FC2ブログ

蛋白漏出性腸症

蛋白漏出性腸症のお話しです。

 

慢性的に下痢が続いている犬の中には、消化管から蛋白質が漏出し、低タンパク血症になっている犬がいます。血液検査で総蛋白(TP)もアルブミン(ALB)も低くなっています。もしくは、下痢はないのだけれど、少々の体重低下が有り、血液検査をしてみたらこのような結果に出たという犬もいるかもしれません。

身体の蛋白質が失われているのが腸管からではなくて腎臓からかもしれないという心配は尿検査を行なって確認をします。潜在的にアルブミンを作ることが不足しているかもしれないという懸念は胆汁酸(TBA)などの肝機能検査によって覆します。副腎皮質機能低下症(アジソン病)も血液検査(コルチゾール値)で否定ができます。それらのどれにも当てはまらず残った犬たちが「蛋白漏出性腸症」です。(確定診断には内視鏡検査と組織検査が必要です。)

unchi_character.png
うんちはゆるくないこともあります。

<蛋白質が逃げて行ってしまう>

「蛋白漏出性腸症」では、どうして消化管から蛋白質が逃げて出て行ってしまうのでしょうか。その原因は二つ考えられています。一つは腸粘膜が傷ついているから、もう一つは腸のリンパ管がおかしくなっているからです。

微細構造については後述します。

このような病態を発生させる病気はいろいろあります。粘膜を傷つける結果になる病気として、炎症性腸疾患、感染症(パルボウィルスとかサルモネラやキャンピロバクターなど)、副腎皮質機能低下症(内分泌系の病気です)、膵外分泌不全症があげられます。腸リンパ管の異常を起こす病気は、腸の炎症や腫瘍、リンパ管炎、また原因不明のリンパ管拡張症のこともあります。最も頻度が高いのは、炎症や腫瘍に続発する「リンパ管拡張症」です。

 

<深刻な栄養障害です>

これは深刻な問題です。体内に蛋白質が供給されないと必要な蛋白質を作る手段はからだの蛋白質を壊して得るしかありません。優先順位の高い蛋白質は血液蛋白であるアルブミンで、それを得るためには筋肉が分解されます。

アルブミンは失うことができない蛋白質です。アルブミンは肝臓で産生され血流を循環する蛋白質で、血液中に溶けない物質をアルブミンに乗せて運ぶ役割をしています。血液循環が道路だとしたら、アルブミンはバスのようなものです。またアルブミンは一定の濃度により血管内の血液の水分量を維持する仕事も担っています。血中のアルブミン値が低下すると血流に水分を保持できなくなり、血管から水が漏れ出し、組織の中に水を留めるようになります。むくみ(浮腫)や、胸水、腹水です。

「蛋白漏出性腸症」ではアルブミン以外の蛋白質も失われます。それは免疫力に関わる蛋白質、血液凝固(止血システム)に関係する蛋白質、消化に関係する酵素蛋白質などです。これらのからだの運営に欠かすことができない蛋白質も失っており不足しています。

からだは筋肉などから蛋白質を分解し、肝臓でアルブミンなどに再構築させることで一時的にしのぐことはできますが、筋肉組織を常に犠牲にしています。

 dog_taiju.png
体重減少はほぼどの犬にもみられます。

<リンパ管・リンパ液>

リンパは血液と同じように体内を循環する液体です。リンパ液はリンパ管の中をゆっくりと巡っています。血液循環は心臓というポンプ場がありますが、リンパ循環にはそれはありません。筋肉の収縮に伴って送り出されています。静脈圧にも流れは左右されます。リンパ液は血液の液体成分となる組織液と似た構成で、無色の液体で、蛋白質とリンパ球に富んでいます。所々にリンパ節と呼ばれる場所があります。リンパ節はリンパ液の中に入り込んだ細菌や腫瘍細胞、異物を捉えるフィルターの役目をしています。リンパ節でつかんだ免疫情報を持ってリンパ球は全身に出て行きます。リンパ球は免疫担当細胞です。

 

<腸リンパ管>

「リンパ管拡張症」は腸のリンパ管が拡張していることを意味します。リンパ管は周囲の筋収縮によって受動的に縮まってリンパ液が送り出されるわけですが、リンパ管拡張症では、何らかの炎症によって流れがブロックされた可能性があります。腸リンパ管は太く、内圧は高くなっています。

 

