猫の特発性膀胱炎の治療4

特発性膀胱炎の治療、4つ目は栄養学的側面からの治療についてお話しします。

<栄養学的な治療>

    水分をたくさん摂取すること。

古い研究になりますがMarkwell先生が1999年に行った研究があります。特発性膀胱炎にかかった猫にドライフードと缶詰フードのいずれかを与え、再発の有無を観察したものです。缶詰フードを与えられた猫ではドライフード群に比べ再発が少なかったのです。缶詰フードを与えられた猫の尿比重はドライフード群に比べ低くなっていました。水分含量が多いことは尿の希釈をもたらし、良い結果を生むのだろうと考えられています。

特発性膀胱炎の猫では正常な組成(または異常になっているかもしれません)の尿の成分が高濃度であることが膀胱粘膜を刺激しているのかもしれません。

この研究から、どのような手段であれ、水分をたっぷり摂取することが大切であることがわかっています。

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    尿を酸性化する成分を加えること、Mgを制限すること。

閉塞を起こしていない特発性膀胱炎において、これらが必要であるかどうか、今のところまだわかっていないようです。

ただし、特発性膀胱炎のオス猫で尿道閉塞を起こしているもの(尿道栓子)は、マトリックスと結晶の混合性の物質で、尿道栓子の中心に結晶があると考えられています。尿道閉塞のリスクがある猫には結晶形成を防ぐ処方食を食べさせることは理論的ではないでしょうか。

 

    ω3脂肪酸、抗酸化成分が含まれていること。

特発性膀胱炎症状の再発にω3脂肪酸と抗酸化成分が有効かどうかを調べた研究もあります。Lurich先生による研究です。比較的新しいもので、2013年に発表されています。急性の特発性膀胱炎症状を出す1歳から9歳の屋内飼育猫を1年にわたって観察されました。ミネラル分や目標尿pHは同じようになるように作られた食事と、ω3脂肪酸と抗酸化成分がそれにさらに添加された食事を2つのグループに分けて与えてみました。添加された食事を食べた群で再発は少なくなりました。研究にさんかした猫の頭数と述べの日数とで比較すると、添加なし食事群は11.15/1000日で、添加された食事群は1.28/1000日ということですから有意に差があります。これを数値処理すると再発を89%カットということになるそうです。

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    ストレスマネージメントとしてのL-トリプトファンとαカソゼピンの添加をすること。

トリプトファンは5-ヒドロキシトリプトファンからセロトニンに変換される脳内幸せ物質であるセロトニンの前駆物質です。脳内におけるセロトニンが増加すると動物はリラックスし、不安が減少し、気分がよくなります。食事由来のL-トリプトファンの増加による猫の不安や不安に関連する行動異常が緩和されたという研究はPereira先生たちが2010年に報告しています。

またミルクの成分であるαカソゼピンは対人恐怖を低減し、人との接触を増加させたという研究があります。Beata先生が2007年に報告したものです。

 

    必要なカロリーを摂取すること。

好きな時に好きなだけ食べる方法は肥満を招きます。肥満は特発性膀胱炎発症の危険因子です。適正量となるよう栄養計算し、それを守って与えることが大切です。

食事方法として自由摂食は特発性膀胱炎の治療として望ましい方法ではありません。

食事の捕り方として集団で食べるのもよくありません。行動学的な側面だけでなく、適正栄養量を摂取するという意味からも好ましくありません。

 

なお、②③④についてはサプリメント的な摂取方法ではなく、これらが添加され整えられた処方食がありますので、ご家庭では水分摂取方法を工夫(①を実施)し、計算された量を与える(⑤)ようにしてくださるだけで大丈夫です。

 以上、特発性膀胱炎の多面的な治療についてお話ししてきました。

多面的であるために、動物病院にお任せしておけば治る、という質の治療ではありません。もちろん、ほかの病気でも飼い主さんの治療参加がなければ治療が成立しないことには違いないのですが、猫の排尿にまつわるいろいろな病気に関しては特にご家族にお願いする部分が多いし、それだけにご負担を強いてしまうところがあると思います。

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猫の特発性膀胱炎が猫の自由を奪うためにストレスを感じて発生する病気、と考えると少々つらいものがあります。

