アレルゲン特異的IgE検査・結果を生かす

アレルゲン特異的IgE検査を行った後、どのように治療に生かしていったらよいのでしょうか。


 IgE検査の結果から治療に結びつくこと>

検査を行って、アレルゲンが明らかになり、この結果をどう生かしたらよいのでしょうか。

例えばアレルゲンが環境因子であるときにはこれらを避ける生活に変更します。じゅうたんやカーペットの材料にアレルギーを示していれば、床材を変えます。ぬいぐるみのパンヤ(中綿)に反応していればぬいぐるみと遊ばせません。取り上げましょう。コットンに反応を示している時はシャンプー後のタオルドライに木綿のタオルは使いません。洗車後の拭き取りによく使われる化学繊維タオルで拭くようにします。

植物の場合、屋外で飛ぶ花粉にどう対処しても難しいと思われるかもしれませんが、散歩から帰宅したときに清拭するなどすれば付着した花粉量を減らすこともできます。また交差反応といって、特定の植物に対して果物や野菜なども同じように反応することから、代表的な交差反応を示す果物などは避けなければいけないことが分かります。

これらはほんの数例ですが、以上のような対策を立てることが可能になります。

詳しくは個々の結果に応じた対処方法を、結果用紙とともに個別にお話しさせていただきます。

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<原因療法へ>

さらに、この結果から個体オリジナルの治療薬をオーダーメイドすることができます。むしろ、このために検査はあるのだ、というのが学術的かもしれません。「アレルゲン特異的免疫療法」(Allergen-specific Immuno Therapy : ASIT)です。

お腹の皮膚を剃って少量ずつの抗原を注射し、体の反応を見る「皮内反応試験」を実施し、それに基づいて薬液を調合し、今度はそれを「皮下注射」していく治療があります。「減感作療法」といわれる方法ですが、これがアトピー性皮膚炎の治療におけるゴールドスタンダードです。以前から、そして今でもこれが本筋です。

けれど「毛を剃って皮内反応検査をするのはいやだな」というのがありました。確かに、毛を剃ったり、(ちょうどツベルクリン反応が幾列にも起こっているかのような)陽性反応の赤い腫れをみるのは痛々しいです。こういう場合、別の選択肢になるのがアレルゲン特異的IgE検査です。こちらは血液を採取し、その血清から調べる方法ですので、動物の体には跡が残ることも無いのです。

検査の結果は皮内反応同様に信頼のおけるものが出てきます。

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<減感作療法へ>

少々難しい話になります。どのような仕組みで減感作療法を行うと痒みがなくなるのかについてです。

特異的IgE抗体は肥満細胞の表面に付着していて、体外から抗原が侵入してくるとこのIgE抗体に結合し、アレルギー反応が始まります。肥満細胞から痒みを引き起こす化学物質の入った顆粒が飛び出し、炎症をおこすのです。ところが皮内注射をしているうちにIgG抗体ができ、アレルゲンが侵入してくると、IgGが抗原よりも先にIgE抗体に結合してしまうため、抗原反応が起こらなくなります。それでアトピーの反応を根本的になくすことができるのが「減感作療法」です。

現段階ではアトピー性皮膚炎は完治できる病気ではありません。特効薬もありません。今私たちが行っている治療はアトピーの犬たちが少しでも快適に過ごせるようにしてやること、つまり痒みからの解放で、対症療法になります。アトピー反応を起こらなくする「減感作療法」は唯一の原因療法になります。

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<具体的方法と効果>

「減感作療法」は検査結果に基づいて作られた個別のアレルゲンを薄めて作られた薬液を投与するものです。

皮下投与は注射です。はじめは1日おきに、その後は1週間おきとか、徐々に間隔を広げていきます。

家庭で注射を行うのが難しい、という場合、別の選択肢として舌下投与もあります。これなら治療ができそうだ、と思っていただけるかもしれません。舌下投与の場合は毎日2回の投与が必要ですが、効果は皮下注射と同じくらいです。

「皮下免疫療法」(Subctaneous Immuno Therapy : SCIT)に対し、「舌下免疫療法」(Sub Lingual Immuno Therapy : SLIT)とよばれています。

