菌と戦えない抗菌薬

 今日は薬剤耐性についてのお話です。

 

今月は薬剤耐性対策推進月間になっています。長い名称ですね。

実は3月に東京で行われた「人と動物の一つの衛生を目指すシンポジウム」に参加していました。(六義園の桜を眺めて終わっただけではありません。)

緊急課題は3つありました。一つは人と動物の共通感染症。これは今世界を震撼させている新興・再興感染症をいいます。二つめが狂犬病です。そして3つめの重要問題がこの、薬剤耐性菌の問題です。

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ワンヘルスは人と動物と地球全体の健康を考えます。
3つの命題が示されました。

 

<薬剤耐性菌というのは>

抗菌薬の効かない細菌のことを薬剤耐性菌といいます。

「薬が効かない」というと「その薬をずっと使ってきたから身体がその薬に対して抵抗を持つようになってしまった」と考えておられる人は多いようです。「私は健康体でふだんからむやみに抗生物質なんか使って無いから大丈夫。抗生物質が効かないなんてことはない。」と思っているのです。でもこれは誤解です。みんなが薬を使うため、菌の方がその薬を知ってしまい、薬から逃れられる体に変化したのが耐性菌です。

薬剤耐性菌は抗菌薬の使いすぎで増加しています。抗菌薬に抵抗のある耐性菌が増えると、治療にたいへん困難が生じます。しかし世界的には薬剤耐性菌による感染症は増加してきていて、今や世界中で共通の大きな問題になっています。

薬剤耐性菌としてはMRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)が有名ですが、ペニシリン耐性肺炎球菌とか、バンコマイシン耐性腸球菌、そのほか多剤耐性菌といって複数の抗菌薬に耐性を示す細菌もあります。

感染症にかかってしまったけれど、原因菌に有効なお薬がないという事態はすぐ近くにある脅威です。

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2016年11月14日から20日、抗菌薬の現状について
皆さんに知っていただきたい啓発週間です。


<最初の抗菌薬>

最初に誕生した抗菌薬は、言わずと知れたペニシリンです。ずっと昔の薬のように思われますが、ペニシリンがイギリスで発見されたのは1928年のことです。そして臨床ベースで使われ始めたのは1945年ころのこと。日本では昭和19年から「碧素」として研究が進められ、現森永製菓の三島工場で作られるようになり、翌年から第二次世界大戦中の兵士をたくさん救ったということです。(たった1年くらいで実用化できるようにした日本ってすごい!と思いますね。)

1945年のノーベル賞受賞当時、発見者のアレクサンダーフレミング博士は「不十分な濃度のペニシリンにさらすことによって容易にペニシリン耐性菌をつくることができます。同じことは人体でもときに発生します。」とおっしゃっておられます。今の課題を既に述べておられます。細菌の性質を知り尽くしていたということでしょうか、今の時代にも欲しい人だと思います。

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フレミング博士。
 

<新しい抗菌薬の開発>

さて、ある菌に対して効果のある薬がなくなったのであれば、それに変わる新しい効果的な薬をどんどん開発して行けば良いではないか、という考えを思いつくかもしれません。実は1950年から1970年ころは抗菌薬の黄金時代。いろいろ新薬が作られました。しかしそれを過ぎ、1980年頃にフルオロキノロン系が登場していますが、その後は尻つぼみになってきています。そしてここ数年は新しい薬はできていません。

どれだけ多くの抗菌薬が人類を、動物を救ってきたかしれません。このまま効かない薬だらけになってしまったらと思うと恐ろしいです。

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WHOのポスターです。
新しい抗菌薬の開発は減少しています。


<個人と薬剤耐性問題>

抗菌薬は細菌感染を起こしたときに病院で処方して貰います。重篤な場合は点滴で体にダイレクトに入れます。私など、この前抗菌薬の恩恵を授かったばかりです。

「風邪を引いたら抗生物質がほしい。」「常備薬として処方箋なしで抗菌薬を購入したい。」といったお手軽に抗菌薬を利用したい意識があるかもしれませんが、これは抗菌薬の乱用になります。風邪はウィルス疾患なので抗菌薬は効かないのです。(抗菌薬は細菌に作用するお薬です。)その一方で「13回の薬だけど忙しいし2回にしちゃおう。」「だいぶ調子も良くなってきたからまだ薬は残っているけどもうやめちゃえ。」と医師の指示通りに服用しないのも問題有りです。指示通りに服用し飲み残ししないようにしましょう。それから「私と同じ病気かもね。残っているこのお薬をあげるわ。」と気軽にお友達にお薬を譲るのも、もらってしまうのも良くありません。まめに手洗いをし、ワクチン接種は積極的に行い、抗菌薬使用が増えないようにするのは個人にできる薬剤耐性菌対策です。

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WHOのポスターです。
薬剤耐性菌は世界中で増加しています。

 

