猫汎白血球減少症 2

 猫汎白血球減少症のお話の続きです。

 

<密度の濃い治療を行います>

感染した猫はすぐに命を救うための治療が必要になります。

嘔吐や下痢によって多くの水分が失われるため、脱水はこの病気の主症状で、なおかつ命を危険にさらす可能性があります。すぐに解消しなければいけません。脱水は「水」と「電解質」の欠乏です。バランスのとれた補液を行い、体液を回復させます。

腸内細菌による日和見感染から体を守るために抗菌薬を使用します。

そして抗ウィルス作用や、免疫を強める作用を期待して、猫インターフェロンを使います。

白血球を増やす作用のある特殊な薬を使うこともできます。

白血球減少に続いて、血小板の減少や赤血球の減少(貧血)を起こすことがあります。それぞれに応じた治療を行います。

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<手厚いサポートは生死を分けることができます>

危険な状態から回復するまで、猫には安静が必要です。賑やかな場所から離れ、暖かく静かに休養できる場所を提供してください。もし猫に苦手な子供がいるとしたら、彼らから遠ざけてやると、安全でゆっくり静養できる環境になります。これは他の猫から隔離することでもあります。感染を拡大させないために必要な処置です。

家庭で看護するときに必要なことはほかにもあります。猫トイレと猫用の寝床の近くにきっちり蓋のできるゴミ箱を用意してください。ウィルスに汚染された簡易手袋や使い捨てのペーパーなどをその場で処分することができます。世話をする人がウィルスを遠くに持ち出すのも避けることができます。

十分に愛情をかけてやることは特に大切です。猫に快適な環境を提供することと同じくらい大切です。けれど、厳重な衛生管理を行わないとウィルスを残したり、遠くへ運んだりすることになってしまいます。看護する場合も必要以上の身体的な接触を避け、感染猫に触れた後は特に清潔にし、もし同居猫がいる場合はほかの猫に感染を広めないように十分注意してください。

子猫を除いて、ウィルス感染から回復の兆しを見るのはほんの数日のことです。その少しの間だけ、頻繁に病院に通ってもらうことや、密なケアをお願いします。

猫が免疫系統に異常を持たない場合は、生涯免疫を獲得することができるといわれています。また病後、猫がこのウィルスに対するキャリアー(保菌者、ずっと体内にウィルスを持ち続けて、何かの折にウィルスを排泄して感染源となる)ことはありません。

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<残念な結果になることもあります>

多くは体力の無い子猫に起こることですが、急な病気の進行により亡くなることもあります。子猫の致死率は非常に高く、90%以上になることもあります。

パルボウィルス感染症は、嘔吐や下痢を主症状にする消化器系の疾患ですが、子犬のパルボウィルス感染症に見られるような急性の心筋炎のパターンをとることもあります。朝、様子がおかしいと思いつつも仕事に出かけ、仕事が終わって帰宅したらすでに冷たくなっていたというような甚急性の経過をとる子猫もまれではありません。

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<リスクの高い猫>

この病気に対するハイリスクな猫は、

    野猫の集団の中で生まれた子猫(栄養不良から免疫が弱くなっていることが多いです)

    シェルターに保護された子猫

    生後2ヶ月から6ヶ月くらいの子猫(親譲りの免疫が切れた頃です)

    妊娠中の母猫(免疫状態が薄くなっています)

    猫免疫不全ウィルスに感染している猫

    屋外に出ていく猫(ほかの猫と接触する可能性が高いです)

です。ウィルスが多量にある環境内に、これらの猫が入り込んだ場合は絶望的になります。

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<ウィルスを広めないために>

消毒は最も大切なことです。家庭用の塩素系漂白剤(次亜塩素酸ナトリウム)の薄め液が有効です。

糞便や吐物など、排泄物に汚染された猫のトイレや食器、寝具、おもちゃの類はしっかり消毒されなければいけません。ケージに入れたときに柵が汚染を受けたときも、消毒液にしっかり浸漬する必要があります。通院用のキャリーも同じです。しっかり消毒を繰り返してもすべてのウィルスの痕跡をなくすことはなかなか難しいことがあります。

間違いなくウィルスを根絶するために最良な方法はすべてを廃棄処分することです。残された汚染物に、感染猫は反応することはありませんが、ウィルスの痕跡が残るとほかの猫が感染する可能性は十分あります。