いずれも即効反応があるわけではなく、この免疫療法で痒みが消失するまでには早くて3か月、おそらく1年くらいはかかると思われます。この間はいつもの抗炎症治療やそのほかの治療(細菌感染が起これば抗菌療法を行うなど)も必要になります。

だいたい1/3のグループはすぐに良い結果が出てきます。また1/3のグループもハイシーズンを除いてはこれまで使っていた薬を手放すことができるくらいには反応します。残る1/3のグループには全く反応が起こらない、というのがおおよそのデータです。

それでも1か年は治療をあきらめずに継続します。また1年が経過した後も、フォローアップやその時々に応じた治療が(それまでの頻度に比べると間が開くかもしれませんが)必要で、全く病院に来なくても大丈夫ということにはならなそうです。

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<夢のような治療方法ではないけれど>

唯一の原因療法ですが、「これではこれまでの通院回数や治療法とあまり変わりはなさそう」と思われたかもしれません。

今の段階では動物の不快な思いを改善し、生活の質を高めるのにひたすら「ステロイド療法」を行っています。手っ取り早くて、安くて、効果があるのだから、ついステロイドに手が延びてしまうし、なかなか縁が切れないのです。けれどステロイドのお薬は上手に使いこなさないと副作用があります。ですから、ステロイド以外で効くものがあれば、素晴らしいことだし、またそれを使うことで少しでもステロイドの量を軽減させることができるのならば使う価値があるわけです。

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CADのガイドライン>

現在、犬アトピー性皮膚炎(CAD)の治療のためのガイドラインでは、薬浴と局所に使用するステロイド療法が推奨されており、(個人的にはコルタバンススプレーがお気に入りです)全身的な経口投与は必要な時に追加する方針です。

また「アトピー性皮膚炎を悪化させる因子を探求し、可能な限り回避、除外させる」という治療法はIgE検査とそれによって分かったアレルゲンの回避のことです。これまでに確認された悪化因子にはフード、ノミ、環境中のアレルゲン、ブドウ球菌などの細菌、マラセチアがありますが、これらすべてをこの検査で調べることが可能です。

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<痒みを引き起こす様々な反応>

犬アトピー性皮膚炎の病態生理学的メカニズム、というと難しいですが、どのようなものがどのように作用して痒みが引き起こされているのか、多くの研究者たちによって調べられており、これまで知られていないことも分かるようになってきました。

犬アトピー性皮膚炎の原因はIgEの関与すること、という定義がありますが、発症には様々な要因が関わっています。遺伝子の問題はもちろん、皮膚のバリア機能の低下も大きな要因の一つです。皮膚バリア機能が低下していると抗原は皮膚の小さな穴から容易に体内に侵入してきます。また痒み反応には、アレルゲンを捉えた肥満細胞のほか、血液中の白血球(抗酸球や単球、リンパ球)も関与しています。これらは細胞同士の情報交換信号である「サイトカイン」をたくさん放出し、炎症反応を促します。これらのサイトカインの中には神経細胞を刺激するものもあります。単にアレルゲンが侵入したことだけでなく、温度が高まったとかいうちょっとした変化に、掻き行動が加わり、痒みの連鎖反応を引き起こしてしまうのです。お風呂上がりの痒み、冬季に外から屋内に入ったときの痒みなど、それを無意識に掻き始めて、さらに痒みが激しくなるのがこの痒みのサイクルで、「ヤーヌスキナーゼ経路を介した神経刺激」です。

ヤーヌスキナーゼ(Janus KinaseJAK)シグナル伝達経路をブロックするヤーヌスキナーゼ阻害薬は抗リウマチ薬として2013年に人体薬で承認が得られています(トファシチニブクエン酸塩)。海外ではすでにこのJAK阻害薬をアトピーの犬の治療に使われています。日本でもZ社さんが承認を取得されています。(商品名:APOQUEL・アポキル錠)(薬品名:オクラシチニブ)近いうちにご紹介できる日が来ると思います。

 

アトピー性皮膚炎とIgE検査のすすめ、今回でお話はおしまいです。

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アレルゲン特異的IgE検査

 暑さ寒さも彼岸まで、っていいますね。

暑さが遠のき、空にも植物にも秋の気配が感じられるようになりました。多くのアトピー性皮膚炎の犬たちも、春の彼岸から秋の彼岸ころまでが痒みの強くなる季節で、お彼岸を過ぎるとすーっと痒さが遠のいていくようです。締めくくりの秋に悪化する子たちにはキク科植物とイネ科植物、夏に繁殖したダニの死骸がつらさを引き起こさせることが多いようです。

