FC2ブログ

腸内細菌のこと・つづき

蛋白漏出性腸症の治療のために腸内細菌を整えることは、過剰になっている免疫系に対しステロイド療法に頼らずにブレーキをかけることになります。もう少し、お話しを続けます。 



<腸内細菌が作り出す物質>

活性化された腸内細菌が作り出す産物をポストバイオティクスといいます。「post:あとに、biosis:生物」なるほど、わかりやすい言葉です。しかしポストバイオティクスはバイオジュニックスとかバイオジェニックスといわれることの方が多いです。バイオジェニックスとして酪酸や酢酸、プロピオン酸などの短鎖脂肪酸やポリフェノールなどが知られています。今後研究が進むとさらにいろいろな成分がわかってくると思います。

ビフィズス菌やラクトバチルス菌などから作られたバイオジュニックスは商品化されていて、こうした製品からはこれまでのプロバイオティクスなどで得られていた有益な効果、便の質の改善、規則的で健康的な便の維持や免疫に良い作用なども同様に得られています。

 DSC_2241.jpg
新しいフードです。
名前がそのまま腸内バイオーム。
急性下痢にも効果有りです。

<バイオジェニックス>

腸内細菌の機能的最終産物が生体のどこにどのように作用するのかということも徐々にわかってきています。酪酸は粘膜細胞に栄養を与えますので、傷ついた腸粘膜上皮の再生作用が得られます。またポリフェノールからは抗炎症、抗酸化作用が得られます。そのほか、機能的物質は血管、膵臓、脳、末梢神経、脂肪細胞など多くの組織にも影響を与えることから、糖尿病やメタボリックシンドローム、アルツハイマー病などの治療の一つの面として期待されています。

 

<腸内細菌と免疫>

免疫というのは、外から侵入した細菌やウイルスなどを撃退し、病気を発生させないようにする自己防衛システムです。がん細胞の発生に備えて常に監視も行なっており、新生のがん細胞への攻撃も行なっています。

ときに自分自身を異物と誤解して攻撃をしてしまうこともあります。この誤爆ともいえる事態は自己免疫性疾患で見られます。またアレルギーは病原性を示していない花粉や食品などに対して過度に攻撃してしまうわけですが、こちらは過剰防衛に当たります。炎症性疾患では必要以上に兵士が現場に駆り出されて集まっている状態とも言えます。これらの病気はすべて免疫の異常から発生する病気です。

身体には免疫応答にブレーキをかける細胞が存在しています。制御性T細胞(Treg)です。この細胞がしっかり働いてくれると、免疫系の病気、アレルギー性の病気、炎症性疾患などを抑制してくれます。(過剰に働き過ぎるとがん細胞の成長に荷担してしまうという悪い結果にもなります。)

免疫応答に異常のある病気ではこの免疫にブレーキをかける細胞Tregが減少していることがわかっています。炎症性腸疾患のある患者さん(人)、慢性腸症になっている犬では減少しています。

腸内細菌が産生した短鎖脂肪酸は大腸のTregを増やすことに関係しています。過剰な免疫にブレーキをかけるTregが増えることで、正しい免疫応答ができるようになります。

 DSC_2242.jpg
猫用もあります。
下痢だけでなく排便困難な猫ちゃんにも効果有りです。
猫ではフードのほかにサプリメントでシンバイオティクスを
加えることが難しいのでフードに入っていると好都合です。



<期待される病気>

腸内細菌の話題ですが、犬の慢性腸症、ことに炎症性腸疾患に対して期待されるため、蛋白漏出性腸症の続きとしてお話しを続けてきましたが、その他にもミニチュアダックスの大腸にできるポリープ、膵外分泌不全症の治療に期待が持てそうです。さらに、肥満、糖尿病、胆肝系(胆汁酸の組成変化による肝疾患)、加齢、認知障害、感情機能に関する問題(これまで抗うつ薬を使用してきた攻撃性などの行動学的な困った案件)にもぜひ使いたい治療です。

腸内細菌のバランスを整えて腸の健康をもたらすことがからだのために大切であると言われています。「善玉菌を増やしこれを維持すること」は昔から健康に良いこととされてきました。今も変わりがありません。バランスの取れた腸内細菌叢を維持することは健康のために必要です。が、腸内細菌の作り出す世界と可能性はまだ無限にあります。

