輸血

今日は輸血のことについてお話ししようと思います。

 

 

「貧血です。輸血が必要です」というシチュエーションは今日もどこかの動物病院で普通に繰り広げられているだろうと思います。ままあるできごとです。

 

 

<輸血をしなければならないとき>

1、外傷による大量出血があるとき。

 これは誰でもなんとかしなくちゃ!とおもうできごとです。

2、大がかりな手術で失血が予想されるとき。

 事前に準備してから手術に入るわけです。

3、持続的な出血がある場合の手術をするとき。

 たとえば腫瘍があって、いつもじわじわ出血しているようなとき、原因となる出血を抑え込みに行くわけですが、すでに貧血していますから補いながら手術をすることになります。

 

このように外科に関連した輸血は想像しやすいかと思いますが、貧血を引き起こした内科的な病気の治療のために輸血が必要になることがあります。

 

4、全身状態が低下していて食欲も出てこないようなとき。

 慢性的な貧血がいよいよひどくなってしまったような場合です。

5、溶血などにより赤血球の喪失の勢いが甚だしく造血が間に合わないようなとき。

 前回お話しした免疫介在性溶血性貧血(IMHA)などはその典型的な例です。

6、血小板数の低下で血液凝固に異常があり自然出血が止まらないようなとき。

 同じく免疫介在性血小板減少症(IMTP)です。

7、血液以外の薬で補えない物質があるとき。

遺伝疾患であるフォンヴィレブランド病(血友病によく似た病気です)は、フォンヴィレブランド因子を血液から補って出血を止めます。

このようにさまざまな場合がありますが、ひとことでいうと「輸血をしないと命が危ないようなとき」に輸血を行います。成分輸血ができるのはある程度大きな病院で、一般の動物病院では全血輸血になっています。

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<犬や猫にも血液型があるの?>

輸血、といえば気になるのが血液型です。

犬には9つの血液型があります。その中で重要なのはDEA1.1型とDEA1.2型です。

猫の血液型は3種類。A型、B型、AB型です。

犬も猫も輸血の安全性のために血液型を判定する検査を行います。どちらも簡易キットがあり、院内で検査が可能です。

犬ではDEA1.1(+)、DEA1.1(-)という判定ができます。

猫ではA型、B型の判定ができます。

事前に検査し、輸血による副反応を回避するようにしています。

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1回目の輸血は反応が起こらない?>

犬の輸血では、不適合輸血であっても最初の輸血であれば強い反応が起こるのはまれです。ラフにできますね。

しかし猫は別です。猫ではB型にA型の血液を輸血した場合は1回目でも危険で、A型にB型の血液を輸血した場合は赤血球の寿命が短く、望む効果が得られません。きちんとマッチした血液型同士の組み合わせで行うのが効果の得られる輸血になります。

 実は猫の血液型に関する問題は輸血に限りません。B型のメス猫にA型のオス猫を交配し、A型またはAB型の子猫が産まれた場合、B型の母猫から初乳を飲んだ血液型の異なる子猫(A型、AB型)は新生子溶血を起こすことが知られています。交配に際してこの予防措置をとることは生まれた子猫を不幸にしないために必要なことかもしれません。B型の多い品種は研究により明らかにされていて、ブリティッシュショートヘアー、バーマン、コーニッシュレックス、デボンレックスあたりが2059%、アビシニアン、ペルシャ、ソマリ、スコティッシュフィールド、スフィンクスあたりで1120%です。

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<輸血前にもまだ検査>

輸血前までに個体の健康状態を知るため、さまざまな検査が実施されていると思います。それでもまだ検査を行います。

血液型の適合をみる検査のほかに、クロスマッチ試験を行います。これは必ず行います。血液型を知ることができない状況であっても、この検査だけは顕微鏡さえあればできるものです。

ドナー(供給する側)の赤血球とレシピエント(受け取る側)の血漿を合わせる主試験は、輸血した赤血球が体内で壊されないかどうかをみるものです。

ドナー(供給する側)の血漿とレシピエント(受け取る側)の赤血球を合わせる副試験は、輸血した血漿がもともと体にある赤血球を破壊しないかどうかをみるものです。

輸血した血液中の血漿は量的に薄められますから、あまり問題にはなりませんが、クロスマッチ試験では主試験、副試験の両方ともをチェックします。

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<輸血を始めます>

血液型も適合し、クロスマッチ試験でも適合が確認されたら、輸血量に相当する血液をドナーから採取します。新鮮な血液が一番効果を発揮します。

犬からは20ml/kg、猫では10ml/kgくらいが最大採血量です。1回の採血で2回分使えるくらい(2症例を助けてあげられること)の量を取れるといいよね、というのが理想ですが、ドナーにも無理のないくらい、レシピエントにも効果的な分量というと同じくらいの体重の個体からそのままそっくり1回分ということが多いです。

