FC2ブログ

猫の巨大結腸症・2

猫の巨大結腸症の続きです。
治療について詳しく書きました。



<巨大結腸症の内科的治療法>

通常、最初に内科的治療を試みます。(内科的な治療で効果が得られなかった場合、または内科的治療を施しながらも進行してしまった場合に手術が適応されます。)

内科的管理には、5つの要素があります。

1.適切な水分を補給し、水分を維持する
脱水症状の緩和のために水分補給をします。排便困難になって食欲や飲水欲の低下した猫には必須の治療です。

2.蓄積している糞を取り除く、継続的に除去する
薬物投与の前に蓄積してしまった便の排除も不可欠です。

3.食物繊維の多い食事にする、この食事を続ける
食物繊維が多い処方食を与えることや便軟化剤、結腸運動促進薬などの薬の使用は、困った状態がリセットされた後に適応される内科治療です。これらは根本的な原因を修正するものではありませんが、猫が便秘にならないように糞便を通過させる方法です。

4.便軟化剤を試す、身体に合った薬剤と薬量で維持する
便を軟らかくする薬が便軟化剤です。第一選択にしているラクツロースは昔からある薬で、投与量により便の固さが変わります。飼い主さんが希望する便の固さに調整するよう投与量を加減することができます。浸透圧によって腸に水を引き込む消化できない糖です。味や口当たりのために猫が好まない場合もあります(甘いのでたいていの犬は大喜びで舐めてくれます)。猫の好みに合わないときはポリエチレングリコールを選択します。腎臓を悪くする不凍液の成分であるエチレングリコールとは化学構造が違います。これには風味が無いため食事に混ぜて与えることも可能です。こちらも腸管から吸収されず水と結合しやすい物質で、この特性により便を軟らかくさせます。飲水量が足りないと脱水症になる可能性がありますので注意深く投与する必要があります。

5.結腸運動促進薬を使う
結腸の筋肉を刺激し、腸管運動を促進させる薬(モサプリドなど)も排便状況の改善を目的に使用します。ネコの結腸運動に有効であることが示されている新しい運動促進薬も海外では出ていますが、日本では未だ発売で残念ながらその効果を体験することができません。ミソプロストールは、NSAIDsによる胃の粘膜損傷の発生率を低下させることが示されているお薬ですが、猫の結腸平滑筋の収縮を刺激することが明らかになりました。今後使ってみたいと思います。メトクロプラミドとドンペリドンは、末梢運動促進効果と中枢性制吐効果を持つお薬です。これらの薬剤は胃の運動性を向上させますが、結腸通過時間にはほとんど影響を与えず、便秘や巨大結腸の治療には不向きのようです。
IMG_3039 (1)


<進行していく>
軽度または中程度の場合(おそらく病気の初期段階に当たると思われます)は、処方食+便軟化剤+腸管運動促進薬の治療を常に、そして定期的な便排泄処置、時折水分補液という内科的な治療で維持することが可能です。
事態が進むにつれて、便の排泄処置(腹部触診により蓄積された糞便を手動で押し出す用手排便、浣腸や摘便なども含めます)の頻度が増します。重度に便が蓄積された状況では、便を排出するための処置がとられるとき、脱水や電解質の乱れを修正するために静脈内輸液療法を行ない、時に入院になる場合もあります。結腸内の糞便量が大きく硬すぎる場合は全身麻酔が必要になることもあります。浣腸処置により嘔吐を起こすこともあるため、気管挿管が必要になります。浣腸剤には温水や温めた生理食塩水などを使用します。

注意)浣腸処置は動物病院で行ないます。家庭で市販の浣腸剤を使って浣腸を試みるのは危険なため、行なわないでください。浣腸剤によっては重篤な電解質異常を起こしてしまうことがあります。

宿糞量をためないうちに排泄させていけると、内科的なコントロールで数か月から数年は状態の維持が成功していきます。残念ながら、結腸から便を除去する方法の必要性は徐々に頻繁になります。最終的に病気が進行する猫は内科療法には反応しなくなります。その結果、結腸は再び大きく弛緩し、固い糞の塊を内包し便を押し出す力が無いただの袋状の組織になります。

IMG_3040 (1)  