動物の幸せはどこにあるのだろうか
、とは常に考えている問題です。おそらく、多くの心優しい飼い主さんは「私が飼っていて、この子は幸せだろうか」と悩むこともあるのだろうと思います。飼育するということは宿泊と食事を提供はしますが、好みの生活を犠牲にしているのではないかと思うからです。

 

ただ、このような境遇にうまれ、このような生活をする運命に生まれてきたのです。あなたと一緒に生活するようになった猫には何とも言えないご縁があったのだろうと思います。野生で生活する幸せもあるでしょうが、大事にされるおうち猫としての幸せもまた捨てたものじゃないと感じているのではないでしょうか。共同生活者として私たちが猫にするべきお約束もありますが、猫さんにも守っていただきたいお約束があって当然です。一般には家庭内で生まれる「守ってもらいたい決まりごと」は「しつけ」と言われています。「おしっこはここでしてください」「こちらの家具で爪をとぐのはやめてください」のようなものです。中には本能的な動作もありますから、こちらが譲らなくてはいけない部分があります。しかし全面的に承諾できない部分についてはできるだけ野生性を再現させてやることで回避するしかないのですよね。

まさに、環境エンリッチメントの考えです。

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もちろん飼育される動物が飼育する人のために痛みや苦しみをこうむるのは最小限に抑えられなければいけません。

アニマルウェルフェア(Animal welfare:動物の福祉、と訳されています)は猫のストレスを減らすことでもあります。猫の幸福な暮らし(ウェルビーイング:psychological well-being)は単に病気にかかっていないとか衰弱していない、ということではなく、身体的にも精神的にも社会的にもよい状態にあることを健康とします。動物の健康や衛生状態が良いということだけでなく、動物のこころにも配慮した暮らしがwell-beingです。

 

環境に配慮した暮らしは、ストレスを原因とする特発性膀胱炎以外の病気の治療にも、予防にも有効です。

人と猫、猫と猫、同居する他の動物と猫。互いがより良い関係で毎日過ごせると良いですね。

特発性膀胱炎についてのお話は今回で終了です。

 

 

 

    
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猫の特発性膀胱炎の治療3

 特発性膀胱炎の治療の続きです。

 

膀胱に対する治療と、行動学的な側面に対する治療について前回お話ししました。今日はストレスのない暮らしのための環境改善についてです。

 

特発性膀胱炎の具体的な治療から少し話ははずれますが、環境エンリッチメントという言葉をご存知でしょうか。動物園動物などによく使われます。Environmental enrichment とか Effective enrichment というものです。「飼育動物の正常な行動の多様性を引き出し、異常行動を減らして動物の福祉(animal welfare)と健康を改善するため、飼育環境を工夫しましょう」、というものです。それぞれ、野生の暮らし方が最も良い暮らしであることに違いがありません。けれどそれにこだわっていては展示動物は成り立ちません。すべては動物虐待になってしまいます。今置かれている状況の中で、いかに自然の状態に近づけ、ストレスを少なく飼育してやれるか、ということを工夫する取り組みです。採食、空間、感覚、社会的、認知の5つのエンリッチメントがあります。

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猫にも本来の暮らし方があります。家の周りを自由に動き、時に木に登り、屋根を伝わり、日向ぼっこをし、鼠や小さな鳥を追いかけ……というような充実した毎日を送らせてやりたいものです。しかし市街地には安全に遊べる空間もなく、一つ間違えば交通事故にあわないとも限りません。そうすると安全な飼育が屋内になってきてしまうのです。そこで、5つのエンリッチメントを猫に応用してやることになります。

採食エンリッチメントでは、捕食活動により近い形を再現してやること。

空間エンリッチメントでは三次元空間を自由に行き来し、くつろげる場所を提供してやること。

感覚エンリッチメントでは音の出るおもちゃや、においをしみこませた布(マタタビなどもその一つになるかもしれません)、屋外の小鳥を鑑賞できるように窓近くの空間を開けることなど。

社会的エンリッチメントとして、複数飼育するなどして、ほかの動物とのかかわりを持たせてやること。

認知エンリッチメントとして、知性を刺激するような遊びを工夫してやることなど。

このようなことを踏まえて、環境を整えてやってほしいと思います。

 

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猫はこんなことにストレスを感じている、ということを挙げておきます。思い当たる節はないでしょうか。避けることができそうなものは避けてください。

  猫が集団生活をすること。(部活の合宿、と例えておられる先生もいらっしゃいます)

