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猫の毛球症

 犬も猫も換毛期です。よく毛が抜けます。制服のまま猫を抱いたら、新しい服を毛だらけにしてお母さんに叱られるなんてこともあるでしょう。この時期には胸の前、脇の下、お腹から太もものあたりを毛玉にして来られる猫もいます。主に長毛種の猫たちです。「毛玉ケアっていうキャットフードを食べさせているんだけど、毛玉ができちゃうんですよ」なんて残念そうにおっしゃっていたお母さんもおられますが、毛玉は身体の毛ときをしてあげないとできてしまうものです。そしてフードメーカーのいう毛玉は「毛球症」(ヘアボールということもあります)のことで、このフードを食べると毛球を吐き出すことが減りますよ、というコンセプトで作られているものです。ですからこの食事を食べても毛がからむ毛玉予防にはなりません。(毛玉ケアという名称を使うから誤解を生むのです。良くないことです。)

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<毛球症というのは>

さて、猫の飼い主さんなら一度は「毛球症」のことを聞いたことがあると思いますし、猫が毛の塊を嘔吐するのを経験ことが有るかもしれません。一緒に寝ていて、ベッドの上でやられた!という方もおられると思います。「毛球吐き」=「毛球症」は生理的なことだと思われても仕方がないくらい発生率は高いです。でも、「毛球症」はよくあることではあるけれど、正常なことではありません。

猫の毛球症は、猫自身がグルーミングをして毛を飲み込んだ結果、発生します。猫の毛は食べても消化できるわけではないので、本来は胃から腸へとすり抜けて便に入り排泄されます。ですが場合によっては胃の中でもまれて塊になり、口から吐物として出てくることがあります。「オェッ!オェッ!ウェーーーッ!」という苦しそうな声(音?)だけで吐く物がなければ「ぜんそく」かと思われるかもしれません。でも、この音は嘔吐の前触れで、呼吸器系の病気の印ではないのです。

毛球は毛の塊です。水分を含んでいて、表面がぬるっとした粘液で覆われているようなこともあります。食道を通るときに棒状になります。胃の中ではボール状です。

毛球症には嘔吐以外の、別の心配点も有ります。吐き出されずに腸へ流され、小腸の途中かまたは小腸から大腸の入り口付近(盲腸部分)で毛球が詰まってしまい「腸閉塞」を起こしてしまうことです。

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<毛球の作られ方>

猫は自分の毛を手入れしながら、繰り返し舐めているうちに、舌に毛を含み飲み込みます。猫の舌には突起(ざらざらしたとげ状のもの)があるので、毛を口から食道へと移動させてしまいます。長毛種の猫はなりやすい傾向がありますが、短毛種なら大丈夫ということもありません。グルーミングの手伝いをするというのは抜け毛の量を減らすという意味でヘアボールの形成の機会を減らすので役に立ちます。

 

<毛球の原因>

猫がグルーミングするのは普通のことです。しかし、病的な脱毛になるほど過度に身繕いするときは、大量の毛を飲み込むことになります。何らかの皮膚病(感染症やアレルギー)があるとき、ストレスや退屈な状況(心因性の問題)、痛みがあるために舐め続けること(関節症では傷が見られないために痛みに気づいてやれないこともあります)などは過度のグルーミングをもたらします。まめな舐め行為は毛球のもとになる毛を大量に食べてしまいます。

もうひとつ重要なのが、本来ならば毛球を胃の中で形成されないうちに食物とともに(少量ずつ)腸管へと送られ、(少しずつなので大した問題にもならずに)便とともに効率よく排泄されるはずなのに、それができない点にあります。これは消化管の運動性の問題です。ものが消化管を移動する速度の問題です。運動性を低下させ移動速度を遅らせる問題として考えられる病気はいくつかありますが、怖い病気である甲状腺機能亢進症や炎症性腸疾患、腸の腫瘍(消化管のリンパ腫)、胃の出口にできる炎症性の過形成なども含め、慢性膵炎や胃腸炎が心配の種になります。

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<毛球嘔吐の診察>

たまには毛を吐くこともあるでしょう。食事をするスピードが速い猫では急な胃の拡張から胃壁が敏感に反応して食事とともに毛球を吐き出すかもしれません。猫の草やその他の植物を食べて吐くことも、それが原因となって吐きます。けれど嘔吐の頻度が高いときにはさきほどお知らせした要注意の病気も含めて、診察が必要になります。怖い病気ではないことの確認を取るためです。手遅れにならないように。