腸内細菌が作る最終産物は腸に限らず全身の各所(脳や膵臓、脂肪組織そのほか)に効果があることがわかってきました。これまでざっくりと「免疫力が強くなる」といわれてきたことの実態もわかってきました。病気により腸内細菌の中で増える菌群と減少する菌群が明らかになり、病気が治癒するとその細菌群も健康な動物と同じ組成になっていくというようなこともわかってきました。腸内細菌の安定化は「腸の健康のため」だけにとどまらず、身体全体に良い効果をもたらしていることがわかります。病気を管理し治癒に導くために、腸内細菌の構成比を整えることが大切なようです。腸内細菌は補助的でも有効に働いてくれそうです。

 

スポンサーサイト



テーマ : 動物病院
ジャンル : ペット

腸内細菌のこと

 ここ十年くらいかな、ことに数年でしょうか、腸内細菌叢(マイクロバイオーム、腸内フローラと言われることもあります)は注目を浴びています。腸内細菌叢は、昔「善玉菌と悪玉菌」というざっくりした言い方をされてきました。次世代シーケンサーという検査機械(遺伝子の塩基配列を高速に読み出せる機械)が普及したことで、様々な遺伝子解析がスピーディーにできるようになりました。そしてこの機械で解析される腸内細菌叢の研究も飛躍的に伸びています。犬や猫でも、人や実験動物のマウスやラットに後れをとりながらも少しずつ解析が進み、その研究結果を知ることができるようになりました。

 

<腸内細菌叢というのは>

腸内細菌叢は(人で)ひとり数十億という数の微生物から成り立っています。その種類は約1千種あると言われています。犬でも同じくらいの細菌が生息しているだろうと考えられています。人ではこの腸内細菌叢を一つの臓器として捉える考え方が提唱されているくらいです。

腸内にいる様々な微生物のバランスが取れていると健康状態も保たれ免疫力が備わります。多くの腸内細菌は腸内の環境を整えているだけでなく、そのことが全身に有益な状況を作り出しています。

DSC_2245.jpg
おなかの調子を整える腸内細菌の製剤。
カプセルや錠剤などあります。

 <主要細菌のメンバー交替>

腸内細菌叢を構成する細菌の主要メンバーが変わることを、「腸内細菌叢の崩れ」「ディスバイオーシス」などと呼ぶことがあります。健康な人と違いがあることを単にディスバイオーシスと言ってよいものかどうかはわかりませんが、慢性の腸疾患にある状態と健康な場合とでは主に生息する細菌群に違いがあることはわかっています。ただし、これは1千種もある細菌の中のほんの数種のことです。

マイクロバイオームに有害な変化があると消化器疾患につながるであろうことは間違いありません。昔から「腸内の善玉菌が減って悪玉菌が増える」という表現をしてきました。こうした腸内細菌叢の変化は腸に損傷を与えます。水分のバランス(便がゆるくなる、または硬くなる)、腸粘液の産生の変化(ゼリー状のものが便に出てくる、またはパサパサの便になるなど)は比較的発見しやすい変化です。でもそれ以上に注目しているのは、免疫の機能や栄養素の吸収に影響が出てくることです。変化した細菌の構成比が犬の慢性腸症(炎症性腸疾患)と人のクローン病や潰瘍性大腸炎とが似ていることも報告されています。さらに腸内環境の異常は、腸の病気以外の病気にも関わることが知られるようになりました。

 

<プロバイオティクスというのは>

プロバイオティクスは、「pro:共に、biosis:生物」で、共生する細菌というニュアンスです。プロバイオティクスは私たちの体内にあり、健康効果をもたらす菌です。乳酸菌(乳酸を作り出す細菌群)やビフィズス菌が代表的な細菌です。良い効果を生む微生物を含む食品(ヨーグルトや乳酸菌飲料など)を呼ぶこともあります。

どのような菌をどの分量で与えると良いかという詳しいことはわかっていません。ただ、プロバイオティクスを服用している間は善玉菌と呼ばれる菌種が増えて良い効果が得られます。

