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肛門のう腺癌

 先週の続き。今日は悪い方の腫瘍のお話しです。
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<肛門のうアポクリン腺癌?>

肛門嚢腺癌(こうもんのうせんがん)といわれることもあります。犬の肛門周囲には肛門嚢(こうもんのう)の内に分泌物を出す役割をしている複数の腺組織があります。その中の一つがアポクリン腺です。アポクリン腺は汗腺(あせをつくる腺)として聞いたことがあるかもしれません。このエリアで一番頻繁に観察されるのが肛門嚢アポクリン腺癌で、腫瘍全体から見るとごくごくまれな腫瘍(わずか2%!)です。発生傾向ですが、以前は9歳から11歳くらいの中高年に多く、オスよりもメスに多いとされていました。たしかに女の子ばっかりだと思っていましたが、今の調査では性別による発生差はありません。発生の多い年齢層は今も変わっていません。報告の多い犬種はジャーマンシェパード、コッカスパニエル、ゴールデンレトリバーですが、これも日本の今の人気犬種とは異なっていますので、うちの子がこの犬種ではないからと言って安心できるわけでもありません。ボーダーコリーやダックスで経験があります。

とにかく悪性です。

どうして悪性なのかというと、①がんと正常組織の境目がはっきりしていないから、というのと、②簡単に近くのリンパ節に転移してしまうから(初めての診察のときに既に転移が見つかることも珍しくないのです)、というのと、③遠くの組織(肝臓や肺、骨!さらに心臓、腎臓、副腎、膵臓!)にも転移してしまうから、そして、④高カルシウム血症で全身に害を及ぼすことがかなりの高率でみられるからです。これは獣医さん泣かせの悪者腫瘍です。

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<飼い主さんにわかる症状は?>

肛門の周りが大きいことです。犬は不快な感じを示します。「お尻が腫れている」とか「お尻から出血する」、「擦って組織を壊してしまう(舐め壊すことも入ります)」のが来院理由上位3つです。お腹の中のリンパ節が腫れて、うんちの通り道が細くなり、「うんちが出にくい」ことが起こるかもしれません。先ほどお話しした高カルシウム血症になっていると、「お水をたくさん飲む」「オシッコがたくさん出る」「食欲がない」「寝ていることが多い」などの症状を出しますが、これらは年取ったな、などと思われてしまいそうな症状です。

 

<診断のための検査>

まずは外から見て、大きさを確認させて貰います。お尻から指を入れて、膨らんでいるところを直腸から触ってみる(直腸検査)も行なってみます。それからこれだけではわからないので、レントゲンの検査や超音波検査の画像から身体の中の様子も見ます。血液検査もスクリーニング検査として実施し、カルシウムの値に注目です。すべての腫瘍について言えることですが、細胞の塊から細胞を取り出して、腫瘍細胞を顕微鏡的に調べる検査は必須です。病理の先生にも意見を伺うことになります。

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<総合的な治療が必要です>

お尻周りにできた腫瘍組織(原発巣といいます)をいかに制御するか、つまり、しっかり取り切れそうか、または小さくするだけ(減容積といいます)になってしまうのかというのがひとつ。そしてもし転移している組織があるならば(実はまず100%は有るだろうという想定の中で考えるわけですが)これをどう制御していくのかというのがもう一つの問題です。

転移している組織も、うんちの通り道を閉鎖するほどに大きくなっているのであれば、なんとか無くすか小さくするかしてあげないと、「排便困難」の問題は解決されず、犬にとってのクオリティー高い生活が望めません。手術で取れそうか、術前に化学療法(抗がん剤です)で小さくしてからなら取れそうか、が最初の検討課題です。また取りこぼしが考えられる場合、はじめから放射線療法を加えた治療を行なう方が良いのかなども治療プランに加わります。さらに、術後に化学療法を行なう場合も、どの抗がん剤をどのように使っていくかについても、リンパ腫のように決まったプロトコールがないので、実にさまざまな治療が考えられます。

従来の化学療法剤のほかに、肥満細胞腫の治療に承認された抗血管新生薬による治療にも反応していることが知られています。こうした経口薬も治療のオプションに加えることが可能です。

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<支持療法も必要です>

腫瘍を積極的になんとかする根本療法に対して、不都合な症状を緩和させるための治療も考えなくてはいけません。高カルシウム血症に対する治療、食欲がなければ点滴も行います。排便困難に対する治療はQOLの高い生活をもたらすものです。便を軟らかくする薬や、繊維分を含む療法食なども含まれます。術後の疼痛緩和のための鎮痛薬なども支持療法に入ります。お尻周りの皮膚に軟膏などを塗ることもあります。これらは退院後、ご家族の人にお願いする処置になるでしょう。

