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心臓病と栄養

 810日の健康ハートの日、1日遅くなりましたが、今日は心臓病と栄養のことをお話しします。

 

<はじめに・心臓病のこと>

心臓病を解剖学的な部位別によって分類すると、①弁膜疾患、②心筋疾患、③心膜疾患の3つのカテゴリーに分けることができます。心臓病というと、小型犬の加齢に関連した僧帽弁閉鎖不全症がまず浮かぶと思いますが、幼少期に発見される心奇形もあるし、心筋症や、ごくまれですが心膜疾患などもあります。

弁膜疾患の代表はキャバリアキングチャールズスパニエルにみられるような僧帽弁閉鎖不全症です。心臓は血液を全身(と肺)に送り出す仕事をしていますが、弁の閉鎖不全があると、血液の逆流により心雑音が聴取できるので初期の疑いが始まります。血液の逆流は一方通行になっている部屋を通過するときに前からバックしてくる人で混み合い、また混乱している状態です。筋肉でできている部屋ですから人数が増えると膨らみ(拡張)、常にその状態が続くと壁が強化されて厚くなり(肥大)ます。血液を要求する組織への血液供給というニーズを満たすために心臓は頑張りますが、いずれは自身の働き(代償機能)だけでは立ちゆかなくなり、症状が悪化しうっ血性心不全へと向かっていきます。

心筋疾患の代表はボクサーに代表される拡張型心筋症、猫のメインクーンに代表される肥大型心筋症です。心筋の異常により血液のポンプ機能障害が発生します。シルエットでみると心臓は普通よりも大きくなっていますが心室の収縮が弱いので、拍出される血液量(血流)は減少しています。この病気では心臓のペースメーカー(リズミカルに拍動を起こす働き)にも影響しますし、それに加えて異常なリズムも起こりますので、大切な組織では血流不足に拍車がかかります。弁膜疾患が心雑音で発見されるとしたら、心筋疾患は心拍動のリズム不整で発見される病気です。(抱っこしていたら心臓の拍動が時々欠けるのを感じるんだ、というときは心電図検査をおすすめします。)

残念ながら、弁膜疾患(CVD)も拡張型心筋症(DCM)も肥大型心筋症(HCM)も、現時点では治癒的ではなく、良好な状態で維持できるように管理していくことが治療になります。(基本的に内科管理です。)お薬を毎日欠かさず投与することや、環境整備や栄養学的なフォローです。

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弁膜疾患にかかりやすいメンバーズ。



<食べることはすごく大事>

食欲は病状の経過がいいのか悪いのかを判断するのに大切な要素です。診察では最初に体重測定をするのですが、肥満で減量を試みている動物を除いて、同じかまたは増えているときは動物が安定して良い状態にあるのだろうと大ざっぱに把握しています。(心臓病では腹水による体重増もあるので増えていれば安心ということではありません。)

どんな病気でも、十分な食事が取れなくなると身体を削って栄養をまかなう(「代謝亢進状態」「異化亢進状態」ともいいます)ことになります。大きな外傷を受けたときに急性の代謝亢進状態が起こりますが、心臓病の場合は慢性的で、がん患者さんが食べていても痩せていくのに似ているかもしれません。

心臓病が悪くなったときには食欲が低下し、栄養の吸収も悪くなり、身体が多くのエネルギーを使い込んでしまうことで筋肉や体脂肪が使われてしまいます。これは「心臓病性悪液質」と言われる状況です。このような状況を避けるため、心臓病に適した栄養を摂取させることは寿命を延ばすことに貢献できます。犬が(猫も)喜んで食事をすることは非常に大切です。

ときには手作り食をつくっていただき、食欲不振状態を乗り越えていただくようなことも起こるでしょう。長期に渡り手作り食になってしまうときは、犬や猫の栄養要求を満たす食事でなければいけないので、参考となりそうなレシピをお作りしますので、それに従って調理してください。

心臓病のときに注目して欲しい栄養素などについて個別に説明します。

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心筋疾患にかかりやすいメンバーズ。
 

<やっぱり塩分制限>

心臓病を患う患者さん(人)の塩分摂取量を減らすことは心臓病の医栄養学的な管理の中心になっています。どうしてナトリウムが好ましくないのかという理論は犬も猫も同じです。食餌中の塩分増加は、血中のナトリウム濃度を上昇させ、それに連れて血管内の水分も保持され(血液量が増え)、血圧の上昇を引き起こします。血圧が高くなると、心室から血液を送り出すために、心臓は末梢の血管抵抗に打ち勝つよう、さらに頑張らないと血流を流せません。高ナトリウム食を与え続けるのは病的状態の心臓にむち打つ形になります。逆にナトリウム制限食は心肥大を遅くさせることや軽減させることになります。

 

<多くても少なくても・カリウムとマグネシウム>

心臓病の治療に使われるお薬の多くはカリウムとマグネシウムの血中濃度を低下させます。カリウムレベルがしっかりしていないと不整脈は発生しやすく、また心筋の収縮力も低下します。カリウムもマグネシウムも低すぎるのは酸素や栄養素を必要とする器官への血液供給を減少させてしまいますので好ましくありません。

一方、カリウムを過剰に高くしてしまう状況が起こることがあります。高カリウム血症も心臓のリズムと血流を乱してしまいますので要注意です。場合によってはカリウムを抑えた食事が必要になる場合があります。