有益な作用として、下痢や便秘を抑えること、腸内の良い菌を増やし悪い菌を減らすこと、腸内の環境を改善すること、腸内の感染を予防すること、免疫力を回復させることなどがあげられます。「おなかとからだの健康を守り、からだ本来の力を強める」ということになります。

 DSC_2244 (1)
サプリメントがいろいろあります。
パウダー状になっているものが多いです。

<プレバイオティクスというのは>

プレバイオティクスはもともと腸管内にいる細菌に栄養を与える物質です。「pre:先だって、biosis:微生物に」ということで、プロバイオティクスのエサになるものというニュアンスです。腸内細菌を持つ私たちは宿主になりますが、私たちには利用できない物質を腸内細菌は分解し、栄養源として利用することができます。プレバイオティクスの例としては、オリゴ糖や水溶性食物繊維、難消化性でんぷんやラクトフェリンが有名です。

プレバイオティクスを摂取すると、乳酸菌やビフィズス菌が増殖します。整腸作用やミネラルの吸収促進作用なども発生します。

プロバイオティクスが投与された菌だけを増やすのに比べ、プレバイオティクスは腸内細菌叢全体に栄養を供給するのが特徴で、腸内細菌叢の構成を整えるだけでなく、菌そのものも活性化されます。

 

<もっと効率よく細菌の恩恵を受けるために>

プロバイオティクスは生きたまま腸まで届くことが重要だといわれ、それなら元々ある腸内細菌を活性化させたらどうだとプレバイオティクスを飲むことが考えられたわけですが、いっそのこと一緒に摂取しようではないかとシンバイオティクス(プレバイオティクスとプロバイオティクスの合わさったもの)になりました。さらに効率よく細菌の恩恵にあずかりたい、というので細菌を活性化させ作られた物質を頂戴するところまでたどり着いています。


腸内細菌、大好きなのでいっぱいになってしまいました。また続きは来週に。
もし、お時間が取れるようでしたら、NHKスペシャルのページを見てもらえるといいと思います。わかりやすいです。
https://www.nhk.or.jp/kenko/special/jintai/sp_6.html

テーマ : 動物病院
ジャンル : ペット

蛋白漏出性腸症の治療

前回の続きになります


 <蛋白漏出性腸症の治療>

蛋白漏出性腸症の原因は明確にわかっていません。おそらく、

    食事中の蛋白質の何かに対しアレルギー反応を起こしている

(腸管内の細菌抗原に対するアレルギーの可能性も考えられています)

    個体の免疫異常が発生した

    腸内細菌叢に異常が発生した

等のことが複雑に絡み合っているのではないかと言われています。

それでそれぞれに対する治療として

    低アレルゲン食

    免疫抑制剤(プレドニゾロン等のステロイド薬またはシクロスポリンの)

    腸内細菌に対する治療(抗菌薬で悪い菌をやっつける、プロバイオティクスなどのサプリメントで腸内細菌叢を整える、場合によっては糞便移植?)
が良いだろうということになります。

dog_chihuahua_choco_tan_2019120519050603c.png
人気犬種のせいかチワワにも発生があるので注意です。

<食事療法>
一般の慢性腸症(蛋白漏出性腸症になっていない)は食物に由来するアレルゲンが元で炎症を起こしているのではないかという考えから、治療食は低アレルゲン食が選択されます。

蛋白漏出性腸症になっている場合は、腸リンパ管の負担を軽減するため低脂肪食を与えます。一般的な加水分解食は代謝可能エネルギーに占める脂肪の割合が3540%にできていますが、低脂肪食といわれるものは1719%くらいです。数字的にも大きな違いがあるのがわかるかと思います。低アレルゲンでなおかつ低脂肪の食事が推奨されます。どちらの条件も満たしているのは日清のダイジェストエイドです。愛犬がキライだと言わない限り、こちらの食事を食べていただきます。

