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猫に歯みがき

 猫も年齢を重ねるにつれ歯と歯茎の病気は増え、「歯周病」は高齢になった猫の「関節症」や「腎臓病」を遙かに超える罹患率であることは間違いありません。そこで、犬と同じように「猫も歯みがき!」です。長生きするからこそ、歯も大事に使って長持ちさせなければ!

けれど「猫にも歯みがき」、というと「無理でしょ」という回答が返ってきそうです。

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<いまどきの猫>

開業当初、健康な猫から採血するなんてことは至難の業でした。意識が十分あるうちの来院であれば、ちょっとした隙に壁を駆け上り、台の上の物を蹴り散らかすトラブルもあったのです。常は野を駆け巡っていて、人慣れしていない猫が、ちょっと怪我をしたくらいで病院に来たところで、じっとおとなしくなんてしてくれるはずもありませんでした。今は昼夜とも屋内で過ごし、人とのコミュニケーションもとれる猫が大半です。猫の性質が変わってきたのではなく、飼育方法が変わったことで猫の人に対する信頼度が高まり、何かされることに対してこれまでのような抵抗を示すことがなくなってきたのです。ですから犬と同じくらいの持ち方でも十分量の血液を採取させてくれる猫もまれではなくなってきました。

「ここで排泄してほしい」と交渉すれば、好みに合っているかどうかもう少し別な品を要求しているのかはわかりませんが、青空トイレではなく屋内トイレで用足しをしてくれるではありませんか。猫が「そのやり方なら譲歩してやってもいいぞ」と思うくらいの方法で、少しずつ「猫の歯みがき」を押し進めていくことも無理なことではないかもしれません。

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使用するのは犬の歯科ケアグッズと同じ物です。
デンタルペーストやデンタルジェルは味の好みもありますが
ぜひ使用してください。

<始める前に>

猫は特別な動物であることをもう一度思い出してください。嫌なことは二度と受け入れてくれません。犬の歯みがき同様、いきなり歯ブラシを口に入れようとはしないようにおねがいします。

まずリラックスの状態を維持しながら行なうことを基本にします。まったりしている時間の延長にデンタルケアを持ってくるようにしてください。膝に抱かれる猫ならば抱っこタイムが適しています。

最初はお口周りに触れるところからはじめます。おひげの付け根になる部分を上下に動かして、指でその下にある歯の感触を確かめること、ここまでです。

これになれてきたら、唇をめくって指を差し入れてみます。歯の上を指でなぞってみてください。

ここまでの段階を受け入れられる猫であれば、次のステップに進めることが可能になります。

お口を触らせてくれたごほうびに、好物のおやつ(特別なドライフードなど)を手から与えてみてください。

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歯ブラシはブラシ部分が小さい物を選ぶようにしてください。
 <歯をみがく>

次の段階はデンタルシートを使った歯みがきです。歯の汚れを拭き取るイメージのケアです。口に異物が入るのを許可できるはじめの段階になります。

これもできるようになったら、次は本格的な歯ブラシケアです。ブラシは軟らかくて頭が小さい物を使います。異物感が少ない方が無難です。また、無理して全部の歯をキレイにしようとせず、上下の犬歯4本と上の左右の臼歯だけ、それも外側(頬の側)にとどめておきます。もちろん歯の裏面(内側)も磨けなくて良いです。まだ、できるといってもいつ「やだっ!」に翻るかもしれません。猫の意思も尊重しましょう。

好みのデンタルジェル、デンタルペーストが見つかると、半分舐めながら協力的になってくれるかもしれません。探してみてください。味はいくつかの種類があります。

ここまでで十分歯みがきができるようになったら、上下の前歯を前から磨いてみてください。ここまでで十分です。この先も、裏側や下顎の歯を続いてトライしなくて結構です。とにかく、あとは継続です。

