糖尿病性ケトアシドーシス

 糖尿病性ケトアシドーシスについておはなしします。

 

糖尿病の猫が「すごく具合が悪そう!」なとき、糖尿病性ケトアシドーシスになっていることがあります。犬より猫の方がケトアシドーシスを発生することが多いように思います。ケトアシドーシスは(ときにケトージスの状態だけということもあるかもしれませんが)油断はできません。とにかく、これは内科的エマージェンシー事態で、この病態をしっかり管理して身体を復活させないと帰らぬ猫になってしまいます。

 ケトアシ3
だるだるしていて、しんどそうです。
横たわったまま寝ています。

<症状は?>

すでに糖尿病だと診断されていると、日々健康を観察していただいているので、発見が早いかもしれません。しかし、中には糖尿病だということに気づかず、調子が悪くなって来院されたその日に「糖尿病」に「糖尿病性ケトアシドーシス」を併発していると知らされたというケースもあります。糖尿病は「多飲多尿」ではありますが、「多食」にもなっているため、「食事をもりもり食べて、すごく元気」であると勘違いされてしまうことも多々あります。

そんな「大食漢だねぇ~」「まるまる肥えてるね~」「病気知らずのからだだね~」などとまわりから評されていた猫が、ある日突然

  「食事を食べない」

  「水も飲まない」

  「元気がない」。

それに

  「寝てばかりいる」し

  「嘔吐する」。

なにせ

  「動かない」

というか、

  「横たわったまま」

で、

  「呼んでも何しても反応が少ない」、

  「かろうじてしっぽをぱたぱた動かすくらい」。

とにかく

  「死んじゃいそう」。

といった思いもよらない状態になります。

ほんとに急に、です。

IMGP9774.jpg
簡易血糖チェックはベッドサイドで重宝します。
正確な値よりも少し低めに出ます。
 

<すぐに糖尿病性ケトアシドーシスだと分かるの?>

治療をしている糖尿病の猫が治療経過中にこのような症状になると、わたしたちはすぐにピーン!と来ます。いつものように血液検査と尿検査を実施すると、特徴的な異常値が出るので分かります。

治療していない猫がこのような状態になって連れてこられたときは、予備的な情報が無いのですぐに予想はつきません。それでも身体の調子を調べるために最低限の基本的な検査を実施させていただきますから、同じように血液検査や尿検査を行うので、結果的には診断に結びつくことになります。

身体検査では「だらっと寝ている」「意識が遠い」ことに加え「脱水」がみられるのが普通です。そのようなわけで、

    臨床的な状態がすこぶる悪いこと

    血液検査で高血糖だと分かること

    尿検査でケトン体陽性だと分かること

    血液の電解質が甚だしく異常値に出ること

などから、診断にたどり着きます。

ケトアシ1
基本の点滴液は生理食塩液ですが、
電解質の補正のためにいくつかの薬を計算する必要が出てきます。
mmEqという単位です。
高校の物理の問題は間違えても、
これを間違えるわけにはいきません。
命がかかっています。

 <血液検査のこと>

採取した血液を高速で回転させると、重たいものが下に沈殿し、軽いものは上に、と2層の構造に分離することができます。下に沈んだ重たいものは血液内の細胞、すなわち血球です。赤血球が大半を占めるので赤黒く見えます。上に来るのは血液の液体成分で、血漿(けっしょう)とか血清(けっせい)とか言います。この液体成分を用いて生化学検査や電解質検査を実施します。

健康な猫では、上澄みは無色透明ですが、糖尿病性ケトアシドーシスでは多くの場合、黄ばんで濁っていて(固まってはいませんが)卵プリンのような色合いに見えるのが特徴的です。黄ばみは黄疸があることを、濁りは脂肪血症があることを意味します。たいていは総ビリルビン値(TBil)と中性脂肪(トリグリセリド:TG)が上昇しています。

ケトアシ2
点滴に色がつくと、強力な薬に早変わりして
よく効く気がするのは気のせいでしょうか。

 

<電解質の異常が死を招く>

ケトアシドーシスでは電解質(ナトリウムやカリウム、カルシウムやリン、クロール)のどれもが低下しています。低カリウム血症や低リン血症は生命維持にとって緊急事態です。