 

<治療の先にあること>

一般に言われている生存期間中央値というのは、治療をしてからどれだけ生きていてくれたのかを全体でならしてみた数値です。どのような治療をするとどのくらい生きられそうなのか、これまでの報告から数値を抜き出してお知らせすることは可能です。けれど、発見されたステージ(どの大きさの腫瘍で、どこにどの程度の転移した塊があって、とか、そういう諸々のことです)もそれぞれ違うため、一概にどの治療を行なったときの余命があとどれくらいという数字を個別に当てはめることはできません。あと何ヶ月(ごめんなさい、何年とは書けません)という具体的な数字をお示しすることはできませんが、単位としては「年」ではなく「月」が妥当だな、と思っています。手術をして、放射線もあてて、化学療法を組み合わせた、最も積極的な治療を受けた犬で2年以上という数字が見つかりました。再発を遅らせる方法や、遠くの組織に転移するのを予防する方法は調べても見当たりませんでした。

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<まとめです>

肛門の近くにできる腫瘍には悪性の腫瘍があります。代表的なのは肛門嚢アポクリン腺癌です。(良性の腫瘍もあります。この腫瘍とは違うものです。未去勢のオス犬によく見られます。)

お尻に「何かある!」と発見することが多いかもしれません。が、「便秘みたい!」で、うんちの出にくさが目立つ症状のときは、お腹の中のリンパ節が腫れて直腸を圧迫していることが多いです。

たまたま血液検査をして、「高カルシウム血症」がみつかるとき、「まさかリンパ腫かアポクリン腺癌か?」と疑って腫瘍を見つけ出すこともあります。

腫瘍がわかったらレントゲン検査や超音波検査、細胞の検査を実施し、治療計画を立てます。

腫瘍は、基本は手術で切り取るものですが、この腫瘍は手強いのでいろいろな方法を組み合わせて挑まなくてはいけません。

早期に発見して小さいうちに対処することが重要だと思います。尻尾の陰に隠れてしまう肛門部を観察するのは十分意味のあることです。

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肛門周囲腺腫

先日の診察のことです。わんちゃんです。美容院で「お尻が膨らんでいるので病院で診て貰ってください」とコメントがあったということで来院されました。

結論から先にお話ししますと、それはめったに診られないくらい肛門腺がいーっぱい溜まって大きくなっていただけのことでした。けれどトリマーさんが気づいてくれることこと、それから無理はしないでベターな対処法についてお話ししてくれ私たちにバトンタッチしてくれたこと、これは大変価値のあることです。彼女(彼?)は肛門腺が溜まって大きくなっていること以外にも、肛門周りには重大な病気が隠れていることがあるのを知っているからこそできた対応なのでしょう。

今日はそんな怖い病気のことも知っておいて貰うことも大事だと思いまして、お話しを続けます。肛門の周りには「肛門周囲腺腫」という良性の腫瘍ができることもありますが、「肛門のうアポクリン腺癌」という悪い腫瘍が発生することもあります。そしてこれはできるだけ早期に見つけて小さなうちに対処することがこ大切です。
9月はがん征圧月間です。今週「肛門周囲腺腫」と来週「肛門嚢アポクリン腺癌」のお話をすることにします。
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  肛門周囲腺腫

<概要>

肛門周囲腺は、犬科の動物(コヨーテ、イヌ、キツネ、ジャッカル、オオカミなど)に特有の皮脂腺です。猫には肛門周囲の皮脂腺がないので、この種の腫瘍は猫では非常にまれ(発生しない)と考えられています。肛門周囲腺の機能は完全には理解されていませんが、フェロモンの産生や領土のマーキングなどにおいて役割を果たすと考えられています。

通常は肛門周囲に位置します。「通常は」というのは、あまり知られていないのですがこの腺がオス犬の包皮やメス犬の腹部乳房のあたりにも存在するし、そのほかに会陰、尻尾(背中側と裏側)、ふとももや後肢、腰の周辺などにも存在するからです。わき腹の皮膚にできた腫瘍を採取して病理の先生に診て貰うと、こんなところにできた腫瘤が「肛門周囲腺だった!」と驚くこともあります。

