FC2ブログ

猫の日光皮膚炎、扁平上皮がん

 扁平上皮がんに進行してしまった?!

猫の日光皮膚炎はそのままにしておくと、扁平上皮がんへと進んでしまうことがあります。今日は前回の続きです。

扁平上皮がんはまわりに浸潤して急速に増殖する特徴をもつ悪性腫瘍です。時間の経過とともに大きくなり、あまりに大きくなってしまうと、治癒させられなくなります。そのかわり腫瘍が大きくなる前に診断されれば、効果的に治療させることができます。

 

<症状>

局所の皮膚の潰瘍は、数か月にわたって治らない傷のような様相で、実際にそのように思われて来院されることが多いです。かさぶたができては取れて出血を繰り返すとか、耳の縁がギャザーのようになってきたというようなことです。耳の先端が一般的ですがそのほかに鼻(ときに鼻腔内)、眼瞼(めぶち)、唇で、ここは毛に覆われていない部分です。

 cat-800760_960_720.jpg
目や耳を気にして掻くことがあります。



<診断>

皮膚がんの段階で病院に来院された場合の診断手順についてお話しします。

まずはこれまでの経過を伺います。それから身体検査です。腫瘍化したところは視診が中心です。近くのリンパ節を触診して、腫れていないかどうかを確認します。基本的なラボ検査として血球系の検査と血液の生化学的検査をしますが、これは体内の諸器官が正常に機能しているかどうかを確認するものです。この腫瘍は悪性で早期に転移するため、胸部や腹部のX線検査を通して肺や肝臓などにも目を向ける必要があります。初診の段階ですべて行なうこともあるし、途中までのこともあります。

中心的な検査は細胞の検査です。腫瘍そのものに針を刺し細胞を観察します。ここにできた腫瘍がどんな種類の腫瘍なのかを判断する最善の方法で、生検と呼ばれています。扁平上皮がんのできやすい部位に別の腫瘍細胞、たとえば血管肉腫やリンパ腫などを見つけることがあります。腫瘍の種類が違う場合、異なる治療プランを立てることになります。腫れたリンパ節があれば、ここにも針を刺して細胞を観察しますが、リンパ組織で腫瘍細胞が見つかることは転移を意味しています。確実性を求めるため、病理の専門医にも材料を回して確認を仰ぎます。

 cat-3691559_960_720.jpg
耳の先端部分にも気を配ってください。



<治療>

腫瘍の大きさ(広がり)と腫瘍の数によっても変わりますが、基本は腫瘍が発生している部位とその周辺を広く切除する手術です。手術で腫瘍とそれを取り囲む広い組織が除去されることは、腫瘍周辺に広がっていたかもしれない(目で見たのではわからないくらいの)小さい細胞塊まで確実に除去することになります。場合によっては、外科手術中に多くの組織が除去され、切除した部位を覆う皮膚が不足するようなことがあります。このようなときは、近くの皮膚まで切開を伸ばし、反転させて腫瘍があったところを覆い隠す皮膚弁を使います。また近隣の組織から回転させるのも難しい場合は、体の別の領域から皮膚を採取し腫瘍が存在していた領域をかぶせる皮膚移植と呼ばれる技法を使うことになります。さらに広範囲に腫瘍が増大しているときは、より深刻な除去をしなければいけない状況です。例えばつま先にある腫瘍は罹患したつま先の切断を必要とするように、鼻の腫瘍は鼻の(部分的かもしれませんが)除去が必要になってきます。腫瘍が耳に見つかった場合、耳の一部が除去されます。こうしたタイプの外科手術は、美容的に異なる外観になってしまいますが、その点を除いて術後はうまく回復します。ただ、一部、どうしても腫瘍が完全に除去しきれなかったということも起こります。このようなとき手術後に化学療法を推奨する場合があります。時には手術が実用的でないと判断して、化学療法のみを治療手段とすることがあるかもしれません。この場合の化学療法は、腫瘍が早く成長するのを防ぎ、猫をより快適にするために役立ちます。完治を目的にした治療ではないことをご承知ください。

 cat-721357_960_720.jpg
たとえ耳を無くすことになっても、初期段階ならば命までは失いません。



<生活と管理>

猫はどうしても痛みを感じるはずです。術後は鎮痛剤を与えて不快感を最小限に抑えるようにします。鎮痛薬は注意深く使用します。予防可能な医療事故の1つに、投薬過多というのがあります。痛そうだったからと日に何度も鎮痛薬を与えてはいけません。指示には注意深く従ってください。