そのほかはホームメイドで飼い主さんに作っていただく低脂肪食です。レシピはご紹介しますが、なかなか面倒です。

 DSC_2243.jpg
炎症性腸疾患で低蛋白血症になっているわんこに
イチ押しのフードはこちらです。




<抗菌療法>

食事療法がうまくいくと抗菌薬を使う必要はないかもしれません。食事療法に併用する必要がありそうなときは使用します。

病原性のある細菌(クロストリジュウム、キャンピロバクター、サルモネラなど)の細菌感染を対象にした抗菌療法ではなく、腸内細菌叢のバランスをとる目的での使用です。これらの薬を投与している間は善玉菌が増え、健康な家庭犬の腸内細菌叢と同じ構成になることがわかっています。そして休薬すると善玉菌は再び減少してしまいます。たいてい2週間くらいで反応は出てきます。抗菌薬にはいろいろな種類がありますが、この治療に使用する抗菌薬は2種類から3種類あり、これら以外を使うことはありません。これらは長期的な投与でも安全性が高くなっていますが、4週間から6週間くらい続けてから投与量を減らすようにしています。

dog_dachshund_choumou_201912051905095e9.png
免疫系のトラブルが多い犬種、ダックスも要注意です。

 <免疫抑制のための薬>

過剰に反応している免疫を抑え、炎症を発生しないようにするのにプレドニゾロンを使います。

ステロイドのお薬は長期投与による副作用の問題が発生することがあるお薬です。初期の反応を抑えることができたら、犬の様子を見ながら徐々に減薬していきます。

ステロイドで反応が芳しくないときに免疫抑制剤シクロスポリンを使うこともあります。

 

<腸内細菌を整える薬>

プレバイオティクス、プロバイオティクス、シンバイオティクスなどいろいろあります。次回お話しします。

 

<おまけのお薬・注射>

ビタミンB12の吸収が悪くなっていることが多く、ビタミン剤の注射をします。ビタミンB12が欠乏していると食欲不振になり、病状を悪化させてしまいます。また脂溶性ビタミンについても添加が必要です。

animal_chef_inu.png
ホームメイド食を作るときはお知らせください。
栄養バランスが取れていること、過不足ないように
レシピを考えています。


 治療目標は腸内へのタンパク質の損失を減らし、正常な血中タンパク質濃度を回復させ、これを維持することです。食事の変更が大切なのですが、体調不良で食欲が落ちているところにいつもと違う、しかも低脂肪で口当たりが悪い(低脂肪乳と成分無調整の牛乳の味に違いがあることは皆さんもご存知なんじゃないかな?)せいか、理想と現実に乖離があることは間違いありません。温めたり、ウェットフードをトッピングしたりしてがんばっていただきたいです。カッテージチーズを手作りしたりゆで卵のトッピングもアレルギー検査でクリアされていればかまいません。

次回から腸内細菌のお話しをする予定です。腸内細菌にアプローチする治療方法がPLE治療の最後になるのは個人的によろしくないと思うのですが、重要なので別枠的にお話しします。話が長くなりました。

年末色が濃くなってきました。ご多忙だからこそ、おからだご自愛ください。今週は飼い主さんの不調やご都合で留守にされた後に高齢動物の病状が悪化というケースが目立っていました。ほんのちょっとのことで後戻りできなくなってしまうのが高齢動物です。みなさまの健康が頼りです。お体をお大切になさってください。

 

テーマ : 動物病院
ジャンル : ペット

蛋白漏出性腸症

蛋白漏出性腸症のお話しです。

 

慢性的に下痢が続いている犬の中には、消化管から蛋白質が漏出し、低タンパク血症になっている犬がいます。血液検査で総蛋白(TP)もアルブミン(ALB)も低くなっています。もしくは、下痢はないのだけれど、少々の体重低下が有り、血液検査をしてみたらこのような結果に出たという犬もいるかもしれません。

身体の蛋白質が失われているのが腸管からではなくて腎臓からかもしれないという心配は尿検査を行なって確認をします。潜在的にアルブミンを作ることが不足しているかもしれないという懸念は胆汁酸(TBA)などの肝機能検査によって覆します。副腎皮質機能低下症(アジソン病)も血液検査(コルチゾール値)で否定ができます。それらのどれにも当てはまらず残った犬たちが「蛋白漏出性腸症」です。(確定診断には内視鏡検査と組織検査が必要です。)

unchi_character.png
うんちはゆるくないこともあります。

<蛋白質が逃げて行ってしまう>

「蛋白漏出性腸症」では、どうして消化管から蛋白質が逃げて出て行ってしまうのでしょうか。その原因は二つ考えられています。一つは腸粘膜が傷ついているから、もう一つは腸のリンパ管がおかしくなっているからです。