<リンパ管拡張症の腸絨毛>

腸絨毛は小さな指のような構造をしています。腸リンパ管はこの中心を走っていますが、リンパ管が高圧になると、柔らかな乳頭部が破裂します。犬の回腸の腸絨毛は走査型電子顕微鏡で見ると「細い葉のよう」だと形容されるように細いのです。エノキタケの先端の傘部分が落ちてしまう感じです。こうなると脂肪分を吸収するというよりも、壊れた先から内部のリンパ液が漏れて出てしまうことになります。リンパ液の成分はタンパク質とリンパ球です。こうしてタンパク質とリンパ球は失われます。血液検査を行なうと低タンパク血症とリンパ球減少症が確認されます。また脂肪分も抜けていきますから、脂肪(脂質)が便中に出てきます。

 dog_yorkshire_terrier.png
ヨークシャテリアは好発品種です。

<消化された栄養素と通り道>

食事中にある主な栄養素(エネルギーを生み出すもの)は炭水化物、タンパク質、脂質です。炭水化物はブドウ糖、タンパク質はアミノ酸という小さな分子に分解されて、腸の血管系に入り、門脈を通って肝臓に向います。脂肪はこれらに比べると分子が大きく、また「油性」という特徴もあることから、分子を小さくし(ミセル)、さらに水に溶けるかたち(カイロミクロン)に変え、腸絨毛の中心を走る乳び管(腸リンパ管)に吸収させます。腸リンパ管は腸の乳び管内に吸収した脂肪をからだに届ける最初の入り口になるところです。
脂肪の中でも、炭素の鎖が10個以下の短い脂肪酸(短鎖脂肪酸)はブドウ糖やアミノ酸と同じように門脈を経由して肝臓に向かい、腸リンパ管に負担をかけません。これが治療するときに低脂肪食を食べていただきたい理由です。


今日は「どうして?」「なんでなんだろう?」の疑問に関わるお話しばかりで具体的なところまでお話しできませんでした。次回は治療のお話しを中心にしていきたいです。

 

 

スポンサーサイト



テーマ : 動物病院
ジャンル : ペット

体重低下がある慢性の下痢に・2

先週の続きです。

 
<内視鏡の検査>

エコーで怪しい所見もなくここまで来たのに、それでも治らない、っていうときに、再度エコー検査です。今度は怪しい所見があるかもしれない。エコー検査は何度も繰り返し確認させていただきます。腸管の5層の構造がおかしいとか、くねくねがある(専門的にはくねくねとは言いませんが)のが怪しい所見です。(ほかにもあります。)いよいよ内視鏡の検査を受けていただかないといけません。ここまでに既にひと月くらい経過しているはずです。つまり治療を試みてはみたものの下痢は続いているのです。外部委託した詳しい血液検査や糞便検査の結果も帰ってきている頃です。総合的に判断できるようになっています。

この段階でも「麻酔をかけての検査は受けたくないよ~」って言われることがあります。犬の年齢や、他の病気のこととかあることが多いです。原因に近づけなくて残念ですが、次のステップに進みます。

 medical_virus_koutai.png

<免疫抑制剤の治療>

で、次の段階です。

原因のところでお話ししましたが、①免疫の異常が起こっているかもしれない、というところに目を付けて行なう治療がここです。これまで、②腸内細菌の異常があるかもしれない、に対しては抗菌薬や腸内細菌のサプリメントで治療にトライしていますし、③食餌中の蛋白質にアレルギーを起こしているかもしれない、に対しては低アレルゲンの処方食で試してみたので、残っているのが、ここ、免疫系に対する治療なのです。

慢性腸症の中には犬の免疫状態が亢進していることがあります。腸管は身体の中にあるといっても、内腔は外の世界で、腸の粘膜では自分の体とは異なるタンパク質を身体の中に取り入れよう(吸収)としているので、そこでアレルギー反応が出ていることが十分考えられます。皮膚が外部のアレルゲンに反応して赤いぽつぽつができていたり、黒ずんで厚くなっていたりするのと同じように、腸管内部でも赤くただれているかもしれません。それで、ステロイドのお薬を使って腸粘膜の表面で起こっているだろう炎症を抑えてやるわけです。

こうして、ステロイドの薬で治ってくれれば「免疫抑制剤反応性下痢」という病名が付きます。が、「良かった」というべきか、今後いつステロイドを減薬したり中止したりするのか、そもそもそれができるのか、とその先のことも考えると、獣医師としては簡単に喜べない病態です。

 body_saibou.png

<内視鏡検査と病理検査>

もし決心が付くのであれば、ステロイドのお薬を投薬し始める前に、内視鏡の検査を受けていただきたいと思います。特に柴犬では、これまでの試験的な治療を行なうよりももっと早い段階で「内視鏡検査と病理学的な検査」を受けていただきたいです。そのほかの犬種の場合も(猫でも)、ざわざわっとすることがあり、慢性の下痢に限らず、体重減少が続いているような場合はおすすめしています。内視鏡の検査は全身麻酔です。現在当院ではこの検査は外部の病院にお願いしています。お口の方から食道、胃、十二指腸と空腸の届くところまでの範囲を視て、それぞれの部分からサンプルを採取します。肛門の方から直腸、結腸を同じように検査しサンプル採取し、病理検査に回してもらいます。

