重度の分離不安症克服のための行動修正
中等度から重度の分離不安症の場合は、複雑な行動修正プログラム(逆条件付けや脱感作療法)が必要です。でも非常に難しい、というか犬にとって繊細なプログラムなので、まずは再訓練からスタートさせてください。子供の頃にすでに一度は実施しているだろうということで再訓練といっていますが、もし初めてである犬の場合には、これは治療をはじめる前の予備訓練になるかもしれません。
再訓練~ステイとリラックス
再訓練で重要なのは、犬が常に飼い主さんの後を追いかけるのではなく、自分の安心できる場所、マットとかリラクゼーションエリア(ここはクレートやサークルがおすすめです)に留まっていられるようにすることです。飼い主さんの前でも自立してリラックスできるように教えます。
①ステイ
「ステイ」は「そこでじっと待つ」ことを意味する命令で、「伏せ」と「待て」が混じったような命令です。
犬がマットの上などで、徐々に長く留まることができるように教えてください。フードやおやつを使うセッションから始める必要があるかもしれません。つまり「座れ」「伏せ」から始めて、「待て」の時間を徐々に長くしていきます。犬が留まっていられたら、歩いてその場を離れまたすぐに戻ってきます。最初は数秒間、ほんの数メートル(犬が飼い主さんを目で追えるくらいの距離)から始めます。時間の経過とともに30分を目標に、その場所だけでなくその部屋から(犬が飼い主さんを目で追っていけなくなるところまで)離れても大丈夫(犬がリラックスして待っていられる)にしていくのが普通の訓練です。分離不安がある犬で30分まで我慢できることはまずありません。それでも、戻ってきたときに静かにしていることができたら、注意を向け、撫でるとかご褒美をあげてください。
この訓練をはじめた時点から、リビングで過ごす時間帯も、犬は飼い主さんの足元や膝の上に座るのではなく、長時間犬用のマット(またはクレートなど)に留まるように仕向けていきます。夜も飼い主さんのベッドや寝室ではなく、このリラクゼーションエリアで寝るように教え込むと、より早く過剰な愛着や依存を断つことができます。
*注意*飼い主さんご自身も、犬への愛着や依存を減らしていく難業になるかもしれませんが、頑張ってください。
②自立してリラックス
これらの訓練中に、犬をリラックスすることと結びつける合図をできるだけ多く使っていきます。飼い主さんが家にいるときに犬が「安全だ」と感じること、いろいろです。テレビがついたままになっているとか、お気に入りのビデオや音楽が再生されているとか、飼い主さんの匂いが付いたお気に入りの毛布があること、いつもそばにある噛むおもちゃなど、リラクゼーションに結びつくあれこれが相当します。
静かな場所でリラックスすることと、家にいるときは飼い主さんを気にしなくて良いことを犬に教えてください。「ステイ」のコマンドは「お休み」に言い換えるとやさしいイメージがして、よりふさわしいのかもしれません。
一方で、犬が注意を引く行動(吠える、手をかけるなど)には反応しないでください。注意を引こうとする行動に対しては完全に無視します。犬が近くに寄ってきて要求したからおやつを与えるのはいけません。そして吠えたことに対して「静かに」と叱るのも吠え行動に対する反応なので、このような対応をするのもいけません。(これまでに「しーっ」のコマンドが教えてあるときはコマンドを出してください。)
とにかく、「飼い主さんから離れて静かに横たわっているとご褒美がもらえる」というのを学習させてください。
クレートトレーニング
クレートトレーニングは、放っておいてもここが安全な場所であることを学習する場合に役立ちます。けれど慣れない犬ではクレートがストレスや不安を引き起こす可能性があります。クレートを使うかどうかは、クレートトレーニング中の犬の行動を観て判断します。犬が苦手に感じている兆候(激しくハァハァ呼吸をしている、たくさんよだれを垂らしてしまう、必死で逃げようとする、しつこく吠えるなど)を示している場合は、クレートに閉じ込めるのはよくありません。クレートを使用する代わりに、オープンな環境でリラックスの訓練を進めてください。
犬にたくさんの「仕事」を与える
犬が行動上の問題(特に不安を伴う問題)を抱えているとき、治療のためには身体的な刺激(身体を動かすこと)も精神的な刺激(頭を働かせること)も不可欠な要素です。犬に体と心を働かせるのは、犬の生活を豊かにし、ストレスを減らします。さらに、肉体的にも精神的にも疲れると余分なエネルギーが無いので、消費のためにうるさくつきまとうこともなくなってきます。「静かに落ち着かせるためには、疲れさせるのが手っ取り早い」みたいなことです。犬をビジー状態にさせるために、次のことを試してください。
