- 2019-10-06 :
- 眼の病気
目やにで目の異常を知りましょう
目やにが出るのは犬では一般的な問題です。生理的で病気とは無関係なものもありますが、健康上の問題に関連するものもあります。適切な治療のタイミングを逃さないようにするため、目やにについて知っておいて貰いたいことをお話しします。
1.睡眠後の目やに
涙は目の健康を維持する上で重要な役割を果たします。それらは角膜(目の前の組織の透明な層)に酸素と栄養を供給し、目に閉じ込められる可能性のある破片を洗い流すのに役立ちます。涙は通常、目の内側の角にある涙腺管から排出されますが、時々少しの目やにが目頭に蓄積します。乾燥した涙、油、粘液、死んだ細胞、ほこりなどからできています。午前中に発見されることが多くて、たいていは「朝起きたときに目頭に何かついている」のを発見されます。通常、この目やには完全に正常です。温かい湿った布で簡単に取り除けるはずです。目が赤くなることはありません。また、犬も目の不快感の兆候(目をこする、目が細くなる、まばたきをする、光に対してまぶしそうにする)を示すこともありません。犬が毎晩(または長い昼寝の後に)作り出す「睡眠による目やに」の量は、一定量で変わらないはずです。(もし犬の状態が悪化していることに気付いた場合は、来院ください。)
2.赤褐色の涙の汚れ(涙やけ)
白っぽい毛色の犬は、多くの場合、目がしらの下の毛に茶色の変色を起こします。「涙やけ」と言っています。これは涙にポルフィリンと呼ばれる色素が含まれているために発生します。ポルフィリンは、空気に長時間さらされると茶色に変わります。他の問題がない場合、この領域の茶毛た変化は生理的であり、単なる美容上の問題です。
犬の涙のしみを最小限に抑えるには、次の解決策を1つ以上試してください。①1日数回、洗浄液で湿らせた布で局所を拭きます。②犬の目の周りの毛を短く整えてください。③ホウ酸を含む点眼液でこまめに点眼と清拭をします。④栄養補助食品(サプリメント)を追加して、犬の食事への涙の染みを減らします。茶色く染まった毛が伸びてくるので、治療効果が明らかになるには数ヶ月かかる場合があります。
涙やけの量が増加してきたり、質的な変化があることに気づいた場合、または犬の目が赤く痛みを伴うようになった場合は、目の検査をする必要があります。ご来院ください。
3.透明で水っぽい目やに(涙目)
過剰な眼の散水(涙目)は、軽い病状のものから深刻なものまで、いろいろな状態に関係しています。涙のオーバーフローに相当する「目からあふれ出た涙」の原因はアレルギー、刺激物、目の中の異物(草、種子、砂、寄生虫など)、解剖学的異常(さかさまつげやまぶたがめくれて内側に入り込んでいることなど)、涙管の閉塞、角膜の傷、緑内障(眼圧の上昇)が、一般的です。もう少し怖いものとしては、歯周炎から来る顔の骨の炎症、副鼻腔も含めた眼球付近の腫瘍なども原因になります。
犬の涙が比較的軽度に増えているが、他のすべての点で目が正常に見え、犬が不快を感じていない場合は状況を監視するのが合理的です。あなたの犬は花粉やほこりでいっぱいの状況にさらされただけで、この場合涙の増加は問題を解決する(目の中に入った花粉などの異物を流れ出す)ために働いているだけかもしれません。
しかし、涙目が続く場合、または目が赤く、痛みを伴うとき(目をしょぼしょぼさせる、まぶしそうにする、こする、床で擦るなど)、またはサラサラの涙以外の目やにを出す場合は、病院にいらしてください。
4.白灰色の粘液(ねばねばの目やに)
ドライアイ(乾性角結膜炎またはKCS)は、通常、犬の免疫系が涙を分泌する腺を攻撃して破壊するときに発症する状態です。涙液の生成が通常より少ないため、体はより多くの粘液を作って目を潤すことで補おうとします。しかし、粘液は涙のすべての機能を置き換えることはできないため、目は赤く痛みを伴い、角膜表面がでこぼこし、異常な角膜色素沈着(たいていは黒くなって目の中が見えにくくなります)を発症することがあります。治療せずに放置すると、乾燥性角膜炎は重度の不快感と失明を引き起こす可能性があります。
犬の目の周りに白灰色の粘液が溜まっていることに気付いた場合は、なるべく早く病院にお越しください。シルマー涙液検査と呼ばれる簡単な検査を実行します。ほとんどの犬は、免疫抑制剤入りの目薬、人工涙液、他の薬物などの治療によく反応します。
治療がうまくいかない場合、唾液を運んでいる管を口から眼の表面に向け直す手術も検討できますが、これは眼科専門医のいる病院に予約する必要があります。
