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僧帽弁疾患の治療

 今年も休診日にはしっかりお休みをいただいておりました。すみません。お勉強のできるセミナーなどは日曜日のことが多いのです。「お休みの日に限ってうちの子は体調を壊すわ」というわんこやにゃんこさん、いらっしゃいました。ごめんなさい。そして飼い主さんには不安な日を過ごさせてしまったこと、お詫び申し上げます。

今年のおでかけ勉強の中でも心臓病のこと、とくに僧帽弁疾患に関して自分の中でスッキリできることがありましたので、今日はそのお話。

まずは前置きが長く続きます。

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<僧帽弁疾患>
僧帽弁疾患(専門的なことばでは粘液腫様僧帽弁変性症:
Myxomatous mitral valve degeneration:MMVDといいます)は世界中の先生方が大規模な研究をされています。(VETPROOFSVEPHECTOREPICなど。)それらは進行性であるこの病気で、うっ血性心不全が発生するのを遅らせるのが目的の研究です。こうした研究の結果が発表されると推奨される治療にも変化がおこります。

実は、いつから治療を始めるべきなのか(治療開始時期)について、常にもやもやしたものがありました。私がお薬を始めたいなと考えている段階よりも少し進行したステージから治療を開始することが推奨されているからです。進行していくのがわかっている病気なのに「まだこの段階では治療を始めない。もう少し病気が進行するのを待ってから治療に入る。」というのは地域のわんこの健康を守ることに主眼を置いている町の獣医さんとしてどうなのか。エビデンスに基づいた治療にしてみれば、私が考える段階で投薬を勧めるのは「行き過ぎな治療」になってしまいます。このジレンマを国際セミナーでジョシュア先生にご回答いただけました。この答えは最後にいたします。

<僧帽弁疾患のステージ分けのこと>

僧帽弁疾患は小型室内犬にとって、中高齢になったらほとんどのわんこが罹患している病気(13歳以上の犬の85%、キャバリアキングチャールスなら100%!)と言っても良いくらい日常で診察を行なう機会がある病気です。私たちが診察する循環器病のうち、3/4くらいは僧帽弁疾患です。

進行具合によって、病期のステージがからDまであります。キャバリアキングチャールスのように(残念ですけれど)リスクが高い犬種だと、既にステージはAです。まだ初期段階で心不全兆候を出していない段階はステージBです。うっ血性心不全兆候(=肺水腫と考えても良いかもしれません)が発生したらステージC、これは過去に発生したことがあるものも含めています。さらに進行したステージDですが、ここは普通の管理では難しい段階です。ステージBは心臓の拡大があるかないかでB1B2に細分されています。
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 <研究から勧められるようになった治療法>

VETPROOF studyでは、うっ血性心不全が発生する前段階(ステージB2です)でアンギオテンシン変換酵素阻害薬(ACE阻害薬)を使うと、この薬を投与しない場合と比べて生存期間が5か月くらい延長するという結果が出ました。また、心不全兆候が発症するまでの期間も7か月から8か月くらい延長しています。一方SVEP studyでは、ここまでの差は出ませんでした。この研究では対象にしている犬がキャバリアのみでしたのでこのような結果になったのかもしれません。

これらの研究から心不全兆候が現れていない段階の僧帽弁疾患に対して70%以上の心臓病の専門医たちはACE阻害薬を推奨することになりました。ただ、あるときからこの薬だけでは希望する効果が十分に得られなくなることもわかってきました。(アルドステロンブレイクスルーと言っています。以前はACEエスケープと言っていました。)それで抗アルドステロン薬であるスピロノラクトンを加えるとどうなるだろうか、という研究も始められました。昨年Hezzell先生たちは、「スピロノラクトンはステージB2の左心拡大を遅らせることができる。」と発表し「加えると良いぞ!」という結論になったわけです。小型犬は複数の薬を飲むのが苦手のわんこが多いです。今ある(ベナゼプリル+ピモベンダン)と同じような(ベナゼプリル+スピロノラクトン)の組み合わせの薬(合剤)が早く出現して欲しいです。(期待しています。エランコさん!)

実は猫では慢性腎臓病のために、アルドステロンブレイクスルーを起こしにくいとされているアンギオテンシンⅡ受容体阻害薬であるARB(商品名セミントラ)が発売されています。犬ではまだ健康犬でのデータしかないのですが、いずれ心臓病の犬でも研究結果が出るのではないかと心待ちにしています。もちろん犬用のお薬の販売もです。(こちらはベーリンガーさんに期待します!)

