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犬呼吸器コロナウイルス

 先週の続きです。一般に犬のコロナウイルス感染症といえば腸炎です。けれど呼吸器を冒すタイプのコロナウイルスもあります。

犬呼吸器コロナウイルスについて


犬のコロナウイルス(CCoV)には第2のタイプが存在することがわかっています。2003年にイギ​​リスで急性呼吸器感染症の犬で最初に発見されました。グループIIとして知られるこの株は、腸ではなく犬の気道に影響を与えます。この犬呼吸器コロナウイルス(Canine respiratory coronavirusCRCoV)は、腸に問題を起こすコロナとは別の仲間、ベータコロナウイルスに分類されます。

このウイルスは主にイギリス、アイルランド、ギリシャ、イタリアといった欧州で見られていますが、望月先生や石田先生たちによる「Etiologic Study of Upper Respiratory Infections of Household Dogs:飼い犬の上部呼吸器感染症の病因学的研究」(2008年)の発表により、このウイルスが日本にも存在することが明らかにされています。また最近の研究から、米国とカナダにも存在し、試験した犬の約50%がウイルスに対する抗体を持っていたことからCRCoVの感染が過去にあったことが伺えます。

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<感染症の症状は?>

CRCoVは急性呼吸器感染症(風邪のような感染症)を引き起こします。ほとんどの犬は、咳、くしゃみ、鼻漏(鼻汁)といった軽い症状だけで、食欲が低下することも元気がなくなることもありません。

犬呼吸器コロナウイルス感染症という病名を使うことはなく、犬感染性呼吸器疾患(CIRD)または伝染性気管気管支炎(ITB)と言っています。「ケンネルコフ」(犬小屋の咳の意味)と言う方が、なじみがあるかもしれません。CRCoV感染は単独でも感染性呼吸器疾患(CIRD)を引き起こす可能性がありますが、通常はパラインフルエンザウイルス、アデノウイルス、ジステンパーウイルス、ヘルペスウイルス、インフルエンザウイルス、気管支敗血症菌(Bordetella.bronchiseptica、マイコプラズマ類、連鎖球菌(zooepidemicusなどの他の病原微生物との同時感染で、病気を発症させています。単独感染よりも混合感染した場合の方が病状は強く出ることが多く、一部の犬は肺炎に進行することがあります。一部症状がない犬もあります。(無症状感染)

 

<感染は?>

犬のブリーディング施設、動物保護施設、ドッグショー会場など、多数の犬が一緒に(密室で)収容されている場合に感染リスクは高くなります。 腸コロナウイルスの感染と同じように、犬呼吸器コロナウイルスの感染もすべての年齢で感染が起こりますが、幼少の犬(ことに1歳未満の犬)で問題になることが多いです。

非常に伝染性が高く、感染した犬との直接接触、咳やくしゃみによって発生するエアロゾルによって広がります。症状の出ていない犬でも、他の犬に感染させる可能性のあるウイルスを排出します。

潜伏期間は不明ですが、数日かかる場合があります。ウイルスが排出される日数も不明です。通常、症状は12週間で消失します。

感染した犬を扱っている人の手を介して、食べ物や水食器、首輪や鎖、衣服を汚染する可能性があります。

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<診断は?>

犬感染性呼吸器疾患(CIRD)を引き起こす病原体はどれも、「咳、くしゃみ、鼻汁」の同じ症状を引き起こすので、症状だけで犬呼吸器コロナウイルスの感染を診断することはできません。確定診断を得るには、症状のある犬の鼻腔または喉の奥から検査材料をぬぐって採取し、外部の検査室に提出する必要があります。IDEXX(検査機関の名称です)は、「呼吸器疾患パネル」として、犬呼吸器コロナウイルス(CRCoV)、犬パラインフルエンザウイルス3型(CPIV-3)、犬アデノウイルス2型(CAV-2)、犬ジステンパーウイルス(CDV)、犬ヘルペスウイルス(CHV)、犬インフルエンザウイルス(H3N8,H1N1,H3N2)、犬ニューモウイルス(CnPnV)、気管支敗血症菌(Bordetella.b)、マイコプラズマ(Mycoplasma Cynos)、連鎖球菌(Streptococcus equi susp.zooepidemicus12項目の呼吸器病原体の検査を実施しています。検査方法は遺伝学的検査(リアルタイムPCR法)です。検査結果が出るまでには45(営業)日かかります。

*犬インフルエンザウイルス、犬ニューモウイルスは犬呼吸器コロナウイルスと同じく新興感染症に分類される呼吸器疾患の病原体です。日本での発生報告はありません。

 

<治療は?>

治療は、症状に基づいた支持療法(二次的な細菌感染の兆候があれば抗生物質、また猫のインターフェロンを犬に応用するなど)で、ウイルスに特異的な治療法はありません。一般的なケンネルコフの治療法です。

非常に伝染性が強いため、病気の蔓延を最小限に抑える目的で隔離をします。隔離時間は不明ですが、推定は3週間です。他の病原体との混合感染が疑われるときは、(数か月に渡って排出される可能性があるため)隔離期間をさらに延長します。