退院後は猫の活動を制限し、静かな場所に置いてやってください。ケージ・レストといって、しばらくケージ内で過ごさせるやり方が最も向いていると思われます。もう動き回っても大丈夫、というポイントは、それが何日後になるのかはそれぞれによって違ってくるとは思いますが、再診日に猫と術後の傷を確認してお伝えします。回復期には食事と水の摂取量を監視することが重要です。猫が食べる気分にならない場合は、完全に回復するために必要な栄養を得るため、栄養チューブを使用する必要が出てくるかもしれません。とにかく頭まわりの出来事はとても痛いので、なかなか食欲が湧いてこないものです。それから猫があまり動かなくても済むように、トイレ箱を猫が寝ている場所に近づけて置くとか、箱の深さを浅いものに変えるなどしてトイレへの出入りを簡単にしてやってください。傷跡を保護するカラーの管理ももちろん大切です。局所の塗り薬をお願いすることになったときも、内服薬と同じように指示に従ってください。

回復後も、定期的な検診スケジュールを設定します。再発が起こりやすいため、新しい腫瘍が発生していないかどうかを確認し、また肺や肝臓に転移はないかどうかを確認するために胸部や腹部のX線写真を撮影します。

 

<おわりに>

ただの「日焼け」であったはずの日光皮膚炎はそのままにしていると、とても深刻な皮膚がんへと進行してしまい、しまいには命を奪いかねないような状況になってしまいます。

今年の夏は特別に暑く、そして紫外線量もたくさんでした。秋になり暑さは一段落つきましたが、皮膚への影響が現れてくるのは今からです。もし、今このブログを読んでいただいている時点で「うちの猫、耳が変だ!」と思われることがありましたら、急いで病院へお越しください。また今の時点では何ともなかった場合も、この後引き続き、耳の先端部分の観察をお願いします。

9月は「がん征圧月間」でしたので腫瘍のお話を3ついたしました。

スポンサーサイト

テーマ : 動物病院
ジャンル : ペット

猫の日光皮膚炎、扁平上皮がん

 日だまりで猫がまったりしているのを見ると癒やされます。猫にひなたぼっこはとてもお似合いです。けれど強い日差しには危険が潜んでいます。猫が太陽光線を浴びすぎると日光皮膚炎発症する可能性があります。日焼けは炎症です。何度も炎症が繰り返され、組織が修復しようと繰り返すうちに情報伝達が間違った方向に進み皮膚が腫瘍化してしまうことがあります。10月に入ると紫外線量は減少しますが、夏の間に受けた皮膚刺激が具現化してくるのもこれからの季節です。

今回は2回続きで「猫の日光皮膚炎」と「扁平上皮がん」についてお話しします。はじめは日光皮膚炎、来週は扁平上皮がんの予定です。

  kitten-227009_960_720.jpg
白い被毛の猫さんは日光の影響を受けやすいです。

<日光皮膚炎とは>

 日光皮膚炎は、猫の皮膚がんにつながる進行性の皮膚疾患です。早期に気づいて処置し、皮膚がんに進行するのを防ぐ必要があります。

 

<猫の日光皮膚炎の症状>

 初期段階では、赤みを帯びているだけ、または鱗状の皮膚(カサカサしたものが吹き出ている)に見えることがあります。進行するにつれて、皮膚がえぐれたり(潰瘍)、重度のガサガサ(痂皮)が発生することがあります。猫は患部を気にして頭を振ったり、後ろ足で掻くような仕草をすることがあります。

