いつから心臓病の薬を始めるか

 4月のブログに掲載した心臓の機能をみる血液検査ANP、
(http://heartah.blog34.fc2.com/blog-entry-962.html)
今年の春の健康診断から始めましたが、すでにそれなりの結果が出てきています。ちょっとご紹介しますね。

ケース1:
心臓が悪くて薬を服用中だけど大丈夫なのか心配で受けてくれたわんこさん、思いの外「心房の負担は軽度」という結果。お母さんも安心してくれました。

ケース2:
そんなに悪くはなっていないだろうなぁと思いつつも、心臓のお薬を服用しているから確認のために検査になったわんこさん、「あら、いつの間にか進行していたみたい」という結果。それで、お薬増量になりました。

ケース3:
まだ年齢的には大丈夫なんじゃないかしらと思っていたけれど、お母さんの希望で心臓検査コースを選択され実施したわんこさん、「あらまびっくり、こんなに心房筋負担があったなんて」。そして慌てて詳細な心臓検査を実施しました。

概して、この検査は実施して良かったと思っています。

 

 さて、今日は犬の弁膜疾患のときの治療法について、近頃話題の心臓病の論文も併せてお話しします。

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ACVIMのガイドライン>

いま、当院では2009年に米国獣医内科学会(American College of Veterinary Internal Medicine ; ACVIM)から発表された「犬の慢性心臓弁膜疾患の診断および治療ガイドライン」に沿って治療を進めています。10人のメンバーが話し合った結果、「このような状態ならステージはどこで、この場合はこの薬を使うことを推奨します」というものが出されているので、ジェネラリストの私でも心臓病の専門家の先生がおすすめする内容に沿って世界的標準の治療を行えるというわけです。

ただ、「臨床症状がある」「ない」で初期のステージが異なるものがあるのですが、おうちの方がずっと愛犬と一緒にいない場合なども考えて、ご家族の方からのお話しでは「よくわからない」という結果を、「症状なし」にはせず、「ありそう」と思われるものは「症状有り」にしています。少なく見積もって、心臓病が悪くなっているのを放置してしまってもいけないからです。

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<ステージ分け>

さて、この分類では病期は初期段階のAから進行したDまでの大きく4つに分けられています。お薬をスタートする時期は、ステージBの段階です。

ステージAはリスクがある犬、というだけです。小型犬やキャバリアキングチャールズスパニエルです。

ステージBは心雑音がある犬たちですが、このステージのわんこたちが次の段階、ステージCの予備軍です。急性期のステージCである肺水腫という心臓イベントは死亡率も高く、本当に苦しそうで何度経験してもつらいです。できることなら家庭医としては最も力を入れてステージBのわんこたちをより良い状態で毎日過ごすようにさせ、ステージCのイベントを起こさないようにしてやりたいのです。そして、まさか初診時がステージCのイベントだなんてことがないように、日頃から早期発見し、早期治療に向けお話しをしていこうとしている次第です。

肺水腫イベントを何度も繰り返すわんこ、一度でも死亡率高いのに、そこから復活してまた発症してしまう強者のようなわんこもいますが、そんな急性のイベントもなく過ごしてもさらに心臓は弱っていき、慢性期であるステージCを経過し、もうスタンダードな治療には反応しない、末期の心不全であるステージDへと進行していきます。

 

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<ステージごとに異なる治療>

ACVIMのメンバーの先生方は、犬の心臓病の世界的な名医である先生たちですが、治療に対しては統一見解が得られていないものもあります。心臓の薬は先生によって使い慣れた薬がそれぞれ違うのかな、という気がします。

例えば、心臓病の初期段階ステージBで、当院ではじめに処方しているのはアンギオテンシン変換酵素阻害薬(ACE-I)なのですが、この薬に対し大半の先生が処方することに同意していますが、一部の先生からは同意が得られていません。また、交感神経β受容体遮断薬(βブロッカー)に関していうと、少数の先生方が処方に同意している、というところです。どちらも心機能を応援する薬としては「ゆるい」クラスのお薬です。

ステージCDになってくると、全員の先生が処方に同意する薬も沢山ありますが、すべての先生が同意しているわけではない薬もやはりいくつも出てきます。

動物病院でアンギオテンシン変換酵素阻害薬の次に良く処方されるのがピモベンダンという強心薬ですが、ステージCになると急性期、慢性期を問わずどの先生方もこの薬を処方することに同意しています。

 使われるお薬のことについてはこちら
http://heartah.blog34.fc2.com/blog-entry-819.html

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<注目の論文>

待望されたEPICStudyの結果です。前述のピモベンダンの使い始めをいつ頃にしたら良いのかの研究です。これまでは「ピモベンダンを使うのはまだ早い」と、ステージBの段階ではどの先生方も処方を推奨されていなかったのですが、この研究では早期からこのピモベンダンを使った犬たちが、従来のように早期の段階でピモベンダンを使わなかったグループと比べて、どのような生活を送り、生存期間はどうであったかを長期にわたり観察し数値化しました。

その結果、投与期間中も安全性は高く、薬の副反応と思われるようなものも対象薬のグループと変わりない割合で、ステージBの期間を長く過ごし、生存期間も長かった、という結論が出ました。