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<予防はできる?>

現時点では、犬呼吸器コロナウイルスに対するワクチンはありません。CRCoVは犬の腸内コロナウイルスとは異なるため、犬腸コロナウイルスのワクチンは接種しても効果的ではありません。パラインフルエンザウイルス、アデノウイルス2型、ジステンパーウイルス等のワクチンが利用可能な他の呼吸器病原体に対してワクチン接種をします。(いわゆる犬の混合ワクチンです。)これにより、これらの病原体との混合感染のリスクが軽減されます。

CRCoVに一度感染すると再感染のリスクを減らすか、感染が起こった場合の症状を軽減する抗体が作られることが研究により示されています。感染による免疫の持続時間は不明です

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<感染の管理は?>

 CRCoV 感染の蔓延を防ぐための重要な管理は、犬を隔離することのほか、感染した犬を扱った人が看護のあと衣服を着替え、手を洗う必要があります(バイオセキュリティ対策)。このウイルスが環境内で存続する期間は不明ですが、数時間程度という説もあります。アルコール等の消毒剤によって不活化されます。水分はウイルスの生存を助けるので、洗浄後は完全に乾かしてください。

混合感染でなければ呼吸器コロナウイルスの感染も重症化しそうにない印象を受けます。が、一部恐ろしく手強いタイプのウイルスも存在しています。日本の日常診療では見かけることがないものです。次回に回します。


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犬コロナウイルス感染症について

 新型コロナウイルス感染症の話題が、毎日続いています。今週はショッキングなことに人から犬への感染が「疑い」から「確定」に変化してしまいました。

犬にもコロナウイルスの感染症があります。現在報じられている人の感染症とは大きく異なります。せっかくなので、犬のコロナウイルス感染症についてお話ししておきます。

 

犬コロナウイルス感染症について

一般的に、犬のコロナウイルスは消化器系に感染する病原体です。犬コロナウイルス(CCoV)感染は1971年にドイツの軍用犬ユニットで急性腸炎の犬から分離され、初めて報告されました。腸粘膜の先端部分の上皮細胞にウイルスは感染します。そして犬の消化と吸収を悪くさせます。子犬から老犬まですべての年齢層で感染はありますが、私たちのイメージでは「1歳未満の子犬の下痢症」の原因になるウイルスです。

 

<病原体は?>

犬コロナウイルス(Canine coronavirusCCoV)は、アルファコロナウイルスに分類されるウイルスです。エンベロープと言われる膜には3種類の蛋白が太陽コロナの炎の構造のように付着しています。この中のS蛋白が犬の細胞表面にある受容体にぴたっとくっついて細胞内に侵入し、膜からウイルスのRNAを出して犬の細胞の中で複製し、ウイルスを増やしていきます。犬の身体から出たウイルスは比較的速く失活(感染性を無くす)します。アルコールや界面活性剤で不活化させることが可能です。

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<どのように感染するの?>

感染した犬の排泄物の中のウイルスや、排泄物に汚染された食器やケージの表面などに付着するウイルスが感染源になります。このウイルスが次の犬の口や鼻から身体の中に入り消化管を通り小腸の粘膜に感染します。

繁殖場で生まれた子犬など、多数の犬が暮らす施設では短期間に感染が広がり、ウイルスがそのまま維持されていることが多いため、日本にいる犬の約半分くらいはすでにコロナウイルスに感染したことがあると推定されています。1歳未満の年齢で発症する「子犬の下痢」の半数はコロナウイルスが原因になっているだろうといわれています。小腸だけが感染場所です。呼吸器の感染は起こりません。

 

<どんな症状が出るの?>

潜伏期間は1~5日ですが、突然始まる嘔吐で発症に気づくことになるでしょう。そして水のような下痢便になります。元気や食欲もなくなりますが、発熱することもなく、たいていは軽症で、4~5日から7日もすると回復します。糞便中へのウイルス排泄はその後も続きます。最長4週間です。

他のウイルスや細菌と混合感染すると3か月未満の子犬では症状が重篤化します。

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<感染したのを知る方法は?>

外部の検査機関に依頼するとわかります。たいていは対症療法で治ってしまうため、(高価な検査を実施しようかどうかと判断するまでもなく)検査する機会は無いに等しいです。

同じような症状でも重症で長引く場合は「パルボウイルス性腸炎」のことが多いです。この場合も院内の糞便検査キットや血液検査で白血球数が減少していることなどから診断がつきますので、ウイルスを検出させる外部検査を使うこともないです。パルボウイルス感染症に併発する感染症がないかどうかを確認したいとき、ついでにコロナウイルスの検査も依頼するかもしれません。遺伝子を増幅させるPCR法のほかに、血清学的に抗原を調べるイムノクロマト法、抗体を調べるIFA法などがあります。PCR法に用いる検体は糞便ですが、ウイルス分離はうまくいかないことも多いです。

 

<治療法は?>

このウイルスに対する効果的な治療法はありません。下痢や脱水症に対する対症療法や、支持療法です。補液をしたり、嘔吐があれば制吐剤を使います。食事療法として消化のよい療法食を選び、消化酵素薬や腸内細菌のサプリメントなどで治療をします。

