猫の高血圧性眼症

 猫の腎臓病に関連して、また甲状腺機能亢進症に併発して、全身性の高血圧症が発症することがあります。猫の高血圧症は比較的一般的なことです。腎臓病が悪化すると高血圧になるというのではなくて、高血圧症になる猫と、そうでない猫がいるようです。(遺伝子検査が普及すると、高血圧症になるタイプとそうでないタイプを発症前に発見することができるようになるかもしれません。)

今日は「猫の全身性高血圧症」と高血圧症に併発して発生する(かもしれない)「高血圧性眼症」についてお話しします。

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腎臓と甲状腺のある位置はココです。

<猫の高血圧症>

猫の動脈血圧が正常よりも連続的に高い場合、「高血圧症」(Hypertensionhigh-blood-pressure)と呼びます。全身性の高血圧症です。ヒトで見られる「原発性高血圧症」は猫ではあまり見られません。別の病気によって引き起こされる「二次的な高血圧症」がほとんどです。(80%は二次性に分類されます。)元の病気としては腎臓病、甲状腺機能亢進症が一般的で、糖尿病も関連があります。また高齢に伴って高血圧のリスクは高まります。

いろいろな研究報告があり、「慢性腎臓病の猫の65%、甲状腺機能亢進症の猫の87%に高血圧症が認められ、年齢の幅としては4歳から20歳」というものです。これからすると「うちの猫」が高血圧症になる確率も結構高く、他人ごとではないかもしれません。

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こんな風にカフを腕に巻きます。

<血圧を測定する>

猫も人と同じように血圧を測定します。心臓が鼓動するときに動脈に圧力がかかります。収縮期と拡張期の2点を記録します。人で12080mmHgなどと示されますが、猫も同様です。ただ、猫の正常値は人の正常値よりも高いです。

血圧を測るときは尻尾か足にカフを巻きます。正確に測定するために、安定した状態で5回かそれ以上測定します。はじめの測定値をカットしたり、途中の興奮度合いなども考慮して、さらに測定を繰り返すなどして数回分の安定値を採択します。落ち着かない日はパスし、測定値にあげないこともあります。

いわゆる「ホワイトコート症候群」(「白衣症候群」、「白衣性高血圧」と呼ばれることもあります。病院に来て白衣を着ている医師や看護師を見るだけで血圧が上がってしまうという現象が猫にもおこります。)による影響を避けるため、猫が検査環境に慣れるように、何度もトライします。

高血圧症であると診断するのには、安定した条件下で複数回(別の日という意味です)測定した結果が必要です。

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<測定値の判断>

国際獣医腎臓病研究グループ(International Renal Interest Society : IRIS)は、高血圧症の身体への影響(リスク)と治療の必要度に応じて、血圧の数値をいくつかのグレードに分けています。

正常と判断する・・・150/95以下

ボーダーライン・・・150/95から159/99

中等度高血圧・・・・160/100から179/119

重度の高血圧・・・・180/120を越える

中等度高血圧以上の場合は治療が推奨されています。ボーダーライン上の血圧値である場合、治療の是非はまだ意見が分かれています。

 

<高血圧症が影響を及ぼす器官>

高血圧は、心臓や神経系(脳)、眼、腎臓など、猫の身体の多くの器官に影響を与えます。

高血圧が持続的に長期間作用した場合、心臓の左心室が肥大を起こします。心臓に栄養を送る冠状動脈が閉塞を起こしたり、動脈硬化などの血管障害を起こすと心臓は急激に弱ります。

高血圧性脳症は高血圧による血管への影響で、物静かになったり、ぐたっと力が抜けたようになったり、意識障害を起こしたりします。重度の高血圧症で脳出血が発生すると昏睡や突然死を起こすこともあります。

眼は見かけによらず血流が多く、特に障害を受けやすい組織です。明るい部屋にいるのに左右とも瞳が大きくなっているとか、眼が赤くなっている、目が見えていないみたいなどの症状を現します。

腎臓は高血圧症によるダメージを最も受けやすいと同時に、高血圧症の発生や継続に根本的に関係しています。慢性腎臓病は持続性高血圧症の最も多い原因となっていますが、血圧が上昇すると腎臓のネフロンを壊し、腎臓病を進行させることになります。互いに悪い方への影響を強く及ぼし合っています。

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赤いラインで示した部分が網膜と視神経です。

<血圧が上昇したときの眼への影響>

高血圧と眼の症状について、もう少し加えておきます。

眼には細い動脈がたくさん分布しています。高血圧は小さな網膜の動脈(網膜に栄養を供給している血管)の損傷を引き起こす可能性があります。血管が損傷すると血管から血液の液体成分や赤血が漏れ出てきます。網膜は水気を帯びて厚くなります(網膜浮腫です)。さらに血管から液体が漏れ出ると、網膜と網膜が付着していた外袋の間に液体が貯留し、はがれてきます(網膜剥離です)。網膜は入ってくる光線から明瞭な画像を作り出す仕事をしていますが、網膜浮腫や網膜剥離が発生すると画像はゆがんでぼやけてしまいます。剥がれる範囲が一部分から広範囲になり、視神経乳頭部に障害が及ぶと失明することになります。網膜剥離から視力喪失までは急速に進みます。

ひとまとめにすると「高血圧性眼症」ですが、

①高血圧性網膜症

②網膜剥離

③高血圧性視神経症

などが、単独でまたは併発で起こっています。

また血管は圧力がかかると破裂する可能性があり、眼の中で出血することがあります。

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目がまん丸に開いています。
明るい部屋でもこうなっているのは危険。