輸血前に抗ヒスタミン剤やプレドニゾロンなどを注射し、できるだけ副反応が起こらないようにします。

準備が整ったら、一般の輸液から輸血に切り替えます。血液が滴下しはじめたらこまめにレシピエントの様子を観察します。副反応が起こったらすぐに対応ができるようにするためです。麻酔の時のようにこまかにモニタリングすることもあります。

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<輸血は安全に命を救うものか?>

輸血の効果があると、予定分量の滴下が終了するころには皮膚に赤みがさしてきて、気分さえよくなるのか食事もじきに始められる個体もいますが、すべての個体で劇的な効果が認められるものではありません。中にはひどい副反応を示す場合もあります。

血液型の不適合は事前の検査をしっかり行っていても起こすことがあります。

副反応のうちでは血管内で赤血球が溶血するために起こる反応が最も多く、呼吸、脈ともに速くなります。じんましんやアナフィラキシーショックのようなアレルギー反応に関係する反応では顔が腫れたり、血圧が急に下がったりします。発熱性の反応を示すこともあります。

重篤な症状ではすぐに輸血を中止し処置を施します。軽度で薬剤投与により乗り切れそうであれば、少々の休憩の後、スピードを落として再スタートすることもあります。

命にかかわる状態だったから輸血が適応になったわけですが、輸血による副反応のために命を落とす結果にならないとも限りません。そこまで副反応が強く出ていなくても、個体によっては少しつらい治療の範疇になる場合もあります。輸血をすれば今の状態から回避できて、体調不良が迅速に回復するわけではないことも念頭に入れておいてください。

そのようなわけで、「随分いろいろな検査をするのだな」という思いは「輸血の必要性の確認を丁寧に行っているのだな」という方向に持っていっていただけると大変ありがたいと思います。

 

 

追記

 輸血を受ける際こころの余裕がありましたら、供血犬または供血猫として日々を送り、折りがあると血液供給をしてくれる動物に対して愛情をいただけるとうれしいです。また心を鬼にして採血している私たちの、薄情だなという自問に対しても救われる気持ちがいたします。ありがとうございます。 
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免疫介在性溶血性貧血・治療と展望

免疫介在性溶血性貧血(IMHA)についてのお話、続きです。今回は治療と今後の展望について。





 <治療の中心は免疫の働きを抑えること>

治療は集中的に行われます。IMHAは命にかかわる重篤な疾患のため入院による加療が望ましいと思われます。

病院での治療目標は大きく分けて3つです。

1、免疫抑制療法

 プレドニゾロンは最も一般的に用いられる治療薬です。アレルギー性皮膚炎で痒みを抑えるために用いるのと同じお薬ですが、はるかに高用量を使います。

 プレドニゾロン単体で免疫抑制をかけるよりも別の免疫抑制剤と併用した方が治療成績は良い、という論文が出ています。(ユトレヒト大学、Pick先生ら、2008年)この研究では併用薬はアザチオプリンでしたが、シクロスポリンでも同じように効果があります。これらの薬は経口薬になりますので、激しい嘔吐があるときは制吐剤を使いながら投薬することになります。

 また、高用量のプレドニゾロンを使用するとき、消化管の粘膜を保護する薬を一緒に使います。

2、組織かん流量を守り酸素を運ぶ

 ぐったりしていて、経口的に食事や水を摂取できず、嘔吐なども発症していることが多いため、静脈確保をして、適切な補液を行います。微小血管で血栓ができるのも、血流を良くしておくと制御できます。

貧血が著しいとき、ほとんどはそのようなことが多いわけですが、輸血を行います。少なくなっている赤血球や血小板だけの濃縮輸血は一般的ではなく、全血輸血を行います。

 輸血については危険性がないわけでもありませんが、副反応を遥かに超えると思われる有益性が期待できるため、たいていの場合行われます。

3、抗凝固治療

 血栓症を予防するためにヘパリンを注射します。

 経口投与ができるようであればアスピリンです。Weinkle先生の2005年の研究でもプレドニゾロンとアザチオプリンだけの投与に比べ、アスピリンを加えた投与群の方が生存率は高いという報告があります。

