高脂血症・2

 健康診断の血液検査で、「高脂血症がある」といわれたとき、についてお話ししています。2回目です。

 

<再検査・追加検査>

健康診断で高脂血症が認められた場合、12時間以上絶食にしてもらい、再度検査をします。前回と同じ項目です。

「リポ蛋白電気泳動」という脂質代謝異常を調べる検査を実施することもできます。外部の検査機関に委託しています。ただ、この検査の意義については意見が分かれています。

カイロミクロン検査をしてみることがあります。といっても、検体を一昼夜そのままにしておくだけです。乳びになっていた血清が生クリームのような上澄みの層と、透明な血清の層とに分かれるかそのままなのかを見ていきます。これで陽性結果が出ると高カイロミクロン代謝障害が疑われますし、陰性であった場合はVLDLの停留がある可能性があります。

ただ、これらの検査と(もしくはこのような検査はさしおいて)必要だと思われるのは、高脂血症を引き起こすさまざまな基礎疾患に対する検査、例えば内分泌学的な検査や、(ネフローゼ症候群が疑われるときは)尿検査です。

 IMGP1095.jpg

 <高脂血症改善のための食餌療法>

「自分の皿から摂取した以外に身体に脂肪が入ってくることはない」という名言を前回お伝えしました。食餌中の脂肪の量と種類は高脂血症に関係します。二次性の病気の疑いがなければ、まずは食餌療法で様子を見ることにします。低脂肪高繊維食が高脂血症のときにおすすめする食事です。

脂肪含有量が乾物量で12%未満の食餌が推奨されます。また食物繊維、とくに可溶性繊維に富む食餌も推奨されています。食物繊維は腸管内でコレステロールに結合して、吸収を減少させることが知られています。また胆汁酸と結合して消化管からの排泄を増加させます。こちらは乾物量として10%以上あることが推奨されています。

もう一つ重要なことがあります。どんなに「これっぽっち」であっても、おやつは禁止です。

(注意)二次性の高脂血症の場合、原因となっている一次疾患の治療を同時にしないといけません。

 IMGP1097.jpg

<フォローアップの再診>

食餌療法で様子を見てから1ヶ月くらいしたらフォローアップのために再診にいらしてください。もちろん、食後12時間以上経過してからお越しいただきます。体重やボディコンディションスコアなどをチェックし、再度血液検査を行ないます。

高脂血症のための食事をとったからと言っても体重が減ることはないかもしれませんが、血液検査の結果にはしっかり反映されるはずです。そしておやつの結果も、(たとえ少しであっても!)反映されてしまいます。

高脂血症の結果として急性膵炎を発症させてしまわないかどうか、というのも心配事なので、一緒に調べていきます。

 IMGP1098.jpg

<治療目標に届かないときもある>

頑張っているのにも関わらず、治療目標に届かないことがあります。そうしたら内科的な薬物療法にはいります。

いくつか有効なお薬があります。

 IMGP1100.jpg

<高脂血症はそのままにしておいてもいい?>

高脂血症は肥満の証明になる検査、肥満の程度のバロメーター。そんな風に思ってらっしゃる方も多いです。それで「痩せさせられないからしょうが無い」になっておしまいになっていることもあります。ちょっと寂しいです。

高脂血症により隠れた病気を探す一つの目安になっていますから、怪しいと思われる病気があれば追加検査で明らかにし、そちらの治療が進むと高脂血症は改善させることもできます。また愛犬の様子も明るく快活に変わってきます。

それから高脂血症自体に二次的に膵炎を発症させるリスクがあるので、改善に向けてアクションを起こして欲しいです。特別な処方食や生活習慣の改善、ときには内服薬の投与によって治療が可能です。

 IMGP1101.jpg

<予防することはできたの?>

そうなのです。お気づきの通り、適正な食生活により、高脂血症を予防できることは言うまでもありません。でも、脂質代謝異常や肥満などは遺伝子によるところもあり、同じように注意していても高脂血症になる犬とならない犬が出るわけです。