どうして、柴犬やざわざわっと感じる犬や猫に「ぜひ、受けてもらいたい!」というのかお話しします。病理の検査では「〇〇細胞性腸炎」(〇〇の中には細胞の名前が入ります)であるとか、「腸リンパ管」がどういう状態であるのかなど、今の腸管(ついでに見えてきた食道や胃の様子なども)伝えてくれます。けれど、もっと欲しい情報はざっくりいってしまうと、「炎症」なのか、もしかして「腫瘍」じゃないのかというところなのです。もし腫瘍性だとすると、嫌がっていて検査を受けるのが遅くなった場合はそれだけ進行してしまうからです。ここからの治療を行なっても生存日数が~ということになるので、予後を考えるとできるだけ早く診断を付けて、早い段階で腫瘍のための治療を開始してあげたい、ということなのです。

 

<腫瘍性だとわかった場合>

腸管に関連した腫瘍があります。腫瘍というとお肉の塊ができることを想像するかもしれません。実際、大腸がんでは、腸の管腔(ウンチの通り道)に塊状の腫瘍ができて、排泄路を塞ぐほどになってしまいます。でも腫瘍細胞が塊を作らず、粘膜の下で広範囲に散在することもあります。これは塊になった腫瘍とは違って切除することはできません。化学療法が適応になります。プランはいくつかあります。どのプランを選択するのかは個別に異なります。

 soup_food_scotch_broth.png

<処方食はキライ・お薬もイヤ>

もし腫瘍でなかった場合は、ここまでの治療をわんこが受け入れてくれればいいことになります。そう。受け入れてくれればいいだけのことですが、なかなか頑固なお嬢ちゃんやお坊ちゃんがいるのが現実です。治療に手こずってしまうわんこたちです。

最初の血液検査の段階で、アルブミン(ALB)の値が低かったわんこたちは、腸管の粘膜が思いのほか障害を受けているのかもしれないし、腸リンパ管に何かトラブルがあるのかもしれません。この子たちは、食事療法を確実に守っていただき、できることならこれだけでまず治療したいです。むやみにステロイドのお薬を与えて腸管に負担をかけたくないです。

食欲が低下しているわんこや療法食に見向きもしないわんこもいるので、この子たちにはホームメイドの低脂肪食をお願いします。適当に手作り食をつくればいいのではなくて、アレルギーを起こしにくい素材を使って計算した通りの分量と調理法で低脂肪の食事を作っていただくのです。このほか、微量な栄養素が欠けないようにビタミン類とミネラル類はサプリメントで補う必要もあります。なかなか大変です。けれど治療に反応すると低かったアルブミンの値は面白いほどに上がっていきますので、頑張った甲斐も得られます。よろしくお願いします。


急性の下痢は臭いし、あちこち汚しちゃうし、または慌ててお外に連れ出さなくてはいけないし、などの理由で比較的早期に連れてきてもらえます。けれど、慢性化してくると、なんとなく、あーあ、今日もかぁ、と半分あきらめモードになったりして、来院の足も遠のき治療に意欲が湧かなくなってしまうようです。でも、こんな状態のときこそ真剣に取り組んでもらわなくてはいけないし、麻酔をかけて行なう検査も受けてもらわないといけません。どこかに隠れている慢性下痢さん、意を決して連れてきてもらってくださいね。

テーマ : 動物病院
ジャンル : ペット

体重低下がある慢性の下痢に

 慢性下痢について以前にもお話ししましたが、検査や治療にすこし進歩があります。前回てんかん発作にも食事療法ができたお話しをしました。今回も食事に繋がるお話しです。慢性の腸疾患があるときに使っていた処方食ですが、少し前から良いフードが登場しています。そしてこれを使えたわんこ(ちゃんと食べてくれたわんこ)たちの治療成績がなかなかよろしい。というわけで、もう一度、長く続く下痢の病気のことからお話しします。

unchi_character_yawarakai (1) 

