音恐怖症

 梅雨の時期は前線の通過に伴って大雨が降り、低気圧の勢いが強いために強い風を伴うこともあります。梅雨明け近くになると雷が鳴る日があったり、そしていよいよ夏が始まると各地で花火が上がったりします。雨や風、雷や花火などの音が大嫌いで、過剰に恐怖を示す犬たちがいます。「恐怖症」といっています。「音恐怖症」とか「雷恐怖症」とかは代表的な恐怖症です。総合的にどれもこれも怖がることもまれではありません。これからの季節に頻繁にみられる恐怖症についてお話しします。

 雷

<恐怖症>

どんな犬も「経験の無い音や状況」に対して不安を示すものです。中には不安や恐怖から極端な反応を示す犬がいます。こういった反応を示す犬たちはたいてい「分離不安症」を併発していることが多いです。特に「分離不安」がある犬たちは、ご家族と離れて「ひとりでお留守番」するのが大変苦手です。ひとりぼっちになるのも「不安」なのに、そこへさらに「音」刺激が加わると、恐怖は倍増、さらに強い恐怖を感じてしまいます。

恐怖症は猫でもみられます。

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<恐怖症になりやすい犬たち>

恐怖症に陥りやすいタイプの犬猫がいます。

     幼少期の体験:

社会化適応期に新しい環境に十分な社会化ができなかった場合にありがちです。

     強い刺激を体験:

非常に強い恐怖体験を受けたことがあると恐がりになります。

     動物の恐怖反応に対する家族の対応:

動物の反応に対して家族が大げさに反応した経験が重なると恐怖症が深まります。

     高齢:

高齢になると「見えない、聞こえない」などが高まるので不安傾向が高まります。

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<恐怖行動はどんなもの?>

恐怖を感じた犬はいろいろなパターンの行動をとります。

     ものを壊す。

     吠える。声をはり上げて鳴く。

     落ち着きがなくうろうろ歩き回る。(そわそわする)

     何度もトイレに行く。(うんちやしっこを頻繁に出す)

     だっこを逃れようともがく。(噛む)

     暗いところや狭いところに入り込む。(隠れる)

     ぶるぶる震える。

     ハァハァと短い呼吸になる。

     ヨダレが出てくる。

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猫の行動は少し異なります。

     狭くて暗いところに入り込む。(行方が分からなくなる)

     トイレを失敗する。(怖くてトイレまで行けない、違うところで排泄する)

     大きな音に驚いて近くの猫やひとに攻撃的になる。(転嫁行動)

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<どんなふうに診断する?>

音恐怖症でみられる上記のような行動は他の病気でもみられることがあるため、

「こういう状況のとき」→「この状態が悪化する」

のを見定める必要があります。一度きりの反応で診断することはせず、再現性を確認する必要があります。また、同じような行動をとる別の病気ではないかを調べる必要もあります。

「音に対する恐怖」から起こっている行動だと思ったら、身体の不調に伴う行動だった、というような「身体の不調」を見逃さないようにするためです。

診断は総合的に行います。

 

<治療しましょう!>

恐怖症の治療は、「怖いと感じている対象」に対し「馴れさせる」ための行動療法が主体です。しかし、「馴れさせる」にも、恐怖刺激がいつ起こるのかも分からないものに対しては「馴れ」の練習を積むこともできません。そして「避けられないもの」のときも「練習」がいきなり「本番」になるため、行動療法がうまく使えないこともあります。

行動療法に併用して、または単独で薬物療法が有効です。サプリメントの使用が効果的であることもあります。

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<行動療法というのは?>

恐怖症に対する行動学的アプローチです。

     服従訓練は心を強くします。

日常的に「落ち着かせ」「命令に従わせ」「集中力を養う」トレーニングを行います。こちらを注目させる「見て!」(○○ちゃん!)、そこから、「すわれ」、「伏せ」などを導きます。号令に従うたびに「ほめ」ます。はじめは「よし」「いいこ」「グーッド」などの褒め言葉+おやつが「ごほうび」ですが、一連のものができるようになってからは褒め言葉+「なでなで」の愛撫だけでも愛犬にとってはごほうびになります。

そこから、恐怖対象となるものに遭遇した場合でもできるように訓練していきます。

     恐怖刺激を少しずつ強く、少しずつ頻度を上げて行きます。

ゆるい刺激を与えて、それまで恐怖刺激に対して取っていた行動を減らし、また徐々に好ましくない行動を起こさないように行動を変化させていきます。恐怖行動を示さなくなったら、刺激をもうちょっと強めます。そうして徐々にならしていきます。