けれど、すべての「毛球を嘔吐する猫」に対して血液検査やレントゲン検査、果ては麻酔をかけての内視鏡、消化管の生検、病理検査までを行なう必要はないと思っています。あまり構えないで来院してください。

それから、毛球の嘔吐では皮膚の問題や、こころの病気についても判断が必要になります。

「えっ?ヘアボールの嘔吐だけで診察は必要?」といぶかられるかもしれませんが、もし、食事療法など簡単な治療だけで、枕元でヘアボールを見つける問題が解決できるのであれば、こんなに喜ばしいことは無いのではありませんか。

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<毛球症の治療>

さまざまなこわい病気ではなさそうだと判断できたら、治療に入ります。口に入る毛量を減らすこと、そして毛球が消化管の中を通過しやすいようにしてあげるのが治療目的です。

消化管の運動性を高める薬も有りますが、毛球が通過しやすいように加えるオイル系のサプリメント、または食事そのものの変更が基本の治療です。炎症性腸疾患が疑われるとき、アレルギー疾患でおもに用いられる抗原を制限した食事に変更します。また高繊維食も腸の健康を増進させることができます。可溶性繊維と不溶性繊維のバランスの整った高繊維食がおすすめです。サプリメントは一般には潤滑剤を含んだものです。消化管内の毛球をオイルでカバーし、塊になるのを防ぐ働きがあります。潤滑剤はあまり美味しくないみたいで、強制的な投与で猫が嫌気を指してしまうかもしれません。(キライという猫が一定数います。)この場合の代役としてΩ3脂肪酸のサプリメントをおすすめしています。Ω3脂肪酸は皮膚に良いので、皮膚に痒みや赤みなどがある場合にも有効です。

基本的なことですが、定期的なグルーミング(毛とき)は毛球症予防に有効な手段であると同時に、皮膚の健康にも役立ちます。

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<ポイント>

  皮膚の上で毛が絡まってしまう毛玉と、毛球症は違います。

  毛球を吐くのはよくあることだけれど、健康的なことではありません。

  猫草を食べさせて毛球を吐かせれば安心だという結論になってはいけません。

  嘔吐の原因を調べて、怖い病気ではないことを確認しましょう。

  食事変更やサプリメント、グルーミングの手伝いなどで毛球症の治療が可能です。

 

4月最後の金曜日はHairball Awareness Day、毛球症について知ってもらう日です。いつもの「毛玉吐き」をもう少し、意識高くしてください。

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猫の歯肉口内炎

 猫で口腔内の病気というと、「歯周炎」に次いで「歯肉口内炎」が多いです。単に「口内炎」とだけ言うこともありますし、「口狭炎」ということもあるかもしれません。どの年齢層の猫でもかかりますが、比較的中年齢から高齢の猫に多いように思います。見つかるのがこの年齢になったときに多いということだけなのかもしれません。歯科疾患のひとつのかたちとして存在していた頃もありました。今は独立した疾患名になっていますが、歯垢や歯石と全く無関係というわけではなさそうです。歯肉の組織と口腔粘膜の炎症が歯肉口内炎です。

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口周りに黒汚れが付いているのが外から見てわかる目印。
頬をきゅっと後ろに持っていくと臼歯と口角が見えます。

 

<痛みが激しい>

とにかく、激しい痛みがあります。

水を飲むときも、食事をするときも、猫は細心の注意を払っているようです。慎重さのあまり、飲むのをためらっているようにも見えてきます。食べるときも同じです。硬いものを食べるときはそのまま呑み込んでいます。ドライフードを噛むカリカリした音を聞くことはないです。

ウエットフードでも、ゼリー状のフードや水分量の多いフードをへちゃへちゃ舐めて飲み込むようにして食べています。ことによると、口角(口の左右の部分)に当たらないように食べられるスティック状のフード(ちゅ~るなど)を舐めるだけということもあります。飼い主さんの観察力によるところなのですが、「これだけは食べる」ということが「このやり方だと食べる」「この形状だと食べやすいようだ」と解釈するのか、「これはおいしいらしい」「これが好きみたいだ」と解釈するのとの違いになるのでしょう。フードの形状の違いで食べたときの痛み(しみる?)の出やすさに違いがありそうです。

口が痛くてもお腹は空きますから、努力して食べていますが、十分量に満たない分量しか食べられません。そのため、体重が減ってきます。ここは「食べているから大丈夫」「食欲はある」と勘違いしないでいただきたいと思います。