5.黄色または緑色の目やに
目やにが黄色または緑色のとき、特に目の赤みや不快感も明らかな場合は目の感染がある可能性が高いです。眼の感染症は、感染症に対する目の本来の防御機能が低下した状態になっているかもしれません。または別の状態(角膜創傷、ドライアイなど)の結果として発症している可能性もあります。感染性の目は、犬が全身性疾患にかかっているようなこと、例えば呼吸器系(ジステンパーはその最たるものです)、神経系(顔面神経の麻痺など)で、目以外の部分に問題があるサインになっていると考えてください。
目の感染症のように見える犬は、大至急来ていただく必要があります。
6.こんなときは急いで来て
なみだの色合いや出方が生理的な範囲のことかもしれないと思われても、目の変化に付随した犬の行動に次のような点が見られた場合は早めにいらしてください。
· 目をまぶしそうにショボショボさせて細める
· まぶたやあかんべしたときに見える結膜に腫れや赤みがある
· まぶたにおできが見られる
· 目をこすっている
· 目の色がいつもと違う
· 目の表面に銀色の付着物がある
· 目の中に斑点や浮遊物がある
今日はアイメイトの日。
10月1日はめがねの日、そして10月10日は目の愛護デーです。この10日間は目と眼鏡の週間になっています。愛犬・愛猫の目を大切に、少しでも異常を感じたら病院にいらしてください。
また今日はアイメイト(盲導犬)の日でもあります。盲導犬がお仕事をしているときは話しかけたり触ったりせず、心の中で「がんばって!」と応援していただけると彼らはお仕事に集中できます。よろしくお願いします。
「前にもらった。あれを使えばいいかね?」という「前」はどのくらい前までなら「大丈夫ですよ」って言えると思いますか?2週間前のもの?1か月?3か月ではどうでしょう。
「冷蔵庫で保管してあるんだけど?」保管場所はどこにあったものなら安心して使えるでしょうか。
<どこに保管するのがいい?>
① 冷所保存
こう書いてある目薬は冷蔵庫で保管してください。冷凍ならもっと安全?ということはないです。目薬の成分が固まってしまうことがあります。冷蔵庫でお願いします。冷蔵庫に保管する必要のある目薬は、室温に保管すると性状が変化して品質が低下する心配があるものです。安定性が弱く温度による影響で成分が変化する可能性があります。「冷たい目薬を差すのはかわいそう」な気がするかもしれませんが、ご面倒でも毎回点眼後は冷蔵庫に入れるようにしてください。
② 遮光保存
こう書いてある目薬は遮光袋を付けてお渡ししてあります。必ず専用の袋に入れて直射日光を避け、涼しいところで保管してください。もし遮光袋を無くしてしまった場合は、光が当たらない袋や箱に入れて保管してください。なお、遮光袋に入れてあっても直射日光の当たる場所に目薬を置くのはやめてください。太陽エネルギーって強いんだ、という覚えでお願いします。
③ 室温保存
日本薬局方によると、室温は1℃から30℃です。真夏の場合、室内にエアコンを入れておかないとこの範囲内に当てはまらなくなります。常温保存という言葉を聞くことがあると思います。同じように日本薬局方によると常温は15℃から25℃です。室温よりも適温範囲がだいぶ狭くなっています。けれど、お渡しする目薬のほとんどは室温保存のものが多く、常温保存ではないのでご安心ください。室温保存の目薬を冷蔵庫に入れて保管してくださっても大丈夫です。なぜなら庫内の温度は5℃くらい。室温条件の中にあります。真夏なら冷蔵庫に入れてもらう方が安全です。
追)
懸濁性の目薬の保管:濁ったタイプの目薬は必ず「立てて」保管してください。横に置いたり、キャップを下に向けて逆さにしておくと、小さな粒子が集まってノズルの小さな穴に詰まる場合があります。
*保存場所の基本は①②③です。でも「子供の手の届かないところ」もこれらと併用してお願いしたい保管条件です。
<ここに置いた目薬は使っても大丈夫?>
① 車の中に置き忘れた目薬
真夏ではこの置き忘れた目薬を使うのはアウトです。30℃を超えています。氷点下になる可能性のある真冬の夜間の置き忘れもアウトだと思ってください。冷凍庫に入れたのと同じです。目薬の成分は分解、変質している可能性があります。使うのはやめてください。
② 遮光袋に入れ忘れて蛍光灯の室内に置いた目薬
カーテンを引いてある室内の蛍光灯下で袋に入れ忘れたくらいでは変質する可能性は低いと考えられます。おそらくこちらは使って大丈夫です。直射日光の当たるところに置き忘れたのは使わないでください。
