犬のリンパ腫4

 犬のリンパ腫についてのお話し、4回目です。       

ご家族の方にお願いしたいことや栄養のことについてお話しします。

 

<ご家族のみなさまにお願いしたいこと>

抗がん剤治療を始めるとすっかり元気になって腫瘍も触らず、治ってしまったかのような日が来ます。それでもあらかじめ決めた日程通りに抗がん剤を用いて治療していかないと、すぐに再燃の日が来てしまいます。「良くなった」と思っても、「ははぁ、さては先生の誤診で腫瘍なんかじゃなかったんだな」なんて思っても、もう一度ひどかった日のことを思い出して、予定の治療日には来てください。

それから抗がん剤治療の中で、最も危険なのは発熱症状が出たときです。発熱の原因は白血球減少です。残念ながらほとんどの化学療法において、白血球減少は避けて通ることができません。予定している再診日は理論的に白血球数が最も低くなる頃にしています。ずれることのないように検査にお越しいただき、事前にはなはだしい減少症にならないうちに対処することにご協力ください。

またご家庭で常にしっかり様子観察をしていただき、食欲にムラが出たり、身体が熱かったりした場合にはすぐにご連絡をください。

お願い事ばかりになって申し訳ないですが、ほんのちょっとの変化も見逃すことがないように、できれば看護日誌みたいなのをつけてもらって、来院日に見せていただけるとありがたいです。

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<腫瘍と栄養>

腫瘍細胞に利用できる栄養素が研究によりわかっています。犬がエネルギーを得ることができる栄養素は炭水化物、蛋白質、脂質ですが、腫瘍細胞はそのうち炭水化物を最も効率よく利用でき、蛋白質の利用もできますが、脂質を栄養素として利用することができません。それで、腫瘍のある犬には自分だけが栄養をとれて、腫瘍には栄養を渡さないようにすると腫瘍が大きくなるのをコントロールすることができます。残念ながら100%のカロリー源を脂質に求めることはできないので、腫瘍に全く栄養を与えないようにすることはできません。

一般のドッグフードではそのように作られた製品はありませんが、特別療法食ではHill’sのn/dが腫瘍のための特別食になります。ウンチが柔らかくなりやすいので、うまく調節しながら与えると延命につながります。n/dに次ぐ第2選択の療法食はa/dです。

手作り食を考えている方はn/dの組成を参考にしながら、ミネラルやω-3脂肪酸などを添加して作ってみるようにしてはいかがでしょうか。

食が細くなってくると、心配でたまりませんね。抗がん剤の合間でわりとおなかの具合が良いときがあります。嬉しくて、いろいろ与えたくなります。しかし「食べられるときにしっかり食べてもらって体力をつけてもらう」のは基本ですが、食べるに任せて、おなかの調子を悪くさせてしまっても犬のQOLは下がってしまいます。節度ある食生活を心がけてください。

病状が進行すると食欲が極端に低下してくることがあります。その場合はこの限りではありません。食べるときことは素晴らしいことです。

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<手作りのがん療法食の例>

バランスの取れた手作りがん療法食の1例をご紹介します。体重11.3kgから13.6kgくらいの犬の3日分の分量です。

牛赤身肉 454

白飯   227

牛レバー 138

植物油   63

魚油サプリ  9

炭酸Ca  3.3

骨粉   2.9

塩化K  1.9

細かくした赤身肉とレバーを水煮して脂分を除きます。煮えたところでレバーは細かくします。白飯を煮て、細かくしたミネラルと牛肉、レバーを加えます。オイルサプリはカプセルを切って絞り出し混ぜます。