 

それでも、うまくいかない。どうしよう。

というときに行うのが

4、免疫グロブリン療法

 です。そのほかに

5、ミコフェノール酸モフェチル

 というお薬を使うこともあります。リンパ球の増殖を抑制させるお薬です。

 

それでもだめ。という場合、別の病気なのかもしれません。

脾臓の組織球性肉腫はとても似たような動向をとる病気のようです。(経験がないので聞きかじりです。)血液病専門外来のある大学病院で診ていただくのがよいかと思います。

一般的には3番までの治療(もしくは4番?)が一般動物病院の治療という感じがします。

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<長期の管理>

治療の効果が上がり、状態が安定したら晴れて退院です。しかし、投薬はそこで終わりではありません。プレドニゾロンやアザチオプリンまたはシクロスポリンは長期投与が必要です。定期的に血液検査のために来院していただき、全身状態も良く、検査の結果も良ければお薬は徐々に漸減し、低用量1種類だけの維持療法に変えていきます。数カ月単位で維持していきます。たいていは6か月くらい継続でお願いしています。

 

 

<厳しいおはなし>

IMHAの死亡率は結構高く、前述のWeinkle先生の報告によると、プレドニゾロンにアザチオプリンを併用した場合の生存率は退院時で74%、30日後で57%、1年後で45%です。これにアスピリンも用いたグループで退院時88%、30日後82%、1年後69%です。1年後の生存数値が低いのは多くの犬で1年以内に再発が認められ、再び免疫抑制療法を始めなければならないということ、1度目よりは2度目の方が薬に対する反応が悪いということを意味しています。

論文を書かれるくらいの先生ですから、この分野の研究に詳しく、この病気に対する治療が得意な先生のはずです。そこで初回発症の治療を受けても、1/4の犬たちが死亡退院していることになりますし、約半数の犬は1年生存できていないということです。

IMHAという診断を受けた場合は、治癒率が低いという事実をどどーんと受け止めていただき、場合によっては覚悟を決めていただく方がいいかもしれません。今回の病態を乗り切れた場合は、がんばったわんこを褒めてやる感じです。けれど、うまく退院の運びとなっても再発の可能性があることも頭の隅に入れておいてもらい、しっかり愛情を注いであげるといいかな、と思います。

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<追記>

病気のお話を書いていますが、よくみられる病気については、どうしてこうなるのかなぁ的な部分を含めてお話しし、だからこういう治療をするんだね、途中で止めちゃぁいけないんだね、という理解に繋いでいけたらと思っています。

発症頻度のあまり高くない病気については、こんな病気があるけれど、知っていたら早めに対処できるかもしれないよね、という意味合いがあります。

今日もどこかで重い病気にかかってしまった愛犬愛猫を抱えて、悩んだり苦しんだりしている飼い主さんがいるのだろうと思います。お力になれないのが歯がゆいです。


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免疫介在性溶血性貧血

 免疫介在性溶血性貧血(IMHA)についておはなしします。

 

免疫介在性血小板減少症(IMTP)のところで免疫介在性溶血性貧血(IMHA)についてタイトルだけ書いておきましたが、こちらの病気について訪ねてきてくださる方が多いようです。なかなか手ごわい病気なのでどうしても悲観的になりがちですが、今発症している事態がなんとか鎮まってくれないか、なにか良い手だてはないものか、というお気持ちが伝わってきます。

 

さて、免疫介在性溶血性貧血(Immune-mediated hemolytic anemia IMHA)は溶血性貧血を起こす病気のうちで代表的なものです。赤血球表面にある自己抗原、薬物抗原、微生物抗原などに抗体が付着して、赤血球が破壊される病気です。

以前は溶血性貧血というと、その代表格は「玉ねぎ中毒」でしたが、昨今、皆さんが「玉ねぎ中毒」について良く知ってくださっているので、煮込んだエキスも含めてネギ類を食べてしまうことはほとんど見かけなくなりました。「免疫介在性溶血性貧血」は以前「自己免疫性溶血性貧血」といっていました。ほとんどは自己免疫によるものですから、同じもの、という認識でも良いと思います。