 

さて、アトピー性皮膚炎と診断した犬たちに(猫も同じですが)、次のステップに進むため、アレルギーの検査をおすすめしています。今日はこのアレルギー検査についてお話をしようと思います。

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今月の掲示板はアトピー性皮膚炎の検査のご紹介です。
 

 

<診断があって検査が付随する>

おおよそ検査というものは診断の道筋をつけるために行われるものですが、この検査は先に診断があって、そのあとの検査になります。

痒みを伴う皮膚炎には

①細菌や寄生虫の感染に伴った皮膚炎

②アトピー性皮膚炎(犬アトピー性皮膚炎:Canine atopic dermatitis:CAD

③食物有害反応(Adverse food reactions : AFR

があります。

食物有害反応は、別の動物が食べても害のない食物(や添加物)をその動物が食べたときに、嘔吐や下痢をする、便の回数が多くなる、皮疹(じんましんのような)が出るなどの困った症状を出すもので、免疫が関係しているもの、いないものがあります。免疫と関係がないものは食物不耐症と呼ばれますが、免疫と関連があるものは過敏症と呼ばれます。食物不耐症では皮膚の痒み反応は起こりません。「食物過敏症」は従来「食物アレルギー」と呼ばれていたものと同じ、と考えていただいて結構です。

アトピー性皮膚炎と食物有害反応の皮膚炎は臨床症状がそっくりで見分けはつきません。また食物有害反応があるとアトピー性皮膚炎を悪化させる可能性があるといわれていますが、病態は解明されていないため今はまだ分からない段階です。 

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アレルゲン特異的IgE検査



<アトピー性皮膚炎の診断>

国際的に支持されている犬アトピー性皮膚炎の診断基準があります。2010年、Dr.Favrot が発表し、The International Task Force on Canine Atopic DermatitsITFCAD:犬アトピー性皮膚炎国際調査委員会と訳すといいのでしょうか。International Committee on Allergic Diseases of Animals : ICADA のホームページに関連する報告がまとめられています。)によって新たに支持されました。臨床症状から判断するものです。これは1000頭以上の統計データを解析して評価されたもので信頼度は高いのですが、それでも100%ではありません。以下の8項目のうち5項目を満たせばアトピー性皮膚炎である感度は85%、特異度は79%。6項目を満たせば感度は58%ですが、特異度は89%です。感度、特異度はそれぞれ、アトピー性皮膚炎と診断するのに見落としをしない確率、他の病気なのにアトピーと診断してしまうことがない確率、と置き換えることができるでしょうか。

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アトピー性皮膚炎と食物有害反応での免疫の仕組みの違いです。
 



診断手引きの
8項目ですが、原著をやさしい言葉に変えました。

1、はじめて発症したのは3歳未満のとき。

2、多くは室内ですごしている。

3、グルココルチコイド(お薬です)を投与すると痒みが減少する。

4、皮膚に病変が見つからないけれど痒みがあって診察に行ったのが始まり。

5、前足に皮膚病変がある。

6、耳に皮膚病変がある。

7、耳の辺縁はおかしくない。

8、体の背中の方はおかしくない。

少々分かりづらいですね。


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検査の具体的な進め方です。
 

 

<典型的なアトピー性皮膚炎は?>

アトピー性皮膚炎の診断基準に基づかなくても、「こんな感じがアトピー性皮膚炎ですよ」っていうと「そうそう、それそれ、当てはまるわ!」ということになると思います。挙げてみます。

1、皮膚に痒みがある。

2、皮膚にぽつぽつ、ぷっくりの膨らみ、赤い紋々がある。がさがさがついている。

3、慢性でずっと続いている。または良くなったと思うとまたぶり返す。

4、はじめて発症したのが3歳にならないとき。

これらはすべて当てはまっているとアトピー性皮膚炎です。


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結果はこのように返ってきます。



それから皮膚炎の起こる場所です。
ちょっと細かくなります。

1、目の周り。口の周り。

 ここは毛の密度が低くて皮膚が赤くなっているのが分かりやすい部分です。さらに顔全体を床でこすったり後ろ足で掻くため、頬の毛もまばらになり地肌が見えたりします。また明らかな脱毛になっているのもわかるかもしれません。