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あきらめないで。歯みがきの他にも方法はあるから。



<うちのこはだめみたい>

やってみた。でもね、だめだぁ~。って子は標準です。普通なんです。へこたれないでください。

それでも歯のためにやれることはあります。あきらめないで。

歯ブラシに抵抗する猫にお勧めする一番はデンタルケアガムです。グリーニーズのカラフルな(6種類あります)「猫用歯みがき専用スナック」はプロバイオティクスも入っています。好みにうるさい猫ですが、ここの商品の嗜好性はなかなか高いです。気まぐれで飽きの来る猫でも味が6種類あれば日替わりで行けそうです。

口臭ケア向けとしても有効性が言われている「デンタルバイオ」は剤形が錠剤そのものですが、歯周病の原因菌の増殖を抑え、口腔内を対抗する良性の菌に置き換えるはたらきをするサプリメントです。そのままカミカミしてくれるのがいいのですが、それも難しい場合は飲んでも効くといわれています。実際に試していただいている猫では確かに口臭が少ないです。

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錠剤です。



<歯周病や歯肉口内炎がある猫に>

口腔内疾患がある猫のデンタルケアは根本となる疾患の治療の一環として行なわれます。その中には家で行なうのが難しいとき(急性期で特に痛みが激しいようなとき)があります。まず院内で炎症を鎮静化させてからお家ケアに入れれば、お願いしたいです。

粉を溶かして与える「ラクトフェリン」は、口腔内の潰瘍があるときに主に処方するサプリメントですが、デンタルバイオと同様の効果(口腔内細菌を良性の菌に置き換えることで、悪性菌のはたらきを抑える)が得られます。「微温湯で溶かすポンプで口に入れる使用したポンプを水洗いする」課程が面倒でなければ、(ある程度状態が安定して潰瘍が治癒してからも)ぜひ継続してお願いしたいケアです。味的には猫は許容してくれることが大半です。

犬用に開発された「インターベリー」ですが、猫でも使用した報告があります。有効性が確実になってくれば猫でも応用が可能になるかもしれません。

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<おわりに>

目標は、高齢になったときの歯周病の罹患率を減らすことです。今の努力は今すぐではなく、将来に現れます。今は「めんどくさ~」いかもしれませんし、「うちの周りじゃ、こんなこと言われてやってる猫なんぞ、一匹もおらんぞ」っていうくらい特殊かもしれません。けれど数年後、頑張ったあなたのうちの猫だけが勝利者になっています。どの方法でもかまいません。継続してやっていってください。お願いします。

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テーマ : 動物病院
ジャンル : ペット

猫の歯周病


昨年12月には犬の歯周病についてお話ししました。だいぶ間は開きましたが、「猫にも歯周病はある!」ので、今日は猫の歯周病のお話しをします。なにせ今月はペットの歯科保健月間です。

猫の口腔内疾患で、最も多いのは歯周病です。2歳で70%の猫が歯周病にかかっているという報告もあるくらい、罹患率の高い病気です。そしてわたしたちと同じように、年齢を重ねるにつれ、さらに罹患率は上がります。猫の口腔衛生についてはまだ十分に気を配ってもらえているとは言いがたい状況です。それは猫が痛みを隠したり、お口の中を見せたがらないことにも原因はあると思います。ですからいよいよ痛くて食べられない、よだれすら飲み込めないような状態(口周りやそれを拭く前足の汚れ)になって初めて気づいてもらえるようなことも多いです。

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大きなあくび。
この瞬間にお口をのぞき見ることができます。



<歯周病というのは>

歯周病は歯垢(の中の細菌)に対して炎症が起こって発生します。はじめは歯肉だけに限られた炎症(歯肉炎)ですが、やがて歯の周り(歯根膜や歯槽骨)を壊しながら進行(悪化)していきます。歯肉炎は治療により逆戻りできる変化ですが、歯周炎は治療しても完全にもとのかたちにもどすことはできません。猫は口腔内を大変不快に感じていて、毛づくろいの回数が減る、食事の食べ方が変わる等の症状を発します。これは口腔内の痛みによるものです。また、不快なだけでなく、全身のいろいろな臓器に障害を起こすきっかけにもなります。まぁ、基本、犬の歯周病と同じです。

