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全身性高血圧症・続き

全身性高血圧症のお話、前回の続きです。



 <高血圧が影響を及ぼす臓器と障害>

高血圧症が継続している(慢性的な高血圧症になっている)と、腎臓や眼、脳(中枢神経系)、心血管系に障害を与えます。障害の中には陰に隠れて、わからない状態のものが多いです。ですから、たいていは気がついたときには後戻りできないようなことになっています。

障害を受ける臓器

高血圧による影響・症状

問題を発生させる

可能性がある血圧値

コメント

腎臓

腎機能低下の進行が早まる

蛋白尿が増す

血圧>160mmHg

原因か結果かがわからない

網膜剥離

眼の中の出血など

血圧>180mmHg

「高血圧性網膜症」

抑うつ状態になる

運動失調をおこす

発作を起こす

血圧>180mmHg

虚血性脳梗塞や

出血性損傷による

心臓

心肥大

不明

 

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腎臓が悪いために高血圧になっているのですが、高血圧であることが腎臓病を発症させたり、病気の進行を早めたりすることになります。腎臓病の進行のバロメーターになるのは尿中のタンパクです。

眼は高血圧性網膜症として知られています。収縮期血圧が180mmHg以上でリスクが高まりますが、たいていは「眼がおかしい」と思ったときにはすでに失明しているケースがほとんどです。

高血圧性脳症では、「抑うつ状態」で静かになる(元気がない)か、「前庭疾患」のようにしっかり立っていられないなどの運動失調、けいれん発作などが突然始まります。収縮期血圧が180mmHg以上でリスクが高まります。

高血圧は心臓にも影響を与えます。「左室肥大」といっていますが、この結果流れが悪くなった場合、すでに僧帽弁閉鎖不全症のある犬では僧帽弁逆流を悪化させてしまいます。

 

ボーダーライン未満の血圧は臓器に及ぼす影響は最小限なので、それ以上診断をしていく必要はありませんが、150/95とか160/100あたりになるとやはりそれなりのリスクが出てきますので、血圧を上げる病気が潜んでいないかどうかを見つけることに加え、今後何か症状を出すことはないのか、時間を追って継続的に測定していきます。

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<高血圧症の治療>

高血圧症の治療には、心臓病の初期に使われるのと同じ、レニンーアンギオテンシン系を阻害する薬(アンギオテンシン変換酵素阻害薬:ACE-I)が使われます。アンギオテンシン受容体遮断薬(ARB)も使われることがあります。この薬1種類だけで十分にコントロールできないときには別の薬(カルシウムチャンネルブロッカー:CCB)も加えます。

投薬を始めるサインは収縮期血圧が160mmHgを超えてきたとき、というのが多くの先生達の合意するところです。

 

<心臓病でも同じお薬が処方になる>

はじめに処方するのは心疾患で用いられるお薬と同じものです。この時点で心雑音を感じられないと、「心臓病じゃないのに、どうしてこの心臓用の薬を服用するのだろう」ということになるかもしれません。お薬には「慢性心不全用」の薬として表示してありますから。でも、今心雑音が聞こえる、聞こえないということではなく、高血圧症でも同じ薬が処方になるというところを理解しておいてください。そして継続により、腎臓はもちろんのこと、心臓も、眼も、脳も守られていきます。それから高血圧によって左心室肥大は降圧剤によって改善することも知られています。

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<おわりに>

心雑音、犬の症状を中心に心臓(腎臓)保護薬の投薬を開始するのでは、身体を守りきれないかもしれないと思うこの頃です。心雑音の有無の判定には、獣医師側の主観によるところもあり、軽度の雑音を聞き逃してしまう心配があるし、犬の症状の有無に関して言えば、飼い主さんの主観や気づき、犬と一緒にいる時間などの制限があるからです。腎臓や心臓を守るための投薬開始サインの一つに血圧測定はあると思います。人と同じように、ある程度の年齢が来たらルーチンに血圧測定をするといいのかなぁと思います。