2、耳介の皮膚と外耳道。

 耳介の皮膚は赤く、ぽつぽつを認めることもあります。特に外耳炎は繰り返して発症します。耳垢は茶褐色でねっとりしていませんか。黒色でしょうか。染めて検査するとマラセチア(酵母菌)や細菌を発見することがあります。

3、前足:わきの下、ひじの内側。

  後ろ足:お腹側の太ももの付け根、かかと近くの内側部分。

 左右両方の内側の病変が中央方向に広がって、胸やお腹のところでつながっていることもあります。赤いポツポツや斑ができたりします。

4、足先:甲の部分。

 毛が薄くまばらになります。地肌が見えたりします。

5、足の先:指の間、足裏パットとパットの間。

 赤くなります。さらに舐めて毛が抜け、つるつるしてきます。じっとり濡れたようになっていることもあります。慢性化すると黒ずんできます。

6、後ろの脚:太ももの内側、太ももの外側、太ももの後ろの方。

 ボツボツや赤い斑が出ることが多いです。

7、お腹。

 毛が薄く抜けやすいところです。赤いポツポツや斑がよく出ます。

8、陰部の周辺、肛門の周り。

 赤くなりやすいところです。毛が抜けて皮膚があらわになっていることもあります。この部分は舐めやすい部分で、慢性的に舐めていると皮膚が黒く厚くなり、表面に粉をふいたようなものが付着することもあります。

9、わき腹。

 後ろ足で掻くことができる左右のわき腹は慢性化すると黒ずんだ皮膚が象の皮膚のように厚くなってきます。


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アトピー性皮膚炎についての冊子も掲示板近くに下げておきました。
 



<食物有害反応は?>

アトピー性皮膚炎と食物有害反応の過敏症とは見分けがつきません。本当にそっくりさんです。でも、もし次のようなことがあったら、かなり食物有害反応を疑うことになります。

1、発症したのが1歳前。

離乳食開始と同時に起こってきている場合もあるくらいです。

2、季節を問わず1年中痒みがある。

 アトピー性皮膚炎でもひどくなると年間を通じて痒みがあるといわれています。

3、ウンチがゆるい。13回くらいの排便回数がある。

 これはアトピー性皮膚炎ではみられることのないものです。

 

このような犬で、

1、耳。

2、足の先。

3、太ももの付け根の内側からお腹にかけて。

4、肛門周囲。

5、わきの下。

に痒みの中心がある場合は食物有害反応も併発している可能性は濃厚です。

 

さらに、強く痒みを抑えることができるはずの「グルココルチコイド」を使っても、なんだか切れが悪い。薬を飲んでいるのに痒みをうまく抑えられない。ということがあれば、ますます疑いは濃くなります。

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こちらはIgE検査のパンフレットです。
 



<アレルゲン特異的IgE検査>

このような痒みと皮膚や耳の病変が何から起こっているのかを調べたいとき、アトピー性皮膚炎であれば「アレルゲン特異的IgE検査」が有効です。

当院で採用しているのは「スペクトラムジャパン社のSPOT TEST」です。92種類のアレルゲンを一度に検査します。

この検査でも食物についての項目はありますが、食事性のアレルギーにはIgEが関与するものとリンパ球が関与するものがあるため、食物有害反応が疑われる場合はさらに「リンパ球反応検査」を実施して避けるべきアレルゲンを明らかにしていく方が有益です。


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今月のハートニュースはスクリーニングの血液検査と血液を材料にしたそのほかのおもな検査についてです。

窓際の方にかけてあるのは昨年1年分のバックナンバーです。
 

今月の掲示板はIgE検査についてです。お時間がありましたら、来院の折りにご覧になってください。

次回は検査結果をどのように生かしていくのかについておはなしします。

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皮膚病とシャンプー療法

 本格的な夏がやってきました。日本の夏は湿度が高く過ごしにくいですね。この気候で皮膚病の発生率はぐぐーんと高くなります。今日は皮膚病とシャンプー療法についてお話します。

 

 