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歯肉に色素がある猫だとわかりにくいかもしれません。
それでも歯と接する歯茎が赤いのや歯垢はわかるはず。



<症状は出るの?>

気づかれやすい兆候はあります。

・口臭がある

・よだれで口の周りが黒く汚れている

・ドライフードを噛まずに飲み込んでいる

・食事をこぼす

・歯ぎしりをする

・前の手の毛が茶色く汚れている、べっとりしている

・頬が腫れている

これらは初期症状ではなく、残念なことに少し進行してからの症状です。

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上顎の臼歯(上の奥歯)は歯石のつきやすいところです。



<こんな猫は要注意です>

・乳歯が残っている

・歯並びが悪くて重なり部分ができている

・かみ合わせが悪い

・ずっと軟らかい食事を食べている

・歯石が付いている

・デンタルケアを実施したことがない

・免疫系の機能障害がある

・全身性の病気にかかっている

 (ウィルス感染がある、口腔内の細菌感染がある、腎臓病がある、甲状腺機能低下症があるなど)

原因は細菌感染ですが、いろいろな因子が関わって重症化します。

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顎の下に触れて、リンパ節のコリコリした膨らみが
感じられることもあります。
口の中を覗いて見るのが難しいときは
顎の下を触っても異常に気づくことがあります。


<ほかの口腔内疾患を併発>

犬の歯周病と違う点があります。猫は歯周病だけでなく歯の吸収病巣などを持っていることが多いです。など、というのはそのほかに慢性の歯肉過形成(良性の腫瘍ができていることもあります。また歯茎が下がっていて、もともとは歯肉に覆われていた部分まで露出している歯(挺歯)を持っていることもあります。これは特に犬歯で見られます。一見すると「歯が伸びてきた」ように見えます。この歯の周りに歯石が付着していることもあります。長く伸びすぎた歯が折れたり(折歯)、折れた歯の周りが黒ずんでいたり、折れた残りの歯が歯肉に埋まって歯がないように見える(埋伏歯)こともあります。犬歯の部分の骨が盛り上がって来ることがあり、口唇部から触ると隠れた歯が太くなっているように感じます。ひどい炎症により、歯肉口内炎になっていることもあります。
(歯肉口内炎は歯肉と口の粘膜に炎症が生じた病気で、歯周病とは違う概念の口腔内疾患です。後日お話しします。)

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口腔内疾患とは無関係。
モデルさん、ありがとう。

 
<歯周病の病期と治療の目安>

歯肉炎まではおうちデンタルケアでOKです。歯周炎になってからは、軽度ならスケーリングで歯垢や歯石を落とします。中等度ではスケーリングのほかに歯肉の治療(抗菌薬の服用なども含まれます)が必要になってきます。重度になると抜歯を中心とした治療になります。これはより複雑で専門的な処置です。猫の歯科処置は犬の歯科処置よりも難易度が高いです。細くてもろいため、折れやすいからです。

犬と同じように、歯周病が進行して歯根周囲の炎症が激しくなると、口から鼻へ炎症が波及したり(口鼻瘻)、化膿したものが口の中へ出てきたり(内歯瘻)、頬の皮膚に穴を開けたり(外歯瘻)します。このようなときは、抜歯に続いて炎症組織を洗浄し周りの組織をきれいにして縫うなどの処置が必要になります。

 

<歯石と歯周病>

歯石が付きやすいのは上顎の臼歯です。見た目にがっちり付いているから歯周炎が重度、ちょこっと付いているだけだから歯周炎は軽度ということはないです。歯石はさほど付いてはいないのに歯周炎はひどいということもあり、見た目とは違うので注意が必要です。

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お家で頑張ってみようかな、という方、大募集!