<慢性の下痢>

「うんちがゆるいときがある。良いときもあるし。時々悪く、繰り返してる。このごろ悪い時の方が多いかも。気がついたら1か月とか2か月、もしかするともう少し前からかもしれない。いいときもあったから、そんな悪いことだと思わなくて。なんとなく。そんなまま来ちゃった。」

こんな風なのが「慢性の下痢」です。下痢を主にお話ししていますが「痩せてくる」(体重減少)のも特徴です。診察室で体重を量ると、「えっ!そんなに痩せてた?細くなったかな、とは思っていたんだけど。」と驚かれることもあります。食欲は減退しているわんこ、変わらないわんこ、ともにいます。時々嘔吐することもあります。はじめはあんまり気にならないのだけど、だんだん不安になってくる感じです。これまでに診察を受けているわんこもいます。ウンチの検査で「寄生虫はないね」、血液検査で「肝臓や腎臓、膵臓に問題は無いね」、レントゲンやエコーの検査で「腸閉塞は無いようだね」、ってなったときに私たちが頭に思い浮かべるのは慢性腸症です。まじめに、じっくり取り組んでもらわないといけない病気です。

 body_chou_kin.png

<慢性腸症はどうして発生するのか>

原因ははっきりと解明されていません。

     免疫が乱れているのかもしれない、

     腸内細菌の異常があるのかもしれない、

     食餌中の蛋白質にアレルギーを起こしているのかもしれない、

など。いろいろな要素が複雑に絡み合っているとする説がいわれています。

 

medical_saiketsukan1.png

<特化した検査>

これまで検査をしていたとしても、いわゆる普通の検査です。健康診断のときの検査項目といったらわかりやすいかもしれません。でも慢性の腸疾患が疑われてからはそこに特化した特殊検査も行ないます。血液で内分泌の検査やビタミンの検査、膵臓の特別な検査を行います。糞便の検査も、これまでのような寄生虫やウィルスなどを遺伝子レベルで調べる検査です。どれもお値段が張る検査です。けれど、ここをクリアしておかないと、「内視鏡して病理組織を取ってこなくちゃならない」(もっと高額になってしまう)ので、「その前にできることはやっておきましょう」って気持ちでやっています。

 fig-p5-01.png

<食餌療法>

さて。検査の結果が出てくるまで、何もしないわけではありません。最初は療法食をお願いしています。「食事反応性下痢」を最初に疑っての治療です。これがなかなかうまくいかないことが多いです。「おじいちゃんがおやつをやっちゃう」とか「孫が食べてる袋菓子を犬にもやっちゃった」ってな具合です。激しい排便状況でもなくお片付けがそんなに面倒じゃ無いと、「欲しがったからつい」、なんてご本人さんも別のものをあげていたりします。まじめに取り組んで欲しいのですけどね。でも、そういう事実を隠してもらってももっと判断に困りますので、お伝えくださるのはありがたいです。

治療に用いる食事は特別療法食です。「可溶性線維と不溶性線維のバランスが良い食事」「消化の良い食事」「低脂肪の食事」です。皮膚や耳、目などにアレルギー症状が見えるわんこには「低アレルギー食」もおすすめです。近頃の慢性下痢をおこすわんこたちは炎症性腸症のことが多いので、おなかにもやさしいけれどアレルギーを起こしそうにない食事、つまり「低脂肪で低アレルゲンの食事」を選んでいます。ここまでの血液検査で「低アルブミン血症」があって、尿検査では異常がでなかったわんこたちにもこの食事です。このわんこたちにはこの時点で「タンパク漏出性腸症」(PLE)という病名が付けられています。(でも感染症や炎症や腫瘍に続発したものかもしれないので、これは最終的な診断名にはなりません。可能であれば続きの検査を受けていただきたいです。)

この段階で治っっちゃうと、以前お話ししました「食事反応性下痢ですね~」ってなります。

 

<エコー検査>

さて。食事だけでうまくいかないわんこたちにはエコー検査をもう一度行います。外来で次の患者さんが居てバタバタした状況だと気分的にいやなので、しっかりお時間をいただいて、じっくりみていきます。(ここで怪しいところが見つかると、「内視鏡プラス組織検査」のすすめがかなり高くなってきます。)