③ 暖房のそばに置いた目薬
すぐに使えるようにケージの上に目薬を置いたけど、エアコンをつけたらここに直接暖気が当たっていた、という事例があります。細かいようで、こういうこともありがちです。気づいたのがすぐならまだしも、すでに数日経過しているような場合、継続使用はお勧めできません。
④ お風呂場に置き忘れた目薬
うそのようで、実際にあったはなしです。ちょっと高めでいつも行かないアウェーな場所だと犬が緊張してお母さん一人で点眼することができるので、お風呂場で点眼していたのです。そのまま忘れて夜、お風呂の湯気に当たり、翌朝気が付きました。ここは湿気の多い場所ですので、微生物が繁殖しやすく目薬の汚染につながります。継続使用に不安が残ります。
⑤ 外用薬専用の箱に入れて保管した目薬
外用薬の箱の中に目薬も保存しました。まだ封は開けてありません。けれどたまたま湿布薬の封が開いてあり、使おうと箱を開けたら湿布のキツいにおいがした、というものです。目薬はプラスチック容器に入っていますが、揮発性のある化学物質はプラスチックを透過する性質があります。もしかすると点眼したときに刺激を感じるかもしれません。やめておいた方が無難です。
<いつまで使って大丈夫?>
目薬のキャップをあけたらどのくらい使っていて大丈夫なのか。これは「使い忘れの目薬が冷蔵庫にあるから、あれを使っても大丈夫なの?」という、最も多く受けるご質問です。薬局で購入した一般薬である目薬はたいてい3か月くらいを使用期限にしているものが多いです。病院からお渡しするものは一般薬ではないのでひと月くらいを目安にしていただくといいです。どうして1か月かというと、目薬の中に雑菌が混入して汚染されてしまうことを心配してこのくらい、とお願いしています。注意して使っていても目薬の先端がまつげや目頭、まぶたなどに付いてしまうと、そこから雑菌が混入してきます。ある調査によると、使用後1か月の目薬のうち半分くらいに細菌が入っていたそうです。
「言われたとおりに使っていても1か月以上あるし、余っている。」そのとおりです。特に動物用の点眼液は失敗も含めて多めに入っています。そのため余りが出るかもしれません。でも1か月の目安を守ってください。
点眼薬のラベルには使用期間が印字されています。おそらくお渡しするお薬のたいていは2年くらい先のことが多いです。けれどこの期日はキャップを開けていない(未開封の)状態での品質を保証する期間です。誤解のないようにお願いします。
それから、用時溶解(使う時に別包装になっている粉や錠剤を点眼用の液体に溶かす)目薬に多いのですが、こちらは溶解してから1週間、2週間、3週間などと特別に記されています。特に安定性に問題がある薬です。その場合は、適切な場所(冷蔵庫等)に保管されたその日数だけが安心して使える期間です。
<添加剤のこと>
点眼薬の中には「保存剤」を添加してあるものもあります。点眼薬は無菌的に作られたお薬ですが、雑菌に汚染される機会があります。そのため細菌汚染を防ぐために保存料を加えてあります。保存剤というとちょっと身構えてしまわれるオーナーさんもいらっしゃるかもしれません。指示通りの使用法であれば角膜に影響を及ぼすものではありません。
「保存剤」のほか、目に対する刺激が強くならないように涙と同じくらいの浸透圧に調整するための「等張化剤」、pH変化を防ぐための「緩衝剤」、点眼薬の成分が変化するのを防ぐ「安定剤」、薬が目にとどまるように粘性を持たせるよう配合される「粘ちょう剤」などが添加された目薬もあります。どれも安全性に問題はありません。
<複数の目薬を使う時>
2種類以上の点眼液を処方することがあります。2つの目薬を使う時、片方から先に差して、もう一方を使うのは5分から10分ほど後にお願いします。(水性+水性)のとき、どちらを先に使うのかをお伝えします。(水性+懸濁性)や(水性+ゲル状)、(水性+油性)、(水性+眼軟膏)のような場合もありますが、こうした場合、
水性⇒懸濁性⇒ゲル状⇒油性⇒軟膏
の順で点眼するようにお願いします。後に行くほど、目の中での滞留時間が長くなる目薬です。
緑内障の目薬の場合、こちらは朝だけ、こちらを夕方だけなど状態に合わせて細かい指示を出すことがあります。特別な指示がない限り、続けて点眼しないようにお願いします。
<そのほか>
