糖尿病のこと

糖尿病のこと

 

糖尿病は知名度が高い病気です。「太っているから心配だわ」という声も聞かれます。でも、糖尿病の本当のつらさについてはほとんど知られていません。病気が発症して病院に連れてこられるまで、病態はすでに進行していることの方が多いようです。そして、糖尿病が診断され、治療が軌道に乗るまでには困難な道のりが待ち構えています。慢性疾患ですから、治療にはご家族皆さんのご理解とご協力が不可欠になっており、これはなかなか厄介な日常生活になります。そして、いつまでも安定した治療が続くとはかぎらず、やがては苦しい合併症や併発症を起こすことになります。糖尿病の犬猫と暮らすご家族の努力は並大抵のものではありません。

今回から数回にわたり、この、知っているようで知られていない糖尿病についておはなししていきたいと思います。

1、糖尿病はどのように発症し、病状をあらわしていくのか。病態整理についてです。

2、糖尿病の出すサイン。症状と診断、検査についてです。

3、糖尿病の初期治療。コントロール治療。家庭治療。発見されてから始められる治療とその後の維持治療についてです。

4、糖尿病の食事療法。関心の持たれる食事管理についてです。

5、「インシュリンが効いていないみたい」というとき。

を、予定しています。
有福サブ・糖尿病 
サブちゃんです。もうインシュリン暦はかなり長いことになりました。まだまだ元気ですよ~。

 
というわけで、1回め。糖尿病の発症にまつわるお話。

 

糖尿病の発症

 

犬と猫とでは、糖尿病の発症の仕組みが異なります。

では、多くが免疫介在性疾患といわれています。またクッシング症候群に併発して発症したり、未避妊メスで発情周期に関連したホルモンの大量分泌によるインシュリン不足で発生することもあります。

一方では、一般に知られているような肥満や感染症、膵炎やストレスに起因して発生します。人の2型糖尿病に類似しているといわれています。

食べすぎで肥満になり、そのまま糖尿病になる、というのはよく言われることですが、すべての肥満猫や肥満犬が糖尿病になるわけではありません。むしろ少ないかもしれません。

 

インシュリンの働き

インシュリンは膵臓のランゲルハンス島にあるβ細胞から分泌されます。食事をすると栄養が腸から吸収され、血中のブドウ糖濃度(血糖値)が上昇します。すると、からだがそれを察知し、膵臓からのインシュリン分泌を促します。インシュリンが細胞膜上にあるインシュリン受容体にくっつくと、細胞内にブドウ糖が入り、からだが栄養を利用できるようになります。インシュリン受容体は細胞という部屋の鍵穴に、インシュリンはそのドアを開ける鍵に例えられています。細胞膜上にあるブドウ糖が入っていくドアは、普通閉まっています。インシュリン(鍵)がインシュリン受容体(鍵穴)とくっついたときに、ドアが開いて、ブドウ糖が細胞内に入っていくことができます。

インシュリンが不足すると

インシュリンが足りないと、ブドウ糖は細胞の中に入っていくことができません。鍵がないと部屋の扉を開けることができないからです。こうなると血中のブドウ糖値(血糖値)は上昇するばかりです。しかし細胞の方は栄養が入ってこないので盛んに「足りない」ことを訴えます。普段血糖値が高まりこれ以上細胞で使われることがない場合、余剰のブドウ糖は肝臓や筋肉に脂肪のかたちで貯めることになっています。細胞が「不足」を訴えると、この貯めてあった肝臓や筋肉内の脂肪が分解され、これも血中にブドウ糖として出てきます。こうして、ますます血糖値は高まることになります。

 

インシュリン抵抗性ということ

 

本来、インシュリンとインシュリン受容体は引き寄せあうようになっていますが、インシュリンに元気がなかったり、インシュリン受容体に元気がないとインシュリンをひきつける力が無くなってしまいます。こうした状態を「インシュリン抵抗性」と呼んでいます。鍵穴が壊れていても、鍵の形が崩れていても、鍵穴に鍵が入りません。こういう状態がインシュリン抵抗性です。こちらも細胞はブドウ糖を有効に活用することができません。

 

糖尿

 

血中のブドウ糖濃度が高くなると、血中の余分な糖は尿中に漏れ出ていきます。血中のブドウ糖濃度は健康であれば空腹時で80mg/dl、食後で130mg/dlですが、糖尿病になると空腹時でも130mg/dlを超えており、未治療の場合200300mg/dlを超えることもあります。血液が腎臓を通過し、尿が作られるわけですが、このときの値が犬で180230mg/dl、猫で280330mg/dlを超えると漏れて出てきます。