ステージCまで病期が進んでからピモベンダンを使うという従来の方法に比べると、より積極的に心臓を守り拍動を助けていくという感じが強いです。

こちらです。

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/27678080

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<心臓病の症状はわかりにくい>

心臓が悪いときの症状というと、まず「咳をする」というのがこれまで中心になっていました。心臓が大きくなって、心臓の背中側を走る気管が左右の気管支に枝分かれする場所を心臓が鼓動のたびに圧迫すると、断面が円形だった気管支をつぶし、気管は扁平になります。ストロー笛や草笛は、そのままのかたちだと息を吹いても音はしませんが、つぶすと音が出ます。気管支からの咳はこんなことだと思っていただけると良いかと思います。大きくなった心臓で気管がつぶされて出てくるのが心臓性の咳です。心臓病では、血液の流れを良くするお薬を処方しますが、流れが悪いために心臓に血液がうっ滞し心臓が大きくなっているのですが、血液のうっ滞が解除され心臓の大きさが緩和されると、圧迫がとれるため咳が減り、病犬は楽になります。

ですが、ほぼ「咳」を感じられない犬もいます。

「元気がない」という、何が原因なのかさっぱり分からない症状で来られるわんこの一部が心臓病だったりします。のっそりと食事は食べるけれど、喜んで食べない。時間をかけて1日分をかろうじて食べている。というのも同時に観察されています。また「あまり動かない」「動きが悪い」様子も観察されているのですが、これらを称して「元気がない」と表現されています。まぁ、「動きが悪い」と言われて骨や筋肉、関節や神経などの病気の方向に関心が向いてしまうことを思うと、まだ「元気がない」と表現され、内臓系の疾患に関心が行くので、これも一概に悪いとも思えません。

散歩についての質問では「散歩に行きたがらなくなった」「散歩に出てもダッシュしないでのろのろ歩いている」のですが「年だからこうなんだと思っていた」と言われます。

室内での行動はさらに明らかなものがあります。「家族の誰かが帰宅しても玄関へ走って行かない」「ピンポンが鳴っても客人に吠えまくることがなくなっている」のですが、やはり「年のせいでこうなっている」と思われている節が多く、感じてはいてもこちらから聞き出さないと「行動の変化」として伝えてくださることはまずありません。

「元気がない」の一言ですが、以上のような行動上の変化を一つずつ確認していくと私たちが「運動不耐」とよぶ状態になっていることが分かります。

さらに、この状態が続いた犬たちに血液検査をすると血中尿素窒素(BUN)が高くなっていることがあります。腎臓病だと思われてしまうと、点滴治療などで余計に循環液量を増加させ、症状が悪化してしまいます。クレアチニン値はさほどでもないのにBUNだけ高値なのは、血の巡りが悪くなっている印でも有り、心臓のお薬を飲み始めると劇的に改善することがあります。

心臓病になるのは小型犬に限ったことではなく、柴犬のような中型に分類される犬でも発症します。高齢になるからこそ発症してくるのが心臓病です。この大きさの犬だと、心臓が悪くて静かにしていても「認知症なのか」と思われてしまうこともあります。僧帽弁閉鎖不全症の好発犬種以外でも注意が必要です。

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<心臓病だと分かったら>

心臓病だとわかったら、快適な状態をできるだけ長く続けることが目標になります。早期に治療介入し、穏やかに過ごすようにお願いしたいです。ナトリウム摂取制限食、心臓のための薬の継続、運動負荷をかけないこと、暑さや寒さに配慮した環境を提供することなど家庭での注意事項がいくつかあります。

もうひとつ、安静時呼吸数を数え、万が一のときに慌てないようにしていただきたいです。吸ってはいてで、ひと呼吸です。胸またはおなかが上に下に動くので、この動きを見るまたは胸に手を当て動きを感じるのでもカウントできると思います。静かにしているとき、特に睡眠時に1分間に何回呼吸をしているのか数え、記録してください。30秒間カウントして2倍するのでもOKです。「Heart2Heart」というスマホのアプリもあります。大変便利です。

院内にはパンフレットもご用意があります。遠慮なくおたずねください。

 

 

心臓病のお話し、今日はここまでです。

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心臓病を知る血液検査

先週は健康診断の腎臓病特別セットの検査項目、SDMAについてお話ししました。今週は心臓病特別セットの検査項目、ANPについてお話しします。

 

<バイオマーカーというのは>

ANPというのは心臓のバイオマーカーです。バイオマーカーというのは血液とか尿などに含まれるタンパク質やホルモンなどを測定して、ある病気にかかっているのか、どのくらい重症なのかを知ることができる物質のことです。心臓のバイオマーカーには、心筋で作られるホルモン(ANPBNP)や心筋に特異的なタンパク質(心筋トロポニン)があります。心臓細胞に無理がかかっているのかや傷害を受けているのかを血液の検査で数値を出し、その値から心臓病や心不全の様子を把握することができます。