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<予後は?>

症状は比較的軽度ですし、予後も良好です。

それでも3か月未満の子犬の感染は、他のウイルスと混合感染があると命に関わることもあるので、注意が必要です。

 

<予防はできるの?>

ワクチンが開発されています。しかし感染防御を目的としたものではなくて、感染しても軽症で済むようにという目的で接種されます。一度感染して得られた免疫も弱く、長続きはしません。繰り返し感染するようです。

 

 

犬のコロナウイルスといえば~、という一般のお話しです。実は呼吸器に感染するコロナウイルスもあります。

次回に回します。

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猫免疫不全ウィルス感染症の検査

 今日は世界エイズデー。ネコのエイズとして知られるネコ免疫不全ウィルス(FIV)感染症について、特に検査の解釈のことを中心にお話しします。

 

<ネコエイズは怖い病気?>

ネコ免疫不全ウイルス(FIV)に感染すると、ウィルスが免疫系を攻撃し、他の多くの感染に対して防御が甘くなります。FIVに感染した猫は何年も健康そうに見えるかもしれませんが、最終的にはこの免疫不全に苦しみます。ですが、ネコ白血病ウイルスやコロナウィルスなどに感染していない限り、通常の寿命を生きていくことが示唆されています。

 

<感染経路>

感染リスクの高い猫は外出をするオス猫です。FIVの主な感染経路は咬傷によるものです。ほかの猫に好意的で攻撃性の少ない接触、つまりグルーミングや食器の共有などは、ウイルスを広めるルートではないようです。同居猫がけんかをしない安定した家庭にいる猫は、FIV感染のリスクはほとんどありません。まれに、胎児が産道を通過するとき、または新生児子猫が感染した母乳を飲むときに、感染した母猫から子猫に感染が伝染します。性的接触は、FIVを広める経路ではありません。

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<症状は?>

感染の初期段階で、ウイルスは近くのリンパ節に運ばれ白血球の中で増殖します。その後ウイルスは全身の他のリンパ節に広がり、一時的なリンパ節の腫脹を引き起こします。このときにたいていは発熱しますが、この段階では気付かれずに過ぎてしまう可能性があります。もしくは咬まれたことによる細菌感染からの発熱だと思われて終わることもあるでしょう。

感染した猫はほぼ健康な状態で、時折不都合な事象が繰り返されたりして、徐々に悪化していきます。悪い徴候は感染後何年も現れないのが普通です。病状が悪くなって来院され検査を受けてはじめて、陽性結果を知り驚かれる患者さんも多いです。

免疫不全兆候は全身のどこにでも現れ、そのため症状は様々です。毛並みが悪い、食欲不振、発熱を繰り返す、歯肉炎や口内炎がある、目がおかしい(ぶどう膜炎)、慢性の皮膚炎がある、上部気道感染が慢性や再発性におこる、持続性の下痢がある、膀胱炎を繰り返すなどです。そのほかあまり知られていませんが、発作や行動上の変化などの神経学的な症状も出る可能性があるし、血液学的な問題(貧血など)を起こすこともあります。自然妊娠ののち流産を起こすメス猫もいます。腫瘍になりやすい傾向もあります。 

<ウィルス検査>
FIVは、酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)検査などの手法を使用して検出できます。病院で行なわれるスクリーニング検査は抗体を用いたELISA法です。血液中にFIVウイルスに対する抗体が存在するかどうかを濾紙に発色させて陽性かどうかを見ていきます。

PCR検査は、ウイルス遺伝子を検出する検査です。PCR検査は猫が作り出したFIV抗体の検出ではなく、ウイルスのDNAを検出することによって、血中にFIVウイルスが存在することを確認する検査です。ELISA法は感染症の理想的なスクリーニング検査ですが、特定の状況がある場合(移行抗体があるかもしれない子猫の感染の確認や、FIVワクチンを接種したことがある猫の感染の判定など)には、PCRの検査が理論的に優れています。PCR検査はELISA法で判定が困難な場合に外注で依頼している検査です。日常的には行なっていません。

検査の必要性ですが、ご自身の猫の健康を維持すること、ほかの猫への感染拡大を防ぐことが2大目的です。

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<こんな猫におすすめ>

  一度も検査を受けたことが無い猫。

  病気になっている猫。(過去に実施され感染が無いことを確認してあっても、その後の感染を除外することはできません。)

  新しい猫を養子として迎え入れるとき。(先住猫が居る場合一緒にできるかどうかをみるために。)

  感染しているかもしれない猫との接触が考えられるとき。(自由外出で目が届かない場合に。毎年の検査が理想です。)

  FIVワクチンの接種を検討しているとき。(どちら由来の陽性なのかをはっきりさせます。)

 

<陽性結果がでたとき>

猫は感染を完全になくすことはほとんどないため、検査結果が陽性に出る(抗体が存在する)ことは基本的にFIVに感染していることを示しています。

ただし、偽陽性の結果が生じる可能性はあります。猫の生い立ちや臨床症状などから鑑みて検査結果と合致しないような場合は、PCR検査を使用して結果を再確認することをお推めしています。