<いっしょに頑張りましょう>
食餌療法ですが、がんばったちゃんには必ず結果が出ています。今度こそ、減量大作戦。動物病院の方法にチャレンジしてみませんか?一般の食餌を使って量を減らす、ライトフードをさがす、運動を増やすなど、これまで多くの方がやってきた方法ですが、うまくいっていません。おすすめしたい処方食は科学的に研究され作られています。遺伝子学的に高脂血症になりやすい体質だった系統の犬にも、2ヶ月ほど継続して食餌を食べて貰っているうちに、体質まで改善されてくるという結果が出ています。これらの処方食は少々値が張りますが、本気で取り組むのにふさわしい強い味方になってくれます。あなたとあなたの犬のために応援しているのは、当院のスタッフだけでなく、処方食メーカーの動物栄養学に詳しいスタッフたち、もちろん研究所の人たちも!また、これまでに減量に成功した飼い主さんも、です。

 

2回にわたり、高脂血症のこと、お話ししました。これでおしまいです。

 

続きを読む

スポンサーサイト

テーマ : 動物病院
ジャンル : ペット

高脂血症

 犬の健康診断、血液検査で異常値が出た!というときの解釈について。

今日は一番よくある「高脂血症」のことについてお話しします。

高脂血症は中性脂肪(トリグリセリド:TG)やコレステロール(TCHO)が増加した状態です。「脂質代謝異常症」と呼ぶこともあります。総コレステロール値が300mg/dl、トリグリセリド(中性脂肪・TG)値が150mg/dlあたりが大体の目安で、これを超えた場合が高脂血症になります。細かな数値は検査機関や検査機器によって異なります。(300150は覚えやすい数値なのでこのように書きました。)

 IMGP1148.jpg

<高脂血症は良くないこと?仕方が無いこと?>

高脂血症があると血液の上澄み部分(血漿とか血清といっています)が白く濁ってきます。血液生化学検査はこの血漿(または血清)を使います。濁っていると他の検査の検査をするのに正確性を欠くことになります。(偽の値を示してしまいます。)これは検査上で困ることです。

でも犬自体の健康上もよろしくないことがあります。例えば急性膵炎を起すリスクになることです。また高脂血症となって表現されている病気があります。高脂血症の陰に隠れた病気といってもいいと思います。高脂血症に関連した病気は内分泌疾患が多いです。

IMGP1149.jpg 

<脂肪はどこから?>

「自分の皿から摂取した以外に身体に脂肪が入ってくることはない」という名言があります。脂肪はどこかで発生したものではなく、摂取した食餌に由来するものです。けれど摂取分が過剰であることのほかに、分解が遅れていても高脂血症になります。分解が遅れているのは代謝機能に何らかの問題があるせいです。
食べたせいじゃないのかもしれない!というところがミソですね。

IMGP1076.jpg 

<リポ蛋白というのは?>

血液は水性ですが、腸管から吸収する食餌由来の脂肪は油性です。この油性の物質をそのままのかたちで水性の血液の流れに乗せて運ぶのには不向きで、運びやすいかたちになっている方が都合いいです。血液中で脂質は、外側を親水性の膜でくるんだような形状になっています。これをリポ蛋白と呼んでいて、大きさや密度によって「カイロミクロン」、「VLDL」「LDL」「HDL」に分かれています。

IMGP1077.jpg 

<カイロミクロンと高脂血症>

食事を食べた後、栄養素は小腸を通過しながら3060分後には脂質はカイロミクロンになって吸収されます。カイロミクロンは、トリグリセリドとコレステロールの両方を含み、食物から脂肪を消化する間に形成される脂質です。通常、カイロミクロンが吸収されると血清トリグリセリドは310時間の間増加し、その後もとの値に戻ります。ただ、中には食事後12時間以上もの間、コレステロール値やトリグリセリド値が高いままの状態になっている犬がいます。

IMGP1078.jpg 

 <乳びと溶血>

血液中の透明な部分である血清は、トリグリセリドの濃度が高くなると混濁してきます。血清は乳白色で不透明になり、私たちはこれを「乳び」と呼んでいます。正常な場合は食後でも血清の混濁は見られません。