痛みのため、常にイライラした状態です。そのせいで「性格が変わった」ように見受けられることもあります。逆に動きが不活発になり、「元気がない」ように見えるかもしれません。痛みのためグルーミングをしなくなるため、毛並みが悪いです。「年のせいだ」と誤って解釈しないようにお願いします。

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歯肉のラインだけでなく、後ろの方まで赤みがつながっています。
腫れもわかります。

<炎症がある>

口の中の粘膜は上顎の奥歯を中心に、奥の方(喉に近い方)まで赤くただれていることが多いです。「炎症」には「炎」という文字がつきますが、まさに、かっかと燃えているような様相です。見た目に痛々しいわけですが、口を開けようとすること自体、痛みのために抵抗され、難しいこともあります。「いくよ、あけるよ、はいっ!」で開けて「うぎゃー!」という叫び声になることもしばしばです。

炎症は「赤い」「腫れている」「盛り上がったところがある」のほかに、「ただれている」「えぐれている」などの状態まであります。また、炎症の部分も歯肉だけのものから、頬の内側の粘膜、口の奥(喉に近い部分)、上あごの粘膜、舌など、進行するにつれて広範囲の粘膜が赤くなっていきます。

 

<原因はいろいろ>

どうしてこのようなことが起こるのか、直接的な原因はまだつかめていません。多頭飼育しているとか、混合ワクチンを接種していないというのはリスクが高いと言われています。

原因はありとあらゆるものが関与するといった方が正しいかもしれません。

  ウィルスの関与として猫カリシウィルス(FCV)が炎症部から分離同定されることが多いようです。そのほか猫白血病ウィルス(FeLV)、猫エイズウィルス(FIV)、猫ヘルペスウィルス(FHV)、猫コロナウィルス(FCoV)、猫伝染性腹膜炎ウィルス(FIP)、猫汎白血球減少症ウィルス(FPLV)感染も関係があるとされています。

  また細菌感染が関係する可能性もあります。とくにバルトネラヘンセラは関与が強く疑われています。ほかはポルフィロモナス菌、クラミドフィラ菌やマイコプラズマ菌、パスツレラ菌は分離菌として名前が挙がります。

  免疫系の状態も関係すると言われています。血中の免疫グロブリンが上昇しているのに口腔内の局所免疫機能が低下している可能性があるようです。

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おおきく口を開けると喉の方まで赤みが
つながっているのがわかります。

<診断>

肉眼的に見るだけで診断することが多いです。

この検査を行なって、このような結果が出ると歯肉口内炎の診断が確定される、という検査がありません。理想を言うと、血液検査で裏付けを取り、病理組織学的に炎症の組織像を観察し、歯周病の時に同じように口腔のX線検査を実施すると、猫の身体の全体像が見えてきて、治療をしたり予後判断をしたりする上で良いのだろうと思います。

口腔内に炎症を起こす病気が他にもあります。腎臓を悪くして尿毒症になったときの口腔内潰瘍、食事性アレルギーに関連した好酸球性肉芽腫症候群、口腔内にできた扁平上皮がんなどです。判断に苦慮する場合は病理検査をさせていただくことがあります。

 

<検査>

治療の補助にするために検査をさせていただくことがあります。(「治療はしません」って言われますと、検査はしづらく、残念な気持ちになります。)

あくまでも、「標準では」ということになりますが、体調はどうか、獣医学的に積極的な補助をしないといけない状況ではないかどうかを見ていくことや、積極的な治療としての麻酔をかけた処置に入れるかどうかを判断するために検査を行なうものです。

具体的に言うと、血球の検査は貧血の有無、白血球の数や内訳、止血に関与する血小板の数などを見ます。電解質の検査や生化学的な検査は、今の身体の状況(肝臓は?腎臓は?)を知るために行ないます。総蛋白やアルブミンの検査から、グロブリン値、A/G比を算出します。免疫的に亢進した状態であるかどうかを知ることができます。予後の判断のために猫のウィルス検査(FelvFIVのスナップ検査)は有効です。さらに血清アミロイドASAA)の検査で、炎症の度合いを知ることができます。