<高血圧性眼症を知るには>

眼は特殊な検査方法があります。

網膜とそれに付随する血管が安定しているかどうかは眼底検査により観察することができます。また光に対する反応もこれによって知ることができます。

眼圧の検査も役に立ちます。眼に出血があると見えないので、眼の奥(網膜)を観察できませんが、眼内圧が上昇します。

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目の奥を特殊な機械で覗いて網膜を観察します。

<高血圧症の治療>

高血圧症と判断したら、降圧剤を処方します。

カルシウムチャンネルブロッカーと呼んでいるこの薬は、心筋と平滑筋にカルシウムが取り込まれるのを阻害し、心筋と血管の平滑筋がカルシウムに依存して収縮するのを妨げます。アムロジピンというお薬が一般的に使われています。血圧降下に良く効くお薬です。用量の調整をするため、はじめは短い期間で何度か来院してもらい、そのたびに血圧測定を行います。

アムロジピンと併行して、アンギオテンシン変換酵素阻害薬(ACE-Iangiotensin converting enzyme inhibitor)であるベナゼプリルか、またはアンギオテンシン受容体阻害薬(ARBangiotensin receptor blocking)であるテルミサルタンをのんでもらうこともあります。血管の収縮や末梢血管抵抗、アルドステロン分布を減少させて血圧を降下させます。

腎臓の機能が落ちている動物に投与すると、急に代償機能が衰え一時的な高窒素血症をもたらすことがあるので、投与開始には注意深く観察し、必ず血液検査を受けていただいています。

目標は収縮期血圧を160mmHg以下にすること。できれば140mmHg前後にしたいです。特に200mmHgを越えるようなときは、眼に異常をもたらす危険性が高まるので早く治療を始めたいです。もし網膜が剥離を始めてもその時間が短ければ視覚の回復が見込めるといわれています。

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k/dはおすすめの腎臓のための療法食です。

<高血圧の食事療法>

食事中の塩分制限は抗高血圧治療になります。けれど、食事療法だけでは血圧が明らかに低下するほどにはなりません。それでもナトリウムは血液中に水分を保持させ、全体の血液量を増やすので血圧を高めてしまいますから、低ナトリウム食がおすすめです。療法食では「腎臓病用」が第一選択になりますが、一般食だと「シニア食」です。「シニア食」はほかの食事よりもナトリウムが低めになっています。

もし、これまでに割とナトリウムが高めの食事を摂取していたとしたら、急な変更はさけ、1週間から2週間、場合によっては1か月くらいかかってもよいので、ゆっくりと低ナトリウム食に変更するようにしてください。

 

<目薬で治る?>

高血圧性眼症は残念ながら点眼液で治療しても改善されません。

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にゃんこのグッドビジョンを守ってあげて。

<高血圧眼症を防ぐ>

高齢になったら腎臓病や甲状腺機能亢進症を早期に知るため、定期的に健康診断を受けてください。

②健康診断では血液検査だけのコースを選ばず、血圧測定や尿検査の含まれたコースを選んでください。

③もし腎臓病を発症していると分かったらフォローアップ検査も積極的に受けてください。

④高血圧症と診断されたら、処方されたお薬を確実に投与してください。

⑤お薬処方を受けるだけだと分かっていても、必ず診察を受けに来てください。眼を含めた全身の身体チェックをすることができます。

このようなことで高血圧症が早期に診断され管理されるため、ある日突然眼が赤くなった、目が見えなくなったという事態を回避することができると思います。

 

 

9月最終の日曜日は(今年は24日ですけれど、毎年日が変わります)「網膜の日」です。私たち「見えなくなったら困るなぁ」と思いつつ、目をいたわることすら無く、それどころか酷使しながら毎日を過ごしていますよね。自分の一部ですが大切にしてやらないといけません。同じように大切な愛猫の眼も大切にしたいです。猫さんがいつまでも大好きなあなたのお顔を判断することができますように。
猫の全身性高血圧症からくる網膜の病気についてお話ししました。

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認知機能障害・2

 認知機能障害についてのお話し、続きです。

治療が可能なのかどうか、もしできるとしたらどんな治療法があるのか、という点をお話しします。

 

<治療が可能でしょうか>

愛犬が認知能力を失うのを見るのは悲しく、ときには邪魔になると感じてしまう飼い主さんもいるかもしれません。(大丈夫。あなただけのことではありません。)けれど失った機能を改善し、生活の質を向上させるためにできることがあります。早期に気づくことができれば、早期に介入することができ、症状の進行はより穏やかになります。「プロセスを止めることはできないけれど、1つの問題から3つの問題に移行しないように処理を遅くすることは可能」なわけです。

高齢動物ができるだけ長い間脳の機能を維持し、認知機能低下の発症と進行を遅らせるのを助けるためにできることはたくさんあります。

 

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<環境エンリッチメント>

「環境エンリッチメント」というのは動物の健康のために飼育環境に変化を与えること、飼育動物に刺激を与え動物の望ましい行動を引き出すことなどをいいます。本来の環境ではないところで飼育されている動物園動物などに、動物の福祉の観点から使われることが多いです。

この範疇に入る生活改善的要素の濃い治療法については、遊びや適度な刺激で脳を活性化できるようにすること、十分な休息が取れるようにすること、排泄問題の解決に結びつくことの3つを提案したいと思います。

①おもちゃ

知育玩具と呼ばれる犬のおもちゃの中には、食べ物のパズルのようなものがあり、脳を刺激します。工夫しないと食べられないおもちゃを食事に利用すると、脳は活動的な状態に保たれるようです。

猫の場合も同じで、とにかく屋内環境を豊かにする創造的な方法を考えてください。

②屋外遊び

定期的に屋外で遊ぶことも犬の脳を刺激し、学習や記憶能力を向上させることができます。年齢や体調に適した定期的な運動は、高齢動物の身体と心を活発に保てます。もし心臓病や関節疾患などで運動の制限を受けていないのであれば、リードをつけて、他の犬や人と交流する機会が得られる公園に連れて行ってください。身体的、精神的に活発な状態に保つことによって、劣化を遅らせることができます。