①十分な運動
愛犬に毎日少なくとも 30 分間の有酸素運動 をさせてください。ランニングが手軽です。もし可能ならば水泳も良いです。
②「持って来い」の遊び
犬と「もって来い」や綱引きなど、楽しいゲーム遊びをしましょう。
③散歩で刺激を
毎日、犬を散歩に連れ出します。もし車酔いがないのであれば、ドライブの外出にも連れて行きましょう。出先で、新しい匂いや光景を経験できるように、できるだけ頻繁に、そして違うルートを選択し、かつ新しい場所を訪れてください。
④犬との交流
犬が他の犬が好きなら、仲間の犬たちとオフリードで遊ばせてください。ドッグランです。はじめはなじめなくても大丈夫。眺めているだけでも良いのです。無駄がないように、フリーで入れる場所からデビューしてみてください。
⑤パズルフィーダー
フードを詰め込むタイプのおもちゃを提供します。これらのおもちゃでドライフードを与えたり、コングのような物であれば、少量のチーズやふやかしたフードを詰めたりすることができます。また、愛犬にさまざまなカミカミできるおもちゃ(安全性の確認をしてください)を与えてください。パズルのおもちゃは脳を刺激します。ノーズワークマットでドライフード探しをさせるのもおすすめです。
⑥愛犬のしつけ教室
トレーニング教室に参加して、犬の精神活動を高めるのもおすすめです。飼い主さんと犬の絆を深めることができます。新しいスキルや一緒に遊べるゲームをトレーナーさんから教えてもらえます。個別レッスンが適している犬もあるかもしれません。詳しくはドッグトレーナーさんに問い合わせてください。ここで学んだ新しいスキルは、家でも何度も練習することで身につき、また犬に自信を付けさせることができます。こうして精神的に強くたくましくなっていきます。
*注意*保護犬の中には、これまでの環境の中で「おもちゃ」で遊んだ経験がない犬もいます。どんなおもちゃにも興味を示すことがありません。そこそこ高齢になってから初めての体験をすることになるので、無理強いしてもうまく遊べないことがあります。
準備が整ったら
分離不安症がかなり強い場合、不安を感じさせないトレーニングを毎日行うことから始めて、わずかずつ、何週間もかけてひとりで独立していられる(分離の)時間を徐々に延ばしていきます。このようなトレーニングを通して、犬を「一人でいること」に慣れさせてきます(自立訓練)。うまくすると、ここまでで重度の分離不安症の犬は中等度に、また中等度の分離不安症の場合は軽度に、症状が良化しているかもしれません。
ここまで来たところで、いよいよ逆条件付けや脱感作療法のプログラムに入ります。
それでも、逆条件付けや脱感作療法は複雑で、中等度から重度の分離不安を抱えた犬に実行するのが難しい場合があります。なにせ犬が恐怖の感情を持ってしまうことは避けなければなりません。そうしないとプログラムが裏目に出て、犬はさらに分離不安を増してしまいます。ですから、犬の反応に応じて治療を進め、ときに立ち止まり、また後退するなど、細かく計画したプログラムであっても、こまめに変更する必要があります。変更するときの基準はひたすら犬の反応ですが、犬の様子を読み取って解釈することが難しいため、逆条件付けや脱感作療法には経験豊富な専門家の指導が必要です。飼い主さんがひとりで立ち向かうのではなく、獣医行動学の専門医とトレーナーさんの助けが必要かもしれません。
次回に続きます。
スポンサーサイト
BONDトレーニング
英語の頭文字を取ってボンドトレーニングというのがあります。すでに説明したようなことで、繰り返しのまとめになるでしょうか。
B
Be positive:行動修正トレーニングの成功に不可欠なのがポジティブな行動。望ましくない行動には目を向けず(無視して)、決して叱ってはいけません。
O
Only reward calm behavior:落ち着いた行動を取ったときにだけほめます。犬が過度に興奮している時など、注目を集めようとする行動を取っているときには無視します。飼い主さんが興奮してしまうと犬も興奮する可能性があります。犬と一緒にまったりした時間を過ごすようにしましょう。
N
No more drama when you come and go:出かける前の大げさな挨拶も、帰宅時の大げさな挨拶もしません。過剰に関わらないようにし、静かになるのを待って普通に接します。
D