微細構造については後述します。

このような病態を発生させる病気はいろいろあります。粘膜を傷つける結果になる病気として、炎症性腸疾患、感染症(パルボウィルスとかサルモネラやキャンピロバクターなど)、副腎皮質機能低下症(内分泌系の病気です)、膵外分泌不全症があげられます。腸リンパ管の異常を起こす病気は、腸の炎症や腫瘍、リンパ管炎、また原因不明のリンパ管拡張症のこともあります。最も頻度が高いのは、炎症や腫瘍に続発する「リンパ管拡張症」です。

 

<深刻な栄養障害です>

これは深刻な問題です。体内に蛋白質が供給されないと必要な蛋白質を作る手段はからだの蛋白質を壊して得るしかありません。優先順位の高い蛋白質は血液蛋白であるアルブミンで、それを得るためには筋肉が分解されます。

アルブミンは失うことができない蛋白質です。アルブミンは肝臓で産生され血流を循環する蛋白質で、血液中に溶けない物質をアルブミンに乗せて運ぶ役割をしています。血液循環が道路だとしたら、アルブミンはバスのようなものです。またアルブミンは一定の濃度により血管内の血液の水分量を維持する仕事も担っています。血中のアルブミン値が低下すると血流に水分を保持できなくなり、血管から水が漏れ出し、組織の中に水を留めるようになります。むくみ(浮腫)や、胸水、腹水です。

「蛋白漏出性腸症」ではアルブミン以外の蛋白質も失われます。それは免疫力に関わる蛋白質、血液凝固(止血システム)に関係する蛋白質、消化に関係する酵素蛋白質などです。これらのからだの運営に欠かすことができない蛋白質も失っており不足しています。

からだは筋肉などから蛋白質を分解し、肝臓でアルブミンなどに再構築させることで一時的にしのぐことはできますが、筋肉組織を常に犠牲にしています。

 dog_taiju.png
体重減少はほぼどの犬にもみられます。

<リンパ管・リンパ液>

リンパは血液と同じように体内を循環する液体です。リンパ液はリンパ管の中をゆっくりと巡っています。血液循環は心臓というポンプ場がありますが、リンパ循環にはそれはありません。筋肉の収縮に伴って送り出されています。静脈圧にも流れは左右されます。リンパ液は血液の液体成分となる組織液と似た構成で、無色の液体で、蛋白質とリンパ球に富んでいます。所々にリンパ節と呼ばれる場所があります。リンパ節はリンパ液の中に入り込んだ細菌や腫瘍細胞、異物を捉えるフィルターの役目をしています。リンパ節でつかんだ免疫情報を持ってリンパ球は全身に出て行きます。リンパ球は免疫担当細胞です。

 

<腸リンパ管>

「リンパ管拡張症」は腸のリンパ管が拡張していることを意味します。リンパ管は周囲の筋収縮によって受動的に縮まってリンパ液が送り出されるわけですが、リンパ管拡張症では、何らかの炎症によって流れがブロックされた可能性があります。腸リンパ管は太く、内圧は高くなっています。

 

<リンパ管拡張症の腸絨毛>

腸絨毛は小さな指のような構造をしています。腸リンパ管はこの中心を走っていますが、リンパ管が高圧になると、柔らかな乳頭部が破裂します。犬の回腸の腸絨毛は走査型電子顕微鏡で見ると「細い葉のよう」だと形容されるように細いのです。エノキタケの先端の傘部分が落ちてしまう感じです。こうなると脂肪分を吸収するというよりも、壊れた先から内部のリンパ液が漏れて出てしまうことになります。リンパ液の成分はタンパク質とリンパ球です。こうしてタンパク質とリンパ球は失われます。血液検査を行なうと低タンパク血症とリンパ球減少症が確認されます。また脂肪分も抜けていきますから、脂肪(脂質)が便中に出てきます。