③安眠できる部屋

静かで暗く快適温度の部屋が必要です。暑いのは人でも寝苦しく、夜間に覚醒します。

④快適なベッド

ふわふわすぎる布団は足腰が弱ってきた犬が立ち上がるのに無理があります。ある程度の固さが残る体重分散型のマットレスが高齢犬用に開発されています。病院でもご紹介しています。

⑤エンドレスサークル

行ったり来たり、ぐるぐる回る運動を延々と続ける場合、タンスやソファの隙間に入って出られなくなり鳴き出す場合などに有効なのは、円形のサークルです。そのまま疲れて動きを止めて眠っても良いように、床には滑りにくいマットを敷いたり、その上をペットシーツで敷き詰めたりします。

⑥トイレに誘う

ある程度の時間が来たら、排泄場所に連れて行きます。屋外のこともあるでしょうし、屋内のペットトイレのこともあるでしょう。

⑦トイレ環境

トイレ場所に行くまでが困難になってきている場合は、あらためて近いところ、利用しやすいところにトイレを近づける方法で改善されることがあります。

⑧おむつ

排泄のための再訓練は困難なことが多く、管理できなくなってくるとおむつをかけることが普通になっているようですが、意識的な随意排泄ができる段階では、狭いエリアでのペットシーツ敷き詰め生活をおすすめします。どうしてもおむつは身体的な拘束がかかり、歩行しにくくなるからです。運動は脳の血行を促進するため認知機能を維持させることができます。歩行しやすいかたちを取らせてやりたいです。

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<行動学的エンリッチメント>

行動学的な言葉で「行動修正療法」というのがあります。行動療法とも呼ばれます。これは問題行動を望ましい行動に変える、改善プログラムのようなものです。

昼間、積極的に活動させると、夜間の睡眠時間を増やすことができます。脳に刺激を与えるところがポイントです。

①運動

規則的な運動や散歩、そこまで行かなくても、人でいったら「体操」程度の軽い運動などで筋肉を動かすことは血行を改善させ、脳の血液循環を良くします。とにかく身体を動かすことです。必ずしも屋外に散歩に出るということではありません。屋内で追いかけっこしたり、さらに高齢になっているときにはマッサージするだけでも良いです。ハイドロセラピーや温熱療法などのお金をかける治療もありますが、家庭でもできることは身体的な運動です。

②遊び

おもちゃを使った遊び、ことに初めてのおもちゃで考えさせるおもちゃを与えるのは脳に効果があります。またご褒美を使ったトレーニングも脳に刺激を与えます。子犬の頃学習したことを忘れないようにする繰り返し学習も効果的です。

③社会的関わり

人や他の犬と関わるのも相互反応に変化がもたらされます。積極的にコミュニケーションさせてください。

④新しいもの

何でも「はじめて!」の経験は脳を刺激します。新しいおもちゃ、はじめて食べるもの、はじめて通る道、はじめて行く所には新たな刺激が沢山あります。小さい子どもの「はじめて」の経験は、脳が疲れてその晩はよく眠るわけですが、それを老犬にも応用してみます。

⑤屋外の空気

散歩や連れ出し(犬が歩かず人がだっこや乳母車で出かける散歩)には視覚的な刺激や聴覚、嗅覚などの刺激もあり、太陽光を当てることができます。

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<サプリメント>

はじめに犬や猫が服用している薬を見直します。高齢動物は、若い動物とは違った代謝になります。犬や猫が何らかの薬を何年も飲んでいると、年を取るにつれて効果が異なってくる可能性があります。あらためて薬を処方し直します。

サプリメントを紹介します。

SAMeS-アデノシルメチオニン)

脳機能の衰えを止めたり改善したりするのに安全で効果的です。もしこれまでにも投与していたのであれば引き続き与えてください。

②中鎖脂肪酸(MCT-オイル)

脳のエネルギー代謝を改善し、高齢のペットに脳損傷をもたらすアミロイドタンパク質の蓄積を減少させることが示されています。 ココナッツオイルがMCTの豊富な供給源です。

DHAEPA

神経細胞膜を安定化させます。セロトニン作用を強め、認知力や記憶力、活動性の向上が期待されます。セロトニンには体内時計の調整作用、覚醒作用、抗不安作用などがあります。

④フォスファチジルセリン

細胞膜を形成するリン脂質(レシチン)の一種です。脳内の情報伝達や脳細胞の活性化に効果があります。

⑤α-カソゼピン

GABA様作用です。不安反応を抑制します。攻撃性のある場合、静穏になる作用を期待して使います。このサプリメントだけを使うことはありません。

⑥抗酸化剤(フラボノイド、αトコフェノール、L-カルニチン、ビタミンCなど)

フリーラジカルによる損傷を防ぐものです。年齢関連の認知障害を抑制することができます。

⑦合成メラトニン

メラトニンの補充をします。睡眠と覚醒のサイクルを正常化するのを期待して使われます。

高齢の犬は夜間に睡眠障害を起こすことがあります。昼夜通して眠りがちですが、一晩中目を覚まし、徘徊したり、夜鳴きを起こしたりします。心配や不快を感じています。そのため、神経細胞を活性化させる物質の他、落ち着かせる効果を持つもの、抗酸化作用があるもの、睡眠に関係するメラトニンなどがあります。脳に良いとされるサプリメントは多数出回っています。それぞれに犬の認知

機能の減退を遅らせるのに役立つだろうと思いますが、薬局やネットで探し出して購入する前にご相談いただけると良いかと思います。

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<最適な食事>

犬の環境を豊かにする努力に加え、認知症予防に配慮した食事を組み合わせることは、認知力向上のための最大のチャンスを提供すると言われています。

犬も猫も、年齢に応じて、最適な食事があります。それは良好な健康と活力の基礎になります。特定の犬用療法食は、認知機能障害を緩和するために配合されています。これは細胞の健康を促進し強化するもので、たいてい抗酸化物質と認知症の健康管理に重要なオメガ3脂肪酸が含まれています。また一般食でも、シニア動物用の食事にはオメガ3必須脂肪が含まれているものがあります。