血液のラボ検査の結果から、「麻酔をかけて処置をしよう」とご決断いただけたら、胸部のレントゲン検査など心機能に関係する検査も行ないます。

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典型的な歯肉口内炎です。

<基本の治療が歯を抜くこと>

口内炎の治療は、基本が全抜歯です。大丈夫な歯か、大丈夫ではない歯か(歯根が歯槽骨に生きて座っているかどうか)の判断はなく、すべて抜くのです。そのため人気がない治療法でもあります。ときに、臼歯(奥歯)だけを抜いて様子を見ることもあります。

抜歯による治癒率は「60%程度がうまく治癒、20%くらいに再発があり、13%くらいは内科的な治療を併用しなければならず、残る7%くらいの猫で効果が見られない」という厳しい結果が出ています。この数値からは「やってみようかな」という気になれないというのもわかりますし、勧める方としても積極的に推奨するに心苦しい数値です。近年(2015年)の新たな研究ではこれまでのデータに比べると治癒率は上がってはいるものの効果がみられるまでに1年から3年ほどかかった猫もみられます。

 

<ほかには治療がないの?>

歯を全部失うことになっても完全な効果が得られない猫が一定数は出るとなると、こうした処置に踏み切れない飼い主さんがいらしても、しごく当然なことと思います。

ほかにも内科的な治療を中心にいくつかの治療法があります。

   症状の強さにもよりますが、まずは非ステロイド性の鎮痛消炎剤(たいてい口が痛いのでシロップ剤を選択しています)で痛みをコントロールするのをお勧めしています。長期の服用によって腎臓を痛めたり、嘔吐や食欲不振などの消化器系の好ましくない症状を出すことがあるので、インターバルを置いて投与してもらいます。

   非ステロイド性鎮痛消炎剤では痛みのコントロールが不十分だろうと思われる(結構重症かなと思われる)猫にはステロイドのお薬が選択できます。錠剤を直接投与できない場合、食事に混ぜるなどの手法を用いなければなりません。内服投薬が難しい状況だと判断する場合には2週間ほど効くお注射に頼ることになります。ステロイドのお薬は炎症を抑え、痛みを軽減します。食欲も回復してきます。効果が目に見える治療法です。けれど長く続けているうちに薬の望ましくない作用を起こすことがあるので、時に血液検査をして困ったことが発生していないかどうかを確認します。また、長期使用によって効果が徐々に減弱するようなこともあります。何よりもよく効く薬ではありますが、できればステロイドに頼った治療法を長期にしていくのは避けたいのが本音です。

   たいていは抗菌薬を併用します。

   インターフェロンを局所に注射するとか、全身に注射するという方法をとることもあります。

   免疫抑制剤を使うこともあります。液剤で投与はさほど苦痛にはならないと思います。

   抗酸化物質をはじめとするサプリメントは初期に有効だと思います。ラクトフェリンのように口腔内の病変部に溶解液を滴下して貰うのが困難な場合は、ソフトカプセルを飲ませていただく方法もあります。残念なことにサプリが有効なうちに診せていただけることは少ないです。

   歯を抜くことには抵抗はあるけれど、麻酔下で歯石や歯垢を取ったり、レーザー治療を行なうくらいまではと同意していただけることがあります。この治療でスッキリすることがあります。ただし単独の治療で他のことをしなくてもずっと良好のまま維持できるというものではなく、一時的な良化を得られるのでやってみましょうか、というところです。処置後、他の治療も併用して良好な状態が長く維持できることを目標にしています。

   食事性アレルギーの関与が考えられるということは、食事を低アレルゲン食に変更するのは試してみる価値があると思います。有効であったという報告もあります。

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上を見上げたときに口周りは一望できます。
この瞬間でも黒汚れを見つけることが可能です。

<痛いけど併用したいケア>

慢性になった歯肉口内炎の管理としてできれば取り入れていただきたいのが「口腔ケア」です。毎日が無理だとしても、週に2回から3回、口腔内の細菌数を減らすために洗浄したり、軟らかい素材で歯みがきを行なうといいと思います。歯ブラシは、新生児用のラバーブラシのような物を使うといいと思います。痛みがあるとき人の指を口腔内に挿入すると噛まれてしまうことがありますから、指での処置はお勧めしません。

 

<長期的な予後>

根気よく治療していくことで、痛みから解放され食事を取ることができます。食べられず痩せて体力を無くすことがないように継続治療をお勧めしたいです。治療法もいろいろあるので一つであきらめずチャレンジできたらと思います。

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猫に歯みがき

 猫も年齢を重ねるにつれ歯と歯茎の病気は増え、「歯周病」は高齢になった猫の「関節症」や「腎臓病」を遙かに超える罹患率であることは間違いありません。そこで、犬と同じように「猫も歯みがき!」です。長生きするからこそ、歯も大事に使って長持ちさせなければ!