脂質は赤血球の膜にも影響していて、採血後に試験管内で溶血を起させることがあります。本来は無色透明であるはずの血清が、溶血により赤く色づいてしまいます。臨床検査をするにあたってさらに不正確な値を出させることになります。どの程度の高脂血症があると溶血するのかは不明です。高脂血症がどの検査項目に影響し、どのくらいの脂血症でその項目が何割くらい上昇する(または低下する)ということも分かっていません。アルカリフォスファターゼ(ALP)は影響を受けやすい検査項目です。(一緒に上昇していることがよくあります。)

 IMGP1085.jpg

<高脂血症は無症状?>

高脂血症による症状はあまり感じられません。

犬では時々嘔吐することや下痢になること、お腹を痛そうにしたり、お腹に違和感があるような感じになったり、一過性の食欲不振になったりし、場合によってそれが数時間から数日続くこともあるようです。これはほとんど急性膵炎で見られる症状ですが、膵炎を疑って血液検査を始め超音波検査やX線検査などを実施しても膵炎とみられる検査結果は得られないことから「偽性膵炎」と呼ぶことを提唱している先生もいらっしゃいます。

ヒトで言われているアテローム性動脈硬化症ですが、犬では聞かれません。

 IMGP1080.jpg

<高脂血症の3つのタイプ>

高脂血症には3つのタイプがあります。

    食後性で高い場合

トリグリセリドはペットフードに含まれる脂質の主成分です。食餌を摂取すれば血中のトリグリセリドは上昇し、一過性の脂血症になります。脂質の代謝障害によるものではなく生理的な反応です。でも!著しい高脂血症は食後であろうと異常です。

    家族性の問題がある場合

犬種特異的に高トリグリセリド血症になる品種があります。リポ蛋白の代謝異常に遺伝が関与していると言われています。ミニチュアシュナウザーとシェルティーに発現することが多いです。

    二次的に高脂血症になっている場合

二次的に高脂血症を起させる病気も知られています。正常なリポ蛋白の代謝に変化を起させる病気です。糖尿病や甲状腺機能低下症、副腎皮質機能亢進症、膵炎、胆汁のうっ滞を伴う胆管の病気です。そのはかネフローゼ症候群のような腎疾患も高脂血症の原因になります。

 IMGP1125.jpg

お話が長くなりそうです。次回に繋げようと思います。

続きを読む

テーマ : 動物病院
ジャンル : ペット

歯みがきガムの正しい使い方

歯がしっかりしている犬は元気で長生きです。口腔内の健康は全身の健康につながりますので、デンタルケアにはぜひ関心を持って貰いたいと思います。

 今日ご紹介するのは歯みがきガムです。「歯ブラシも挑戦してみたけれど、うまくいかない。それでも歯はきれいなままでいて貰いたい。」というようなケアの意欲はあるのだけれど犬の方が非協力的!という場合におすすめです。

DSC_3572.jpg
今月の掲示板。チャート式でデンタルケアを選べます。

<まずは歯肉を健康にしてから>

いつもお話ししていますように、歯が汚れて茶色く変化してからあわてて対策を取ろうとする飼い主さんが多いのですが、すでにがっちり歯石が付いてからその上をこすってみても歯みがきではなく、歯石磨きになってしまいます。また、歯肉が赤く歯周炎を起こしている状態では歯茎に触れられると痛いので犬はいやがったりかみついたりしてきます。
まずは観察。治療の必要ありならば治療をします。そして健康な歯茎ときれいな歯に戻してから家庭でのケアは始めましょう。

 DSC_3573 (1)
お口が臭うのはお口の中の異常があるせいかも。
まずは診察から始めます。
 

<治療後のデンタルケア予定>

歯石をキレイにした後、お願いしているのは2週間の服薬で、これによって歯肉の炎症が治まります。赤く腫れていた歯茎がぴったり平らになって色も穏やかなピンク色になります。そしてその後、インターベリーを歯肉に塗って貰います。この頃にはお口のまわりを手で触れたり、お口の中に指が入ってきたりしても痛みがないため、犬は怒らなくなっています。それからこのインターベリーの期間は次にブラッシングしていただくための予備期間でもあり、飼い主さんにも犬にもお口をいじることに慣れて貰うのも目的の一つになっています。この期間を過ぎて、いよいよ本格的な歯ブラシデビューになるわけです。