 日光皮膚炎は通常、耳の縁に発生します。先端部分が多いです。鼻の付近や目ぶちに出ることもあります。耳や鼻、目の周りには皮膚を保護する毛があまり見られません。こうした部位は光線の影響を受けやすいのです。

 

<日光皮膚炎の影響を受けやすい猫>

 すべての猫に日光皮膚炎を発症する可能性が有るのですが、その猫たちみんなが同じように腫瘍になりやすいわけではありません。白猫か淡い色をしている猫は一番リスクが高く、次いで白黒のぶち猫でも耳の先端部が白い猫です。また光線をより多く浴びる機会があるので屋外に出る猫は屋内の猫よりもリスクが高いです。でも屋内猫であってもリスクはゼロではありません。なぜなら、猫は窓際で太陽の光を浴びるのが大好きだからです。紫外線はガラス窓を通して屋内にも差し込んできます。

 cat-212703_960_720.jpg
屋外は日陰になっていても要注意。

<日光皮膚炎を防ぐ方法>

 日光に曝露されれば常に日光皮膚炎のリスクがありますが、特に皮膚が影響を受けやすい猫には、日光から猫を保護する必要があります。

 

<屋外猫の予防>

 屋外に行く猫は日光皮膚炎のリスクが最も高いので、日中のピーク時である午前10時から午後4時に屋外に出るのを制限できると良いと思います。それが不可能な場合は、日焼けを避けることができる日陰が家のまわりにないかどうかを確認し、そこに猫の好みのクッションを置くなどして猫を誘導してもらえるとうれしいです。それから「見渡しても家のまわりには日陰がないよ」というときですが、そういう場合は日曜大工を頑張っていただいて、猫が入れるくらいの大きさで十分なので、猫用パティオなどを用意して日陰を作ってもらえると、さらにさらにうれしいです。

 

<屋内猫の予防>

 屋内猫の日光皮膚炎のリスクは低いですが、それでも猫がひなたぼっこをする時には紫外線を吸収しています。カーテンは太陽光を遮断するのに役立ちますが、薄い布一枚で日焼けを止めることはできませんし、そもそも猫はカーテンの裏(部屋の方じゃなくてより窓に近い側)に隠れて寝そべるのも大好きです。窓にUV遮断フィルムを貼ることをお勧めします。そうすれば光は透過してきますが、有害な光線の一部をカットすることができます。

 cat-1551783_960_720.jpg
クリームを塗って予防します。

<日焼け止めクリーム>

 市場にはペットに優しい日焼け止めクリームがあります。しかし一部には亜鉛、サリチル酸、プロピレングリコールなどの猫の健康に有害な物質を含むものもあるので注意が必要です。スプレータイプよりはクリームタイプの方が塗布するときに猫がびっくりしません。

  

<日光皮膚炎の治療>

 皮膚炎が軽度な(血管炎の段階)では、ステロイド療法で痒みを抑え、猫が気にして掻きむしらないような処置を行ないます。潰瘍を形成しているような段階で腫瘍化しないように処置するときは、軽度の鎮静剤を利用し、局所をレーザー光で治療することも考えられます。しかし病変が皮膚がんに進行する場合は手術が適応です。扁平上皮細胞がんはいわゆる抗がん剤にはほとんど反応しないため、内科療法は無効です。

テーマ : 動物病院
ジャンル : ペット

ケモデクトーマ

 暑さの衰えを感じられない、暦の上では秋なのに、まだ盛夏そのものというかんじがする今日この頃。この季節に一番辛そうに見えたのが、鼻ぺちゃのわんこたちです。「苦しそう。」「酸素が十分行き渡るかしら。」心配になります。

身体には酸素が十分に行き渡っているかどうかのセンサーがついています。化学受容器といいます。酸素が不十分な状態になると、化学受容器は横隔膜に働きかけて呼吸回数を増やしたり呼吸を深くしたりします。そしてこのセンサーが慢性的な酸素不足をキャッチした結果、ある腫瘍になりやすくなることがわかっています。

今月はがん征圧月間。今日は発生がごくまれなのですが、「化学受容器にできる腫瘍」のことをお話しします。

 