けれど「猫にも歯みがき」、というと「無理でしょ」という回答が返ってきそうです。

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<いまどきの猫>

開業当初、健康な猫から採血するなんてことは至難の業でした。意識が十分あるうちの来院であれば、ちょっとした隙に壁を駆け上り、台の上の物を蹴り散らかすトラブルもあったのです。常は野を駆け巡っていて、人慣れしていない猫が、ちょっと怪我をしたくらいで病院に来たところで、じっとおとなしくなんてしてくれるはずもありませんでした。今は昼夜とも屋内で過ごし、人とのコミュニケーションもとれる猫が大半です。猫の性質が変わってきたのではなく、飼育方法が変わったことで猫の人に対する信頼度が高まり、何かされることに対してこれまでのような抵抗を示すことがなくなってきたのです。ですから犬と同じくらいの持ち方でも十分量の血液を採取させてくれる猫もまれではなくなってきました。

「ここで排泄してほしい」と交渉すれば、好みに合っているかどうかもう少し別な品を要求しているのかはわかりませんが、青空トイレではなく屋内トイレで用足しをしてくれるではありませんか。猫が「そのやり方なら譲歩してやってもいいぞ」と思うくらいの方法で、少しずつ「猫の歯みがき」を押し進めていくことも無理なことではないかもしれません。

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使用するのは犬の歯科ケアグッズと同じ物です。
デンタルペーストやデンタルジェルは味の好みもありますが
ぜひ使用してください。

<始める前に>

猫は特別な動物であることをもう一度思い出してください。嫌なことは二度と受け入れてくれません。犬の歯みがき同様、いきなり歯ブラシを口に入れようとはしないようにおねがいします。

まずリラックスの状態を維持しながら行なうことを基本にします。まったりしている時間の延長にデンタルケアを持ってくるようにしてください。膝に抱かれる猫ならば抱っこタイムが適しています。

最初はお口周りに触れるところからはじめます。おひげの付け根になる部分を上下に動かして、指でその下にある歯の感触を確かめること、ここまでです。

これになれてきたら、唇をめくって指を差し入れてみます。歯の上を指でなぞってみてください。

ここまでの段階を受け入れられる猫であれば、次のステップに進めることが可能になります。

お口を触らせてくれたごほうびに、好物のおやつ(特別なドライフードなど)を手から与えてみてください。

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歯ブラシはブラシ部分が小さい物を選ぶようにしてください。
 <歯をみがく>

次の段階はデンタルシートを使った歯みがきです。歯の汚れを拭き取るイメージのケアです。口に異物が入るのを許可できるはじめの段階になります。

これもできるようになったら、次は本格的な歯ブラシケアです。ブラシは軟らかくて頭が小さい物を使います。異物感が少ない方が無難です。また、無理して全部の歯をキレイにしようとせず、上下の犬歯4本と上の左右の臼歯だけ、それも外側(頬の側)にとどめておきます。もちろん歯の裏面(内側)も磨けなくて良いです。まだ、できるといってもいつ「やだっ!」に翻るかもしれません。猫の意思も尊重しましょう。

好みのデンタルジェル、デンタルペーストが見つかると、半分舐めながら協力的になってくれるかもしれません。探してみてください。味はいくつかの種類があります。

ここまでで十分歯みがきができるようになったら、上下の前歯を前から磨いてみてください。ここまでで十分です。この先も、裏側や下顎の歯を続いてトライしなくて結構です。とにかく、あとは継続です。

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あきらめないで。歯みがきの他にも方法はあるから。



<うちのこはだめみたい>

やってみた。でもね、だめだぁ~。って子は標準です。普通なんです。へこたれないでください。

それでも歯のためにやれることはあります。あきらめないで。

歯ブラシに抵抗する猫にお勧めする一番はデンタルケアガムです。グリーニーズのカラフルな(6種類あります)「猫用歯みがき専用スナック」はプロバイオティクスも入っています。好みにうるさい猫ですが、ここの商品の嗜好性はなかなか高いです。気まぐれで飽きの来る猫でも味が6種類あれば日替わりで行けそうです。