<ホームケア>

歯周炎は犬と同様、日頃の口腔衛生が良ければ(日常的に適切なケアをしてあれば)、予防できます。軽度の歯肉炎だったら修復も可能ですが、重度の歯周病になると、治療が複雑で困難になってきます。

猫は犬ほど歯科のホームケアは一般的になっていません。犬でもまだまだの感があるのに猫の歯みがきを提案すると驚かれることもありますが、「この子、行けるかも!」という方を中心にお願いしています。できる子はできています。ぜひ、仲間入りしてください。

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おしらせ

 新年になりましたので、待合室の本を整理しました。新しい本も入れました。いくつかご紹介します。

「ごぶごぶ。ごぼごぼ」
赤ちゃんのための読み聞かせ絵本です。マツコさんのTVでも紹介されていました。単純なんだけど「泣いていた子がおとなしくなる」らしいです。絵本になる前、雑誌時代の、古いものです。韻を楽しむのもいいです。
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「てぶくろ」
イノシシが出てくる絵本、何かなかったかな?と思いついたのがこれ。探してください。出てきます。
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「猫のための家づくり」
お金をかけたらこんなすてきな猫との暮らしができるんだ、じゃなくって、工夫次第で、DIYで、と思うとすごくいいヒントがあります。飼育する猫の品種によっても採寸が違ってきます。さすがプロ。売り切れた雑誌が書籍になりました。
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「ペットたちは死後も生きている」
わかる人にはわかる内容なんじゃないかと思います。「いつまでも悲しんでないで、お母さん。」と言っているらしいです。
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「ペットは生まれ変わって再びあなたのもとにやってくる」
こちらもわかる人にはわかりそう。こちらは日本の方の本です。
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「般ニャ心経」「ワン若心経」
薬師寺の執事長になられていました。学生時代に訪ねたときには厳しい方という印象を持ちましたが、それも教育だったのだろうと思います。犬語や猫語でわかりやすく解説してくださっています。心穏やかになれそう。
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「俺、つしま」
ぜひ笑って、お帰りになってください。今回ご紹介する中で唯一のコミックです。
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「どんな災害でもイヌといっしょ」
「どんな災害でもネコといっしょ」
熊本の地震の時に活躍された徳田先生の著です。いつくるかわからない災害に備えて。さらっと読んでおいて無駄にはなりません。
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「ノーウォー」
著者からの頂き物です。短歌にご興味のおありの方へ。昭和一桁生まれの彼女が、今もなお日常をそのままに綴っている、これも心が静まる一冊です。切れ間になりがちな診療の合間に。
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「書店員が本当に売りたかった本」
ハートの患者さんは皆さん、本好き、読書好き。次、何を読もうかなと迷ったときはどうされているのでしょうか。お勧め図書みたいなのからさがしますか?私はこんな本を参考に次の本を見つけたりしています。
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「ちひろ・冬の画集」
いわさきちひろさんのほんわりした画集。冬の絵を集めた作品集です。彼女もまたNo Warを訴えた人でもあると思います。
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「みさおとふくまる」
こんな飼い方、理想的です。おばあちゃんとねこの写真集。まったりした気持ちになれます。
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そのほか子供向けの図書を中心に入れ替えしました。
それから猫雑誌をほとんど片付けました。もしバックナンバーで、「あれ、途中まで読んでた。続きも読みたい」などありましたらお分けいたします。たぶん今月中は片付けませんので、お気軽にどうぞ。
高齢犬の介護を中心にした本はそのままです。閲覧できます。お家に帰ってじっくり読みたい、という場合貸し出しもいたします。こちらもどうぞお気軽にお申し付けください。









 


 









  

 























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テーマ : 動物病院
ジャンル : ペット

前庭疾患

 「頭が傾いている、ふらふらする、食欲がない、食べたけど吐いてしまった」などで連れてこられる犬を観察すると、目がぐるぐる回っていることがあります。歩く様子を見ると同じ方向に輪を描いて回っていることもありますが、支えないと足がもつれてしまったり、止めても止まらない、芋虫ごろごろのように(身体の軸に沿って)回転してしまうなど運動機関にも問題が発生しています。これらは「前庭系」と呼んでいる、身体を真っ直ぐにさせることに関係する器官に障害が発生したときにみられる特徴的な兆候です。このような症状を出している病気を総称して「前庭疾患」といっています。今日は前庭疾患についてお話しします。