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<発症しやすい犬がいますか?>

年齢的には中年層。ほとんどは2歳から8歳です。

オスよりもメスの方が3倍も発生頻度が高いようです。

コッカースパニエル、ミニチュアプードル、イングリッシュスプリンガースパニエルは好発品種です。

たいていは特発性で、ときどきワクチンの後に発症したということがありますが、ほんとうにワクチンが誘発原因になっているのかどうかは議論があるところです。

あまり多くはありませんが、ウィルスや寄生虫の感染、腫瘍などに併発して発生することがあります。

春から初夏にかけての発生が多い、と私たちの間では認識しています。

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<この病気になるとどんなふうになりますか?>

急に元気がなくなって、動くのを嫌がり、寝ていることが多くなります。だるっとしています。

急な変化がポイントです。

食欲も無くなり、好きなものだけ食べるか、もしくは一切食べなくなります。

発熱があります。

嘔吐することがあります。

おしっこが濃いオレンジ色とかうすくち醤油のような色、コーヒー色をすることもあります。

明らかな黄疸は目をみると分かりやすいと思います。白目の部分が黄ばんできます。

貧血が進んでいる病期では唇や耳介の皮膚が蒼白です。

いつもより呼吸が早いかもしれません。注意深く観察するとそんなのも分かるかと思います。

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<病院で行う検査は?>

血液検査が中心です。

いつも通りの血球検査を行います。

赤血球数(RBC)が少なく、ヘモグロビン値(Hb)が低く、赤血球容積比(ヘマトクリット値:HCTHt)も低くなっています。貧血です。

日常はあまり気にしない平均赤血球容積(MCV)や平均赤血球血色素濃度(MCHC)の計算値のチェックにも気を払います。一般にMCVが高くてMCHCが低い「大球性低色素性貧血」で、これは再生性貧血に分類されます。ただしMCVMCHCも計算によって導き出される数値ですから、計算の基本になる数値(RBCHbHCT)にエラーがあると正しい数値は出てきません。

網赤血球数(RETIC)は再生度の目安になるものです。

さらに白血球(WBC)系の検査(数のカウントや大まかな白血球分類)、血小板(PLT)数にも目を通します。白血球は反応性に増加していることが多いです。内訳は好中球の増加によるところが多いです。血管内で血栓が作られている心配があり、その場合血小板数は低下しています。

ここまでは自動血球計算機によりカウントまたは計算されて数値が表示されます。

 

血球を染色して顕微鏡で観察する検査(血液トマツ検査)を行います。

赤血球の形状を確認します。大きさに違いが出たり(大小不同)、染まり方にムラのある赤血球(多染性)がみられたり、本来は末梢血中に出現しないはずの若々しい赤血球(赤芽球)が数多く出現していたりします。

免疫介在性溶血性貧血(IMHA)に併発して免疫介在性血小板減少症(IMTP)(特発性血小板減少性紫斑症:ITPと呼ばれることもあるかもしれません)を発症したエバンス症候群もあります。血小板数が減少しているのが凝集のため(血栓症)なのか、実数が少ない(IMTPを併発)のかは機械では判断がつきませんから、血液トマツ検査で鑑別を行います。

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血清生化学検査は肝酵素値やビリルビン値など通常のもののほか、C反応性蛋白(CRP)値も見ていきます。

 

血液を生理食塩液で薄めて赤血球がぎゅっと集まるのを観察する検査(凝集試験)までが院内で行える検査です。

 

外部の検査機関に委託する検査があります。

特殊な免疫に関係する検査(クームス試験)です。これは赤血球の表面についている抗体を調べる検査ですが、抗体が輸送の途中で剥がれてしまうこともあり、必ずしも陽性の結果に出てこないこともあります。そのためこの検査の結果が陰性であっても免疫系の疾患である可能性を否定することができません。

血液凝固系検査はプロトロンビン時間(PT)、活性化部分トロンボプラスチン時間(APTT)、フィブリン/

フィブリノゲン分解産物(fibrin/fibrinogen degradation products : FDP)、Dダイマー(D dimer)、アンチトロンビン活性(AT)などを調べてもらいます。血栓ができていないか、血管内凝固(DIC)が始まっていないかをみるためです。すべての検査項目を網羅することができないこともあります。

 

尿検査も行います。ビリルビン代謝の様子や腎機能をみるためです。

そのほかX線や超音波の検査で脾臓や肝臓の大きさや内部の様子、腹水の有無などを確認したりします。

 

長くなりました。治療については次回に回します。

 

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