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わんこが歳をとったこと、以外と気づきにくいものです。

<心臓検査に先だって>

心臓の検査といえば、まず聴診。心雑音が聞こえたり、咳や運動不耐症(*)などの臨床症状があればレントゲンや超音波などの画像検査。脈が乱れていれば心電図。という評価方法が一般的です。これらの検査は心臓の機能をみるうえでとても大事です。ですが、レントゲン検査は結構高価です。そして吸気や呼気によって胸郭の膨らみが変わりますし、心臓の方も拡張期と収縮期で大きさに変わりが出ます。それでレントゲンに写った心臓と胸郭の割合を数値で出すのに違いを生じることがあります。また超音波検査は時間がかかります。犬がじっと静かにしていてくれないとうまくポジショニングがとれなくて、詳しく見ようにも時間だけが経ってしまうし、循環器を専門にしている先生のように逆流圧などの測定ができなくてテクニカルエラーも出てしまいがちです。心電図検査は犬が震えていると、その小刻みな震動をとらえてしまいきれいな波形が得られず評価に戸惑うこともあります。

最初のとっかかりを得たいと思うとこのバイオマーカーは血液を採るだけで良いので簡単で実用的です。異常値が出たら次の判断を行えば良いかと思います。

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わんこの死因、第2位は心臓病です。
 

<ナトリウム利尿ペプチド>

これまで心臓の役割は「血液を全身に送り出すポンプ作用」として知られていました。ですが、心臓の研究が進むにつれて、心筋の細胞の中に特殊な顆粒があり、心筋が伸びるときにこの顆粒から血中にホルモンが分泌されることが分かってきました。血管を広げる作用やナトリウムを介してオシッコを出させる作用があることが知られていて、このホルモンの作用によって身体を巡る血液の量が保たれ、血圧も調整されているのです。

心房筋から出されるホルモンは心房性ナトリウム利尿ペプチド(Atrial Natriuretic Peptide : ANP)です。また心室筋から出されるホルモンには脳性ナトリウム利尿ペプチド(Brain Natriuretic Peptide : BNP)があります。どちらのホルモンも分泌されるときにANPNT-proANPBNPNT-proBNPが放出されますが、検査に使われるのはANPのほうはANPが、BNPの方はNT-proBNPが用いられています。

ANPは人用の測定キットが犬猫でも利用可能です。アミノ酸配列が似ているためらしいです。NT-proBNPは犬専用の抗体を用いて測定されます。

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心臓は徐々に悪くなっていきます。

ANPが評価すること>

犬に多い心臓病である僧帽弁閉鎖不全症では、僧帽弁の逆流があるので心臓から全身へしっかり血液を送り出すことができません。血液が心臓内にうっ滞しています。心臓内に多量の血液が充満している状態を「容量負荷がかかっている」と呼んでいます。左心室から大動脈へスムーズに血液が流れず、左心房に血液が逆戻りした病態が進んでいくと、左心房には高い圧がかかることになり、次第に左心房は拡張していきます。左心房圧が高まると肺動脈にも同じように圧力がかかるようになります。

胸部レントゲンによる心臓の検査は、こうして拡張した部分が心臓の陰影で膨らんでいるのを確認します。心臓超音波検査は僧帽弁の逆流している様子をリアルタイムに見たり、左心房のサイズを測定したり、流速の波形からどのくらい圧がかかっているのかを知ります。

ANPは左心房や肺動脈の圧が上昇すると、同じように上昇します。それも重症度と一致して上昇します。おおよその目安として、診断基準値(これ以上高いと心臓病の心配があります。これ以下なら大丈夫でしょう、とする数値)は25pg/mlです。そして、100pg/mlを越えるような数値が出れば重篤な心不全の兆候である肺水腫になってしまうリスクが高いということもわかっています。そして治療により心臓の負荷が抑えられていると、数値は低下してきます。つまり、うっ血の兆候を知ることもできるし、病態によって上下するので、治療効果もこれによって判断することができる検査です。

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まずは健康診断受けてみませんか。
 

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心臓検査は画像検査まで含めたものが理想ですが、
とりあえずバイオマーカーで心臓の傷害レベルを見ておく、
ANP検査の結果から画像検査をするという順でも
悪くはありません。




<結果から>

僧帽弁閉鎖不全症は、重症度をグレード分けされています。そのグレードにANPの数値を当てはめるとすると、①25 pg/ml未満のものは心臓病の心配は無いでしょう、

25 pg/mlから50 pg/mlの間くらいのものは血液の滞りがきわめて少なく軽症でしょう、

50 pg/mlを越えているものは血液うっ滞が中等度にあると思われるし、

100 pg/mlを越えたものでは重度な心不全である肺水腫になる可能性がかなり高いので十分な注意が必要です、

とお伝えすることになると思います。

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元気いっぱいそうに見えても、
実は心臓病が始まっているかも。

<おわりに>

健康診断では特別なことは行わずできるだけ簡単に、できれば低価格で、確実に悪いところを見つけ出すことを目的にしています。今回、検査機関さんとのタイアップで心臓病特別健診をワクチン時検査に加えることができました。心臓病は心配だったけれど、心臓病の検査はいろいろあって時間がかかるし、費用も心配だったし、と躊躇されていた飼い主さんにはすごくいいんじゃないかなと思います。この機会にぜひご利用ください。 