肛門周囲腺を構成する個々の上皮細胞は、顕微鏡で見たときに肝細胞(肝臓の細胞)と外観が似ているために、肝腺という別名で呼ばれることもあるようです。

肛門周囲腺腫は良性腫瘍です。肛門まわりにできる腫瘍のうち80%から90%くらいがこの腫瘍で、残りが肛門のうアポクリン腺がん、そのほかの腫瘍です。

年配の未去勢のオス犬に比較的よく発生が見られます。同時に睾丸の腫瘍も併発していることが多いという報告もあります。
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<原因は?>  

  肛門周囲腺腫の原因は不明です。アンドロゲン(男性ホルモン)の産生が腫瘍形成を刺激する可能性があります。エストロゲン(女性ホルモン)は、肛門周囲腺腫形成に抑制効果があります。

                                                            

<腫瘍の発達>

初期段階のものは、肛門周囲の皮下にくるんとした小さな飴玉が入っているかのような感触で触れることができます。「小さな結節」と表現しています。肛門周りの皮膚が厚くなっているように感じることも有るかもしれません。肛門周囲腺腫は成長がゆっくりで、痛みもありません。中には1年くらい前からあったと言われる患者さんもおられるくらいです。初期に犬には腫瘍に関連した症状はありません。肛門腺絞りをするときに美容室のトリマーさんが気づいてくれるのはラッキーです。

それから、大きさや直径が異なる粒が肛門周りで複数触れるようになります。いくつかの腫瘍が炎症を起こして感染するようになると血が出てきます。痒みがあり、犬にとって刺激性で、軽い痛みを引き起こすことがあります。「犬がお尻を気にして、しょっちゅう舐めている」というお話しが聴かれるのはこのくらいからです。肛門腺が溜まっているときに犬が「お尻でスケート」するような行動をとることがありますが、そのような動きをすることもあるでしょう。

小さなつぶつぶ同士がくっついて腫瘍が大きく発展してきたり、犬が気にして激しく舐めたり、どこかにこすりつけたりしてくると表面を覆っていた肛門の皮膚が崩れ、そこから出血したり、じくじくした汁が出るようになります。ここまで来ると無関心な飼い主さんでも犬の肛門に異常が起こっていることを認識するようになります。

さらに大きくなった場合、排便を妨げることになります。いきんで排便しにくい様子が見られます。直腸の粘膜が肛門からはみ出て赤いものが見えてくることもあります。排泄後に肛門周りの血が糞便に付着してあたかも「血まみれの便」が出たように見えることもあります。出血が多いとき、犬が盛んに舐めて、これを嘔吐することがあります。「血の嘔吐」にびっくりされる飼い主さんもおられるかもしれません。

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<悪性腫瘍との区別>

初期は外見上の特徴が異なるので、「これは肛門周囲腺腫。良性のものでしょう」と判断できますが、中には表面だけで無く、深度の深い腫瘍を持っている場合や結合して大きく肛門周囲全体に及ぶものなどありますので、腫瘍の塊を病理検査で調べることは、重要で、それはそのまま次の安心につながります。けれど二次感染や出血があり、また組織がぐちゅぐちゅした壊死組織の様相を示すほどになってしまうと、採取したサンプルの細胞が十分に取れなかったりするため、肛門嚢アポクリン腺癌と肛門周囲腺腫を細胞学的に区別することが難しくなってきます。

良性腫瘍であると言うことは、大きくなるスピードがゆっくりだとか、腫瘍と正常組織との境界がはっきりしているとか、局所だけで転移を起こさないなどの特徴を持つものですが、腫瘍が大きく育ってからではそれらがあやふやでわかりにくいことが多いです。

肛門のうアポクリン腺癌では、血液中のカルシウム値が高くなっていることが多く、また腰椎付近のリンパ節に転移が見られることがほとんどなので、血液検査やレントゲン検査、超音波検査でもこれら二つの腫瘍を区別する手立てにはなります。

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<治療の基本は手術>

未去勢オスであれば、腫瘍の外科的切除と同時に去勢手術を行なうのが最良の治療法の選択肢です。大きな腫瘍があるオス犬では、腫瘍を切除する前に去勢手術だけしておいて、腫瘍の大きさが小さくなるのを待ってから腫瘤切除をするという二段階を踏むことで、完全切除ができやすくなることもあります。

メス犬の場合、外科的切除が最適な治療法です。

大きな腫瘍よりも小さな腫瘍を除去する方が常に簡単です。特に腫瘍が外科的は閉鎖を問題とする領域(肛門周りはその代表的な場所です)に位置する場合は、完全切除が困難になるサイズまで成長させないうちに手術することがおすすめです。肛門周りをぐるっと360度取り囲むほどに腫瘍が大きくなってしまった場合(このときはすでに腫瘍の塊で肛門の穴がどこにあるのかさえ見分けがつかないくらいですが)、これでは手術で肛門括約筋の役目を失ってしまうことが有ります。術後の便失禁を回避することが困難かもしれません。すでに術前から排便障害が起こっているとは思いますが、便失禁は一緒に暮らす家族のQOLも損ねてしまいますから、早期に気づいて早期に手術に踏み切ることはとても大切です。