動物の身体は、代謝、成長および治癒の過程を促進するために理想的なバランスがとれたエネルギー源を必要としています。高齢の動物に適した食事は、生き生きとした動物の健康の源になります。

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<定期検診>

高齢になってからは、年に2回の検査を受けると良いと思います。そうすれば、認知機能障害の問題点を早く知ることができ、またそれに対する治療をはじめることができるからです。身体的な問題の発見と同じくらい、認知機能障害の早期発見は大切です。

環境のこと、行動修正のこと、食事やサプリメントのことなどの推奨事項をお話ししてきましたが、これらのどれも、認知機能低下がかなり進んだ段階では、非常に役立つものではありません。できるだけ早期に問題を診断し治療を開始することが非常に重要です。

家にいるときに気づいた問題や観察点で疑問に思うこと、質問したいことなどをメモしておいて、病院にお越しください。診察室に入るとつい忘れてしまうのが常ですものね。

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<まとめ>

そのほかにも健康への配慮が必要です。

高齢動物は健康的なサイズに保たせましょう。太りすぎの犬や猫は、年を取るにつれて病気のリスクがかなり高くなります。

さらに動物の歯の健康を維持するのも大切です。

認知機能障害のときに使われるお薬もいくつかあります。向精神薬に分類されるお薬です。進行を抑制する薬や不都合な症状に対する対症療法の薬があります。介護されるご家族の精神的な健康も大切です。どうにもこうにも困って、愛犬のことをキライになってしまいそうになる前に、ぜひご相談にお越しください。

認知機能障害は治癒できない進行性の病気ですが、早期の診断と介入は脳の衰えを遅らせ、老化したペットに良質の生活を提供することができます。

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時間には限りがありますね。



 

<おわりに>

918日は敬老の日ですね。愛犬にも愛猫にも、ずっと元気で長生きして貰いたいです。

日野原先生がおっしゃるには「いのちは時間」ということです。大切な家族と過ごす時間、そのものの積み重ねこそが「いのち」なのかもしれません。「命が大切」ということは「一緒に過ごす時間そのものが大切」なのですよね。たくさんの楽しい思い出を作っていきたいです。残りがあと少しになってしまったときに慌てないようにするためにも。

10歳の子ども向けに書かれた本、また幼稚園生にもわかるように書かれた絵本も待合室に置いておきます。子どもだけが読むなんてもったいないです。大人でも涙するくらいに読める本です。お時間のあるときにお手に取ってみてはいかがでしょうか。

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認知機能障害・1

 今日は、動物の認知機能障害についておはなしします。

 

<認知機能障害>

残念なことに、人と同様、犬や猫も、認知機能障害症候群として知られる脳疾患を発症します。けれど人と違って、脳機能が衰えているという徴候は、状態が進むまで気づかれません。それで病気の進行を遅らせるために環境を整えてもらったり、薬の投与をしてもらっていることはほとんどありません。

愛犬がおもちゃで遊ばなくなったり、家族が帰宅したときに玄関にお迎えに行かなくなったり、毎日の散歩ルートを忘れてしまったりした場合、犬の認知機能障害(Cognitive dysfunction syndrome : CDS)、または犬の認知機能低下症になっている可能性があります。

犬の認知機能障害は、脳機能の低下です。 研究によると、認知機能障害の徴候は、

12歳で発生率が増加し、

1214歳の犬で15%くらいが、

14~16歳の犬で30%くらいが、

16歳以上の犬では60%くらいが発生している

ことが示唆されています。これは少なくとも1つ以上の症状を出しているということです。年齢とともに認知機能障害のリスクが高まります。

猫の場合、2011年に猫の認知機能低下について発表した研究で、11歳から14歳までのすべての猫の3分の1が加齢関連の認知低下を起こしていると推定しています。 15歳以上の猫の場合、この数字は50%に増加します。

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認知機能障害のことを掲示板に貼りました。
敬老の日がある9月はずっとこのままの予定です。

 

<脳内に変化が起こる>

愛犬・愛猫の脳機能の低下には物理的な原因があります

認知機能障害は行動学的な問題として提示されますが、根本的な原因は物理的なもので、年齢に関連した脳内の変化の結果です。犬と猫の脳は同様に老化し、神経細胞の変性や喪失、脳血管の硬化、β-アミロイド斑の発生などを起こしています。また神経伝達物質も減少しています。

β-アミロイド斑は、人のアルツハイマー病患者にも見られるものです。Nicholas Dodman先生によると、「正常な老化」というものが存在するそうです。 認知機能のいくつかは年齢と共に減少していくのですが、アルツハイマー病に見られるタイプの認知機能障害は正常ではないそうです。つまり、老化という自然現象ではなくて、ひとつの病気であるという解釈です。β-アミロイド斑は脳の前頭葉に蓄積され、それは最終的に脳の他の領域に広がります。前頭葉は記憶や学習、感覚情報を制御するところで、ここが侵されると記憶をなくしたり、方向を失い、空間認識を欠いたり、運動機能に問題を起こします。それから視力や聴覚、学習した行動にも影響が出てきます。

犬の認知機能障害は多くの点でヒトのアルツハイマー病に類似していますが、人のアルツハイマー病とまったく同じではありません。また今のところ、犬ではアルツハイマー病という分類はありません。現段階では認知機能障害そのものを犬では分類できていません。

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<まずは飼い主さんの認識から>

ほとんどの犬は、品種に関係なく、年齢を重ねるにつれて何らかの形の認知機能障害を経験します。ご家族の多くは、私たち獣医師が「行動学的に問題があるな」と考えるものを、認知機能障害のひとつの症状とは思っていなくて、「歳のせいだよね」と軽く流しています。まずは病院でいつもの様子を話していただくといいと思います。