6か月未満の子猫では解釈が異なります。感染している母猫は、授乳中の子猫にFIV抗体を移します。そのため、感染した母親から生まれた子猫は、出生後数ヶ月間、陽性の検査結果を示すことがあります。でもこの子猫が実際に感染していることにはならないかもしれません。それで感染状態を明らかにするために、FIV陽性という結果が出た6か月未満の子猫は、少なくとも6か月になるまで60日間隔で再検査する必要があります。もしくは母猫からの移行抗体の影響を全く受けなくなる6か月齢まで待ってから検査をするということもできます。子猫の時に陽性だったのに数年経ってから検査したら陰性になったというのは、感染が免疫力によって陰転したのではなく、子猫の時に親からもらった移行抗体をキャッチした可能性があります。

検査結果を正確に解釈するために、猫のFIVワクチン接種履歴を知ることは不可欠です。FIVワクチンは、ワクチン接種された猫にFIVウイルスに対する抗体を産生させますが、FIVウイルスに対する抗体は、FIVの自然感染に反応して猫が産生した抗体と区別することが困難な場合があります。この場合は一般的なELISA法は有用ではありません。今は「差別的ELISA」と呼んでいる新しいテストができました。この検査ではFIV、ワクチン接種後に産生される抗体とFIV感染後に産生される抗体を区別できるとされています。それでも正確に知りたい場合はPCR検査を受けることをおすすめします。

大切なことを言っておきます。陽性結果は「死の宣告」を示すものではないことをご理解ください。最初にお話ししたように、FIVの感染があっても複数のウィルス感染が無ければ寿命を全うできることもできるくらいです。前向きに捉えてください。

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<陰性結果がでたとき>

陰性の検査結果は、猫の体がFIVに対する抗体を産生していないことを示しています。ほとんどの場合、これは猫が感染していないことを示唆しています。

ただし、通常検出可能なレベルの抗体が血流に現れるには、感染後812週間かかります。そのため、この期間に検査を実施すると、偽陰性の結果が生じる可能性があります。したがって、FIVに感染している猫または未知の猫の咬傷などによる未知のFIV状態の猫と接触した猫は、検査を受けたときに陰性であっても、最新の暴露(感染したかもしれない事件が起こった日)から最低60日後に再検査する必要があります。これにより、猫の体がウイルスに対する抗体を開発する時間ができます。

ごくまれに、FIV感染の後期にある猫は、免疫系が非常に損なわれているため検出可能なレベルの抗体を産生しなくなり、FIV抗体検査で陰性となる場合があります。

 

<治療と管理>
残念ながら、現在、FIVに対する決定的な治療法はありません。何らかの症状を出したときに、ひとつひとつ、その病態に対する処置を行ないます。例えば口内炎なら口内炎の治療です。猫の寿命を予測することは不可能ですが、FIVに感染した猫でも適切に管理すれば、表面上は通常の生活を送ることができます。もしFIVに感染した猫が感染の結果として1つまたは複数の病気を発症した場合や、持続性の発熱と体重減少が存在する場合、一般的な予後はあまり良好ではありません。

FIVに感染した猫には去勢手術(避妊手術)を行ない、屋内だけで飼育し、近隣の他の猫がFIV感染しないよう、FIVの拡大を防いでください。栄養的にバランスの取れた食事を与え、生の肉や卵、低温殺菌されていない乳製品などの調理食品は食品媒介細菌や寄生虫感染症のリスクがあるため避けてください。そしてストレスのない生活を提供するようお願いします。

FIVに感染した猫は、少なくとも半年に1回くらいの割合で診察にいらしてください。歯肉、目、リンパ節に特に注意を払いながら、身体検査を行います。身体検査のほか血球数、血清生化学検査、や尿検査を実施します。これは健康な猫が受ける検診項目と同じです。多くの場合、体重減少は悪化の最初の兆候になります。ご家庭では食欲と体重減少に注意を払ってください。FIVに感染した猫の健康と行動の観察は、感染していない猫よりも重要です。猫の健康上の変化を気にかけ、おかしいと感じるところがあれば、検診予定日が来ていなくても診察にいらしてください。

一部の抗ウイルス療法は、口内炎(口腔の炎症)を伴うFIV感染猫に有用で、環境に放出されるウイルスの量を減らすことが示されています。体内のウィルス量を測定することはできませんが、少なくとも口内炎の症状緩和になるように思います。FIVの効果的な治療の開発は、まだ研究の途上にあります。

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<予防、新しい猫の同居に際して>
FIVのワクチンが開発されていますが、ウイルスのすべての株に対する有効性はまだ決定されていません。ですから、FIVの感染を防御するのに大切なことは、感染している猫と接触しないようにすることです。うちのかわいい猫ちゃんを保護する唯一の確実な方法は、ウイルスへの暴露を防ぐことです。猫に噛まれることは、感染が伝染する主な手段であるため、猫を屋内に入れ、噛む可能性のある感染した猫から遠ざけてください。屋内飼育猫が感染する可能性を減らすには、感染していない猫だけを家に持ち込み、感染していない猫だけを飼うことが理想的です。場合によっては、家庭内で感染してしまった猫と感染していない猫を分けて飼育することになるかもしれません。子猫の新規導入の時は、検査しても正しい結果が反映されない期間のことを考慮して、しばらくは先住猫と別に飼育することをおすすめします。