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<予防手段はワクチンです>

猫汎白血球減少症は、猫に対するコアワクチン(中心的な、必ず接種しておきたいワクチン)の一つです。これは屋内飼育の猫だから接種しなくても大丈夫ということはなく、必ず定期的にワクチンを受ける必要があります。

子猫の時は89週齢時と12週齢時の2回接種が推奨されます。その後成猫になってからも1年ごとの追加接種が推奨されます。

感染状況が高いシェルターなどの施設に保護された子猫は16週齢時に3回目のワクチン接種をうけることが推奨されています。

猫汎白血球減少症単独のワクチンではなく、猫ウィルス性鼻気管炎(猫カリシウィルスと猫ヘルペスウィルス)を含めた3種混合ワクチンが一般に接種可能なワクチンです。弱毒生ワクチンと不活化ワクチンがあります。弱毒生ワクチンは、接種後、迅速な感染防御がはじまります。健康上問題の無い猫は、この弱毒生ワクチンの接種をおすすめします。

弱毒生ワクチンをおすすめしない猫もいます。お母さん猫の初乳(生まれてはじめの1週間くらいに分泌される免疫がいっぱい詰まった母乳です)を飲むことができなかった幼少の子猫は、早くからワクチン接種を必要としますが、こんな小さなか弱い猫は不活化ワクチンを接種されるべきですし、猫免疫不全ウィルス感染症(猫エイズ)の感染がわかっている猫も不活化ワクチンを使って予防されるべきです。

正しいワクチン接種でかわいい猫を病気から守りましょう。

 

 

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猫汎白血球減少症

 猫汎白血球減少症についてお話しします。

この秋、体の動揺の止まらない子猫の診察をする機会がありました。さらに冬になり、白血球をカウントできない子猫たち、それも近隣出身ではない子猫を数頭、続けて診察することになりました。頭のどこかで、「パンロイコは昔の病気、今はワクチンをみなさん接種してくれるようになって診ることもなくなった」と思っていたのですが、「まさかのパンロイコ」は今なお健在で子猫を中心に暴れまくっているのでした。

ほとんど説明する機会も無くなってきた汎白血球減少症ですが、まとめてみました。長くなってしまったので、今日と来週の2回に分けて掲載することにします。

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<汎白血球減少症>

この病気は「猫ジステンパー」とも呼ばれ、非常に伝染力が強く、感染すると命に関わる恐ろしい病気です。「猫ジステンパー」とも呼ばれますが、「犬ジステンパー」とは全く違う病気です。病気は「猫パルボウィルス」に感染して発症する感染症で「猫パルボウィルス感染症」と呼ばれることもあります。「pan leucopenia」すなわち「pan=汎=すべての」+「leuco=白血球」+「penia=欠乏症」という言い方が、この病気の特徴をよく表しているので、私は主に「汎白血球減少症」と呼んでいます。このあともこの名称で綴っていきます。

 

<ウィルスの特徴>

パルボウィルスは直径20~22ナノメートル(1ナノメートルは1mmの100万分の1)というきわめて小さなウィルスです。正20面体対称立体をしています。パルボウィルスは様々な動物を宿主とします。元々はミンクの腸炎でこのウィルスが確認されています。さらに猫だけでなく、アライグマや犬に感染を起こすパルボウィルスも確認されています。ことに犬のパルボウィルスは1978年にアメリカで発症するとわずか1年あまりの間に全世界に広まってしまいました。人でも「伝染性紅斑」の原因となっているのがパルボウィルスです。

パルボウィルスは感染猫の体外(乾いていて、体温よりも低い気温で、栄養の供給されないような環境の中)でも、最長1年くらいは生存が可能です。つまりとても生命力が強いです。そして小さくて軽いため、何かに付着したり、また離れて空中を舞うことができます。

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<感染経路がはっきりしている場合ばかりではない>

そのようなわけで、何が感染源(ウィルスが付着しているもの)なのか特定ができないことがほとんどです。

猫から猫への接触だけでなく、何かを介してウィルスが運ばれて感染が成立してしまうという、目に見えない恐ろしさがあります。

もし同じ家の中で発症した猫がいれば、感染猫が使用していた食器やトイレのほか、世話をしている人の手指からも感染の機会があります。それも、数ヶ月とか1年近く経過した後でも、適切な消毒薬でウィルスを殺すことができなかった場合はウィルスが環境中に残っているので、ウィルスが付着していた換気扇やエアコンフィルターから風に乗って舞い落ちることもあります。

