猫伝染性腹膜炎・その2

猫伝染性腹膜炎のお話、2回目です。

どのような猫に対してこの病気を疑うのか、疑いがあったらどのような検査を行って診断に結びつけていくのかをお話しします。

 

 

<猫伝染性腹膜炎を発症しやすい猫>

猫伝染性腹膜炎を発症しやすい猫がいます。すべての年齢層の猫に見られるのですが、多頭飼育されている環境下(保護施設やブリーダー施設などのような)の若齢猫でもっともよく見られます。たいていは2歳未満で発症し、特に1歳未満の猫では病状の進行が早いです。17歳とかの高齢の猫でも見られますし、一部、感染に敏感な猫種や系統(ベンガルなど)があるようです。

総じて、多頭飼育されてきた経歴のある若齢猫で怪しい症状が見られると、疑いは濃くなります。

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<猫伝染性腹膜炎を疑うときの猫の様子>

「もしかして、この子、猫伝染性腹膜炎なのでは!」、と閃くきっかけになる猫の様子はいろいろです。

    ウェットタイプを疑うとき

 おなかがでっぷりしていたり、呼吸が苦しそうであったりすると、腹水や胸水を疑います。活動性が低下していて元気がないとか、寝ていることが多いなどの沈うつがあるということがわかったり、身体に触れたときに熱感があったり、検温で軽い発熱があるのが認められたりすると心配が増していきます。

②ドライタイプを疑うとき

 こちらの方がわかりにくいです。だるそうにしている日が続いていること、元気がなく静かにしていること、食欲が低下し体重が減ってきていることなどしか分かりません。身体に触れてみて、リンパ節が大きいかな?腎臓が腫れっぽいかな?と感じることや、可視粘膜を見て色白だったり軽く黄ばんでいたりするのも不安が増します。

③目の様子

目の様子に変化があるのも心配な要素です。透明であるはずの角膜に何か着いているように見えたり、目が濁って見えたり(目の中に卵の白身のような物や血の塊などが浮かんでいるように見える)、虹彩の色が変わってきているとか、左右の目で瞳孔(黒目・ひとみ)の大きさに違いがあるとかすると、なおさら「もしや」「まさか」の疑いを持つことになります。わけもなく目が小刻みに動いている(揺れている)ときも心配です。

④そのほか

バランスよく動くことができないとか、震えがある、異常な行動を取る、過敏な反応があるなどの神経症状があるのも心配要素です。

  

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<診断のために行う検査と疑いを深めることになる検査結果>

診断のために、院内では次のような検査をしていきます。疑いが濃厚になる結果を示しておきます。

①ウェットタイプを疑うとき

腹水や胸水が確認されたら、診断と治療を兼ねて水を抜き、採取した液体を検査します。採取した液体のタンパク量やアルブミン・グロブリン比(A/G)、総白血球数、細胞成分を調べます。血液検査も行います。猫伝染性腹膜炎の腹水や胸水はたいてい琥珀色で透明です。採取した液をポンプから容器に出して空気に触れさせておくと、ゼリー様のぷるるんとしたかたまりができてくるのも、怪しさが増してくる所見です。この採取液を検査してみると、タンパク量が多く、A/Gが低いこと、さらに白血球の数が少ないことや、調べた細胞は好中球が多数というような場合、猫伝染性腹膜炎の疑いがさらに強まります。血液検査では貧血や白血球増多、総蛋白の増加とアルブミン・クレアチニン比の減少が疑いを強める所見です。

②ドライタイプを疑うとき

 ウェットタイプと同様の血液検査を行います。疑わしい所見は同様です。

 さらにX線や超音波などの画像検査も行います。これは猫伝染性腹膜炎を疑って、というよりも、何か手がかりはないだろうかと猫の身体の情報を収集するために実施するというのが近いかもしれません。なにせ、ドライタイプの所見は、あれやこれやいろいろな病気でもみられることの多い所見と重複しています。腹部のリンパ節や腎臓などに腫瘍のようなものが見られると診断は複雑になります。

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<確定診断に結びつけるための追加検査>

院内の検査で疑いが増した場合、次に外部の検査機関に委託して追加の検査を行います。

①ウェットタイプを疑うとき

 採取した液体や血漿(血液の上澄み液)を外部の検査機関に送ります。腹水または胸水で猫コロナウィルスの抗体価を、血液で蛋白分画を調べて貰います。

②ドライタイプを疑うとき

 血漿(血液の上澄み液)を外部機関に送ります。猫コロナウィルスの抗体価、蛋白分画を調べて貰います。炎症性蛋白の値(血清アミロイドASAAなど)を調べて貰うこともあります。

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<猫コロナウィルスの抗体検査の解釈>

猫コロナウィルス(FCoV)の抗体価の検査は猫伝染性腹膜炎の診断をするときによく用いられる検査です。ですが、あくまでも猫コロナウィルスの抗体価を見るものであって、猫伝染性腹膜炎ウィルスの抗体検査ではありません。抗体価が高いからといって猫伝染性腹膜炎を発症しているとはいえません。また、猫コロナウィルス抗体価がマイナス(―)であるのならば猫伝染性腹膜炎は発症していないと言い切れますが、抗体価が低くても猫伝染性腹膜炎でないとは言い切れません。体内のウィルス(抗原)と抗体が結合して免疫複合体を形成しているため、結果として見かけ上抗体価が減少しているだけなのかもしれないからです。猫伝染性腹膜炎を疑う症状があって、抗体価が高いときには、猫伝染性腹膜炎を診断するに十分確定的になります。


 

