犬の炎症性乳がん

 犬の炎症性乳がんについてお話します。

 

犬に発生する乳腺腫瘍の中に極悪タイプの腫瘍があります。それが炎症性乳がんです。

Inflammatory mammary cartinoma で調べていくと安心できるコメントは全く出てきません。攻撃性が強くて犬に対しひどいダメージをもたらす腫瘍です。

 

<発生は?>

犬の乳腺腫瘍のうち、炎症性乳がんの発症は10%以下、ほんの数%にすぎません。

殆どは避妊手術をしていない高齢のメス犬で、発情の来たすぐ後(1ヶ月か、間が空いたとしても2ヶ月位のうち)に発生する印象があります。

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<症状>

「炎症」というのは「炎」の字が付きますが、まさにカッカと燃えている感があります。それでは「乳腺炎」なのだろうと誤解されることもあるくらいですが、乳腺組織に熱と腫れを伴う腫瘍は炎症性乳がんだけで、総合的に判断すると残念なことに「炎症性乳がん」という診断が覆されることなく、病勢がどんどん進行していきます。

お乳の腫れとともに、歩き方がおかしいとか、足を大きく広げることができないなどの症状を伝えてくださる患者さんもいます。

たいていはひとつの乳腺組織だけでなく、複数の乳腺組織が侵されます。しかも両側性のことも多く、皮膚に赤く水ぶくれやそれがはぜたものができ、腹部から胸部のお腹側はぶくぶくとした皮膚病のひどい腫れがあるようにも見えてしまいます。

進行してくると(そう遅くなく、このようなことが発生してきますが)腫れと腫れが結合して大きな塊になったり、一つの膨らみが裂けてきたり、炎症を起こしている乳腺組織が化膿して臭いのある汁が出てきたりします。

腫瘍細胞がリンパ管に入ると、リンパ循環を悪くするため、足がむくんできます。乳腺組織そのものも水っぽい腫れを起こすこともあります。

痛いので、触られることを嫌がります。だるそうに静かで、じっとしていることが多いです。食欲も無くなることが多いです。

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<病理学的検査>

病理細胞学的な診断名では「炎症性乳がん」というものはなく、病理の先生が見られた組織学的な構造に基づいた名称で細胞検査の結果を知らせてくださいます。そのため、犬の病状を察すること無く、病理頼みで病名を診断されてしまうと、大事な判断をし損ねてしまう可能性も出てきます。

犬の様子をしっかり見てください。犬のお乳の観察も大切です。

 

<治療は?>

炎症性乳がんという診断がされたら、外科的に切除することはしません。もし誤った判断で外科に委ねてしまうと、病勢のコントロールができなくなります。切ってはみたものの、抜糸するまでもなく、さらなる勢いで腫瘍細胞が押し寄せてきます。創面を裂開させ、抜糸するまでもなく早期に亡くなる結果になります。

高齢犬に発症することが多いので、「ほんの2週間位のことなのに迷っているうちにどんどん進行しちゃって、手術のできるようなかんじじゃぁなくなった」というのもよくあります。おそらく切らないほうが生存期間は長いです。

静かに、疼痛緩和のための治療を行います。非ステロイド系の鎮痛消炎剤(NSAIDs)や抗菌薬はほぼ反応がありません。もし、これらの薬に反応していれば、きっと乳腺炎だったのでしょう。それはそれで喜ばしいことです。

ステロイドの薬で痛みを和らげ、食欲を出すようにしてやります。

オピオイド(モルヒネでよく知られている麻薬性鎮痛薬です)の方がさらに効果的です。

Cox2阻害薬である消炎鎮痛薬(ピロキシカム)を膀胱腫瘍のコントロールに使用するのですが、こちらもある程度緩和効果があるようです。1日1回、薬の分量としてはあまり多くないので、食欲不振のときにも投与しやすいし、薬の値段もあまり高くありません。薬そのものは頻用されていて比較的安心なものです。ある程度の緩和もあり、生存中央値も185日あったという報告があります。オピオイド薬に対して不安が残る方にも、代用になる治療法だと思います。

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前回ご紹介した普通の乳腺腫瘍と大きく異なることが
おわかりいただけるかと思います。
おなかの毛は刈ってあります。

 

<予後>

良いお話はできません。予後は非常に悪いです。おそらく、数ある犬の腫瘍の中で最も悪い経過になります。

初診の段階では、見つけたときにすでに広がりを見せているものや、スピード感のある腫瘍だと判断したもののまださほど大きくはなっていないものなど様々なわけですが、そこからの余命は平均すると6ヶ月未満と覚悟してください。

