猫の乳腺腫瘍

 今月はピンクリボンの月、そう、乳がん月間です。

で、今回は猫の乳腺腫瘍についてお話します。

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乳腺腫瘍のことを伝えていくのもいろいろな思い出があるから。
 

 

<はじめに>

猫に発生する腫瘍では、造血器系腫瘍に分類されるリンパ腫や白血病、皮膚にできる腫瘍の次くらいに乳腺腫瘍が発生します。これは猫に発生する腫瘍全体の17%くらいに当たるようです。犬の乳腺腫瘍は50%が良性で50%が悪性なのですが、猫の乳腺腫瘍の方はあまり良いお話は出来ません。残念なことに85%が悪性の乳腺がんなのです。

 

<腫瘍の成長>

猫の乳腺腫瘍はほとんどの場合、急速に大きくなります。お腹を触られるのをあまり喜ばない猫では、腫瘍がはじけ(自壊と言います)中から汁が出て敷物などを赤く汚すようになって初めて気がつくようなこともあります。

見た目の大きさよりも深部では広く腫瘍細胞が広がっています。このような局所の広がりが大きいことを「浸潤性が強い」といいますが、これは良くない印です。

そして、局所だけでなく、遠方へもリンパを介して広がっていきます。近くのリンパ節(腕の付け根や後ろ足の付け根)だけでなく、肺や胸膜、骨や目、脳へも転移します。こうしたリンパ転移がよくみられるのも良くないサインです。

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<避妊手術の効果は>

犬では早期の避妊手術が乳腺腫瘍の発生を予防する効果があると知られています。猫でも避妊手術は発生率を低下させる効果はあります。しかし犬ほど予防効果が明確ではありません。未避妊の発生率と比べると50%くらいの発生です。未避妊の猫だけでなく、避妊済みの猫も乳腺腫瘍の発生はみられます。非常にまれなことですが、オス猫でも発生することがあります。

避妊手術と乳腺腫瘍の発生との関連は、腫瘍細胞の中にホルモン受容体(エストロゲンレセプター、プロゲステロンレセプター)があるかどうかで決まるのですが、猫の乳腺腫瘍の場合はホルモン受容体があるにはあるのですがそれが非常に少ないので、ホルモン制御が予防効果につながりません。

また出産歴も乳腺腫瘍の発生には影響しません。つまり一度も赤ちゃんを産み授乳経験がないから発症しないということもなければ、何度もお産を経験し、たくさんおっぱいを飲ませたので乳腺腫瘍になるということもありません。

 

<発見したらどうする?>

体表の腫瘍などでは、まず細胞診をして相手がどんな細胞なのか、どのような特徴を持つ細胞なのかを確認し、準備してから手術に入るわけですが、乳腺部分に出来た腫瘍であれば、乳腺腫瘍であることがほとんどです。近日中に手術する方向でご家族の方に即決いただきます。なにせ成長の早い腫瘍ですから、のんびりしている時間はありません。初診でいらしてもらったときにはすでに肺への転移が確認されていることもあるくらいです。

手術前には、体のコンディションを調べるための検査や転移の有無を調べるための検査を行います。そして状況がOKであればできるだけ速やかに手術に踏み切ります。

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<手術のこと>

手術の目的は根治治療を目的にする場合と、緩和を目的とする場合があります。

小さな腫瘍であればあるほど目的は根治治療になります。ほんの1cm程度の小さいものであっても腫瘍の見られた部分を含めた片側すべて(場合によっては両側も!)の乳腺組織を切除します。もちろん領域のリンパ節も一緒に切り取ります。そして組織学的にも完全な手術であったかどうかを判断します。病理学的検査は大変重要です。

小さなものだからと、皮膚を切開し、その下にあるおできをすくい取るだけの手術を行うと、傷は小さく一見猫に優しい手術のようですが、局所浸潤がある場合が多く、じきに近くの部分に再発を確認することになります。ここは「えいやぁっ!」と心を鬼にしていただくところです。皮膚も含めた広範囲な切り取り手術がその後の生存期間を伸ばし、またQOLを良くすることになります。

一般に、できた腫瘍の大きさが直径3cm以内である場合は転移が認められない限り、術後の予後は良好です。

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<切り取れない大きさの腫瘍>

わかったときにはどうしようもない位の大きさになっていた場合や、皮膚の一部がすれて腫瘍の表面が露出してしまっているような場合は、緩和目的の手術を実施することがあります。局所の腫瘤部をきれいにするためや、少量でも出血が長く続くと貧血になるので、二次的に食欲が喪失してQOLを低めるのでこれを防ぐ目的です。しかしこの場合、術後しばらくは穏やかに過ごすことはできても、生存期間についてはあまり長くを期待することはできません。

 

<抗がん剤による治療>

猫の乳腺腫瘍はとても攻撃的な動きをとる腫瘍なので、完全な外科手術を行ったといえども、手術だけでは完治を望むことが難しいため、外科療法にプラスして化学療法も併用します。

抗がん剤による治療を併用すると、もしリンパ節に転移があったとしても生存期間を延長させることができます。

 

<補助療法>

手術前後はもちろんのこと、すべての治療経過中の痛みのケアや栄養療法は、猫にとってたいへん重要な補助療法です。術前にもたくさん食べて栄養をつけておくこと、抗がん剤治療中も嘔吐させないように気をつかい(制吐剤などで嘔吐をコントロールします)、しっかり栄養をとらせることが重要です。

そのほか、高齢猫の場合は腎臓機能の低下など、ほかの臓器にも問題を抱えている場合がありますから、それらの治療も併用して行います。

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ご家族のサイン入りホワイトネット。
みんなに愛されていますね。
頑張って闘病しています。

 

<たいせつなこと>

    犬に比べ避妊手術による予防効果は低いものの、予防ができないわけではありません。やはり避妊手術をしておくに超したことはありません。

    小さいうちに完全な拡大手術をしておくと完治を望める可能性が高くなります。日頃から胸からおなかを触って早期発見できるようにしておくと良いと思います。

    もし腫瘍が見つかったのならば、迷わず、すぐに、広い範囲の切除手術に同意してください。結果が陰性(悪性の乳腺腫瘍ではなかった!)と出たにしても、価値のある手術であると思います。

    手術期には悲しんだり動揺したりしている時間を、猫の栄養管理その他に回しましょう。悲しんでいても前には進めません。積極的に頑張ったことが結果に表れます。そしてそれは猫が治療に対する気持ちを前向きに応援することにもなります。

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ちょっとビビリなあやめちゃん。
お腹にできた皮膚病の検診で乳腺腫瘍が発見されました。
とても小さなものでしたがしっかり摘出手術を行いました。
1年たっても再発の様相はありません。

<おまけ>

腫瘍がどのようなものかわからないと、何を目安に触ったら良いのかわからないかもしれませんね。布団の上に米粒や小豆、大豆などを置いて、布団カバーやタオル越しにそれらの堅いものを触れてみてください。指先をゆっくり動かしていきます。小さな硬いものが触れます。猫の腹部の皮膚は薄いので触れやすいです。しかし視覚を頼りに膨らみをさがそうとすると、毛に隠れてスーパーボールやピンポン球くらいの大きさになるまでわからないこともあります。

具体的な発見目標ポイントは直径3cm以下のときです。がんばって触知するよう心がけてください。また、猫の乳腺腫瘍は急速増大が特徴的なので、「年に1回の健康診断のときに先生に探して貰えばいいや」と思っていると間に合いません。ぜひご家族の方が会得してください。

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