「お父さんが眼医者でもらってる薬があったんで、それを差しといた。」という、初診時に身震いするようなお話を伺うことがあります。眼科で処方された点眼液なら市販の目薬より安全だと判断されたそうです。たまたま抗菌薬の点眼液でしたので問題はなかった事例です。市販の点眼薬も、ご家族の誰かが使用している点眼液も、それぞれの状況により効能が違うため、「ちょっと借りて点眼しておく」のが危険な場合があります。動物病院を受診するまでのつなぎとしての使用であっても使わないでください。
「じゃ、犬に貰った目薬なら大丈夫なのね。」というご質問もありましたが、こちらも同様の理由です。該当する犬や猫に処方されたもの以外の(ほかの犬用に処方された)点眼液は使用しないようにお願いします。
今日のお話はここまでです。
<目が光る>
暗いところでは瞳孔(ひとみ、目の中心にある黒い部分)が開いています。特に猫は、明るいところでは縦長に見えている部分が暗い場所では大きくまん丸になっているのがわかると思います。(猫が驚いたときにもまん丸目玉になります。)これは暗いところでは光をたくさん目に入れて、物を見るのに都合の良い仕組みです。
一方、私たちから見た場合です。山間部では夜道に車のライトに照らされてぴかっと反射する野生動物の目玉にびっくりすることもあります。田舎では外歩きの猫に出くわすこともあります。ぴかっと反射は、動物の瞳孔が開いているときに強い光源が目に入り、目の中の奥にある反射板(タペタム)に光が反射されて出てくる光です。この光は緑色に見えることが多いです。
屋内では夜でも電灯をつけるので夜道のように真っ暗ではありません。なのに光に反射して目が緑色に見えるのはどうしてでしょう。病気のために瞳孔が開いたままになってしまったり、反射が亢進している状態になっているからです。これには眼圧が高くなってしまう緑内障(後期)や、全身性高血圧由来の網膜症、また網膜そのものの病気が考えられます。
緑色の目をした猫さんですが、ここは虹彩です。
病気ではありません。
<網膜の病気>
網膜の病気で多いのは「進行性網膜萎縮症」や「突発性後天性網膜変性症」、「網膜剥離」です。
進行性網膜萎縮症は先天性の病気で、比較的若い年齢で発症します。暗いと見えにくい「夜盲」の状態から始まります。年齢も若く、まさか「視力に問題が出てきている」などとは思わないし、昼間の視力は備わっているし、進行もゆっくりなので気づかれにくいです。最近ではペットショップから購入する時点で遺伝子検査を実施してある個体もみられます。
一方、突発性後天性網膜変性症は、ある日突然に完全な視覚消失を迎えます。中高齢の犬に発症することが多いです。原因は不明で、免疫系の疾患の可能性が疑われています。
網膜剥離はぶどう膜炎や緑内障、全身性高血圧症に引き続いて発生する病態です。網膜が部分的あるいは完全に剥がれるので、出血したり充血したりしますから、「緑色に見える」時期の前には「目が赤い」時があったかもしれません。原因にもよりますが、涙が多かったり、目をしょぼしょぼさせているなど目の痛みから来る症状を伴うこともあります。網膜剥離は犬にも猫にも発生します。
<網膜の病気の治療>
進行性網膜萎縮症や突発性後天性網膜変性症では残念ながら治療法はありません。網膜剥離も早期で部分的な場合は、原因になる目の病気の治療に成功すれば視力の回復の可能性はありますが、むずかしいことの方が多いかと思います。抗酸化作用のあるサプリメントを使うことはありますが、視力回復を目的にしたものではありません。
網膜剥離の場合、炎症が起こっていると思われる段階ではステロイド療法(点眼と内服)を行ないます。全身性高血圧症に由来する場合は、血圧を下げる治療を行ないます。猫では腎臓病や甲状腺機能亢進症により全身性高血圧症が発生することが多くあります。このような病気であれば腎臓病や甲状腺機能亢進症の治療も積極的に行ないます。それでも視力を回復させる治療にはならないことが多いです。
それにしても緑色の目をした猫は魅力的です。
繰り返しますが、これは病気ではありません。
<片目の盲目>
網膜剥離は片目で起こることが多いので、こんなお話をします。片方の目だけが見えていない場合は飼い主さんは気づきにくいと思います。行動に大きな変化が現れないからです。症状が進行して、左右のひとみの大きさに違いが表れるとか、「目が赤い」という時には注目するのでわかります。あとは両目とも網膜剥離になってしまったときになってはじめて気がつかれると思います。もし両目ともおかしくなっていても片目が部分的な剥離であれば視力が残されるため、気づかないこともあります。
