- 2019-07-21 :
- 犬のクッシング症候群
クッシング症候群とお薬
クッシング症候群は、腎臓近くにある小さな組織である「副腎」で作られる「コルチゾール」というホルモンが過剰に分泌されて起こる病気です。犬のホルモン系の病気というと、知名度が高いのは糖尿病ですが、発生割合は糖尿病より多いかもしれません。8歳を超える高齢犬、オスよりもメスに多く見られる傾向があります。
今回はさらっと概要についておはなししてから、お薬にまつわる注意について追加します。
<見過ごされているかもしれない!>
クッシング症候群の症状は
① 水をたくさん飲む、オシッコの量や回数が多い
② 食欲が旺盛、食事量が多い
③ 皮膚が薄い、脱毛部がある
④ お腹がふっくら、ぷっくり膨れている
⑤ 動くのがキライ
⑥ いつもハァハァ、暑そうな呼吸をしている
などです。
全部の症状が必ず発生するわけではありません。この中で一つ二つでも「えっ!うちの子、そうかも!」と思われる節があったら検査をおすすめします。
「太っているからこんなもんだと思っていた」、というのはよくあるケースです。「こういう病気だから、お腹もでっぷりし、それなのに食欲は止まるところを知らなかったんだ」、「肥満なんじゃなかった」、というのがあります。
<どうして起こるのか>
原因の多くは「下垂体の腫瘍」ができていることです。脳にある下垂体から「コルチゾールの分泌を促すホルモン」が出ていますが、ここに腫瘍ができると過剰なホルモン分泌がおこります。それによって副腎から「コルチゾール」がたくさん分泌されます。
もう一つの原因は「副腎の腫瘍」です。副腎が大きくなって「コルチゾール」が過剰に分泌されます。
どちらが原因になっているのかは特別な血液検査で判断が可能です。グレーゾーンというどちらとも判断がむずかしいこともありますが、下垂体腫瘍が原因のことが多いです。
<手術とお薬>
治療は薬による内科的な治療と、手術により腫瘍を摘出する外科的な治療、放射線治療など選択が可能です。根治的な治療というと外科療法です。けれど非常に専門的な手術で難易度も高く、内科的な治療を選択される方が大半です。内科的な治療は、症状を緩和することが目的です。原因となる腫瘍はそのままになっているので、徐々に腫瘍が育って大きくなる日がやがて来ることは頭の隅にとどめておかなくてはいけません。
<お薬をのむときの注意>
このお薬(トリロスタン)をのむと、これまで盛んにお水を飲んでたくさん排尿していたのが、落ち着いてきます。水を飲む量も食事の量も適切になって、排尿量も減少します。これはそのまま循環する血液の量を減少させることですから、投薬量が身体に合っていないときは低血圧になってしまうことが考えられます。
また、心臓病や腎臓病のときのお薬の一部と併用すると、血液の電解質バランスが乱れ、腎臓から排泄されるべき窒素代謝物が滞って高窒素血症になってしまう可能性もあります。
お薬を飲み始めたら、定期的に血液検査を行ない、具合が悪くなっていないか、適正量でコルチゾール値をコントロールできているかどうかをチェックしましょう。
<モニタリング>
犬の状態にもよりますが、不安定な時期は2週間ぐらいで診察に来ていただきたいです。安定期であれば6週間くらい開けても大丈夫かと思います。
お家では活動的になっているか、飲水量、尿量、食欲の変化がどうなのかお伺いします。病院では皮膚の様子、体型に改善があるか、呼吸様相はどうかなどチェックします。
毎回ではありませんが、血液検査(電解質や腎機能項目)を実施するときに、血中のコルチゾール値を確かめることがあります。薬の量や投与回数が今の状態に合っているかどうかを確認したいのです。長期に渡って薬を飲んでいくと、薬に対する感受性が変化して、クッシング症候群の症状が再発したり、反対に副作用を現したりすることがあるためです。
<副作用>
クッシング症候群のお薬の副作用は、副腎の機能低下であるアジソン病と同じです。
① 元気がない
② 食欲がない
③ 脱力して動けない
④ 身体が震える
⑤ 嘔吐する
⑥ 下痢になる
⑦ 血便が出る
などの症状が出てきます。