 medicine_konagusuri.png

<試験的治療>

怪しさが無ければ「抗菌薬」を処方します。いっしょに腸内細菌のバランスを整える「プレバイオティクス」のサプリメントと「消化酵素薬」もお願いすることが多いです。

ここで治れば「抗生物質反応性下痢でしたね~」、ってなります。


長くなりましたので、続きは次週に。

テーマ : 動物病院
ジャンル : ペット

猫の毛球症

 犬も猫も換毛期です。よく毛が抜けます。制服のまま猫を抱いたら、新しい服を毛だらけにしてお母さんに叱られるなんてこともあるでしょう。この時期には胸の前、脇の下、お腹から太もものあたりを毛玉にして来られる猫もいます。主に長毛種の猫たちです。「毛玉ケアっていうキャットフードを食べさせているんだけど、毛玉ができちゃうんですよ」なんて残念そうにおっしゃっていたお母さんもおられますが、毛玉は身体の毛ときをしてあげないとできてしまうものです。そしてフードメーカーのいう毛玉は「毛球症」(ヘアボールということもあります)のことで、このフードを食べると毛球を吐き出すことが減りますよ、というコンセプトで作られているものです。ですからこの食事を食べても毛がからむ毛玉予防にはなりません。(毛玉ケアという名称を使うから誤解を生むのです。良くないことです。)

 pet_cat_haku_outo.png

<毛球症というのは>

さて、猫の飼い主さんなら一度は「毛球症」のことを聞いたことがあると思いますし、猫が毛の塊を嘔吐するのを経験ことが有るかもしれません。一緒に寝ていて、ベッドの上でやられた!という方もおられると思います。「毛球吐き」=「毛球症」は生理的なことだと思われても仕方がないくらい発生率は高いです。でも、「毛球症」はよくあることではあるけれど、正常なことではありません。

猫の毛球症は、猫自身がグルーミングをして毛を飲み込んだ結果、発生します。猫の毛は食べても消化できるわけではないので、本来は胃から腸へとすり抜けて便に入り排泄されます。ですが場合によっては胃の中でもまれて塊になり、口から吐物として出てくることがあります。「オェッ!オェッ!ウェーーーッ!」という苦しそうな声(音?)だけで吐く物がなければ「ぜんそく」かと思われるかもしれません。でも、この音は嘔吐の前触れで、呼吸器系の病気の印ではないのです。

毛球は毛の塊です。水分を含んでいて、表面がぬるっとした粘液で覆われているようなこともあります。食道を通るときに棒状になります。胃の中ではボール状です。

毛球症には嘔吐以外の、別の心配点も有ります。吐き出されずに腸へ流され、小腸の途中かまたは小腸から大腸の入り口付近(盲腸部分)で毛球が詰まってしまい「腸閉塞」を起こしてしまうことです。

 pet_cat_kedukuroi (1)

<毛球の作られ方>

猫は自分の毛を手入れしながら、繰り返し舐めているうちに、舌に毛を含み飲み込みます。猫の舌には突起(ざらざらしたとげ状のもの)があるので、毛を口から食道へと移動させてしまいます。長毛種の猫はなりやすい傾向がありますが、短毛種なら大丈夫ということもありません。グルーミングの手伝いをするというのは抜け毛の量を減らすという意味でヘアボールの形成の機会を減らすので役に立ちます。

 

<毛球の原因>

猫がグルーミングするのは普通のことです。しかし、病的な脱毛になるほど過度に身繕いするときは、大量の毛を飲み込むことになります。何らかの皮膚病(感染症やアレルギー)があるとき、ストレスや退屈な状況(心因性の問題)、痛みがあるために舐め続けること(関節症では傷が見られないために痛みに気づいてやれないこともあります)などは過度のグルーミングをもたらします。まめな舐め行為は毛球のもとになる毛を大量に食べてしまいます。

もうひとつ重要なのが、本来ならば毛球を胃の中で形成されないうちに食物とともに(少量ずつ)腸管へと送られ、(少しずつなので大した問題にもならずに)便とともに効率よく排泄されるはずなのに、それができない点にあります。これは消化管の運動性の問題です。ものが消化管を移動する速度の問題です。運動性を低下させ移動速度を遅らせる問題として考えられる病気はいくつかありますが、怖い病気である甲状腺機能亢進症や炎症性腸疾患、腸の腫瘍(消化管のリンパ腫)、胃の出口にできる炎症性の過形成なども含め、慢性膵炎や胃腸炎が心配の種になります。

 pet_kenkou_shindan_cat.png

<毛球嘔吐の診察>

たまには毛を吐くこともあるでしょう。食事をするスピードが速い猫では急な胃の拡張から胃壁が敏感に反応して食事とともに毛球を吐き出すかもしれません。猫の草やその他の植物を食べて吐くことも、それが原因となって吐きます。けれど嘔吐の頻度が高いときにはさきほどお知らせした要注意の病気も含めて、診察が必要になります。怖い病気ではないことの確認を取るためです。手遅れにならないように。