粗熱が取れたら保存容器に入れて冷蔵庫で保管し、給餌するときは必要分を取り出して温めてから与えてください。

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<正しい知識を持ちましょう>

あなたが正しい知識を持つことは、愛犬を治していく獣医療チームの一員として様々な計画に積極的に参加できるようになります。なにせ、愛犬の最も近くにいる人なのですから、犬が必要としているものや望んでいることなどを最も理解できる人はあなたなのです。ほんとうの「思いやりのある獣医療」は病気とそれに伴う苦しみをできるだけ少なくすることです。がん治療を送るうえでは補助療法と言われる吐き気や食欲不振の治療は不可欠です。愛犬のQOL改善のためにできることは、なんでも相談していただき、動物病院スタッフとご家族の皆さんと協力し合って行いましょう。

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<迷うとき>

それから「あなたの下した決断はどれも正しかった」ということを忘れないでください。この先、「このような選択をしたけれど、あのときにああすればよかった」「こうしておいた方が良かったのではないか」という迷いが出てくるかもしれません。

「あなたとあなたの愛犬にとってそれが良いかどうか」がものを決めるときの基準です。「まわりの人がどう思うか」というのは問題ではありません。あなたの愛犬のことはあなたが一番よくご存じなのですから、自分の心の声に素直に従うことで、あなたは正しい決断を下すことができます。

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<さようならをいう日>

悲しいことに、さようならを言わなくてはいけない日はそう遠くない未来に近づいてきています。その日に後悔しないためには、大切な家族が満足できる時間をたくさん取ることです。したいことができるのは安定期にいるときかもしれないし、今がその時なのかもしれません。

一緒に日向ぼっこをするとか、おひざ抱っこで読書をするとか、何気ない日常の一コマ、一コマを作り出してください。もし大好きだったところにお出かけするのであれば無理のない計画で帰宅してください。

それから美容院できれいになった日に記念撮影をするとか、粘土や石膏を利用して足型をとってフレームを飾るのも良いかもしれません。

今こそ、たくさんの思い出作りをしておいてください。

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犬のリンパ腫3

 犬のリンパ腫についてのお話し、3回目です。

 リンパ腫の治療の主役、抗がん剤についてです。

 

<抗がん剤を選ぶときに考慮していること>

抗がん剤を使うとき、薬の効果を最大にして、副作用を最小にとどめるための最適な方法を考えています。

①動物側の問題としては年齢、一般状態、病期(ステージやサブステージ)のこと、

②腫瘍側の問題としては腫瘍の臨床型、細胞の種類、分化のグレード(挙動の特性)のこと、

③家族側の問題としては時間的な配慮または経済的な意向など

これらが総合的な判断材料になります。

何がベストな治療法なのか、それによってどのような予後が予想されるのか、答えは一つになりません。リンパ腫の治療方法は個々の症例で異なってきます。

おすすめするプランをいくつかお話しした後、おうちに持ち帰っていただき、できるだけ早く結論を出してもらい、再来院し、再びご相談してプランを決定しましょう。どの治療方法を希望するのか、または希望しない場合はどうするのかという場合も出てくるかもしれません。

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<抗がん剤を使用した治療計画の例>

何回かプロトコールという用語を使ってきました。これはリンパ腫と闘うために使用する化学療法の投与計画です。どの薬剤をどの量いつ使うかといったものです。

この計画で使われる薬剤のほとんどが静脈内に点滴するか、直接注入する薬で、一部は内服薬です。静脈内から薬液が漏れ出ると血管周囲や皮下組織に激しい炎症と皮膚にまで広がる壊死を起こす危険があるため投与中は診察台の上で静かに動かないようにしておく必要があります。(安全性の確保のために鎮静剤を必要とする場合もあるくらいです。)導入に際して数日間は入院で、その後の投与は通院になりますが、投与日は原則お預かりで処置を行います。(初回の入院処置は臨床型によってはとらない場合もあります。)

例えば多剤併用療法では週に1回くらいのペースで12週間から25週間にわたって行います(途中2週間に1回になります)。

ドキソルビシンを用いるならば、初回導入まで数日の入院で、その後は3週間に1回の通院で投与していきます。

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<たくさんの薬を使う狙い>

抗がん剤を使った治療計画に単剤で行う方法と複数の薬を使って行う場合があります。治療効果に違いが表れることをお話ししました。どうしてたくさんの薬を使った方がより良い効果を得られるのでしょうか。