定期的な血液検査で、これら電解質のチェックをすることが心臓病の犬猫にとって重要です。

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心臓病のための処方食の一例です。



<効果的なビタミン>

「うっ血性心不全」は、心臓からの血液の拍出が滞り、心臓内に血液がうっ滞してきた病態です。うっ血性心不全があると病気の進行に伴い、抗酸化物質は減少してくるのに、酸素代謝のときに発生してくる活性酸素分子(フリーラジカル)が増え、それにより心筋細胞はますます傷つく結果になります。身体のさび止めとして知られる「ビタミンCやビタミンE」は活性酸素に対し抑制的に働きます。摂取していただきたい栄養素です。

葉酸、ビタミンB6、ビタミンB12も心臓病との関連があると言われているビタミンです。身体の中のメチル代謝に関与するビタミンで、それぞれが独立して違う働きをしています。メチル代謝が滞ると動脈硬化がおこりやすいのではないかという研究があります。関係ないという研究もありますが、総合ビタミン剤の形で摂取すると同時に供給が可能です。

-カルニチンは、リジンやメチオニンから体内で合成されるビタミンのような化学物質です。脂質代謝に関係するので、肥満の場合の燃焼系サプリメントとして知られていますが、心臓の筋肉細胞でのエネルギー産生にも関わっています。

 

<有効なアミノ酸>

猫の心筋症とタウリンの関係は有名ですが、犬の拡張型心筋症についてもタウリン欠乏症との関係性を疑って研究されている先生がおられます。猫ほど明らかな(タウリンを与えることが心筋症に良い働きをすること)結果は出ていませんが、このアミノ酸の供給があった方が安心です。

アルギニンは酸素と反応して一酸化窒素を生成する必須アミノ酸です。一酸化炭素は血管の平滑筋をゆるめ血圧を低下させる働きがあります。アルギニンの補給が血管機能の改善につながるのではないかという研究があります。

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活性酸素分子はからだに有害です。



<炎症を抑える・オメガ-3脂肪酸>

EPAやDHAといったオメガ-3脂肪酸は炎症を軽くするのに役立っています。魚油に多く含まれています。高齢の犬猫で関節症を発生したとき、また皮膚炎で皮膚や被毛に問題がある犬におすすめしているサプリメントですが、心臓病にも(腎臓病にも)有益です。

 

<コエンザイムQ10>

コエンザイムQ10は心臓細胞でのエネルギー生産を支援する働きをしています。そのほか、抗酸化物質としても働きます。心臓病のサプリメントとしては定番中の定番に相当するかと思います。残念なことに獣医学的なエビデンス(研究報告ではっきりと有益性があるという研究結果)は得られていません。

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病気の治療に薬と食事、定期検診が大切です。



<心臓病用療法食>

心臓病用療法食は以上のことを考慮して作られています。製品によってはサプリメントとして別に摂取して貰うと良い物質なども既に配合してあるものもあります。ドッグフードにサプリメントを加えるくらいなら、しっかり入っている療法食を使う方が経済的かもしれません。またサプリメントを与える手間もありません。

注意していただきたいのは、安定してから徐々にいつもの食事から切り替えるようにしていただくことです。診断直後、まだ十分に食欲の回復がみられないときに療法食を試していただくと犬も猫も興味を示さないので、そのまま「このフードはキライ」と判断されてしまいがちです。せっかく研究に研究を重ねて良い製品が作られているのに、調子の悪いとき1回のチャレンジで「だめだ」と判断してしまうのはもったいないです。体調の回復がみられてからトライしてください。

 

今日のお話は以上です。今回もまた話が長くなってしまいました。

なお、今月は診察が混んでいない限り、必要年齢に達している犬猫の血圧測定を無料で実施しています。(8月は心臓を大切にする月と勝手に決めたので!)まだ高血圧とは無縁だろうと思われる犬猫でも、腕にカフを巻かれ、カフ圧が高まって圧迫を受ける感覚に慣れておいて貰いたいです。

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猫の膿胸

8月に入りました。「8」は語呂合わせのよい数字のようで、早々の1日から「肺の日」でした。今週は8日が「international cat day」猫の日です。(こちらは語呂ではありません。)今日は「肺」が膨らめなくて息が苦しくなる猫の病気、「膿胸」についてお話しします。発生頻度はあまり多くありません。

 <猫の膿胸>

 膿胸は胸腔に膿が蓄積すると発生する病気ですが、病態的には化膿性の敗血症で、全身性の病気です。猫に多く発生します。発生頻度はさほど高くはありません。

膿は細菌の侵入に対する体の自然な免疫反応で、白血球(好中球)と死んだ細胞でできています。細菌感染が発生すると、炎症が起こります。血管が腫れて太くなり、血管の壁から細菌を食べる白血球や、組織を修復しようとする細胞などが血中から出てきて感染部位に集まります。白血球(ことに好中球)は細胞を食べて死に、周囲の傷ついた組織の細胞とともに、膿の特徴である濃い白っぽい黄色の液体が残ります。膿がたくさん貯留し胸膜の内側を覆い、最終的には胸腔いっぱいに広がると、肺が十分に膨らめず、猫の呼吸機能は著しく損なわれます。

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 <原因>

 膿胸の最も一般的な原因は、細菌による感染症です。猫は咬傷から膿胸になることが多いのですが、皮膚に刺さった異物(枯れ草の芯のようなもの)が体内を迷走することや、肺炎などの呼吸器感染症が胸腔内に広がったりすることによっても感染します。胸腔に定着する細菌は肺や食道からも入ることができるのです。原因菌で多いのはパスツレラムルトシダ、バクテロイデス、黄色ブドウ球菌などですが、ごくまれに抗酸菌のこともあります。

 