  トイレの汚れ。(清掃作業の追い付いていない公園のトイレのような)

  住居(引っ越し、リフォーム)、生活環境(家具の配置換え)、生活パターン(家人がずっと家にいることになった、またはその逆)、食事の変更。

  同居人、同居猫の増加。

  外出の禁止(監禁ととらえられるのかもしれません)、長時間の留守番(ホームアローンって寂しい感じがしますね)。

  家族の誰かが不機嫌であること。(夫婦喧嘩、お受験間近でイライラしているお兄ちゃんや娘さんがいるなど)

  飼い主の身勝手なスキンシップ。(突然抱かれる、なでなでが長すぎる、しつこく追い回すなど)

  天候。(雨や風の強い音がする、雷鳴が聞こえるなど)

  近所の騒音。(道路を走り抜けるサイレンの音、子供たちの黄色い声、酔っぱらいの叫び声、工事中の音など)

  自然のもの以外のきついにおい。(猫に香水を振りまくのは迷惑です)

 

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さて、治療についてです。治療というより、むしろお願いしたい猫の喜ぶ暮らしです。

<環境の改善>

    最も重要なのはトイレに関することがらです。

トイレの数が少ないと、猫がトイレの代わりの場所を探すきっかけになります。また複数飼育している場合にはすぐにトイレが汚れてしまうことになります。

家族の誰かがトイレ使用後、水を流し忘れていたらあなたはどう思うでしょうか。気分を害すでしょう。同じことが公共のトイレで起こったらどうですか。きっとそこは使わないで、隣のドアを開けるでしょう。

トイレを置く位置についても考えなくてはいけません。いくら数を用意していても同じ場所に並べて置くのではいけません。複数のアクセスルートがある場所に設置すると、万が一いじめっ子がトイレの前で張り込みをしていても別のトイレを使うことができます。

トイレの大きさは猫の体長の1.5倍あるのが理想です。小さすぎるトイレは好まれません。

蓋つきトイレはにおいがこもってしまう可能性があり、こちらも猫に好まれないようです。排泄物のにおいが周囲に広がらないように、というのは猫の利益ではなく人の利益になるだけのことです。

トイレのふちの高さも浅すぎると砂がこぼれ出たりたくさん入らなかったりしますが、高齢猫は変形性関節症を患っている可能性があり、ふちが高すぎてうまく入れないとトイレ以外の場所を探すことになります。高さも検討してください。

砂の種類を比較研究した先生もいらっしゃいます。自然の砂に近い粒子の形状で固まるタイプのものが最も好まれたそうです。トイレに失敗したら砂の種類を変えて試してみるとよいと思います。また無香料のものに人気がありました。香料を付加するのも人の利益を考えた結果の商品です。

トイレの衛生状態をよくすることはとても大切なことです。猫は清潔なトイレを好みます。これは気難しいとかいう問題ではなく、私たちに置き換えてもらえばすぐにわかることです。毎日排泄物(尿で固まった部分の砂や糞便)を片づけるのはもちろんですが、週に1回は砂を全部交換し、トイレそのものもきれいに洗うことで衛生状態を保つことができます。

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    爪とぎを用意してください。

爪とぎはマーキング行動のひとつです。安心できる場所のアピールになります。家の中の複数個所、ちがうところに爪とぎエリアをつくってください。爪とぎは棒状の物(柱のような)でも板でも構いませんが、水平方向にあるよりは垂直方向にあるほうが、またやや高めで目立つ位置に設置するのが好ましいようです。

 

    高い位置の休憩場所を作ってください。

猫が一頭、または仲良しの猫2頭くらいがリラックスして寝そべることができる広さでクッションとか小さめの座布団などを置いておきます。猫が敵から逃れるときに木の上に登っていくのはよく知られています。それと似たような状況を作り出してやります。垂直な行動スペースが猫同士の緊張感や攻撃性を低くさせます。

梁のある家で猫がそこを自由に歩けるのは理想的なキャットハウスですが、市販のキャットタワーなどでも十分代用が可能です。

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    食器や水飲み場も複数必要です。

食事の時の食器は必ず頭数分用意してください。またそれぞれが同じエリアに集まって食べる場合でも、家具の角のあちらとこちらで直接相手が見えないような場所に食器を配置するなどの心遣いをお願いします。猫同士の距離をおくのでお互いの緊張感が和らぎます。