ピモベンダンは当初「不整脈を招くのかも」とか「急な休薬をすると突然死するのでは」ということで使用に際して神経を使った薬です。EPIC studyでは、ピモベンダンを投与された犬は投与されなかった犬に比べて心不全に陥るまでの期間が15か月くらい延びるという結果が出ました。これはQOLの高い期間が長く続くということです。それからこれまで言われてきた現象も、ピモベンダンを飲んでいようがいまいが有意な差はないということもわかりました。それで、使い始めの時期は以前よりも早いステージB2からになりました。(以前はおっかなびっくりこの薬を使う感じでしたが、今はいい薬だなぁ、頼もしいやつだなぁという感じで使わせて貰っています。)

そのようなわけで僧帽弁疾患はステージB2になったら、ACE阻害薬、ピモベンダン、スピロノラクトンの3種類のお薬を処方するのがスタンダードになりました。

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<ステージB2は範囲が広い>

ステージB1B2は、心雑音が聴取されるだけで、画像検査でも特別心臓は大きくなっているとは認められませんでした(B1)、と心雑音があって画像検査してみたら心臓が拡大しているのがわかりました(B2)という「心臓が大きくなっているかどうか」の差です。この大きさも、「計測してみると基準を超えるよね」から「一見して、でかいでしょ!」まであります。

「検査したら大きいのがわかったから、B2のステージ」と分類した中でも、「咳が出ます」「散歩をしたくなくなってる」「ピンポーン、でダッシュして玄関に行ったのに今は知らんぷり」という犬もいる一方で、「え?何ともないよ。今までと変わらないけど。うちの子の心臓でかかったの?」という犬もいます。

それで、ステージB2でも飼い主さんが感じられる明らかな症状が無い場合は1種類または2種類のお薬から始めることにしました。お薬が決まったからといって、そのままではなく、定期検診に来ていただき、心臓の様子を知るため血圧測定をしたり、もっと頻度は低くなりますけれど(少なくても1年に1回くらいは)血液や画像の検査で進行状況を診ていきたいと思っています。徐々に進行していく病気ですので、1種類から始めたお薬も2種類になり、スタンダードの3種類にと、足し算で増えていくことになるかと思います。

時々「えっ!心臓病の薬を飲ませているのに悪くなっちゃったの?」って言われまして、心苦しいのですが、お薬をのんでいても病気は進行していきます。進行を遅らせ、QOLの高い日々を1日でも長くさせるのを目標に置いた治療です。ご了承ください。また「これだけ飲んでるのに、なんか効かなくなっちゃったのか、近頃咳が多い」というときもあります。薬を増量をしたり、同じACE阻害薬の仲間でも別のものに変えたりするなどで対応します。また咳の原因が気管や気管支にあることもあり、こちらのせいだなと思われるときは呼吸器に対して働くお薬を別に追加します。これだけ飲んでいるからもう無理なんだろうと思わないで、いろいろ日常の様子をぶつけてください。

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<どうしてB1で治療をスタートさせないの?>

心雑音があるけれども心拡大がないときには、(のちのち心臓が大きくなることがわかっていながらも!)代償機能が働いているので身体に任せる。だから治療介入しない。というのが、現段階でB1に投薬不要の理由です。これが長いあいだ私をもやもやさせていました。でも「行けるところまでがんばれ。だめになったら応援してやる。」でいいの?という疑問というか不安ですね、これはとても簡単に解決されました。

「エビデンスがないから。」

たった一言でした。つまり、
B1から治療を始めたグループとB1から治療を始めていないグループとを比較検討した研究がないということです。「理論的には治療してもおかしくはない。」ということでしたが、エビデンスがない治療に関しては「飼い主さんの同意が得られれば、理屈は合っているから問題がないよ。」でした。

 <じゃ、始めてみるの?>

私の出した結論は、「NO」です。

もし処方するとなると、スタートはACE阻害薬。これで長生きになります。けれど長期服用によってアルドステロンブレイクスルーを起こしやすくなるでしょう。それと、「将来の不都合」に合わせていても「今の不都合」に寄り添っていません。今は不都合がないのですから。逆に投薬という不都合を飼い主さんに強いることになります。もうしばらく様子を見ることにします。ただし、心臓が大きくなっているという確認がなくても、全身性の高血圧が認められたら、そこは腎臓を守るために使います。