残念ながら、FIVに感染した猫の多くは、他の猫と何年も一緒に生活してきてから診断されます。そのような場合、家庭内の他のすべての猫を検査する必要があります。FIVは主に咬傷によって伝染するため、安定した社会構造を持つ家庭(つまり屋内猫同士は仲良しさんであるとき)は、感染した猫から感染していない猫への伝染は、外に出てけんかをしてくる猫に比べ少ないです。

FIVに感染した猫が家庭内にいる場合は、新規の猫に感染の機会を与える可能性があります。また、新しい猫の導入がストレスとなり、日和見感染的に新たな病気を発症する可能性もあります。できれば新たな猫を家に持ち込むのは避けたほうがいいでしょう。

なおFIVはほとんどの環境で数時間以上は存続しません。しかし、前にFIV陽性猫が住んでいた環境(今は猫が居ない)に、改めて猫を導入する場合はFIVや他の感染症の伝播を最小限に抑えるために、消毒を行なってから迎え入れてください。食器や水食器、寝具、猫用トイレやおもちゃは洗浄し消毒をするか、または新しいものに交換してください。家庭用漂白剤の希釈溶液は、優れた消毒剤です。新しい猫や子猫は、家に入る前に他の感染因子に対する適切な予防接種(混合ワクチン)を受ける必要があることも念頭に置いてください。

FIV感染から保護するためのワクチンはありますが、猫のコアワクチンとは見なされていません。推奨される接種方法は、2回~3回のコアワクチン(3種混合ワクチン)が済んでから、初年に1か月間隔で3回、その後も1年に1回の追加接種をしていく方法です。勝手な思い込みで数年に1度接種をしてみたところで予防にはなり得ません。またワクチン接種された猫が確実にワクチンで保護されるわけではないため、ワクチン接種された猫であっても、曝露を防ぐ(感染猫との接触を避ける)ことが重要です。

 

<ヒトの健康への懸念>
FIVHIV(ヒト免疫不全ウイルス)に似ていて、人間のAIDS(後天性免疫不全症候群)に似た病気を引き起こしますが、ネコだけに感染するウイルスです。FIVがヒトに感染したり、病気を引き起こしたりするという証拠はありません。

 

 猫のウィルスチェックは、子猫を飼い始めたときにすぐ実施したいと思うかもしれません。けれど偽陰性や偽陽性の出やすい時期があることを考え、早期に実施した場合は後日再検査の必要性が出ることもご承知置きください。

猫の世界からFIVを無くすことができるのは、陽性になった猫を外に出さない、感染の輪を広げないことにあります。陽性判定の出た猫では、「だって外に出たがるんだもの~外じゃないとトイレができないし~」の気持ちもわかりますが、去勢手術により出たい気持ちにブレーキがかかります。ぜひ出さない方向に重きを置いた対処法にご協力ください。

師走に入りました。ご多忙とは思いますが、ご自身のおからだも大切になさってください。

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猫の伝染性腹膜炎・その3

 猫伝染性腹膜炎のお話、3回目です。

治療のことや、猫コロナウィルス抗体陽性野猫が猫伝染性腹膜炎を発症するのを防ぐために、どうしたらよいのだろうかということについてお話しし、連続3回のお話しの締めくくりにしたいと思います。

 

 

<猫伝染性腹膜炎は炎症性の病気?>

猫伝染性腹膜炎は「伝染性」が付いてはいますが、伝染性疾患としてくくるには水平感染は起こりにくい病気で、むしろウィルス性「感染症」の病気です。さらにその病態も「炎症」と免疫亢進による「アレルギー」様でもあります。そこで、治療は①ウィルス増殖を抑えることと、②炎症を抑えることが二大柱で、あとはそれぞれの症状に応じて対症治療を行います。

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<基本の治療・ガイドライン>

KIRK'S Current Veterinary Therapy に記されている治療が、猫伝染性腹膜炎治療のお手本としてあります。2005年版です。

ウェットタイプは胸腔内または腹腔内にステロイドの注射液を注入するほか、プレドニゾロン内服による治療です。はじめはかなりの高用量を使い、10日から14日ごとに、その薬量を減らしていきます。減量により悪化したらまた増やすこともあります。また、インターフェロンも使われます。1日おきに注射し、貯留液を認めなくなったら頻度を週に1回に減らす、というやり方です。

ドライタイプも同様です。ウェットタイプに同じプレドニゾロンを使い、インターフェロンは毎日です。

目の症状が出ている場合、点眼液にもステロイド剤を使用します。

インターフェロンはとても高価な治療なのですが、反応する場合と反応しない場合が有り、どのような症例に効果的なのかはその違いが分かっていません。

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<そのほかの治療>

トロンボキサン合成酵素阻害薬(塩酸オザグレル)はアレルギーの抑制に使われるお薬ですが、猫伝染性腹膜炎ウィルスによって亢進する血小板凝集を抑制する作用があります。血小板の凝集を抑えると血管炎の進行が抑えられ、場合によっては腹水の貯留がなくなったり抑えられたりします。1998年に亘先生が学位論文で発表されてから、日本ではKIRK'S Current Veterinary Therapy の治療に加えて使用される先生が多くいらっしゃいます。内服薬です。朝夕2回服用して貰います。