<巨大結腸症の外科的治療>
内科的アプローチが効力を無くしてしまった場合は手術を検討する必要があります。これは結腸の機能していない部分を除去する大手術ですが、多くの猫は良好な反応を示します。結腸の大部分(ほぼ90%から95%)を切除する結腸全摘出術は、食事管理を含めた内科的管理に反応しない(しなくなった)巨大結腸症の外科的管理に最適な治療法と考えられています。

骨盤骨折などこの病気の元になってしまった原因がある場合は、それに応じた外科処置も必要になります。

術後13日間は輸液で水分補給します。痩せている猫ではハイカロリー輸液を選択することもあります。周術期中(手術後しばらくの間)は、必要に応じて適切な鎮痛薬を使用します。手術を受けた猫が術後食欲不振になることは珍しくありません。が、たいていは一時的に過ぎず、術後の体調の回復と共に食欲も出てきます。手術後72時間くらい経過すると食事を摂ることも可能です。低脂肪の下痢になりにくい食事を選択します。

<結腸が無くなっても大丈夫?>
結腸の主な役割は糞便から過剰な水分を除去することなので、結腸全摘出術を受けた猫は、手術直後はかなり軟便になります。それも1日に数回排便が発生する可能性があります。これが最も一般的な術後の問題です。けれど肛門括約筋はそのままであるため、猫は腸のコントロールを失っているわけではありません。ほとんどの猫は、この段階を経て1か月程度で許容できる軟度の便を形成し始めます。そして2か月くらいでは通常かまたは通常に近い状態の便に戻ります。3か月後には平均して2日に3回くらいの排便を行います。糞便のコントロールの喪失があってもそれは必ず戻ります。 


IMG_3041 (1)
しばらく待合室の猫コーナーの
ところに下げておきます。
お手にとって閲覧ができます。
 

<まとめ>
猫の特発性巨大結腸症は、結腸機能障害を特徴とする比較的よくある疾患です。一般的な臨床徴候には、排便障害、食欲不振、体重減少、ときどき嘔吐が含まれ、身体検査では結腸内腔内の非常に硬い糞便物質が触診ですぐに明らかになります。特発性巨大結腸症の診断をする前には、さまざまな検査を実施して素因となる問題を除外する必要があります。食事の変更と下剤、腸の運動促進剤の投与による内科的治療が成功する可能性があります。ただし、薬物療法に反応しなくなった猫には結腸全摘術を考慮しなくてはいけません。

スポンサーサイト



テーマ : 動物病院
ジャンル : ペット

猫の巨大結腸症

ウンチが出ない!
 猫の巨大結腸症

特発性(原因は不明)メガコロンと呼ばれる大腸障害についてお話ししたいと思います。この病気は結腸から直腸にかけて大量の便を貯留し、排便が著しく困難な状況です。いわゆる便秘がまれに発生する程度ならあまり心配する必要はありません。けれど頻繁に便秘が発生するようになると、最終的に巨大結腸症につながることになります。これは、下剤などの処置だけでは制御できない便秘です。早期に治療されないと、結腸が慢性的に膨らみ腸の運動性を引き起こさせる腸壁の筋肉にダメージをもたらし、自力で排便することができなくなってしまいます。

単純な便秘も巨大結腸症の入り口になっています。
毎日の排便を確認するだけで重症化を未然に防げます。

<解剖学的なこと>

消化管は管状器官で、口から食道、胃へ、そして十二指腸、回腸、空腸の小腸を経て、盲腸に接続します。続いて結腸、直腸があり、肛門部で消化管は終わりです。消化管の機能は食物を消化し、栄養素を体内に吸収することです。胃は消化管が拡張した部分です。酸を生成し、タンパク質の初期分解を助けます。小腸は胃から結腸までのとても長い領域です。食物を吸収可能な栄養素に分解する働きをしています。結腸は水分の吸収と糞便の貯蔵のための場所として機能します。また、腸内細菌は特定のビタミンを産生する場所でもあります。結腸の壁には、脊髄からの神経刺激によって収縮する筋肉の層があります。結腸が収縮すると、糞便がからだから押し出されます。