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犬の細菌性心内膜炎

 細菌性心内膜炎(Bacterial endocarditis)のおはなし

 心内膜というのは心臓の内側の壁です。血液を送り出し常に血液と接している心臓の内側が心内膜です。心臓の内側には血液の逆流防止弁がついています。つるんとした内張りの中で弁は突起状構造物。パラシュートの傘と束ねる紐にたとえられる心臓の弁ですが、血中に流れてくる何かがあるとすれば引っかかりそうな構造です。

細菌性心内膜炎はまれにみる病気ですが「こんな怖い病気がある、でも予防ができる」というのを知っていただきたいと思い、お話しします。

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<チョッパーさん>

チョッパーさんは高齢のスピッツ犬。男の子です。急に元気がなくなり、食事がとれなくなって病院にやってきました。

いつもは元気はつらつ、診察台から隙あれば逃げ出すぞ、の姿勢をとるチョッパーさんなのに、動きが悪く、とてもだるそうでした。

ほんの1か月前の検診の時には血液検査のデータもよく、年齢の割に良好、お口が臭いのが気になるだけの結果でした。まぁ、麻酔をかけて歯石の治療をすることにはためらいがあるのはどこのご家庭でも同じです。そんなわけで、歯石のほかは何も悪いところは発見されなかったのに、急にこんなことになるとはびっくりです。何が起こったのか、ご家族の方にも全く心当たりがありませんでした。

 

身体検査をしていくとお熱が出ているのと、脈が強いのが感じられました。聴診するとあらっ?心雑音が聞き取れます。先月の記録では特別異常がなかったポイントです。

血液検査を行いました。白血球増加、反応性cタンパク質の増加、総タンパクが高く、感染症とか炎症を思わせるデータです。尿検査、血圧の検査、そして超音波の検査で、僧帽弁にぷっくりした膨らみを見つけたのでした。

それで、「細菌性心内膜炎」と診断して、治療を始めました。

 チョッパー
ぼく、チョッパーです。

<細菌性心内膜炎というのは?>

細菌性心内膜炎は、細菌のかたまりが心内膜にくっつき心臓の弁膜に問題が起こった病気です。発生頻度はそんなに高くありません。中型から大型の犬に見られます。

感染のもとになる細菌の巣が体のどこかにあることが素因になります。たとえば歯についた歯石のほか、皮膚や皮膚の下の感染(膿み)や肛門周囲の感染などです。

また、抗がん剤や免疫抑制剤などを使っているときは、身体が細菌感染に対し抵抗がなくなり、衰弱しているので病気発生のリスクは高くなります。

 

<原因は細菌>

原因菌はブドウ球菌や溶血性連鎖球菌、大腸菌、シュードモナスといったごく普通の細菌です。特殊な細菌ではありません。

身体のどこかにあった細菌が血液の流れに沿って全身にばらまかれます。これを「菌血症」とか「敗血症」といいますが、この流れで心臓の弁膜に菌が到達し、菌のおできが形成され、弁の動きが悪くなります。

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<症状は?>

平熱のこともありますが、菌が身体に回っているときはたいてい発熱がみられます。

熱のために体が小刻みにふるえていたり、目が充血して赤くなっていたり、だるそうな感じがみられます。

またおう吐や下痢がみられるときもあります。関節が痛くて不自然な歩き方をすることもあります。

心臓の調子が崩れていると呼吸が荒くなります。

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<診断へのみちのり>

聴診は診断に対し、とっかかりになる重要な検査です。心雑音が強く感じられます。急に心雑音が発生した犬で、年齢や僧帽弁閉鎖不全症になりやすい犬種かどうかを考慮し、臨床症状やそのほかの検査で細菌感染を疑わせる要素があるかなどをみて総合的に判断します。中~大型犬でよく見られる心臓病は僧帽弁閉鎖不全症ではなく拡張型の心筋症ですが、心雑音の種類が心筋症とは違うので、細菌性心内膜炎が可能性として高く浮上します。

血液検査で感染性の病気で現れる結果(白血球が高い、血小板が少ない、総蛋白が高い、アルブミン値は低い、アルカリフォスファターゼ活性が高いなど)が出ると裏付けになります。

そして心エコー検査で弁にいぼ状のできものがみられるとほぼ間違いなし、という具合です。

そのほか、尿検査でタンパク尿や、細菌尿を見ることもあります。

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<ほかの病気もおこしてしまう>

細菌性心内膜炎に続いて、うっ血性心不全を起こします。いわゆる弁膜障害が発生しているので心臓にまつわるいろいろが起こってくるのです。疲れやすい、だるい、動くのをいやがる、呼吸がしんどそう、咳が出る、などがうっ血性心不全のときの症状です。発熱しているときと似ています。

それから細菌に対して体が免疫複合体を形成するために、関節症や筋炎、糸球体腎症などの心臓以外の臓器にも異変をおこすことがあります。このような病気を「多臓器疾患」と呼んでいます。