 

それでも猫伝染性腹膜炎に対する有効な治療方法はまだ確立されていません。致死的な病気なのでぜひ望まれるところです。

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<研究中の治療>

猫伝染性腹膜炎ウィルスがマクロファージ(細胞の名前です)に感染すると、ウィルスは細胞内で爆発的に増殖をはじめます。このときに猫伝染性腹膜炎の病態を悪くさせるサイトカインがいろいろ出てきます。この中の一つ、TNR-αに対して抑制的に働く薬として、ペントキシフィリン(薬品名トレンタール)がありますが、この薬は日本での製造が終了してしまいました。良く似たお薬のポリペントフィリンをドイツの大学で研究されていましたが、残念ながら効果なしとの評価を受けています。

「ポリプレニル免疫賦活剤はドライタイプの猫伝染性腹膜炎の生存期間を延長させる」と、テネシー大学から研究発表されています。完治ではないものの、猫の体調を改善させ、200日とか300日といった単位での生存日数を掲げられていて、これからの治療に非常に期待が持たれます。

翻訳されている記事です。

https://the-mal.com/news/feline-infectious-peritonitis 

 

日本でも、北里大学の高野先生たちが抗マラリア薬であるクロロキンの効果を研究されていました。抗ウィルス効果、サイトカイン産生抑制効果が認められています。しかしクロロキンも日本での製造が中止されてしまいました。現在はヒトのエリテマトーデスの治療薬として承認されているヒドロキシクロロキン(化学構造式はクロロキンに似ている薬です)で再度研究がなされています。TNF-αの活性を抑える薬や抗ウィルス薬を開発途中とのことです。結果が待ち遠しいです。

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<発症を予防する>

猫伝染性腹膜炎の発症は、感染している猫コロナウィルスが腸管内で増殖する際に変異して、猫伝染性腹膜炎ウィルスに変わることが原因です。このことを鑑みると、

①腸内の猫コロナウィルスを増やさないようにすること

②猫の免疫を低下させる原因を無くすこと

が必要になってきます。

繰り返しの重複感染を抑えるには、同居猫同士から糞便を介した経口感染をコントロールする必要があります。個人のご家庭では、多頭飼育をできるだけ避け個別飼育にし、トイレはそれぞれが別の物を使用し、食器とトイレは遠く離して(できれば別の部屋に)設置するという、衛生上の基本的な事項を守っていただくと良いでしょう。仲の悪い猫同士は別の部屋で管理し、ストレスを減らすことも大切なことです。

 

さらにⅡ型ウィルスの発生という点を考えると

③犬と接触させないこと

も予防になるのかもしれません。

 

④集団飼育施設の衛生管理を行うこと

は、キャッテリーでの子猫の猫コロナウィルス感染を防ぐ上で重要です。

1か所で多数の猫を飼育するのを避けることは、集団飼育施設においては難しいこともあるかもしれませんが、猫を衛生的に保つという意味で大変重要です。さらに清潔の維持のほか、個々の猫のストレスを減らすためにもぜひ進めていただきたいことです。できれば仲の良い猫同士3~4頭ずつを別の部屋で飼育して貰うと良いです。理想は個別飼育です。

 

さらに

⑤ブリーダー施設に情報をフィードバックする

ことが可能ならば、購入先から繁殖元へ連絡を入れるのも、猫の将来のためになることでしょう。子猫が猫伝染性腹膜炎を発症するのはブリーダーの手を離れ、新しい家庭に入った頃に起こりやすいため、繁殖元では猫コロナウィルス感染について知ることがない可能性があります。情報を届けることにより、子猫が移行抗体の残る時期にウィルス陽性猫から隔離する策を取ることができるので、猫コロナウィルスの感染チェーンを徐々に絶つことができるかもしれません。

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<ワクチン接種>

米国では猫伝染性腹膜炎のワクチンがありますが、(経鼻接種です)有効性は十分には確立されていません。米国猫専門医協会(AAFP)では、このワクチンの使用をすすめてはいないそうです。

 

 

<どのように消毒をすすめていったら良いのか>

乾燥した環境で7週間も失活しないといわれる猫コロナウィルスですが、太陽光線や紫外線照射や熱などで不活化されるようです。56℃数分で感染性を失う、という記述も見かけました。ほとんどの消毒薬に感受性をもち、塩素やアルコールなど入手しやすい消毒薬や洗剤でも失活することから、猫コロナウィルス感染している(抗体陽性の)猫が使用するトイレは家庭用洗剤で洗ったのち、塩素消毒し、屋外で天日干ししておけば十分かと思います。

感染は

「猫の糞便」→(ヒトの手などが仲介する可能性もある)→「別の猫の口」

というルートで成立するので、⇒部分の消毒を徹底し、ここを断てれば感染は起こりません。

これらは猫コロナウィルスに関しての対策です。猫伝染性腹膜炎に対し水平感染が起こるためにとる対策、ということではありません。猫伝染性腹膜炎発症猫からウィルスが伝播されることもあり得ますが、通常これは起こりません。