注)腎臓尿細管の再吸収機能に問題があるとき、糖尿病とは関係なく尿糖が出現することがあります。

 

多飲多尿

 

尿から糖が出て行くとき、この糖を運び出すために一緒に水も出て行きます。尿量が増えます。多尿です。また血糖値が高いと血はどろどろになります。また尿から水も奪われているので、からだも乾いています。そこで自分自身のからだを何とかしようと、のどが渇き、水をたくさん飲むようになります。多飲です。

 

「血糖値が急上昇」するのはインシュリンにいきなりハードな仕事をさせるというもの。「おなかがすいた。→即甘いおやつ。」という習慣はおうちの方にも、一緒にお付き合いしてくれる愛犬にも好ましくないことなんです。愛犬・愛猫をみてくださる飼い主さんの健康なくしては犬猫の健康維持はありえません。グルメなあなたも健康でいてほしいと思います。

次回は糖尿病の診断について、お話します。

 

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糖尿病2

糖尿病2

今回は糖尿病の診断、検査についてお話ししましょう。

 

糖尿病の臨床症状は皆さんがよくご存知の

①「たくさん水を飲む」
②「たくさん尿をする」
③「食べるのに痩せてくる」
ということです。もちろん、病気が進行してひどくなってくると
④「食事も取れなくなる」し、
⑤「嘔吐をする」
こともあります。

糖尿病を診断するには
①尿糖の出現

②持続的な血糖値の上昇の確認
が不可欠です。けれど、それだけでは診断ができても身体の様子を知るのに不十分です。それで、そのほかの検査も同時に行います。

 

肝臓があぶないかもしれない

 

高血糖が続くとブドウ糖は脂肪のかたちで肝臓や筋肉内に蓄えられるとお話しました。脂のいっぱい乗ったフォアグラや霜降り肉になっているのです。定期健診で血液検査を受けたとき、肝酵素と呼ばれるもの(ALTALPなど)が上昇していると肝臓の機能が心配です。肝臓は我慢強い臓器で、問題が発生しても何も語りません。痛くないのです。脂肪代謝、糖代謝と肝臓は密な関係にあります。脂肪代謝がうまくいっているかどうかは中性脂肪(TG)やコレステロール値(TCHO)を同時に検査します。また黄疸を伴うこともあります。ビリルビン値(TBIL)も測定します。

 

腎臓も関係してきます

 

脱水が進むと、腎臓へ流れなくてはならない血液量が減少し、充分に老廃物を濾過できなくなることがあります。そこで、窒素血症になっていないかどうか、尿素窒素(BUN)やクレアチニン値(CRE)も調べます。
坂本チロ・糖尿病 
チロさん。ふてくされています。お注射も検査のための採血も採尿も大っ嫌いです。多分私たち、嫌われてます。こちらは大好きなんですけどね。

 

からだが酸性に傾いているかもしれない

 

尿の検査は糖だけではなく、ケトン体やpHなども見るようにしています。また血液検査で電解質を測定することもあります。糖尿病で調子が悪くなると、からだはアシドーシスといって、本来の中性から酸性に傾いてしまいます。

 

合併症のチェック

 

感染症や炎症(ことに膵炎)やストレスホルモンによる影響(クッシング症候群)などはよく見られる合併症です。これらの疾患についても疑われる場合は調べます。ことに猫では膵炎との関連が深いため、活動期の膵炎が考えられる場合は膵特異的リパーゼ(SpecfPL)の検査を実施するかもしれません。また多飲多尿多食を起こすほかの病気との鑑別診断を目的に別の検査を行うこともあります。

 

糖尿病に特化した検査

 

一過性のストレスによる高血糖と糖尿病による持続的な高血糖の違いを見るため、日中の血糖値の推移を経時的にみる検査があります。これはインシュリンがうまくコントロールされているか否かを見る検査でもあります。また過去数週間分の平均血糖値を調べるために、糖化アルブミンや糖化ヘモグロビン(HbA1c)、フラクトースアミン(フルクトサミン)などを調べることもあります。モニタリングとしてはことに重要な検査項目です。インスリン値の検査は行わないことが多いです。


糖尿病は診断できればそれで終わりではありません。現状の身体の様子、合併症の有無などを診るために、診断のための検査のほかの検査も行われます。
次回は治療についてお話しする予定です。

 

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糖尿病・3

糖尿病・3回目。

今回は治療に関してお話ししましょう。

 

まず治療の目的についてご理解ください

 

人では糖尿病を2030年患うと、合併症として心臓病や脳卒中、慢性腎不全(透析や腎移植の適応として糖尿病由来のものはほんとに多いのです)、失明、足先の壊死などを心配する状況になってしまうようです。そこで厳格な血糖値コントロールが必要になってくるのですね。そう。いつも血糖値を下げておく必要があるということです。