<症状は?>

 膿胸のある猫は突然呼吸困難の症状を示します。それまでは、食欲がない、食べない、動くのを嫌う、おとなしくしている、呼吸が速い、痩せてきたなどの症状を出すことがありますが、これらのどれも、この病気特有の症状ではありません。猫を抱いたときに熱く感じたり、耳やお腹などの毛が薄い部分に触れたときに熱っぽさを感じることもあります。冷たくなってほぼ動かなくなってきていたら危険な印です。うずくまっていて突然はっと動き、またじっとするなど、息が苦しくて身の置き所が無いときには、不思議な行動に見える動きをとることがあります。

 

<身体体検査をしてみると・・・>

診察にいらしてもらったときには、軽症の「速い呼吸」から重度の「呼吸困難」までいずれかの段階の呼吸の変化が見られます。呼吸困難は急に悪化することがあり、レントゲン検査の途中に猫が倒れ込んでしまうこともあるくらいです。
体重の減少を確認できます。そのほか、毛がばさついている様子、いかにも体調が悪そうな様子が見て取れます。
発熱を確認するときは、脈も強いのですが、胸部の貯留液のために心拍は遠くに聞こえてきます。お腹からの聴診の方がはっきりするくらいです。
脈が細く、脈拍数が少ないときもあります。猫が病気に負けそうになっているマイナスのサインになります。

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<診断の助けになる飼い主さんからの情報>

まず、猫の普段の生活や健康状態について、できるだけ詳しく教えてください。またこの病気に先行して猫に起こった事件(ここ数日~数週間の間に発生したできごと、例えば猫が隠しているかもしれないけんかの傷や胸の怪我など、びっこをひいて帰ってきたことがあるならそのようなこと)もいろいろ伝えてください。
そして、今回調子がおかしいと思ったことがいつごろから始まって、それはどのような症状であったのかを教えてください。
状態が優れない場合はいつもそうですが、飼い主さんからいただける情報の量があればあるほど、的を射る検査につながります。こんなことは関係ないかなと思わず、猫に関する情報をたくさんください。(情報が少ない場合は、多くの検査が必要になります。)

 

<診断に向けて行なう検査>

血液検査は必須です。身体の状態を知るために重要な情報が得られます。血球検査は白血球分類まで行なう完全なもの、生化学検査も電解質も含めて実施します。
呼吸困難がひどいときは、酸素を与えながら検査を進めていくかもしれません。レントゲン検査の前に、胸部の超音波検査を行なう場合もあります。呼吸困難で来院する猫の大半は難しい病気です。息を苦しくしているのがどんなものなのか見分けるのに、レントゲンか超音波どちらかということはなく両方ともに必要ですが、液体貯留があるときは胸の中の水を取り除いてから撮影した方がわかりやすいレントゲン写真が得られますし、胸部レントゲン検査をするのに猫を横に寝かせただけで呼吸不全になって亡くなってしまうこともあるのです。レントゲン検査は見やすい写真を撮影するために動物にとって楽ではない姿勢をとらせる必要があります。苦しいときにはわずかなことも命に関わるほどの負担になってしまいます。そのため、排除できる液体貯留が認められれば、排液して少しでも楽になってから検査を行なうようにします。
超音波検査は、水たまりを黒く映し(低エコー性といいます)、しっかりした物体を白く映し(高エコー性といいます)、そして石や骨などの硬いものを通さず、肺のような空気を含む物体は大変見づらくなります。超音波は水を含む組織を映すのを得意とするため、液体貯留が疑われるときは、先に超音波検査を行ない、そのまま診断と治療も兼ねて、液体を吸引排液する処置を施します。(胸腔穿刺術)

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<貯留液の検査は確定的です>

胸腔から採取した液体は、検査室で生化学的な性状を検査します。敗血症性滲出液は、pH、蛋白濃度、細胞数などに関して一定の基準がありますが、これに合致する結果が出てきます。
胸に液体が貯留する病気はほかにも有り、「乳び胸」や「猫伝染性腹膜炎腹膜炎型」などと区別しなければいけません。それぞれに生化学的な性状が異なるため、採取した液体の検査は膿胸であることを確実に決定づけるために重要な検査になります。
また、顕微鏡検査のためのスライドを作ります。細胞と細胞の間の空間に細菌があるのを見つけ出せます。好中球やマクロファージが細菌をたくさん食べている(貪食:どんしょくといいます)のもわかります。一部は病理検査用で、炎症細胞以外の、腫瘍を臭わすような細胞が混在していないかどうかを病理の先生に判断して貰うために送り出します。
排出液を滅菌チューブに取り分け、細菌学的な検査のために送り出します。細菌培養は酸素を必要とする細菌、および必要としない細菌の存在、まれに真菌も診て貰います。最も効果的に細菌を退治する抗菌薬を決定する検査も同時に行なって貰います。