<この子は注意!>
コリー、シェルティー、ボーダーコリーは網膜の病気が起こりえます。柴犬、コッカスパニエル、ミニチュアダックスは緑内障の危険性を持つ犬たちです。高齢猫は腎臓病や甲状腺機能亢進症の発生が多いので注意が必要です。
暗闇で強い光が当たると目が反射します。
ミュージカル・キャッツのオープニングのようです。
<おわりに>
目の病気は一つの病気から進行して別の目の病気に変わっていく(続発してしまう)ことがあります。例えば進行性網膜萎縮症から白内障へ、ぶどう膜炎から網膜剥離へ、網膜剥離から緑内障へ、白内障からぶどう膜炎を経て緑内障や網膜剥離へという具合です。目の病気は急がなければいけないこともあるのですが、全身性の疾患のように「食べない」を起さないために「今日は忙しいから待っててね」「仕事が休みになる土曜日に行こうね」ということが起こりがちです。ひどくしないためには、「気がついたそのとき!」に来院していただくのがいいんじゃないかなぁ、とは進行した眼科疾患の視力を取り戻せないヤブな獣医さんの独り言?いえ、眼科専門医の先生でもそうお考えなんじゃないかと思います。
10月になりました。もうカレンダーの残り枚数が3枚になってしまいました。季節の変わり目で不安定なお天気が続いていた9月も終わり、お出かけに気持ちの良い陽気になりました。10月第1週にはNational Wolk Your Dog Week というのがあります。それも今日が最終日ですが。「犬と一緒にお散歩に行きましょう週間」とでも訳したらいいのでしょうか。とにかく気持ちのいい季節にはわんことのお散歩も弾みます。ただし、わんこの視力が有るのなら、のことです。
今日はわんこの視力を急に奪っていく病気、「緑内障」についてお話しします。
<緑内障というのは>
目の中には眼房水という水が入っています。眼房水の圧力が眼圧で、これによって目の張りや大きさが保たれています。緑内障は眼房水が溜まりすぎて高眼圧になり目の痛みを起こし、またゆくゆくは網膜の視神経に障害を起こすので失明してしまう病気です。
白内障は瞳が白くなる病気だから、緑内障は目が緑に見えてくる病気、と思われている患者さんもおられます。「緑になっていないから緑内障じゃない。大丈夫。」みたいな感じです。残念ですが「瞳の色が変わるので病気がすぐにわかる」という簡単なものではありません。
柴犬やシーズ、アメリカンコッカスパニエル、ゴールデンレトリーバーなど原発性に緑内障を起しやすい犬種が有ります。突然眼圧が上昇します。遺伝的な素因を持っています。目に構造的な問題があると考えられます。別の構造上の問題でビーグルは徐々に眼圧が上昇する好発犬種です。
また白内障やその他の目の病気に続発することも有りますので、人気犬種のダックスやトイプードル、チワワにも無縁の病気というわけではありません。続発性の緑内障ではこの犬種たちの発生が多いくらいです。なので、このわんこたちのご家族さんも「緑内障という怖い目の病気が有る」ことを記憶の隅に置いといてもらえるとウレシイです。
<典型的な柴犬の緑内障の場合>
年齢は7歳から8歳くらい。
急に発症し、激しい目の痛みがあります。
違和感があるため目をショボショボさせます。
痛みのために元気がなくなります。
ものすごい痛みから嘔吐してしまう犬もいます。
目の様子が変だからと顔を見てみようとするけれど、目の近くを触られるのも痛みのためにいやがります。
離れてみると、眼球がもう一方に比べて一回り大きくなっているように見えることもあります。
黒目のまわりの白い部分に血管が浮き出ていて赤く、恐怖映画の中に出てきそうな様相です。
ぱっと見た目が、濁りのために青く(~銀色に)感じられる場合があります。このときは中が見えません。瞳は見つけられません。
青くしっかり濁っていないまでも、黒目の部分がうすく白く濁っていることがあります。
明るいところに居るのに瞳がぱぁ~っと大きく開いているのに気づかれるかもしれません。そしてその大きさがそのまま変化しない(大きいまま)かもしれません。
<緑内障の病気経過>
症状を出す前にはすでに病気が始まっていて、潜伏期と呼ばれています。この時期は犬にとっては違和感が有るかもしれませんが、それを訴えることができるのかな?もし訴えられたとしてそれを受け止めることができるのかな?と思います。