近頃の「ボールを追いかけなくなった」という行動が、「関節炎を患っていて痛いから動かない」のか、「もうボールに興味がない」のか、または「ボールに気を払えない状態になっている」のか、というような身体の問題と脳の問題を区別し、改善できることがらであれば積極的にトライしていくことが大切かと思います。

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<診断と検査>

認知機能障害のいくつかの症状は、変形性関節症、糖尿病、腫瘍、高血圧症、甲状腺機能低下症、心臓病、腎臓病、それから聴覚および視力喪失などの他の年齢関連症状と重なります。さらに、分離不安症や痛みにより引き起こされた攻撃性行動、家庭での不十分なしつけの結果などの行動学的な問題も含まれてきます。これらの病気による症状ではないことを区別するため、お話しをていねいにうかがう必要があります。そして犬の症状に応じて、X線、血液検査 、尿検査 、また他の診断検査を行います。

でも、こうすることにはハードルがあります。高齢の動物はたいてい複数の病気を持っていて、それらの健康状態を管理しなければならないという現実があるのです。そのため行動学的な問題はどうしても後回しになってしまいます。飼い主さんが犬や猫の行動上に変化があると気付いたとしても、そのことを話し合うために新たな診察日を作ることは有りません。いつもの診察日にはいつもの病気に関する経過やその他のことについて話し合っていて、典型的な症状が訪れたときに「そういえば、、、」とお話しをいただいたとき、それは実はずいぶん前から起こっていたことだったということがあります。それは遅すぎるという印象を持つことが多いです。

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<認知機能障害の診断アンケート>

認知機能障害に関するアンケートがあります。チェックリスト、ですね。(アンケートは古すぎですか?)これが日常的に行われると、「遅かった!」という問題の改善に繋がるだろうと思います。

以前からご紹介しているのは、今は亡き内野先生が研究していらしたときの100点法の痴呆症の診断基準です。先生が研究していらしたときはまだ「認知症」とか「認知機能障害」という言葉ではなく「痴呆症」という名称が用いられていたため、「痴呆症の診断基準」になっています。(今後、内野先生の方式を改訂することにでもなったら名称が「認知機能障害の診断基準」に変更になるのかもしれません。)

当院でワクチンのDMに挟まれた「健康に関するチェックリスト」の一部にも行動に関する欄がありますが、国際的に用いられるようになってきているのがDISHAのチェックリストです。DISHAのチェックリストはもっと認知機能障害に結びつけやすいチェックリストです。15歳を越えた動物にはこちらへの記入もお願いすると良いのかもしれません。今後検討しますね。

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DISHA

DISHAの頭字語は認知機能障害に関連する顕著な兆候や変化を特徴付けることができるとされ、他の病気との鑑別診断にも用いられています。DISHAという用語は、

Disorientation:環境における見当識障害

Interaction: 人や他の動物への相互反応の変化

Sleep-wake cycles : 睡眠サイクルの乱れ

House soiling: 不適切な場所での排泄

Activity: 活動レベルの変化

などの症状を指します。

DISHAのチェックリストは、認知機能障害の指標として考えられていて、DISHAに該当する行動変化が増加すると認知機能障害の疑いが強くなります。 より多くの兆候と頻度が出るほど、問題の重要性が増しますが、 それぞれの兆候や症状が特定の段階を意味するものではありません。

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DISHAのチェックリスト>

犬の認知機能障害を示す可能性のある症状は次のとおりです。

D:見当識障害

飼い主さんが気づくかもしれない最も一般的なことの1つは、いつもの環境にいるときでも混乱してしまうということです。たとえば犬が部屋の外に出て行くとき、間違ったドアに向かって行くとか、ドア前でもドアの開かない方の側(蝶番の付いているところ)に行ってしまうようなことです。それから空間認識ができていないこともあります。ソファーの後ろをさまよって、自分がどこにいるか、出る方法がわからなくなってしまいます。また就寝時に自分のベッドで丸くなっていなくて、「居ないじゃない?!」と探してみると別の部屋で壁を見つめてぼーっとしていることがあるかもしれません。このようなことが見当識障害です。

I:相互反応の変化

犬の認知機能障害は、人や他の動物との相互作用に影響を与える可能性があります。ご近所で人気のあった社交的な犬も、気味の悪い行動をとったり、他の動物や子供たちのまわりをうろついたりします。大好きだったぬいぐるみやおもちゃを噛んでしまうかもしれません。それから家族が好きだった活動をしなくなることがあります。それぞれの家族のところに行ってはおねだりをするとか、おてんたらをすることがなくなります。(あ、おてんたらは方言だったようです。おべんちゃらです。あら?これも方言ですか?見え見えのゴマスリとか、お世辞みたいなかんじの言葉です。)玄関のチャイムが鳴ったときに訪問者に挨拶しに行かなくなるとか、チャイム音に無関心になったり、宅配便の人に吠えなくなるかもしれません。散歩に行くためのリードを見せても喜ばなくなったりします。自分の好きなクッキーが自分のものであることを認識できなくなることもあります。

S : 睡眠サイクルの変化

睡眠パターンの変化または生活リズムの混乱は、認知機能障害に関連する症状のひとつです。むしろ、これこそ認知機能障害として家族を困らせてしまう症状かもしれません。健全に眠るのが当たり前になっている犬は、今夜も健全に寝ることができます。多くの犬が通常のスケジュールを逆転させるので、昼間の活動が夜間の活動になります。この昼夜逆転現象は、ご家族に不満と疲れをもたらしてしまいます。

H : 不適切な場所での排泄(粗相)

犬の排尿または排便も認知機能障害を知ることができる一般的な方法です。この場合は、犬が自発的な排泄能力を無くしてしまったのか、排泄を知らせる能力が残っている可能性があるのか見極めるのが大切になります。検査をして膀胱感染、腎臓疾患、糖尿病などが存在しなければ通常は認知的な変化ということになります。