狩猟本能を刺激する方法として、少量のフードを思いがけない場所に忍ばせて置くのもよい方法です。遊びとして扱い、ここから得る栄養量は考えないことにする程度の量でも楽しめると思います。

飲水量が足りないことは特発性膀胱炎の発症因子です。いつでも十分に新鮮な水が飲めるように、水食器だけでなく、給水器や洗面所、風呂場など、それぞれの猫の好みの方法があれば否定することなくその場所を提供してやってください。

 

    遊べる空間を作ってください。

肥満も発症因子です。1日に数回、1回に3分程度でよいので擬似捕食体験になるような遊びを仕掛けてやってください。長く遊ばなくても猫は満足です。光には物体としての形がなく、追いかけても最終的に捕獲することができませんから、レーザーポインターで遊んだ時だけ、最後に小さなものを投げ込み、「仕留めた」感覚を味わわせてやってください。

遊びを通してストレスが軽減されますし、家族との絆も高まります。間違っても猫を標的としてこちらが追い詰めていく「鬼ごっこ」はしないでください。猫をストレスの塊にしてしまいます。あくまでも猫に捕食行動を疑似体験させる遊びです。

 

    日常的に猫にかかわり、遊んでください。

この家で暮らすことそのものを楽しいものにし、猫が不快に思うような接し方はしないようにします。無理やり抱き着くとか、抵抗しているのに猫を抱いたまま離さないとか、また悪さをしたからと罰を与えるようなことはしないでください。

 

 

 

今回も長くなってしまいました。猫がストレスを感じなくするための環境改善についておはなししました。次回は特発性膀胱炎の栄養学的な側面からの治療についてお話しします。

 

 

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猫の特発性膀胱炎の治療2

特発性膀胱炎の治療の続きをお話しします。

 

前回お伝えしたように特発性膀胱炎は次のような多面的なアプローチが必要な病気です。

  膀胱炎の治療

  行動学的な治療

  環境の改善

  栄養学的治療

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それぞれについてお話しします。

<膀胱炎の治療>

薬物的な治療に関しては、それぞれの先生方独特の好みの治療法があるかと思います。

当院では、痛みを鎮め、炎症を抑える目的で非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)を処方しています。

内臓痛をより強く鎮めるために鎮痙剤を使うこともあります。ちくちくするような残尿感を減らしたいからです。

出血が激しい時に止血剤を併用することもあります。

細菌感染が認められるときやカテーテルを使用した場合は抗生物質を使うことがあります。

 

尿路感染にクランベリージュースが良いということから動物用にクランベリーの顆粒が発売されています。こちらをサプリメントとして使われる先生もおられると思います。

また漢方のお薬も使われていると聞いています。

先生によっては初期治療にトランキライザーを使用する場合があるそうです。

 

猫が受け入れやすい剤型、また最小限度の投薬内容で飼い主さんが与えやすいものを選ぶようにしています。猫も飼い主さんもストレスなく投薬できることを考えると多種類の投薬は難しいかもしれません。

 

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<行動学的治療>

ここが重要なところです。

    猫が不適切な場所で排泄したとしても絶対に叱らないでください。

ずいぶん前になりますが、「ここにしてはいけない!」と猫の鼻を排泄した場所にこすりつけて叱るという話を聞いたことがあります。これは犬でも同じですが、恐怖心や嫌悪の気持ちをいだかせるだけで、しつけにも何にもなりません。

 

    常に猫には優しく穏やかに接するようにしてください。

大きな声をたてるのもいけません。小さな子供たちが大人数で押し寄せてくる週末を猫は好んでいません。テレビの音源、花火や雷などの予期しない大きな音、犬の吠え声などからも遠ざけてやってください。雑音は無いに限るのです。

あるデータから、ワントーン高めの声で話しかけるようにするのが良いそうです。

 