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<からだが真っ直ぐに立っていること>

耳の仕事はもの音を聴くことのほか、からだのわずかな動き(傾き)を関知して体位を保つ(重力に対して垂直になるようにバランスを保つ)という平衡感覚の仕事も行っています。砂時計を反転させたときに上から砂がさらさらと降りてくるわけですが、傾いていると下の容器に真っ直ぐ入りません。このような砂の動きを身体の器官がキャッチして、身体を真っ直ぐにさせる神経伝達が起こります。この仕組みに関与しているのが前庭神経です。体操競技の選手がさまざまな技で身体をひねっていても、フィギュアスケートの選手たちがくるくる回転しても、その後身体を真っ直ぐに立てるのはこうした平衡とバランスの機能がからだに備わっているからです。

 

<前庭疾患にみられる神経学的な変化>

まず飼い主さんがはじめに気づくのは「ふらつき」です。平衡感覚がなんかオカシイというとき、おそらく荒波の中の船にいるような感覚ではないかと思います。真っ直ぐに立っているのか、傾いているのか、次々に状況が変わるので身体が対応できていない状態です。船酔いは「食欲不振」と「おう吐」をもたらします。前庭疾患も乗り物酔いのときと同じように「食欲不振」と「おう吐」を起こします。

病院で発見できるからだの変化として「姿勢の変化」があります。「首をかしげている」のは軽度です。傾きが大きくなると「身体の軸が傾いている」状態になります。そしてそこから「横になってしまう」、さらにそれが連続して「回転してしまう」などの変化もあります。

立っていられる場合は歩き方を観察します。犬は真っ直ぐ歩いているつもりかもしれませんが、大きく輪を描いて頭を傾けている方向に進み、さいごはまた元の位置に戻ってきます。旋回運動といっています。

「目の動き」にも注目です。「目玉があっち、こっちに向いている」ことや「目がぐるぐる回っている」ことなどが起こります。視線が合いません。

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<原因は何だろうか>

学問的には脳の問題(中枢性)か、または前庭部分の問題(末梢性)か、に分類していますが、臨床的に区分を付けるのは難しいことが多いです。髄膜脳炎や小脳部分の血管性の問題(小脳動脈の閉塞や出血など)、腫瘍などが中枢性の原因として知られています。MRICT、脳脊髄液の検査なども含め精査が必要です。これはおかしいぞ!という場合に高次病院を紹介することになるパターンです。末梢性の原因としては、内耳に発生した炎症が元で前庭症状が出る場合です。それから、きっとこれが一番多いのだろうと思いますが、高齢犬に発生するタイプで「特発性前庭疾患」です。「特発性」というのは「原因不明の」と同じ意味ですが、内耳の中のリンパ液に異常があるのではないかとか、前庭器官が酔っているのではないかとか、自己免疫性疾患から発症しているのではないかなど疑われています。

この病気を人でいうところの「メニエール病」みたいに目が回って気持ちが悪くなる病気です、と紹介することもありますが、人の病気と正しく相関する病名ではありません。人では「突発性難聴」でも急なめまいが起こるわけですが、犬ではすでに老犬性難聴になっていることも多く、前庭疾患を機に難聴が発生したかどうかを見極めることも難しいです。

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<実施する検査>

発生の経過は飼い主さんでなければ分からないことですが、ゆっくりと進行してきたのか急に発生したのかは診断を進めるのにヒントになります。

意識レベルの確認や、立っているときにみる神経学的な検査の反応が高次病院へ繋げた方が良いかどうかを見極めるポイントになります。

内耳の検査は特殊なため、外耳の検査を行うくらいしかできません。耳鏡で耳を覗いて観察することです。けれど必ずしも外耳炎を伴っているとも限らないので、外耳炎があれば炎症が中耳や内耳に及んでいるだろうと想像しますが、外耳の炎症が無かったといっても内耳が無事かどうかの判断は難しいです。