がん細胞と正常細胞とでは細胞分裂や代謝の違い、特定の薬に対する依存度に差があります。これを利用してがん細胞だけを傷害し、正常細胞をできるだけ傷害しないような薬物を抗がん剤として利用しています。効果を示すためにはがん細胞にその薬に対する感受性がなければいけません。始めは抗がん剤の感受性があった細胞も、抗がん剤を使用した後は耐性ができて効かなくなってしまいます。薬物代謝が活性化したり、薬の細胞内の取り込みが減少したり、標的となる物質の量が変化したり、DNAが修復されたりして、腫瘍細胞が薬の毒性から逃れられるように変化してしまう結果です。

それで、複数の薬が効くのであれば1種類を繰り返し使うよりは、何種類かの薬を交互に組み合わせたプランを実施して、できるだけ腫瘍細胞が薬に耐性をつくらないようにしながら治療する方が好ましいことになります。

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<有害事象と目指す治療について>

動物が耐えられる最高量を最短間隔で投与すると、抗がん剤の最大効果が得られます。ややこしい言い回しですね。用量を高く、頻回投与すると薬の濃度が体内で高まるのは分かりますね。そのようなことです。けれどそれによって完全寛解率が高まっても有害事象も最大になります。これでは体がへたばってしまいます。(有害事象というのは薬を投与したときに現れる様々な好ましくないことがらで、副作用も含まれます。)

それで完全な完治を目指して治療するのではなく、完治はなくても体への負担が重くなく、最大の効果が得られる方法で治療することを目標に置いて治療します。残念ながらリンパ腫は完治することができない腫瘍だからです。上手に抗がん剤と向きあい、QOLを損なうことのない最長の延命を目指します。

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<有害事象とその回避>

抗がん剤には期待したのとは違う作用が発現します。よく心配されるのは

「毛が抜けちゃうの?」

「おう吐が止まらないんじゃないの?」

「下痢をするって聞いたわ」

「食べられなくなっちゃうのかしら?」

「だるいんでしょ?」

というような事柄です。

抗がん剤を用いて治療を始めるとき、まず初期段階で発生する可能性があるのは「腫瘍溶解症候群」です。いきなりハードな治療を行うと不意打ちを受けたがん細胞が一度にたくさん壊死します。そのため血液中に多量の好ましくない物質が出現し、それにより体が異常をきたします。これを避けるため、最初の抗がん剤治療は入院し、点滴を受けながら十分な観察のもとで行われます。

有害事象の中で発生が多いのはおう吐などの消化器症状と骨髄抑制と称している血液細胞の減少症です。抗がん剤は盛んに細胞分裂を行っている組織に向けて作用します。それは消化管粘膜上皮細胞や、骨髄、毛根の細胞です。日々新しい細胞がつくられている場所というわけです。抗がん剤には腫瘍組織と健康組織の区別はつきません。ただひたすら増えていく時期の細胞に腫瘍、正常の見境なく作用してしまいます。

嘔吐が発生するのは直後と3から5日後になります。薬が直接、脳のおう吐中枢にかかわる場合と、消化管粘膜の障害によって発生する場合とで、おう吐が起こる時間は投与時刻とのズレが生じます。下痢が起こることもあります。消化器症状の発生は各種の制吐剤等でコントロールが可能です。

毎日血液細胞をつくっている骨髄に傷害があると血液細胞が産生されなくなります。血液中に出ている血液細胞の寿命との関係から、血液細胞が少なくなる日は投与日から遅れて発生します。薬によって、あるいは血液細胞の種類によって最も数が少なる日は違います。血液細胞の減少症に対しては頻回の血液検査を通してチェックし、低値を早く検出できるようにします。対応策としては骨髄を刺激する薬の使用があります。