     安心な場所を提供します。

安全な逃げ場所を作り、そこへ誘導します。外部の音が聞こえない、静かで暗く、安心できる毛布などを備えたちょっと狭めの(身体が毛布などにぴったり寄せられ、包み込まれるような感じになるような)ところが好ましいです。

     事前に情報をキャッチして音刺激を避けます。

天気予報に気を払い、雷が来そうとか、台風だ、という場合はひとりぼっちにしないようにします。また地域で「花火」が上がる日が分かっていれば、その日も早退するなど、ご家族の協力が欠かせません。

     他の音で恐怖音を消します。

テレビやラジオ、音楽を流すなどして、本来の恐怖音をかき消す工夫も有効なことがあります。

     しっかり運動をさせます。

お散歩で運動が十分足りていると精神的な満足があり、恐怖反応が弱まることが知られています。

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<してはいけないこと>

やってしまいがちですが、逆効果となるパターンがあります。

     抱っこしてなだめること。

「大丈夫だから」「いいこね」と抱っこして「よしよし」してしまうと、恐怖行動そのものを起こすと「ご褒美がもらえちゃう!」と勘違いすることになります。

     恐怖に同意すること。

「こわいね」「いやだね」と同調すると、よけに恐怖が増し、さらに恐怖反応を示すようになります。飼い主さんは冷静に振る舞いましょう。

 

<薬物療法とサプリメント>

行動療法の成功率を高めるため、お薬を併用することもできます。またサプリメントも効果的です。行動学で使用するお薬はほとんどが向精神薬に分類されるものです。対象となる個々の動物で、異なった薬が効果を出すことがあります。A薬であまり効果が見られなかったというときにB薬に変更する、というような使い方をします。これらの薬の使い方は根気が必要なことが多いです。

 

<治るのかなぁ>

複雑に恐怖の要素が重なっている場合、刺激を再現しながら恐怖に慣れさせる行動療法は難しくなります。ですが治療をすると、完治までは行かないまでも状態は改善します。恐怖を感じてから治療を始めるまでの時間が長くかかってしまった場合は、やはり治療の効果発現までの時間が長くかかります。

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<お散歩が怖い!>

音恐怖症とはちょっと違うかもしれませんが、室内犬では屋外の音、屋外の環境すべてを恐怖に感じてしまうことがあります。そのため外出ができません。お散歩が怖いのです。

お散歩恐怖症のわんこは、散歩中に出会った何かに対して恐怖を感じるのだろうと思います。それが何だかわかっても、出会うことを予測するのは難しいです。けれど、少しずつ馴れさせることは十分可能です。

外環境の刺激は気分転換になりますし、犬に社会性を身につけさせることもできるし、運動にもなるため、ぜひお散歩の好きな犬になって欲しいと思います。

     知らない人や、犬、車の音などに慣れるまで抱っこで出かけます。

     出会いの機会が減るような時間帯や場所を選んで歩かせてみます。

     途中で大好きな家族が待機し、そこまで歩けたことをほめてやります。徐々に距離を伸ばします。

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<おわりに>

病院恐怖症もひとつの恐怖症になるのだろうと思います。1年に1回だけ、嫌いなキャリーに詰め込まれ、騒音と揺れのある車に乗せられ、知らない犬がひしめく動物病院に連れてこられて、わけも分からず採血や注射のために何本か針を刺されて痛い思いをすると、なるほど、病院恐怖症にならないわけもないでしょう。

何か無くても病院に来て、ご家族と病院スタッフが和やかなテンションで話をしている雰囲気の中に身を置くのも病院順化の行動療法に相当します。そのような状況では、犬は台に乗ってちょっと触られたりするくらいの診察になります。ここで良い子にしていると帰りにほめられてご褒美のクッキーが食べられる。とまぁ、こんなことが何度か繰り返されたら、病院も怖くない場所に変わると思います。皮膚科診察の犬たちが比較的病院に慣れているのは、頻繁に来院しているのと、痛くない治療が行われる、ときにお風呂に入れて気持ちの良い経験をした、というプラスイメージの積み重ねがあるからなのでしょう。

「これって病気なの?」「このくらいのことで病院に行くのは恥ずかしいかなぁ?」なんて気にしないで、どうぞ動物連れでおしゃべりにお越しください。診察室から出て行くまでぶるぶる震えているかわいそうなわんこを一頭でも減らしたいと思っています。春のハイシーズンが過ぎ、病院は静けさを取り戻しつつあります。ご家庭でのわんこのご様子をご家族の方からお聞きするのを楽しみにしています。

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テーマ : 動物病院
ジャンル : ペット

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