中には診断したときに安楽死を考えなくてはいけないほどにやつれてしまっているものもあります。

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<予防>

やはり避妊手術です。

ある病気が発症する確率を考えてその病気の予防をするかどうかを決めるのは、ある意味賭けをするようなものだと思うのです。ですから、想定している病気の予防をしないのは、「その病気が発症したら諦めて治療しよう」という潔さが含まれているように思います。けれど発症した場合の重症度を思うと、「治療すればなんとかなるよね」といった余裕はなくなるのではないでしょうか。
乳腺腫瘍の予防をしようかどうしようか、というよりも若いうちの避妊手術をどうしようかと迷ううちに月日はあっという間に過ぎてしまうのが現実です。
けれど、脅かすわけではないけれど、こんなタイプの乳腺腫瘍があると知って貰うと予防する方を選んだほうがずっと良いと判断されるのではないでしょうか。未来にこんなに恐ろしい乳がんが待ち受けているのかと知ったら、それは子宮蓄膿症予防のために行う避妊手術なんて比べものにならないくらい価値ある予防策です。


炎症性乳がんは、その発生率からあまり知られていないでしょう。乳腺腫瘍の505050ルールからすると、乳腺腫瘍にかかる確率は五分五分ということですし、しかも悪性度合も同じように五分、命を縮めそうな転移を起こすのも五分なのであれば、「まぁ、なんとかなるのかな。もしできても早期のうちに発見して手術をすれば大丈夫だよね」という考えに行き着くかもしれません。そして乳腺腫瘍よりも子宮蓄膿症の方が知名度は高く、こちらの予防のために避妊手術を検討している方が多いのもわかります。そうすると何も初回の発情前までに決めなくても検討する時間にゆとりが持てるわけです。ですから悩んでいるうちに年が過ぎてしまい、気づいたら手術時年齢が34歳を過ぎてしまったということもあります。


もし、乳腺腫瘍や子宮蓄膿症の発生確率と避妊手術のリスクを比較して、避妊手術にブレーキをかけているのだとしたら、今後は避妊手術をしないことのリスクに炎症性乳がんの発症を加えてください。きっと避妊手術を行わないリスクの方が高くなると思います。

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朝夕、寒さを感じるようになってきました。
お身体にお気をつけてお過ごしください。


 猫の乳腺腫瘍と犬の乳腺腫瘍について連続でお話しました。ピンクリボンの月が終わっていましたが、なんと、11月8日は「いいおっぱいの日」なんだそうです。(いい歯の日なんじゃなかったっけ?)

まぁ、避妊手術で「いいおっぱい」を守ることができます。これを
知らないで病気になってしまったというかわいそうな犬や猫が減っていきますように。
    合掌

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犬の乳腺腫瘍

 犬の乳腺腫瘍についても少しだけ、追加情報を載せておきます。

はじめは以前にもお話していたこと
http://heartah.blog34.fc2.com/blog-entry-487.html
http://heartah.blog34.fc2.com/blog-entry-489.html
http://heartah.blog34.fc2.com/blog-entry-490.html
の繰り返しになりますが。

 ピンクリボン

505050ルール>

犬の乳腺腫瘍は10万頭に162頭から198頭くらいの発生率です。今、ひとの乳がん発生率が14人に1人と言われていますが、それから比べると少ないという印象です。でもメス犬にできる腫瘍の中では一番多い腫瘍です。

犬に発生する腫瘍全体のうち50%が乳腺腫瘍です。そのうちの50%が悪性の乳腺腫瘍で、そのまた50%に転移が起こります。これが505050ルールです。

 

<避妊手術と乳腺腫瘍の発生>

犬の乳腺腫瘍はホルモンの影響を受けるため、若いうちに避妊手術をしておくと発生率が低下します。

未避妊の発生率を1としたときの比較ですが、

初めての発情前なら発症率はわずか0.05%ですし、

1回目と2回めの発情の間でも8%に過ぎません。

2度めの発情以降に手術をした場合でも26%になります。

このような数字から、やはり2回めの発情前(できることなら初めての発情前)までに避妊手術をされることをおすすめしているわけです。

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ここからは前回お話していなかった内容です。

<乳腺腫瘍のステージ分類>

はじめにできた腫瘍の大きさ、近くのリンパ節への転移の有無、肺など離れたところへの転移の有無から乳腺腫瘍は4つにステージ分類されます。

①直径3cm未満の小さな腫瘍ができているだけをステージ1、

②直径が3~5cmのものをステージ2、

③どんなサイズの腫瘍でもリンパ節転移があればステージ3、

④どんなサイズの腫瘍でも遠く離れたところに転移していればステージ4

としています。

 