それから、治療による恩恵を受けているときは好状態が続いています。「もう治ったね」「薬は要らないね」と思ってしまうこともあるかと思います。「すっかりいつもと同じ、元気も食欲もある!」からです。けれど、薬によって、このような状態が得られているだけで、薬による援助がなくなると、身体はまたこの状態を維持するために無理をしなければいけないことになります。病気には「治らないけれどうまくつきあっていくと、進行を遅らせることができる病気」があります。心臓病や腎臓病と同じように高血圧症もそういう「コントロールしていく病気」の一つです。

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高血圧症

 517日は「世界高血圧デー」です。

犬や猫にも、高血圧症があります。

犬と猫の高血圧症についてご紹介します。

 

<血圧というのは?>

心臓から送り出された血液が血管の内壁を押す力が「血圧」です。血圧は水銀柱を押し上げる力をあらわすmmHgで示されます。Hgは水銀のことで、これを何ミリメートル(mm)押し上げるか、というのが圧力の単位、「mmHg」になっています。

送り出される血液の量や血管の太さ、血管の抵抗によって血圧の値は変化します。たくさん血液が送られているとき、血管が狭くなっているとき、血管が硬くなっているときなどでは圧力がかかるので、血圧は高くなります。

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<血圧を測定する>

血圧測定には動脈に管を入れて測定する(観血法といいます)のが最も正確だと言われていますが、日常的にそのような検査を行なうことは現実的ではありません。

犬や猫は足に分布している血管が多数枝分かれしていることから、血圧測定は困難だと長年言われてきました。1972年にドップラー血圧計が開発され、麻酔中に動脈内に管を入れなくても簡易に血圧をモニタリングすることができるようになり、この方法は広まってきました。すでに1992年の獣医麻酔外科雑誌には、母校の心臓・腎臓関係の諸先生方が手術時に実験を行ない、ドップラー法を観血法と比較検討したところ有用であるという結果が出ています。

私たちが血圧測定をするときですが、腕に巻いたカフに空気圧をかけ、医師(または看護師)が聴診器を当てながら測定して貰うのが昔からの方法です。コロトコフ法といいますが、このとき聴診器では血管から出る音を聴いています。今、家庭で普及している血圧計は、血管の音の代わりに血流による振動をキャッチしています。オシロメトリック法といいます。

大きい犬にはこの方法、小型犬や猫にはあの方法、と推奨される先生もおられますが、SA Brown 先生によると「測定装置の選択は操作者の経験と好み」でよい、ということですから細部にこだわる必要も無いのかもしれません。

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<高血圧症はいくつ以上から?>

ちょっと高齢の方になると、「上が150で、下が100。もっと下げるように言われてるんだけどねぇ。」なんていう会話をされている患者さんがおられます。なんとなく、「このくらいが高血圧になるんじゃないの?」という数字を感覚的に持っていらっしゃるようです。

「上」というのは「収縮期血圧」、「下」は「拡張期血圧」のことを指しています。

将来、高血圧症による身体の不調が発生するリスクに基づいて、IRISでは血圧をステージ分けして、高血圧かそうでないかを評価しています。

収縮期血圧

拡張期血圧

将来のリスク

血圧の評価

150mmHg未満

95mmHg未満

最小

高血圧ではない

150~159mmHg

95~99mmHg

軽度

ボーダーライン

160~179mmHg

100~119mmHg

中等度

高血圧

180mmHg以上

120mmHg以上

深刻

重度な高血圧

これからすると、人(人では140/90mmHg以上を高血圧)よりも幾分高い、160/100mmHgからがはっきりとした高血圧ということになります。人では、ある数値を超えたときに脳出血や脳梗塞が起りやすくなるという地点を見ていったときに、みえてきた数値が140/90mmHgで、ここがボーダーラインです。動物でボーダーラインであるのは150/95mmHgです。この数値よりも低く押えられている方が将来安心ということになります。