臨床症状は出ていない

臨床症状が出ている

抗体価(―)

おそらく陰性でしょう。

 

抗体価が低い

可能性があります。

必ずしも猫伝染性腹膜炎ということではないです。

疑いは残ります。

猫伝染性腹膜炎ではないとは言い切れません。

抗体価が高い

 

猫伝染性腹膜炎でしょう。

ほぼ確定的です。



 
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<確定診断をする検査>

特殊な検査になります。免疫染色法でマクロファージから猫コロナウィルス抗原を検出するのが確定診断になります。「ウィルス検出=陽性=猫伝染性腹膜炎が確定」です。しかし、陰性であっても猫伝染性腹膜炎ではないと言い切れません。

検体はウェットタイプなら滲出液ですが、ドライタイプだと腹腔内にできた肉芽腫病変から採取したもの(生検)になります。ドライタイプ疑いの猫に全身麻酔下で開腹手術を行い、検体を採取するのは現実的ではありません。

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<疑いを突き詰めた先に何があるのだろうか>

陽性であることを確認するために免疫染色法という特殊な検査まで実施する意味はどこにあるのだろうかと考えることがあります。

諸外国では、猫伝染性腹膜炎のような予後不良の病気を発症している場合、動物が苦しむ前に安楽死を推奨されていることが多いです。欧州猫病学諮問委員会(The  Europian Advisory Board on Cat Diseases : ABCD)もこの疾病に対し、「一度は治療してみるものの、3日以内に改善しない場合は治療が難しい、安楽死を考えるべき」、という推奨ラインを出しています。診断後の寿命がわずか9日、という数字は生存期間が短い病気であるということをいっているのではなく、そうした推奨に従う症例が多いからなのだろうと思います。さすがに安楽死となると、きっちり診断をつける必要があります。あいまいのまま、疑いがあるくらいで安楽死を実施することはできないからです。特殊であろうが、高価な検査であろうが、確定診断に結びつける必要があるでしょう。

私たちは日本に住み、和の心で日常を送っています。合理的といえば合理的、でも割り切れなさが残るこの推奨ラインに従うには苦痛があります。「疑いがある」ことを「間違いない」にまで煮詰めて安楽死に臨むよりは、「おそらくそうだろう」の線で留め起きながら、愛猫が苦しまないよう緩和療法を交えた治療を行い、自然死を迎えるまで暖かく見守ることを選択する方が、日本人としての考えに近い気がします。家庭猫という状況であれば(特殊なキャッテリーという状況でなければ)なおさらそうだろうと思います。

そのようなわけで、当院では、多くの病気については世界的なその道の専門家が推奨するガイドラインに沿った治療を学び、理解し、実践することを目指してはいますが、この猫伝染性腹膜炎に関しては、そうした世界の王道に沿わない道を選択しています。

 

 

今日のお話はここまでです。

次回は治療のことや、どうしたら発症を防ぐことができるのか、といった内容でお話ししたいと思います。

 

    
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猫伝染性腹膜炎・その1

 はじめに花子ちゃんのお話をしましょう。

 

はなちゃんは10歳半のロシアンブルー、とても健康に過ごしてきました。体重も4.8kgをずっとキープしていて、毛づやも良好、処方食を購入がてら定期的に爪切りに来てくれていた猫さんです。

今月に入って「なんだかいつものフードを喜んで食べないの」とお母さんから電話が入りました。それでも同居の別の猫さんが食べている食事なら口にするとのこと、「そっちを食べさせても良いかしら?」というご質問でした。「食事内容が飽きてきたのなら良いのですけど、病気だと困るから様子を見ておかしかったら診察にいらしてくださいね」と電話での会話を終えました。3日後、「やっぱり食べないわ」とお母さんが心配顔ではなちゃんを連れて来てくれました。

さて、1ヶ月半ぶりに見るはなちゃんは体重が750g減少、これは体重の割合からすると17%に相当します。体重が60kgあった人なら、1ヶ月半で約10kgの減量を達成したことになります。いや、それはなんとも急激に痩せすぎです。背中がごつごつ、おなかの皮下脂肪が垂れて、緊張感なくたぷたぷしていました。身体検査に続いて、早速血液検査をはじめました。

血球の検査では白血球の数が多く、その割に赤血球の数は少なく、貧血がありました。そして血小板も少なめです。血液を回すと上澄みの血漿はうっすら黄色。生化学的検査をみると総蛋白は高く、なのにアルブミンがとても低くなっていました。はなちゃんは幼少期、なかなか治らない頑固な下痢のため他院から転医されてきたいきさつが有ります。これまでの血液検査でも総蛋白が高めのこともありましたが、こんなに(9.5g/dl)高かったことはありません。蛋白分画の検査と猫コロナウィルスの抗体検査を外注依頼することにしました。後日、蛋白分画からはα2,β、γ分画のグロブリンが高く、またFCoVの抗体値も1600倍と高めで、猫コロナウィルス感染症が濃厚に疑われました。

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<猫コロナウィルス感染症>

猫コロナウィルス感染症は、一般的な感染症です。猫コロナウィルスは世界中で猫の集団内に広く存在しているそうです。猫の血液中の抗体を調べると、抗体を持っている猫は案外多くみられます。これらの猫は軽い下痢などの腸炎症状を示すこともありますが、ほとんどは症状が見られません。抗体を持っている猫のうち35~70%が糞便中にウィルスを出します。この糞便から次の猫に猫コロナウィルスが感染します。猫コロナウィルスに自然感染した猫は1週間くらいで糞便中にウィルスを排泄するようになり、ウィルスを数週間から数ヶ月、まれには生涯を通じて排泄し続けます。無症状でウィルスを出し続ける猫はキャリアーと呼ばれています。こんな風にして、猫コロナウィルスは集団のなかで簡単に感染していきます。