<神経内分泌細胞と化学受容器>

神経内分泌細胞は、「神経内分泌ホルモン」と呼ばれる特殊な化学物質を産生します。これらの神経内分泌ホルモンは、神経系や他のホルモンと互いに作用し合って、化学反応の速度に影響を与え、身体の安定性を維持するように調整しています。

化学受容体は、血液中の二酸化炭素、酸素そして酸性度の変化を受け取って反応する、センサーの役割をしている細胞です。化学受容体は体内に広く分布していますが、心臓本体の大動脈が出て行くところ(心基底部)と、頸動脈には大きなものが存在しています。大動脈や頚動脈の外壁に神経組織が埋め込まれていて、そこには小さな細胞集団があり、犬の神経内分泌腫瘍は主にこの心基底部と頸動脈体部で発生します。

 142177mr.jpg

<ケモデクトーマ>

ケモデクトーマは、化学受容器の腫瘍です。良性の腺腫と悪性の癌腫の両方が含まれます。悪性腫瘍でも、そこだけにとどまることが多く、体内の他の部位に転移するのは約30%です。良性腫瘍と悪性腫瘍の両方とも、主要な血管を包み込むように位置するため外科的に除去することは困難です。

 dog_boston_terrier_20180902150705430.png

<ケモデクトーマの発生原因>

ある犬が腫瘍を発症する原因は単純ではありません。放射線や化学物質、ホルモンや感染症を含む「外部の因子」に対して、細胞の遺伝子が傷つき突然変異をおこした結果、腫瘍は発生します。突然変異した細胞は、細胞が何回細胞分裂を起すか、どのくらい生きて死んでいくのかといった細胞レベルでの正常な調節を混乱させ、限りない増殖を繰り返していきます。

ある特定の腫瘍に対して、ほかの犬よりも発生しやすい傾向がある犬がいることが知られています。また細胞がより多く分裂するほど、変異が起こりやすくなるため、高齢動物は若齢の動物よりも発生傾向が高くなっています。

ケモデクトーマはボクサーやボストンテリア、イングリッシュブルドッグ、フレンチブルドッグ、パグなどの短頭犬によく発生します。こうした遺伝的素因と合わせて、上部気道の構造的な特徴から慢性的な低酸素症があることもケモデクトーマ引き起こす原因の可能性があると示唆されています。高地に住む人々は海面に住む人々の10倍ケモデクトーマを発症しているということもあり、長期に低酸素状態になっていることがこのタイプの腫瘍を発症させる主な原因であることを意味しています。

 

<まれな腫瘍>

ケモデクトーマは稀な腫瘍です。ほとんどが8歳以上でみられ、オス犬はメス犬より影響を受けることが多いようです。腫瘍は心臓の基底部にできるのが一般的ですが、頸動脈と大動脈の両方に腫瘍ができるものもあります。

 body_shinzou_bad.png

<腫瘍が発生したときの臨床症状>

心臓にできたときの症状は

•咳、息切れ

•呼吸困難(呼吸が苦しそう)

•右のうっ血性心不全(CHF)の症状(腹水など)

•無気力(元気がない)、虚弱(動けない)、嗜眠 (寝てばかりいる)

•失神発作(ときどき気を失うような脱力がある)

などです。一方、頚動脈に腫瘍ができたときは、

•逆流・嘔吐(食べたものを吐き戻す)

•食欲不振、おやつへの関心が無くなる

•首の塊(しこり)、浮腫(首回りの皮膚がむくむ)

といった症状も出ます。

大動脈部、頸動脈部のいずれのタイプの腫瘍でも、

•血管内腫瘍による重度の出血があると突然死に至る可能性があります。

 

<腫瘍の発見>

エコー検査、レントゲン検査、CT検査で診断は進められますが、たいていの場合は無症状で、たまたま別の用件で実施された画像検査から発見されるという場合も少なくありません。