副作用が出てしまったら、すぐに病院に駆けつけていただくか、または緊急用のプレドニゾロンを服用させてください。クッシング症候群のお薬は数日お休みにします。症状が軽ければ休薬するだけで1日か2日もすると状態が安定してきます。
そして薬の再開は慎重に行ないます。半分くらいにすることもあるし、もっと少なめの量から再スタートすることもあります。診察により、決定いたします。
<ストレスに弱くなる>
クッシング症候群のお薬で、からだはストレスに対処するのが難しい状況になっています。ペットホテルに預けに行く、トリミングに出かける、激しい運動を行なう、別の病気を併発した、入院が必要になったなどの場合、「うちのこ、ストレスに弱い!」とわかっているときは、1日とか2日前からお薬を控えます。そしてストレスのかかるイベントが終了したら薬を再開してください。
万が一、ストレス状況に陥った場合に備えて、ストレス対応ができるステロイドのお薬を持っていると安心かもしれません。
今日はクッシング症候群と、その治療薬、トリロスタン服用に際しての注意についてお話ししました。まだお薬は潤沢な流通という段階には至っていないようです。いつもと違うお薬になることも予想されます。ご迷惑をおかけいたしますがよろしくお願いします。
- 2016-12-11 :
- 犬猫の糖尿病
糖尿病性ケトアシドーシス
糖尿病の猫が「すごく具合が悪そう!」なとき、糖尿病性ケトアシドーシスになっていることがあります。犬より猫の方がケトアシドーシスを発生することが多いように思います。ケトアシドーシスは(ときにケトージスの状態だけということもあるかもしれませんが)油断はできません。とにかく、これは内科的エマージェンシー事態で、この病態をしっかり管理して身体を復活させないと帰らぬ猫になってしまいます。
だるだるしていて、しんどそうです。
横たわったまま寝ています。
<症状は?>
すでに糖尿病だと診断されていると、日々健康を観察していただいているので、発見が早いかもしれません。しかし、中には糖尿病だということに気づかず、調子が悪くなって来院されたその日に「糖尿病」に「糖尿病性ケトアシドーシス」を併発していると知らされたというケースもあります。糖尿病は「多飲多尿」ではありますが、「多食」にもなっているため、「食事をもりもり食べて、すごく元気」であると勘違いされてしまうことも多々あります。
そんな「大食漢だねぇ~」「まるまる肥えてるね~」「病気知らずのからだだね~」などとまわりから評されていた猫が、ある日突然
① 「食事を食べない」
② 「水も飲まない」
③ 「元気がない」。
それに
④ 「寝てばかりいる」し
⑤ 「嘔吐する」。
なにせ
⑥ 「動かない」
というか、
⑦ 「横たわったまま」
で、
⑧ 「呼んでも何しても反応が少ない」、
⑨ 「かろうじてしっぽをぱたぱた動かすくらい」。
とにかく
⑩ 「死んじゃいそう」。
といった思いもよらない状態になります。
ほんとに急に、です。
簡易血糖チェックはベッドサイドで重宝します。
正確な値よりも少し低めに出ます。
<すぐに糖尿病性ケトアシドーシスだと分かるの?>
治療をしている糖尿病の猫が治療経過中にこのような症状になると、わたしたちはすぐにピーン!と来ます。いつものように血液検査と尿検査を実施すると、特徴的な異常値が出るので分かります。
治療していない猫がこのような状態になって連れてこられたときは、予備的な情報が無いのですぐに予想はつきません。それでも身体の調子を調べるために最低限の基本的な検査を実施させていただきますから、同じように血液検査や尿検査を行うので、結果的には診断に結びつくことになります。
身体検査では「だらっと寝ている」「意識が遠い」ことに加え「脱水」がみられるのが普通です。そのようなわけで、
① 臨床的な状態がすこぶる悪いこと
② 血液検査で高血糖だと分かること
③ 尿検査でケトン体陽性だと分かること
④ 血液の電解質が甚だしく異常値に出ること
などから、診断にたどり着きます。
基本の点滴液は生理食塩液ですが、
電解質の補正のためにいくつかの薬を計算する必要が出てきます。
mmEqという単位です。
高校の物理の問題は間違えても、
これを間違えるわけにはいきません。
命がかかっています。
<血液検査のこと>