実際私たちが高血圧症と診断するときの収縮期血圧は150mmHg以上です。血圧は、動物が興奮していたり、不安を感じていたりしても生理的に上昇しますから、(もちろん白衣性高血圧もあります)、何度か測定して「間違いなく高い」を得ることにしています。同じ日にも数回測定しますが、1週間以上の間を開けてまた同じように測定して結論を出します。はじめの頃は高い数値が出る日に低めに出る日が混じっていても、いずれは「持続的は高血圧症」に移行していくようです。やはり継続測定は大切です。

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<サイレントキラー>

高血圧は「サイレントキラー」と言われています。高血圧に自覚症状がないのは、経験されていらっしゃる方も、またご自身でなくてもご家族の中にいらっしゃるかと思いますが、症状がないためにそのままになっていて、あるとき突然、大変なことになるわけです。それが「沈黙の殺し屋」と言われるゆえんです。

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<高血圧症の原因は?>

人ではほとんどが遺伝と生活習慣による「原発性」(一次性)の高血圧に、加齢やその他の発症因子が加わって何らかのイベントが起るわけですが、動物の場合はほとんどが何か病気に併発した「二次性の高血圧症」になります。

高血圧症を引き起こす病気として、犬では

・慢性腎臓病

・副腎皮質機能亢進症

・糖尿病

・肥満

・甲状腺機能低下症

などが考えられます。

猫では

・慢性腎臓病

・甲状腺機能亢進症

などが挙げられます。そのほかある種の薬によっても引き起こされることがわかっています。




長くなりました。今日はここまで。
今週は病気のわんこさん、それも結構重篤な病気のわんこさんが目立ちました。マイデスクに座れることがなくて、日曜日の朝の更新が1日半ほど遅れてしまいました。


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猫の慢性腎臓病

寒い寒いと屋内にいる時間が長く、外の様子を気にすることもなく過ごしておりましたが、自然というのは素晴らしいもので着々と春の準備が整ってきている様子です。小さな春の花が咲き始めていました。

例年、閑散期に当たる1月2月は、ご家族さま向けのパンフレットを新しく作る作業に費やしています。内容が古くなってきたので改訂する必要があるのに日々忙しくて更新できなくて古いままお渡ししていたようなものとか、質問が多いから言葉で話す以外に持ち帰り用冊子を新しく作っておく必要があるものとか、そのようなこといろいろです。

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こちらは慢性腎臓病にかかってしまった猫ちゃんの
ご家族さま向けにお渡しする予定の冊子です。

今年は猫の腎臓病のパンフレットを作り替えました。たいていの病気は文字中心の病気説明パンフレットA4用紙1枚でほぼ十分なのですが、慢性腎臓病ってどうしてこんなにお話しすることが多いのでしょう。これまでの説明用紙(A4用紙2枚分)をさらに短くすることはできませんでした。済みません。よ、よ、4枚。。。これはまた折を見て、簡易バージョンを作る必要があるレベルです。(><)
 
それから、このブログでは角度を変えて、こっちからあっちからとお話しする機会が多くて、重なった内容も多いのですが、挿絵も探し出しまして、もっと読みやすいように「猫の腎臓病」ファイルを作りました。待合室読本です。ここには新しい腎臓病パンフレットや、企業さんからいただいている資料なども挟んであります。

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ファイルです。
気になったらお手にとって開いてくださいね。

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ブログの文章に加筆、わかりにくいかなというところも
絵やブラフ、図など入れわかりやすくしたつもりです。
 
おりしも、3月は腎臓病月間。腎臓病について知っていただきたい一ヶ月です。それにちょうど春のお彼岸週間は2年に1度あるIRISの学会week。いわば腎臓週間です。

10歳を超えた猫の3頭に1頭は慢性腎臓病という検査結果が出る時代。症状が出るのは病期がそこそこ進んでしまったとき。それまでは症状をあらわさないのが腎臓病です。来月からは犬の検診が増え、猫さんは待合室でもリラックスしにくくなることが予想されます。健康診断はいつでも受けられますが、わんこの来院数が少ない今月中は貓さん向けに特におすすめです。ご来院、お待ちしております。
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慢性腎臓病にかかってしまったご家族だけでなく、
高齢猫を飼育されていらっしゃる方には、あらかじめ
読んでいただけるとうれしい内容です。