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<胸腔チューブ設置術による治療>

胸腔穿刺術で液体を排除しただけでは膿胸の治療は完了になりません。幾分呼吸が楽になって、次の処置が行ないやすくなるくらいです。胸腔にチューブを設置し、この太い管を介して胸の中を洗浄する治療(胸腔ドレナージ設置術)が最良の方法です。全身麻酔下で行ないます。感染を完全に根絶するのには数日(から数週間!)かかります。このチューブを通して胸腔の排液をしていきます。とても重要な処置です。排液をするほか、チューブを介して胸腔を温かい滅菌生理食塩水で洗い流します(洗浄)。出てきた液は、どのくらいの量出てきたのか、排液中の細胞成分が減少してきているかなど、良好な兆しが出てくるのを期待しながら検査します。
この状態の猫は治療のために集中治療室に入院する必要があります。集中治療室は温度管理、酸素管理そのほか、猫に快適な環境になるように整えています。ことに酸素濃度はルームエアーに含まれる酸素濃度よりだいぶ高めに設定します。膿によって圧迫されていた肺は、胸の中がきれいになるにつれて胸の中が元の陰圧状態が戻り、膨らむことができるようになります。それに従って換気量は増え、モニターしていた猫の血管の酸素分圧(SpO2)の値も限りなく100に近い数値を出してくるようになります。
静脈内に入れた針を通して点滴とともに抗菌薬を投与します。培養検査の結果が出てくるまでは広範囲の菌に有効な薬を使います。結果が出てからは、結果に従って有効な薬を使います(変更します)。もし猫の状態が改善しない場合は細菌培養を繰り返し行ないます。
痛みに対して鎮痛薬を使うなどして、回復を早めるようにします。
炎症により消費されるエネルギーやビタミン類なども考慮に入れる必要があります。栄養学的な側面からのバックアップです。消化可能であると判断したときから、チューブで栄養を与えます。もちろん、猫が食事に嗜好性を示して積極的に食べてくれるようであればチューブは不要です。
X線、超音波(病院によってはコンピューター断層撮影(CT)、または磁気共鳴映像法(MRI)が利用可能な病院もあります)で肺に膿瘍やねじれ、異物、広範囲わたり大きな塊状になった膿などを見つけた場合は、開胸手術が必要になります。治療を重ねても膿液がうまく抜けてこない、呼吸困難の回復が良くないなどの徴候が見られたときには上のような合併症を疑うことになります。

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<入院時のケア>

入院している間は毎日注意深いケアが必要で、連日排液の検査や血液検査、レントゲン検査を通して、状態が悪い方に向かっていないかどうかを確認していきます。
胸のチューブは清潔に扱っています。また猫が気にして噛みちぎってしまわないように、胸の周りに包帯を巻き、猫の首にもエリザベスカラーを装着します。
面会時、包帯で巻かれ、そこかしこからチューブが出ていて、心電計に繋がれるコードや酸素をみるためのコードも複数繋がれている猫をICUの窓から観察すると、とても悲しい気持ちになってしまうかもしれません。猫は必死で闘っています。また病院のスタッフも寝ずの番をしていると思います。応援してください。

 

<良い兆し、悪い兆し>

初期の積極的な治療は猫の状態改善に不可欠な処置です。猫が最初の2日間をしっかり乗り切ってくれると、炎症は徐々に沈静化してきます。廃液量、液に含まれる細胞の量ともに減少してくるのは良い徴候です。猫に動きが見られたり、食欲を見せてくれるのも回復の印です。
最初の来院時に体温が低くぐったりしていたり、呼吸困難のためによだれがだらだら垂れていたり、脈が細かったりしているのは、麻酔中にも命を落としかねない危険な状況です。また、処置後も排液がたくさん続いているとか、一度良くなりかけたのにまたぶり返してしまうのは良くない兆しです。処置後も肺が十分に膨らめず呼吸が芳しくない状況は「肺癒着」があるかもしれません。このようなことは残念ながらあまり良い状態とは言えません。

 

<退院後の生活>

 チューブ設置から7日くらいすると、1日の排液量がわずか10mlかそこいらになってきます。採取した液体内の細胞数もまばらになってきます。その頃には猫も回復し、自力で食事を食べ、ICUから一般の猫舎へ移動もできます。部屋の中に置いたトイレを利用することも可能になり、いよいよチューブを外し退院できる目処がついてきます。膿が形成されたことによる肺損傷は残っているかもしれませんが(まるきり元通りということは期待しないでください)、胸腔内に液体は存在していないはずです。
 めでたく猫が退院した後は次の再診日までの経過観察の予定を立てます。感染が解消された(血液検査の結果が正常であるとか、X線写真で体液が再蓄積されている証拠がないことをもって、感染が無いと判断します)後、少なくとも1ヵ月間は抗菌療法を続けてください。猫の運動レベルは24ヶ月かけて徐々に正常に戻ります。
ほとんどの場合、再発は起こりません。よく頑張りました!


 

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学会のお話

 

「学会のためお休み」というのが多い当院の特別休診日ですが、参加した後のご報告をしていないから、疑われちゃったりしていないかな?
。。。というところで、今回は病気のお話じゃなくて、ちょっと休憩モードで学会のお話です。

 

小動物の動物病院の繁忙期は、狂犬病予防シーズンの4、5、6月。たいていの学会はこの時期を避けて開催されます。つまり、この時期以外ならいつでも、あちらこちらで開かれています。またこのシーズン中でも、勉強会は開催されています。オール全科なのが獣医さんではありますが、どの先生も興味のある分野や強化したい分野があって、卒業して何年か経つとだいたい参加傾向が決まってくるものです。もちろん引っ込み思案で学会は得意じゃ無い、という先生もおられます。ウェブ配信のセミナーも昨今できてきましたので、アクティブな私にとっても出不精モードのときには有り難いことです。


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新年度の始まりはここからです。
腫瘍学の雑誌の表紙はオシャレです。
  