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<おわりに>

予後不良の病気を診断してしまったとき、どんな風にお話しを切り出して行こうか、これが長く臨床をしていてもなかなか悩むところです。

診察に時間がかかると、途中で待合室を行き来しているVTに「悪そうだね。」って声がけしてくださる患者さんがいらっしゃいます。読みが深いです。VTからの連絡を受けて、「あー、察知されている。うん、そうなんだよ、そうなんだけどねっ。うわー。」っと言葉を飲み込んでいます。なんとかこの事態をブレイクさせる方法はないものか、考えていたりします。それから、説明室にお通しした段階で「先生の顔色で分かるわ。良くない病気なのね。」って先に口火を切ってくださる患者さんもいます。「すみません。大当たりです。」

そんなこんなで、「実は、、、」「あまり良くないお知らせですなんですが。」となるわけです。

それでも、今、頑張ってくれているのは目の前の猫さんなのだし、清書に書かれている数字はありますが「それはそれ、こちらはこちら」。ご家族の希望する治療方針をご相談しながら決定し、そこに沿うように努力していこうと思っています。

それから、繰り返しになりますが、猫コロナウィルス抗体価が陽性であることと、猫伝染性腹膜炎を発症しているということは別物です。もし抗体価が高かったとしても、抗体価の推移を見守り、できるだけストレスなく過ごすようにしてやりましょう。

今回はなかなか重い病気のこと、お話ししてきました。3回に渡る長いお話しにおつきあい、ありがとうございました。世界中からこの病気がなくなることを思ってやみません。

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猫伝染性腹膜炎・その2

猫伝染性腹膜炎のお話、2回目です。

どのような猫に対してこの病気を疑うのか、疑いがあったらどのような検査を行って診断に結びつけていくのかをお話しします。

 

 

<猫伝染性腹膜炎を発症しやすい猫>

猫伝染性腹膜炎を発症しやすい猫がいます。すべての年齢層の猫に見られるのですが、多頭飼育されている環境下(保護施設やブリーダー施設などのような)の若齢猫でもっともよく見られます。たいていは2歳未満で発症し、特に1歳未満の猫では病状の進行が早いです。17歳とかの高齢の猫でも見られますし、一部、感染に敏感な猫種や系統(ベンガルなど)があるようです。

総じて、多頭飼育されてきた経歴のある若齢猫で怪しい症状が見られると、疑いは濃くなります。

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<猫伝染性腹膜炎を疑うときの猫の様子>

「もしかして、この子、猫伝染性腹膜炎なのでは!」、と閃くきっかけになる猫の様子はいろいろです。

    ウェットタイプを疑うとき

 おなかがでっぷりしていたり、呼吸が苦しそうであったりすると、腹水や胸水を疑います。活動性が低下していて元気がないとか、寝ていることが多いなどの沈うつがあるということがわかったり、身体に触れたときに熱感があったり、検温で軽い発熱があるのが認められたりすると心配が増していきます。

②ドライタイプを疑うとき

 こちらの方がわかりにくいです。だるそうにしている日が続いていること、元気がなく静かにしていること、食欲が低下し体重が減ってきていることなどしか分かりません。身体に触れてみて、リンパ節が大きいかな?腎臓が腫れっぽいかな?と感じることや、可視粘膜を見て色白だったり軽く黄ばんでいたりするのも不安が増します。

③目の様子

目の様子に変化があるのも心配な要素です。透明であるはずの角膜に何か着いているように見えたり、目が濁って見えたり(目の中に卵の白身のような物や血の塊などが浮かんでいるように見える)、虹彩の色が変わってきているとか、左右の目で瞳孔(黒目・ひとみ)の大きさに違いがあるとかすると、なおさら「もしや」「まさか」の疑いを持つことになります。わけもなく目が小刻みに動いている(揺れている)ときも心配です。

④そのほか

バランスよく動くことができないとか、震えがある、異常な行動を取る、過敏な反応があるなどの神経症状があるのも心配要素です。

  

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<診断のために行う検査と疑いを深めることになる検査結果>

診断のために、院内では次のような検査をしていきます。疑いが濃厚になる結果を示しておきます。

①ウェットタイプを疑うとき

腹水や胸水が確認されたら、診断と治療を兼ねて水を抜き、採取した液体を検査します。採取した液体のタンパク量やアルブミン・グロブリン比(A/G)、総白血球数、細胞成分を調べます。血液検査も行います。猫伝染性腹膜炎の腹水や胸水はたいてい琥珀色で透明です。採取した液をポンプから容器に出して空気に触れさせておくと、ゼリー様のぷるるんとしたかたまりができてくるのも、怪しさが増してくる所見です。この採取液を検査してみると、タンパク量が多く、A/Gが低いこと、さらに白血球の数が少ないことや、調べた細胞は好中球が多数というような場合、猫伝染性腹膜炎の疑いがさらに強まります。血液検査では貧血や白血球増多、総蛋白の増加とアルブミン・クレアチニン比の減少が疑いを強める所見です。