 
3月掲示版用のポスターです。
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腎臓は背中の方にあります。左右二つです。


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年をとるだけで腎臓病になる?
そういうこともあります。

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腎臓病の初期症状は?
実は分からないことが多いのです。

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腎臓のお仕事は?
いろいろな仕事をしています。

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愛猫の腎臓は元気でしょうか?
病院でできる検査がいろいろあります。

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腎臓病の治療といったら?
足し算的に治療は増えていきます。

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元気に暮らしていけるように、補助します。
腎臓を守り、残る力を生かしていきます。




今シーズンはインフルエンザが大流行していましたね。かくいう私も「鬼のかく乱」とでもいうような状態で、体調を崩してしまいました。たまに体調を崩すと、調子の悪い犬や猫の気持ちが分かります。ウィルス性鼻気管炎でもなかなか食事を始められない猫が居ますが、体温計では測りきらないような微熱のために「お口が苦い」「何を食べてもおいしくない」のかもしれないなぁと改めて思いました。回復期には消化器系に作用する薬で食欲をそそり、食べ始めても胃がつっかえることがないように補助してやることも必要なのかもしれません。まだまだ巷のインフルエンザは収束を見せていないようです。皆さま、どうぞお体には十分ご自愛いただきますように。

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傍前立腺のう胞(ぼうぜんりつせんのうほう)

 前立腺関連の病気にもう一つありました。
傍前立腺嚢胞(ぼうぜんりつせんのうほう)についてお話しします。ちょっとまれな病気かもしれません。

(傍前立腺のう胞と、前立腺のう胞は違う病気です。)

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お尻が大きく膨らんだタイプです。



<膀胱が二つ?>

前立腺ののう胞が一つだけ(ときに二つとか)巨大に、まるで膀胱のように(膀胱よりも)大きくふくれあがっていることがあります。巨大な袋が形成され、お腹の中にあるときは非常に悪性の腫瘍でもできてしまったのかというような様相です。前立腺の後ろ(尻尾に近い)にできていて、会陰ヘルニアを併発しているとヘルニアの中にすっぽりとはまってお尻がでっぷりとした様子になります。

病因は分かっていません。個体が生まれてお母さんのお腹の中で成長していく過程の途中で発生した組織(ミュラー管)の遺残と考えられています。

のう胞の中には液体が貯留しています。

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<のう胞のサイズによって症状が異なります>

大きくなると、オシッコが出にくい、ウンチをきばってするなどの症状を出します。大きくならないと症状は出ません。

前立腺の前方にあるときはお腹が大きい感じに見えます。前立腺の後方にあるときは会陰部の膨らみが大きくなっています。

動きを妨げるまでに巨大化している場合や痛みがある場合は、後ろ足がぎこちない歩き方になっています。

血尿に気づかれている患者さんもおられます。

大きなのう胞ができているときには、外貌から「大きな腫れもの」「腫瘍なのかしら」と心配されて来院されることが多いです。

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<検査します>

画像の検査が中心になります。外貌の視診からはじめます。
尿道から薄ピンクの分泌液が出ていることがあります。

前立腺の前の方にのう胞ができている場合はお腹が大きくなっています。X線検査では、大きく膨れあがった球形の組織が確認できます。それに続いて小さな球が2つ見え、膀胱の前の方が分かれてお団子のようになっているように思えてしまいます。

前立腺の後ろにのう胞ができた場合には会陰ヘルニアと合併していることが多いです。X線検査をするとヘルニア内に落ちてきているのだろうと思われた膀胱が腹腔内にも存在していて、やはり膀胱が二つあるように思えてしまいます。