さて、シーズン始まりは6月半ば、大宮で開催される「獣医麻酔外科学会」です。今年は6月の土曜日に急遽お休みにさせていただいてご迷惑をおかけしました。この学会では「獣医循環器学会」「獣医画像診断学会」「獣医内視鏡外科学会」が同時開催されます。獣医循環器学会はすでにもう100回を超える開催です。普段聴くことができない専門の先生からの教育講演を受講したり、今話題の○○病のことについて日本のトップの先生方が語り合う「僕はこうしていますよ」から「こう感じています」の話は翌日からの診療にすぐに役に立つお話です。そのほか若手の頑張っておられる先生たちが困難極まる病気の犬や猫に対して「こんな風にやってみたらうまくいきました」というような発表も伺うことができます。「それそれ、体験したことがある~、私もそうすれば良かったかもしれない~」の反省もあります。ただ単に、「すごいわぁ~、がんばってるなぁ~」なんてお口ぽかーんとしながら聴き、「いよいよ次はこんなことができるようになるのね」の最新研究情報なども入手することができます。ここは真剣に聴けば聴くほど、脳にしわが増え、重たくなりそうな学会です。


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通称「ねこ学会」
かわいい猫たちが迎えてくれます。

   

皆さんには「学会で~」と言っちゃっていますが、実は正式には学会ではなくてお勉強会というのもあります。6月最終週に開催されるのは、私たちは「ねこ学会」と言ってはいますが、「ねこの集会」というのが本当の開催名です。「猫は小さい犬なんかじゃない!」「猫には猫独特の病気がある!」「そもそも猫は猫として生まれ猫として生きているんだから!」というところを基本にして、いわゆる「猫の医学」を学ぶ集まりです。ここでは獣医師も動物看護士も隣同士の席で学びます。国際的にはISFMの組織がありますが、日本でもJSFMの組織が立ち上げられ、今年で開催が5回目になりました。


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いつも横浜で開かれる大きな学会です。
新幹線の中で予習と復習をしながら。
  

大きな学会は金曜日から土曜日、日曜日にかけて、会場も広いところででどかん!とまとめて行われるので、聴きたいセミナーが二つ三つかぶってしまうことがあります。テレビみたいに裏で録画できないわけですけれど、開催終了後、すべてのセミナーをまとめたDVDが、これまたどかん!という値段で販売されます。のべ数十時間。買ってもきっと開かなそうな気がするので「今だけ、本番!聞き漏らしませんぞ!」の気持ちで集中して学びます。

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地区ごとに出向いてくれる勉強会。
夜間が多いですが、昼間の開催はウレシイです。

  

それから以前に比べると勉強会を主催している団体も増えていまして、シリーズではありますが、毎日では無く月に1回、夜8時ころから開催されるものもあります。近くでは名古屋で開かれます。翌日が休診日ならまだしも、週半ばで診察日が3日も控えていると終了が11時、帰宅すると午前さまになるセミナーは健康上の理由で不参加になっています。


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ねこ学会のお土産。
診察中にじゃれてくれる猫さんありがとう。


学会でも勉強会でも、企業展示というのがあります。協賛してくださる企業さんのお力で、私たちの参加費も幾分かは助けられています。(それでもおサイフには冷気が吹き抜けていきますが~)休憩時間に企業さんの展示ブースをうろうろするのはお祭りのとき、縁日の屋台をのぞき込みながらそぞろ歩く感じに似ています。たとえば「麻酔外科学会」では主に高価な診断機器や麻酔後のリカバリールームになる犬舎などハイテク揃いのお店が並びます。外科器具は自分の手のひらになじむものを探したいので、直に触れることができる学会はありがたいです。書籍の販売もあります。新刊のあの本、気になっていたあの本、ぱらぱらめくって中身を確かめてから購入できます。購入しそびれてしまったあの雑誌のバックナンバーなんかもお願いすることができます。書籍は後日病院に届けていただくことになっています。重たいですものね。

一方、「猫の集会」などでは企業ブースも趣が違います。最初の休憩時間に駆け込みします。ここでは、普段手に入れることが難しい手作りの「ねこのおもちゃ」が並ぶのです。気に入ったものを選びたい!売り切れになっちゃう前に!の心理です。自分使いのねこグッズもいっしょにゲットです。「学会に行ってそれ?」っていうお土産を持ち帰ります。診察室で得意そうに猫のおもちゃをぴらぴらさせていたり、わんこのおやつが変わっていたりするときが、「アタラシモン」を仕入れてきたときです。そのほか、薬屋さんや検査関係の会社さんも参加されています。中部地区担当だった方が関東の担当になっていて、「お久しぶり~」「元気にしておられました~?」なんていう再会があるのもうれしいことです。新情報をいただいたり、お試しのフードをいただいたり、企業ブースも実りのある場所です。


 

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CATVOCATEの認定証をいただきました。
獣医師会の生涯研修の修了証や認定証と同様、
いただけるものがあると励むタイプです。

今月末も変則のお休みにさせていただいております。
明日の月曜日は診療、火曜日が休診です。すみません。

今回は大阪と東京の2つの会場で、3日連続で開催されるスペシャリストのための国際セミナーです。日程の調整が難しく、火曜日のみ受講することにしました。JAHAのセミナーは中身が濃く、通常は朝から夕方まで、3日間、合計18時間を同じテーマを学びます。90分1コマの大学の講義だと12講座分です。途中、うっぷしてしまわれる先生もちらほら見受けられるほどのハードさです。眠気覚ましの濃いコーヒーと、脳に栄養を与えるチョコレートを机の上に置いて受講です。先に送られてくる資料に目を通すつもりですが、ときには、新幹線の中で読む泥縄式予習になります。スペシャリストの先生はセミナーに関連した質問も、少々逸れているような質問でも丁寧に答えてくださいます。日々の診療で「こうしちゃいけないのかなぁ」など迷ったことをまとめて質問票に書けるように頭でまとめていきます。講師の先生は海外からお招きすることの方が多く、微妙な言い回しのこともありますが、通訳の先生が非常に上手で、わかりやすいのです。そんなこともJAHAのセミナーを気に入ってずーっと参加させてもらっている理由です。