腫瘍の確定診断は病理学的な検査になるわけですが、場所が場所だけに、採材して検査するのも難しく、推定診断になります。

 pet_echo_kensa_dog.png

<治療>

一般的に腫瘍の治療というと外科切除、化学療法、放射線療法になるわけですが、どのような腫瘍であっても腫瘍の位置、転移の程度、そして犬の全体的な状態によってとられる治療法が異なります。ケモデクトーマの場合、完全な切除を安全に行なうのは大変困難です。

この腫瘍の特性として転移が一般的ではなく、また進行も緩徐な傾向があるため、化学療法を使うのはそれなりの延命効果が期待できる可能性があります。化学療法剤は腫瘍の増殖を遅らせることを目的に使用されます。化学療法を行った犬で、661日間の中央生存期間をもたらしたという報告があります。実際、ここまでの延命が期待できるかどうかは犬のコンディションにもよりますので、そういうわんこもいた、という解釈になると思います。化学療法剤の中でもトラセニブは効能外使用にはなりますが、有効であるという報告もあり推奨されています。内服薬です。

心臓をつつむ膜(心嚢膜)の中に出血が起こってしまったとき、膜をやぶり出血による圧力を逃がす処置がとられます。

 

 

今日は思いも寄らない所にできる、というか、そんな場所があるなんて知らなかったレベルでしょうが、そこにできるとてもまれな腫瘍のことについてお話ししました。

そしてそんな腫瘍ができていてもがんばっているわんこがいます。治療がうまく運びますように。

テーマ : 動物病院
ジャンル : ペット

犬の炎症性乳がん

 犬の炎症性乳がんについてお話します。

 

犬に発生する乳腺腫瘍の中に極悪タイプの腫瘍があります。それが炎症性乳がんです。

Inflammatory mammary cartinoma で調べていくと安心できるコメントは全く出てきません。攻撃性が強くて犬に対しひどいダメージをもたらす腫瘍です。

 

<発生は?>

犬の乳腺腫瘍のうち、炎症性乳がんの発症は10%以下、ほんの数%にすぎません。

殆どは避妊手術をしていない高齢のメス犬で、発情の来たすぐ後(1ヶ月か、間が空いたとしても2ヶ月位のうち)に発生する印象があります。

 ブログ用7

<症状>

「炎症」というのは「炎」の字が付きますが、まさにカッカと燃えている感があります。それでは「乳腺炎」なのだろうと誤解されることもあるくらいですが、乳腺組織に熱と腫れを伴う腫瘍は炎症性乳がんだけで、総合的に判断すると残念なことに「炎症性乳がん」という診断が覆されることなく、病勢がどんどん進行していきます。

お乳の腫れとともに、歩き方がおかしいとか、足を大きく広げることができないなどの症状を伝えてくださる患者さんもいます。

たいていはひとつの乳腺組織だけでなく、複数の乳腺組織が侵されます。しかも両側性のことも多く、皮膚に赤く水ぶくれやそれがはぜたものができ、腹部から胸部のお腹側はぶくぶくとした皮膚病のひどい腫れがあるようにも見えてしまいます。

進行してくると(そう遅くなく、このようなことが発生してきますが)腫れと腫れが結合して大きな塊になったり、一つの膨らみが裂けてきたり、炎症を起こしている乳腺組織が化膿して臭いのある汁が出てきたりします。

腫瘍細胞がリンパ管に入ると、リンパ循環を悪くするため、足がむくんできます。乳腺組織そのものも水っぽい腫れを起こすこともあります。

痛いので、触られることを嫌がります。だるそうに静かで、じっとしていることが多いです。食欲も無くなることが多いです。

 ブログ用5

<病理学的検査>

病理細胞学的な診断名では「炎症性乳がん」というものはなく、病理の先生が見られた組織学的な構造に基づいた名称で細胞検査の結果を知らせてくださいます。そのため、犬の病状を察すること無く、病理頼みで病名を診断されてしまうと、大事な判断をし損ねてしまう可能性も出てきます。

犬の様子をしっかり見てください。犬のお乳の観察も大切です。

 

<治療は?>

炎症性乳がんという診断がされたら、外科的に切除することはしません。もし誤った判断で外科に委ねてしまうと、病勢のコントロールができなくなります。切ってはみたものの、抜糸するまでもなく、さらなる勢いで腫瘍細胞が押し寄せてきます。創面を裂開させ、抜糸するまでもなく早期に亡くなる結果になります。