1頭だけで飼育されている猫は猫コロナウィルスに感染していないことが多いです。

 

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<猫コロナウィルス>

猫コロナウィルスはウィルス学的には、ニドウィルス目、コロナウィルス科、コロナウィルス属、猫コロナウィルス(Feline Coronavirus : FCoV)という分類になります。RNAウィルスの中では最も大きいウィルスになります。さらに、Ⅰ型FCoVとⅡ型FCoVに分類されますが、多くはⅠ型です。(野外で流行している株の98%がこちらだそうです。)Ⅰ型FCoVが元祖FCoVといった感じの位置づけなのに対し、Ⅱ型はFCoVに犬コロナウィルスの遺伝子の一部が組み合わさって発生した新型FCoVです。(元祖とか新型という呼び方は、その特性から、今、ここで呼んでいるだけの名称です。一般的にこのように呼ばれているわけではありません。)従来は猫腸コロナウィルス(Feline Enteric Coronavirus : FECV)と猫伝染性腹膜炎ウィルス(Feline Infectious Peritonitisvirus : FIPV)の分類でした。

猫コロナウィルスは乾燥した環境の中で7週間も活性力を保持しています。(病原性を保っています。)ですから猫トイレのほか、人の手、服、靴などを経由して別の場所に運ばれここから間接的に感染する可能性もあります。けれどほとんどの消毒薬や家庭用の洗剤あたりでもすぐに失活する(病原性を失う)ので、しっかり洗って消毒すれば感染を防ぐのは難しいことではありません。

 

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<猫コロナウィルス感染から猫伝染性腹膜炎へ>

猫コロナウィルスに感染した多くの猫は症状がないか、または軽度の腸炎(症状は主に軽い下痢です)を示すくらいですが、この中の一部の猫は猫伝染性腹膜炎を発症します。9頭のうち1頭くらい(12%程度)が猫伝染性腹膜炎を発症するだろうと言われています。

猫コロナウィルス感染症が猫伝染性腹膜炎へと変わることの要因は、一つにはウィルス側の問題、もう一つは猫側の問題です。

ウィルス側の問題というのは、感染したウィルスが遺伝子変異することです。コロナウィルスは突然変異を起こしやすいウィルスです。突然変異により、低病原性の猫コロナウィルスから高病原性の伝染性腹膜炎ウィルスに変異します。ウィルスの突然変異を誘発する因子が何なのかは不明です。

猫側の問題として、「集団飼育で強いストレスがかかった猫」や「猫免疫不全ウィルスや猫白血病ウィルスなどのウィルスに感染した猫」に伝染性腹膜炎が認められていることから、ストレスや別のウィルス感染が引き金になっていることが考えられます。ストレス要因としては「新しい環境への入居」(新たな飼育環境:譲渡やペットホテルなども含まれます)、「引っ越し」、「手術」(避妊や去勢)などがあります。

 

猫伝染性腹膜炎はこのような

    強毒の猫伝染性腹膜炎ウィルス(FIPV)が猫の体内で生まれること、

に次いで

    猫に免疫系の異常が生じること、

が重なって発症することになります。

突然変異ウィルスに対して猫が免疫亢進状態になるのはどうしてなのか、その理由は分かっていませんが、アレルギー状態の亢進が起こります。

猫伝染性腹膜炎にはウェットタイプとドライタイプがあることが知られていますが、同じウィルスの感染症で症状の様式が異なるのは、猫の免疫系のうちどの系統が強く出たのかによるものです。少々専門的な話になりますが、猫の免疫のうち、主にBリンパ球が強く働くと免疫複合体が形成されてⅢ型アレルギーが引き起こされ血管炎がおこり、胸水や腹水を主症状とするいわゆる「Wet type」の猫伝染性腹膜炎を発症します。一方、主にTリンパ球が活性化されて細胞免疫の異常が起こると、Ⅳ型アレルギーになり、肉芽腫性の病変が腎臓やリンパ節につくられ、いわゆる「Dry type」の猫伝染性腹膜炎を発症します。

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<猫伝染性腹膜炎の不思議>

一般的な話ですが、ウィルス感染をおこすと体内にウィルスと闘う抗体がつくられます。抗体は抗原であるウィルスをとらえて結合し、ウィルスが働けないようにします。これが免疫力です。自然感染による能動免疫というのは、自分自身が作り出した免疫力で病気と闘い、打ち勝つ力を持ちます。

ところが猫伝染性腹膜炎の場合は免疫力があることが身体にマイナスに働きます。不思議なところですが、猫伝染性腹膜炎では、抗体があるとマクロファージ(細胞の名前です。この細胞を好んで感染していきます。)の中で抗体が外れてウィルス増殖が始まるので、逆に感染が強まってしまうのです。(専門的には抗体介在性増強といいます。)猫コロナウィルス抗体陽性の猫では、抗体介在性増強により猫伝染性腹膜炎ウィルスが爆発的に増殖し、発症は早まり、また症状も悪化していきます。

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今日のお話はここまでで、次回に続けます。

猫伝染性腹膜炎はいろいろと分かっていない部分が多く存在します。それはそのまま、診断の難しさや、治療法が確立できないことにつながっていて、完治させることができない病気になっています。