とにかく非常に重篤な結果に発展してしまいますので、早く診断をつけて適切な治療に進めないと危険なのです。

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<原因療法は菌を殺すこと!>

心臓の弁にできたいぼ状の塊は、中心部の細菌を細胞やそのほかの組織で取り囲んだつくりになっています。原因細菌を抗菌薬で攻撃しようとしても周りの組織に阻まれて中の細菌まで到達するのがなかなか大変です。そのくせこのいぼからは血流に乗って遠くの組織に向け、いつでも菌の塊が届けられようとしている状態です。ひとたび血栓として遠くの組織に流れ出せば、その組織で再び菌の巣を形成し始めてしまいます。早く確実に菌を撲滅させなければいけません。そのために良好なマッチングを持った抗菌薬を高濃度でしかも長期にわたって使用する必要があります。

はじめは静脈内点滴と一緒に抗菌薬を投与します。こうすると血液内にある抗菌薬が高濃度でしかも目的とする場所に確実に到達できます。静脈内投与は経口投与に比べると優れた投与方法です。

状態が安定しても抗菌療法は6週間以上続けます。できれば静脈内で投与する期間も長い方が良いです。うまくすると、驚くほどの劇的な改善があります。そうなると安心です。

 

<補助的な治療も>

抗菌薬を体内に投与する媒体としてだけでなく、体液や電解質のバランスをとる目的でも点滴療法は有用です。

食事がうまく取れない間は栄養療法も必要になります。

 

<心臓の治療>

弁にできたいぼのために、弁の働きが悪くなり、うっ血性心不全を起こします。はじめはそんな兆候がなくても、僧帽弁の開閉が悪くなっている状態が続けばいずれはそうしたことが起こってきます。

ACE阻害薬や利尿薬、強心薬など心臓を補助する薬の服用が必要です。

また心臓を守るため、低ナトリウム食や運動制限も大事な治療の範疇に入ります。

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<治療を成功させる秘訣は?>

急性に変化した病態を見つけたらすぐに病院へ向かいます。そして私たちもきちんと診断をつけ、積極的に治療を行うことが大切です。

それから「こんなもんで大丈夫じゃないのかな」なんていう遠慮は禁物です。「まだやらなきゃダメなの?」と思うかもしれませんが、ダメ押しをかけるくらいしつこく菌を叩くことが大切です。目に見えない菌ですから。

 

<予防はできる?>

原因は身体のどこかに巣くった細菌です。体のどこの部分であれクリーンにしておくことが予防になります。歯石や歯肉炎はここだけの問題として無視されがちですが、全身を侵す怖い病気につながるという意識をもって治療することは大変重要なことです。

人でも同じ病気があります。人で感染性心内膜炎(人では細菌性心内膜炎とはいわず感染性心内膜炎のようです)の元になる菌血症を起こした原因を調べたところ、歯科治療や歯周炎などの口腔内処置が最も高かったそうです。

犬の場合もおそらく歯科関連の細菌が多いのではないかと思います。やはり歯周病はそのままにせず、しっかり治療をすること、そして歯科処置後に処方される抗菌薬も「歯がキレイになったのだから要らないだろう」とサボることなく、処方された分をしっかり飲ませていただくことは大切ですね。

普段、私たち動物病院側も高齢犬に全身麻酔下で歯の処置をすることに対して、どうしても消極的になってしまいますが、それは決して犬のためになっていないことを理解してもらい、治療に協力していただくしかないと思います。

 

細菌性心内膜炎のお話はこれで終了です。
8月10日は「健康ハートの日」。大切な心臓に注目していただけたらうれしいです。

 

 

注)さらに深く知りたいと思われる方のため、これまでもつとめて括弧内に英語表記をするようにしてきました。動物の病気に関して英語でのオーナーさま向けサイトは多数あり、一部日本の実情に合わない部分もありますがおおむね参考になります。

今回の話題は日本獣医学会疾患名用語集に基づいて「細菌性心内膜炎」(Bacterial endocarditis)を使用していますが海外の文献も調べたいというときはInfective endocarditis(感染性心内膜炎)で検索されると良いかと思います。

 

 

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僧帽弁閉鎖不全症の治療

 心臓病のお話・6回目・僧帽弁閉鎖不全症について

 

僧帽弁閉鎖不全症は犬の代表的な心臓病の一つです。これまでもこの病気を例にして血液の流れなどをお話してきました。

僧帽弁閉鎖不全症は左心房と左心室の間にある弁で、しまりが悪くなるので血液が逆流し、さまざまな影響が身体に発生してきます。

 

<僧帽弁の閉鎖が完全ではなくなるのはなぜ?>

二つの理由が考えられます。弁膜はパラシュートの傘に例えられることが多いのですが、この傘で円筒形の血液の通り道を開閉する感じです。閉鎖がおかしくなるのは、パラシュート素材の質感の変化があります。ほとんどはこのタイプです。厚ぼったくなり開閉の自由度がなくなるのです。もうひとつの原因は開口する辺縁の広がりで、既存のサイズが合わなくなっているということになります。

前者の質感の変化、というのは弁の障害によるものです。

加齢にともなって僧帽弁に粘液腫のような(厚ぼったくなる)変化が起こるのです。また心内膜炎によることもあります。炎症による腫脹(腫れ)です。「心内膜に細菌が付着しそこで増殖する」というと「心臓の中に細菌?」という驚きをいただきますが、実は歯周病からの細菌の侵入であると考えられています。外科的治療の際に千切れた僧帽弁の腱索を切除しこれを免疫学的に検査したところ、ここから歯周病の原因菌が検出されたそうです。実際、歯が悪い犬では僧帽弁閉鎖不全症がひどいなぁと感じます。