高齢犬に発症することが多いので、「ほんの2週間位のことなのに迷っているうちにどんどん進行しちゃって、手術のできるようなかんじじゃぁなくなった」というのもよくあります。おそらく切らないほうが生存期間は長いです。

静かに、疼痛緩和のための治療を行います。非ステロイド系の鎮痛消炎剤(NSAIDs)や抗菌薬はほぼ反応がありません。もし、これらの薬に反応していれば、きっと乳腺炎だったのでしょう。それはそれで喜ばしいことです。

ステロイドの薬で痛みを和らげ、食欲を出すようにしてやります。

オピオイド(モルヒネでよく知られている麻薬性鎮痛薬です)の方がさらに効果的です。

Cox2阻害薬である消炎鎮痛薬(ピロキシカム)を膀胱腫瘍のコントロールに使用するのですが、こちらもある程度緩和効果があるようです。1日1回、薬の分量としてはあまり多くないので、食欲不振のときにも投与しやすいし、薬の値段もあまり高くありません。薬そのものは頻用されていて比較的安心なものです。ある程度の緩和もあり、生存中央値も185日あったという報告があります。オピオイド薬に対して不安が残る方にも、代用になる治療法だと思います。

DSC_3255.jpg
前回ご紹介した普通の乳腺腫瘍と大きく異なることが
おわかりいただけるかと思います。
おなかの毛は刈ってあります。

 

<予後>

良いお話はできません。予後は非常に悪いです。おそらく、数ある犬の腫瘍の中で最も悪い経過になります。

初診の段階では、見つけたときにすでに広がりを見せているものや、スピード感のある腫瘍だと判断したもののまださほど大きくはなっていないものなど様々なわけですが、そこからの余命は平均すると6ヶ月未満と覚悟してください。

中には診断したときに安楽死を考えなくてはいけないほどにやつれてしまっているものもあります。

ブログ1 

<予防>

やはり避妊手術です。

ある病気が発症する確率を考えてその病気の予防をするかどうかを決めるのは、ある意味賭けをするようなものだと思うのです。ですから、想定している病気の予防をしないのは、「その病気が発症したら諦めて治療しよう」という潔さが含まれているように思います。けれど発症した場合の重症度を思うと、「治療すればなんとかなるよね」といった余裕はなくなるのではないでしょうか。
乳腺腫瘍の予防をしようかどうしようか、というよりも若いうちの避妊手術をどうしようかと迷ううちに月日はあっという間に過ぎてしまうのが現実です。
けれど、脅かすわけではないけれど、こんなタイプの乳腺腫瘍があると知って貰うと予防する方を選んだほうがずっと良いと判断されるのではないでしょうか。未来にこんなに恐ろしい乳がんが待ち受けているのかと知ったら、それは子宮蓄膿症予防のために行う避妊手術なんて比べものにならないくらい価値ある予防策です。


炎症性乳がんは、その発生率からあまり知られていないでしょう。乳腺腫瘍の505050ルールからすると、乳腺腫瘍にかかる確率は五分五分ということですし、しかも悪性度合も同じように五分、命を縮めそうな転移を起こすのも五分なのであれば、「まぁ、なんとかなるのかな。もしできても早期のうちに発見して手術をすれば大丈夫だよね」という考えに行き着くかもしれません。そして乳腺腫瘍よりも子宮蓄膿症の方が知名度は高く、こちらの予防のために避妊手術を検討している方が多いのもわかります。そうすると何も初回の発情前までに決めなくても検討する時間にゆとりが持てるわけです。ですから悩んでいるうちに年が過ぎてしまい、気づいたら手術時年齢が34歳を過ぎてしまったということもあります。


もし、乳腺腫瘍や子宮蓄膿症の発生確率と避妊手術のリスクを比較して、避妊手術にブレーキをかけているのだとしたら、今後は避妊手術をしないことのリスクに炎症性乳がんの発症を加えてください。きっと避妊手術を行わないリスクの方が高くなると思います。

 ブログ用8
朝夕、寒さを感じるようになってきました。
お身体にお気をつけてお過ごしください。


 猫の乳腺腫瘍と犬の乳腺腫瘍について連続でお話しました。ピンクリボンの月が終わっていましたが、なんと、11月8日は「いいおっぱいの日」なんだそうです。(いい歯の日なんじゃなかったっけ?)