採取した血液を高速で回転させると、重たいものが下に沈殿し、軽いものは上に、と2層の構造に分離することができます。下に沈んだ重たいものは血液内の細胞、すなわち血球です。赤血球が大半を占めるので赤黒く見えます。上に来るのは血液の液体成分で、血漿(けっしょう)とか血清(けっせい)とか言います。この液体成分を用いて生化学検査や電解質検査を実施します。
健康な猫では、上澄みは無色透明ですが、糖尿病性ケトアシドーシスでは多くの場合、黄ばんで濁っていて(固まってはいませんが)卵プリンのような色合いに見えるのが特徴的です。黄ばみは黄疸があることを、濁りは脂肪血症があることを意味します。たいていは総ビリルビン値(TBil)と中性脂肪(トリグリセリド:TG)が上昇しています。
点滴に色がつくと、強力な薬に早変わりして
よく効く気がするのは気のせいでしょうか。
<電解質の異常が死を招く>
ケトアシドーシスでは電解質(ナトリウムやカリウム、カルシウムやリン、クロール)のどれもが低下しています。低カリウム血症や低リン血症は生命維持にとって緊急事態です。
カリウムは筋肉の働きに関係していて、不足すると「脱力」や「けいれん」をおこします。心臓も心筋という筋肉で動いています。消化管もぜん動運動を起こしているのは筋肉です。不足すると「心臓は元気に動けません」し、「気持ちが悪く」なり「嘔吐」します。また「便秘」になったりもします。さらに悪化すると、足の筋肉がだらけ「身体が麻痺」したり、呼吸筋麻痺から「呼吸不全」になるとか、腸が動かず「腸閉塞」になるとか、いろいろ怖い状態が出てきます。
また、低リン血症があると、赤血球が壊され「溶血性貧血」や「黄疸」を進めてしまいます。
糖尿病性ケトアシドーシスはまさに死に直面している事態です。
安定したら猫ちゃん専用のインスリンの使用開始です。
とても細い針です。
<治療にはとても神経を使います>
まずは血管内に水分や電解質を補給するための点滴をつなげます。基本の生理食塩液に不足している電解質を加えます。点滴のスピードもはじめは速めに滴下します。インスリンも別のルートから少しずつ静脈内に入るようにします。数時間ごとに変化する体の様子をチェックし、血液検査や尿検査も行います。その都度、加える補正液を計算し直し、点滴のスピードなども細かく調整します。このような集中した治療は、低かった電解質が上昇し、尿中のケトン体が消え、血糖値も目標まで下がってくるときまで続けます。たいていはまるまる2日くらい経過した後です。「今夜はまとまって寝ても大丈夫かな」と思えるようになるのは、たいがい3日目の夜くらいです。その頃になると、猫は自分で水を飲んだり、少し食事をとったりできるようになっていますから、点滴のスピードもゆっくりで大丈夫になるし、補正のための薬も不要になるし、インスリンも普通の皮下注射に変わります。
点滴を卒業できる頃にはしっかり食事ができているわけですが、たいていは溶血のあとの貧血が残るため、これを元に戻すまでもう一踏ん張り頑張ろうね、となります。
<糖尿病の合併症です>
ケトアシドーシスは糖尿病の一時的な状態悪化です。入院治療で危機的な状況を抜け出せても、糖尿病が治ったわけではありません。このあとも継続してインスリン治療が必要です。長い道のりになるわけですが、毎日の観察も定期的な検診のための通院もたいへん重要です。
温度が入って暖かい診察台だとごろんと寝ころび、
のどをごろごろ鳴らします。
後ろ足もピーン。
<低血糖が怖い?>
規則正しく食事をしない、注射を打つ前に食べていないとインスリンを注射するのが怖い、というお話を聞きました。「低血糖の発作は死んでしまうけれど、高血糖状態は死ぬようなことがないから」と、ともすればインスリン注射を怖がり、インスリンの分量を半分にしたり、またときに注射をお休みしてしまうようです。
猫はだらだらと食べて寝て、遊んで、そしてまた食べて、寝てという自由な生活を送る動物で、規則的に食事を食べることはありません。けれど、だらだら食べるということは急激な血糖値の上昇はないわけです。元気で目標にしている分量を食べているのであれば、時間になったときにインスリン注射をしても大丈夫です。12時間ごとの注射もできれば理想ですけれど、プラスマイナス1~2時間のことであれば、さほど神経を使わなくても危険な事態にはなりません。