<痒い皮膚病だとどんなふうになりますか?>

犬は「痒み」のために

①皮膚をかく

②皮膚を舐める

③壁などに痒いところをこすりつける

という行動を起こします。

また炎症を起こした皮膚は

④赤くなっている

⑤ぽつぽつした発疹ができている

⑥ただれて表面がじくじくしている

⑦毛が抜ける

などの変化があります。

 

 

<痒い皮膚病の原因は何ですか?>

犬の皮膚トラブルのうち、痒みがでるのは

1.細菌や真菌(糸状菌)、酵母菌(マラセチアなど)等による感染症

2.外部寄生虫(ノミ、マダニの寄生・皮膚疥癬症・毛包虫症など)によるもの

3.アレルギー(食物アレルギー、アトピーなど)によるもの

です。

痒みではないのだけれど、舐め舐めしてしまうのが

4.心因性皮膚炎

で、特に痒みはないけれどフケが出たり脱毛したりする

5.ホルモン性皮膚炎

は病変が派手になってくると「痒そう」に見えるかもしれません。

皮膚病の原因を特定することは簡単ではありません。

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ワンちゃんの皮膚炎

 

 

<犬の皮膚の構造>

犬の皮膚は人と比べて構造が違うため、皮膚炎が起こりやすく、また痒みも出やすくなっています。

1.皮膚が薄い

 犬の皮膚は人と同じ表皮~真皮~皮下組織の3層構造をしています。表皮の外側は「角質層」で外界からの刺激や乾燥などからからだを守るバリアの働きをしています。犬はこの角質層の厚みが人の1/5程度、とてもデリケートなのです。

2.弱アルカリ性

 人の皮膚のpHは弱酸性。でも犬の皮膚のpHは弱アルカリ性で細菌などの病原体が繁殖しやすい環境になっています。

3.皮膚のターンオーバーが短い

表皮の一番下の層(基底層)から角質層までは、常に新しい皮膚細胞が作られて表面へ押し上げられ最も表面のところではがれおちるしくみになっています。これがターンオーバーです。この周期が人では28日、犬は20日くらいです。この周期に乱れが起こり短くなると、新しい皮膚細胞がつくられないままフケが増えることになります。フケは細菌の増殖をすすめてしまいます。

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皮膚のケアって大切なんだね。

 

 

<皮膚バリア機能が低下する>

こんなかんじで皮膚表面が滑らかではなくなり、細胞と細胞の間の脂質複合体が減少してくると皮膚の水分は外に出ていき、皮膚が乾燥した状態になります(ドライスキン)。皮膚バリアが低下した状態です。

こうなるとアレルゲンが侵入しやすくなり、それによって炎症が起こります。皮膚は赤くなったり、痒み物質がここに集まってきて、犬が掻くことになります。

 

 

<アトピー性皮膚炎のトータルケア>

アトピー性皮膚炎は原因物質を特定することも難儀ですが、分かっていても完全に排除することはできないため、完治が難しい病気です。一生、じょうずに付き合っていく必要があります。むやみに痒みを抑える薬に頼っていると、年齢を重ねていくうちには薬の好ましくない作用が少しずつ表れて、体調を崩してしまうことも考えられます。

そこで、いろいろな治療法を組み合わせて、できるだけ快適な生活が送れるようにケアしていく必要があります。こうした組み合わせ療法をトータルケアと呼んでいます。トータルケアの中には次のようなことが含まれます。

①こまめにお掃除をしましょう。

 これは家の中のアレルゲンであるハウスダスト(ほこり)やハウスダストマイト(家ダニ)などを減らすことができます。

②適度な運動でストレス発散しましょう。

 ストレスとアトピーの悪化は人でもいわれていることです。ストレスの無い生活は免疫力を高めます。

③低アレルゲン(またはノンアレルゲン)フードを与えましょう。

 食事由来のアレルゲンをなくすためです。

④シャンプーで皮膚を清潔に保ちましょう。

 皮膚の状態を良好にし、バリア機能を高めることができます。また被毛に付着したアレルゲンを流すこともできます。

⑤指示どおりにお薬を与えましょう。

 良くなったらやめる、悪くなったらまた始める、という方法ではトータルケアになりません。

さて、トータルケアの中でも皮膚に直接アプローチするシャンプー療法はとても効果のある治療法です。「めんどくさい」と思わないで積極的に行っていただきたいと思います。夏はシャンプー後の乾燥も早く、比較的楽に治療が進められる時でもありますので、ぜひこの機会におうちの方にはシャンプーテクニックを身につけていただき、愛犬にはシャンプー慣れしてもらえるといいな、と思います。