血液検査は他の病気を併発していないかどうかを確認することも含め実施します。クレアチンホスホキナーゼ(CPK)は筋肉に大量に存在する酵素ですが、神経の損傷があるときにも高い値になるため注目する項目です。自己免疫疾患が特発性前庭疾患の原因の一つとして疑われていることもあり、C反応性タンパク質(CRP)の値にも注目します。さらに甲状腺機能低下症が前庭疾患の原因のこともあるため、内分泌学的な検査(T4)も行います。

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<支持療法と対症療法>

はっきりとした原因がつかめれば、原因に対処した治療を行いますが、大方は原因の特定はできないので、特効薬はありません。それでも「食べられない」「おう吐してしまう」といった問題に対しては輸液で脱水しないようにする支持療法や、吐き気を抑える注射をするなどの対症療法を行います。一般に静脈を経由して点滴を行うわけですが、ぐるぐる回転がひどいときは点滴の管もぐるぐる巻きにしてしまうことがあり、皮下補液に切り替えざるを得なくなります。乗り物酔いに似た前庭疾患は、おう吐をコントロールするのに酔い止めの薬も併用します。内耳の炎症が細菌感染からおこることがあり、抗菌薬を使用します。自己免疫性の病気が疑われる場合はステロイドの薬です。甲状腺機能低下症が確認されれば甲状腺ホルモンの薬です。あまりにもぐるぐる回転が著しく静かにできないからという理由で、鎮静関連の薬を使用する先生もおられます。当院ではトランキライザーは使用していません。

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<治りますか?>

たいていは数日で目の回転が抑えられます。しっかり止まるまでには至らないにせよ、回転スピードが遅くなるとかの変化は見られます。そして1週間から10日くらいの経過で食事もとれるくらいに回復し、2週間から3週間もすると以前と同じ生活をすることができるようになります。しかしひどく「芋虫ごろごろ」状態になってしまった場合の回復にはもっと日数が必要です。ひと月近い経過になる場合もあります。根気強い治療の継続が必要です。

それでも首の傾きは残ってしまうことがあります。特発性前庭疾患で治療後に追跡調査を行うことができた49頭のうち26頭で2か月後にも首の傾きが残っていたという報告があります。半分くらいの犬で完全な元通りにならないということになります。



寒い時期の方が前庭疾患の発生が多いように思います。頭をかしげてよたよたしているときは早めにお越しください。

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テーマ : 動物病院
ジャンル : ペット

fimA検査

 犬の歯周病は細菌感染による病気、というお話をしました。おなじようなデンタル管理をしているのに歯周病がひどい犬とそうでない犬がいる。むしろ、同じように怠っているのに、あまりひどくなっていない犬がいる、といった方が正解かもしれません。この違いを説明するのに、口腔内にいる細菌についてのお話が必要です。

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悪玉歯周病菌のポルフィロモナス・グラエ菌。



<悪性度の高い口腔内細菌がある>

歯周病の原因となる細菌を遺伝子学的に調べたところ、悪性度の強い細菌があることがわかりました。そして怖いことに人の口腔内でもこの細菌は生きていけます。ということは、ひどい歯周病を持つ犬との接触により、人もその悪性度の高い細菌に感染する危険性を持ちます。これまで、「犬の歯周病」は犬の病気であって、わたしたちは「くさい」という被害はあるけれどそれ以上の悪影響は受けないという見方でした。しかし、人にも共通する細菌であることが判明すると、それは公衆衛生的な側面からも、犬の歯周病はしっかり治療しなければいけないということになります。

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歯周病がないグループ、歯肉炎のグループ、歯周病のグループ
に分けてポルフィロモナス菌の有無とC型を比べてみました。




<ポルフィロモナス菌>

歯周病の原因菌はいろいろあります。中でも人ではポルフィロモナス・ジンジバリス菌が問題になっています。犬や猫では同じポルフィロモナス菌(共通のDNAタイプを持っている)のうちポルフィロモナス・グラエ菌が問題になっています。2012年、山崎先生たちの研究で、ポルフィロモナス・グラエ菌が犬と一緒に生活している家族の16%から検出されたと報告されました。