高血糖が続き、水不足から脱水が起こり、猫に発生しているストレスを知らないでいて糖尿病性ケトアシドーシスを発生させてしまうのは確実に死に通じる事態です。
日常の糖尿病猫の治療で心配なことがあったら、ご自身の判断で注射を中止するのではなく、ご相談ください。
入院室、マイルームでは身体を伸ばして、
もっとくつろいでいます。
太郎さん、元気になりました。ヨカッタヨカッタ。
今日は猫の糖尿病に併発する「糖尿病性ケトアシドーシス」についてお話ししました。
11月は糖尿病について知ってもらう月、とくに14日から20日は糖尿病週間です。
<猫の糖尿病>
糖尿病ではインスリンが足りなくなります。そのため高血糖の状態が続いて、それによって尿から糖が排泄されます。糖と一緒に水も出るので身体は乾き、水を欲します。体内は栄養素の代謝異常からさまざまな症状が出ます。
インスリンは膵臓の中にある膵島(ランゲルハンス島)で作られます。膵臓は腺組織が大半で(95%です)、ここで消化酵素が作られて、十二指腸に消化酵素を出しています。そのほかの部分が内分泌機能の(インスリンなどのホルモンをつくる)部分になります。
<二つのタイプ>
猫は膵炎のために膵臓を痛めることが多く、消化酵素に関わる部分だけでなく、内分泌に関わる場所にもトラブルがおこります。膵炎に併発した糖尿病はわりと発生しやすいです。それから重症化しているのもこちらのタイプです。インスリン注射をしていても効きが悪いとか、調子いいなと思ってるとまた悪くなったりすることもあります。
肥満の猫で、食べるのにやせてきて、水をたくさん飲み、尿も多い、というのは膵炎に関係なく発生した糖尿病かもしれません。血液検査や尿検査でもグルコースが高いこと以外は極めて普通。ほかに病気を持たないシンプルタイプがこちらです。
<飲み薬で治せますか>
人の糖尿病の罹患率は今、11人に1人の割合で、糖尿病の患者さんは増加傾向にあるのだそうです。人では摂取エネルギー過多から来る糖尿病は「2型糖尿病」に分類され、このタイプはぜんぶの糖尿病患者さんの90%に相当するのだそうです。で、「猫が糖尿病」と聞くと「自分(または家族)と同じだよ~」という反応をしてくださる患者さんがいらっしゃいます。猫の糖尿病も膵炎の関与がないものは2型に相当しますから、病名だけでなく、分類型も同じになりますね。人の2型はインスリン非依存型のため、食事管理や運動療法で治療され、はじめからインスリン注射を行うのではないと伺いました。
さて、人での周知度の高い病気の場合、確定診断がつくと、ご理解が早いです。でも治療法も同じだと思われて「食事療法でいいですか」「飲み薬でお願いします」「インスリン注射はしたくないです」というご希望が出されます。猫の糖尿病は、膵炎に併発したやっかいなタイプでなくても、食事や運動(猫で運動療法は難しいのはご理解いただけるようです)、そして内服薬ではコントロールできません。インスリン注射が絶対必要です。
これは糖尿病だと判明したときに残っている膵島細胞の数や機能に人と猫とでは違いがあるからで猫は残りの細胞がわずかすぎて仕事をしていません。
猫では今インスリン注射をしていると、時間経過とともに残る細胞が再び機能しはじめて注射不要になる日が来るかもしれません。がんばってください。
<糖尿病のときの検査>
糖尿病の診断に必要な検査は血中のグルコース(GLU)と尿検査(GLUの検出)だけですが、猫はストレスに反応して血糖値がびゅん!っと上昇し、ある一定の濃度を超えるとたくさんのブドウ糖を腎臓が処理しきれなくて再吸収されないまま尿に排泄(尿糖が出る)されるので、複数回この2つが持続していることを確認して診断します。いつも緊張しストレスを抱えているときに検査をすると高血糖で尿糖陽性になります。確実にするためには「糖タンパク」を調べます。
それから、身体の状態を知るためにそのほかの検査も必須です。血球検査や肝臓や腎臓、膵臓、血中の脂肪や電解質などを確認する検査です。膵炎があるときや肝臓に問題があるときは肝酵素(ALT、AST)が上昇します。高脂血症(TG上昇)がみられることもあります。食事がうまくできず脱水などを起こしているときには高窒素血症(BUNやCRE高値)があります。電解質(Na、K、Cl)に異常値がみられるのはケトアシドーシスを予感させます。