A : 活動性のレベルの変化

認知機能障害のある犬は、探索する欲求が減少し、その環境内にいる人や、そこにある物や音に対する反応が減少することがあります。 彼らが好きなおもちゃを取るため、「キュー」という音を出しても反応しなくなるかもしれません。 また集中力が弱く、刺激に対する反応も低下します。食べ物や水を見つけるのに困っている犬もいます。こうしたことは視力や聴覚に問題がなければ、認知機能障害を表しています。不安行動や同じことを何度も繰り返す反復運動をすることもあります。頭部の動き(ゆらゆら揺れているようなこと)、足の震え、サークル内を一定方向に歩き続けるなどの反復的な動きを示すことがあります。それまで静かだった犬が、過度に吠えるとか、何も起こっていない時に吠えるなども変化のひとつです。

 

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長くなりました。今日はここまでにして、次回は治療のことをお話ししようと思います。

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トキソプラズマのお話し

 先日、新しく猫を飼育始めた患者さんに「トキソプラズマ症」が心配であるとのご相談をお受けしました。トキソプラズマ症はこれからお母さんになろうという年齢の方には特に関心の高い人獣共通伝染病です。今日は「トキソプラズマ症」についてお話しします。

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感染性を持つ成熟オーシストを
経口摂取すると感染します。
そのほかシストやタキゾイトのかたちの
ものからも感染します。





<トキソプラズマは寄生虫>

トキソプラズマは猫を終宿主とする寄生虫で、犬や鳥に寄生するコクシジウムと同じ原虫の仲間です。おなかの寄生虫としてよく知られている「回虫」や「鉤虫」は線虫類で、腸管のなか(食べ物の通り道である管腔の中)にいますが、原虫は腸粘膜の細胞の中にいます。腸管をちくわに例えると、線虫類はちくわの輪っかの真ん中、チーズやキュウリを通す部分に住んでいます。原虫はちくわがチーズに接触する部分の、ちくわの表面だけどちくわそのものの中に住んでいます。線虫はミミズのようなかたちで目でも確認できますが、原虫は顕微鏡でなければ確認することはできません。細胞の中に入ってしまうくらいですので、すごく小さいです。そして、成長の過程でかたちが変わります。うんちの中に排泄されるときは「オーシスト」と呼ばれる小さな楕円型をしています。10×12㎛の大きさです。体内に入って急速増殖するときは「タキゾイト」と呼ばれるまが玉みたいなかたちです。2×6㎛の大きさです。増殖を中止し、ひとまず落ち着いてなりを潜めるときは「シスト」と呼ばれ、比較的大きな球の中に沢山の分子を蓄えたくす玉のようなかたちです。「オーシスト」「タキゾイト」「シスト」はそれぞれ増殖段階のステージ名になります。

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猫の体内では腸管だけでなく
他の臓器にも分布していきます。
 

<猫のトキソプラズマ症>

猫にトキソプラズマが感染していると、どのような症状が現れるのでしょうか。

ほぼ、無症状のことが多いです。虫自体は非常に小さく、また増殖する場所がさまざまな場所であるため、寄生場所により、寄生された猫の様子も異なります。そして寄生場所がいろいろあるので、猫がトキソプラズマに感染しているかどうかの検査方法は糞便検査だけでなく、血液検査や組織検査に頼ることになります。

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豚肉にはトキソプラズマ感染性のものがあります。
見た目には分かりません。

 

<トキソプラズマはどこから感染するのか>

猫はトキソプラズマの「オーシスト」か「シスト」を含んだネズミ(の生肉)を食べるとトキソプラズマに感染します。傷や粘膜から「タキゾイト」が侵入してくることもあります。母さん猫から胎盤を介して感染することもあります。

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猫の腸内、腸絨毛の上皮細胞内で増えていきます。
細胞が破れ、糞便中に出てきます。




<猫のトキソプラズマ症いろいろなパターン>

①腸管

経口感染したトキソプラズマは猫の腸粘膜の細胞の中で増殖します。一度に大量感染すると、粘膜細胞も一時に壊れるため、下痢などの症状は重篤になります。でも子猫や猫免疫不全ウィルスに感染した猫以外は、無症状であることが多いです。

②全身

状態の悪化した猫では、発熱したり、リンパ節が腫れるなどの全身症状を出すこともあります。妊娠猫では流産をおこすこともあります。

③中枢神経(脳)

進行性の麻痺をおこすことがあります。

④眼

ぶどう膜炎の症状(眼が赤い、角膜が濁って白いなど)をおこします。繰り返されることもあります。

 

<猫のトキソプラズマ症の検査>

猫がトキソプラズマに感染しているかどうかは糞便検査と血液検査で調べます。

①糞便検査

トキソプラズマが沢山増えると、腸粘膜細胞を破ってオーシストが出てきます。このときは糞便検査で「オーシスト」を確認することができます。とても小さいため、数が少ない場合は見逃してしまうこともあります。また、他のコクシジウム類との鑑別はできません。

トキソプラズマが腸粘膜細胞を破っていないときは糞便検査でオーシストを見つけ出すことは出来ません。外部委託の糞便を利用した検査は、特異的な遺伝子検査によるものです。オーシストを見つけ出せなかった場合もトキソプラズマを見つけ出します。

②血液検査

血液検査も外部委託検査です。感染が認められた猫にはトキソプラズマ抗体ができています。血清中のトキソプラズマ抗体の量を調べます。

このほか

③組織検査

④マウスに接種する検査

がありますが、これらは実際的な臨床検査ではありません。

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始めて感染するのが妊娠時だと
胎盤を介して胎児に影響します。




<抗体検査についてもうちょっと>

ヒトの妊娠時のトキソプラズマ検査は抗体価と同時に特異的IgMIgGを測定すると、感染間もない感染なのか、過去の感染なのかを鑑別することができるそうです。(抗体価は感染があったかどうかをみるものですので、あるから心配、ないなら安心ということではありません。詳しい解釈については産科の先生にお尋ねください。)