しかし、犬や猫では糖尿病を診断してからそもそも20年も30年も生きることはありません。つまり合併症が発生するまで生きられないことがほとんどです。(犬の糖尿病性白内障は別です。猫に関しては白内障も稀です。)犬でも猫でも糖尿病性腎症にぶつかることはありますがそれはまれなケースです。

そこで治療目的飼い主さんの満足度、例えば
①多尿がなく夜中の排泄に困らない、とか、

②動物が臨床的に安定していること、
③体重減少がない、
④食欲も安定している
などになってきます。実を言うと、ここに追加して、
⑤治療する立場の獣医師としても治療結果に満足であること、
というのを加えたいのですが、それはこちらサイドのお話です。「もっとうまくいきそうなのにな」と治療成績にジレンマを抱く症例もあるのですが、それは小さな問題です。


それで、治療のゴールですが
必ずしも検査数値がばっちり基準範囲内におさまることはなくてもOK
を出しています。1日のうちの高血糖の時間ができるだけ短いこと、極端な高血糖ではないこと、を主眼に置く感じです。 

小田井チコ・糖尿病 
チコちゃん。相当ひどい併発症がありました。よくぞここまで回復してくださった。そういう思い入れの多い子です。可愛いですよ。

 



治療の概要

 

いくつかの治療法がありますが、この中のどれか一つを選択するのではなく、どれもを行うことで糖尿病をコントロールしていきます。

①インシュリン療法

②食事療法(適正体重維持のため最適な食事を選ぶこと)

③基礎疾患、併発疾患の治療

人でよく使われる「経口血糖下降薬」ですが、犬猫の糖尿病では残念ながらほとんどこの飲み薬に反応しないタイプの糖尿病です。ですから、毎日注射。食事制限あり。運動すべし。他の病気も一緒に治療。という4つのコースになるのです。



 

治療開始

 

さて、診断がついたらすぐにでも治療を開始です。糖尿病性ケトアシドーシスなどを伴う重症化したものでは、長いことおかしくなっていた糖質や脂肪などの代謝異常を改善させるため、インシュリン注射のほか適切な点滴も必要です。そうしてインシュリン注射だけの治療になるまで、できれば1週間くらいは入院し、日中の血糖値をくわしく調べながら治療していくのが望ましい方法です。しかし、中には入院のストレスが強く、食事が取れないような犬猫もいますので、安定するまで、毎日の通院をお願いすることもあります。

この1週間の間に必要な栄養計算も行います。肥満なら体重を落とさなければいけません。痩せているなら体重を増やすようにしていかなければいけません。そしてその食事内容と食事量を動物に受け入れてもらわなければいけません。

糖尿病では摂取した栄養が徐々に吸収され、食後血糖値が急激に上昇するのを抑えることができる療法食を食べてもらいたいのです。そのため、今までの食事から徐々に理想とされる食事へ変更していきます。初期にわずらっていた併発症があるとなかなかすぐにうまくいくとは限りませんが、この開始時期にはインシュリン療法と食事療法、併発疾患への治療が行われる、治療濃厚期になります。

 

糖尿病についてのお話、少々長くなってきました。その後の日常治療については次回にいたします。日常治療は家庭での治療です。ご家族の方にインシュリン注射をお願いしています。

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糖尿病・4

糖尿病4回目。治療についての続きです。

 

日常の治療

 

入院または通院中の7日間くらいで併発疾患をコントロールし、投与すべきインシュリン量も決まり、摂取すべき栄養も一定したところで、ご家族の方にインシュリン注射の手技を覚えていただきます。

安定期に入ったらご家庭でお願いしますよ、ということです。

12回の注射。もちろん、食事時間も注射時間も決められた通りに。食事も分量だけ与えること。散歩や運動でエネルギー消費を行うことも大事な日常治療になります。さらに健康日誌への記入もお願いしたいことです。毎日日誌をつけることで、飲水量が増えてきているぞ、運動が足りないかもしれないな、などのことがわかってくるのです。

この時期には安定度合いによって、数週間から数ヶ月ごとに再診に来院していただきます。日誌を持ってきていただき、血液や尿の検査、体重測定はもちろんですが、その他の異常がないかチェックします。
手島ハナ・糖尿病 
ハナちゃん。キュートでしょう。コントロールが上手くいっています。お父さんにすっごく愛されている幸せなにゃんこさんです。

 