次回は猫伝染性腹膜炎を疑うときの猫の様子、確定診断へのみちのりについて、そして次々回は治療のことなどをお話しする予定です。

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音恐怖症

 梅雨の時期は前線の通過に伴って大雨が降り、低気圧の勢いが強いために強い風を伴うこともあります。梅雨明け近くになると雷が鳴る日があったり、そしていよいよ夏が始まると各地で花火が上がったりします。雨や風、雷や花火などの音が大嫌いで、過剰に恐怖を示す犬たちがいます。「恐怖症」といっています。「音恐怖症」とか「雷恐怖症」とかは代表的な恐怖症です。総合的にどれもこれも怖がることもまれではありません。これからの季節に頻繁にみられる恐怖症についてお話しします。

 雷

<恐怖症>

どんな犬も「経験の無い音や状況」に対して不安を示すものです。中には不安や恐怖から極端な反応を示す犬がいます。こういった反応を示す犬たちはたいてい「分離不安症」を併発していることが多いです。特に「分離不安」がある犬たちは、ご家族と離れて「ひとりでお留守番」するのが大変苦手です。ひとりぼっちになるのも「不安」なのに、そこへさらに「音」刺激が加わると、恐怖は倍増、さらに強い恐怖を感じてしまいます。

恐怖症は猫でもみられます。

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<恐怖症になりやすい犬たち>

恐怖症に陥りやすいタイプの犬猫がいます。

     幼少期の体験:

社会化適応期に新しい環境に十分な社会化ができなかった場合にありがちです。

     強い刺激を体験:

非常に強い恐怖体験を受けたことがあると恐がりになります。

     動物の恐怖反応に対する家族の対応:

動物の反応に対して家族が大げさに反応した経験が重なると恐怖症が深まります。

     高齢:

高齢になると「見えない、聞こえない」などが高まるので不安傾向が高まります。

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<恐怖行動はどんなもの?>

恐怖を感じた犬はいろいろなパターンの行動をとります。

     ものを壊す。

     吠える。声をはり上げて鳴く。

     落ち着きがなくうろうろ歩き回る。(そわそわする)

     何度もトイレに行く。(うんちやしっこを頻繁に出す)

     だっこを逃れようともがく。(噛む)

     暗いところや狭いところに入り込む。(隠れる)

     ぶるぶる震える。

     ハァハァと短い呼吸になる。

     ヨダレが出てくる。

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猫の行動は少し異なります。

     狭くて暗いところに入り込む。(行方が分からなくなる)

     トイレを失敗する。(怖くてトイレまで行けない、違うところで排泄する)

     大きな音に驚いて近くの猫やひとに攻撃的になる。(転嫁行動)

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<どんなふうに診断する?>

音恐怖症でみられる上記のような行動は他の病気でもみられることがあるため、

「こういう状況のとき」→「この状態が悪化する」

のを見定める必要があります。一度きりの反応で診断することはせず、再現性を確認する必要があります。また、同じような行動をとる別の病気ではないかを調べる必要もあります。

「音に対する恐怖」から起こっている行動だと思ったら、身体の不調に伴う行動だった、というような「身体の不調」を見逃さないようにするためです。

診断は総合的に行います。

 

<治療しましょう!>

恐怖症の治療は、「怖いと感じている対象」に対し「馴れさせる」ための行動療法が主体です。しかし、「馴れさせる」にも、恐怖刺激がいつ起こるのかも分からないものに対しては「馴れ」の練習を積むこともできません。そして「避けられないもの」のときも「練習」がいきなり「本番」になるため、行動療法がうまく使えないこともあります。

行動療法に併用して、または単独で薬物療法が有効です。サプリメントの使用が効果的であることもあります。

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<行動療法というのは?>

恐怖症に対する行動学的アプローチです。

     服従訓練は心を強くします。

日常的に「落ち着かせ」「命令に従わせ」「集中力を養う」トレーニングを行います。こちらを注目させる「見て!」(○○ちゃん!)、そこから、「すわれ」、「伏せ」などを導きます。号令に従うたびに「ほめ」ます。はじめは「よし」「いいこ」「グーッド」などの褒め言葉+おやつが「ごほうび」ですが、一連のものができるようになってからは褒め言葉+「なでなで」の愛撫だけでも愛犬にとってはごほうびになります。

そこから、恐怖対象となるものに遭遇した場合でもできるように訓練していきます。

     恐怖刺激を少しずつ強く、少しずつ頻度を上げて行きます。

ゆるい刺激を与えて、それまで恐怖刺激に対して取っていた行動を減らし、また徐々に好ましくない行動を起こさないように行動を変化させていきます。恐怖行動を示さなくなったら、刺激をもうちょっと強めます。そうして徐々にならしていきます。

     安心な場所を提供します。

安全な逃げ場所を作り、そこへ誘導します。外部の音が聞こえない、静かで暗く、安心できる毛布などを備えたちょっと狭めの(身体が毛布などにぴったり寄せられ、包み込まれるような感じになるような)ところが好ましいです。

     事前に情報をキャッチして音刺激を避けます。

天気予報に気を払い、雷が来そうとか、台風だ、という場合はひとりぼっちにしないようにします。また地域で「花火」が上がる日が分かっていれば、その日も早退するなど、ご家族の協力が欠かせません。