 <巨大結腸症というのは?>

結腸への神経が正常に機能しない場合、結腸壁の筋肉は適切に収縮しません。結腸壁の筋収縮が無くなると、筋肉が弛緩して結腸の直径が大きく広がります。このだるんと広がった結腸の直径は、通常の猫の直径の3倍から4倍にもなります。糞便は通常の方法で直腸に押し込まれるのではなく、膨張した結腸に蓄積していき、そのまま動かず結腸にとどまり、重度の便秘を引き起こします。この結腸の巨大な拡大とその結果生じた便秘が「巨大結腸症」です。

巨大結腸症は結腸の平滑筋機能不全から来る状態です。

DSC_2812.jpg
閲覧用紙つくりました

<症状は?>

「便秘」は排便がまれな(規則正しく出ない)こと、または不完全である(出きらない)状態であると定義されます。便は排出されないと結腸に溜まります。猫はそれでも食事をしていきますから溜まりが徐々に増えていきます。そして結腸の仕事は糞便から水分を吸収させることなので、結腸部にとどまればとどまるほど水分が抜けてカチコチの便になっていきます。最初は単純な便秘でも、ゆっくりと排便困難が進行していき、最終的に巨大結腸症になります。

しっかり観察している飼い主さんは、猫が(さまざまな期間で)排便が減少しているとか、便が出ていない、排便にいきみを伴う(努力して出そうとするけれど出ない)と言われることが多いです。「いきみすぎて吐いているみたい」という様子を伺うこともあります。便秘になっている猫は週に1回から3回程度しか排便をしません。硬くて乾燥した便をぽろりと出す程度で、直腸内には糞便を留めていることが多いです。たまに大量の便が出ます。慢性便秘の猫は、結腸粘膜に対する糞便の刺激作用により、かちこち便(血が付いていることもある)または下痢を交互に繰り返すというエピソードを起こすことがあります。排便困難は猫一生懸命いきんでいるがウンチがでないということで比較的発見されやすいですが、排便状況を見る機会が無い猫、屋外のトイレで用を足すとか猫を多頭飼育しているとか、勤務の都合で長く家を留守にしている飼い主さんの場合は発見の機会を逃してしまうことも少なくありません。便秘が長引いた猫では、食欲不振、体重減少、嘔吐が観察される場合があります。巨大な糞塊の間をぬってとろんとした腸液が出てくることが有り、これを飼い主さんは下痢だと勘違いされる場合もあります。

 DSC_2813.jpg
毎日の排便確認が重要です

<診断と検査>

重篤な結腸宿便が特発性巨大結腸の猫の身体検査所見です。身体検査では、結腸内で触知可能な非常に硬い糞便が大量に明らかになります。さらに、重度の罹患猫では脱水症、貧血、腹痛、および軽度から中等度の腸間膜リンパ節腫大が発生する場合があります。

診断調査は、結腸の狭窄および/または閉塞を引き起こす可能性のある根本的な問題を除外することを目的としています。血液検査や尿検査のほか、必要を感じる場合は神経学的な検査なども行ないます。

腹部X線撮影は、結腸埋伏の重症度の特徴を明らかにし、異物、腫瘤病変、骨盤骨折、結腸狭窄、脊柱異常などの素因を特定するために不可欠です。

子猫の巨大結腸症は甲状腺の機能不全によって引き起こされる可能性があるため、血液検査が必須です。

 DSC_2814.jpg
毛球もウンチを出にくくする要因になります

<巨大結腸症の原因は?>

便秘には多くの原因があります。先天性巨大結腸(腸神経系の発達異常が原因であると推定されます)のこともありますが、大部分は後天性です。巨大結腸症につながる可能性のある病気は、直腸や肛門を狭くして便通が困難になる病気です。例えば、腫瘍や異物などで結腸が狭窄され機械的な閉塞があると巨大結腸症につながる可能性があります。骨盤骨の骨折やゆがみは便の通り道を狭めるため巨大結腸を引き起こす原因として比較的多い原因です。肛門嚢膿瘍などの肛門の疾患があると猫は痛みのために排便をこらえ、結果的に巨大結腸症につながります。マンクスは、巨大結腸を引き起こす可能性のある脊髄変形を起こしやすい猫で、神経の損傷があると結腸の運動性にも影響を与える可能性があります。マンクスのほかでも脊椎疾患から神経性に腸の動きを悪くさせ、結果的に巨大結腸症になってしまう猫もいます。