これらの検査は定期のフォローアップ検診で来院していただいた折にも実施します。病気が安定しているかどうかによって、検診の頻度や細かな検査を実施する頻度も変わります。
<糖たんぱくというのは?>
検査に用いられる糖タンパクには「糖化ヘモグロビン」(HbA1c)と「糖化アルブミン」(GA)があります。以前は「フルクトサミン」というのもありました。
糖に結合するタンパク質に寿命があり、ヘモグロビンは半減期がおよそ120日、アルブミンはおよそ20日です。この違いから、糖化ヘモグロビンは最近1ヶ月くらいの、糖化アルブミンは最近2~3週間の高血糖状態を知ることができます。高血糖になっている時間帯が長いと高くなります。
現在の糖尿病マーカーの主流になっている2つの検査項目のうち、猫で主に利用されるのは糖化アルブミン(グリコアルブミン:GA)です。全部のアルブミンのうち、糖と結合したアルブミンが占める割合を示しています。糖化アルブミンの猫の基準値は6.7~16.1%ですが、糖尿病では30%まで行かないことを目指しています。院外の検査ですので、当日結果をお知らせすることはできません。
糖とタンパクが結合したものが糖化たんぱくです。お料理の得意な方だと、お肉のタンパクに砂糖やみりんなどを表面で結合させ、おいしそうな焼き色をつける「メイラード反応」をご存じかと思います。それから病気で入院しているときに、上下の部屋に分かれた大きな点滴バッグを開通させて点滴を受けたことがある方がいらっしゃるかもしれません。糖とアミノ酸が別々の袋に入っています。はじめから合わさっていると褐色になってしまい、効果が得られません。それで別々の袋に入れ、点滴を開始するときに合わせます。こうした色のついたのが糖化たんぱくです。余談でした。
<合併症は白内障?>
猫は犬ほど白内障を発生させることは無いようです。むしろ神経症のために後ろの足を引きずりながら歩くようなことがおこります。
人のように糖尿病性腎症をおこすことはないようですが、糖尿病を発生している猫は比較的高齢であることが多く、いわゆる高齢猫の慢性腎臓病を発症することはあります。長期の観察の中で、ある程度の高血糖があると「多飲多尿」の状態に慣れすぎていて、腎臓が悪くなっていることに気づかれにくいことがあります。定期検診で腎臓の検査を含めたいのはこのような理由からでもあります。
前回はうまくコントロールができない猫の糖尿病のことをお話ししましたけれど、
http://heartah.blog34.fc2.com/blog-entry-823.html
7月にお話ししたように、
http://heartah.blog34.fc2.com/blog-entry-923.html
猫のための専用のインスリンが開発されて、たいへん具合が良いです。
こちらのインスリンは結晶になっています。白く混濁しています。インスリン同士をつなぎ合わせている鎖が時間で少しずつほぐれ、バラバラになったときに仕事をする仕組みです。だから作用時間が長持ちなのです。薬を乱暴に扱うと、注射をする前に瓶の中でつなぎ合わせている鎖が切れてしまうことになります。注射前に勢いよくシャカシャカ振ったりしないように、やさしく転倒混和してください。また、小さいお薬なのでつい冷蔵庫のドアポケットに入れてしまいがちですが、ここに入れると冷蔵庫の開け閉めのたびに薬が揺すられてしまいます。保存するときは冷蔵室の方に平らのままで、頻繁に出し入れする物の前には置かないようにお願いします。
http://heartah.blog34.fc2.com/blog-category-104.html
でもお伝えしましたけれど、高齢猫の病気というと、腎臓病は認知度が高いのですが、糖尿病や甲状腺機能亢進症もコントロールが可能な病気ですし、関節症も気づいてケアしてあげると生活の質が向上します。また腫瘍も小さいうちの発見を目指し早期に対処したい病気です。
糖尿病では内科的なエマージェンシー事態が起こることがあります。糖尿病性ケトアシドーシスといいます。これについては後日お話しします。
今日のお話はここでおしまいです。
- 2015-06-21 :
- 犬の副腎皮質機能低下症