けれど、すべての「毛球を嘔吐する猫」に対して血液検査やレントゲン検査、果ては麻酔をかけての内視鏡、消化管の生検、病理検査までを行なう必要はないと思っています。あまり構えないで来院してください。

それから、毛球の嘔吐では皮膚の問題や、こころの病気についても判断が必要になります。

「えっ?ヘアボールの嘔吐だけで診察は必要?」といぶかられるかもしれませんが、もし、食事療法など簡単な治療だけで、枕元でヘアボールを見つける問題が解決できるのであれば、こんなに喜ばしいことは無いのではありませんか。

 wash_pet_cat.png

<毛球症の治療>

さまざまなこわい病気ではなさそうだと判断できたら、治療に入ります。口に入る毛量を減らすこと、そして毛球が消化管の中を通過しやすいようにしてあげるのが治療目的です。

消化管の運動性を高める薬も有りますが、毛球が通過しやすいように加えるオイル系のサプリメント、または食事そのものの変更が基本の治療です。炎症性腸疾患が疑われるとき、アレルギー疾患でおもに用いられる抗原を制限した食事に変更します。また高繊維食も腸の健康を増進させることができます。可溶性繊維と不溶性繊維のバランスの整った高繊維食がおすすめです。サプリメントは一般には潤滑剤を含んだものです。消化管内の毛球をオイルでカバーし、塊になるのを防ぐ働きがあります。潤滑剤はあまり美味しくないみたいで、強制的な投与で猫が嫌気を指してしまうかもしれません。(キライという猫が一定数います。)この場合の代役としてΩ3脂肪酸のサプリメントをおすすめしています。Ω3脂肪酸は皮膚に良いので、皮膚に痒みや赤みなどがある場合にも有効です。

基本的なことですが、定期的なグルーミング(毛とき)は毛球症予防に有効な手段であると同時に、皮膚の健康にも役立ちます。

 present_neko.png

<ポイント>

  皮膚の上で毛が絡まってしまう毛玉と、毛球症は違います。

  毛球を吐くのはよくあることだけれど、健康的なことではありません。

  猫草を食べさせて毛球を吐かせれば安心だという結論になってはいけません。

  嘔吐の原因を調べて、怖い病気ではないことを確認しましょう。

  食事変更やサプリメント、グルーミングの手伝いなどで毛球症の治療が可能です。

 

4月最後の金曜日はHairball Awareness Day、毛球症について知ってもらう日です。いつもの「毛玉吐き」をもう少し、意識高くしてください。

テーマ : 動物病院
ジャンル : ペット

猫の歯肉口内炎

 猫で口腔内の病気というと、「歯周炎」に次いで「歯肉口内炎」が多いです。単に「口内炎」とだけ言うこともありますし、「口狭炎」ということもあるかもしれません。どの年齢層の猫でもかかりますが、比較的中年齢から高齢の猫に多いように思います。見つかるのがこの年齢になったときに多いということだけなのかもしれません。歯科疾患のひとつのかたちとして存在していた頃もありました。今は独立した疾患名になっていますが、歯垢や歯石と全く無関係というわけではなさそうです。歯肉の組織と口腔粘膜の炎症が歯肉口内炎です。

IMG_9919.jpg
口周りに黒汚れが付いているのが外から見てわかる目印。
頬をきゅっと後ろに持っていくと臼歯と口角が見えます。

 

<痛みが激しい>

とにかく、激しい痛みがあります。

水を飲むときも、食事をするときも、猫は細心の注意を払っているようです。慎重さのあまり、飲むのをためらっているようにも見えてきます。食べるときも同じです。硬いものを食べるときはそのまま呑み込んでいます。ドライフードを噛むカリカリした音を聞くことはないです。

ウエットフードでも、ゼリー状のフードや水分量の多いフードをへちゃへちゃ舐めて飲み込むようにして食べています。ことによると、口角(口の左右の部分)に当たらないように食べられるスティック状のフード(ちゅ~るなど)を舐めるだけということもあります。飼い主さんの観察力によるところなのですが、「これだけは食べる」ということが「このやり方だと食べる」「この形状だと食べやすいようだ」と解釈するのか、「これはおいしいらしい」「これが好きみたいだ」と解釈するのとの違いになるのでしょう。フードの形状の違いで食べたときの痛み(しみる?)の出やすさに違いがありそうです。

口が痛くてもお腹は空きますから、努力して食べていますが、十分量に満たない分量しか食べられません。そのため、体重が減ってきます。ここは「食べているから大丈夫」「食欲はある」と勘違いしないでいただきたいと思います。