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心配される脱毛は動物では極めてまれなことです。被毛に影響することは少ないのですが、治療開始から数か月経過したころにひげの脱毛が起こることはあります。

そのほか血管外に薬液が漏出すると激しい血管周囲炎、皮下組織炎から皮膚や周囲組織の壊死を招く薬剤もあります。そのため抗がん剤の注入時は診察台の上で静かにしてもらう必要があります。

薬によっては膀胱炎をおこすものがあります。血尿が出ます。

また心臓によくない作用を起こすことが知られている薬もあります。どんなに効果があっても使える回数に限りがあるのは、こうした薬に限度量があるためです。

なお薬用量を減少すると効果が得られません。効果がある分量を使うか、休薬するか、別の薬を選択するかなど、可能な限り減薬しないで安全に投与するようにします。

嘔吐や下痢などの副作用は治療の過程で、個々の特性が出てきます。回を重ねるうちに対処方法が容易になってくるような傾向はあります。

 

 

今回のお話はここまでです。抗がん剤にまつわるあれこれについてお話ししました。

次回はご家族の方にお願いしたいことや栄養管理についてお話して、犬のリンパ腫についてのお話を最終にしようと思います。

 

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犬のリンパ腫2

犬のリンパ腫についてのおはなし、2回目です。

 リンパ腫は今後どのような動向をとるのか、そしてこのあとどのくらい生きられるのかについてお話しします。

 

<腫瘍の大きさ変化とリンパ腫の経過>

リンパ腫の場合は乳腺腫瘍などの固形の腫瘍と違って「手術で切り取ってなくす」方法ではなく、「抗がん剤を使って腫瘍を小さくする」方法がとられます。注)

一般的なリンパ腫の経過は次のような感じです。

①(初期治療)

「導入」から「地固め」と言われる期間の治療で、集中的にプランされた薬を使用します。ときに強い薬に分類されるものも使用します。

②(縮小)

薬が功をなすと腫瘍は小さくなります。触ることができなくなるくらい小さく無くなったかのような状態、またはX線や超音波の検査で判断することができなくなるくらいになった状態を完全寛解(かんぜんかんかい)と言います。まだ触れるし、X線や超音波でまだ確認することはできるけれども明らかに前に比べて小さくなっているまでにしかならないこともあります。この状態は部分寛解(ぶぶんかんかい)といっています。薬が効かないのではなく、その大きさに持っていくことができたと考えましょう。

③(維持)

腫瘍に触ることができなくなって、心配な臨床症状もなく元気で食事をぱくぱくとれるような状態が続くとなんだか治ったような気になってしまうものです。ですが治る(治癒)のとは違います。おそらく一時的にわからなくなっているだけの状態です。

この寛解期間にも毒性が低く、身体にあまり強い侵襲がない治療薬を使うことがあります。「維持」期の治療です。

最近の治療プラン(プロトコール)では1か月ごとに検診を行い、治療はしないことが多いです。

④(再燃)

このような寛解状態がずっと続いていればいいのに、ある時またふくらみが出てきます。もしくは小さくくすぶっていたはずの大きさが急に変化を始めます。これが再燃(さいねん)です。再発ともいいます。初期の治療にうまく反応したものでも、ほぼ、90%以上は再燃を免れることはありません。

再燃したら再び抗がん剤治療に入ります。「レスキュー」と呼んでいます。再燃の治療が成功して再び寛解状態に持ち込めることもありますが、こうした再寛解率はわずか20%から40%程度です。そして再寛解できたとしても前回の寛解期間よりも短期間で再再発します。この時の抗がん剤の反応はとても低く、初めての治療に使用したときにはあれだけ反応したのに同じ薬なのかと疑わずにはいられないくらいの反応です。徐々に効果の得られる薬剤、効き目の良い薬剤がなくなっていきます。あれこれ使える限りの薬剤を使いますが、やがてどれにも反応しないばかりか、副反応の方がより強く目立つようになり、身体も疲れてきてこれ以上の治療をするべきかどうか悩むような状況になってきます。