猫の場合は、この特異的検査はできません。今の感染なのか、過去の感染なのかを判断するのは少し時間を空けてから(たいていは2週間から3週間)もう1回測定して、前回と今回の2つの価を比較する方法で調べていきます。抗体価に変化がなければ過去の感染で、抗体価が急上昇しているようなら今回の感染、今が急性感染期であることになります。

 

<ヒトのトキソプラズマ感染経路>

ヒトも経口感染でトキソプラズマに感染します。

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猫の糞便中に排泄されたオーシストは
成熟すると感染性となり、
土や砂の中でしばらく生きています。



①猫の糞から

猫の糞に混じっていた成熟オーシストを口にしてしまうと感染します。でも猫の糞を口にするというのはどのような状況でしょうか。ヒトは猫のウンチを食べることはありません。しかし家猫が感染していたとき、おうちの中の猫トイレで排泄した猫の便を片付けるときに、もしかしたら手に付着してしまうのかもしれません。昔から「危険ですよ」と言われてきたのは、公園の砂場です。公園の砂場に外猫が排泄した便があると、子どもが砂場遊びをするときに一緒に遊んでいたお母さんの手にトキソプラズマの成熟オーシストが付着することがあります。公園で砂場遊びをする機会は減っているかもしれませんが、猫は良く耕されてふわふわになっている土が大好きです。畑仕事をされるアグリお母さん、家庭菜園でも、ガーデニングでも条件は同じことになります。

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生肉を下処理するとき、
まな板や包丁にシストが付着します。
調理器具の洗浄が不完全だと感染します。




②不十分な加熱処理の豚肉から

「牛肉はレアで食べても良いが、豚肉はしっかり加熱調理して食べましょう」というのを聞いたことがあるでしょうか。豚はトキソプラズマの中間宿主になっていて(ヒトも中間宿主です)、お肉の間にトキソプラズマのシストがあるかもしれないからです。不十分な加熱による経口摂取は、獣肉加工品であるソーセージ(生のもの)の場合も関係してきますが、まな板の上で生の豚肉を下処理した後、まな板や包丁を十分に洗わず、生で食べる野菜を処理したときにも感染の心配が出てきます。むしろこのパターンが一番多いのではないかと言われてきました。今、人気のジビエ料理ですが、野生動物(シカなど)も感染の危険はあります。

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加熱不十分な豚肉とその加工品から
感染することがあります。







 <ヒトのトキソプラズマ感染>

ヒトがトキソプラズマに感染した場合、終宿主である猫の感染とは少し違ってきます。腸の血管内に侵入したトキソプラズマは増殖体であるタキゾイトのかたちで全身に運ばれ、あらゆる組織に入り込み、増殖していきます。特に薬や抗体が届きにくい場所である脳、筋肉、眼などでは、シストを形成して生き残ります。妊娠中であると、胎児にもタキゾイトは侵入します。流産を起こしたり、胎児の発育不全が起こります。

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妊婦さんへの感染の主だった経路は3つで
猫だけが犯人ではありません。
注意すれば感染を防ぐことが可能です。


 

<トキソプラズマからの感染を防ぐ>

ヒトの感染を防ぎましょうという内容です。

①飼い猫をクリーンに

家猫がネズミを捕食するのはトキソプラズマ感染の危険を持ちます。豚肉の入っていたトレーをいたずらしたネズミは豚肉からトキソプラズマ感染を受けているかもしれません。するとネズミの身体にトキソプラズマのシストがあるわけです。猫の捕食行動は止めさせることはできないかもしれませんが、もし見つけることがあれば摂食は止めさせてください。

②家猫からの感染防御

糞便中に排泄されるオーシストが感染能力を持つ「成熟オーシスト」になるまでには1~2日かかります。猫の排泄した便は速やかに、そしてビニール袋などを使ってお掃除してください。

③野猫からの感染防御

屋外で野猫が排泄をするかもしれない砂場や畑の土はビニールやゴム製の手袋をつけて扱うようにします。

④食肉からの感染防御

豚肉は十分に加熱調理するようにしてください。また調理器具の取り扱いにも注意してください。(平成17年から22年の出荷豚のうち抗体陽性であるものは平均して3.9%ほどあるそうです。)

 

<おわりに>

今日は人と動物の共通感染症であるトキソプラズマについてお話ししました。

飼い猫からの感染に不安があっては、猫さんを十分に愛することはできません。不安があるときは検査にお越しください。

 

猫を飼うと、「癒やされるぅ~」と思います。
猫がまだ子猫で、自由奔放に遊んでいると、それを見ているだけで私たちは癒やされ、元気になれます。
それから少し猫が年を重ねていくと、なかなか人の様子を読むのがうまくなります。「今日は疲れているみたいだな」、とか「やばい。怒ってるぞ」、というのが分かるようになるみたいです。知らんぷりしているようで、実はなかなかいいパートナーシップを取ってくれています。ありがたいです。こちらのメンタルな部分も含めて、理解してくれてそのような行動に出てくれるのです。そしてこの頃になると、私たちは猫に頼って、猫に甘えて生きていくようになってしまっているかもしれません。猫を相手にした語りかけが増えていきます。

もう少しすると、これもあっという間で早いのですが、自分の年齢を超えてしまっています。「あれ?老けた?」と感じた頃から、「猫に語りかける」のを卒業して「猫の声を聞く」ようにしてもらえるとうれしいです。そこからは今まで以上に「猫を甘やかしてあげる」ようになってほしいです。

それから、「猫の声を聞いて欲しい」ので、あなたは元気でいてください。猫が高齢になってからはなおさらです。猫を飼育するやさしいあなたにはぜひ、ぜひ、いつも元気でいてもらいたいです。
そんなわけで、暑い日が続いておりますが、ご自愛ください。