<予後を決めるもの>

「予後が良い」というのは無病期間が長く、生存期間も長いです。

予後はいくつかの要因により大きく異なります。先にあげたステージは予後に影響する因子として大きな要因になります。ステージ1であれば、術後の2年生存率は97.9%ですが、ステージ4になると2年生存率はわずか13.6%です。腫瘍の大きさや転移の有無はステージにも反映されていますが、やはり大きな因子です。また腫瘍を覆っている皮膚が破れているかどうかも予後因子として大きく影響するものです。見つけたら小さいうちに手術をうけることが重要になってきます。

手術の範囲(小さく切除したのか広い範囲を切除したのかということ)は生存期間に影響しませんが、組織学的レベルでしっかりと切除できていたかどうかは予後に関係してきます。手術を受けるのであれば、完全に取り切れるような広い範囲での手術を受けることが重要です。

組織学的な腫瘍の分類により、悪性度の高いものは予後が良くないことも分かっています。(炎症性乳がん>肉腫>乳がん>悪性混合腫瘍>→というような順です。)しかしこればかりはどうしようもありません。どのような種類の腫瘍ができてしまうかは対策が立てられませんから。

それから腫瘍の発生した位置や数は関係ありません。同じように妊娠の回数や偽妊娠の発生があったかどうかも予後には無関係です。

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<同時避妊手術>

乳腺腫瘍の手術を行う時、同時に避妊手術を受けると予後が改善するのかどうかについて、幾つかの研究がなされています。

以前は同時に避妊手術を行っても生存期間には影響しなかったという報告が多く見られました。近頃は予後を良くするという報告も多くあります。

少なくとも悪化させることはありません。ですから、もし年齢や術前検査の検査結果から手術時間に耐えられそうだとか、手術範囲と皮膚形成術の問題も生じないとかであれば、同時手術も考慮してもいいかもしれません。

 

<食餌と乳腺腫瘍>

食餌に赤身肉が多く含まれていると乳腺がんの発生率が高くなるという研究があります。赤身肉に含まれるω6脂肪酸はω3脂肪酸に比べ、がんの発生リスク上昇と腫瘍の成長速度の上昇に関連することが知られています。

また、食餌中の脂肪とタンパク質が乳腺がんの術後の生存期間に影響することを示す研究もあります。低脂肪食の場合はタンパク質の割合が低いと生存期間は短くなります。高脂肪食の場合はタンパク質の摂取量は関係しませんでした。

腫瘍になってしまったときの食事といえば、「高脂質、高タンパク、低炭水化物食で、肉ではなく魚由来の脂質を摂取したい」という基本がありますが、これは乳腺腫瘍においても当てはまるかもしれません。

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明日はハロゥインですね。
秋の実りに感謝です。


<外科手術>

手術の方法はいくつかあります。①から④までの方法に⑤、⑥を加える(かどうか)が基本手技です。

①腫瘍をくり抜く。(腫瘍の上の皮膚は切り開くだけで切り取りません)

②一つの乳腺を切除する。(腫瘍のある部分の皮膚は切り取りますが、腫瘍のある乳腺だけを取り除きます)

③領域の乳腺を切除する。(リンパ流でつながっている上3つ、または下2つを切り取ります)

④片側の乳腺を全部切除する。(片側の乳腺を上から下まで広範囲に切り取ります)

⑤リンパ節を切除する。

⑥卵巣子宮全摘出術(避妊手術)を行う。(まだ避妊済みでなければ、です)

*手術手技はどの方法を選んでも生存期間に影響することはないのですが、辺縁がしっかり取り切れていなくて、取り残しがあると再発することになります。

*発生している腫瘍がいくつかの乳腺にまたがって複数ある場合は、③または④の広い手術です。

*リンパ節に腫瘍細胞が入り込んでいる場合は、そうでない場合に比べて予後はよくありません。そこでステージ分類をする(予後に関する情報を得る)ためにリンパ節切除を実施しています。リンパ節を切除したことと生存期間の延長には関連はありません。

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一番下の乳腺に一つだけですが大きくできた乳腺腫瘍です。
屋外飼育の中型犬ではおなかを見せることが少ないし、
だっこすることもないため、気づかれにくいですね。

<内科的な治療>

手術後、いくつかの抗がん剤(とその組み合わせ)療法を行うと、化学療法を行わなかった場合と比較して生存期間が延長したという報告があります。

ハイリスクのものに手術をせずに化学療法だけを行ったという報告もあります。腫瘍が縮小したという結果が得られています。

最近の新しいニュースとしては、手術に際し尿崩症に使われるホルモン剤を使うと、無病期間も生存期間も延長したという報告もあります。

余裕があれば内科療法も併用すると効果が期待できそうです。

 

 

 

今日のお話はここまでです。

犬の乳腺腫瘍には別にお話しておきたいカテゴリーの炎症性乳がんがあります。次回は炎症性乳がんについてお話します。

 

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