後者のサイズの変化というのは、別の心臓病(動脈管依存症や心室中隔欠損症、拡張型心筋症)によるもので、左心室が拡張したために弁周囲が広がり、閉じきれなくなるケースです。

 

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<病期の分類が世界的な規模で行われています>

僧帽弁閉鎖不全症は進行する病気。どの段階でどのように治療するのが最良なのか、世界の心臓病専門医たちが共同して大がかりな研究に取り組んでいます。国際的なレベルで統一基準があるこの病気は、病期分類に当てはめると世界の専門医たちが推奨する治療と同じものを、どこに居ても受けることができます。

これまでもNYHANew York Heart Association)やISACHCInternational Small Animal Cardiac Counsel:国際小動物心臓保健会議)が心機能を分類していました。現在はACVIMAmerican College of Veterinary Internal Medicine : 米国獣医内科学会)が2009年に出した「犬の慢性心臓弁膜疾患の診断および治療ガイドライン」がグレード分けの基準として使われ、これに沿った治療を行う病院が多くなっています。

 

<治療はいつから始めるのがよいか>

一般に病気というのはその病気を疑うような症状が出て、飼い主さんが病院に連れてきてくださり、そこで検査をして○○病であることが判明し、それに見合った治療が始まるわけですが、心臓病の場合は少し違うことが多いです。症状を飼い主さんが見つけて病院に来てくださるよりも、日々の診察で心雑音を見つけることが多いからです。心雑音があるからすぐに治療を始めなければいけない、ということはありません。この病気は徐々に進行していくわけですが、「心臓病のお話の2回目」でお話したように、最初は心臓の代償機構が働いていて、その時はまだ症状を出していません。症状は出ていないのだけれども、心臓が大きくなってきている時期。この頃から食事に気を使い、降圧剤を使うと良いでしょう、と大半の先生が考えています。

 

当院でお薬をおすすめするのは、心雑音から心臓の検査を行い、心臓が大きくなっているという確認が得られたときです。症状が出るまでは治療を始めなくてもよい、とする先生がいる中、症状が無くても心臓が大きくなっていれば治療をおすすめする理由は、飼い主さんも24時間ずっと犬につきっきりではないし、もしかすると留守の間には症状を出しているのかもしれないと思われるからです。

それから「検査はしなくていいから薬をちょうだい」と言われる飼い主さんもいらっしゃるのですけれど、心雑音だけで判断し、まだ心臓は大きくはっていない時期から投薬する必要はありません。検査は必要だから行うものなのです。

 

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<治療の考え方>

弱った心臓を動きやすく補助してやるのが基本的な治療法です。

食事面では低ナトリウム食をお願いします。もし味付きの食事をしていたのであれば、徐々に低塩から無塩の食事にしていくといいと思います。運動は病期により抑制レベルが変わりますが、徐々に運動をしない方向にしてください。坂道を止め、距離を短くし、やがては抱っこで目的地まで行って少し下ろしてもらって周辺をうろうろするくらいにしていくといいと思います。それから環境温度です。特に夏の暑さ、冬の冷え込みは症状をひどくさせるので、どうしてもご家族のご協力が必要です。

病院が参加する治療は内服薬の処方です。心臓病の場合、お薬は足し算です。病状が軽いうちは1種類のお薬で十分対応できますが、状態が進むにつれて、別のお薬を足し、組み合わせていかないと症状を抑えることができなくなります。心臓の薬を飲ませていても、心臓は悪くなります。病状のグレードが悪い方へ進んでしまっていたら治療を変える必要があります。処方を変えるポイントは心臓の検査です。

急性期の呼吸が苦しいときには酸素療法があります。家庭で使える動物用酸素室のレンタルもあります。病院では仕方なく酸素室でおとなしくしていても、ご家庭では静かにできない場合もありますので、早くから準備をしていても使いこなすことができない場合もあるでしょう。

 

慢性の進行性の病気の考えはどれも同じです。

愛犬が心臓病の終着駅に向かって電車に乗っていると考えてください。知らないうちにスピードが出ている急行列車に乗っているといけません。時折途中駅で下車し、今乗っている電車の種類を確認する作業が必要です。これが定期的な検査です。ときには車両点検も必要です。乗りごごちの悪い車両からグリーン車に乗せ換えてやらなければQOLが低い生活になってしまうからです。定期検査で現状を確認し、常にゆっくりスピードの特別車に乗せてやれるようにします。

心臓の薬を飲ませていても、心臓は悪くなります。でも飲ませなかった場合に比べると、症状を出すまでの期間や心臓が原因で亡くなるまでの期間は延長させることができます。好ましくない症状を抑え、QOLの高い生活を犬に提供してやることができるのも治療をすればこそです。治療はむやみに命だけを長くするものではありません。

また病期に合っていない薬の投与は「治療をしているぞ」という飼い主さんの満足にしかなりません。ときどきのチェックで最良の薬を選択しなければ旧型の特急車両に乗っているのも同じです。定期検査は必要です。