口臭ケア向けとしても有効性が言われている「デンタルバイオ」は剤形が錠剤そのものですが、歯周病の原因菌の増殖を抑え、口腔内を対抗する良性の菌に置き換えるはたらきをするサプリメントです。そのままカミカミしてくれるのがいいのですが、それも難しい場合は飲んでも効くといわれています。実際に試していただいている猫では確かに口臭が少ないです。

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錠剤です。



<歯周病や歯肉口内炎がある猫に>

口腔内疾患がある猫のデンタルケアは根本となる疾患の治療の一環として行なわれます。その中には家で行なうのが難しいとき(急性期で特に痛みが激しいようなとき)があります。まず院内で炎症を鎮静化させてからお家ケアに入れれば、お願いしたいです。

粉を溶かして与える「ラクトフェリン」は、口腔内の潰瘍があるときに主に処方するサプリメントですが、デンタルバイオと同様の効果(口腔内細菌を良性の菌に置き換えることで、悪性菌のはたらきを抑える)が得られます。「微温湯で溶かすポンプで口に入れる使用したポンプを水洗いする」課程が面倒でなければ、(ある程度状態が安定して潰瘍が治癒してからも)ぜひ継続してお願いしたいケアです。味的には猫は許容してくれることが大半です。

犬用に開発された「インターベリー」ですが、猫でも使用した報告があります。有効性が確実になってくれば猫でも応用が可能になるかもしれません。

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<おわりに>

目標は、高齢になったときの歯周病の罹患率を減らすことです。今の努力は今すぐではなく、将来に現れます。今は「めんどくさ~」いかもしれませんし、「うちの周りじゃ、こんなこと言われてやってる猫なんぞ、一匹もおらんぞ」っていうくらい特殊かもしれません。けれど数年後、頑張ったあなたのうちの猫だけが勝利者になっています。どの方法でもかまいません。継続してやっていってください。お願いします。

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猫の歯周病


昨年12月には犬の歯周病についてお話ししました。だいぶ間は開きましたが、「猫にも歯周病はある!」ので、今日は猫の歯周病のお話しをします。なにせ今月はペットの歯科保健月間です。

猫の口腔内疾患で、最も多いのは歯周病です。2歳で70%の猫が歯周病にかかっているという報告もあるくらい、罹患率の高い病気です。そしてわたしたちと同じように、年齢を重ねるにつれ、さらに罹患率は上がります。猫の口腔衛生についてはまだ十分に気を配ってもらえているとは言いがたい状況です。それは猫が痛みを隠したり、お口の中を見せたがらないことにも原因はあると思います。ですからいよいよ痛くて食べられない、よだれすら飲み込めないような状態(口周りやそれを拭く前足の汚れ)になって初めて気づいてもらえるようなことも多いです。

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大きなあくび。
この瞬間にお口をのぞき見ることができます。



<歯周病というのは>

歯周病は歯垢(の中の細菌)に対して炎症が起こって発生します。はじめは歯肉だけに限られた炎症(歯肉炎)ですが、やがて歯の周り(歯根膜や歯槽骨)を壊しながら進行(悪化)していきます。歯肉炎は治療により逆戻りできる変化ですが、歯周炎は治療しても完全にもとのかたちにもどすことはできません。猫は口腔内を大変不快に感じていて、毛づくろいの回数が減る、食事の食べ方が変わる等の症状を発します。これは口腔内の痛みによるものです。また、不快なだけでなく、全身のいろいろな臓器に障害を起こすきっかけにもなります。まぁ、基本、犬の歯周病と同じです。

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歯肉に色素がある猫だとわかりにくいかもしれません。
それでも歯と接する歯茎が赤いのや歯垢はわかるはず。



<症状は出るの?>

気づかれやすい兆候はあります。

・口臭がある

・よだれで口の周りが黒く汚れている

・ドライフードを噛まずに飲み込んでいる

・食事をこぼす

・歯ぎしりをする

・前の手の毛が茶色く汚れている、べっとりしている

・頬が腫れている

これらは初期症状ではなく、残念なことに少し進行してからの症状です。

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上顎の臼歯(上の奥歯)は歯石のつきやすいところです。



<こんな猫は要注意です>

・乳歯が残っている

・歯並びが悪くて重なり部分ができている

・かみ合わせが悪い

・ずっと軟らかい食事を食べている

・歯石が付いている

・デンタルケアを実施したことがない

・免疫系の機能障害がある

・全身性の病気にかかっている

 (ウィルス感染がある、口腔内の細菌感染がある、腎臓病がある、甲状腺機能低下症があるなど)