副腎皮質機能低下症・3
安定期に入ってからの治療と継続についてお話します。
<維持期の治療>
晴れて点滴から脱却できるのは、自分で起き上がって水を飲んだり、食事をとったりできるようになってからです。
こうなったらあとはお薬を飲んでいただきます。
この薬は長期の管理に必要な薬です。投薬している間に病気が治って薬が不要になることはありません。
①ミネラルコルチコイドの補給をします。
酢酸フルドロコルチゾン、商品名フロリネフを使います。
このお薬にはグルココルチコイド作用もあります。
1日2回の内服投与です。
大変高価なお薬です。が、代用できる他の薬はありません。
②グルココルチコイドの補給をします。
ヒドロコーチゾンです。プレドニゾロンを使うこともあります。
フロリネフのグルココルチコイド作用では不足するときに併用します。
安価なお薬です。
こちらだけで維持したくなるかもしれませんが、ミネラルコルチコイド作用がないのでだめなのです。
フロリネフだけで大丈夫な場合でも、ストレスが予想される状況になることが分かっている場合、ショック状態にならないよう予防策としてこの薬を常備しておくと安心です。
海外ではミネラルコルチコイドの注射薬があります。ピバル酸デソキシコルチコステロン(DOCP)です。約25日効果が続くとされています。25日に1回病院に来てもらって注射をするという、とても楽で良さそうだなぁ~という治療法ですが、おすすめはしません。微妙に必要量が変わってくるかもしれないミネラルコルチコイドの補充量をこまめに変化させることができるのは毎日の投薬しかないからです。
<治療がうまくいっているかどうか>
モニタリングが必要です。
飼い主さんに日常チェックしていただきたい項目があります。一つは薬の量が少なすぎるかもしれない時にあらわれる症状で、投与前の症状の再来になります。
①食欲がなくなる。
②飲水量が減ってくる。
③無気力で元気がない。運動ができない。震える。
④嘔吐や下痢。
もうひとつは薬の量が多すぎるかもしれない時にあらわれる症状で、クッシング症候群に似た症状を現わします。
①水をたくさん飲む、尿量が増える。
②たくさん食べる。
③はぁはぁ、パンティング呼吸をする。
病院でおこなうモニタリングは、体重のチェックや臨床症状の変化、そして血液検査です。とくにナトリウムやカリウムについてはしっかりみていきますが、検査の値そのものに従って薬の量を調整するというよりは身体のコンディションをしっかりみることに重きをおきたいと思います。
また薬については、高い薬でもあるので、必要最小限を保つようにしていきたいと思います。
<寿命は短くなるのでしょうか>
適切なホルモン補充療法を行い、クリーゼを繰り返さないようにすれば予後は決して悪くなく、寿命をまっとうすることのできる病気です。
生涯にわたって、お薬とお付き合いする必要があります。
<おわりに>
今まで飲ませなくても大丈夫だったんだし、高い薬というのは怖い作用があるのかもしれないから、先生は1日2回と指示してくれたけど、2日に1回くらい飲ませるだけでも行けるんじゃないか。あんまりたくさん飲ませるといけないんじゃないか。そう思ってしまわれる方がおられます。この薬は元気な犬では身体から作られ、自然に全身を流れているホルモンです。正しく使用していれば危険なものではありません。指示どおりに飲んでいただかないと、アジソンクリーゼをおこす危険があります。アジソンクリーゼに陥らないように維持していくことが大切です。
それから、投薬することに積極的な飼い主さんでも、なんとか少しでも安価な薬を手に入れたい、ということで個人輸入をお考えの方もいらっしゃるかと思いますが、劇マークのつくほどのお薬です。絶対におすすめしません。薬の値段の差に負けて、いつでも相談ができ愛犬の身体を理解してくれる主治医を喪失してしまうのはあまりにも浅はかなことだと思います。副腎機能不全は死に至る危険のある病態ですし、過剰投与による副作用についてもしっかり把握していただいたうえで、賢明な判断をされることを切に望みます。
- 2015-06-14 :
- 犬の副腎皮質機能低下症
副腎皮質機能低下症・2
犬の副腎皮質機能低下症のおはなしの2回目です。