Develop your dog’s independence:犬の自立心を育みましょう。飼い主さんが居なくなっても犬が落ち着ける安全な場所を提供します。そこに長時間とどまっていられるようにトレーニングを済みます。外出時はストレスを減らすために家族の匂いが付いた物やおもちゃを添えておきます。
予防~分離不安症にならない犬に育てる
犬の分離不安を防ぐ方法のひとつは、若い頃から分離不安を準備させることです。
重要なステップは社会化、つまり子犬(ことに12か月齢になるまで)をあらゆる種類の光景、音、状況、その他の刺激に慣れさせることです。 これには他の動物や家族以外の人との交流を持つことも含まれます。子犬のときにさまざまな人、他の犬、物、香り、状況を経験させると、子犬の自信を育み、不安の少ない成犬につながります。くれぐれも新しい物を紹介し、体験することは、子犬にとっていつも楽しいと感じるような状況で行ってください。もし子犬が恐怖反応を示した場合は、新しい出来事の紹介を停止し、しばらく間を置いてからまたゆっくりと再試行していってください。
それから、子犬はじぶんひとりの時間を持ち、おもちゃで楽しむ方法を学ぶ必要があります。(クレートトレーニングはひとりで時間を過ごすことを学ぶのにとてもよいです。)
子犬がひとりでいるときに家族のところへ連れ出す場合、気をつけて欲しいことがあります。子犬が静かに遊んでいるときだけ連れて行くようにしてください。これは子犬に続けてほしい行動をとっているときのご褒美になります。「子犬が悪さをしているとき」、「吠えて相手をして貰いたがっているとき」に家族との団らんができることを知ってしまうと、「悪い行動」を強化してしまうことになります。子犬は家族とふれあいたいためにさらにこのような行動をしていくことになります。上手に育てられ、うまく適応した子犬は、単独でも家族とでもうまくやっていくことができ、将来的に分離不安を抱える可能性が低くなります。
なにせ子犬期は、なんでもうまく吸収していくときですから、飼い主さんが望む行動を強化するのに最適な時期です。けれど将来的に望まない行動になるような行動でも吸収してしまいます。ですから、この時期にしっかりと「良いこと」「いけないこと」の区別を学習させて、のちのちの家族との暮らしが楽になるように育てていって欲しいです。この区別の付け方は飼い主さんの対応によって学んでいきます。「伸ばしていきたい行動」に対してほめ、「やって欲しくない行動」に対しては静止させるか無視し、そうではない行動に移ったときにほめていきます。分離不安症の治療に用いているような行動の修正、つまり穏やかに出発ししずかに帰宅すること、そのほかを繰り返し学ばせて、生涯にわたって良い習慣を身に付けさせてください。
犬がすでに成犬になっている場合でも、同様のテクニックの多くが犬に役立ちます。ただ、子犬よりも成犬を相手にするほうが、忍耐が必要になります。
分離不安を回避する~シニア犬に対する配慮
シニア犬の場合は行動の変化がないか健康診断を受けてください。人間と同じように、高齢になると病気が発生しやすくなります。獣医学的な問題を早期に発見することが最善です。
さらに、人間の認知症に似た認知機能障害も発生してきます。 高齢犬の認知機能障害の症状は、分離不安に似ていることがあります。たとえば、吠える可能性が高いですし、混乱があったり、トイレの間違いを起こしたりする可能性もあります。認知機能障害は、分離不安と比較して、飼い主さんが家にいるときにも困った症状を発生させることから区別を付けやすいかもしれません。
高齢犬は、それまで家に一人でいても大丈夫だったのに、分離不安を発症する可能性があるのですが、これは関節炎や歯周病などの加齢に伴う症状(痛み)や、目が見えないとか耳が聞こえないという不安により、安心感が低下していることが原因である可能性があります。また、睡眠と覚醒のサイクルの乱れによる問題があるかもしれません。ただ、聴力の低下はこれまで音恐怖症があった犬には聞こえづらくなっていることが幸いしていることもあります。
高齢犬のイライラには周囲の問題が関連していることも多いので、ゆっくり休める環境を提供することなどの配慮も必要です。
なおセレギリンは認知機能障害のときに選択する薬剤で、行動療法に併用して使われます。
小型犬を飼育する家庭が多いことと、家の中で犬を飼う歴史が浅いこと、苦労した経験がある保護犬をレスキューしてくださるご家庭が増えてきたことなどが原因なのかなぁと思っているのですが、昔のような「甘やかし」では片付けられないのが今の分離不安症の特徴のように思います。もちろん「愛情過多」もあります。「エンプティネスト」から発生しているのかなと思うこともあります。その昔「母原病」という言葉ができましたが、それが犬にもありそうな気がするのです。