     他の音で恐怖音を消します。

テレビやラジオ、音楽を流すなどして、本来の恐怖音をかき消す工夫も有効なことがあります。

     しっかり運動をさせます。

お散歩で運動が十分足りていると精神的な満足があり、恐怖反応が弱まることが知られています。

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<してはいけないこと>

やってしまいがちですが、逆効果となるパターンがあります。

     抱っこしてなだめること。

「大丈夫だから」「いいこね」と抱っこして「よしよし」してしまうと、恐怖行動そのものを起こすと「ご褒美がもらえちゃう!」と勘違いすることになります。

     恐怖に同意すること。

「こわいね」「いやだね」と同調すると、よけに恐怖が増し、さらに恐怖反応を示すようになります。飼い主さんは冷静に振る舞いましょう。

 

<薬物療法とサプリメント>

行動療法の成功率を高めるため、お薬を併用することもできます。またサプリメントも効果的です。行動学で使用するお薬はほとんどが向精神薬に分類されるものです。対象となる個々の動物で、異なった薬が効果を出すことがあります。A薬であまり効果が見られなかったというときにB薬に変更する、というような使い方をします。これらの薬の使い方は根気が必要なことが多いです。

 

<治るのかなぁ>

複雑に恐怖の要素が重なっている場合、刺激を再現しながら恐怖に慣れさせる行動療法は難しくなります。ですが治療をすると、完治までは行かないまでも状態は改善します。恐怖を感じてから治療を始めるまでの時間が長くかかってしまった場合は、やはり治療の効果発現までの時間が長くかかります。

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<お散歩が怖い!>

音恐怖症とはちょっと違うかもしれませんが、室内犬では屋外の音、屋外の環境すべてを恐怖に感じてしまうことがあります。そのため外出ができません。お散歩が怖いのです。

お散歩恐怖症のわんこは、散歩中に出会った何かに対して恐怖を感じるのだろうと思います。それが何だかわかっても、出会うことを予測するのは難しいです。けれど、少しずつ馴れさせることは十分可能です。

外環境の刺激は気分転換になりますし、犬に社会性を身につけさせることもできるし、運動にもなるため、ぜひお散歩の好きな犬になって欲しいと思います。

     知らない人や、犬、車の音などに慣れるまで抱っこで出かけます。

     出会いの機会が減るような時間帯や場所を選んで歩かせてみます。

     途中で大好きな家族が待機し、そこまで歩けたことをほめてやります。徐々に距離を伸ばします。

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<おわりに>

病院恐怖症もひとつの恐怖症になるのだろうと思います。1年に1回だけ、嫌いなキャリーに詰め込まれ、騒音と揺れのある車に乗せられ、知らない犬がひしめく動物病院に連れてこられて、わけも分からず採血や注射のために何本か針を刺されて痛い思いをすると、なるほど、病院恐怖症にならないわけもないでしょう。

何か無くても病院に来て、ご家族と病院スタッフが和やかなテンションで話をしている雰囲気の中に身を置くのも病院順化の行動療法に相当します。そのような状況では、犬は台に乗ってちょっと触られたりするくらいの診察になります。ここで良い子にしていると帰りにほめられてご褒美のクッキーが食べられる。とまぁ、こんなことが何度か繰り返されたら、病院も怖くない場所に変わると思います。皮膚科診察の犬たちが比較的病院に慣れているのは、頻繁に来院しているのと、痛くない治療が行われる、ときにお風呂に入れて気持ちの良い経験をした、というプラスイメージの積み重ねがあるからなのでしょう。

「これって病気なの?」「このくらいのことで病院に行くのは恥ずかしいかなぁ?」なんて気にしないで、どうぞ動物連れでおしゃべりにお越しください。診察室から出て行くまでぶるぶる震えているかわいそうなわんこを一頭でも減らしたいと思っています。春のハイシーズンが過ぎ、病院は静けさを取り戻しつつあります。ご家庭でのわんこのご様子をご家族の方からお聞きするのを楽しみにしています。

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ワクチン接種のこと

 76日はルイパスツールが世界ではじめてワクチン接種をした日です。この日は彼の業績にちなんで「ワクチンの日」になり、ワクチンの普及と接種率向上を図る取り組みがあちこちでされています。今日はワクチンのことについてお話しします。「犬や猫にはこんなワクチンがありますよ」的な紹介ではありません。

 

<ワクチン接種には基準となるガイドラインがあります>

わたしたちは、心臓病はACVIMの、腎臓病はIRISのというように、それぞれの専門家が推奨するガイドラインに従って診断や治療を進めています。そして犬と猫にワクチネーションをどのように進めていくと良いのかについても、心臓病や腎臓病と同様のガイドラインがあります。世界小動物獣医師会(World Small Animal Veterinary Association : WSAVA)のワクチネーションガイドライングループ(Vaccination Guidelines Group : VGG)によるガイドラインに沿って、日本の事情や当院のある地域性(感染の発生など)、それぞれの個体のライフスタイルを考慮して、またシェルター飼育される動物ではその環境を考えて、推奨するワクチンのタイプや推奨する時期、追加免疫などを決定しています。

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2010年版です。





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このほど2015年版の日本語訳ができました。
感謝です(><)




<ワクチン接種の目的はなんだろう>

個々の動物をそれぞれの病気から守ることはもちろんなのですが、動物たちが集まる社会の中で、ある程度の割合でワクチン接種がなされているとワクチン接種を施されていない動物もその恩恵にあずかれる「集団免疫」が成立します。つまり、ワクチン接種率が高まると感染症の大発生が起こるのを最小限度に食いとどめることができるのです。集団免疫ができあがると、母乳からの免疫を受け取ることができなかった幼い子犬や子猫、ある種の病気のために免疫抑制剤の使用によってワクチン接種ができない動物たち、ワクチン接種でアナフィラキシーショックを起こすため接種することができない動物たちなども間接的に守ることができるわけです。