 

注)消化器型リンパ腫の場合、脾臓の腫瘍だけがとても大きい場合、外科手術を施してから内科的な治療に入ることがあります。

 

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<予後はどのくらい?>

リンパ腫になったわんこはあとどれくらい生きられるのか、生存期間はどのくらいなのか、大変気になるところです。

一般的に治療をしないでいると1か月くらいで命が尽きることになります。化学療法を行うと、その後のプラスの人生が得られるかんじです。以下は目安です。

使用した抗癌剤の種類、組み合わせのプラン(プロトコールと呼んでいます)によって寛解率や寛解期間に違いが出ます。完全寛解率というのは、その抗がん剤を使用したグループの中の何割がすっかりなくなったようになったのかという割合です。数値が高い方がより効果が得られたことを意味しています。それから寛解期間は次に再燃するまでの日数で、穏やかに過ごせるだろうと思われる期間の目安になります。研究自体は古く1963年ころのものからたくさんあります。このころはまだリンパ腫の細分化がされていなかった頃のものです。

1種類だけの抗がん剤で行う治療(単剤治療)として、プレドニゾロンがあります。安価で内服薬があるため、通院や入院しての抗がん剤の治療はためらわれるけれど、家で何もしないのは辛いといわれる場合に用いられます。完全寛解率は46%で寛解期間は0.5か月から7か月という研究結果がありますが、ほとんどのものは1か月程度です。そのほかの薬として10種類くらいが発表されていますが、ドキソルビシンによる治療が最も有効です。この治療の完全寛解率は75%から87%、寛解期間はおおよそ4.5か月くらいです。この中にはもう一つ薬が入っている研究も含めていますが、たくさんの薬を使うコンビネーション治療と比べても遜色のない結果です。内服薬のプレドニゾロン、静脈点滴薬のドキソルビジン以外の薬を単剤で使用することは効果が不十分なので行っていませんので他の薬の効果についてはお知らせを省きます。

単剤に比べ、多くの薬を組み合わせて濃密に治療する方法(多剤併用療法、コンビネーション療法)は寛解日数がさらに長くなります。1977年から2003年にタフツ大学で併用プランの比較がされています。完全寛解率は65%のものから84%、完全寛解期間は6か月のものから13か月、1年生存率は19%から53%、2年生存率が25%のものまであります。しかしこの中には初回治療の毒性が高いため、導入治療時に亡くなっているものもあります(4%から27%の導入期死亡率)。よく効くけど強いイメージです。

単剤療法と多剤併用療法では寛解率やその後の寛解期間、生存期間などに違いがあるのが分かります。しかし毒性の強い多剤併用療法をもってしても、おおよそ80%のわんこは2年生きることは難しく、たいていは1年程度です。もしも細胞型がT細胞型であればその半分の6か月くらいがやっとということになります。また治療途中で有害事象が発生する場合(およそ5%から10%のものにみられます)もあります。この時は休薬し、もし有害事象が重篤なものであればそちらに対する積極的な治療を進めることになります。

こんな感じでつらい治療ではありますが、中には数年以上生存するタイプのリンパ腫もあることをお伝えしておきますね。

 

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<予後が良い兆しのあれこれ>

生存期間に関する統計はこのように治療のプラン(プロトコールといいます)によりまちまちです。ですが、どのプロトコールを選択するとしても、こんな要件がそろっているといい兆し!というのがあります。タイトルに(良い>悪い)で印をしてあります。

①腫瘍細胞の型(B細胞型>T細胞型)

免疫染色を施して、T細胞型とB細胞型に分類すると、B細胞型の方が完全寛解率に至る確率が高く、長期生存しているものもB細胞型リンパ腫だけであることが分かっています。