潜在的な原因として猫の食事または環境要因に関連している可能性があります。トイレが汚れていると猫は定期的に排便するのを拒否し、最終的に結腸が伸びることになります。骨などの非吸収性物質が摂取されると異物として結腸に影響を与える可能性があります。高齢猫によくみられる慢性腎臓病のように脱水をおこしやすい疾患では、便をカチコチにすることで便秘を呼ぶこともあります。

ほとんどの場合、結腸が機能を停止する理由を特定することはできません。この病気が最も一般的にみられるのは、肥満傾向の中高年齢のオス猫です。原因不明の巨大結腸症は「特発性巨大結腸症」と呼ばれます。巨大結腸症のうち62%が特発性です。

テーマ : 動物病院
ジャンル : ペット

腸内細菌のこと・つづき

蛋白漏出性腸症の治療のために腸内細菌を整えることは、過剰になっている免疫系に対しステロイド療法に頼らずにブレーキをかけることになります。もう少し、お話しを続けます。 



<腸内細菌が作り出す物質>

活性化された腸内細菌が作り出す産物をポストバイオティクスといいます。「post:あとに、biosis:生物」なるほど、わかりやすい言葉です。しかしポストバイオティクスはバイオジュニックスとかバイオジェニックスといわれることの方が多いです。バイオジェニックスとして酪酸や酢酸、プロピオン酸などの短鎖脂肪酸やポリフェノールなどが知られています。今後研究が進むとさらにいろいろな成分がわかってくると思います。

ビフィズス菌やラクトバチルス菌などから作られたバイオジュニックスは商品化されていて、こうした製品からはこれまでのプロバイオティクスなどで得られていた有益な効果、便の質の改善、規則的で健康的な便の維持や免疫に良い作用なども同様に得られています。

 DSC_2241.jpg
新しいフードです。
名前がそのまま腸内バイオーム。
急性下痢にも効果有りです。

<バイオジェニックス>

腸内細菌の機能的最終産物が生体のどこにどのように作用するのかということも徐々にわかってきています。酪酸は粘膜細胞に栄養を与えますので、傷ついた腸粘膜上皮の再生作用が得られます。またポリフェノールからは抗炎症、抗酸化作用が得られます。そのほか、機能的物質は血管、膵臓、脳、末梢神経、脂肪細胞など多くの組織にも影響を与えることから、糖尿病やメタボリックシンドローム、アルツハイマー病などの治療の一つの面として期待されています。

 

<腸内細菌と免疫>

免疫というのは、外から侵入した細菌やウイルスなどを撃退し、病気を発生させないようにする自己防衛システムです。がん細胞の発生に備えて常に監視も行なっており、新生のがん細胞への攻撃も行なっています。

ときに自分自身を異物と誤解して攻撃をしてしまうこともあります。この誤爆ともいえる事態は自己免疫性疾患で見られます。またアレルギーは病原性を示していない花粉や食品などに対して過度に攻撃してしまうわけですが、こちらは過剰防衛に当たります。炎症性疾患では必要以上に兵士が現場に駆り出されて集まっている状態とも言えます。これらの病気はすべて免疫の異常から発生する病気です。

身体には免疫応答にブレーキをかける細胞が存在しています。制御性T細胞(Treg)です。この細胞がしっかり働いてくれると、免疫系の病気、アレルギー性の病気、炎症性疾患などを抑制してくれます。(過剰に働き過ぎるとがん細胞の成長に荷担してしまうという悪い結果にもなります。)

免疫応答に異常のある病気ではこの免疫にブレーキをかける細胞Tregが減少していることがわかっています。炎症性腸疾患のある患者さん(人)、慢性腸症になっている犬では減少しています。

腸内細菌が産生した短鎖脂肪酸は大腸のTregを増やすことに関係しています。過剰な免疫にブレーキをかけるTregが増えることで、正しい免疫応答ができるようになります。

 DSC_2242.jpg
猫用もあります。
下痢だけでなく排便困難な猫ちゃんにも効果有りです。
猫ではフードのほかにサプリメントでシンバイオティクスを
加えることが難しいのでフードに入っていると好都合です。