今後ですが、8月のお休みには腎泌尿器学会があります。発足当時は各大学で持ち回り、学内で開催されていました。キリ番になる年はおしゃれな場所で開催されましたが、もっぱら都内の貸し会議室的な場所での開催で、お祭り的要素がみじんも感じられない、堅実な学会です。

8月の最終週は中部地区の学会もあります。北陸3県をふくめた中部地区8県が持ち回りで開催してい

ますが、今年は長野県での開催です。さらに9月には大きな大会、アジア小動物獣医師会連合会FASAVA-TOKYOが開かれることになっています。まとまってお休みをいただくことになると思います。これまで同様ご理解を賜わり、お休み前後の来院にご協力いただけますと幸いです。

 

 


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クッシング症候群とお薬

クッシング症候群に使うお薬に欠品情報が出て、ドタバタしました。
クッシング症候群は、腎臓近くにある小さな組織である「副腎」で作られる「コルチゾール」というホルモンが過剰に分泌されて起こる病気です。犬のホルモン系の病気というと、知名度が高いのは糖尿病ですが、発生割合は糖尿病より多いかもしれません。8歳を超える高齢犬、オスよりもメスに多く見られる傾向があります。
今回はさらっと概要についておはなししてから、お薬にまつわる注意について追加します。

<見過ごされているかもしれない!>
クッシング症候群の症状は
① 水をたくさん飲む、オシッコの量や回数が多い
② 食欲が旺盛、食事量が多い
③ 皮膚が薄い、脱毛部がある
④ お腹がふっくら、ぷっくり膨れている
⑤ 動くのがキライ
⑥ いつもハァハァ、暑そうな呼吸をしている
などです。
全部の症状が必ず発生するわけではありません。この中で一つ二つでも「えっ!うちの子、そうかも!」と思われる節があったら検査をおすすめします。
「太っているからこんなもんだと思っていた」、というのはよくあるケースです。「こういう病気だから、お腹もでっぷりし、それなのに食欲は止まるところを知らなかったんだ」、「肥満なんじゃなかった」、というのがあります。

<どうして起こるのか>
原因の多くは「下垂体の腫瘍」ができていることです。脳にある下垂体から「コルチゾールの分泌を促すホルモン」が出ていますが、ここに腫瘍ができると過剰なホルモン分泌がおこります。それによって副腎から「コルチゾール」がたくさん分泌されます。
もう一つの原因は「副腎の腫瘍」です。副腎が大きくなって「コルチゾール」が過剰に分泌されます。
どちらが原因になっているのかは特別な血液検査で判断が可能です。グレーゾーンというどちらとも判断がむずかしいこともありますが、下垂体腫瘍が原因のことが多いです。

<手術とお薬>
治療は薬による内科的な治療と、手術により腫瘍を摘出する外科的な治療、放射線治療など選択が可能です。根治的な治療というと外科療法です。けれど非常に専門的な手術で難易度も高く、内科的な治療を選択される方が大半です。内科的な治療は、症状を緩和することが目的です。原因となる腫瘍はそのままになっているので、徐々に腫瘍が育って大きくなる日がやがて来ることは頭の隅にとどめておかなくてはいけません。

<お薬をのむときの注意>
このお薬(トリロスタン)をのむと、これまで盛んにお水を飲んでたくさん排尿していたのが、落ち着いてきます。水を飲む量も食事の量も適切になって、排尿量も減少します。これはそのまま循環する血液の量を減少させることですから、投薬量が身体に合っていないときは低血圧になってしまうことが考えられます。
また、心臓病や腎臓病のときのお薬の一部と併用すると、血液の電解質バランスが乱れ、腎臓から排泄されるべき窒素代謝物が滞って高窒素血症になってしまう可能性もあります。
お薬を飲み始めたら、定期的に血液検査を行ない、具合が悪くなっていないか、適正量でコルチゾール値をコントロールできているかどうかをチェックしましょう。

<モニタリング>
犬の状態にもよりますが、不安定な時期は2週間ぐらいで診察に来ていただきたいです。安定期であれば6週間くらい開けても大丈夫かと思います。
お家では活動的になっているか、飲水量、尿量、食欲の変化がどうなのかお伺いします。病院では皮膚の様子、体型に改善があるか、呼吸様相はどうかなどチェックします。
毎回ではありませんが、血液検査(電解質や腎機能項目)を実施するときに、血中のコルチゾール値を確かめることがあります。薬の量や投与回数が今の状態に合っているかどうかを確認したいのです。長期に渡って薬を飲んでいくと、薬に対する感受性が変化して、クッシング症候群の症状が再発したり、反対に副作用を現したりすることがあるためです。

<副作用>
クッシング症候群のお薬の副作用は、副腎の機能低下であるアジソン病と同じです。
① 元気がない
② 食欲がない
③ 脱力して動けない
④ 身体が震える
⑤ 嘔吐する
⑥ 下痢になる
⑦ 血便が出る
などの症状が出てきます。
副作用が出てしまったら、すぐに病院に駆けつけていただくか、または緊急用のプレドニゾロンを服用させてください。クッシング症候群のお薬は数日お休みにします。症状が軽ければ休薬するだけで1日か2日もすると状態が安定してきます。
そして薬の再開は慎重に行ないます。半分くらいにすることもあるし、もっと少なめの量から再スタートすることもあります。診察により、決定いたします。