ホルモンと関連があるため、ホルモン療法を施すことによって、内科的な改善を期待されるかもしれません。しかしエストロゲンによる治療は再生不良性貧血を呼び込む可能性があるため、おすすめではありません。

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<手術の後は?>

完全な切除ができると予後は良好です。完全切除後の腫瘍の再発は非常にまれです。大きすぎて完全に切除ができなかった場合は再発する可能性があります。切除が完全にできたかどうかは病理の先生による顕微鏡検査を基準にします。 

一部の犬は、切除されなかった残りの非腫瘍性の肛門周囲腺から新たな肛門周囲腺腫を発症することがあります。小さな腫瘍で、一部分を切除した場合にはこのようなことが有るかもしれません。局所再発という錯覚を与えてしまうかもしれませんが、これは再発ではなく、新生のものと考えます。

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<予防ができます!>

  1. 去勢手術を行うと、予防できる病気がたくさん有ります。それが精巣腫瘍であり、肛門周囲腺腫であり、前立腺過形成(肥大)であり、会陰ヘルニアです。どれもが高齢になってから発症する病気のため、手術はハイリスクになります。去勢手術は性成熟完了前~直後である6か月からおそくても8か月頃までに行なうことをおすすめしています。若いうちの手術はリカバリーも速いです。(大型犬ではもう少し遅くても良いです)
  2. 去勢されたオス犬は一般にしつけしやすいです。未去勢のオス犬は、家のいたるところに強い臭いの尿をスプレーすることで自分のテリトリー印を付けます。さらに攻撃性の問題の多くは、早期の去勢手術によって回避することができます。
  3. 去勢手術が犬を肥満にさせることはありません。運動不足や過食があると、犬の体重は増えてしまいます。しっかり運動をし、食物摂取量を飼い主さんが監視していけば、健康的な適正体重を維持することが可能です。
  4. 去勢手術は費用対効果が非常に高いです。 去勢手術の費用は、腫瘍が発生してからそれを治療する費用よりはるかに少ないのです。コストパフォーマンスはワクチン並みの高さです。


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犬と猫の乳腺腫瘍

 乳がん月間の今月も、ほかの月と同じように初診で乳腺腫瘍を診察します。「こんなに大きくなるまでわかってやれなかった!」と半べそで連れてこられる患者さん、ここで初めて乳腺腫瘍を確認することになって驚かれる患者さん。まだまだ予防も早期診断もままなりません。治療を中心に行う高次病院とは違って、私たちは病気予防を中心にして犬や猫を護っていくのが本分と思う今日この頃、乳腺腫瘍も「予防できる病気」のひとつであることを伝えきれていないようでがっかりしています。

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1か月遅れになりますが、院内の掲示板は
乳腺腫瘍をテーマにしました。

<もう一度、乳腺腫瘍のこと:犬>

犬の乳腺腫瘍はメス犬に発生する腫瘍の中で一番多い腫瘍です。報告されている腫瘍の50%を乳腺腫瘍が占めています。そしてそのうちの半分(50%)が悪性の腫瘍で、そのまた半分(50%)が転移します。これが「505050ルール」と言われるやつです。乳腺腫瘍が発生する年齢は平均で8歳くらい。ただ、診療にいらっしゃる年齢はもっとずっと後で、13歳から14歳で発見されることもよくあることです。(気づいたときには大きくて、そう、何年越しなんだろうか、というのもみられます。)「これが乳腺腫瘍ってやつだったのか」、としこりには気づいていたけれどそのままにしていたケースもあるくらいです。

日本で人気犬種であるトイプードル、ダックスフンド、マルチーズ、ヨーキーなどのほか、イングリッシュスプリンガースパニエルやコッカスパニエルは好発品種です。品種によって発生率に偏りがあるというのは、腫瘍を発現させる遺伝子や抑制させる遺伝子の関係があるのだろうと思われます。

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避妊手術が遅れ予防ができなかった子たち、
早期発見に努めましょう。
乳腺腫瘍モデルの枕を作りました。
しっかり触って感触を確かめてください。