<期待される病気>

腸内細菌の話題ですが、犬の慢性腸症、ことに炎症性腸疾患に対して期待されるため、蛋白漏出性腸症の続きとしてお話しを続けてきましたが、その他にもミニチュアダックスの大腸にできるポリープ、膵外分泌不全症の治療に期待が持てそうです。さらに、肥満、糖尿病、胆肝系(胆汁酸の組成変化による肝疾患)、加齢、認知障害、感情機能に関する問題(これまで抗うつ薬を使用してきた攻撃性などの行動学的な困った案件)にもぜひ使いたい治療です。

腸内細菌のバランスを整えて腸の健康をもたらすことがからだのために大切であると言われています。「善玉菌を増やしこれを維持すること」は昔から健康に良いこととされてきました。今も変わりがありません。バランスの取れた腸内細菌叢を維持することは健康のために必要です。が、腸内細菌の作り出す世界と可能性はまだ無限にあります。

腸内細菌が作る最終産物は腸に限らず全身の各所(脳や膵臓、脂肪組織そのほか)に効果があることがわかってきました。これまでざっくりと「免疫力が強くなる」といわれてきたことの実態もわかってきました。病気により腸内細菌の中で増える菌群と減少する菌群が明らかになり、病気が治癒するとその細菌群も健康な動物と同じ組成になっていくというようなこともわかってきました。腸内細菌の安定化は「腸の健康のため」だけにとどまらず、身体全体に良い効果をもたらしていることがわかります。病気を管理し治癒に導くために、腸内細菌の構成比を整えることが大切なようです。腸内細菌は補助的でも有効に働いてくれそうです。

 

テーマ : 動物病院
ジャンル : ペット

腸内細菌のこと

 ここ十年くらいかな、ことに数年でしょうか、腸内細菌叢(マイクロバイオーム、腸内フローラと言われることもあります)は注目を浴びています。腸内細菌叢は、昔「善玉菌と悪玉菌」というざっくりした言い方をされてきました。次世代シーケンサーという検査機械(遺伝子の塩基配列を高速に読み出せる機械)が普及したことで、様々な遺伝子解析がスピーディーにできるようになりました。そしてこの機械で解析される腸内細菌叢の研究も飛躍的に伸びています。犬や猫でも、人や実験動物のマウスやラットに後れをとりながらも少しずつ解析が進み、その研究結果を知ることができるようになりました。

 

<腸内細菌叢というのは>

腸内細菌叢は(人で)ひとり数十億という数の微生物から成り立っています。その種類は約1千種あると言われています。犬でも同じくらいの細菌が生息しているだろうと考えられています。人ではこの腸内細菌叢を一つの臓器として捉える考え方が提唱されているくらいです。

腸内にいる様々な微生物のバランスが取れていると健康状態も保たれ免疫力が備わります。多くの腸内細菌は腸内の環境を整えているだけでなく、そのことが全身に有益な状況を作り出しています。

DSC_2245.jpg
おなかの調子を整える腸内細菌の製剤。
カプセルや錠剤などあります。

 <主要細菌のメンバー交替>

腸内細菌叢を構成する細菌の主要メンバーが変わることを、「腸内細菌叢の崩れ」「ディスバイオーシス」などと呼ぶことがあります。健康な人と違いがあることを単にディスバイオーシスと言ってよいものかどうかはわかりませんが、慢性の腸疾患にある状態と健康な場合とでは主に生息する細菌群に違いがあることはわかっています。ただし、これは1千種もある細菌の中のほんの数種のことです。

マイクロバイオームに有害な変化があると消化器疾患につながるであろうことは間違いありません。昔から「腸内の善玉菌が減って悪玉菌が増える」という表現をしてきました。こうした腸内細菌叢の変化は腸に損傷を与えます。水分のバランス(便がゆるくなる、または硬くなる)、腸粘液の産生の変化(ゼリー状のものが便に出てくる、またはパサパサの便になるなど)は比較的発見しやすい変化です。でもそれ以上に注目しているのは、免疫の機能や栄養素の吸収に影響が出てくることです。変化した細菌の構成比が犬の慢性腸症(炎症性腸疾患)と人のクローン病や潰瘍性大腸炎とが似ていることも報告されています。さらに腸内環境の異常は、腸の病気以外の病気にも関わることが知られるようになりました。