次に時々眼圧が上がったり、平常に戻ったりの時期があります。「なんとなく目がおかしい」の段階です。来院されて、緑内障を疑って眼圧測定したものの異常値ではないことが多いです。ここで緑内障の治療薬を使ってしまうと後でほんとに緑内障だったかな、なんて心をもやもやさせる段階です。でも使わないで緑内障のステージを進めてしまったらもっと後悔するステージです。どちらにしても獣医さん泣かせの段階です。
その次の段階が、飼い主さんが犬の目の異常にはっきりと気づいて病院に連れてこられるときです。この段階で来られるのが一番多いです。先ほどお話ししたような症状が出ています。けれど残念なことに、たいていのこのステージで、多くの犬はすでに失明しています。
さらにこの時期を経過すると、症状があるのに眼圧は下がっています。
さらに経過したのが、私たちが「牛眼」と呼んでいる状態です。目玉がくりんと出ています。もちろん視力は有りません。
<緑内障の治療>
緑内障の治療はひたすら眼圧を下げること。それはそのまま目の痛みを取ります。そして、もし視力が残されているのであればこれを救うことになりますが、これはあまり期待できないかもしれません。
結論から言ってしまうと緑内障は「外科の病気」になるかもしれません。迅速に眼圧を下げるには点眼では時間がかかりすぎるからです。目に細い針を刺して水を抜く処置も急性期には必要な救急処置の範囲です。でもなかなか眼圧が下がらないといっても何度も針刺し処置ができるわけでもありません。しかし眼科専門医に愛犬を届けるのに急なことでうまく連携が運ぶかどうかはわかりません。やっぱり、この先のことはどうあれ、点眼による治療をはじめることになります。
もうひとつ、身も蓋もないことをいいますが、緑内障は進行性の病気です。つまり、治ることは無い。気長にいうと視力が確保できる期間をできるだけ伸ばしていく治療です。遺伝に裏打ちされた構造上の欠陥があるために発症した病気ですから、今は右だけまたは左だけの状態かもしれませんけれど、残された片方が同じような状態になるのも予想されます。もう一方が悪くまで最初の発症から1年少しというのが標準的な期間ですが、この片目は機能している期間をできるだけ長くしていきたいので、丈夫な方の目に予防的な点眼をするというのも治療の一環として必要になります。「え?悪いのは右ですけど。左に目薬をさすの?」とはよく言われます。そうなんです。けれど予防的な点眼は目に見えないので良くなっている感じがしない、やめたからといって急に悪くなるわけでもない、顔のまわりを触られるのが大嫌いで(しかも凶暴な?)柴犬に点眼をするのは、ごほうびのない作業を続けるのでモチベーションも上がらないだろうとお察しします。
<緑内障治療に使われる目薬>
目に痛みがある急な発症で、目に炎症がないとき、新しく動物用にできた白いキャップの目薬が有効です。これまでは空色キャップの目薬を処方していました。同じ成分ですが、今までのものよりも薬物濃度が高く、有効です。発症からすぐの段階では1時間ごとにでも点眼を繰り返すようにします。
もし炎症があるようなら、(目が青くなっていたり白く濁っていたりするとき)この目薬をはじめる前に、液が濁っている目薬(これも動物用です)をお願いします。この時、眼圧を下げるための目薬も併用しますが、動物用の白いキャップの目薬ではなく青いキャップの目薬です。
緑内障治療に使われる目薬は眼圧を下げることを目的としたものですが、大きく分けると眼房水を作るのを押える薬、前眼房に有る水を排出させるように働きかける薬、両方の作用がある薬が有ります。(その作用のさせ方によりもっと細かな分類があります。)それで、なかなか反応が悪いときは、一つだけでなく、二つとか三つくらい併用することになります。合剤になっているものもあります。
点眼液には1日1回と書いてあったりしますが、急性期のひどい状態を乗り越えるため、あえて1日2回から3回、またはそれ以上に頻回の点眼をお願いすることもあります。点眼液に書いてあることとお願いすることが違いますが、「先生、まちがっちゃったのね」ってことは無いです。急性期には念入りに点眼してください。そして眼圧はちゃんと下がって来るかどうかの再診は翌日とか翌々日とかすぐにお願いしています。
基本、再診日が近いというのは病状の変化が急であって、予後に不安があるときです。長期のお薬を処方できるのは状態が安定していて、予後に不安がないということです。
安定期には点眼回数は少なくて大丈夫です。予防的な点眼も同様です。予防していた方の目が怪しくなってきた場合、点眼液の種類が変わったり点眼回数が変わったりします。
<緑内障の時の点眼以外の治療>