②ドライタイプを疑うとき

 ウェットタイプと同様の血液検査を行います。疑わしい所見は同様です。

 さらにX線や超音波などの画像検査も行います。これは猫伝染性腹膜炎を疑って、というよりも、何か手がかりはないだろうかと猫の身体の情報を収集するために実施するというのが近いかもしれません。なにせ、ドライタイプの所見は、あれやこれやいろいろな病気でもみられることの多い所見と重複しています。腹部のリンパ節や腎臓などに腫瘍のようなものが見られると診断は複雑になります。

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<確定診断に結びつけるための追加検査>

院内の検査で疑いが増した場合、次に外部の検査機関に委託して追加の検査を行います。

①ウェットタイプを疑うとき

 採取した液体や血漿(血液の上澄み液)を外部の検査機関に送ります。腹水または胸水で猫コロナウィルスの抗体価を、血液で蛋白分画を調べて貰います。

②ドライタイプを疑うとき

 血漿(血液の上澄み液)を外部機関に送ります。猫コロナウィルスの抗体価、蛋白分画を調べて貰います。炎症性蛋白の値(血清アミロイドASAAなど)を調べて貰うこともあります。

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<猫コロナウィルスの抗体検査の解釈>

猫コロナウィルス(FCoV)の抗体価の検査は猫伝染性腹膜炎の診断をするときによく用いられる検査です。ですが、あくまでも猫コロナウィルスの抗体価を見るものであって、猫伝染性腹膜炎ウィルスの抗体検査ではありません。抗体価が高いからといって猫伝染性腹膜炎を発症しているとはいえません。また、猫コロナウィルス抗体価がマイナス(―)であるのならば猫伝染性腹膜炎は発症していないと言い切れますが、抗体価が低くても猫伝染性腹膜炎でないとは言い切れません。体内のウィルス(抗原)と抗体が結合して免疫複合体を形成しているため、結果として見かけ上抗体価が減少しているだけなのかもしれないからです。猫伝染性腹膜炎を疑う症状があって、抗体価が高いときには、猫伝染性腹膜炎を診断するに十分確定的になります。


 

臨床症状は出ていない

臨床症状が出ている

抗体価(―)

おそらく陰性でしょう。

 

抗体価が低い

可能性があります。

必ずしも猫伝染性腹膜炎ということではないです。

疑いは残ります。

猫伝染性腹膜炎ではないとは言い切れません。

抗体価が高い

 

猫伝染性腹膜炎でしょう。

ほぼ確定的です。



 
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<確定診断をする検査>

特殊な検査になります。免疫染色法でマクロファージから猫コロナウィルス抗原を検出するのが確定診断になります。「ウィルス検出=陽性=猫伝染性腹膜炎が確定」です。しかし、陰性であっても猫伝染性腹膜炎ではないと言い切れません。

検体はウェットタイプなら滲出液ですが、ドライタイプだと腹腔内にできた肉芽腫病変から採取したもの(生検)になります。ドライタイプ疑いの猫に全身麻酔下で開腹手術を行い、検体を採取するのは現実的ではありません。

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<疑いを突き詰めた先に何があるのだろうか>

陽性であることを確認するために免疫染色法という特殊な検査まで実施する意味はどこにあるのだろうかと考えることがあります。

諸外国では、猫伝染性腹膜炎のような予後不良の病気を発症している場合、動物が苦しむ前に安楽死を推奨されていることが多いです。欧州猫病学諮問委員会(The  Europian Advisory Board on Cat Diseases : ABCD)もこの疾病に対し、「一度は治療してみるものの、3日以内に改善しない場合は治療が難しい、安楽死を考えるべき」、という推奨ラインを出しています。診断後の寿命がわずか9日、という数字は生存期間が短い病気であるということをいっているのではなく、そうした推奨に従う症例が多いからなのだろうと思います。さすがに安楽死となると、きっちり診断をつける必要があります。あいまいのまま、疑いがあるくらいで安楽死を実施することはできないからです。特殊であろうが、高価な検査であろうが、確定診断に結びつける必要があるでしょう。

私たちは日本に住み、和の心で日常を送っています。合理的といえば合理的、でも割り切れなさが残るこの推奨ラインに従うには苦痛があります。「疑いがある」ことを「間違いない」にまで煮詰めて安楽死に臨むよりは、「おそらくそうだろう」の線で留め起きながら、愛猫が苦しまないよう緩和療法を交えた治療を行い、自然死を迎えるまで暖かく見守ることを選択する方が、日本人としての考えに近い気がします。家庭猫という状況であれば(特殊なキャッテリーという状況でなければ)なおさらそうだろうと思います。

そのようなわけで、当院では、多くの病気については世界的なその道の専門家が推奨するガイドラインに沿った治療を学び、理解し、実践することを目指してはいますが、この猫伝染性腹膜炎に関しては、そうした世界の王道に沿わない道を選択しています。

 

 

今日のお話はここまでです。

次回は治療のことや、どうしたら発症を防ぐことができるのか、といった内容でお話ししたいと思います。

 

    

テーマ : 動物病院
ジャンル : ペット

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