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<エビデンスに基づいた治療>

結局、エビデンスに基づいて診療をするとはいうものの、必ずしも教科書通りのことにはならず、この治療が「病気の犬や猫」に対して利益があるのか「飼い主さん」にとってはどうだろうか、で判断します。でも基本の指針をわかった上でアレンジすることになると思います。だって、人生いろいろ、わんこもにゃんこもいろいろ、ですものね。

 

さて、今年も残すところ今日明日の2日となってしまいました。お忙しい中、この長いブログにお付き合いくださった皆さま、本当にありがとうございます。

今年、いろいろなことが降りかかってきた飼い主さん、年末はことさらお忙しかったことと思います。体調を壊されてはいませんでしょうか。今年一年、お疲れさまでした。ほんと、頑張りましたよ。こちらの画像を送らせていただきます。ご笑納ください。

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来年も、小さく芽生えた病気の疑問を晴らすため、お出かけ勉強は続けるつもりです。すみません。でも、必ず診療でお返しします。

 年末のご挨拶を直接言えなかった皆さま、あらためまして。本年のご来院ありがとうございました。そして、ブログを読んでくださった皆さま、おつきあいありがとうございました。

 どなたさまも、今年の苦労はこのまま集結しますように。そして晴れて明るいお正月を迎えられますように。それから来年はもっともっと良い年になりますように。 合掌

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麻布の「麻」展

母校で開催されているイベントのご紹介です。
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麻布大学はもともとは、東京の麻布にありました。
今は神奈川県相模原市。
東海道新幹線の新横浜駅から30分ほどの距離にあります。

名前、「麻の布」ですよね。
確かに「麻」というと「麻の紐」とか夏向けの布である「麻」を想像させてくれます。
いわゆる「麻」の「茎」を利用しています。
繊維の部分です。
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あとは「麻の葉」の模様でしょうか。
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魔よけの意味があるようで、赤ちゃんの産着にはこの麻の葉模様のものを着せます。
若い頃はこんな昔っぽいダサいのを子供に着せるのには抵抗がありました。
どのこも一度は着せましたけれどね。
今は麻の葉模様のハンカチなど積極的に持つようにしているんですから、歳って怖いです。


さて、麻の実はこんなもの。硬い殻を割って中の実を頂きます。
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胡桃のような柔らかくて香ばしい味わいなんだそうです。
今、「ヘンプ」は健康食品として人気のようです。
ロハスってやつでしょうかね。

そんな麻の実を使ったお料理の紹介本も展示してありました。
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ほほー。


「麻の実」は消化吸収のよい良質な植物性たんぱく質、必須脂肪酸をバランスよく含み、現代の食生活に不足しがちな必須ミネラル(鉄・銅・亜鉛)が豊富なんだそうです。

いわゆるシリアル。
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それからオイル。
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このあたりはなるほどねー。でした。


さらにコーヒーにも入ってる。
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えっ?国産のビールも、麻から?
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おやまぁチョコレートになっていたりもするんですか。
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驚きの連続です。

「麻」というと想像するのが「大麻」の「麻」であったり、「麻薬」の「麻」であったりするわけですが、なんだか想像とは大きく違うようですね。
「麻」は「茎」は繊維として、「実」は食用として利用されています。そしてこれらは「大麻取締法」とは無関係な部分です。こわいのは「花穂」と「葉」の部分。ですから食べてもオカシクなったりはしないので大丈夫ですよ。

「ポピー」の花が大好きなわたしですが、ヒマラヤには「青いケシの花」があるらしく、いつか、満開のブルーポピーを見てみたいと思っています。

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麻と私たちは古く、縄文時代からの付き合いがあるようです。
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あの、縄目模様は麻からできていたのですね。


もしお時間が取れたら、どうぞ大学へお越し下さい。

http://www.azabu-u.ac.jp/topics/detail2012/hemp.html

増井光子氏のデッサン

 増井光子氏を知らない方はいらっしゃらないと思います。
そのくらい、有名な方です。
一時、教科書にも彼女の文が載っていました。

実は彼女は母校の大先輩です。
そう。彼女にあこがれて、獣医師を目指した女の子もいるでしょうし、
是非とも後輩になりたくて、母校を志望された女の子もいることでしょう。