②臨床症状(サブステージa>サブステージb

食欲不振や体重減少などの臨床症状があるなしでサブステージ分類をしています。臨床症状を表していないものをa、臨床症状があるものをbとしています。臨床症状を出していないものの方が寛解期間、生存期間ともに長いことが分かっています。しかし発熱があり呼吸困難があるものは初期の段階で完全寛解に持ち込める可能性は低くなっています。それから長期的にみると食欲不振は良くない兆候です。

③ステージ(Ⅰ、Ⅱ>Ⅲ、Ⅳ、Ⅴ)

1つのリンパ節だけに限局しているもの(Ⅰ)、複数のリンパ節が侵されているもの(Ⅱ)は全身のリンパ節(Ⅲ)、肝臓や脾臓(Ⅳ)、血液や骨髄(Ⅴ)が侵されているものに比べると予後が良好です。

④高カルシウム血症(Ca値→>Ca値↑)

高カルシウム血症がみられないものは予後が比較的良好です。高カルシウム血症はT細胞型によく見られます。

⑤貧血、血小板減少(貧血がない>貧血がある)

貧血や血小板減少がないものは寛解期間が長いです。

⑥低アルブミン血症(Alb値→>Alb値↓)

血漿アルブミン値が正常であったものは低いものに比べて寛解期間が長いです。

⑦治療の反応性(治療反応良>治療反応悪)

完全寛解をしたもの(完全になくなったようにみえたもの)は部分寛解しか示さなかったもの(大きさが小さくなっただけのもの)に比べると生存期間は長いです。

⑧治療に起因する毒性の発症(副反応なし>おう吐・下痢あり)

抗がん剤治療に対しておう吐や下痢などの消化管毒性が発生しなかったものは生存期間が長いです。

⑨性別(メス>オス)

メスの方が寛解期間、生存期間ともに長いです。

 

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今回はリンパ腫の治療経過とおおまかな予後、良い兆候についてお話ししました。

これらの情報で「よかったー!」っていうわんこも「がっかり。どよ~ん。」なわんこもいるかもしれませんね。でも、リンパ腫は治療期間中にも特別病的な病状になることはなく、待合室で隣り合わせた方からも「腫瘍があるなんて思えない!」と言われるくらい傍目には普通の状態で過ごすことができます。経済的に許すのであれば頑張るに値する治療です。

 

次回は化学療法の主役、抗がん剤についてお話しします。 

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犬のリンパ腫1

 特定の腫瘍になりやすい犬種というのがあります。ハイリスク犬種と言っています。リンパ腫のハイリスク犬種はボクサーやセントバーナード、バセットハウンド、ブルドック、そしてゴールデンレトリバーです。テレビCMで登場したり、映画などで特定の犬種が紹介されたりすると人気犬種というのが出てきて、また次の機会に別の人気犬種が出て前の犬種にとってかわりなどして、流行のように人気犬種が変わり、それによって飼育される頭数も変化していきます。従順で家族として迎えやすいゴールデンレトリバー、私は個人的に大好きな犬種ですが、そのゴールデンレトリバーの数はずいぶん減りました。この犬種が減少したことだし、もともとそのほかのハイリスク犬種は日本でそんなに数が多いわけではないし、そして彼らにとって代わってその数を増やしたダックスフンドはリンパ腫のローリスク犬種。だからリンパ腫もきっと減るに違いない、なんて甘く考えていました。ですが見込み違いもはなはだしい。どうもリンパ腫の発生は以前に比べて増えてきているように感じます。