なお、2015年の白井先生たちの報告によると、ポルフィロモナス菌は僧帽弁閉鎖不全症の病態進行にも関わりがあることが示されています。今後研究がさらに進むと、他の全身性疾患との関連も明らかになるかもしれません。

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ポルフィロモナス・グラエ菌の保有率も、
C型菌の保有割合も意外と高い。



<遺伝子学的検査>

ポルフィロモナス・グラエ菌は細菌の周りに線毛(せんもう)という多数のけばけばを持っています。細菌同士が集まるのにも便利ですし、動物の細胞に付着してそこに居着き、侵入するのにしっかりした足場になり、細菌が増殖するのに役立つ仕組みです。

ポルフィロモナス・グラエ菌をくわしく調べていくと、この線毛を構成している遺伝子の一部、fimAには3つの遺伝子型(ABC)があることがわかりました。そして、そのうちのC型は進行性の歯周病と関連し、特に悪性度が強いこともわかってきました。

2016年荒井先生たちの調査で、434頭の犬のうち78.6%に当たる341頭がポルフィロモナス・グラエ菌を持っていました。そしてタイプCを単独、またはAやBと共有して持つ個体はこのうちの52.1%、なんと半数以上の犬は悪性のタイプCの菌を持っています。

2017年の白畑先生の報告によれば、ポルフィロモナス・グラエ菌のタイプCを保有する犬では10歳で半数ちかくの歯が抜け落ちるという調査結果が出ています。

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悪性のリスクが高いのは。。。



<歯周病を重症化させる要素>

2016年の荒井先生たちの報告のつづきにもなりますが、歯周病の重症度が高いことと関連性のあったのは

    9歳以上

    ポルフィロモナス・グラエ菌の存在

    未去勢のオス犬

    パピヨンという犬種

    ミニチュアダックスという犬種

という結果が出ていました。

個人的に思っていた結果と重なる部分も多くみられました。

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検査を受けてみませんか。



<うちのこは大丈夫かしら>

こうしてこの菌の悪いことをお話ししてくると、うちのこにもポルフィロモナス・グラエ菌が、そして悪性のタイプCがあるかどうかが気になってきたかと思います。

はい。調べられます。

細いブラシで犬の歯垢をぬぐいます。ブラシを検査機関に送り、結果が返ってくるのを待ちます。約2週間で結果がわかります。

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綿棒よりもずーっと細いブラシで歯垢を採取します。


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こんなかんじ。


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はい。とれました。



<結果がわかったら>

まずは物理的な除菌。つまり、スケーリングなどの歯科処置を行ないます。それから抗菌薬も使用してしっかり菌を落とします。その後はいつもお願いしているデンタルケアの流れに従って、日々、お家で頑張っていただきます。6か月毎には検診に来院いただき、その際に必要と思われる処置や投薬(またはサプリメントの投与)を行ないます。

歯科処置は生涯に1度行なえばそれでよいというものではありません。そこそこキレイであっても日常のケアのおかげなわけですし、うわっ!に変わっている時は十分反省すべきおサボりがあった印です。必要な処置をまた行ない、再びお手入れを頑張る、この繰り返しです。

でも、まるっきり歯科衛生を滞っていたら、口腔内細菌は増殖し、全身の組織に細菌をまき散らし、心臓を始め他の組織にも影響を与える結果になるはず。面倒なデンタルケアかもしれませんが、やればやっただけの(目に見えないこともあると思いますが)結果はあります。愛犬の健康に、そしてあなた自身の健康のために、これからも頑張ってください。

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結果が出たら。スケーリングして除菌。抗菌薬で治療。
その後はおうちのデンタルケアと定期検診です。




今日はfimAの検査についてお話ししました。健康な歯で長生きできますように。

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テーマ : 動物病院
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プロフィール

ハート動物病院

Author:ハート動物病院
ハート動物病院です。
〒445-0062
愛知県西尾市丁田町杢左51-3
TEL/0563-57-4111
オフィシャルサイト:http://www.heart-ah.com/

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