また、もしかすると屋外の感染猫の排泄物を踏んだことから靴を介してわたしたちが自宅にウィルスを持ち帰ることもあります。

(屋内でだけ過ごす猫にも汎白血球減少症の予防をするワクチンを定期的に接種するようにおすすめするのはこのような理由からです。)

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<ウィルスはどのように猫を攻撃するのか>

パルボウィルスは体内のさかんに細胞分裂が行われている部位を好みます。その結果、栄養を吸収する細胞を作る腸の上皮細胞、血液細胞を作り出す骨髄中の細胞、そして妊娠中のお母さん猫の子宮内の胎児の細胞が最も攻撃を受けることになります。

腸管の細胞が壊されると、猫は水分や栄養分の吸収ができなくなります。激しい脱水と衰弱が起こります。粘膜がはがれ落ちると腸内細菌が腸に分布している血管を介して体内に入り菌血症を起こします。

骨髄内で白血球が攻撃を受けると血中の白血球数が極端に少なくなります。白血球は細菌を食べて殺していく仕事をするもの、免疫を高めて病原体から体を守る仕事をするものなどありますが、すべての種類の白血球が無くなるために病原体から身を守ることができなくなります。

感染源からのバリアーになるはずだった白血球の喪失で、リンパ球の駐在所であるリンパ節はウィルスに乗っ取られてしまうと(リンパ系への侵入)、猫の免疫力は瞬く間に無くなっていきます。ウィルスからも、体内にいた常在細菌からも簡単にやられてしまいます。

妊娠初期の段階で感染した母猫は流産を起こします。妊娠後期の感染になると、早産を起こします。胎盤もまた盛んに細胞が作られている組織です。また胎児である子猫は主に小脳を侵されます。小脳は運動やバランスの調整を行う組織です。小脳の形成不全を伴って生まれてきた子猫は、不安定な歩き方をしたり、集中しているときでさえも静止できず体を揺らします。成長するに従い、こうした揺れは軽くなりますが、すっかり正常に戻ることはありません。

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<感染した猫の様子は>

・急な発熱や嘔吐、元気消失から病気は始まります。

・あまりにも免疫力の無い子猫はそのまま亡くなってしまうこともあります。

・食事に対する関心も失せ、おとなしくうなだれます。

・1日か2日くらい、姿を見せない猫がいるかもしれません。

・じっと隠れて体調が悪いのをしのいでいます。

・水を飲みたそうに水食器の前で頭を下に傾けている姿を見るかもしれません。

・激しい嘔吐が続きます。

・血にまみれた下痢です。

・トマトジュースのような鮮血の赤い水様便を噴射します。

・とろっとした粘液が混じった便だったりもします。

・非常に血生臭い便、悪臭です。

・日常好んでリラックスしている場所にいないかもしれません。

・妊娠初期のお母さん猫は流産や早産をおこすことがあります。

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<病院へ急ぎましょう>

みるみるうちに状態は悪化していきます。

病院では、

    屋内で暮らしているのか、屋外にも出るのか。

    最近ほかの猫が新しくメンバーに加わっていないか。

    いつごろどんなワクチンを接種したかのか。

などを年齢や性別などのプロフィールと一緒に伺います。

それから

    おうちでどのような状態だったのか。

    どんなふうに病気が経過してきているのか。

を伺います。

そして、ほかの病気も視野に入れながら血液検査や糞便検査を行います。

血まみれの便は特徴的な症状ですが、病気の経過途中ではまだ現れないこともありますし、ほかの病気でも同じ症状を出しますので、区別が必要になります。

決め手になるのは、血球検査で、白血球数が極端に少ないことです。普通、血球数のカウントは機械にさせますが、特別な場合は、血液を薄くのばして染色し顕微鏡下で視覚的に観察することがあります。機械の数値に間違いが無いかを確認する作業です。機械と、人による作業とのダブルチェックを行います。

血球検査で疑問が残るような場合、もう一つの確認として糞便を材料にしてウィルスチェックをすることもあります。犬用のパルボウィルスキットを使います。100%の信頼度があるわけではありませんが、参考にはなります。最近ワクチンを接種したばかりというような場合は擬陽性の結果に出ることがあります。ワクチン接種後間もない場合は、まだ免疫が作られておらず、ワクチン株ではない強いウィルスに感染してしまうこともあります。


今日のお話はここまでです。
治療について、予防については次回お話しすることにします。

 

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