そんなわけで今日からリンパ腫についてお話ししようと思います。

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<リンパって何?>

リンパ系の組織はリンパ節と脾臓です。あの、「リンパの流れが悪いの」とか言われる「リンパ」は「リンパ液」です。血管系と同じように全身に張り巡らされた「リンパの流れ」の途中に無数の豆のようなリンパ節があります。リンパ系の細胞がここに集まっています。豆のような大きさのリンパ節は全身では数百にも及びます。全身各所にあるリンパ節の小さいものでは個別の名前ももたない組織ですが、要所では大きなリンパ節になっていて、それにはそれぞれ名前がついています。リンパ節には細かな網目状の繊維があって、そこにいるリンパ球などの細胞はリンパ液に乗って流れてきた異物を処理する仕事をしています。たいていはリンパ球が細菌を食べる、みたいな処理方法です。大きな腫瘍の手術をするときに一緒にリンパ節も切除すると聞いたことがあるかもしれません。これは腫瘍細胞がリンパ節に流れ着いて、リンパ節から全身に流れ出すのを留め置く、いわば関所のような仕事です。このように総合するとリンパは免疫系の仕事を行っています。

そしてこのリンパ系の細胞(リンパ球)が腫瘍化したものがリンパ腫です。

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<リンパ腫の発生の特徴>

犬の血液系の腫瘍(造血器腫瘍)の中で最も発生が多いのがリンパ腫です。年間の発生率は犬10万頭のうち1324頭くらいがかかるといわれています。来院されたときの犬の年齢は6歳から9歳くらいで、若い犬では6か月くらいから高齢の犬では15歳の幅で発症していますが、やはり中高年齢に多い病気です。オスもメスも同じくらいの比率で発生しています。ハイリスク犬種について冒頭でお話ししましたが、どんな犬種でも発生します。

犬のリンパ腫の原因は分かっていません。猫のような白血病系のウィルス感染は知られていません。なんらかの遺伝子異常によって発生するものと考えられています。海外では特定の化学工場近くの発症が多いことから、化学物質との関連も疑われています。

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<発症する部位によって臨床的な分類がされています>

1)多中心型

身体の表側、皮膚のすぐ下にあって外部から容易に触れるところのリンパ節が侵されます。あごの下、首から胸の前、わきのした、足の付け根、膝の後ろなどに比較的大きな「名前の付いた」リンパ節があるのですが、これらが腫瘍化して硬く大きくなります。犬ではこのタイプが一番多いです。

2)前縦隔型

赤ちゃんの頃に胸の中にあった「胸腺(きょうせん)」は徐々に小さくなっていく不思議なリンパ組織です。リンパ球にエリート教育をしているといわれているこの部分が腫瘍化し、大きくなると胸の大部分を占め、肺や心臓を圧迫するようになります。白血病ウィルスに感染した若齢の猫に多いタイプです。

3)消化器型

腸は長いホース状の組織で、この中を食べ物が通過する間に体は様々なものを吸収します。吸収というのは体内に入ることです。腸に分布している血管やリンパ管を通じて体に入ります。腸のところには長い腸を束ね、腸に分布するたくさんの血管やリンパ管を走らせている膜状の構造物があります。腸間膜です。ここには栄養素とともに腸から入った物をいち早く処理するリンパ節が無数にあります。腸間膜リンパ節はこれら無数のリンパ節の総合の名前で、ここが腫瘍化して大きくなると膜が一つのお団子のようになり、やがて腸管をぎゅーっと巻き込むようになります。これは比較的若齢のミニチュアダックスや中高齢の白血病ウィルスに感染していない猫に多いタイプです。

4)皮膚型

「皮膚病なのになかなか治らない、なんなの?このぼつぼつ!」っていう皮膚病の中に、実は皮膚病ではなくて、皮膚型のリンパ腫だった、というのがあります。そんなに発症は多くありません。

5)そのほか

目や目の奥、神経系、骨、腎臓、鼻の穴の中など、どこでもリンパ腫の発生は見られています。とても稀です。

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<リンパ腫で見られる症状>

それぞれの臨床型によってみられる症状に違いがあります。

①多中心型では、最初に病院に連れてこられる理由が「しこりがある」ことです。それは体表から触知が可能なリンパ節の腫れです。あごの下、わきの下などが最初に気づかれることが多いです。または健康診断などで獣医師によって指摘されることがあるかもしれません。