より多くの動物たちにワクチン接種を受けていただき、接種率を上げたいと思うので、多くの患者さんにワクチン接種をおすすめしています。

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こんな風に詳細なガイドラインが出ています。
各国による状況の違いも踏まえた上での
推奨プランになっています。
これをもとに日本の、愛知県の、西尾地区の
各ご家庭の飼育状況などを考えて
各動物のワクチネーションを決めるのが良いわけです。


<ネットでささやかれていること>

インターネット上では不確定な情報が氾濫しています。個人の飼い主さんのブログで最も多いのは、「ワクチン接種は3年に1回でよい」というものです。おそらく「海外ではこうなっている!」というところから出てきている発言なのだろうと思われます。

海外のワクチンメーカーの使用説明書にある記述は「3年ごと(場合により4年)」になっています。このようなワクチンを使用して「毎年ワクチン接種を行う」と適応外使用になってしまいます。これは科学的根拠に基づいて、というよりは法的な問題に基づいた接種規定であるかもしれません。でも、つい最近まで年1回の再接種が推奨されていて、近年同じ製剤で3年(から4年)として承認されたものです。

残念ながら国内で流通しているワクチンには「3年または4年ごとの接種で」という説明事項は見られません。こうなると慣例通り1年ごとの接種を推奨していかないと、もし3年目に入る前に伝染病の感染を発症してしまった場合には、「残念でした」では済まされない状況になってしまいます。

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主な3つのウィルス疾患についての免疫状況を
インハウスラボで調べられます。

 <本当のところ追加接種間隔はどうなのか>

それにしてもワクチンは「免疫が残っているのに必要以上に接種する必要はないだろう」というのが統一見解です。問題は「前回の接種からどのくらい経過すると免疫の低下が起こるのか」ということです。免疫持続期間(duration of immunity : DOI)はワクチンの種類(メーカーではありません。予防できる疾病とでもいいましょうか。)によっても異なるようです。海外でもコアワクチン(後述します)については3年ごとですが、人獣共通伝染病であるレプトスピラのワクチンについては1年ごとの接種が推奨されています。

 VGGは「抗体検査」を重要視しています。年に1回のヘルスチェックでワクチンを接種するにふさわしい抗体の低下が見られているかどうかを調べたうえで、ワクチン接種をするかどうかを決める、というものです。「年に1回のワクチンを」ではなく、「年に1回の抗体検査を」すすめているのです。そうすると、1年後に接種になる動物もいれば、3年先まで追加接種を受けなくても大丈夫だった動物もいる、ということになるのだろうと思います。

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何度もワクチンを接種するのは怖いですか?
ワクチンは費用対効果を考えると非常に優秀な予防法です。

 <日本の実情はどうなのか>

日本では犬も猫もワクチン接種率は他の先進国に比べ非常に劣っています。また都会と地方によっても接種率に違いがあるだろうと思われます。国内のワクチンメーカーさんが「伴侶動物ワクチン懇話会」で発行したポスターによると、国内のワクチン接種率は全国を慣らした数字ですが、犬が20数%で猫が10数%です。これは集団免疫の観点から見ると十分とは言えない数値です。もしくは個々の動物の免疫が高まっていれば、「とりあえずうちの子は安心」レベルになるのでしょうか。

一方、病院単位で「抗体の力価を調べる」ことはこの春始まったばかりのことです。これまでは、例えば「ジステンパーが疑われるがワクチンは接種してあるはずだ」というようなとき、外注で検査を実施していました。この春すでに検査を受けられた方もおありかと思いますが、院内で調べるこの検査、フィラリアの検査と違って、結構煩雑な手順で、慣れないVTさんにさせるのはヒューマンエラーのもとになりそうな作業なのです。(泣)また全行程が30分ちょっとかかるため、外来で採血をさせていただいた後、結果は後日報告になりますので、結果抗体の値が低ければ、あらためてワクチン接種にご来院いただく必要があります。さらにこれまでやってこなかった検査ですので、健康診断の価格はこの分が上乗せになってしまうのでごめんなさい、というところです。(さらに、もし春先の狂犬病予防シーズンにワクチン接種の時期が重なっている動物が大勢いると、混雑必至、昼休憩は検査タイムになるだろうと予想されます。午後診察のモチベーションをキープするのが大変だっ!)(←これは私たちの実情で、飼い主さんには関係ないことですけれどね。)こんなことを踏まえた上で「ワクチン前の抗体検査」が飼い主さんたちから受け入れられるとVGG推奨の世界標準のことができると思いますし、そう遠くない将来にもこうしたことが基準になることも願っています。

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基本は病気にならないでいて欲しい、それだけなのに
難しい問題はいっぱいありますね。
 

<考えられる理想のかたちはどんなものだろう>

これは考える理想で、飼い主さんが連れてこられる都合のことや、受けられる検査の費用面などは受け入れが可能かどうかはさておき、のものです。

①春はフィラリアと狂犬病予防だけですませる。この時期にノミやマダニの予防をはじめる。

②(初夏から夏になるでしょうけど、)キャンプの前1~2か月くらいのところで健康検査で採血しワクチンの抗体値を調べる。この日にレプトスピラのワクチンを済ませる。猟犬の場合はもう少しずれても。

③結果により他の5種または6種のワクチンを接種する。抗体価があればワクチン接種は不要。

④夏の暑さを乗り越えた秋から冬の始まりに、体重検査程度の軽い健康検査をする。初夏に実施した血液検査で異常値が出たのならば、ここでも血液検査。

1年に1回だけ、全部をこの日に済ませたい、と思われている大きめわんこの飼い主さんからすると、労力が倍増しそうですね。

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主流になっているワクチンのすべてが
コアワクチンになっているわけではありません。