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薬用シャンプー
 

 

<薬用シャンプーもいろいろあります>

薬用のシャンプーは皮膚の状態により使い分けることが大切です。

①抗菌シャンプー

 細菌や酵母菌が増えている時、それによる害があるときは抗菌性シャンプーを処方しています。

②抗脂漏性シャンプー

 ふけやかさぶたが多いとき、べたべたするときは抗脂漏性シャンプーをおすすめしています。

③保湿性シャンプー

 皮膚が乾いてカサカサしている時におすすめしています。

保湿剤の併用をおすすめすることもあります。

④止痒性シャンプー

 痒みが強いときに。

皮膚の状態は変化するので、「ずっと前に処方を受けたシャンプーが好きだな」といっても効果のあるシャンプーを処方しますので、よろしくお願いします。

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今月の掲示板です

 

<薬用シャンプーの作用>

薬用シャンプーは皮膚に有益な作用があります。

①皮膚の洗浄

 アレルゲンを洗い流し、アレルギー症状を引き起こすリスクを減らすことができます。

②炎症反応の緩和

 微生物が皮膚に定着するのを防ぎ、皮膚表面で炎症が起こるのを抑えます。

③皮膚バリア機能の修復

 不足している細胞間の脂質複合体を補い、剥がれやすかった細胞をきれいに並べることができます。皮膚バリア機能が修復します。

④皮膚の保湿

 保湿効果で皮膚をガードし、アレルゲンが皮膚から侵入するのを防ぎます。

このようにして痒みからからだを守っていきます。薬用シャンプーは定期的に(できるだけ短いスパンで)続けると、さらに効果が高まります。

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薬用シャンプーの特徴

 

<シャンプーはどれくらい使えばよいの?>

シャンプーの頻度については週に1回、あまりひどいときは2回、もし間隔が開いたとしても2週間に1回くらいでお願いします。ただしこれは薬用を使用する場合の頻度で、一般のシャンプー剤でこの頻度で洗うと、皮脂を落としすぎてしまい乾燥肌を招き、かえって痒みを増すことになります。

シャンプーの使用量が不足しているとせっかく洗っていただいても効果が現れません。手のひらを丸めて500円玉くらいの大きさにシャンプー剤が乗るのが約5mlです。体重が3kg未満の犬でしたらだいたい10mlを使用してください。5kgでは15ml10kgでは25mlくらいが最低必要な量です。薬用シャンプーは決して安くないので、もったいなくてちょこっとしか使っておられないケースがあります。ふんだんに使おう、という気で使っていただいた方がうまくいきます。

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おうちでシャンプーしてみませんか

 

というところで、今日のお話はおしまいです。

そうそう、いい忘れましたが、ノミやマダニの予防も大切です。月に1回忘れないで処置(または投与)をお願いします。

梅雨明けから掲示板はシャンプー療法についてのご案内に変更しています。ご来院の折には目を通していただけると嬉しいです。

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アレルギー用の特別療法食

 9月に入っても昼間の暑さは一向に衰える気配をみせませんね。夏休みの最終日、日曜日と重なっておりますが、みなさま、いかがお過ごしでしょうか。

 

これだけの高湿度と高温が続きますとアトピー関連の皮膚炎の症状はなかなか沈静化しませんね。でもあと1ヶ月の辛抱です。たいていは9月のお彼岸が過ぎると潮が引くようにスッキリしてきますから。

 

さて、今日はアレルギー用の特別療法食についてのお話です。

 

アトピー関係のわんこを持つおうちの方には、

①環境をクリーンにしてください、

②お散歩ではむやみやたらと草むらに入り込まないようにしてください、

③こまめに適切な薬浴剤でシャンプーしてください、

④保湿剤を上手に利用してください、

⑤ノミやダニの寄生予防滴下剤を使ってください、

⑥薬は正しく投与してください

など、それはそれは多大なケアをお願いしているわけですが、食事関連アレルギーの有無に関わらず、

⑦食生活に気を使ってください、

というお願いもしています。

 

ほんとにお願い事が多いですよね。アトピーっ子たちの管理はほんとにおうちの方のお力のおかげ。これで維持できているようなものです。

 