全身症状として、食欲不振や体重減少、元気消失、熱っぽいことがあります。これらはないこともあります。

②前縦隔型では、上記の全身症状に加えて、腫瘍の大きさにより発生する呼吸困難やおう吐がみられます。

③消化器型にみられる症状は上記の全身症状に加えておう吐や下痢です。特にいつからかはっきりしないけれど食欲不振や体重減少、行動性の低下があります。

④皮膚型は皮膚だけでなく口の粘膜にも見慣れないぶつぶつができて、盛り上がり、はぜてはまた別のところにできるのを繰り返し、なかなか治らない皮膚病のような様相です。

⑤そのほかの部分にできるタイプに共通した症状は、目や鼻などのように顔の様相の変化で分かるものから全く分からないものまでいろいろです。

どのタイプでも全身症状が悪化してくると痩せてきます。

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<リンパ腫かも!という段階で行う検査>

もし体の表層にある(触れる)リンパ節が腫れて大きくなっているのであれば、ほかの腫瘍の時と同じようにノギスでサイズを測ります。

見えない部分の場合はX線検査や超音波検査で広がりを見ます。表層のリンパ節の腫大の時も、肝臓や脾臓の様子を見るのにこれらの画像検査を加えることもあります。

血液検査を行います。貧血はないのか、血小板数は減少していないのかといった数に関するものを調べるのと、血液細胞や腫瘍細胞が出現していないかを顕微鏡で形態的に調べる血球の検査と、血清を生化学的に調べ、肝臓や腎臓の隠れた機能や悪性度の指標となるカルシウムの値を調べるなど、血液検査の目的はたくさんあります。特に末梢血の中に腫瘍化したリンパ系の細胞が流れ出ていないかどうか、高カルシウム血症になっていないのかの結果は注目のポイントです。

 

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<細胞の顔でリンパ腫を診断し、さらに細かく分類する>

それから細胞診とか病理組織検査を行います。これは腫れて怪しいリンパ節から細胞または組織を採取し、細胞の特徴から腫瘍かどうか、またどんな動向を持った細胞なのかを調べる検査です。

リンパ節はリンパ球のたくさん集まっている組織ですから、正常なリンパ球もそこには存在しているわけです。たまたま採取した針の太さくらいのリンパ組織から得られた細胞群によって、これは正常、これは炎症、これは反応性の過形成、そしてこちらはリンパ腫!という風に判断されたものが「病理診断」です。正常なリンパ球の形態や、集まってきているそのほかの細胞などからリンパ腫かそうでないかを見分けるものです。

さらにリンパ腫の顔をしたリンパ球の中にも個性があります。リンパ球の顔つきだけでなく、盛んに細胞分裂を繰り返している様子も知ることができます。高分化型、低分化型、中間型としてリンパ腫はさらに細かく分類されます。(ハイグレード、ローグレードということもあります。)

それから特殊な免疫染色をすることで細胞のタイプを知ることもできます。B細胞型とT細胞型とに分けられます。

このような細分化によって、リンパ腫の挙動がある程度わかります。挙動というのは、腫瘍の進行度合い、つまり大きくなるスピードが早いのか遅いかということと、治療に対する反応性、すなわち抗がん剤によって小さくなる度合いが強いのか、抗がん剤を投与しても抵抗性があって小さくなる度合が短いのかといった事柄です。

総合すると、腫瘍細胞の特性によって腫瘍の進行状況が違うのでリンパ腫の治療方法も変えた方がよいし、それによってもリンパ腫のわんこのこれからのことが違ってくるし、どのくらい生きられるのか、なども大雑把に予測してざっとですがお知らせすることもできるのかな、というのがあって細かな分類まで行うようになってきています。

 

今日のお話はここまでです。

リンパ腫の概要と検査のことをお話ししました。次回は「リンパ腫の経過」と気になる「予後」についてお話しします。

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ハート動物病院です。
〒445-0062
愛知県西尾市丁田町杢左51-3
TEL/0563-57-4111
オフィシャルサイト:http://www.heart-ah.com/

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