超音波検査で内部を見ると液状物で満たされていることが分かります。のう胞の袋に石灰沈着を起こしているのが見つかるときがあります。

尿検査で血尿が確認されることがあります。

膀胱が二つあるように見えるため、X線検査は単純撮影に加え、造影検査も行います。造影剤で尿道から膀胱を映し出して確認をします。傍前立腺のう胞は尿道と連絡していないことが多いので造影剤の入った方(本当の膀胱)と造影剤で満たされなかった方(傍前立腺のう胞)を区別することができます。腹腔内にできた傍前立腺のう胞の場合、3つの球は「傍前立腺のう胞―膀胱―前立腺」の順に並んでいたのだと分かります。前後ではなくて、背中側とお腹側のように並んでいることもあります。また後部の場合、会陰ヘルニア内に落下していた物は膀胱ではないということもはっきりします。

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<外科的に治療します>

アピール度が高い外貌ですが、前立腺膿瘍ほどには悲壮感漂う手術にはなりません。水ぶくれになっている傍前立腺の一部分を開いて排液し、抜き切れたらその部分を縫い縮める手術を行います。同時に去勢手術も行います。前立腺のう胞を含めた前立腺の全切除では無いため、手術手技的にみた難易度は前立腺そのものを切り取る手術に比べれば高くはありません。ただし合併症がある場合の手術は複雑になります。

袋の中に細菌感染をおこしてしまうと慢性的な感染になってしまうので、術後もしっかり抗菌療法を行います。合併症予防のためしばらく抗菌療法は続けます。

 

<アフターケア>

術後も定期的に前立腺とその周囲のチェックに来院いただきます。再発していないかどうか2か月とか3か月ごとに超音波の検査を行います。予後は悪くありません。

 

<予防について>

これまでの前立腺疾患とちがい、あらかじめ去勢手術を実施すれば予防ができるという報告はありません。

 

前立腺関連の病気は今回で終了です。年の瀬が押し迫ってきました。寒さも増してきています。愛犬も愛猫もみなさまもお身体を大切に。

 

テーマ : 動物病院
ジャンル : ペット

前立腺の腫瘍

 
前立腺の病気についてお話しをしてきました。今回は前立腺の腫瘍についてお話しします。

<前立腺の腫瘍>
前立腺に発生する腫瘍は「腺がん」か「扁平上皮がん」のことが多いです。(どちらなのかを病理学的に区別するのは難しいそうです。)

前立腺が大きくなる病気のほとんどは未去勢のオス犬に発生しますが、前立腺腫瘍の場合は未去勢のオス犬よりは去勢済みのオス犬の方が発生率は高いです。

とにかく良性腫瘍であることは少なくて、前立腺に腫瘍が発生したとするとそれはほとんどが悪性のものです。「前立腺腫瘍」=「前立腺がん」のイメージです。ですから「あれっ?」と思うような節があれば、とくに去勢済みのオス犬で前立腺が肥大したときの症状を出していれば、大急ぎでお越し下さい。「老齢犬に発生する」と思われがちな腫瘍ですが、老齢のちょっと手前、9歳から10歳くらいの高齢犬に発生のピークがあります。この年齢層が要注意です。

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<気づいて!この症状>

・オシッコが出にくい。(決して尿道の問題だと軽く考えないように!)

・ウンチをするのに息ばる。(便秘かも、ウンチが硬いのかもなどと思わないで!)

・尿道から出血性の液が出てくる。(ひとりエッチのお汁だなんて思わないで!)

・体重減少や食事量の低下。(うまいこと痩せてきて良かったなんて思わないで!)

 

<病院で身体検査>

外から見た感じは普通です。主に直腸検査が診断的に意味のある検査です。実は触った感じから「前立腺腫瘍」の疑いが始まります。

・直腸検査をすると、硬くてごつごつした(弾力性がない)前立腺に触れます。左右対称ではありません。

・犬は前立腺を触られて痛みを示します。

・熱っぽい犬もいます。

・元気がなくなっていることもあります。

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<尿検査や前立腺液の検査>

直腸検査をしないで血液検査や尿検査などのラボ検査をするだけでは、診断へのとっかかりを得られないような気がします。これといった異常点がラボ検査では見つけられません。直腸検査で異常を見つけると積極的に前立腺の検査を実施していきます。