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アレルギーはコップに入れた水がこぼれるのに例えられています。いろいろなアレルゲンが身体にはいってきてこれ以上は許容できないよ、ということになると症状を出す(水がこぼれる)し、各個体によって生まれつき持ち合わせたアレルギーを受け入れる許容量(コップの大きさ)が違うのもそんなことで説明がつくと思います。ハウスダストやイエダニ、花粉などはどんなに頑張ってもこれらをゼロにするのは至難の業ですが、口から入る食事由来のたんぱく量は調整が可能です。アレルギーテストをしてあって、小麦がだめ、とか大豆がだめとかいうのが分かっていればそれは一切口にしないことがいいわけですが、検査を実施していないと何が大丈夫で何がいけないのか、分かりません。それで処方食の登場です。

 

 

 

食物性アレルギーの原因となるアレルゲンにはフードに含まれるたんぱく質があります。食物性アレルギーでは、わんこが日常食べているたんぱく質に対し、最もアレルギーを発症しやすいといわれています。よく使われているチキンやビーフはアレルゲンとなることが多いわけです。それで、それらを蛋白源として使用しないで、口にすることが無いたんぱく質を栄養源に使おうではないか、という動きがありました。これらが「アレルギー用処方食」です。一般的に、この新奇たんぱく質として使われるのは「ダック」(アヒルです)「シカ」「七面鳥」(ターキー)「なまず」(キャットフィッシュ)です。しかし、これらを原料にして作られたフードでもアレルギー反応をうまく抑えることができないため、たんぱく質を加水分解して小さなかけらにし、アレルギー反応が極力起こらないように処理したフードが登場したのです。

 

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たんぱく質は約20種類のアミノ酸で構成されています。この分子量が大きいまま吸収されると、体が「異物」と認識し、アレルギー反応が起こるのです。そこで、このアミノ酸が20も連なったたんぱく鎖をいくつかに切り離し、分子量の小さなものにしておきましょう、という「加水分解」を施した処方食が作られています。この作業は酸や酵素で行われるわけですが、フードを作る段階でたんぱく質の消化を工場で人工的に行っている、こんな感じです。

 

食物性アレルギーと診断できたら、アレルゲンを摂取しないことは大変重要なことですが、フードの中にはこうしたたんぱく質源のほかに、アレルゲンを起こすとして良く知られている「小麦プロテイン」や「コーングルテン」など、植物由来のたんぱく質も存在するわけです。それでいくら「新奇たんぱく質」によるアレルギー用処方食にしていてもアレルギーが治まらない、ということがあったのです。

 

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このフードをずっと続けていく、という方法でも栄養素はバランスよくできていますから大丈夫ですが、除去食試験によって大丈夫なたんぱく質を探していくこともできます。

 

食物性アレルギーが確定していないのであれば、治療をし、ハイシーズンが過ぎたところでアレルギー用処方食にレベルを落としても、維持できる場合があります。

 

しかし、一度アレルギーであることが判明したのならば、お肉たっぷりの食事やおやつなどはすぱっとあきらめていただく方が、痒みやアレルギー性の下痢症などをコントロールしやすいことは言うまでもありません。

 

また、近年、アトピー性皮膚炎にストレージマイト(倉庫に発生するダニ)が関与しているといわれています。1ヶ月で食べきるサイズのドライフードを購入し、紙袋から密閉容器に移し替え、乾燥した冷蔵庫で保管すると良いと思います。

 

少々長くなりましたが、今回のお話はこのへんでおしまい。

早く痒みがなくなりますように。

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アトピー性皮膚炎・9回目

アトピー性皮膚炎のおはなし・9回目

今回はアトピー性皮膚炎の治療に使われる薬についてです。

 やっと、ここまで来ました。

 

でも、まだ、前置きがあります。

痒みを伴う皮膚病には様々なものがあります。ノミアレルギー性皮膚炎、疥癬やデモデックスに代表される寄生虫性の皮膚炎、細菌感染の関与した膿皮症、脂漏症など。これらをすべて治療し終わって、初めてアトピーの治療に入っていける、と言っても過言ではありません。

それで、これらの治療に使われる薬のことは省かせていただきます。純粋にアトピー性皮膚炎の時に処方する薬についてお伝えします。

 