よりよくコントロールされていることの指標です。

①飼い主さんからの観察

・活動性がある

・多飲多尿がない

・多食がない

・低血糖症状がない

②病院での観察

・身体検査所見に問題がない

・体重が安定している

・朝の空腹時血糖値が150300mg/dlの範囲内にある

 

うまくコントロールされていないことの表れです。

①飼い主さんからの観察

・寝ていることが多い
・だらだらとして元気がない

・多飲多尿や多食がみられる

②病院での観察

・身体検査所見で異常点がみられる

・体重が減少している

・朝の空腹時血糖値が高い


 

家庭治療のたいへんなところ

 

さて、こうした日常治療は飼い主さんの生活そのものに強く入り込みます。

家族に介護の必要な方がいると、その方を中心とした生活になりますね。犬猫でも同様です。それが長引くに従って家族の負担になってきます。まずはこうした生活に慣れていただくことです。上手にやりくりしてもらわないといけません。しかし薬の時間が気になって外出してもそわそわしてしまう。旅行に行きたいのに行けない。など不満があふれる日が必ず出てくると思います。それはあなただけに限ったことではありません。薄情なことでもありません。みんなこうした気持ちを持っています。もし「苦しい、大変だ、いやになってきた」というときにはお一人で悩まないでご相談ください。治療を中断されることほど犬や猫にとってつらいことはありません。 



次回5回目は食事療法について。もうちょっと詳しくお話しすることにします。

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糖尿病・5

糖尿病のこと。5回目です。

食事療法のまとめをしておきます。

 

一般に糖尿病のための処方食は「高繊維食」です。前回お話ししたように、急激な血糖値の上昇を防ぐことを目的としています。けれど、「うちの子、病院でもらった食事は食べないのよ」という声も聞かれます。本当に処方食を食べなければいけないのでしょうか。

 

食事と血糖値の問題に関して、一般的に言えることになりますが、正常な動物であればインシュリンは分泌されるので、食事を食べても血糖値は120mg/dl程度に抑えることができるのです。一方糖尿病の動物ではインシュリンが存在しないため(インシュリンが効果的に作用しないため)食後の極端な高血糖がおこることがあるのです。そう。高線維低炭水化物食はこうした意味から理想的な食事になります。

 

よくあることなのですが、尿糖が出ているとカロリーが多すぎるだろうと、飼い主さんが勝手に食事量を減らされます。また痩せてきているのだから、もっと沢山食べさせなければいけないだろうと考える方もいらっしゃいます。高血糖の時間が長すぎると尿糖は出現します。また糖分が尿に出て行ってしまえば身体に残らないので痩せてきます。こうした場合は、インシュリン量を増やす必要があります。ボディコンディションを(3/5)に維持することが大切です。

DSC04667.jpg 
チュータ君です。うまくコントロールできています。

もし痩せているのならば、無理に高繊維低カロリーの食事にしなくても、いわゆるメインテナンスタイプの食事でかまいません

また確実に一定のカロリーを得るためには嗜好性も大切です。投与するインシュリン量が一定ならば運動量も、食事量も一定にすることが望ましいことです。

 

猫の食事療法で気をつけなければいけないことのひとつは、食事選びです。猫で糖尿病を発症するのはたいてい去勢されて肥満になっているオス猫です。そこで痩せさせなければいけないと思い、カロリー制限食、たいていは老猫用のダイエット食を選択されるのです。ところがこれは炭水化物の含有量が比較的多いので食後急激な高血糖を起こしやすいのです。また、せっかく高線維食を選んでも、猫が好まない。食べない。それでも「病気になってしまったのだから」とやっ気になってこの食事を継続してしまう。こうしたパターンでは、脂肪肝を発生させてしまいます。この場合は特に高線維食でなくてもよいので、とにかく何か、たべさせるようにしてください。また目標体重にするのに、3ヶ月くらいかかってもいいぞ、というゆったりした心構えも必要です。急いてはいけません。糖尿病との付き合いは長くなります。
 
DSC04668.jpg 
実はチュータ君はお餅ねこさん。こんな体型ですが血糖値はエクセレント!なのです。

まとめとして、

①一定の体重を維持することが一番大切である、ということ。

②理想は高線維食だけれども、食べないのでは意味がない、ということ。

③痩せるために選ぶ低カロリー食は糖尿病には向いていないかもしれない、ということ。

④猫には高蛋白食の糖尿病用処方食がある、ということ。

以上です。

次回はインシュリンの効きが悪いのだけれど、という心配な場合のことをお話しする予定です。

 

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Author:ハート動物病院
ハート動物病院です。
〒445-0062
愛知県西尾市丁田町杢左51-3
TEL/0563-57-4111
オフィシャルサイト:http://www.heart-ah.com/

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