 IMGP0871_2018051516000917c.jpg
インターベリーは口腔内の細菌数を減らす働きがあります。

 <どんなときに使うと良いのか>

しかし歯をキレイにしたし、歯茎にも問題は無くなっているのにやっぱりお口に触れられたくない犬もいますし、過去に噛まれたことがある飼い主さんの中には、積極的な歯みがきケアが怖くてできないという方もいらっしゃいます。そのような「歯石除去の後のきれいな歯をキープしたいけど歯みがきはむずかしい」というときに、歯みがきガムは有効だと思います。つまり、ブラッシングが最良の方法だけれど、それができない場合に2番目におすすめの方法です。歯石付着防止効果はあります。(あくまでも補助的な方法であることは記憶にとどめておいてください。)

「歯みがきガムならいつもやっています!」とおっしゃる飼い主さん、多いです。でも、違うのです。市販の歯みがきガム、効果についての検証を行なっているわけでもないけれど、パッケージに「はみがき」の表示だけ付けているようなのもあるわけです。なので、本当に効果があるものを選びました。おすすめガム、オーラベット(緑のガム)とベジデントフレッシュ(茶色のガム)の特徴についてご紹介します。

DSC_3575.jpg
一番簡単なのはタブレットや歯の処方食です。
デンタルガムによる歯みがきはその次くらい。

 <製品の特徴>
  歯垢がとれる

どちらのガムも弾力があり、歯に刺さるような感じになりますので、続けていくうちに歯垢が徐々にとれてきます。歯自体にある溝に入り込んだ汚れも取れやすいようです。歯周ポケットの中の歯垢もとれやすいです。これがいわゆる歯みがき効果です。市販のデンタルガムと名打っているものと違って、歯が折れる可能性は極めて低いです。

  口臭がへる

消臭効果に優れていて口臭が軽減されます。オーラベット(緑のガム)にはデルモピノールという有効成分が入っています。ガムの白い部分です。これは他の歯みがきガムにはないオーラベットだけの特徴がここにあります。噛むと唾液が出て、有効成分が口の中に広がり、口臭予防になるという仕組みです。
ベジデントフレッシュ(茶色のガム)にはエリスリトールやザクロが入っています。これは細菌数を減らしバイオフィルム(歯垢:プラーク)の形成を押える効果があります。そのため口臭も軽減されます。

  嗜好性が高い

多くの犬は喜んでかじります。どちらもリピーターの多い人気商品です。
オーラベット(緑のガム)はバニラの香りがします。だから噛んだ後のお口で飼い主さんをペロペロしてきたとき、愛犬のお口からはホットケーキのような匂いがしてきます。

④認定を受けた歯みがきガム

どちらも厳しい認定評価を経た製品です。米国の獣医口腔衛生協議会(歯科専門医のグループ)が推奨している正真正銘のデンタルガムになります。「VOHCAccepted」のマークが付いているのがその印です。デンタルガムとして歯科ケア研究をしているメーカーさんから出ている、もっとも信頼できる歯みがきガムになります。

⑤低アレルギー

ベジデントフレッシュ(茶色のガム)はアレルゲンになりやすい牛肉、乳、小麦不使用。植物由来原料でできていてカロリーも低く抑えてあります。 

⑥腸内環境を整える

ベジデントフレッシュ(茶色のガム)はチコリやゴボウにある多糖類や水溶性繊維が含まれていて、腸内の善玉菌を活性化させます。これは腸内フローラを調整して悪臭のガスを除去する作用もあります。