<ストレスに弱くなる>
クッシング症候群のお薬で、からだはストレスに対処するのが難しい状況になっています。ペットホテルに預けに行く、トリミングに出かける、激しい運動を行なう、別の病気を併発した、入院が必要になったなどの場合、「うちのこ、ストレスに弱い!」とわかっているときは、1日とか2日前からお薬を控えます。そしてストレスのかかるイベントが終了したら薬を再開してください。
万が一、ストレス状況に陥った場合に備えて、ストレス対応ができるステロイドのお薬を持っていると安心かもしれません。


今日はクッシング症候群と、その治療薬、トリロスタン服用に際しての注意についてお話ししました。まだお薬は潤沢な流通という段階には至っていないようです。いつもと違うお薬になることも予想されます。ご迷惑をおかけいたしますがよろしくお願いします。

テーマ : 動物病院
ジャンル : ペット

猫のシュウ酸カルシウム尿石

 シュウ酸カルシウム結石・猫の場合

 

猫で近年問題になっているのはシュウ酸カルシウム結石です。猫にできた腎結石と尿管結石の90%以上はシュウ酸カルシウム結石です。シュウ酸カルシウム結石は内科的な溶解ができません。好ましいのは結石の形成を予防して、腎機能が元に戻らないほどの救急事態を避けることです。

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待合室に掲示しています。

<典型的な例>

    腎臓に石ができることから始まります。けれど石が腎臓にできても症状はありません。腎盂炎があるとか、その石が落ちて尿管を通過する段になるまでは痛くもないからです。

    腎結石が片方だけの時、石が尿管に落ちて、完全な尿管閉塞になり、腎臓が腫れてくると痛みが発生します。このときの痛みを猫が耐えてしまい、数日過ごしてしまえば、病気の検出は困難です。「なんか調子が悪い日があったかな」で終わってしまいます。これが最初の尿管閉塞ですが、結石がないもう一方の腎臓は健全なので、血液検査を行っても腎機能をみる項目には変化はありません。そのまま診断につながらず、閉塞を起こした方の腎臓は緩やかに機能を喪失していき、徐々に委縮して、のちに「小さな腎臓」と言われることになります。残された腎臓は2つ分の働きを余儀なくされるために頑張って働きます。代償性肥大をおこし、のちに「大きな腎臓」と言われることになります。落ちた石は尿管にとどまることもあるし、膀胱まで落下することもあります。

    実質一つで頑張っている腎臓に結石ができ、この石が尿管に落下し排尿困難になった時、2回目の尿管閉塞になるわけですが、このときは1回目の落下時とはだいぶ状況が違ってきます。腎臓が腫れて痛みが出るほか、急な腎機能の低下によって「おう吐」や「だるそう」などの尿毒症症状を出します。これは危機的な状況です。腎機能の障害は全部の機能の2/3から3/4が失われるまで血液検査上では明らかにはならないので、残る機能はわずかになっています。また、いわゆる猫の慢性腎臓病に見られる状態と、こうした救急時に見られる急性の腎障害とでは、同じ検査項目を見ても身体の状態を推し量るのに大きな違いがあるのです。レントゲン検査では大きさの異なる二つの腎臓を確認することができます。これは「大きい腎臓、小さい腎臓症候群」と呼ばれてきました。そして小さな石が尿管で立ち往生していることもわかります。エコー検査でも腎臓の大きさの違いは判りますし、もっと有効なことは腎臓の尿が集まる部分(腎盂)が広く拡張していて、それに続く尿管も太くうねっていることで、腎臓からの尿の流れが悪いことが判明します。痛みのある猫が詳細なエコー検査をするのに耐えてくれるようであれば、尿管内に詰まった石の存在も確認することができます。

このようなストーリーで経過するのが典型的な例ですが、たいていは③の時点で病院に連れてこられることがほとんどです。こうした経過ではない猫もいます。

 sick-cat.png
急にぐったりして発見されることが多いです。

<緊急事態にどう対応するか>

猫の場合、尿管閉塞の80~90%は部分閉塞で、腎臓で作られた尿は少しずつ膀胱へと流れると考えられています。しかし内科的に尿管の緊張を解き、点滴によって尿管の石を膀胱に導くことをトライするのもせいぜい24時間から72時間程度です。治療をしていても尿がしっかり作られないとか、高窒素血症が進行するとか、そのほかの問題が浮き彫りにされてくるときは緊急の手術を行わなければいけません。この時間は尿管結石が通過することを期待する時間というよりは、むしろ腎臓や尿管の手術に対して熟練した外科系の専門医と連携をとるのに必要になる時間と考えた方がよさそうです。とりあえずの内科療法はまず奏功しないだろうけれど、次の手立てのためのつなぎ治療ということです。代謝性アシドーシスを抑え、命に危険のある高カリウム血症をコントロールします。十分な排尿がない場合は、水分過多になってしまうこともあるためしっかり観察を行う必要があり、入院管理以外は対応不能です。(通院で様子を見ることは危険な状況です。)