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ジャンル : ペット

単頭種気道症候群

 鼻ペちゃわんこは根強い人気を持っています。パグが大好きな人は2代目さんもパグを選ばれることが多いし、フレンチブルドックやボストンテリアは、イングリッシュブルドックやボクサーは大きすぎて飼えないけれど、という方が2代目、3代目さんに選ぶ犬種です。こんな「単頭種」と呼ばれるわんこたちに弱点があります。

「鼻、鼻咽頭、気管」は「上部気道」といって、呼吸器の中でも最初に空気に触れる場所ですが、ここに解剖学的、形態学的な異常を伴うことが多く、問題が発生しやすくなっています。このあたりに発生した異常を総合的に「単頭種気道症候群」と呼んでいます。

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フレンチブルさん♡



<かわいらしい顔に潜んだ恐怖>

単頭種の犬たちは、他の犬種に比べると

①鼻が短い

②頭の骨が丸い

③目と目が離れている

ため、表情が豊かでかわいらしいのですが、不都合なことに

④鼻の穴が細くつぶれている

⑤鼻の中の空気の通り道も細い

⑥のどの奥が狭まっている

⑦気管が狭くなっている

などの特徴を持っているため、鼻から入った空気がのどを通って気管から気管支、肺へ送られるまでの間にちょっとした乱流が生まれます。それで「息をしているな」というのがはっきり分かる「音」を出すようになっています。

寝ているときの「いびき」のほか、ちょっと運動をしただけでも「ぜーぜー」言ったり、呼吸が苦しそうになったり、「咳」のような音を感じることもありますし、「げへっ、げはっ」というえづきのような状態を観察されることもあります。これがひどくなると、食べたものを吐いてしまうこともあります。さらに、一生懸命呼吸をしないと息が吸えないような状態に陥ることも有り、よだれが沢山出たり、舌の色が紫色になったり、そのまま倒れ込んだりしてしまうことさえあります。夏、呼吸回数が増え、体温が上昇して熱中症を繰り返してしまう犬もいますし、胸腔圧の関係からそのまま肺水腫に移行してしまう犬もいて、「単頭種気道症候群」はなかなか侮れない病気です。

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ボストンテリアさん♡



<詳細な名前が沢山>

この症候群にそれぞれ名前を当てはめていくと、

①外鼻孔狭窄(がいびこうきょうさく)

②軟口蓋過長症(なんこうがいかちょうしょう)

③喉頭虚脱(こうとうきょだつ)

④扁桃腫大(へんとうしゅだい)

⑤声門裂狭窄(せいもんれつきょうさく)

⑥気管虚脱(きかんきょだつ)

⑦気管低形成(きかんていけいせい)

など多数あります。

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イングリッシュブルさん♡



<内科的な治療>

体重の管理(肥満にさせないようにすること)、環境の管理(居住空間の温度が高すぎないように気をつけること、興奮させないようにすること)などで対応します。限界があることもあります。

お薬は虚脱系のコントロールのためのステロイド剤、興奮を制御するための鎮静剤、嘔吐をコントロールするための消化器系作用薬の3種類を用いることが多いです。緊急の場合は、酸素療法になります。

 

<呼吸器疾患なのに?>

「呼吸器疾患」と聞いたのに処方されたお薬が「消化器系に作用する薬」だと、意外に思われるかもしれません。呼吸器疾患ですが嘔吐のコントロールを行います。よだれが出てきてそれを飲み込もうとするとき、ゼロゼロしながら食道を流動物が行ったり来たりするとき、また胃の中に入っていた物がオエッとなってさらに戻ってくるとき、みんな「ノド」を通ることになります。のどの部分は食道と気管の分かれるところで、食べ物が通るときに閉じる蓋(ふた)に問題があるため、逆流や嘔吐などはすべてのどに障害を及ぼします。そのため、嘔吐などの消化器症状をコントロールするためのお薬を処方します。

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ペキちゃん♡
 

<外科的な治療>

軽い症状だからとそのままにしていて、呼吸困難が高じてくると二次的な変化をおこすことになります。症状が重度の場合や、徐々に悪化傾向にあるという場合は、外科的な治療が選択されるべきかもしれません。しかし、上記に示したようなさまざまな状態があるわけですが、手術できるものと手術できないものがありますし、手術法があるのだけれど推奨されている場合や推奨されない場合も有り、一概に「手術をしたら楽になれる」わけではありません。

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パグちゃん♡



<麻酔が心配>

単頭種に全身麻酔をかけるのは私たちも大変気を使います。

麻酔時には気管挿管といって、専用のチューブを気管に入れます。そのとき、気管と食道を隔てる膜が厚くなっていると、挿管しにくいというのが一つの理由です。挿管に手間取るのは危険です。

また、もっとリスクがあるのは手術が終わってチューブを外すときです。呼吸機能の回復と、覚醒時の状況に応じ、少しのタイミングのズレも許されない様な側面があるのです。温和な犬の場合は、覚醒してもチューブが入っていることを許可してくれるため、術後も十分に酸素を継続させてやることができますが、興奮症の犬の場合は、チューブの存在も嫌いますしマスクで酸素を流すのもいやがってしまうために酸素化が不十分になりがちです。もともと気管が狭いとか、のどに炎症を感じているとか手術で局所を刺激しているなどの理由も術後の呼吸困難に影響を与えることになります。

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かわいい看護婦さん。



<予防する>

「やっぱり手術は怖いわ」という方は多いと思います。私たちもできれば危険な手術は避けたいです。

とにかく、「ゼロゼロしていてどうにも呼吸がしっかりできない」という状況だけは避けなければいけません。適切な管理は緊急事態を予防することができます。内科的な治療薬よりも効果があります。

①体重コントロールで肥満にさせない。

②暑い時間帯の散歩はしない。

③室温や室内の湿度に配慮し、銀行にいるときくらいぐーんと冷え冷えにする。

ぜひこの3つを守って生活してください。

 

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Author:ハート動物病院
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〒445-0062
愛知県西尾市丁田町杢左51-3
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オフィシャルサイト:http://www.heart-ah.com/

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