IMGP0874.jpg  
デンタルシートという手もあります。
ガムよりちょっと難易度は高め、歯ブラシほど難しくはありません。

<投与方法・これが大事!>

噛むことにより効果が得られるため、すぐに噛んで飲み込まないようにしてください。飼い主さんが手で持って与えるのが正しい与え方です。歯ブラシの代わりのガムなのですから、これが歯ブラシなんだな、という気持ちで噛ませてください。こうして与えていると飲み込むことはありません。噛みちぎって小さくなってくると、最後の方では食べてしまいますが、きちんと消化されます。万が一、気がつかないところで丸呑みしてしまっても、胃の中で溶けます。けれど丸呑みしてしまっては歯みがきガムとしての意味が無いです。小さくカットして与えるおやつではないし、犬が勝手にかじって遊ぶものでもありません。3分間はしっかりかじらせてください。全部の歯で噛めるようにガムを持つ手で誘導していきます。汚い部分で噛めるようにしたいのであれば、汚れポイントに向けて誘導していってください。

奥歯は歯ブラシもむずかしい場所になりますが、しっかり噛んで貰うと歯周ポケットの方まで歯垢を除去する効果も期待できます。ブラシングのごほうびに使うこともできます。奥歯のブラシングがむずかしいようであれば、歯みがきガムを奥歯で噛むように仕向けていき、歯みがきの仕上げとして使うのも良い方法です。

全部無くなるまでその日のうちに与えるのではなく、毎日3分間噛んでもらいます。

IMGP0877.jpg
デンタルガム、デンタルシート。その次は歯ブラシです。
 

<効果が現れるのはちょっと先>

用法通りに使用し、続けていくと歯石予防効果や口臭軽減効果が実感できます。継続して歯科ケアすることが大切です。歯周病予防につながる歯科ケアのつもりで、飽きずに続けてください。もし忙しくて毎日のケアができないような場合でも、間を開けるとしたら3日までです。これは歯垢を形成しないうちの歯科ケアになります。
 
DSC_3571 (1) 
サンプルや商品、パンフレットをいろいろ置いておきました。
手にとってご覧ください。
がんばるオーナーさんを応援します。

<おしらせ>
当院では6月4日(旧虫歯予防の日)から8月4日(歯が白いの日)まで、歯と歯茎の健康増進をする強化月間にしています。口臭の原因物質である「チオール」の濃度をチェックする検査を無料で実施します。診察後「あなたのおうちのわんこ」に最適な歯科ケアについていっしょに考えていきましょう。無理なケアはおすすめしません。つづきませんから。
歯の健康を気にしていらっしゃる飼い主さん、どうぞお越しください。

なお、「歯ブラシでの歯みがきも難しいけれど、食べれるガムを見せたらそのまま手まで噛んでしまう、怖くて3分間もガムを持っていられない」と、ガムによるデンタルケアも無理!という患者さんにも、別のケア方法もご提案しています。あきらめないでください。

 

 

続きを読む

テーマ : 動物病院
ジャンル : ペット

血液検査・リンの値が低い

 春の健康診断、血液検査の結果が続々と返ってきています。異常値の出る項目はトリグリセリド(中性脂肪)やコレステロール、そしてアルカリフォスファターゼ(ALP)が「トップ3」です。これらはだいたい肥満に絡んだ、胆泥症を疑わせる脂質異常症になります。

今回、無機リンの異常(低値)があるデータが数件返却されてきました。無機リンが高くなる「高リン血症」は腎機能の悪化とともに発生してきますが、低い方の異常、「低リン血症」です。リンの値が2.5mg/dl以下になったときに「低リン血症」と言っています。当院からの検査結果報告書には2.0mg/dlから5.3mg/dlあたりを標準値として表示してあると思います。低リン血症についてはあまり知られていないと思いますので、少しお話ししておきます。

 IMGP1071.jpg

<血液検査でリンの値が低い結果が出てきた!>

「リンが低いって言われるけど、他は何も異常が無いし。そもそも元気だよ。餌が悪いの?どうしてこんなことになるのか見当も付かない。どうしたらいいのか不安だわ。どこが悪いの?」

そうですね。その通り、活力もあり、元気そのもののわんこに発生した低リン血症でした。

 