激しい痛みと炎症を抑えるために、点滴によるステロイド療法を行なうことがあります。
視神経を守るために、全身性高血圧のときに使うお薬を服用していただくことがあります。
使用できるサプリメントがあります。
外科が必要と思われるときには眼科専門医と連携する必要があります。急性期に連携するのが難しいかもしれません。このとき眼科専門医にお願いする外科は眼球切除術ではありません。虹彩を切ったりする手術で眼圧を下げる手術です。目を守るものです。
最終段階で連携をする場合の手術は眼球切除から義眼挿入手術になるかもしれません。
<もうひとつ、大切なこと>
頸動脈に圧受容器があります。血圧を関知するところです。頸動脈を圧迫すると眼圧が上がります。興奮でも上昇します。暴れ症の柴犬が散歩の時、首輪からリードでつながれていて、ぐいぐい引っ張るのは眼圧を上げることになります。胴輪にして、しかもリードをつける部分が背中側ではなく前胸部にあるものを選んで装着してもらうのがおすすめです。前にあると勢いを制御しやすいからです。
あらかじめうちのわんこに緑内障の遺伝素因があるかどうかを調べる遺伝子検査があります。緑内障好発犬種はこの検査で陽性であったら絶対に、また遺伝子検査をしていなくても、首輪にかかる圧力を分散させると、目を守ることになります。
当院で外耳炎は、心臓病や腎臓病、アトピー性皮膚炎と並んで定期的に来院していただいている病気のひとつです。「良くなったね」で、病院と距離が離れてしまうと再発しているのが外耳炎です。
耳を振る、頭を傾ける、後ろ足で首の所を掻くのは
耳が悪くなっているサインです。
<だから、耳は悪くなりやすかった!>
耳は特殊な構造をしていることや、慢性化させる要因があるため、一度外耳炎を起すと治りにくかったり、治ったように見えて(本質的な構造の変化がないので)同じ条件が整ってしまうと再発しやすくなっています。そして悪化した状況を治さないとさらにひどくしてしまうことがあります。
① 耳の入り口(耳孔)付近には軟骨のしわしわがあります。そしてそのあたりの皮膚に凹凸ができています。しわの溝には耳垢が入ってとりにくい構造になっています。
② さらに耳の入り口から奥へ向い、耳道は曲がっています。そして耳道は狭いです。
③ 耳道の奥の皮膚表面からは耳垢が産生されています。耳垢腺は汗の腺と考えてください。この分泌物はじっとり、しっとりしています。あぶら症の犬ではねっとりしていることもあります。奥から外へ耳垢は出てくるような仕組みになっていますが、ときに耳垢の排泄を妨げられていることがあります。
④ 耳の出口を塞ぐように耳がたれている犬がいます。耳が立っている犬でも、柴犬のように耳孔付近がきゅっと縮まっていて狭くなっている犬もいます。これでは耳垢が排泄されにくいです。
⑤ 耳道に毛が生えている犬がいます。実は奥の方を覗くと、奥にも毛が生えています。この耳の毛も耳垢が外に排泄されるのを妨げています。
⑥ 耳の中には常在菌がいます。菌は温かく湿った環境が大好きなので、耳の中は繁殖しやすい状況が整っています。
⑦ それから耳の中だけに感染する寄生虫(耳ダニ)が入り込むことがあります。(犬よりは猫の方が耳ダニ汗腺は頻度が高いです。)
⑧ 異物が入ってしまうことがあります。散歩中に草の種が入ることはまれではありません。
⑨ アレルギー性の疾患があったり、内分泌系の病気でホルモン異常があっても外耳炎が二次的に発症します。再発を繰り返します。
⑩ 高齢の犬では腫瘍ができていることがあります。慢性的な炎症からくる良性の過形成のこともあるし、腺癌のような悪性のこともあります。これだとなかなか治らないと感じると思います。
⑪ 特別な構造をしているために皮膚の角化異常を起こしたり、結合組織が過形成をおこして、耳を塞いでしまうことがあります。これはすごーく悪いときです。耳の付け根を触ると耳が硬く大きくなっているように感じるかもしれません。耳の中にサザエを入れてあるかのような感じがします。
<悪くさせる要因は何だろう>
上記のような、構造的な問題はどうすることもできないわけですが、耳の毛の問題だったら、こまめなケアで毛の処理をすれば悪くなるのを防ぐことができるかもしれません。
アレルギー性の病気、たとえば食物アレルギーやアトピー性皮膚炎があると、皮膚の状態によって耳も悪化と良化を繰り返すと思います。一緒に診察していく必要があります。