<獣医療と薬剤耐性菌>

私たちも犬や猫に抗菌薬を使っています。動物の健康を守るのになくてはならない薬です。

しかし動物病院が処方した薬の使われ方は、わたしたち自身が処方を受けたとき以上にルーズになっている可能性があります。「粉の薬はいやがってきて、3日飲ませたけどそれ以上は無理だった。」「1回に半分は飲めた。」「朝ご飯を食べない日があったからそのときはやってない。」「外に出て行ったまま帰ってこなかったからやれなかった。」などなど。それはそれは、たくさんの「飲ませられなかった理由」を聞いてきました。

抗菌薬は有効量を決められた飲ませ方で与えないと効果が無いだけでなく、薬剤耐性菌を作りやすくしてしまいます。動物に関わる細菌も人に関わる細菌も共通のことがあります。動物に対して抗菌薬をルーズに使ってしまうと、薬剤耐性菌が増加し、動物に対する治療成績を悪化させるだけでなく、人の感染症の治療も困難にすることが心配されます。

いま、医療と獣医療はそれぞれ対象とする相手は違いますが、互いにタッグを組んで薬剤耐性菌に取り組んでいます。処方通りの使用にご協力お願いします。

 薬剤耐性菌
食品を通して、私たちに関係する畜産分野も関係しています。

<感染症と抗菌薬>

感染症というと漠然としていて、「なんのことやら、わからない」と思われるでしょうか。例えば、歯石と歯周病菌です。歯茎が赤く腫れて頬も膨らみ、痛がって食事ができないという歯肉炎や歯周炎、ひどくなると歯槽膿漏なわけですが、これは口腔内の感染症です。何度もトイレに行く、おしっこが赤い、しゃがんではいるけれどおしっこが出ているのかどうかわからないというようなのは膀胱炎で、細菌が関与しているかもしれない。また膀胱結石の中には細菌が原因になって石が形成されるものもあります。猫同士のけんかで皮膚の下に膿がたまるのも細菌感染です。細菌性の外耳炎や皮膚炎もあります。細菌感染症は動物病院では日常的によくある病気です。

そして、感染場所と感染菌は一定の傾向があります。〇〇感染症で一般的なのは〇〇菌、△△感染症には△△菌という大ざっぱな傾向です。そして抗菌薬には得意とする細菌と苦手とする細菌があります。そのため、抗菌薬なら何でもいいのではなくて、ここの感染症に対しての第一選択薬は〇、こっちのはという大まかな決まりもあります。飼い主さんの都合からすると、「2週間効いちゃう、あの注射がいい。」というのが究極ですけれど、「1日に1回なら与えられる。」とか「シロップなら大丈夫。」とか「フィラリアの予防薬みたいな食べるやつちょうだい。」というご希望に、ぴったり条件が合う薬があるとは限りません。

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耐性菌が生まれる原因です。WHOのポスターです。
抗菌薬の過剰投与、
処方された薬の中断、
畜産や水産業での抗菌薬の過剰投与、
不十分な感染症対策、
手指や環境の衛生不足、
新しい抗菌薬の開発遅れ
が言われています。

<抗菌薬をつかうときのお約束>

以上のように、薬剤耐性菌を作らないようにするため、動物病院が抗菌薬を処方するときには一定のお約束を守るよう、農林水産省から指導が入っています。

     むやみに抗菌薬を処方しません。

     第一選択薬を使い、「使い勝手がいいから、飲ませやすいから」という理由で、高次の薬を先に使うことはしません。

     第一選択薬で効果が得られなかった場合は、薬剤感受性検査を実施し、結果に基づいて適合する薬をチョイスします。

     有効な薬を必要最小限使います。

といった内容です。

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畜産動物に対して使用する抗菌剤は細かい規定が定められています。

 

<抗菌薬を慎重に使うということ>

上記のようなルールにしたがって抗菌薬を使うと、「最初にもらった薬は飲ませづらかった。」「11回の便利な薬があるなら最初からこちらを処方してほしかった。」など、ご不満が出そうにも思われます。

しかし薬剤耐性菌をなくすために、私たちも本腰を揚げて取り組まなければいけないところまで来てしまいました。そのために実施することは飼い主さんにとって都合のいいことばかりではありませんが、近い未来のために、今取り組まないといけない問題です。ご協力をお願いします。

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人の医療と家畜関連の獣医療は耐性菌に対して協力体制を取っています。

<おわりに>

今回のお話は臨床にストレートに関わる問題ではなかったので面白くなかったかもしれません。が、大切な話題ですので、折りがあればまたお伝えしたいと思います。

1114日から20日は世界抗菌薬啓発週間です。一人でも多くの人に、身近な抗菌薬の実情を知ってもらえたらと思います。

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子どもたちに安心な未来を。
そのために今やらなければならないことがあります。

 

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テーマ : 動物病院
ジャンル : ペット

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オフィシャルサイト:http://www.heart-ah.com/

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