 

僧帽弁閉鎖不全症は物理的に閉じなくなった弁が原因ですから、物理的にこれを治す(外科手術)のが根本的な治療になります。どうしてもこの苦しい状況から解放してやりたい、と思われるのも優しい飼い主ごころです。外科的な処置を希望される場合は、専門病院をご紹介します。

 

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<処方するお薬の代表的なもの>

ACE-阻害剤

古い研究ですが、1999年にThe Bench Study Group による発表で、慢性心不全の犬にACE阻害剤を与えた群は与えられなかった群に比べ治療開始からの生存率が大きく上回るという結果が出ました。その後も2007年のAtkins先生、2008年のPouchelon先生の発表でも同じような結果が出ています。

最初に処方するのはこの薬です。末梢血管を広げるので心臓が無理をしなくても血液が流れやすくなります。心臓内に貯留している血液を血管の方へ移動させると、大きくなっていた心臓が小さくなります。細かった血管を広げるため血圧を下げる効果や、循環が改善されるので腎臓を守る効果もあります。(投与開始直後は一時的に軽度の高窒素血症が現れることが知られています。しかし長期でみた場合腎保護作用があり、水和状態が崩れない限り腎疾患でも使用されている薬です。)

 

ピモベンダン

2008年にオーストラリア、カナダ、ヨーロッパの11カ国28施設で行われたQUEST試験で、僧帽弁閉鎖不全症の犬の生存期間に対するピモベンダンの効果はACE阻害剤に勝る生存期間の延長が得られることが発表されました。またVET SCOPE試験はヨーロッパ5カ国11施設で実施された研究ですが、これにより僧帽弁閉鎖不全症に三尖弁閉鎖不全が併発した犬もこの薬で生存期間が延長することが明らかになりました。現在も大規模なEPIC studyがなされています。最終報告は2016年ころになるだろうと言われていて、新たな発見や効果が出てくるかもしれません。

ACE阻害剤だけでは効果が不十分になって、咳などの臨床症状が出てきたら、こちらの薬も追加処方します。(軽症のうちの投与開始はかえって良くないという研究結果も出ているため初期にはこの薬は処方していません。)血管拡張の作用に加え、心筋の収縮力を強める強心作用があります。

この薬でQOLが改善されること(症状の緩和)、生存期間が延長されること、肺水腫の再発が抑えられることが認められています。

 

利尿薬

尿の産生を促し、滞っている血液から尿へ水分を移動させることで、心臓のサイズを小さくすることができます。腹水や胸水、浮腫など、体内の自由水を尿にし、水和をコントロールするのにも使います。投与後の排尿作用が強く、研究するまでもないくらいなので、この薬に対する大規模な実験はありません。体内の水分が尿になって出すぎてしまうと腎臓を傷めてしまいます。定期的な腎臓のチェック(血液検査)が必要なのはこのためです。個体により、またその時の病状により、最適な投与量を適時変更していきます。特に肺水腫が発生した場合は必ず使用しますが、長期にわたって使っていると効果が薄れてくることがあります。

 

その他

上記の薬で安定しているうちは良いのですが、さらに心臓は悪化し、これらの薬だけではうまくいかなくなってしまうことがあります。肺高血圧症が発症するなどの難治性の僧帽弁閉鎖不全症では、これまでの薬を増量したり、気管支拡張薬や別のタイプの強心薬、動脈血管拡張薬などを使用します。

 

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<とても大切なこと>

インターネットで検索するとグーグル先生がなんでも答えを出してくれ、お手軽に診断できてしまいます。またそれに対する治療薬も違法かどうかはさておき、手に入れることもできます。困った時にも簡単に質問に答えてくれるサイトもあるし、同じ病気になった犬仲間もいてこれからの道筋を示すかのように細かなブログで教えてくれます。そうなるとできないのは検査だけで、病院が必要なのもそんなときだけ。また、検査をする病院はご近所の病院で、そのデータをもとに考えてもらうのは別の病院だったりしていますね。これはとても極端な話で、今、ハートでこんなことが起こっている、という話ではなく、ネットでこれに似たような愛犬家の方たちをお見受けしました。病気の犬を守りましょうという同じ目的を持っているのに動物病院と飼い主さんがこんな希薄な関係で良いのでしょうか。

心臓病に限らず、進行性の病気では行きつく先に必ず虹の橋があります。そこまでの道のりを、愛犬に苦しい思いをさせぬよう、飼い主さんにはこころ穏やかに過ごしてもらえるよう時間を共有するのがホームドクターの役割だと思っています。私も含め、ジェネラリストはスペシャリストに比べ頼りない面も多いのでしょう。しかし何らかの病気と診断された後にインターネットで概要を調べるのは獣医師からの不十分な情報を補うのに良いかもしれませんが、全く診察もない状態で調べものばかりしていると極端な思い込みが発生している場合があります。心配なことは目の前に居る獣医師に投げかけるのが一番よいのではないでしょうか。私たちは愛犬のためにできる「もっと良いこと」を探すお手伝いもさせていただきます。

 

 

 

 