家庭ですでにこうした時間を経過してしまった場合、治療に対する効果が芳しくないことが多いです。

運良く、尿管閉塞の事態を内科的に切り抜けることができる(内科治療が有効であった)割合は813%だけだったという報告があります。

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高窒素血症があると激しい嘔吐が続きます。
 

<専門医がやってくれること>

二次病院では、腎臓の圧を回避させ、緊急的に尿を腎臓から排除する処置をしてくれます。そのまま内科的な加療を続け、腎機能の回復を待って(1週間かそこいらです)、本格的な尿管の手術に入ります。尿管に残された機能を推測するために、レントゲンの造影検査を必要とするかもしれません。尿管の機能が残っていれば切開と石の切除を行ないます。尿管の機能が怪しいと、石を取り除いても尿の流れを期待することはできないため、新しく尿路を作る必要があるでしょう。これらの生体に頼る手術をあきらめて、別の装置を体につける(皮下尿管バイパス手術)を行うことになるかもしれません。尿管ステントによる手術は再発率が高いという報告があります。

さらに術後も、腎機能の回復を促すための密度の濃い内科療法が継続的に行われます。

ひとたび急性の腎障害を起こすと、腎臓に対しては機能障害を残しての回復が最良の予後になるかと思います。慢性の腎臓病へと移行することがほとんどで、腎機能を悪化させてこの救急事態の間に死亡してしまうことさえもあるくらいです。全く腎機能を落とさない結果に終わることは期待が薄いです。残念ながら生存率は平均して30%程度と言われています。

この事態を切り抜けるためのキーポイントは熟練した経験豊富な獣医外科医と、腎臓内科に卓越した獣医腎臓内科医の連携といっても過言ではないでしょう。

退院までに1か月近くを要することになるだろうこと(場合によってはそれ以上)、そしてその後もずっと慢性腎臓病の管理が続くことは覚悟してください。

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生死の分かれ道になります。

<偶然見つかった石をどうするか>

石があっても症状はなく、たまたま別件で検査をしているときに発見することがあります。この場合は定期的に結石の動きを観察することになります。残存する腎臓の機能も検査しながら観察していきます。経過観察は何もしないのではなく、しっかり観察をしながら定期検診を受けていただき、その時々に必要と考えられる検査、血圧測定、血液検査、尿検査、エコー検査、レントゲン検査などを定期的に行うことです。

 

<結石形成のリスク因子>

猫においてもシュウ酸カルシウム結石の形成原因は不明です。

石を形成しやすいリスク因子はいくつか知られています。

・中年齢から高年齢の室内単頭飼育猫で、肥満傾向にある猫

・高ナトリウム、高カルシウム、高シュウ酸食を食べている。

 (もしかしておやつ摂取が多い?)

・水分摂取が少ない。

・酸性尿。

・血液検査で高カルシウム血症のことがある。

個人的には、アメリカンショートヘアーに多いイメージを持っています。

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回復しても腎臓を見守ります。
偶然の石の発見でも定期検診で見守りです。

<結石形成を抑える>

緊急事態を回避できても、次にまた石が形成されてしまうと、同じことが起こりえます。再発を防止するため、また石の形成を抑制するために、できることがあります。

シュウ酸カルシウム結石の再発を最小限に抑えるのは、尿中のシュウ酸カルシウム濃度を下げること、尿の酸性化を避けること、そして過剰なタンパク質含有量の食事を避けることが3本柱です。

シュウ酸カルシウム結石が診断された猫は、高カルシウム血症関連の検査を進めていく必要があるかもしれません。原因として考えられることがわかったら、これを排除するようにします。

再発防止食(病院食)を与えます。再発防止食はタンパク質、カルシウム、ビタミンDが過剰にならないようにそして適度なナトリウムとリンの含有量で、可溶性繊維を含むように設計されています。再発防止食は尿中のシュウ酸カルシウム濃度を下げるのを目的として特別に研究し作られているフードです。

もちろんのこと、水分摂取を増やすようにします。処方食にはドライフードとウェットフードが有りますが、ウェットフードの方が適しています。猫ではシュウ酸カルシウム管理に理想とされる尿比重は1.030以下です。(犬よりは濃いめです)

一般食の中にはストルバイト結石に対応することを目的に、尿を酸性化させるように作られたフードや、マグネシウムを極端に抑えられたフードも有りますが、それらのフードを安易に与えることは危険です。

もちろん、むやみにおやつを与えることも避けるべきです。

それらをもってしても、続けて酸性尿を出す猫には尿をアルカリ化させる薬や、利尿薬などの服用が進められます。

 

<高ナトリウム食はだめ>

犬のシュウ酸カルシウム結石のときと同じで、高ナトリウム食はおすすめしていません。塩分摂取を増やして水をたくさん飲ませようとする方法なのですが、確かに尿中の水分排泄が増えますが、短期間です。食餌中の水分を増やして、尿の濃さを薄めるのとは同じになりません。

 

<おわりに>

猫のシュウ酸カルシウム結石症が、命に関わるほどの怖い病気で、致死率も高いし、回復してからも腎機能に影響を与えることはおわかりいただけたでしょうか。

猫は「本来」肉食だから、とタンパク質含有量の多いフードを選んだり、肉食に偏ったおやつを与え続けることは危険です。「本来」は肉食で有ったかもしれませんが、今は屋内で過ごしており、猫の「本来」の生活はできていません。自由に遊べるエリアが狭められ、ハンティングするという猫の活動は抑えられています。そこに「本来」の理論を持ってきても役に立とうはずがありません。高タンパクフードが美味しければ、肥満を加速させる結果にもなるでしょう。

結石形成の危険はどの猫にもあります。今の食生活を見直していただき、定期検診に画像検査項目を選んでいただけるといいなぁと思います。

テーマ : 動物病院
ジャンル : ペット

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〒445-0062
愛知県西尾市丁田町杢左51-3
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オフィシャルサイト:http://www.heart-ah.com/

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