<私たちはどうして避妊手術をせかしてしまうのか>

まだあどけない赤ちゃん犬のときに、ワクチンのお話の延長線で避妊手術のお話をしています。性ホルモン刺激は乳腺腫瘍発生の危険性を増加させるので手術時期と乳腺腫瘍発生とは深いかかわりがあるからです。

2歳よりも前の段階で卵巣子宮摘出手術(いわゆる避妊手術です)を行うと、乳腺腫瘍発生の危険性を大きく減少させます。未避妊のメス犬に発生を100としたとき、最初の発情以前に手術を行ったときはわずか0.51回目の発情後(かつ2回目の発情前)に行った場合は8という発生です。残念ながら2回目の発情以降で手術を行った場合については乳腺腫瘍発生を抑制させると思われる数字ではありませんでした。

生存期間(長生きできるのかどうか)の調査も行われていて、①2歳以前の手術、②2歳過ぎの手術、③手術をしない、の3つのグループで比較すると2歳前に手術が行われた①のグループは有意に生存期間が長くなっています。そういう意味からも避妊手術のタイミングはとても大事です。

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猫ちゃんの乳腺腫瘍は
残念ながら悪性のことが多いです。

<猫のデータは?>

猫の乳腺腫瘍は、造血系の腫瘍(白血病やリンパ腫)、皮膚の腫瘍に次いで3番目に多い腫瘍です。犬の乳腺腫瘍に比べ悪性のことが多いです。犬では良性腫瘍と悪性腫瘍との割合は11ですが、猫の場合は80%が悪性です。(日本だけのデータでは75%という報告があります。)

 

<猫も避妊手術をしておいた方がいい>

猫でも犬と同じように避妊手術が乳腺腫瘍の抑制になるというデータが出ています。未避妊のメス猫は避妊手術を済ませたメス猫に比べ、7倍も発生の危険度が高いというものです。なりやすさを数値で表すと、未避妊のメス猫の発生を100としたとき、6か月齢よりも前に卵巣子宮摘出術を受けたメス猫では9で、6か月から1年の間に手術を受けたメス猫では14という具合です。2歳以上で避妊手術をした場合では未避妊の場合と比べ、乳腺腫瘍のなりやすさに違いは見られませんでした。

経口避妊薬として使われることがあるお薬(合成プロジェステロン)には乳腺腫瘍発生と強いかかわりを持つものがあります。つまり、このお薬を使用すると乳腺腫瘍になりやすいのです。猫の乳腺腫瘍にも犬と同様、性ホルモンの受容体があるしるしです。ですから経口薬で発情をコントロールするよりも外科的な方法できっちり避妊を行う方が乳腺腫瘍発生に対しては危険度が低下します。

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治療の主体は外科手術です。
手術方法はいろいろ。

<乳腺腫瘍の治療は原則手術>

乳腺腫瘍の治療の中心は外科手術です。大きさやできている部位、数などにより、手術の方法は異なります。

一つならそこだけ切除する(部分切除)だけで済むかもしれませんし、二つの乳頭にまたがって二つ以上あるとか、二つの乳頭の真ん中あたりにできている場合は乳腺を2つか3つつなげて切除(領域乳腺切除)する必要が出てきます。犬の乳頭は左右5対あり、乳腺は頭寄りの3つと、尻尾寄りの2つがつながっているため、このひとくくりをまとめて切除するのです。複数の腫瘍ができているとき、片側の乳腺組織を頭の方から尻尾の方まで全部切除(片側乳腺全切除)することになります。これは根治的切除ともいわれ、まだ発生していない乳腺での再発の危険性を減少させることができます。さらに、右側にも左側にもできているときは段階的な両側乳腺切除が行われます。先に右または左の切除をしたら、創が治ったと思われる1か月くらい後に残るほうの乳腺を切除するという2段階(またはそれ以上)にわたる大掛かりな手術です。どんな腫瘍でも同様ですが、明らかな腫瘍がある部分よりも外側を切り取り線にします。肉眼的に正常だと判断できる部分まで含めて左右の乳腺を大きく切り取ると、残った皮膚を縫合したときに腹壁の皮膚が強く緊張して腹腔への圧力が増加します。犬は不快に感じるし、創口が開いてしまうリスクが高まるので、一度に手術をすることを避け段階的な手術を行います。手術範囲の大小(全層にわたって切り取るか一つだけ取るか)によって、その後の生存期間が変わることはありませんが、腫瘍から切り取り線までが不十分だと切り取り線上に残っていたかもしれない腫瘍細胞から再発が見られます。猫の場合は犬よりもより大きい範囲の手術を行うことになります。それは悪性であることの方が多いからです。