<コアワクチンとノンコアワクチン、推奨されていないワクチン>

VGGはワクチンを3つの段階に分けています。

コアワクチンは、すべての犬と猫に接種すべきワクチンで、

犬の場合①犬ジステンパーウィルス(CDV

    ②犬アデノウィルス(CAV

    ③犬パルボウィルス(CPV)から犬を守るワクチンです。

猫の場合①猫汎白血球減少症ウィルス(FPV

    ②猫カリシウィルス(FCV

    ③猫ヘルペスウィルス(FHV)から猫を守るワクチンです。

どちらも結構シンプルです。

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猫のワクチンもいろいろありますが。



ノンコアワクチンは地域的な要因や地域環境、ライフスタイルによって特定の感染症のリスクがある動物に必要なワクチンで、重要だと思われているのは人獣共通伝染病であるレプトスピラ症です。世界的にも注目が集まっていて、各国で研究報告が増えているそうです。レプトスピラの接種頻度はこれまで6か月から1年ごとという比較的短期間での追加接種が推奨されてきましたが、VGG2015年改訂版では1年ごとに変更されました。農場、郊外、汚れた水辺などのリスクのある地域に頻繁に行く場合、お散歩コースがこれに相当する犬、キャンプなどのアウトドアライフを飼い主さんと共有する犬、ドッグラン施設で他の動物と交流することが予想される場合も、そしてワイルドな実猟犬ではもちろん接種が必須です。

外出する猫の場合、猫免疫不全ウィルスワクチン(FIV)はノンコアワクチンとしておすすめします。西尾地域では猫免疫不全ウィルスの感染症は比較的発生頻度の高い感染症です。VGGではこれまで非推奨ワクチンに分類していましたが、ワクチンの有効性、リスクのある猫に利益になるという観点から2015年の改訂版ではノンコアワクチンに再分類されました。

猫白血病ウィルス(FeLV)もノンコアワクチンに分類されています。

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猫免疫不全ウィルス(猫エイズ)のワクチンは
ノンコアワクチンに分類されています。




非推奨ワクチンに分類されているのがコロナウィルスのワクチンです。日本ではコロナウィルス感染症ワクチンが含まれる6種混合ワクチンは普通に流通しています。コロナウィルス感染症が問題にされているのは途上国であるアジアや中南米などの地域に限られているため、非推奨ワクチンに分類されています。個人的には、猫の伝染性腹膜炎の発生原因となるのもコロナウィルスであるし、人で問題になっている新興感染症では従来のウィルスが宿主を越えて感染することから、犬猫同居の場合などは特に、犬にコロナウィルスワクチンを接種しておいたら猫の無症状感染と体内でのウィルス変異を防ぐことができるのではないかと(想像レベルのことでエビデンスはないのですけれども)思っています。(人のSARSの原因になっているのはコロナウィルスです。)

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主となるワクチンではないですが、外出する猫には
おすすめしています。



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感染するととても怖い病気だからです。



<ワンヘルスの概念と狂犬病予防>

新興感染症というのは「新たに出現した人の感染症」のことをいいますが、このほとんどは野生動物や家畜動物の病原体に由来すると提唱されています。これまで人の健康は人の、動物の健康は動物の、という区切りで研究されてきたわけですけれども、野生動物の住む世界と家畜や人が住む世界の境界がはっきりしなくなってきていることなどから互いの感染症が種の垣根を越えて感染してきています。ここは、「人の医療」、「動物の医療」、さらに「環境衛生」に従事する人が連携して「感染症を管理する」ことが合理的で効率の良い結果をもたらすだろうというのが「ワンヘルス」の概念です。「人も動物も環境も健康であること」がひいては私たち人の感染症を減らす(無くす)ことになります。この取り組みの中でも最重要課題になっているのは人獣共通感染症である「狂犬病」です。狂犬病は新興感染症でも、再興感染症でもなく、ずっと世界に広く発生している感染症です。ワンヘルス委員会の取り組みは、日本でその接種が義務づけられている狂犬病予防の取り組みと重なるものです。こちらは抗体云々という考えではなしに、継続して年1回の接種をお願いしたいと思います。

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ワクチンについて、疑問に思う点も多数あるかと思います。またの機会にお話しすることができればと思います。今日のお話はここまでです。

テーマ : 動物病院
ジャンル : ペット

頑張った猫ちゃん、シロちゃん

 今日は頑張った猫、シロちゃんのご紹介です。

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今のシロちゃん。
やっぱり病院に来ると緊張しちゃうみたい。
お目目がまん丸になりました。



シロちゃんは、名前の通り白い毛の猫さんです。地域猫として、Oさんの仕事場近くに住んでいました。

「いつも顔を出す猫ちゃんの足がなくなってるの!でもね、捕まえようとしたんだけど、3本足で走ってね、いなくなっちゃったのよぉ。」

Oさんが自宅で飼育している猫さんの診察にいらしたとき、心配してシロさん情報を伝えてくれました。Oさんの仕事場近くには線路があり、電車にひかれちゃったのではないかということでした。どの程度の傷なのか、気になります。ほんと、どこかで死んじゃってるのでしょうか。心配です。

それにしても猫ちゃんは気丈なものです。その傷ついた足を抱えながら、3本足で歩いているのですから。

 

その翌々日の昼休憩、Oさんが飛び込んできてくれました。

「センセー!捕まったわぁ~!」

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術後のシロちゃんです。
しっぽ短くなっています。
だらり~ん、つらそうです。