 

<プロバイオティクスというのは>

プロバイオティクスは、「pro:共に、biosis:生物」で、共生する細菌というニュアンスです。プロバイオティクスは私たちの体内にあり、健康効果をもたらす菌です。乳酸菌(乳酸を作り出す細菌群)やビフィズス菌が代表的な細菌です。良い効果を生む微生物を含む食品(ヨーグルトや乳酸菌飲料など)を呼ぶこともあります。

どのような菌をどの分量で与えると良いかという詳しいことはわかっていません。ただ、プロバイオティクスを服用している間は善玉菌と呼ばれる菌種が増えて良い効果が得られます。

有益な作用として、下痢や便秘を抑えること、腸内の良い菌を増やし悪い菌を減らすこと、腸内の環境を改善すること、腸内の感染を予防すること、免疫力を回復させることなどがあげられます。「おなかとからだの健康を守り、からだ本来の力を強める」ということになります。

 DSC_2244 (1)
サプリメントがいろいろあります。
パウダー状になっているものが多いです。

<プレバイオティクスというのは>

プレバイオティクスはもともと腸管内にいる細菌に栄養を与える物質です。「pre:先だって、biosis:微生物に」ということで、プロバイオティクスのエサになるものというニュアンスです。腸内細菌を持つ私たちは宿主になりますが、私たちには利用できない物質を腸内細菌は分解し、栄養源として利用することができます。プレバイオティクスの例としては、オリゴ糖や水溶性食物繊維、難消化性でんぷんやラクトフェリンが有名です。

プレバイオティクスを摂取すると、乳酸菌やビフィズス菌が増殖します。整腸作用やミネラルの吸収促進作用なども発生します。

プロバイオティクスが投与された菌だけを増やすのに比べ、プレバイオティクスは腸内細菌叢全体に栄養を供給するのが特徴で、腸内細菌叢の構成を整えるだけでなく、菌そのものも活性化されます。

 

<もっと効率よく細菌の恩恵を受けるために>

プロバイオティクスは生きたまま腸まで届くことが重要だといわれ、それなら元々ある腸内細菌を活性化させたらどうだとプレバイオティクスを飲むことが考えられたわけですが、いっそのこと一緒に摂取しようではないかとシンバイオティクス(プレバイオティクスとプロバイオティクスの合わさったもの)になりました。さらに効率よく細菌の恩恵にあずかりたい、というので細菌を活性化させ作られた物質を頂戴するところまでたどり着いています。


腸内細菌、大好きなのでいっぱいになってしまいました。また続きは来週に。
もし、お時間が取れるようでしたら、NHKスペシャルのページを見てもらえるといいと思います。わかりやすいです。
https://www.nhk.or.jp/kenko/special/jintai/sp_6.html

テーマ : 動物病院
ジャンル : ペット

蛋白漏出性腸症の治療

前回の続きになります


 <蛋白漏出性腸症の治療>

蛋白漏出性腸症の原因は明確にわかっていません。おそらく、

    食事中の蛋白質の何かに対しアレルギー反応を起こしている

(腸管内の細菌抗原に対するアレルギーの可能性も考えられています)

    個体の免疫異常が発生した

    腸内細菌叢に異常が発生した

等のことが複雑に絡み合っているのではないかと言われています。

それでそれぞれに対する治療として

    低アレルゲン食

    免疫抑制剤(プレドニゾロン等のステロイド薬またはシクロスポリンの)

    腸内細菌に対する治療(抗菌薬で悪い菌をやっつける、プロバイオティクスなどのサプリメントで腸内細菌叢を整える、場合によっては糞便移植?)
が良いだろうということになります。

dog_chihuahua_choco_tan_2019120519050603c.png
人気犬種のせいかチワワにも発生があるので注意です。

<食事療法>
一般の慢性腸症(蛋白漏出性腸症になっていない)は食物に由来するアレルゲンが元で炎症を起こしているのではないかという考えから、治療食は低アレルゲン食が選択されます。