<リンって何?どんな仕事をしているの?>

リンは動物が生きていくのになくてはならないミネラルです。「生命にかかわる極めて重要な」役割をしています。身体の中にあるリンの約85%は骨や歯に存在しています。骨や歯を構成する成分になっているのです。そして残りは細胞の中の「RNA」や「DNA」、「アデノシン3リン酸(ATP)」「リン脂質」「リン酸化タンパク質」として存在しています。細胞の成長や分化に関わったり、エネルギーを産生して利用したり、細胞膜を構成したり、脂肪酸を輸送したり、アミノ酸とタンパク質の合成を行なったりしています。リンはあまり意識されないミネラルの一つではありますが、非常に重要な役割を担っています。

 IMGP1072.jpg

<栄養素としてのリンとカルシウウム>

ミネラルにはお互いのミネラル同士の相互作用があります。1つのミネラルが別のミネラルの輸送や生物学的な効力を減少させるような拮抗作用や、2つのミネラルが互いを節約し合ったり代替えになったりして補完的に機能するような補助作用、2つのミネラルが協調して生物学的な機能を高める協力作用などです。

リンが作用し合うミネラルの相手としてカルシウムがあげられます。リンとカルシウムの相互作用により、骨や歯を硬く丈夫にさせたり、またはとんでもないところにカルシウムを沈着させたりというようなことをおこさせます。またこれらの作用にビタミンDが関与していることもご存知の通りで、太陽にあたることでビタミンDが活性化され骨は丈夫になります。しかし骨を丈夫にしようとカルシウムばかりをたくさん食事に加えるとリンとのバランスが壊れ、結局丈夫な骨を作ることができないばかりか、他の代謝機構にも影響を及ぼし逆効果になってしまうことがあります。これは子犬を育てるときに陥りやすい罠です。反対に骨なし肉だけの食餌を与えているとリンの含有量に対しカルシウムが非常に乏しいため、二次的に上皮小体機能亢進症を引き起こすし、骨がもろくなります。バランスが大切です。

IMGP1069.jpg 

<体内でのリンの調節>

からだ全体のリンの調節は腸管と腎臓で行なわれています。リンは腸管で吸収され、腎臓から排泄されます。からだの中にあるうちは、PTHホルモン(パラソルモン)などにより内分泌的に調整されています。リンの含有量が少ない食事を与えると腸管でのリンの吸収率が最大になり、また腎臓から尿への排泄を最小限に食い止めるように働きます。

身体の中で血中にあるリンはわずか0.1%に過ぎません。そしてカルシウムほど厳密に調節されてもいません。血中無機リン濃度はさまざまな因子に影響されながらいわゆる基準範囲といわれている濃度に調整されています。濃度調整に関わっているのはまずPTHホルモン(パラソルモン)のほかビタミンD、カルシトニン(これもホルモンです)、線維芽細胞増殖因子(FGF23・腎臓病のところでお話ししたことがあります)など。そして「えっ?」と思われるかもしれませんが、意外なことにインスリンなんかも関係しています。

 IMGP1073.jpg

<血中のリンが減るのは?>

    腸管からの吸収量が減少する

腸管由来ということはすなわち食餌由来です。具合が悪くて長いこと食べられなかった、飢餓状態になっている、腸の病気でリンを吸収することができなくなっている、ビタミンD不足で吸収できてない、腎臓病のための低リン食をずっと食べているまたはリン吸着薬を服用しているなどが考えられます。

    腎臓からの排泄が高まっている

上皮小体機能亢進症という病気にかかっている(この場合はカルシウムの値が高くなっています)、悪性の腫瘍があるために高カルシウム血症になっていてPTHがすごく働いている、特殊な腎臓の病気(ファンコーニ症候群)のために腎臓でリンの再吸収ができない、おしっこが大量に出る一部の病気(クッシング症候群)などが考えられます。

    細胞中へ移動している(トランスロケーション)

体内にリンはあるのだけれど、血液中から細胞の方に移動している場合があります。糖尿病によるケトアシドーシスの状態のときにインスリン治療を開始するとリンは動いていきます。アシドーシスが改善され身体は酸性から少々のアルカリ性に傾きかかっている状態です。同じように代謝性アシドーシス等のために重炭酸ナトリウムで治療しているとやはり身体は酸性からアルカリ性になり、それに伴ってリンが細胞内に移動しています。ほぼ治療に関連した状況のときです。