痛みのため、常にイライラした状態です。そのせいで「性格が変わった」ように見受けられることもあります。逆に動きが不活発になり、「元気がない」ように見えるかもしれません。痛みのためグルーミングをしなくなるため、毛並みが悪いです。「年のせいだ」と誤って解釈しないようにお願いします。

 IMG_9918.jpg
歯肉のラインだけでなく、後ろの方まで赤みがつながっています。
腫れもわかります。

<炎症がある>

口の中の粘膜は上顎の奥歯を中心に、奥の方(喉に近い方)まで赤くただれていることが多いです。「炎症」には「炎」という文字がつきますが、まさに、かっかと燃えているような様相です。見た目に痛々しいわけですが、口を開けようとすること自体、痛みのために抵抗され、難しいこともあります。「いくよ、あけるよ、はいっ!」で開けて「うぎゃー!」という叫び声になることもしばしばです。

炎症は「赤い」「腫れている」「盛り上がったところがある」のほかに、「ただれている」「えぐれている」などの状態まであります。また、炎症の部分も歯肉だけのものから、頬の内側の粘膜、口の奥(喉に近い部分)、上あごの粘膜、舌など、進行するにつれて広範囲の粘膜が赤くなっていきます。

 

<原因はいろいろ>

どうしてこのようなことが起こるのか、直接的な原因はまだつかめていません。多頭飼育しているとか、混合ワクチンを接種していないというのはリスクが高いと言われています。

原因はありとあらゆるものが関与するといった方が正しいかもしれません。

  ウィルスの関与として猫カリシウィルス(FCV)が炎症部から分離同定されることが多いようです。そのほか猫白血病ウィルス(FeLV)、猫エイズウィルス(FIV)、猫ヘルペスウィルス(FHV)、猫コロナウィルス(FCoV)、猫伝染性腹膜炎ウィルス(FIP)、猫汎白血球減少症ウィルス(FPLV)感染も関係があるとされています。

  また細菌感染が関係する可能性もあります。とくにバルトネラヘンセラは関与が強く疑われています。ほかはポルフィロモナス菌、クラミドフィラ菌やマイコプラズマ菌、パスツレラ菌は分離菌として名前が挙がります。

  免疫系の状態も関係すると言われています。血中の免疫グロブリンが上昇しているのに口腔内の局所免疫機能が低下している可能性があるようです。

 IMG_9924.jpg
おおきく口を開けると喉の方まで赤みが
つながっているのがわかります。

<診断>

肉眼的に見るだけで診断することが多いです。

この検査を行なって、このような結果が出ると歯肉口内炎の診断が確定される、という検査がありません。理想を言うと、血液検査で裏付けを取り、病理組織学的に炎症の組織像を観察し、歯周病の時に同じように口腔のX線検査を実施すると、猫の身体の全体像が見えてきて、治療をしたり予後判断をしたりする上で良いのだろうと思います。

口腔内に炎症を起こす病気が他にもあります。腎臓を悪くして尿毒症になったときの口腔内潰瘍、食事性アレルギーに関連した好酸球性肉芽腫症候群、口腔内にできた扁平上皮がんなどです。判断に苦慮する場合は病理検査をさせていただくことがあります。

 

<検査>

治療の補助にするために検査をさせていただくことがあります。(「治療はしません」って言われますと、検査はしづらく、残念な気持ちになります。)

あくまでも、「標準では」ということになりますが、体調はどうか、獣医学的に積極的な補助をしないといけない状況ではないかどうかを見ていくことや、積極的な治療としての麻酔をかけた処置に入れるかどうかを判断するために検査を行なうものです。

具体的に言うと、血球の検査は貧血の有無、白血球の数や内訳、止血に関与する血小板の数などを見ます。電解質の検査や生化学的な検査は、今の身体の状況(肝臓は?腎臓は?)を知るために行ないます。総蛋白やアルブミンの検査から、グロブリン値、A/G比を算出します。免疫的に亢進した状態であるかどうかを知ることができます。予後の判断のために猫のウィルス検査(FelvFIVのスナップ検査)は有効です。さらに血清アミロイドASAA)の検査で、炎症の度合いを知ることができます。

血液のラボ検査の結果から、「麻酔をかけて処置をしよう」とご決断いただけたら、胸部のレントゲン検査など心機能に関係する検査も行ないます。

 IMG_9926.jpg
典型的な歯肉口内炎です。

<基本の治療が歯を抜くこと>

口内炎の治療は、基本が全抜歯です。大丈夫な歯か、大丈夫ではない歯か(歯根が歯槽骨に生きて座っているかどうか)の判断はなく、すべて抜くのです。そのため人気がない治療法でもあります。ときに、臼歯(奥歯)だけを抜いて様子を見ることもあります。