 dog_yorkshire_terrier.png
ヨークシャテリアは好発品種です。

<消化された栄養素と通り道>

食事中にある主な栄養素(エネルギーを生み出すもの)は炭水化物、タンパク質、脂質です。炭水化物はブドウ糖、タンパク質はアミノ酸という小さな分子に分解されて、腸の血管系に入り、門脈を通って肝臓に向います。脂肪はこれらに比べると分子が大きく、また「油性」という特徴もあることから、分子を小さくし(ミセル)、さらに水に溶けるかたち(カイロミクロン)に変え、腸絨毛の中心を走る乳び管(腸リンパ管)に吸収させます。腸リンパ管は腸の乳び管内に吸収した脂肪をからだに届ける最初の入り口になるところです。
脂肪の中でも、炭素の鎖が10個以下の短い脂肪酸(短鎖脂肪酸)はブドウ糖やアミノ酸と同じように門脈を経由して肝臓に向かい、腸リンパ管に負担をかけません。これが治療するときに低脂肪食を食べていただきたい理由です。


今日は「どうして?」「なんでなんだろう?」の疑問に関わるお話しばかりで具体的なところまでお話しできませんでした。次回は治療のお話しを中心にしていきたいです。

 

 

テーマ : 動物病院
ジャンル : ペット

体重低下がある慢性の下痢に・2

先週の続きです。

 
<内視鏡の検査>

エコーで怪しい所見もなくここまで来たのに、それでも治らない、っていうときに、再度エコー検査です。今度は怪しい所見があるかもしれない。エコー検査は何度も繰り返し確認させていただきます。腸管の5層の構造がおかしいとか、くねくねがある(専門的にはくねくねとは言いませんが)のが怪しい所見です。(ほかにもあります。)いよいよ内視鏡の検査を受けていただかないといけません。ここまでに既にひと月くらい経過しているはずです。つまり治療を試みてはみたものの下痢は続いているのです。外部委託した詳しい血液検査や糞便検査の結果も帰ってきている頃です。総合的に判断できるようになっています。

この段階でも「麻酔をかけての検査は受けたくないよ~」って言われることがあります。犬の年齢や、他の病気のこととかあることが多いです。原因に近づけなくて残念ですが、次のステップに進みます。

 medical_virus_koutai.png

<免疫抑制剤の治療>

で、次の段階です。

原因のところでお話ししましたが、①免疫の異常が起こっているかもしれない、というところに目を付けて行なう治療がここです。これまで、②腸内細菌の異常があるかもしれない、に対しては抗菌薬や腸内細菌のサプリメントで治療にトライしていますし、③食餌中の蛋白質にアレルギーを起こしているかもしれない、に対しては低アレルゲンの処方食で試してみたので、残っているのが、ここ、免疫系に対する治療なのです。

慢性腸症の中には犬の免疫状態が亢進していることがあります。腸管は身体の中にあるといっても、内腔は外の世界で、腸の粘膜では自分の体とは異なるタンパク質を身体の中に取り入れよう(吸収)としているので、そこでアレルギー反応が出ていることが十分考えられます。皮膚が外部のアレルゲンに反応して赤いぽつぽつができていたり、黒ずんで厚くなっていたりするのと同じように、腸管内部でも赤くただれているかもしれません。それで、ステロイドのお薬を使って腸粘膜の表面で起こっているだろう炎症を抑えてやるわけです。

こうして、ステロイドの薬で治ってくれれば「免疫抑制剤反応性下痢」という病名が付きます。が、「良かった」というべきか、今後いつステロイドを減薬したり中止したりするのか、そもそもそれができるのか、とその先のことも考えると、獣医師としては簡単に喜べない病態です。

 body_saibou.png

<内視鏡検査と病理検査>

もし決心が付くのであれば、ステロイドのお薬を投薬し始める前に、内視鏡の検査を受けていただきたいと思います。特に柴犬では、これまでの試験的な治療を行なうよりももっと早い段階で「内視鏡検査と病理学的な検査」を受けていただきたいです。そのほかの犬種の場合も(猫でも)、ざわざわっとすることがあり、慢性の下痢に限らず、体重減少が続いているような場合はおすすめしています。内視鏡の検査は全身麻酔です。現在当院ではこの検査は外部の病院にお願いしています。お口の方から食道、胃、十二指腸と空腸の届くところまでの範囲を視て、それぞれの部分からサンプルを採取します。肛門の方から直腸、結腸を同じように検査しサンプル採取し、病理検査に回してもらいます。