とにかく犬への接し方を変えるだけで、犬は自立することができます。原因はどうあれ、分離不安で犬を苦しませるくらいなら、きちんとトレーニングをし直して、心の強い子に育てて欲しいです。
犬の分離不安症についてお話ししています。今日は3回目。お薬を使った治療のことをお話しします。
薬物療法
行動療法だけでは問題を改善する可能性が低い場合や、犬が訓練に十分に反応しない場合には、薬が必要になることがあります。犬が過度に不安を感じている場合、または怪我をしたり、他のペットや人を傷つける危険がある場合は、人道的な理由からも薬の投与が必要になります。不安の程度にもよりますが、問題がコントロールできるまでの間、サプリメントや薬物、フェロモンを使用することで効果が得られます。ただし、行動療法を実施しないで薬だけを与える方法では事態は良化しません。薬物療法は行動療法の効果を高めるために併用して行う方法です。薬によって不安や興奮が軽減されるまで、行動修正プログラムが十分に進まない犬もいます。
行動療法薬は鎮静させるだけではない
問題行動の治療に使用される薬が鎮静を引き起こしていた時代がありましたが、現在使用されているほとんどの薬は、望ましくない副作用が少なく、問題行動を目的にするように設計されています。もし犬が特定の薬で鎮静を経験した場合は、代替薬が利用できます。
薬物使用前に検査をします
薬物療法を検討する前に、身体検査、血液検査、尿検査で評価をし、問題行動の原因に獣医学的問題が絡んでいないかどうかを検討します。
副作用や併用禁忌の薬もあります
すでに服用している薬剤との相互作用で使うことができない可能性についても評価します。体調や併用薬との飲み合わせにも問題がないようであれば、お薬を処方します。望ましくない副作用が出る可能性もあります。食欲不振や震え、嘔吐などの副反応がみられた場合は、知らせてください。
抗うつ薬の作用機序
抗うつ薬は、神経伝達物質と呼ばれる脳内化学物質に変化を引き起こすことによって作用します。セロトニンは、不安のコントロールに関わる神経伝達物質の一つで、神経細胞と神経細胞をつなぐシナプスの中で受け渡しが行われています。セロトニンが別の神経細胞に再取り込みが行われるのをブロックし、脳内のセロトニン量を増加させることで不安をコントロールするのに役立つ薬があります。この作用を利用した薬は「選択的セロトニン再取り込み阻害薬:SSRI」というグループに入る抗うつ薬です。
抗うつ薬にはSSRI以外にもさまざまなカテゴリーの薬があります。同じカテゴリー内であっても、各薬は個々のペットに対してわずかに異なる影響を与える可能性があります。重篤な副作用は一般的ではありませんが、抗うつ薬ごとに若干異なる場合があります。
幅広い病気で使われる
抗うつ薬はうつ病以外の多くの行動疾患の治療にも役立ちます。獣医学で抗うつ薬は、猫の尿スプレー、尿失禁、雷雨恐怖症、パニック、睡眠障害、ある種の攻撃性など、多くの症状の治療に使用されています。
動物への使用が承認されている抗うつ薬
行動疾患の治療に使用される薬で、動物での使用を許可されているものは2つあります。フルオキセチン (Reconcile®) とクロミプラミン (Clomicalm®) です。分離不安症の治療に特化して承認されています。
フルオキセチンは、選択的セロトニン再取り込み阻害剤 (SSRI)です。SSRI には通常、心を落ち着かせる効果がありますが、鎮静を引き起こすことはほとんどありません。その他の副作用には、食欲減退、体重減少、胃腸障害、または落ち着きのなさなどが含まれる場合があります。
クロミプラミンは、三環系抗うつ薬(TCI)です。クロミプラミンは他の三環系抗うつ薬よりもセロトニンに大きな影響を与えるため、中等度から重度の行動状態の治療により効果的です。
使われるかもしれない他の抗うつ薬
人間のうつ病の治療に使用され、抗うつ薬と呼ばれる薬は犬や猫の治療にも同様に役立つため、認可が取れている薬でも使うことがあります。
アミトリプチリン、トラゾドン、ブスピロン、ベンゾジアゼピン、クロニジン、ガバペンチンなどです。
トラゾドンは即効性があるため、恐怖や興奮の引き金にさらされることが予想される場合に役立ちます。たとえば、雷雨恐怖症のペットは、嵐の前にトラゾドンを服用することができます。