あ、私は、ただの偶然、というか。
あぁ。かの偉大な先生は、ここのご出身だったのか!
と後で知ったくちです。
しかも、外科研究室の大先輩だったなんて。
うはっ。

その彼女の専門は、野生動物、というか動物園動物とでも申しましょうか。
彼女のご活躍の記録が、小ホールに写真で展示してありました。
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が、私の目に留まったのは、緻密なデッサンです。
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私の学生時代、1年次から解剖学実習がありまして、
その第一歩は骨の標本の書き写しでした。
美術大学の学生さんよろしく、スケッチブックを脇に抱え、
6B鉛筆と消しゴムがペンケースにおさまっています。
決してシャーペン1本なんてもんじゃありません。
そして、丁寧に骨の絵を描いていきます。
ざらざらした面、突出したところ、溝になっている部分、小さな穴、…
骨はよくよく見るととても複雑なかたちをしています。
それらを画用紙に描きとって、それぞれの名称を記入していくのです。
日本語とラテン語で。
もちろん、全部、覚えるのです。それが目的ですからね。
絵心なんかないような学生ばっかりです。
それでも日が暮れるまで、いえ、日が暮れても、
描きあがるまで黙々と続けます。

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彼女のデッサンを見ていて、そんなむかーし昔のことを思い出しました。

残念ながら、既に展示期間は終了してしまったので、
実物を見ていただけないのが残念です。

体表のデッサンだけでなく、臓器の絵も緻密に描かれていました。
遠い日、どんなことを考えながら作業していたのでしょうか。
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院内セミナー

春から秋くらいの間、平均すると月に2回くらいですが
院内セミナーを開催しています。
土曜日の10時から1時間程度です。

主に企業の先生やMRさんに講師になっていただいています。
身近な病気の話題や、
シャンプーや歯みがきなど、実際におうちの方が実施するときのテクニック的なもの、
何気なくやっていて受身的になっているワクチンやフィラリアについてはおさらい的な内容で。

先週土曜日は、ねこちゃんに多い慢性腎不全についてでした。
暑い中、セミナーにご参加いただきありがとうございました。
そして、熱心に質問等もあり、
ハートさんの患者さんの動物に対する愛情が
講師の先生にひしひしと伝わったようです。

講師の先生方に、
「ねっ、うちの患者さんたちって、一生懸命で素敵でしょ」
って、自慢できるのが、セミナー終わってうれしいときなのです。

ま、そんなわけで、
今年もまだまだ続きます。
ハートの患者様向けセミナー。
ぜひご参加下さい。

日程はホーム画面、Newsのところをご覧ください。

ハート動物病院HPはこちら→http://heart-ah.com/

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プラスティネーション

獣医学部棟のエレベーターホールには展示スペースがあります。
こんな感じで、WEBでも見られるようになっています。

http://www.azabu-u.ac.jp/webmuseum/ でも、しばらくこのページは更新されてないみたい。

今は血管内に合成樹脂を流して各臓器の血管分布を立体的に分かるようにしてある標本、プラスティネーションが展示されています。

学生時代、解剖学実習は骨の標本のスケッチから始まりました。スケッチブックと鉛筆と消しゴム。骨だけ描く美大生だ、なんてひそかに思いながら描いたものです。そしてラテン語が解剖の基本用語。日本語と英語、ラテン語の3つを同時に覚えました。骨の名前だけでなく、くぼみ、張り、穴、ざらざらの面などもすべて名前がつけられていて、絵に名称を記入していきました。

そんな思い出の骨学。その時の先生が二宮先生でした。先生はもう退官されてしまわれましたが、立派なお仕事の功績はこうして形に残りました。

血管内に樹脂を注入するという技術は大雑把なものならばさほど技巧的ではないのかもしれません。娘がアメリカで受けた生物学の授業では、「動脈は赤く、静脈は青く」された子豚の標本で解剖を実施したそうです。(逆に彼女はそれを見て実際の血管が赤、青に見えるのだと勘違いしていましたが。)

しかし、この標本を見ると、プラスティネーションがいかに芸術的であるか、誰でもが感嘆するに違いありません。

キリン腎臓タイトル 
キリンの腎臓です。標本にフォーカスを合わせますね。↓これです。

キリンの腎臓 

黄色いのは腎盂。ピンクの部分は血管です。
糸球体で濾し取られた原尿が尿細管を通過する間に、余分な水分は再び身体に戻ります。そして濃い尿になって集合管を通過し、この黄色の腎盂に集まってきます。 腎臓から尿管を通って尿は膀胱へ集められます。

トドの腎臓 
↑こちらはトドの腎臓です。構造が違いますね。

今週はこんな思い出のお話で終わります。

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プロフィール

ハート動物病院

Author:ハート動物病院
ハート動物病院です。
〒445-0062
愛知県西尾市丁田町杢左51-3
TEL/0563-57-4111
オフィシャルサイト:http://www.heart-ah.com/

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