さてさて、猫さん(そのときはまだ名前が付いていませんでした)、ちょっと興奮気味でしたが、全身のチェック、そして血液検査などおとなしく(というほどでもないですが、派手な抵抗もなく)させてくれました。

右の後ろ足は膝から下がなくなっています。傷は化膿して、異臭を出していました。頼みの綱の左後ろ足ですが、指がいくつかありませんでした。これだけでも重症なのに、この左足を着けて歩いていたなんて、えらかったわね。それから尻尾の先っぽも痛めていて、ここも切除しないとだめそうでした。血液検査の結果から貧血があることは分かりましたが、手術をしないわけにはいきません。すぐに点滴ができるように静脈内に針を通し、抗菌薬の点滴を行いながら全身麻酔がかけられました。時刻は3時を回り、午後の診察時間になってしまいましたが、緊急ですもの、ごめんなさい。外来診察もお預かりや、お待ちいただくようなかたちで、猫さんの手術が始められました。(この日診察にいらしてお時間をくださった患者さん、ありがとうございました。)

 

手術は3か所です。まずは一番ひどいところ、失って化膿している右の後ろ足の汚い部分を取り除いて、きれいな部分でとどめ、先を皮膚でくるむ断脚の手術です。骨の先を筋肉でくるみ、さらに皮膚がはじけないようにゆとりを持って縫い合わせます。それから、左の後ろ足ですが、なんとか残った指とパットを無理のないようにつなぎ合わせる形成手術です。縫い合わせの仕方によっては、この足を着地して歩くため皮膚がずる剝けになってしまいます。着地する部分がけずれてしまわないように、また突っ張って傷がはじけてしまわないように注意深く縫い合わせました。それから尻尾の手術です。気になる尻尾が長すぎると残った尻尾の痛みを感じ、先々猫が噛んでしまうので、やや短めに整形しました。麻酔から2時間。猫さんの手術は無事終了しました。

外科チームはあとを祈るのみになりました。

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右後ろあしは切除してなくなっています。
痛々しいです。
投げ出された左後ろ足もほそーくなっています。




そこからバトンタッチされたのが、術後管理を担当するチームです。

元々が屋外で暮らしているので、栄養状態も優れているわけでもなく、軽度の貧血も手術により喪失した血液もあることから、悪化してました。そんなわけでなかなか思うように状態が良くなっていきません。舐める程度には食餌もしてくれましたが、ウンチの状態もゆるゆる。下痢便です。検便すると「マンソン裂頭条虫」や「つぼ型吸虫」などの、へびやかえるを中間宿主にするおなかの寄生虫がいることも分かりました。点滴したり、駆虫薬を与えたり、傷の消毒をしたり。健康な猫さんなら、悪いところを取ってしまうとぐんぐん良くなっていくのに、隣室の猫舎が入れ替わり立ち替わりニューフェイスに変わっていくのに、シロちゃん(この頃にはすでに、呼び名はシロちゃんになっていました)の部屋だけ、新陳代謝なし。点滴もアミノ酸を入れたものやちょっとハイカロリーなものにしても、ぐぐぐーっと良くなる気配が見いだせませんでした。かろうじて体重はキープ。だけど、ここでガツンと力が欲しいですっ!

 

「ハートさんちの夢子ちゃん」はいつも誰かの命を救う救世主。みんなのエンジェルなのですが、今回も夢ちゃんが血液を分けてくれました。いつも感じることですが、輸血のための血液をドナーから採血するのは心が痛みます。こんなことするために生まれてきたんじゃない。だけど動物病院に飼われているからという理由で、何度となく血液を供給してくれています。私たちは善意で自分の血液を献血するし、自己血輸血のために術前に採血することもあるでしょうが、すべて自分の意思です。でも、猫も犬も、そんなことはありません。

「ごめんね、夢ちゃん」。

 

そんな悲しみを抜け、夢ちゃんから赤血球の命をもらうと、シロちゃんはめきめきと良くなってくれました。そして、お外猫の意地を見せつけてくれます。

「しゃー!」

おいおい、それはないだろぉ~(泣)

こうして、そのあと体重も増え、鉄剤の効果も出て貧血も改善され、シロちゃんの体重は一番少なかったときの2割増し。すっかり傷も癒え、Oさんに連絡できる日が来ました。


 しろ4
今のシロちゃん。
しっぽの毛がなかなか伸びてきません。
なんだか目立っちゃうなぁ。
指2本がなくなった左後ろ足は
機能異常をほとんど感じさせません。


Oさん、その後仕事場から自宅に連れて行ってくださり、今は先住猫さん(おっとりしたやさしい猫ちゃんなのです)も受け入れてくれ、シロちゃんは立派な飼育猫さんになっています。

ほんと、シロちゃん、よく頑張ってくれました。

そして保護してくださったOさんにも感謝です。

 

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ご支援ありがとうございます。

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袋物のほか、アクセサリーなどの小物もあります。
手作り上手な患者さんのご協力です。

おわりに

今回の手術と入院の費用は、病院とOさん、そして皆さんからいただいた「のらねこさんのためのご協力金」を一部利用させていただきました。ありがとうございます。今後も身寄りのない猫さんの救助に使わせていただきます。これからもご協力願えると助かります。

テーマ : 動物病院
ジャンル : ペット

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Author:ハート動物病院
ハート動物病院です。
〒445-0062
愛知県西尾市丁田町杢左51-3
TEL/0563-57-4111
オフィシャルサイト:http://www.heart-ah.com/

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