まぁ、避妊手術で「いいおっぱい」を守ることができます。これを
知らないで病気になってしまったというかわいそうな犬や猫が減っていきますように。
    合掌

テーマ : 動物病院
ジャンル : ペット

犬の乳腺腫瘍

 犬の乳腺腫瘍についても少しだけ、追加情報を載せておきます。

はじめは以前にもお話していたこと
http://heartah.blog34.fc2.com/blog-entry-487.html
http://heartah.blog34.fc2.com/blog-entry-489.html
http://heartah.blog34.fc2.com/blog-entry-490.html
の繰り返しになりますが。

 ピンクリボン

505050ルール>

犬の乳腺腫瘍は10万頭に162頭から198頭くらいの発生率です。今、ひとの乳がん発生率が14人に1人と言われていますが、それから比べると少ないという印象です。でもメス犬にできる腫瘍の中では一番多い腫瘍です。

犬に発生する腫瘍全体のうち50%が乳腺腫瘍です。そのうちの50%が悪性の乳腺腫瘍で、そのまた50%に転移が起こります。これが505050ルールです。

 

<避妊手術と乳腺腫瘍の発生>

犬の乳腺腫瘍はホルモンの影響を受けるため、若いうちに避妊手術をしておくと発生率が低下します。

未避妊の発生率を1としたときの比較ですが、

初めての発情前なら発症率はわずか0.05%ですし、

1回目と2回めの発情の間でも8%に過ぎません。

2度めの発情以降に手術をした場合でも26%になります。

このような数字から、やはり2回めの発情前(できることなら初めての発情前)までに避妊手術をされることをおすすめしているわけです。

 ブログ用10

ここからは前回お話していなかった内容です。

<乳腺腫瘍のステージ分類>

はじめにできた腫瘍の大きさ、近くのリンパ節への転移の有無、肺など離れたところへの転移の有無から乳腺腫瘍は4つにステージ分類されます。

①直径3cm未満の小さな腫瘍ができているだけをステージ1、

②直径が3~5cmのものをステージ2、

③どんなサイズの腫瘍でもリンパ節転移があればステージ3、

④どんなサイズの腫瘍でも遠く離れたところに転移していればステージ4

としています。

 

<予後を決めるもの>

「予後が良い」というのは無病期間が長く、生存期間も長いです。

予後はいくつかの要因により大きく異なります。先にあげたステージは予後に影響する因子として大きな要因になります。ステージ1であれば、術後の2年生存率は97.9%ですが、ステージ4になると2年生存率はわずか13.6%です。腫瘍の大きさや転移の有無はステージにも反映されていますが、やはり大きな因子です。また腫瘍を覆っている皮膚が破れているかどうかも予後因子として大きく影響するものです。見つけたら小さいうちに手術をうけることが重要になってきます。

手術の範囲(小さく切除したのか広い範囲を切除したのかということ)は生存期間に影響しませんが、組織学的レベルでしっかりと切除できていたかどうかは予後に関係してきます。手術を受けるのであれば、完全に取り切れるような広い範囲での手術を受けることが重要です。

組織学的な腫瘍の分類により、悪性度の高いものは予後が良くないことも分かっています。(炎症性乳がん>肉腫>乳がん>悪性混合腫瘍>→というような順です。)しかしこればかりはどうしようもありません。どのような種類の腫瘍ができてしまうかは対策が立てられませんから。