どうして、柴犬やざわざわっと感じる犬や猫に「ぜひ、受けてもらいたい!」というのかお話しします。病理の検査では「〇〇細胞性腸炎」(〇〇の中には細胞の名前が入ります)であるとか、「腸リンパ管」がどういう状態であるのかなど、今の腸管(ついでに見えてきた食道や胃の様子なども)伝えてくれます。けれど、もっと欲しい情報はざっくりいってしまうと、「炎症」なのか、もしかして「腫瘍」じゃないのかというところなのです。もし腫瘍性だとすると、嫌がっていて検査を受けるのが遅くなった場合はそれだけ進行してしまうからです。ここからの治療を行なっても生存日数が~ということになるので、予後を考えるとできるだけ早く診断を付けて、早い段階で腫瘍のための治療を開始してあげたい、ということなのです。

 

<腫瘍性だとわかった場合>

腸管に関連した腫瘍があります。腫瘍というとお肉の塊ができることを想像するかもしれません。実際、大腸がんでは、腸の管腔(ウンチの通り道)に塊状の腫瘍ができて、排泄路を塞ぐほどになってしまいます。でも腫瘍細胞が塊を作らず、粘膜の下で広範囲に散在することもあります。これは塊になった腫瘍とは違って切除することはできません。化学療法が適応になります。プランはいくつかあります。どのプランを選択するのかは個別に異なります。

 soup_food_scotch_broth.png

<処方食はキライ・お薬もイヤ>

もし腫瘍でなかった場合は、ここまでの治療をわんこが受け入れてくれればいいことになります。そう。受け入れてくれればいいだけのことですが、なかなか頑固なお嬢ちゃんやお坊ちゃんがいるのが現実です。治療に手こずってしまうわんこたちです。

最初の血液検査の段階で、アルブミン(ALB)の値が低かったわんこたちは、腸管の粘膜が思いのほか障害を受けているのかもしれないし、腸リンパ管に何かトラブルがあるのかもしれません。この子たちは、食事療法を確実に守っていただき、できることならこれだけでまず治療したいです。むやみにステロイドのお薬を与えて腸管に負担をかけたくないです。

食欲が低下しているわんこや療法食に見向きもしないわんこもいるので、この子たちにはホームメイドの低脂肪食をお願いします。適当に手作り食をつくればいいのではなくて、アレルギーを起こしにくい素材を使って計算した通りの分量と調理法で低脂肪の食事を作っていただくのです。このほか、微量な栄養素が欠けないようにビタミン類とミネラル類はサプリメントで補う必要もあります。なかなか大変です。けれど治療に反応すると低かったアルブミンの値は面白いほどに上がっていきますので、頑張った甲斐も得られます。よろしくお願いします。


急性の下痢は臭いし、あちこち汚しちゃうし、または慌ててお外に連れ出さなくてはいけないし、などの理由で比較的早期に連れてきてもらえます。けれど、慢性化してくると、なんとなく、あーあ、今日もかぁ、と半分あきらめモードになったりして、来院の足も遠のき治療に意欲が湧かなくなってしまうようです。でも、こんな状態のときこそ真剣に取り組んでもらわなくてはいけないし、麻酔をかけて行なう検査も受けてもらわないといけません。どこかに隠れている慢性下痢さん、意を決して連れてきてもらってくださいね。

テーマ : 動物病院
ジャンル : ペット

プロフィール

ハート動物病院

Author:ハート動物病院
ハート動物病院です。
〒445-0062
愛知県西尾市丁田町杢左51-3
TEL/0563-57-4111
オフィシャルサイト:http://www.heart-ah.com/

最新記事
最新コメント
最新トラックバック
月別アーカイブ
カテゴリ
ブログランキング
検索フォーム
RSSリンクの表示
リンク
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QRコード