    できれば遊びの時間を決めて、毎日それを続けてください。

飼い主さんとの関係は、毎日コンスタントに同じスタンスで、が基本です。お誕生日にお友達が訪ねてきてパーティー!というのは猫には喜ばれないのですね。

さて、不活発であることは特発性膀胱炎の発症因子に挙げられています。一生懸命遊ばせてあげましょう。

いくつかのおもちゃを用意しておいて、数日交代でローテーションしていくと飽きることがないようです。猫によっては特定のおもちゃを好む猫もいます。羽のついた釣竿やふさふさ毛でできたおもちゃはそれぞれが鳥や小動物に似せたものです。軽くてカサカサ音がするものも好みます。紙を丸めたものとかビニール袋を束ねたようなもので代用することもできます。遊んであげることが大切です。もともとは狩猟を楽しんでいた動物ですから、屋内飼育の猫にはハンティングごっこをしかけてやってください。

知育玩具にあたるおもちゃがあります。転がすと中からフードがこぼれてくるような仕組みになっています。捕食行動を再現させることができます。手作りすることもできます。卵ケースに蓋をして一部穴をあけておくおもちゃも、トイレットペーパーの芯を重ね中にドライフードを忍ばせておくおもちゃも簡単に手づくりすることができます。この中に手を伸ばしてフードをたぐり寄せます。捕食本能を刺激するものです。

空き箱や大き目の紙袋をそのままにしておくと猫は自由に箱や袋の中に入り、かくれんぼして遊びます。箱のふたを閉じた状態で箱の外から刺激してやると手を出して捕獲行動の遊びができます。

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ハンドメイドのおもちゃです。中にフードを入れます。
 

    同居猫との関係性をもう一度見直してください。

特発性膀胱炎を発症している猫は同居猫の中でも一番立場の弱い関係になっていることが多いようです。ストレスがあっても攻撃行動をおこしてそれを発散させることができません。猫は社会的な動物です。親友もいるし仲良くない関係の相手もいます。苦手な相手が無言で威圧をかけていることもあります。のび太君とジャイアンが同居しているようなことはないでしょうか。好きな時に自由にトイレに行けるのか、食事をゆったりした気分で食べることができるのか、くつろぎの場所があるのか、それら自由行動のエリアを再確認するだけでなく、その場所へ行くのに複数の通り道があるかどうかも検討してください。アクセスルートにジャイアンが寝そべっていると気の弱いのび太君はそこを通りづらいのです。ジャイアンにあたる猫に鈴のついた首輪をつけるのも有効です。音が近づいてきたときにのび太君は逃げることができるからです。のび太君に鈴をつけていることはないでしょうか。いじめっ子はカモが来たことを察知することができるので逆効果です。

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    どうにも安心して暮らすことができないという場合、フェロモン療法も有効であることがわかっています。

GunGunn-Moore先生が特発性膀胱炎にかかった猫にフェロモン療法を使用したときの研究では、膀胱炎の臨床徴候をあらわす日数、症状を出す回数、好ましくない行動が減ったという結果が出ています。

フェリウェイはコンセントに設置するタイプのものをおすすめしています。

 

    サプリメントとしてはミルクから作られたαカソゼピン(αーcasozepine)も効果があります。

ラットやヒト、ポニーでも不安が減少したという研究結果が出ています。猫ではBeata先生の研究で、カソゼピンは猫の対人恐怖を低減し人との接触を増加させたという結果が出ています。

 

    向精神薬を使用することもあります。不安を除く目的で使います。

幸せな気分にさせてくれる脳内物質セロトニンを増やすタイプのお薬です。

明らかなマーキングについては薬物療法も有効です。

ただし長期使用しないと効果が得られません。

 

※ストレスの多い猫に対してむやみに薬を処方すると、薬をのまされるというストレスを増やす結果にさせてしまうのではないか、という心配が生まれます。ここで紹介している⑥⑦に相当する部分が処方食の中に組み込まれています。

 

長くなりました。今回は膀胱炎の治療、行動学的治療の二つをお話ししました。次回は環境改善についてお話しします。栄養学的治療のお話はその次に回します。

    

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猫の特発性膀胱炎の治療

 今回から特発性膀胱炎の治療についてお話しします。

 