ガバペンチンは、不安や痛みを和らげる抗てんかん薬です。ガバペンチンは即効性があり、動物病院への訪問、車での旅行、雷雨など、不安を引き起こす状況で使用できます。日常的に不安を抱えている犬猫には、通常は SSRI と組み合わせて使用します。
不安症候群に使われるサプリメント
サプリメントとして、ジルケーンやカーミングケアが使えます。
そのほか
海外薬になりますが、アダプティル(Adaptil)は、猫のフェリウェイのような使い方をするフェロモン薬です。
被害を防ぐためにすぐにできること
残念なことに、行動療法にしても、薬物療法にしても、今日明日のうちに犬の様子が改善されて、なんとかなるということはありません。治療の目標は、飼い主がいなくても快適に感じられるように犬を訓練することで、犬の不安レベルを軽減するにはかなり時間がかかるからです。
けれど、さしあたって、家具の倒壊や鳴き声に対処してやらないといけないほどの重度の分離不安症がある場合には、再訓練を行いつつも、なんとかしないと困ることもあるでしょう。その場合は、
・ドッグシッターを雇う、
・犬を職場に連れていく、
・一日犬の世話をしてくれる友人を見つける、
・一日付き添う、
・事を休む手配をする
などの方法を取らないといけないかもしれません。
クレート内に閉じ込めておく方法は、すでに閉じ込められることに慣れているエリアがある犬、しっかりとクレートトレーニングされている犬には効果があるかもしれませんが、分離不安症があるたいていの犬は、クレートに入れてもゲージの扉をガシガシ脚で掻いて脱走を試みようとするし、これは犬の爪や指がけがしてしまう可能性があるので、おすすめできません。むしろ犬の不安をさらに増やさない部屋やエリアを選ぶことが重要です。いつも犬が寝ている部屋や餌が置いてある部屋が最も実用的かもしれません。
次回は、ボンドトレーニングについて、そして分離不安症を予防するためにできること(子犬と高齢犬について)をお話しします。
犬の分離不安症についてお話ししています。今回は行動修正による治療について。
分離不安の治療目標
分離不安のある犬を治療する場合、犬が一人になることを楽しめるようにすること(少なくともひとりでも我慢していられること)を犬に教えることが最初の目標になります。これは犬の根本的な不安を解決することでかないます。
犬の環境を整える~これをすると犬が変わる
1. 犬の生活の時間割をつくる
一日のルーチンを犬にわかりやすくすることから始めます。あらかじめ分かっていることが発生するのは、最も不安が少ないからです。飼い主さんと一緒にアクティブに過ごすこと(散歩、しつけ、遊び)やほかのできごと(食事、排泄)を行うのはいつなのか、フリーでまったりすること(昼寝、好きなおもちゃで遊んだりする)は1日のうちのどの時間帯かを犬が予測できるようにするのです。それには毎日の日課を決めて、できるだけそれに沿って実行していきます。
2. 犬のニーズを満たす
毎日たくさんの運動をするようにしてください。疲れるくらい遊んでもらっている犬は、充実していて、飼い主さんから離れるときのストレスが少ないです。
犬の精神を充実させることも重要です。ゲームをして遊びます。「持って来い」遊びは、身体も心も動かせる効果的な遊びです。知育玩具を使う遊びは頭のトレーニングに向いています。頭を働かせることは精神の充実につながります。体だけでなく心も鍛えましょう。ひとり遊びができる知育玩具は飼い主さんがいない間も犬が忙しく、幸せに過ごすことができます。
3. 静かな行動を取ったときにほめてやる
犬が分離不安を抱えている場合、犬が一番喜ぶご褒美は、食べるおやつではなくて飼い主さんからの注目や飼い主さんと一緒にする遊びになります。
分離不安がある場合は、犬が落ち着き、リラックスし、ある程度の自立性を示すように訓練する必要があります。犬が注意を求め、それに飼い主さんが従うという行動パターンは強化してはいけません。例えば、犬が吠えたときに⇒静かになるように声をかける⇒反応して犬のそばに行く⇒静かになるようにおやつを与える、という行動はやってはいけない反応です。要求のためのごそごそした動的な状態のときはスルーして、静かに落ち着いたら相手をしてやります。
再訓練のポイント~学ぶべき行動と強化してはいけない行動の区別をする