<抗ヒスタミン薬>

アレルゲンが体内に入ると、肥満細胞から炎症を引き起こす化学物質が放出されます。その中にヒスタミンという物質があります。ヒスタミンは血管をふくらませ、腫れをおこし、痛みや痒みといったアレルギー反応を引き起こします。抗ヒスタミン薬はヒスタミンをブロックし、アレルギーによる不快な症状を和らげてくれます。

この薬は鎮静作用や制吐作用(嘔吐を止める働き)などがあるので、乗り物酔いの薬として使われることもあります。副作用として眠気があります。

アレルギー系のお薬としては痒みを抑える作用は弱いです。

 

<プレドニゾロン>

副腎皮質ホルモンです。炎症や痒みを強く抑えてくれます。

体内から分泌される糖質コルチコイドと同じ作用を持ちます。この中には、好ましくない作用もあります。傷が治りにくかったり、感染への抵抗力が低下したり、糖尿病を悪化させたりなどです。

また大量に使用したり、長期に使用した場合、副作用が起こることが知られています。副腎皮質ホルモンはもともと体内からも分泌されています。薬として体外から入ってくると、体内から必要量が分泌されなくなってしまうことがあるのです。(急性副腎皮質機能不全)また、常に過剰に副腎皮質ホルモンが出ているのと同じような病態になってしまうことがあります。(医原性クッシング症候群・副腎皮質機能亢進症)

このように、プレドニゾロンは痒みを非常にうまく抑えてくれる薬なのですけれども、使い方を間違えるとたいへん怖い薬になります。ですからこの薬を投与している間は常に観察を怠らないようにし、副作用が起きていないかを確認する必要があります。また、急に投薬を中止するのではなく、徐々に薬の量を減らしていく必要があります。

このような理由で、皮膚病の患者さんには、決まった日にきちんと薬を飲ませていただき、決められた再診日に来ていただきたいと思います。良くなったからと勝手に判断し、いきなり薬を止めてしまうのはたいへん危険です。

 

<免疫抑制剤>

シクロスポリン(サイクロスポリン)です。体の免疫を抑える薬で、臓器移植後の拒絶反応を抑えるために使われる薬ですが、免疫の病気の時にも使用します。アトピーは免疫の力が高ぶっている状態ですのでこれを鎮めるために使用します。

プレドニゾロンでは十分な効果が得られない場合に処方しています。

この薬はちょうどいい分量の幅が少なく、多すぎると身体に害があり、少なすぎると効かないという特徴があります。常に調度良い常態かどうかを観察する(場合によっては血液検査をする)必要があります。

プレドニゾロンの投薬中と同じように、必ず皮膚科診療には定期的にいらしていただきたいと思います。

 

<インターフェロン>

身体の防衛に関与して、白血球が作り出すタンパク質でできた活性物質をサイトカインと呼びますが、インターフェロンもそのサイトカインの一つです。免疫に関係する細胞はこのサイトカインにより連絡を取り合い、免疫反応全体を調節しています。

インターフェロンにはウイルス抑制作用や抗腫瘍作用などもありますが、免疫系に働きかける作用を期待してアトピー性皮膚炎の治療でも使われます。

若くしてアトピーを発症した犬に効果があるようです。残念なことに、100%の反応率ではありません。そして、どのタイプの犬に有効であるのか、使用してみないとわからない、という曖昧な点があります。

内服薬ではなく、注射薬です。毎週連続して注射に来院してもらう必要があります。

 

<減感作療法>

アトピーを起こす元になるアレルゲンをオリジナルに調合した薬を少しずつ長時間かけて注射していくことで、アレルギー反応を低下させる治療法です。

唯一の原因療法とされています。

しかし、これも全ての犬に効果があるわけではないこと、時間がかかること、ご家族の方の手間を大変取らせること、経費がかさむこと、アレルゲンを注入するのでアレルギー反応が起こる可能性もあることなど、欠点もあります。

 

<サプリメント>

免疫のバランスを整えるサプリメントがいくつかあります。

激しいかゆみや炎症のある急性期を乗り越えたあとに、より良い状態を維持するため、またアレルギー反応を発症しにくくするために免疫力を高めるサプリメントを服用するのも効果的です。

テーマ : 動物病院
ジャンル : ペット

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