なかなか手術の決心がつかないからと手術を延ばしてしまうのはいけません。そのままにしていると腫瘍は徐々に増大し、腫瘍の大きさはその後の経過に大きく影響するからです。腫瘍径が1cm未満なら予後は良好ですが、大きくなるにつれ生存期間は短くなります。発見したらできるだけ早く心を決め手術への段取りを組むことにしてください。

未避妊の場合、同時に卵巣子宮摘出術を行うかどうかの判断もしなくてはいけません。これにより乳腺腫瘍の再発を防止するとか生存期間を延長させるといった明らかな証明はありません。しかしすでに子宮の病気を持っているときは実施するべきと考えます。また性ホルモンの影響によりこれから子宮の病気に発展するのを防止することがあることも考慮に入れ、しっかり検討してください。

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予防は早期の避妊手術です。

<手術以外の治療法はない?>

気が付いたときは犬が高齢のこともあり、なんとか手術以外の方法で対処したいと思われるようです。しかし残念ながら、犬の乳腺腫瘍に対して、抗がん剤による治療、ホルモン療法、放射線療法のどれもが、手術による治療以上には効果はありません。

猫の乳腺腫瘍は、悪性であることが多いため、術後の補助療法として(手術に併用するかたちです)、また、どうにも手術をすることができなかった場合の唯一の治療法として、抗がん剤による治療をチャレンジすることがあります。生存期間は延長されるようですが、腫瘍が消失することが目的地点にはなれません。腫瘍が増大してきたり、ほかの病気が発生してきたなどの理由で治療を中止することになることがほとんどです。

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過去の乳腺腫瘍に関するブログ文章など
印刷して一緒に置いておきます。
詳しいことはこちらをどうぞ。

<おわりに>

高齢になってから発生することが多いのが腫瘍です。なかなか手術に踏み切れないし、ましてや子宮の病気も同時に見つかったとなると(まれに膣の腫瘍を併発することもあります)なおさら決断が鈍ることでしょう。けれど、今の決断がのちの安定生活の礎になることは間違いありません。

なお、手術の前には肝臓や腎臓、心臓や肺など麻酔にかかわる機能を調べるためいくつかの検査を行います。また転移が見られた場合は予後が大きく変わるため、転移の有無を確認する検査も行います。術後1か月余りで亡くなってしまったという話を耳にすることもありますが、お隣のわんことうちのわんこでは病状が大きく異なるかもしれません。マイナス情報ばかりを信じ込むのも良くありません。

また、犬や猫でも免疫療法的なものに走ると、せっかくの残りの一生を棒に振ることになります。

 

何よりも大切なのは、早期に避妊手術を行うことだということをもう一度付け加えておきます。

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猫の日光皮膚炎、扁平上皮がん

 扁平上皮がんに進行してしまった?!

猫の日光皮膚炎はそのままにしておくと、扁平上皮がんへと進んでしまうことがあります。今日は前回の続きです。

扁平上皮がんはまわりに浸潤して急速に増殖する特徴をもつ悪性腫瘍です。時間の経過とともに大きくなり、あまりに大きくなってしまうと、治癒させられなくなります。そのかわり腫瘍が大きくなる前に診断されれば、効果的に治療させることができます。

 

<症状>

局所の皮膚の潰瘍は、数か月にわたって治らない傷のような様相で、実際にそのように思われて来院されることが多いです。かさぶたができては取れて出血を繰り返すとか、耳の縁がギャザーのようになってきたというようなことです。耳の先端が一般的ですがそのほかに鼻(ときに鼻腔内)、眼瞼(めぶち)、唇で、ここは毛に覆われていない部分です。

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目や耳を気にして掻くことがあります。



<診断>

皮膚がんの段階で病院に来院された場合の診断手順についてお話しします。

まずはこれまでの経過を伺います。それから身体検査です。腫瘍化したところは視診が中心です。近くのリンパ節を触診して、腫れていないかどうかを確認します。基本的なラボ検査として血球系の検査と血液の生化学的検査をしますが、これは体内の諸器官が正常に機能しているかどうかを確認するものです。この腫瘍は悪性で早期に転移するため、胸部や腹部のX線検査を通して肺や肝臓などにも目を向ける必要があります。初診の段階ですべて行なうこともあるし、途中までのこともあります。