蛋白漏出性腸症になっている場合は、腸リンパ管の負担を軽減するため低脂肪食を与えます。一般的な加水分解食は代謝可能エネルギーに占める脂肪の割合が3540%にできていますが、低脂肪食といわれるものは1719%くらいです。数字的にも大きな違いがあるのがわかるかと思います。低アレルゲンでなおかつ低脂肪の食事が推奨されます。どちらの条件も満たしているのは日清のダイジェストエイドです。愛犬がキライだと言わない限り、こちらの食事を食べていただきます。

そのほかはホームメイドで飼い主さんに作っていただく低脂肪食です。レシピはご紹介しますが、なかなか面倒です。

 DSC_2243.jpg
炎症性腸疾患で低蛋白血症になっているわんこに
イチ押しのフードはこちらです。




<抗菌療法>

食事療法がうまくいくと抗菌薬を使う必要はないかもしれません。食事療法に併用する必要がありそうなときは使用します。

病原性のある細菌(クロストリジュウム、キャンピロバクター、サルモネラなど)の細菌感染を対象にした抗菌療法ではなく、腸内細菌叢のバランスをとる目的での使用です。これらの薬を投与している間は善玉菌が増え、健康な家庭犬の腸内細菌叢と同じ構成になることがわかっています。そして休薬すると善玉菌は再び減少してしまいます。たいてい2週間くらいで反応は出てきます。抗菌薬にはいろいろな種類がありますが、この治療に使用する抗菌薬は2種類から3種類あり、これら以外を使うことはありません。これらは長期的な投与でも安全性が高くなっていますが、4週間から6週間くらい続けてから投与量を減らすようにしています。

dog_dachshund_choumou_201912051905095e9.png
免疫系のトラブルが多い犬種、ダックスも要注意です。

 <免疫抑制のための薬>

過剰に反応している免疫を抑え、炎症を発生しないようにするのにプレドニゾロンを使います。

ステロイドのお薬は長期投与による副作用の問題が発生することがあるお薬です。初期の反応を抑えることができたら、犬の様子を見ながら徐々に減薬していきます。

ステロイドで反応が芳しくないときに免疫抑制剤シクロスポリンを使うこともあります。

 

<腸内細菌を整える薬>

プレバイオティクス、プロバイオティクス、シンバイオティクスなどいろいろあります。次回お話しします。

 

<おまけのお薬・注射>

ビタミンB12の吸収が悪くなっていることが多く、ビタミン剤の注射をします。ビタミンB12が欠乏していると食欲不振になり、病状を悪化させてしまいます。また脂溶性ビタミンについても添加が必要です。

animal_chef_inu.png
ホームメイド食を作るときはお知らせください。
栄養バランスが取れていること、過不足ないように
レシピを考えています。


 治療目標は腸内へのタンパク質の損失を減らし、正常な血中タンパク質濃度を回復させ、これを維持することです。食事の変更が大切なのですが、体調不良で食欲が落ちているところにいつもと違う、しかも低脂肪で口当たりが悪い(低脂肪乳と成分無調整の牛乳の味に違いがあることは皆さんもご存知なんじゃないかな?)せいか、理想と現実に乖離があることは間違いありません。温めたり、ウェットフードをトッピングしたりしてがんばっていただきたいです。カッテージチーズを手作りしたりゆで卵のトッピングもアレルギー検査でクリアされていればかまいません。

次回から腸内細菌のお話しをする予定です。腸内細菌にアプローチする治療方法がPLE治療の最後になるのは個人的によろしくないと思うのですが、重要なので別枠的にお話しします。話が長くなりました。

年末色が濃くなってきました。ご多忙だからこそ、おからだご自愛ください。今週は飼い主さんの不調やご都合で留守にされた後に高齢動物の病状が悪化というケースが目立っていました。ほんのちょっとのことで後戻りできなくなってしまうのが高齢動物です。みなさまの健康が頼りです。お体をお大切になさってください。

 

テーマ : 動物病院
ジャンル : ペット

プロフィール

ハート動物病院

Author:ハート動物病院
ハート動物病院です。
〒445-0062
愛知県西尾市丁田町杢左51-3
TEL/0563-57-4111
オフィシャルサイト:http://www.heart-ah.com/

最新記事
最新コメント
最新トラックバック
月別アーカイブ
カテゴリ
ブログランキング
検索フォーム
RSSリンクの表示
リンク
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QRコード