トレーニングでは、指示に従って犬のマットに移動すること、そして長時間リラックスして伏せていられることに重点を置いてください。犬がかまってほしい場合は、犬が落ち着くまで完全に無視するか、伏せをさせるかマットに行かせます。伏せまたはマット上で十分な時間を過ごした後、ご褒美として「いいこいいこ」でゆっくり撫でてください。徐々に指示しなくてもそのままじっとしていられる時間が長くなるようにします。動いている犬を無視することではなく、注目を集める行動を無視します。ここでは、穏やかで静かな行動が注意を引く唯一の方法であることを犬に学ばせたいのです。いくつかのポイントをまとめます。
1.注目を集める行動には無視をする
注目して欲しいために吠えるようであれば無視します。
2.動きを止めるコマンドを使う
「すわれ/まて」などの服従訓練を落ち着いてできるときにごほうびを使って褒めます。ゆったりと、ゆっくりと行動できていけるようにします。飼い主さんが「こうして欲しい」という行動に近い行動がとれたら褒めて、そのような行動を伸ばしていきます。
3.おやつを仕込んだおもちゃを使う
その場で集中して遊ぶことの強化には、フードを中に入れたゴム製のおもちゃが適しています。
4.遊びをルーチンにする
遊びやしつけ、散歩、リラックスタイムを一日の日課の中で繰り返していきます。「今日だけやりました」はいけません。毎日のこの時間帯には必ず遊ぶことにすると、犬もそれに従ってアクティブに遊べます。
5.ひとりで遊ぶ場所を決める
犬がひとりで昼寝をしたりおもちゃで遊んだり、リラックスする場所を確立します。お遊びマットのエリアを作るのもいいし、クレートも適しています。クレートトレーニングを再学習させる必要がある場合は、基本からやり直してください。
犬の不安を軽減するための具体的な方法
飼い主さんが外出する前、帰ってきた時の振る舞いで、犬の不安が増したり減ったりします。問題が軽い場合は以下のことを実行するだけで十分に対応ができるようになります。もし、問題が深刻になっている場合は、これだけでは不十分で、家族が家にいる間に、徐々に離れている時間を長く取っていく訓練(減感作療法)を学ばせる必要があります。ここでは軽度から中等度の分離不安症の治療になることをお伝えします。
1.外出前にすべきこと
長時間の外出の前には、活発な遊びや運動を行ってください。これは、犬のエネルギーをいくらか減らして疲れさせるのに役立つだけでなく、一定の注意力を与えることにもなります。散歩だけでなくトレーニングセッションも有効です。
ラジオ、テレビ、またはビデオを流しながら犬をリラックスできる場所に連れて行ってあげます。犬の視界が飼い主さんに届かないうちに出発の準備をします。
この時点で、出かける前と留守中に犬が気を紛らわすことができるように、夢中になれるおもちゃを犬に与えます。どんな物がお気に入りになるのかを判断し、犬の注意を引きつけるのに効果的だと分かった物を2つとか3つ用意し、あまり関心が持てないおもちゃは使いません。
*特別なおやつの例:チューブフィーディング用のフードまたはふやかしたフードを練り込んだ犬用おもちゃ(コング)、ドッグフードを詰めた犬用おもちゃ(転がすとフードがこぼれ出てくるタイプの)、またはふやかしたフードを凍らせた塊。
もっと重要なのは、お出かけのサインを犬に悟られないようにすることです。外出に関連する行動(歯磨きをする、化粧をする、ジャケットを羽織る、書類をそろえる、財布やスマホを外出用の鞄に入れる、鍵の音をさせるなど)はすべて、犬の目の届かないところで(音も立てないように、できれば匂いも最小限で)やります。車の中で着替えたり、前夜のうちに書類を準備して鞄に詰めておいてください。
それから飼い主さんが着ていたTシャツなど、匂いが残っている物を部屋に出して置きます。
「行ってきます」のあいさつをしないで出かけるのはとても重要なことです。「行ってきます」は明らかな外出のサインになるからです。他の全ての外出行動を隠密にしようとしているのに、別れを告げてはいけません。
出かけるときにテレビなどの音源を着けたままにして出かけます。部屋の明かりもそのままにしておきます。
2.帰宅時にすべきこと
外出中に家の中がぐちゃぐちゃになっていても大声を上げないでください。それから犬を叱らないでください。叱るとこの先の外出の事態をさらに悪化させる可能性があります。
興奮した「ただいま」の挨拶もしないでください。
帰宅時は、犬が落ち着くまで無視してください(これには 10 ~ 15 分かかる場合があります)。早く落ち着いたほうが早く飼い主さんの注意を引くことができることを学びます。(可能であれば)玄関ではなく裏口から静かに入ってみてください。そのときに犬が落ち着いているか眠っている場合は、しずかにご褒美を与えます。
行動修正のまとめ
1.身体を使ってしっかり運動をさせる(アクティブに!)