中心的な検査は細胞の検査です。腫瘍そのものに針を刺し細胞を観察します。ここにできた腫瘍がどんな種類の腫瘍なのかを判断する最善の方法で、生検と呼ばれています。扁平上皮がんのできやすい部位に別の腫瘍細胞、たとえば血管肉腫やリンパ腫などを見つけることがあります。腫瘍の種類が違う場合、異なる治療プランを立てることになります。腫れたリンパ節があれば、ここにも針を刺して細胞を観察しますが、リンパ組織で腫瘍細胞が見つかることは転移を意味しています。確実性を求めるため、病理の専門医にも材料を回して確認を仰ぎます。

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耳の先端部分にも気を配ってください。



<治療>

腫瘍の大きさ(広がり)と腫瘍の数によっても変わりますが、基本は腫瘍が発生している部位とその周辺を広く切除する手術です。手術で腫瘍とそれを取り囲む広い組織が除去されることは、腫瘍周辺に広がっていたかもしれない(目で見たのではわからないくらいの)小さい細胞塊まで確実に除去することになります。場合によっては、外科手術中に多くの組織が除去され、切除した部位を覆う皮膚が不足するようなことがあります。このようなときは、近くの皮膚まで切開を伸ばし、反転させて腫瘍があったところを覆い隠す皮膚弁を使います。また近隣の組織から回転させるのも難しい場合は、体の別の領域から皮膚を採取し腫瘍が存在していた領域をかぶせる皮膚移植と呼ばれる技法を使うことになります。さらに広範囲に腫瘍が増大しているときは、より深刻な除去をしなければいけない状況です。例えばつま先にある腫瘍は罹患したつま先の切断を必要とするように、鼻の腫瘍は鼻の(部分的かもしれませんが)除去が必要になってきます。腫瘍が耳に見つかった場合、耳の一部が除去されます。こうしたタイプの外科手術は、美容的に異なる外観になってしまいますが、その点を除いて術後はうまく回復します。ただ、一部、どうしても腫瘍が完全に除去しきれなかったということも起こります。このようなとき手術後に化学療法を推奨する場合があります。時には手術が実用的でないと判断して、化学療法のみを治療手段とすることがあるかもしれません。この場合の化学療法は、腫瘍が早く成長するのを防ぎ、猫をより快適にするために役立ちます。完治を目的にした治療ではないことをご承知ください。

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たとえ耳を無くすことになっても、初期段階ならば命までは失いません。



<生活と管理>

猫はどうしても痛みを感じるはずです。術後は鎮痛剤を与えて不快感を最小限に抑えるようにします。鎮痛薬は注意深く使用します。予防可能な医療事故の1つに、投薬過多というのがあります。痛そうだったからと日に何度も鎮痛薬を与えてはいけません。指示には注意深く従ってください。

退院後は猫の活動を制限し、静かな場所に置いてやってください。ケージ・レストといって、しばらくケージ内で過ごさせるやり方が最も向いていると思われます。もう動き回っても大丈夫、というポイントは、それが何日後になるのかはそれぞれによって違ってくるとは思いますが、再診日に猫と術後の傷を確認してお伝えします。回復期には食事と水の摂取量を監視することが重要です。猫が食べる気分にならない場合は、完全に回復するために必要な栄養を得るため、栄養チューブを使用する必要が出てくるかもしれません。とにかく頭まわりの出来事はとても痛いので、なかなか食欲が湧いてこないものです。それから猫があまり動かなくても済むように、トイレ箱を猫が寝ている場所に近づけて置くとか、箱の深さを浅いものに変えるなどしてトイレへの出入りを簡単にしてやってください。傷跡を保護するカラーの管理ももちろん大切です。局所の塗り薬をお願いすることになったときも、内服薬と同じように指示に従ってください。

回復後も、定期的な検診スケジュールを設定します。再発が起こりやすいため、新しい腫瘍が発生していないかどうかを確認し、また肺や肝臓に転移はないかどうかを確認するために胸部や腹部のX線写真を撮影します。

 

<おわりに>

ただの「日焼け」であったはずの日光皮膚炎はそのままにしていると、とても深刻な皮膚がんへと進行してしまい、しまいには命を奪いかねないような状況になってしまいます。

今年の夏は特別に暑く、そして紫外線量もたくさんでした。秋になり暑さは一段落つきましたが、皮膚への影響が現れてくるのは今からです。もし、今このブログを読んでいただいている時点で「うちの猫、耳が変だ!」と思われることがありましたら、急いで病院へお越しください。また今の時点では何ともなかった場合も、この後引き続き、耳の先端部分の観察をお願いします。