 IMGP1075.jpg

<身体がアルカリ性になる状況>

実は治療をしているわけでもなく、からだの自然な状況で先ほどの③の状態、身体がアルカリ性に傾いているときがあります。興奮して呼吸がハァハァというパンティング呼吸になっているときです。過呼吸の状況のとき、私たちは「呼吸性アルカローシス」がおこっているな、と感じます。とても酸素化がよく、採血した血も赤々としてきれいな血の状態です。

 

<低リン血症を起こした原因は?>

さて、リンの値が高いとき、低いとき、相互に関係するミネラルであるカルシウムの値がどうなっているのかも見ていきます。血清無機リンだけが低く、カルシウムの値は高くも低くもなっていない場合があります。体調に異変もありません。他のデータにも何にも異常は見られません。

こういうとき、たいていの場合は採血時に「ハァハァ」のパンティング呼吸をしていたことが多いです。過換気の状態では病気でなくてもリンの値は低くなります。

 IMGP1070.jpg

<ということは、低リン血症の原因は?>

まずは採血のときにどういう状態だったかを思い出してください。もし、ものすごく興奮状態にあったのであれば、過呼吸!これが原因になっていたと考えられます。そして、できれば病院の一番空いている時間帯に予約をするかまたは静かな時間帯を狙って来院して、もう一度血液検査を受け直します。次の検査のときも呼吸がハァハァしていたらまた同じ結果になってしまうかもしれませんから、それだけ注意して再検査を受けてもらうことにします。

 

<本当にリンが低い場合の症状>

もし、本当に病的な低リン血症があるとき、血管内で赤血球が溶血し、貧血になっています。ヘモグロビン尿といって、おしっこの色が赤茶色(コーヒーや薄口醤油の色)になってきます。またぐったりした虚脱の症状、静かで活動性がない沈うつな状態、または振戦という小刻みな震えなどが見られます。

おそらく、こんな症状は出していないと思います。

 今日は元気なわんこがびっくりさせてくれた異常値、低リン血症についてお話ししました。
IMGP1064_edited-1.jpg 

<おねがい>

急な気温上昇がある日も出てきました。高齢になった中型から大型のわんこを散歩させるときは、必ず携帯電話かスマホをもって出てください。もし、途中で何かのトラブルになったとき、ひとりでは犬を抱いて帰宅することもできません。誰か家人に応援が頼めるようにして出かけてください。また小型犬で、心臓が弱ってきている高齢犬も同じです。冬の間は酸素要求量も低かったために散歩をしても何も異常がでることもなく過ごされていたかもしれませんが、これからの季節は気温上昇に伴って心臓に負担が増してきます。「運動はやめてね」というアドバイスを無視して「大丈夫だろう」とお散歩に出かけられていることもあるだろうと思います。もし何かアクシデントが起こったときにすぐに対応できるように、連絡できるツールを持ってお出かけください。でもゲーム等に夢中になって愛犬の動きに無関心にならないようにしてください。


続きを読む

テーマ : 動物病院
ジャンル : ペット

全身性高血圧症・続き

全身性高血圧症のお話、前回の続きです。



 <高血圧が影響を及ぼす臓器と障害>

高血圧症が継続している(慢性的な高血圧症になっている)と、腎臓や眼、脳(中枢神経系)、心血管系に障害を与えます。障害の中には陰に隠れて、わからない状態のものが多いです。ですから、たいていは気がついたときには後戻りできないようなことになっています。

障害を受ける臓器

高血圧による影響・症状

問題を発生させる

可能性がある血圧値

コメント

腎臓

腎機能低下の進行が早まる

蛋白尿が増す

血圧>160mmHg

原因か結果かがわからない

網膜剥離

眼の中の出血など

血圧>180mmHg

「高血圧性網膜症」

抑うつ状態になる

運動失調をおこす

発作を起こす

血圧>180mmHg

虚血性脳梗塞や

出血性損傷による

心臓

心肥大

不明

 