2.生活の中で遊びタイムをあえて作り、メリハリのある日課にする(スケジュールを立てる)
3.外出時と帰宅時はしずかに(大げさに挨拶をしない)
4.犬がリラックスしているときにほめる(ひとりで過ごすことができることを強化する)
5.パズルおもちゃを提供する(精神的な健康)
次回はお薬を使った治療のことを少しお話しします。
犬の分離不安症について
はじめに
分離不安は、犬が飼い主から離れると不安になり、一人で家にいるとリラックスできない状況です。分離不安になっている犬の多くは、家にいるときも、飼い主さんの後を追いかけ回しています。そして飼い主さんがお出かけの準備を始めたと分かると不安になりはじめます。飼い主さんが外出している間は不安行動を続け、飼い主さんが戻ってくると大げさに歓迎します。
分離不安症に見られる不安行動
1.家族が家に居るとき
分離不安症になっている犬は、飼い主さんに過度に執着しています。まるでストーカーのようです。一人で居られないので、トイレやバスルームにもついてきます。ドアが閉められると、じっと座ってドアが開くのを待っています。夜寝るときも離れたくない様子が見られます。別のところで寝ている場合、深夜目覚めたときに犬からの視線を強く感じるかもしれません。飼い主さんからのスキンシップや関心を強く求めています。
2.出かける支度を始めると
飼い主さんがお出かけの準備を始めるとすぐに、飼い主さんの外出行動を察して、不安を示し始めます。そわそわ動き回ったり、よだれを垂らしたり、吠えたりします。悲しそうな顔をする犬もいます。
3.留守中に発生すること
飼い主さんが出かけてしまうと、極度に不安になり、不安行動の強度が増します。吠える、遠吠えをする、出入り口の扉や床を掘る、扉や窓を壊す、家具の脚をかじる(壊す)、クッションやソファをかじって中身を出す、家を汚す(不適切な場所で排泄)などの行動を示します。一人にされたときに閉じ込められた場所から逃げようとして、ドアや窓を掘ったり噛んだりなどの破壊行動をとります。これを留守の間ずっとしているので、歯が折れたり、爪が折れたり、足を擦ったりして身体が傷ついていることがあります(帰宅時の惨状で発見できます)。
行動をアクティブにすることもありますが、静かな不安症状を示す犬も居ます。その場合、震えたり、よだれを垂らしたり、食事を全く食べず、静かになって部屋の隅に引きこもっていたりします。
通常、こうした行為は飼い主さんが離れると必ず発生するのですが、仕事に出るときにかぎってとか、仕事から帰ってきてもう一度外出するときなど、特定の時にだけ発生することがあります。
4.家族が戻ってきたとき
飼い主さんが戻ってくると非常に興奮し、もう何年も会っていなかったかのように大喜びし、うれしそうにはしゃぎます。
5.勘違いをしてはいけない
たいていの分離不安行動は人から見ると「問題行動」になりますが、犬からすると苦痛のために起こしている行動です。結果として「いたずらをしたような悪い行動」であっても、「不安のために取った行動」です。
そして帰宅時の喜んでお迎えしてくれる行動は飼い主さんからすると「問題行動」には見えず、かえって「うれしい行動」のように勘違いしてしまいがちなので、この点には注意が必要です。
分離不安が発症する原因
分離不安が発症する原因はいくつか考えられます。
犬が成長し、飼い主さんへの愛着が増すにつれて問題が発生することがあります。高齢になって不安が増してくる場合もあります。聴力や視力の喪失、痛みを伴う症状、認知機能障害などの問題を抱えた老犬は、不安が大きくなり、安心を求めて飼い主さんの注意を求めることがあります。
他のケースでは、犬にとって苦痛になる家庭内の変化が考えられます。家族の誰かが引っ越したとか、長期入院や亡くなったというような場合です。家族(たいていは最も長く家に一緒に居た人)の働き方に変化が有り、ひとりでいる時間帯が延長されたなどのケースでも分離不安症は発生します。また犬も含めて新しい家に引っ越しをし、新しい環境にうまくなじめない段階も不安になります。