・尿は血尿になっているかもしれません。感染性のこともあります。

・前立腺検査では細胞検査が有益な検査になります。前立腺をマッサージして(痛がります。ごめんね、わんちゃん)、細胞を集め検査します。院内検査でふだん見受けられないような細胞が見つかります。これで疑いが深まります。
 

<細胞の検査>

腫瘍なのかもしれない部分を細い針で刺して腫瘍を疑う組織内の細胞を病理の先生に見ていただく検査(細胞診といいます)があります。皮膚や粘膜、皮膚のすぐ下の組織(目で見て分かるような部分です)にできた細胞の塊はこのように(穿刺)して間違いないだろうと思うのですが、膀胱にできた塊や前立腺にできた塊に針を刺すと、その周囲と針を引いて出してくるお腹の部分に腫瘍細胞をばらまいてしまうかもしれないという「危険」を潜めています。それで前立腺の腫瘍が疑われた場合は、超音波検査で観察しながら(針は刺さずに)カテーテルを使って吸引して細胞を集める検査をしています。
確定診断はこのようにして集めた細胞から病理専門医に委ねられます。

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<超音波の検査>

画像検査は重要な検査です。

・超音波で見ると前立腺は大きくなっていて、内部構造も整っていない部分を見つけることができます。

・前立腺の他、膀胱、その前方の腎臓や尿管もチェックします。前立腺の腫瘍は前立腺尿道から膀胱へ波及します。そして尿管が膀胱に開口するところが腫瘍細胞で埋まってしまうと腎臓からの尿の流れが停滞するために水尿管、水腎症を併発してしまうのです。そのような尿の流れがまだ順調にいっているのかどうか、すでに停滞をおこしてはいないかを確認します。

・付近のリンパ節もチェックします。転移の有無を調べます。

 

X線検査>

X線検査も行います。

・前立腺そのものを見るほかに、前立腺近くのリンパ節や腰椎や骨盤の骨に変化が無いかどうかを見ていきます。前立腺は近くのリンパ節や骨に転移しやすく、骨が増殖していることもまた溶けてきて骨密度が低下していることもあります。

・下腹部のほか上腹部や胸部の撮影も行いますが、肺などへの転移病巣が無いかを確認するためです。

・腫瘍の広がりや転移をしっかりつかまないと治療のプランを立てられないため、細かく調べることになります。X線検査も重要な検査です

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<慎重に治療のプランを練りましょう>

前立腺がんの治療は外科、内科、また放射線のオプションもあります。ステージにより選択できる治療が違います。また一度は治療をあきらめてしまう方もいらっしゃいますが、腫瘍は日々増大していき、今の状態がずっと続くわけではありません。次のステージになればまた別の問題が起こってきます。これから起こりえることを想定し、今できることは何か、この後こうなったらどうするのかまで踏まえてしっかりとした治療計画を考える必要があります。


・前立腺の腫瘍で根治を目標に置くのは転移がない初期の場合に限られます。それでも局所再発や遠隔転移が後日発生することもあります。

・根治目的の治療には前立腺切除術があります。前立腺は尿道を取り囲むようにある組織ですので、尿道の取り扱いが検討事項になります。そのまま温存する(前立腺尿道だけを取る)かまたは尿路変更(膀胱から前立腺全体を切除する)の手術を行うのかの問題です。非常に難易度の高い手術ですので、腎泌尿器外科の専門医がいる病院をご紹介します。

・ピロキシカム(鎮痛消炎剤の仲間ですがシクロオキシゲナーゼ(COX-2阻害効果があり、腫瘍の増大を抑制する効果があります)も補助療法として有効です。転移が見られない犬に特に有効です。

・複雑な手術を受けたくない場合には化学療法(抗がん剤による内科療法)を選択することができます。3週に1回の点滴療法です。このときもピロキシカムの併用が可能です。そこそこ手応えのある治療法だという印象はあります。