 IMGP1164.jpg

腎臓が悪いために高血圧になっているのですが、高血圧であることが腎臓病を発症させたり、病気の進行を早めたりすることになります。腎臓病の進行のバロメーターになるのは尿中のタンパクです。

眼は高血圧性網膜症として知られています。収縮期血圧が180mmHg以上でリスクが高まりますが、たいていは「眼がおかしい」と思ったときにはすでに失明しているケースがほとんどです。

高血圧性脳症では、「抑うつ状態」で静かになる(元気がない)か、「前庭疾患」のようにしっかり立っていられないなどの運動失調、けいれん発作などが突然始まります。収縮期血圧が180mmHg以上でリスクが高まります。

高血圧は心臓にも影響を与えます。「左室肥大」といっていますが、この結果流れが悪くなった場合、すでに僧帽弁閉鎖不全症のある犬では僧帽弁逆流を悪化させてしまいます。

 

ボーダーライン未満の血圧は臓器に及ぼす影響は最小限なので、それ以上診断をしていく必要はありませんが、150/95とか160/100あたりになるとやはりそれなりのリスクが出てきますので、血圧を上げる病気が潜んでいないかどうかを見つけることに加え、今後何か症状を出すことはないのか、時間を追って継続的に測定していきます。

IMGP1162.jpg 

<高血圧症の治療>

高血圧症の治療には、心臓病の初期に使われるのと同じ、レニンーアンギオテンシン系を阻害する薬(アンギオテンシン変換酵素阻害薬:ACE-I)が使われます。アンギオテンシン受容体遮断薬(ARB)も使われることがあります。この薬1種類だけで十分にコントロールできないときには別の薬(カルシウムチャンネルブロッカー:CCB)も加えます。

投薬を始めるサインは収縮期血圧が160mmHgを超えてきたとき、というのが多くの先生達の合意するところです。

 

<心臓病でも同じお薬が処方になる>

はじめに処方するのは心疾患で用いられるお薬と同じものです。この時点で心雑音を感じられないと、「心臓病じゃないのに、どうしてこの心臓用の薬を服用するのだろう」ということになるかもしれません。お薬には「慢性心不全用」の薬として表示してありますから。でも、今心雑音が聞こえる、聞こえないということではなく、高血圧症でも同じ薬が処方になるというところを理解しておいてください。そして継続により、腎臓はもちろんのこと、心臓も、眼も、脳も守られていきます。それから高血圧によって左心室肥大は降圧剤によって改善することも知られています。

IMGP1165.jpg 

<おわりに>

心雑音、犬の症状を中心に心臓(腎臓)保護薬の投薬を開始するのでは、身体を守りきれないかもしれないと思うこの頃です。心雑音の有無の判定には、獣医師側の主観によるところもあり、軽度の雑音を聞き逃してしまう心配があるし、犬の症状の有無に関して言えば、飼い主さんの主観や気づき、犬と一緒にいる時間などの制限があるからです。腎臓や心臓を守るための投薬開始サインの一つに血圧測定はあると思います。人と同じように、ある程度の年齢が来たらルーチンに血圧測定をするといいのかなぁと思います。

それから、治療による恩恵を受けているときは好状態が続いています。「もう治ったね」「薬は要らないね」と思ってしまうこともあるかと思います。「すっかりいつもと同じ、元気も食欲もある!」からです。けれど、薬によって、このような状態が得られているだけで、薬による援助がなくなると、身体はまたこの状態を維持するために無理をしなければいけないことになります。病気には「治らないけれどうまくつきあっていくと、進行を遅らせることができる病気」があります。心臓病や腎臓病と同じように高血圧症もそういう「コントロールしていく病気」の一つです。

続きを読む

テーマ : 動物病院
ジャンル : ペット

プロフィール

ハート動物病院

Author:ハート動物病院
ハート動物病院です。
〒445-0062
愛知県西尾市丁田町杢左51-3
TEL/0563-57-4111
オフィシャルサイト:http://www.heart-ah.com/

最新記事
最新コメント
最新トラックバック
月別アーカイブ
カテゴリ
ブログランキング
検索フォーム
RSSリンクの表示
リンク
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QRコード