 <特発性膀胱炎の治療はいろいろです>

特発性膀胱炎はストレス背景もあり、その特性から膀胱炎を治めるだけの治療だけではありません。

実際に調子が悪いのは下部尿路、膀胱と尿道です。それでまずここの場所の炎症を取り除き、痛みから解放させてやります。

けれど前回お話ししましたように、こうなった元は何かというとストレスです。ですから心のケアもしなければなりません。行動学的療法です。

そしてどのような状態にストレスを感じていたのか、さらに大元になるストレス環境をなくすという状況の改善も大切な治療のひとつになります。

さらに栄養学的な側面から猫に貢献していく検証もされています。

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今月の掲示板です

すなわち、

    膀胱炎の治療

    行動学的治療

    環境の改善

    栄養学的治療

といった多方面から総合的なアプローチを進めていく必要性があります。

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FLUTDについて紹介しています

このような多方面からの総合治療がよい結果を生むということはBuffington先生たちの研究から証明されています。MEMOという略称でいわれるこの治療方法ですが、Multimodal Environmental Modificationの頭文字から来ています。日本語では「集学的環境修正」と訳されています。ちょっとわかりづらい表記だと思います。「集学的な治療」というのは人医療で腫瘍のときに使われますが、外科療法、放射線療法、化学療法、免疫療法、ホルモン療法などをいろいろ組み合わせて治療の成績を上げましょう、という意味合いの用語です。これになぞらえて、猫の特発性膀胱炎の治療も「猫を取り巻く環境を多面的に改善し治療成績を向上させましょう」ということになると思います。

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FLUTDの中で最も多いのは

さて、特発性膀胱炎は何もしなくても1週間程度の期間が過ぎると臨床症状がなくなってしまうとお伝えしました。それでは何もしなくてもよいのかということになります。それでも私たちは治療をします。なぜ治療を行うのでしょう。

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猫のストレスを減らす10ポイント。

<治療の目標についてお伝えします>

それは

    臨床徴候の発現する期間を短くしてやることです。7日間も悶々と排尿異常の辛さがあるのをできるだけ短期間で治まるようにしてやります。膀胱がピリピリ痛むのを1日でも早く止めてやりたいと思います。

    重症度を下げることです。辛い症状は少しでも軽くしてやりたいですね。

    臨床徴候の再発率を下げることも挙げられます。再発率が高いことは以前もお話ししました。できるだけ再発しないようにしてやりたいです。

    尿道閉塞のリスクを下げることはなんとしても重要なことです。尿道閉塞は命に係わる事態です。

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概要説明これ1枚でも。


少し詳しくお話ししましょう。

特発性膀胱炎にかかった猫のうち半分くらいの猫は1年とか2年の間に1回から数回再発を繰り返しています。再発したときの臨床徴候は初めてかかった時と同じと思われているようですが、前回かかったことが影響している場合があります(二次徴候)。また、1週間程度で治るといわれている特発性膀胱炎ですが、症状が長く、数週間とか数か月も続いていることがあります。または再発の頻度が高い場合もあります。(このような慢性の、というのにふさわしいような特発性膀胱炎は他の特発性膀胱炎の重症例なのか、または別の発生機序によるものなのかはわかっていません。)

しかし、何度も繰り返しているうちに自然発生性の尿道狭窄を起こす可能性があります。度重なる炎症で尿道が腫れて狭くなったり、尿道筋がけいれんを起こしたり、膀胱との連携で尿を排泄する仕組みにトラブルが起こって尿道の流れが悪くなります。そこに膀胱壁の炎症から剥がれ落ちた組織や炎症細胞、赤血球などが尿道に詰まって尿道栓子(マトリックスと呼んでいます)を形成して、尿道の閉塞が起こるのです。特発性膀胱炎に結晶尿を併発している雄猫ではマトリックスと結晶の混じった尿道栓子が形成されやすく、尿道閉塞のリスクが高まります。

このように特発性膀胱炎の後遺症として尿道閉塞が生じる可能性があるので、そうならないように管理したいのです。

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チェックリストも張り出しています

    そしてもうひとつ重要なこと。猫のQOLだけでなく、同居する家族のみなさんのQOLを改善することも治療目標の一つです。猫はおなかが痛いのでトイレ以外の場所でお漏らしをしてしまっても仕方がありません。叱ってもだめです。けれどもその都度お掃除や洗濯に時間をかけ、においの管理をしなくてはならないのは家族にとってマイナスな生活になります。猫の病気を早く治して、落ち着いた生活を送っていただきたいと思います。

 

 

 

長くなりました。

今日は特発性膀胱炎には多方面から総合的なアプローチが必要です、というお話と、治療の目標についてお話ししました。次回も続けます。

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猫の特発性膀胱炎

 猫の特発性膀胱炎(FIC)についてお話をしようと思います。

 