抜歯による治癒率は「60%程度がうまく治癒、20%くらいに再発があり、13%くらいは内科的な治療を併用しなければならず、残る7%くらいの猫で効果が見られない」という厳しい結果が出ています。この数値からは「やってみようかな」という気になれないというのもわかりますし、勧める方としても積極的に推奨するに心苦しい数値です。近年(2015年)の新たな研究ではこれまでのデータに比べると治癒率は上がってはいるものの効果がみられるまでに1年から3年ほどかかった猫もみられます。

 

<ほかには治療がないの?>

歯を全部失うことになっても完全な効果が得られない猫が一定数は出るとなると、こうした処置に踏み切れない飼い主さんがいらしても、しごく当然なことと思います。

ほかにも内科的な治療を中心にいくつかの治療法があります。

   症状の強さにもよりますが、まずは非ステロイド性の鎮痛消炎剤(たいてい口が痛いのでシロップ剤を選択しています)で痛みをコントロールするのをお勧めしています。長期の服用によって腎臓を痛めたり、嘔吐や食欲不振などの消化器系の好ましくない症状を出すことがあるので、インターバルを置いて投与してもらいます。

   非ステロイド性鎮痛消炎剤では痛みのコントロールが不十分だろうと思われる(結構重症かなと思われる)猫にはステロイドのお薬が選択できます。錠剤を直接投与できない場合、食事に混ぜるなどの手法を用いなければなりません。内服投薬が難しい状況だと判断する場合には2週間ほど効くお注射に頼ることになります。ステロイドのお薬は炎症を抑え、痛みを軽減します。食欲も回復してきます。効果が目に見える治療法です。けれど長く続けているうちに薬の望ましくない作用を起こすことがあるので、時に血液検査をして困ったことが発生していないかどうかを確認します。また、長期使用によって効果が徐々に減弱するようなこともあります。何よりもよく効く薬ではありますが、できればステロイドに頼った治療法を長期にしていくのは避けたいのが本音です。

   たいていは抗菌薬を併用します。

   インターフェロンを局所に注射するとか、全身に注射するという方法をとることもあります。

   免疫抑制剤を使うこともあります。液剤で投与はさほど苦痛にはならないと思います。

   抗酸化物質をはじめとするサプリメントは初期に有効だと思います。ラクトフェリンのように口腔内の病変部に溶解液を滴下して貰うのが困難な場合は、ソフトカプセルを飲ませていただく方法もあります。残念なことにサプリが有効なうちに診せていただけることは少ないです。

   歯を抜くことには抵抗はあるけれど、麻酔下で歯石や歯垢を取ったり、レーザー治療を行なうくらいまではと同意していただけることがあります。この治療でスッキリすることがあります。ただし単独の治療で他のことをしなくてもずっと良好のまま維持できるというものではなく、一時的な良化を得られるのでやってみましょうか、というところです。処置後、他の治療も併用して良好な状態が長く維持できることを目標にしています。

   食事性アレルギーの関与が考えられるということは、食事を低アレルゲン食に変更するのは試してみる価値があると思います。有効であったという報告もあります。

 IMGP9654.jpg
上を見上げたときに口周りは一望できます。
この瞬間でも黒汚れを見つけることが可能です。

<痛いけど併用したいケア>

慢性になった歯肉口内炎の管理としてできれば取り入れていただきたいのが「口腔ケア」です。毎日が無理だとしても、週に2回から3回、口腔内の細菌数を減らすために洗浄したり、軟らかい素材で歯みがきを行なうといいと思います。歯ブラシは、新生児用のラバーブラシのような物を使うといいと思います。痛みがあるとき人の指を口腔内に挿入すると噛まれてしまうことがありますから、指での処置はお勧めしません。

 

<長期的な予後>

根気よく治療していくことで、痛みから解放され食事を取ることができます。食べられず痩せて体力を無くすことがないように継続治療をお勧めしたいです。治療法もいろいろあるので一つであきらめずチャレンジできたらと思います。

続きを読む

テーマ : 動物病院
ジャンル : ペット

プロフィール

ハート動物病院

Author:ハート動物病院
ハート動物病院です。
〒445-0062
愛知県西尾市丁田町杢左51-3
TEL/0563-57-4111
オフィシャルサイト:http://www.heart-ah.com/

最新記事
最新コメント
最新トラックバック
月別アーカイブ
カテゴリ
ブログランキング
検索フォーム
RSSリンクの表示
リンク
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QRコード