犬が一人で家にいたときに不安を引き起こすような出来事を経験した、というのも分離不安の引き金になります。留守中に近所で工事が始まった、激しい雷雨を経験した、花火の音を近くで聞いた、近くに救急車やパトカーがサイレンを鳴らしながらやってきたなどのようなことが考えられます。これは飼い主さんが知ることができない情報かもしれません。
分離不安による行動ではないかもしれない
分離不安のある犬は飼い主さんが居ない留守の間にこのような吠えや破壊行動や排泄行動をおこしますが、分離不安症でなくてもこのような行動をとることがあります。治療前には、他の原因も考えなくてはいけません。
1.医学的問題は除外しておく
・病気のためのお漏らしではないか
屋内での排尿は、尿漏れが原因になっている可能性もあります。尿路感染症、加齢による括約筋の減弱、膀胱結石、糖尿病、腎臓病、クッシング症候群、神経系の問題、生殖器の異常など、尿漏れの可能性がある獣医学的な問題はいろいろ存在します。分離不安に対する行動療法を試みる前に、病気ではないかどうかを確認する必要があります。
・頻尿を発症させる薬を服用していないか
頻尿を起こす可能性のある薬もあります。犬が薬を服用している場合は、薬のせいでトイレが間に合わなかった可能性も考えます。
2.排尿に関する問題行動も検討する
・従順性のおもらし
犬によっては、挨拶している途中、遊びに夢中になっているとき、スキンシップして貰いながら、排尿してしまうことがあります。「うれしょん」といわれている行動です。このような犬は叱られているときに排尿することもあります。このとき犬は尻尾を低く保持したり、耳を頭の後ろに平らにしたり、しゃがんだり転がったりしてお腹を露出したりするなど、従順な姿勢を示す傾向があります。
・不完全なトイレトレーニング
トイレトレーニングが完全に完了していない可能性もあります。トイレのしつけに一貫性がなかったか、飼い主さんが見ているときや近くにいるときに排泄することを恐れるような罰が含まれていたような場合があります。
・尿マーキング
匂いをマーキングするために家の中で排尿する犬もいます。マーキングをする場合、ほとんどの雄犬は足を上げて排尿します。
3.分離不安症以外の破壊行動も除外する
・退屈による破壊行動
若い犬は体力が余っていて、飼い主さんが家にいるときも、いないときも、破壊的に噛んだり穴を掘ったりします。飼い主さんが家を離れる期間が長引いたときだけ破壊行動が起こる場合は、放置時間が長すぎる可能性があります。暇をもてあました結果の「いたずら行動」です。犬には精神的な刺激が必要で、退屈して何かすることを探しているため、放っておかれると悪いことを始めます。こういう犬は通常、不安を感じているようには見えません。
・閉鎖に対する恐怖
閉じ込められるのが苦手な犬もいます。極度に不安になり、逃げようとします。犬がクレートに閉じ込められたときに破壊的行為をしたり家を汚したりするのは、「閉じ込めへの不安」とそれに伴う脱出の試みが原因である可能性があります。つまりクレートトレーニングが完了していないことが原因です。
・過剰な吠えや遠吠え
見慣れない光景や音など、環境内のさまざまな要因に反応して吠えたり、遠吠えする犬もいます。飼い主がいないときに、見知らぬ人が訪ねてきたとか、窓から見えた他の動物に対して吠えているのかもしれません。この場合、飼い主さんが家にいるときにも鳴きます。
動画で留守中の犬を撮影してみましょう
飼い主さんが家にいないときに、どのような行動をするのかを確認するのに録画撮影は便利です。動画を見ると、例えば外部の出来事(建設、嵐、花火)による恐怖や不安が破壊的な行動を引き起こしていたのが分かるかもしれません。
当てはまることがあったでしょうか。次回は行動による治療についてお話しします。わずかなトレーニングで犬は変わることがあります。(軽度からせいぜい中等度の分離不安症までに適応する治療です)