そもそも、「特発性」という冠詞は「原因がわからない」を意味しています。原因がはっきりしていると、「細菌性」とか「アレルギー性」とか「遺伝性」とかそんなのがつくのです。

 

 

<どんな症状が出るのでしょうか?>

何度かお話しています猫の下部尿路疾患(FLUTD)ですが、下部尿路というのは膀胱と尿道を指します。ここにトラブルが起こるとどれも似たような症状を出します。

○不適切な場所で排尿してしまう(決められたトイレではないところ)

○何度も排尿する(1回の量は少し)

○排尿時に力んでいる(尿がスムースに出ていない)

○血の混じった尿をする(赤いまたはピンクっぽい色がついている)

○排尿時に痛みがある(にゃん!と叫ぶような場合があります)

これらの症状は1つのこともあるし、複数が組み合わされて出てくることもあります。

 

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こんな症状を表している病気はみんな下部尿路疾患というひとくくりの疾患として述べられてきましたが、これを原因別に分類していくと、

    尿路結石が認められた、

    細菌などの感染があった、

    解剖学的な異常が見られた、

    腫瘍ができていた、

    実はよくよく話を伺ってみたら尿マーキングだった

…というものに分けられています。

ですが、どうしてもこれらのどれでもない、分類不能なものもあります。これが

    特発性膀胱炎、

です。

逆にいうと、飼い主さんからお話を伺っただけでは特発性膀胱炎の診断はできず、身体検査やら尿検査やらレントゲン検査、超音波検査などをして①から⑤までのどれにも当てはまらなかったら、特発性膀胱炎となるわけです。残念ながら特発性膀胱炎だけを診断する検査はありません。私たちはこれを「除外診断」と呼んでいます。

 
しかし、この特発性膀胱炎の割合がなんとも高いのです。場合によっては60%を超えるくらい。猫の特発性膀胱炎は治療をしなくても1週間かそこいらで自然に治癒してしまうけれど、また再発します。1週間くらいで治ってしまうと、もしかすると気づかれずに病期を過ごした可能性もあるのかもしれません。病院に来る機会すらなかったことも考えられます。そうすると数字で表されている割合よりももっと多いかもしれません。

 

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<どうして特発性膀胱炎になるのだろう?>

このことを研究してくれた先生がいます。特発性膀胱炎はストレスから発症するのではないか、という仮説をもとに研究がすすめられました。

特発性膀胱炎にかかった猫にはいくつかのストレスサインが見られました。それはカテコールアミン値が高く、α2アドレナリン受容体が障害されており、副腎が小さく、不適切なACTH反応が見られたことです。この研究からストレスのたまるできごと、引っ越しをしたりホテルに預けられたりということは特発性膀胱炎の危険因子として特定されました。

別の研究では特発性膀胱炎にかかった猫をストレスの多い環境にいるときと豊かな環境にいるときとで比較しました。豊かな環境の中に置かれるとカテコールアミンの値は下がり、膀胱の透過性は減少しました。膀胱壁の健常性は環境が良くなると向上してきました。この研究から環境を改善することは特発性膀胱炎の猫に効果があるという裏付けになりました。

以上2つはWestropp先生たちの研究で2006年から2007年にかけて発表されています。

 

Stella先生はストレスがかかった時に猫がどのような行動をとるのかについて長期に研究されました。この研究には特発性膀胱炎にかかった猫と健康な猫、ともに調べられています。ストレスがかかると病的な行動も増加しました。不適切な排泄や食欲不振が最も発生しやすい問題行動でした。そしてこのような行動は特発性膀胱炎にかかっていない猫でも見られました。そのほかおう吐やよく眠ること、グルーミングの減少や活動の低下なども見られています。この研究から、ストレス管理が猫の健康にとってとても大切であることがわかりました。

 

 

先生たちの研究は「ストレスによって特発性膀胱炎が発症する」とした仮説を立証するものでした。人でも猫でも精神的な健康と身体的な健康はリンクするのですね。

 

今日は猫の下部尿路疾患のなかで最も多いといわれている特発性膀胱炎について、症状と診断、エビデンスの得られた「原因はストレスであるという説」についてお話ししました。

 

 

 

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ハート動物病院です。
〒445-0062
愛知県西尾市丁田町杢左51-3
TEL/0563-57-4111
オフィシャルサイト:http://www.heart-ah.com/

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