原因は細菌感染ですが、いろいろな因子が関わって重症化します。

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顎の下に触れて、リンパ節のコリコリした膨らみが
感じられることもあります。
口の中を覗いて見るのが難しいときは
顎の下を触っても異常に気づくことがあります。


<ほかの口腔内疾患を併発>

犬の歯周病と違う点があります。猫は歯周病だけでなく歯の吸収病巣などを持っていることが多いです。など、というのはそのほかに慢性の歯肉過形成(良性の腫瘍ができていることもあります。また歯茎が下がっていて、もともとは歯肉に覆われていた部分まで露出している歯(挺歯)を持っていることもあります。これは特に犬歯で見られます。一見すると「歯が伸びてきた」ように見えます。この歯の周りに歯石が付着していることもあります。長く伸びすぎた歯が折れたり(折歯)、折れた歯の周りが黒ずんでいたり、折れた残りの歯が歯肉に埋まって歯がないように見える(埋伏歯)こともあります。犬歯の部分の骨が盛り上がって来ることがあり、口唇部から触ると隠れた歯が太くなっているように感じます。ひどい炎症により、歯肉口内炎になっていることもあります。
(歯肉口内炎は歯肉と口の粘膜に炎症が生じた病気で、歯周病とは違う概念の口腔内疾患です。後日お話しします。)

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口腔内疾患とは無関係。
モデルさん、ありがとう。

 
<歯周病の病期と治療の目安>

歯肉炎まではおうちデンタルケアでOKです。歯周炎になってからは、軽度ならスケーリングで歯垢や歯石を落とします。中等度ではスケーリングのほかに歯肉の治療(抗菌薬の服用なども含まれます)が必要になってきます。重度になると抜歯を中心とした治療になります。これはより複雑で専門的な処置です。猫の歯科処置は犬の歯科処置よりも難易度が高いです。細くてもろいため、折れやすいからです。

犬と同じように、歯周病が進行して歯根周囲の炎症が激しくなると、口から鼻へ炎症が波及したり(口鼻瘻)、化膿したものが口の中へ出てきたり(内歯瘻)、頬の皮膚に穴を開けたり(外歯瘻)します。このようなときは、抜歯に続いて炎症組織を洗浄し周りの組織をきれいにして縫うなどの処置が必要になります。

 

<歯石と歯周病>

歯石が付きやすいのは上顎の臼歯です。見た目にがっちり付いているから歯周炎が重度、ちょこっと付いているだけだから歯周炎は軽度ということはないです。歯石はさほど付いてはいないのに歯周炎はひどいということもあり、見た目とは違うので注意が必要です。

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お家で頑張ってみようかな、という方、大募集!



<ホームケア>

歯周炎は犬と同様、日頃の口腔衛生が良ければ(日常的に適切なケアをしてあれば)、予防できます。軽度の歯肉炎だったら修復も可能ですが、重度の歯周病になると、治療が複雑で困難になってきます。

猫は犬ほど歯科のホームケアは一般的になっていません。犬でもまだまだの感があるのに猫の歯みがきを提案すると驚かれることもありますが、「この子、行けるかも!」という方を中心にお願いしています。できる子はできています。ぜひ、仲間入りしてください。

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fimA検査

 犬の歯周病は細菌感染による病気、というお話をしました。おなじようなデンタル管理をしているのに歯周病がひどい犬とそうでない犬がいる。むしろ、同じように怠っているのに、あまりひどくなっていない犬がいる、といった方が正解かもしれません。この違いを説明するのに、口腔内にいる細菌についてのお話が必要です。

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悪玉歯周病菌のポルフィロモナス・グラエ菌。



<悪性度の高い口腔内細菌がある>

歯周病の原因となる細菌を遺伝子学的に調べたところ、悪性度の強い細菌があることがわかりました。そして怖いことに人の口腔内でもこの細菌は生きていけます。ということは、ひどい歯周病を持つ犬との接触により、人もその悪性度の高い細菌に感染する危険性を持ちます。これまで、「犬の歯周病」は犬の病気であって、わたしたちは「くさい」という被害はあるけれどそれ以上の悪影響は受けないという見方でした。しかし、人にも共通する細菌であることが判明すると、それは公衆衛生的な側面からも、犬の歯周病はしっかり治療しなければいけないということになります。