どのように診断が導かれていくのか、検査について、それから急性期の治療についてお話します。
<診断に向けて>
副腎皮質機能低下症は「とんだ食わせ物!」というあだ名の付いている病気です。決め手の無い症状で悪い、良いを繰り返し、診断がつかないまでも対症療法を行うとなんとなく治ってしまうという「身をくらます」術にたけている病気だからです。ぐずぐずしていたのに、なんとなく治ってしまった。だけどまた、あの時と同じような症状が今日も。腸炎?膵炎?心臓循環器系の不具合?疲れやすい肝臓性?心理的なさびしがり屋さん?いろいろと悩ませてくれます。
血液検査や腹部のレントゲン検査、尿検査などを行います。
血球の検査では貧血がみられ、白血球のバランスも通常と異なってきます。
血液生化学検査では低血糖や高窒素血症、低コレステロールや低アルブミン血症などが出てきます。
電解質はとても特徴的なパターン、低ナトリウム、高カリウムを示します。
血液の電解質異常が飛びぬけて異常値が出た場合は副腎皮質機能低下症を疑い、次の検査に進みます。
電解質異常が認められない非定型アジソンの場合は、それまでの病歴や臨床症状から疑いをもつことになります。
<ACTH刺激試験>
クッシング症候群のときにも行う検査です。この検査が確定診断につながります。
正常な状態ならばACTHの注射をするとコルチゾールの分泌が増えます。
副腎皮質機能低下症の場合は、ACTHの注射をする前も後も、コルチゾールの値が検出できるかどうかくらい低い値です。なにせコルチゾールを分泌する場所が壊れているのですからACTHに刺激されようがされまいが、このホルモンが作られようがありません。
同時にアルドステロンも検査にかけますが、こちらも注射前、後ともに低い値で出てきます。
残念なことに、外部の検査機関に委託して行う検査のため、すぐに結果が出るわけではありません。治療の進行に伴い、もしや、と思って行った治療がうまく反応しているから、きっとそうだろうなぁ、と思っている頃に結果が返ってきて、「あぁ、やっぱりそうだった。」となるわけです。
副腎皮質機能低下症を疑う犬がショック状態で来院した時はびっくりして、えっさか、わんさか検査や治療を進めていきます。とても落ち着いた雰囲気ではないことが多いです。それはこの「アジソンクリーゼ」(hypoadrenal crisis)と私たちが呼んでいるショック状態が死に直面しているからです
<急性期の治療>
そんなショック状態で来院されたときは集中的な治療が必要です。
治療は
①輸液で脱水を改善すること。
②循環血液量を増やしてショック状態から脱却させること。
③電解質や酸塩基平衡を正しいバランスにもどすこと。
④欠乏状態にあるホルモンを補充すること。
を目的に行います。
①②③の目的を達成させるのは点滴です。
高くなっているK+を含まず、Na+を含む輸液剤を選びます。
常に低Na+の状態が続いている身体に、高い濃度のNa+を含んだ輸液剤を急激に入れると脳に障害をおこしてしまう危険があるのでいくつかの輸液剤を混合して調整することが多いです。
低血糖がひどい時にはブドウ糖を入れます。
アシドーシスの状態が進んでいる時には身体をアルカリ性に傾ける作用のある薬を入れます。
④のためにグルココルチコイドを注入します。
合成副腎皮質ホルモンの中で、静脈内に注入できるものがあります。これを使います。
ACTH刺激試験の途中にある場合はデキサメサゾンを、検査後はヒドロコルチゾンを使います。
検査の値に影響されないようにするためです。
そしてあとは尿量などをモニターしながら反応を待ちます。
こんな状況なので、「お命、お預かりします」ということで入院治療になります。ほんとうに、ここの状態をクリアーしないと次がありません。ひたすら、「がんばって!治療に反応してよ!」と祈りながら治療をすすめています。
ここまでひどいショック様でない場合でも循環血液量が少なく脱水気味で高窒素血症を示しているようなときはアジソンクリーゼを予防する目的で同様の治療を行います。自力で水を飲み食事を食べられるのかどうかにより内服治療で済むのか、点滴治療を進めなければいけないのかが決まります。
今日のお話はここまでです。
次回は急性期を乗り越え、安定してからどのような治療を行うのかについてお話します。