・すでに不完全ながらも尿路閉鎖がある(膀胱へ腫瘍が拡大してきている)場合に、尿路変更の手術(尿管腹壁瘻)を行うと延命効果が得られます。

・積極的な治療を行わないと決めた場合でも、その後の経過で苦しそうな犬の姿を見て「なんとかならないものか」と後から治療を始めたくなってしまうことがあります。そうなった時点から犬にしてあげられることは大変限られてきます。排泄路だけ確保する手術に踏み切るかどうか、もしくは鎮痛薬を用いた苦痛からの解放だけにするのかなど再び検討する必要が出てきます。

・診断後は選択した治療の種類に関わらず経過観察が必要です。

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<この先どうなるのでしょうか>

予後は大変厳しい病気です。

一般成書に記載がある「生存期間中央値」は甚だしく短いのですが、これは諸外国では「より良く生きる」ことを重要視されているために、進行している症例では発見と同時に安楽死されていて、その場合の生存日数は「0日」となるためです。飼い主さんの「あきらめない気持ち」が動物の未来をもたらしていくのは間違いないと思います。

早期に発見され、早期に根治治療に入った場合、うまくすると1年以上の生存期間を得られるようです。定期的なフォローアップには必ずお越し下さい。

診断された時点で既に進行していた症例では余命が短いことを覚悟して下さい。さらに進行していった場合(転移も含めて)有効な治療策は無くなってしまいます。犬のQOLを考えた人道的な処置も考慮の一つになります。


<予防できる?>

残念ながら予防方法はなく、早期発見と早期治療でステージが進む前に対処するのが最善策になっています。

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<早期発見はできるのか>

現在、BRAF遺伝子を調べると、移行上皮がんや前立腺がんの場合高い頻度で変異が見られます。この検査は「おかしなところがあるけれど、がんによるものなのかそれとも炎症性の変化なのか悩ましい」というようなときに用いる検査で、前立腺がんがあるかどうか分からないけれど広く網にかける検査(スクリーニング検査)ではありません。

無の段階から有を探し当てるのには広く誰でも検査が受けられ(検査が簡単であること)、そして安価で調べられる検査で、その検査の検出率が高く(感度が高いこと)、他のことではその検査項目に引っかかって来ない(特異度が高い)ことが望まれます。人の前立腺がんの腫瘍マーカーであるPSA検査(prostate specific antigen:前立腺特異抗原)は人において前立腺がんの早期発見に有用で、これができてから前立腺がんの死亡率が格段に減少したそうですが、犬では有用ではありません。犬に有用な腫瘍マーカーが発見されて、「もしかしたら前立腺がんが生まれているかも」を早期にお安く知ることができたら良いのにと思います。

 
<おわりに>

もし愛犬が腫瘍だと分かったときご家族の皆さんはすごくがっかりされているだろうと思います。前立腺がんでは先が長くないかもしれません。でもまだ間があります。虹の橋のたもとに彼らを送るまでには時間があります。だって今生きて闘病しているところなのですから。悲しんでいる時間を今の彼らとの思い出づくりの時間に変えてみてはどうでしょうか。治療によって時間が稼げます。このあともっと状態は悪くなるのかもしれませんから、今こそいっぱい写真を撮ってあげて下さい。好きな物は何だったでしょう。好物メニューを思い出して作って下さい。でもグルメすぎてしまうと下痢になることもありますのでご注意下さい。

 

前立腺の主な病気をご紹介しようと始め、11月中このテーマとするつもりだったのに、クリスマスソングの聞こえる今日までかかってしまいました。お忙しい季節かと思いますが、愛犬のことをしてあげられるのは健康なあなたです。どうかあなた自身の健康にもご留意してください。


もう一回、前立腺関連の病気についてお話しして、この前立腺シリーズを終わりにしようと思います。

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プロフィール

ハート動物病院

Author:ハート動物病院
ハート動物病院です。
〒445-0062
愛知県西尾市丁田町杢左51-3
TEL/0563-57-4111
オフィシャルサイト:http://www.heart-ah.com/

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