さて、僧帽弁閉鎖不全症の他にも心臓病はたくさんありますが、今回の心臓病関連はこの辺で一旦おしまいにします。

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心臓病のお話・5回目・検査

心臓病のお話、5回目です。身体検査のほかの心臓の検査についてお話します。

 

<血圧の検査>

腕や尻尾の付け根にカフを巻いて血圧を測ります。なかなか静かにしてくれないと反応しないこともあります。ヒトと同じように「白衣性高血圧症」もあります。

静かなところで、ちょっと落ち着かせてから測定します。数回測定し、安定した結果が出た場合だけを評価しています。

犬の正常血圧は報告によって幅があります。ほとんどはヒトより高い値を示します。拡張期よりは収縮期の数値で判断します。収縮期血圧が150mmHg180mmHgあると高血圧症であると判断しています。

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<心電図検査>

心臓が拍動するときに電気信号が流れます。これを身体の各位置に置いた電位測定ポイントに届く時間と強さから、一定の波形を描くのか、特殊な形になっているのかを読み取ります。電気の伝導に問題は無いのか、心臓の大きさに変化があるのか、拍動数やリズムはどうかなどをみることができます。

心筋症や心房細動、房室ブロックなどの場合には特に有用な検査です。

 

<胸部レントゲン検査>

レントゲン検査のうち、一般に行われるのは単純レントゲン検査です。心臓の陰影の大きさや形から心臓のどの部分に拡張があるのかをみます。また肺の透過度で十分空気を含んでいるのかどうか、気管支に炎症やそのほかの問題がないのかどうか、胸水の溜まりはないのかをみていきます。

時間の経過を追って撮影していくと、治療に対する反応や、心臓病の進行の様子なども判断することができます。横になって寝たときの姿勢、仰向け、うつ伏せなどの異なる体位で複数枚撮影します。

重なった影を映し出し、それを評価するので「感度が高いか」と言われると高くは無く、特異的でもありませんが、一定の評価の基準となることができます。

心臓の大きさを評価する方法があります。胸郭の大きさに対する心臓の陰影の大きさをみるものです。「心胸郭比法」(CTR法)といいます。犬種ごとに胸郭の形が違うことや、呼吸の時相で評価が変わってしまう(吸気時と呼気時で胸郭の大きさに変化ができてしまいます)ので、評価が同じ時でも変わってしまうという欠点があります。

もうひとつの方法があります。椎骨の長さと心臓陰影の大きさを計測し、心臓のサイズを椎骨の長さで数値化して評価するものです。「VHS法」と言っています。近年はこちらで判断するのが主流です。急に心臓が大きくなる時期があり、心臓の検査を定期的にしていると前回比を評価することができます。

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<心臓超音波検査>

心エコー検査とも呼ばれます。エコーは動いている心臓の様子を画像にして見ることができ、心臓の検査にとても有用な検査です。動物に痛みを感じさせることは無く、心臓の形態(心拡大や心肥大などがあるかどうかその他)や血液の流れの様子(逆流があるかどうかその他)をリアルタイムで観察することができます。
私どもでは心臓の形と動き、弁の形や血液の逆流、心臓を圧迫する何かがないかどうかなどの観察を行いますが、循環器の専門の先生による精密な検査では、将来心不全を発症するリスクがどのくらいあるのかや腱索が切れた場合の生命予後をある程度予測するという、さらに詳しい情報も得られるようになっています。近年、レントゲンの検査はさておいても、心エコーの検査を優先的に行う先生方もいらっしゃいます。

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<血液検査>

心臓とその他の大きな臓器はそれぞれ太い血管でつながっています。特に腎臓は循環状態の影響を受けやすい臓器です。高窒素血症の有無や電解質のバランスなどをみるために血液検査も必要な検査の一つです。

 

<心臓バイオマーカーの検査>

心臓が大きく拡張し、心筋の伸びが増大すると、心筋壁からホルモンが放出されます。心房からはANPAtrial Natriuretic Petide・心房性ナトリウムペプチド)が、心室からはBNPBrain Nariuretic Peptide・脳性ナトリウムペプチド)が出てきます。検査では安定性の問題から、放出されたままの物質ではなく安定性の良い形になっているANPNT-proBNPN末端プロ脳性ナトリウムペプチド)を測定に利用します。

ANPは主に左心房に強く圧力がかかっているかどうかの評価に、NT-proBNPは心室にたくさんの血液が流れ込んでいて負担になっていないかどうかをみる指標として用いられています。重症度と数値は相関関係にあります。悪くなると数値が高くなり、状態が良くなると低値に戻ります。重症度を測る指標になります。咳をしているのだけれど、呼吸器が悪いのか心臓が悪いのか判断がつかない、という場合にも用いることができます。

またcTnⅠ(Cardiac Troponin Ⅰ・心筋トロポニンⅠ)もバイオマーカーとして用いられます。

いずれも比較的新しい検査です。血液の中の成分を調べる検査なので、採血をするだけでそれ以上の動物の負担はありません。

 

 

今回は心臓病の検査についてお話しました。

次回は代表的な心臓病である僧帽弁閉鎖不全症の治療についてお話し、一旦心臓病のお話を切り上げることにします。 

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