甲状腺機能低下症のような内分泌的な病気があっても、耳垢排泄が滞ります。副腎皮質機能亢進症があると細菌感染を起しやすいため、外耳炎を繰り返す可能性が高いです。こうした内分泌系の病気がないかどうかは耳の診察の他、全身チェックや、血液検査を通して知ることになります。検査後、不足しているホルモンをお薬で補充する必要があります。
耳の中に異物はないか、構造異常が起こっていないかを見るには耳鏡などで耳の中を覗いて見る必要があります。異物は取り除けば済みますが、腫瘍は簡単に取り除くことができません。しっかりした治療計画を立てる必要がありそうです。
細菌やマラセチア(酵母菌)感染は耳垢を染色して顕微鏡で確認します。ひどい細菌感染では耳垢を材料にして細菌培養して、適切な抗菌薬を調べる必要が出てきます。まれにはMRSAなどの治療しにくい菌の感染があり、特殊な抗菌薬を長期間使用しなければならないようなこともあります。
このように発症の要因は何?をみていくには、さまざまな検査が不可欠です。「怪しいな」「調べさせて貰えないかな」というときがありますし、逆のこともあります。「困ったな」「調べたいけど痛みがひどすぎて検査どころじゃないぞ」というときです。まれですが耳の処置に麻酔をかけなければいけない状況もあります。耳処置に麻酔!それでも検査してきっちり調べて、しっかり処置ができれば治癒への道が開けます。
炎症が起こっている耳のモデルです。
赤く腫れ、耳垢が耳介のしわに溜まり、耳道は狭まっています。
耳道奥には耳垢が、鼓膜の先でも漿液が溜まっています。
<外耳炎の治療>
外耳炎の治療の基本は耳道をキレイにすることです。耳垢があるとそこに点耳薬を入れても良くなりません。まずは溜まっている耳垢を取り除くことから始まります。じゃぶじゃぶと洗浄しても大丈夫なわんこと、そんなことはイヤですと言い張るわんこがいます。時間をかけるか麻酔をかけるか、さてどっち?ですが、無理のない方法を選ぶことが大半です。こうして治りが悪いことになります。
耳道をキレイにしたら次は点耳薬です。たいていの外耳炎用の点耳薬は炎症を抑える薬、抗菌薬、抗真菌薬の3つが合わさっています。クリームなのか、油っぽい薬なのか、ゲル状になっている薬かの違いと少しずつのそれぞれの薬の特性の違いです。細菌感染がひどく、耳だれが耳の外まで出てくるほどになっている場合は、水性の抗菌点耳液を使います。点耳液は滴下するというよりも、耳の中に薬を入れてしばらく耳を傾けておき薬が外に出ないように保持します。耳浴といいます。
<全身療法を併用>
基本は外用だけです。でもそれだけだとちょっと不安というときがあります。細菌感染がひどいときの抗菌薬、マラセチアの増殖がある場合の抗真菌薬が主ですが、アレルギー疾患が関与しているときの抗アレルギー療法も全身療法です。内分泌疾患が隠されていたとわかったら、ホルモン剤も内服になります。
「耳が悪いけど、シャンプーしても大丈夫かなぁ?」というご質問を受けます。耳の中に水が入るのが心配で皆さんシャンプーを控えられるようです。アレルギーの関連した外耳炎では積極的に皮膚のケアを併用して貰った方が良いので、シャンプーOKですとお伝えしています。心配ならシャンプーをした日に診察にいらしてください。
多くの「治らない、再発性の外耳炎」はアレルギー関与のあるものです。スキンケアとお耳ケアはセットと考えて貰ってもいいくらいです。
<良くなってもまた悪くなる>
はじめの「耳を振る」「耳の後ろを盛んに掻く」「耳が臭う」などの症状がなくなっても、外耳炎がくすぶっています。治療は続けます。それから耳垢のたまりもなく、すっかりよくなって、「ああ、良かった!」になりますが、それからの過ごし方が大切です。
おうちでお耳ケアができるときは週に1回くらい点耳薬を入れて貰ったり、シャンプー後にお手入れをして貰ったりします。おうちケア無理っ!というときは、来てください。春のお彼岸から秋のお彼岸ころまでの季節、「夕焼け小焼け」の放送が流れるのが6時になっている間は2週間に1回くらい来院していただいてお耳チェックできるといいと思います。そして放送が5時になる秋から冬の間は1か月に1回くらいのペースです。これだと再発があってもごく初期で治療を始められるし、たいていはそこそこ良い状態で維持することができます。
まだしばらく暑い日が続きそうです。外耳炎も悪化しやすいです。
「すっかり良くなった!」その後からの過ごし方で耳の状態は変わります。外耳炎は再発しやすい病気です。だから「悪化しないように良い状態を維持させる」のが大切。ぜひ「良くても再診」をお願いします。