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歯周病がないグループ、歯肉炎のグループ、歯周病のグループ
に分けてポルフィロモナス菌の有無とC型を比べてみました。




<ポルフィロモナス菌>

歯周病の原因菌はいろいろあります。中でも人ではポルフィロモナス・ジンジバリス菌が問題になっています。犬や猫では同じポルフィロモナス菌(共通のDNAタイプを持っている)のうちポルフィロモナス・グラエ菌が問題になっています。2012年、山崎先生たちの研究で、ポルフィロモナス・グラエ菌が犬と一緒に生活している家族の16%から検出されたと報告されました。

なお、2015年の白井先生たちの報告によると、ポルフィロモナス菌は僧帽弁閉鎖不全症の病態進行にも関わりがあることが示されています。今後研究がさらに進むと、他の全身性疾患との関連も明らかになるかもしれません。

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ポルフィロモナス・グラエ菌の保有率も、
C型菌の保有割合も意外と高い。



<遺伝子学的検査>

ポルフィロモナス・グラエ菌は細菌の周りに線毛(せんもう)という多数のけばけばを持っています。細菌同士が集まるのにも便利ですし、動物の細胞に付着してそこに居着き、侵入するのにしっかりした足場になり、細菌が増殖するのに役立つ仕組みです。

ポルフィロモナス・グラエ菌をくわしく調べていくと、この線毛を構成している遺伝子の一部、fimAには3つの遺伝子型(ABC)があることがわかりました。そして、そのうちのC型は進行性の歯周病と関連し、特に悪性度が強いこともわかってきました。

2016年荒井先生たちの調査で、434頭の犬のうち78.6%に当たる341頭がポルフィロモナス・グラエ菌を持っていました。そしてタイプCを単独、またはAやBと共有して持つ個体はこのうちの52.1%、なんと半数以上の犬は悪性のタイプCの菌を持っています。

2017年の白畑先生の報告によれば、ポルフィロモナス・グラエ菌のタイプCを保有する犬では10歳で半数ちかくの歯が抜け落ちるという調査結果が出ています。

 IMG_0178.jpg
悪性のリスクが高いのは。。。



<歯周病を重症化させる要素>

2016年の荒井先生たちの報告のつづきにもなりますが、歯周病の重症度が高いことと関連性のあったのは

    9歳以上

    ポルフィロモナス・グラエ菌の存在

    未去勢のオス犬

    パピヨンという犬種

    ミニチュアダックスという犬種

という結果が出ていました。

個人的に思っていた結果と重なる部分も多くみられました。

 IMG_0181.jpg
検査を受けてみませんか。



<うちのこは大丈夫かしら>

こうしてこの菌の悪いことをお話ししてくると、うちのこにもポルフィロモナス・グラエ菌が、そして悪性のタイプCがあるかどうかが気になってきたかと思います。

はい。調べられます。

細いブラシで犬の歯垢をぬぐいます。ブラシを検査機関に送り、結果が返ってくるのを待ちます。約2週間で結果がわかります。

 IMG_0126.jpg
綿棒よりもずーっと細いブラシで歯垢を採取します。


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こんなかんじ。


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はい。とれました。



<結果がわかったら>

まずは物理的な除菌。つまり、スケーリングなどの歯科処置を行ないます。それから抗菌薬も使用してしっかり菌を落とします。その後はいつもお願いしているデンタルケアの流れに従って、日々、お家で頑張っていただきます。6か月毎には検診に来院いただき、その際に必要と思われる処置や投薬(またはサプリメントの投与)を行ないます。

歯科処置は生涯に1度行なえばそれでよいというものではありません。そこそこキレイであっても日常のケアのおかげなわけですし、うわっ!に変わっている時は十分反省すべきおサボりがあった印です。必要な処置をまた行ない、再びお手入れを頑張る、この繰り返しです。

でも、まるっきり歯科衛生を滞っていたら、口腔内細菌は増殖し、全身の組織に細菌をまき散らし、心臓を始め他の組織にも影響を与える結果になるはず。面倒なデンタルケアかもしれませんが、やればやっただけの(目に見えないこともあると思いますが)結果はあります。愛犬の健康に、そしてあなた自身の健康のために、これからも頑張ってください。

 IMG_0182.jpg
結果が出たら。スケーリングして除菌。抗菌薬で治療。
その後はおうちのデンタルケアと定期検診です。




今日はfimAの検査についてお話ししました。健康な歯で長生きできますように。

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