9月は「がん征圧月間」でしたので腫瘍のお話を3ついたしました。

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猫の日光皮膚炎、扁平上皮がん

 日だまりで猫がまったりしているのを見ると癒やされます。猫にひなたぼっこはとてもお似合いです。けれど強い日差しには危険が潜んでいます。猫が太陽光線を浴びすぎると日光皮膚炎発症する可能性があります。日焼けは炎症です。何度も炎症が繰り返され、組織が修復しようと繰り返すうちに情報伝達が間違った方向に進み皮膚が腫瘍化してしまうことがあります。10月に入ると紫外線量は減少しますが、夏の間に受けた皮膚刺激が具現化してくるのもこれからの季節です。

今回は2回続きで「猫の日光皮膚炎」と「扁平上皮がん」についてお話しします。はじめは日光皮膚炎、来週は扁平上皮がんの予定です。

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白い被毛の猫さんは日光の影響を受けやすいです。

<日光皮膚炎とは>

 日光皮膚炎は、猫の皮膚がんにつながる進行性の皮膚疾患です。早期に気づいて処置し、皮膚がんに進行するのを防ぐ必要があります。

 

<猫の日光皮膚炎の症状>

 初期段階では、赤みを帯びているだけ、または鱗状の皮膚(カサカサしたものが吹き出ている)に見えることがあります。進行するにつれて、皮膚がえぐれたり(潰瘍)、重度のガサガサ(痂皮)が発生することがあります。猫は患部を気にして頭を振ったり、後ろ足で掻くような仕草をすることがあります。

 日光皮膚炎は通常、耳の縁に発生します。先端部分が多いです。鼻の付近や目ぶちに出ることもあります。耳や鼻、目の周りには皮膚を保護する毛があまり見られません。こうした部位は光線の影響を受けやすいのです。

 

<日光皮膚炎の影響を受けやすい猫>

 すべての猫に日光皮膚炎を発症する可能性が有るのですが、その猫たちみんなが同じように腫瘍になりやすいわけではありません。白猫か淡い色をしている猫は一番リスクが高く、次いで白黒のぶち猫でも耳の先端部が白い猫です。また光線をより多く浴びる機会があるので屋外に出る猫は屋内の猫よりもリスクが高いです。でも屋内猫であってもリスクはゼロではありません。なぜなら、猫は窓際で太陽の光を浴びるのが大好きだからです。紫外線はガラス窓を通して屋内にも差し込んできます。

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屋外は日陰になっていても要注意。

<日光皮膚炎を防ぐ方法>

 日光に曝露されれば常に日光皮膚炎のリスクがありますが、特に皮膚が影響を受けやすい猫には、日光から猫を保護する必要があります。

 

<屋外猫の予防>

 屋外に行く猫は日光皮膚炎のリスクが最も高いので、日中のピーク時である午前10時から午後4時に屋外に出るのを制限できると良いと思います。それが不可能な場合は、日焼けを避けることができる日陰が家のまわりにないかどうかを確認し、そこに猫の好みのクッションを置くなどして猫を誘導してもらえるとうれしいです。それから「見渡しても家のまわりには日陰がないよ」というときですが、そういう場合は日曜大工を頑張っていただいて、猫が入れるくらいの大きさで十分なので、猫用パティオなどを用意して日陰を作ってもらえると、さらにさらにうれしいです。

 

<屋内猫の予防>

 屋内猫の日光皮膚炎のリスクは低いですが、それでも猫がひなたぼっこをする時には紫外線を吸収しています。カーテンは太陽光を遮断するのに役立ちますが、薄い布一枚で日焼けを止めることはできませんし、そもそも猫はカーテンの裏(部屋の方じゃなくてより窓に近い側)に隠れて寝そべるのも大好きです。窓にUV遮断フィルムを貼ることをお勧めします。そうすれば光は透過してきますが、有害な光線の一部をカットすることができます。

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クリームを塗って予防します。

<日焼け止めクリーム>

 市場にはペットに優しい日焼け止めクリームがあります。しかし一部には亜鉛、サリチル酸、プロピレングリコールなどの猫の健康に有害な物質を含むものもあるので注意が必要です。スプレータイプよりはクリームタイプの方が塗布するときに猫がびっくりしません。

  

<日光皮膚炎の治療>

 皮膚炎が軽度な(血管炎の段階)では、ステロイド療法で痒みを抑え、猫が気にして掻きむしらないような処置を行ないます。潰瘍を形成しているような段階で腫瘍化しないように処置するときは、軽度の鎮静剤を利用し、局所をレーザー光で治療することも考えられます。しかし病変が皮膚がんに進行する場合は手術が適応です。扁平上皮細胞がんはいわゆる抗がん剤にはほとんど反応しないため、内科療法は無効です。

テーマ : 動物病院
ジャンル : ペット

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