それから腫瘍の発生した位置や数は関係ありません。同じように妊娠の回数や偽妊娠の発生があったかどうかも予後には無関係です。

ブログ用3 

<同時避妊手術>

乳腺腫瘍の手術を行う時、同時に避妊手術を受けると予後が改善するのかどうかについて、幾つかの研究がなされています。

以前は同時に避妊手術を行っても生存期間には影響しなかったという報告が多く見られました。近頃は予後を良くするという報告も多くあります。

少なくとも悪化させることはありません。ですから、もし年齢や術前検査の検査結果から手術時間に耐えられそうだとか、手術範囲と皮膚形成術の問題も生じないとかであれば、同時手術も考慮してもいいかもしれません。

 

<食餌と乳腺腫瘍>

食餌に赤身肉が多く含まれていると乳腺がんの発生率が高くなるという研究があります。赤身肉に含まれるω6脂肪酸はω3脂肪酸に比べ、がんの発生リスク上昇と腫瘍の成長速度の上昇に関連することが知られています。

また、食餌中の脂肪とタンパク質が乳腺がんの術後の生存期間に影響することを示す研究もあります。低脂肪食の場合はタンパク質の割合が低いと生存期間は短くなります。高脂肪食の場合はタンパク質の摂取量は関係しませんでした。

腫瘍になってしまったときの食事といえば、「高脂質、高タンパク、低炭水化物食で、肉ではなく魚由来の脂質を摂取したい」という基本がありますが、これは乳腺腫瘍においても当てはまるかもしれません。

 ブログ用11
明日はハロゥインですね。
秋の実りに感謝です。


<外科手術>

手術の方法はいくつかあります。①から④までの方法に⑤、⑥を加える(かどうか)が基本手技です。

①腫瘍をくり抜く。(腫瘍の上の皮膚は切り開くだけで切り取りません)

②一つの乳腺を切除する。(腫瘍のある部分の皮膚は切り取りますが、腫瘍のある乳腺だけを取り除きます)

③領域の乳腺を切除する。(リンパ流でつながっている上3つ、または下2つを切り取ります)

④片側の乳腺を全部切除する。(片側の乳腺を上から下まで広範囲に切り取ります)

⑤リンパ節を切除する。

⑥卵巣子宮全摘出術(避妊手術)を行う。(まだ避妊済みでなければ、です)

*手術手技はどの方法を選んでも生存期間に影響することはないのですが、辺縁がしっかり取り切れていなくて、取り残しがあると再発することになります。

*発生している腫瘍がいくつかの乳腺にまたがって複数ある場合は、③または④の広い手術です。

*リンパ節に腫瘍細胞が入り込んでいる場合は、そうでない場合に比べて予後はよくありません。そこでステージ分類をする(予後に関する情報を得る)ためにリンパ節切除を実施しています。リンパ節を切除したことと生存期間の延長には関連はありません。

IMGP9697.jpg
一番下の乳腺に一つだけですが大きくできた乳腺腫瘍です。
屋外飼育の中型犬ではおなかを見せることが少ないし、
だっこすることもないため、気づかれにくいですね。

<内科的な治療>

手術後、いくつかの抗がん剤(とその組み合わせ)療法を行うと、化学療法を行わなかった場合と比較して生存期間が延長したという報告があります。

ハイリスクのものに手術をせずに化学療法だけを行ったという報告もあります。腫瘍が縮小したという結果が得られています。

最近の新しいニュースとしては、手術に際し尿崩症に使われるホルモン剤を使うと、無病期間も生存期間も延長したという報告もあります。

余裕があれば内科療法も併用すると効果が期待できそうです。

 

 

 

今日のお話はここまでです。

犬の乳腺腫瘍には別にお話しておきたいカテゴリーの炎症性乳がんがあります。次回は炎症性乳がんについてお話します。

 

テーマ : 動物病院
ジャンル : ペット

プロフィール

ハート動物病院

Author:ハート動物病院
ハート動物病院です。
〒445-0062
愛知県西尾市丁田町杢左51-3
TEL/0563-57-4111
オフィシャルサイト:http://www.heart-ah.com/

最新記事
最新コメント
最新トラックバック
月別アーカイブ
カテゴリ
ブログランキング
検索フォーム
RSSリンクの表示
リンク
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QRコード