カリウムは筋肉の働きに関係していて、不足すると「脱力」や「けいれん」をおこします。心臓も心筋という筋肉で動いています。消化管もぜん動運動を起こしているのは筋肉です。不足すると「心臓は元気に動けません」し、「気持ちが悪く」なり「嘔吐」します。また「便秘」になったりもします。さらに悪化すると、足の筋肉がだらけ「身体が麻痺」したり、呼吸筋麻痺から「呼吸不全」になるとか、腸が動かず「腸閉塞」になるとか、いろいろ怖い状態が出てきます。

また、低リン血症があると、赤血球が壊され「溶血性貧血」や「黄疸」を進めてしまいます。

糖尿病性ケトアシドーシスはまさに死に直面している事態です。

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安定したら猫ちゃん専用のインスリンの使用開始です。
とても細い針です。

<治療にはとても神経を使います>

まずは血管内に水分や電解質を補給するための点滴をつなげます。基本の生理食塩液に不足している電解質を加えます。点滴のスピードもはじめは速めに滴下します。インスリンも別のルートから少しずつ静脈内に入るようにします。数時間ごとに変化する体の様子をチェックし、血液検査や尿検査も行います。その都度、加える補正液を計算し直し、点滴のスピードなども細かく調整します。このような集中した治療は、低かった電解質が上昇し、尿中のケトン体が消え、血糖値も目標まで下がってくるときまで続けます。たいていはまるまる2日くらい経過した後です。「今夜はまとまって寝ても大丈夫かな」と思えるようになるのは、たいがい3日目の夜くらいです。その頃になると、猫は自分で水を飲んだり、少し食事をとったりできるようになっていますから、点滴のスピードもゆっくりで大丈夫になるし、補正のための薬も不要になるし、インスリンも普通の皮下注射に変わります。

点滴を卒業できる頃にはしっかり食事ができているわけですが、たいていは溶血のあとの貧血が残るため、これを元に戻すまでもう一踏ん張り頑張ろうね、となります。

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太郎さん、しっかり首が持ち上げられるようになりました。

<糖尿病の合併症です>

ケトアシドーシスは糖尿病の一時的な状態悪化です。入院治療で危機的な状況を抜け出せても、糖尿病が治ったわけではありません。このあとも継続してインスリン治療が必要です。長い道のりになるわけですが、毎日の観察も定期的な検診のための通院もたいへん重要です。

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温度が入って暖かい診察台だとごろんと寝ころび、
のどをごろごろ鳴らします。
後ろ足もピーン。

<低血糖が怖い?>

規則正しく食事をしない、注射を打つ前に食べていないとインスリンを注射するのが怖い、というお話を聞きました。「低血糖の発作は死んでしまうけれど、高血糖状態は死ぬようなことがないから」と、ともすればインスリン注射を怖がり、インスリンの分量を半分にしたり、またときに注射をお休みしてしまうようです。

猫はだらだらと食べて寝て、遊んで、そしてまた食べて、寝てという自由な生活を送る動物で、規則的に食事を食べることはありません。けれど、だらだら食べるということは急激な血糖値の上昇はないわけです。元気で目標にしている分量を食べているのであれば、時間になったときにインスリン注射をしても大丈夫です。12時間ごとの注射もできれば理想ですけれど、プラスマイナス1~2時間のことであれば、さほど神経を使わなくても危険な事態にはなりません。

高血糖が続き、水不足から脱水が起こり、猫に発生しているストレスを知らないでいて糖尿病性ケトアシドーシスを発生させてしまうのは確実に死に通じる事態です。

日常の糖尿病猫の治療で心配なことがあったら、ご自身の判断で注射を中止するのではなく、ご相談ください。

 ケトアシ4
入院室、マイルームでは身体を伸ばして、
もっとくつろいでいます。
太郎さん、元気になりました。ヨカッタヨカッタ。

今日は猫の糖尿病に併発する「糖尿病性ケトアシドーシス」についてお話ししました。

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猫の糖尿病・2

 今日は猫の糖尿病についてのおはなし。

11月は糖尿病について知ってもらう月、とくに14日から20日は糖尿病週間です。

 

<猫の糖尿病>

糖尿病ではインスリンが足りなくなります。そのため高血糖の状態が続いて、それによって尿から糖が排泄されます。糖と一緒に水も出るので身体は乾き、水を欲します。体内は栄養素の代謝異常からさまざまな症状が出ます。

インスリンは膵臓の中にある膵島(ランゲルハンス島)で作られます。膵臓は腺組織が大半で(95%です)、ここで消化酵素が作られて、十二指腸に消化酵素を出しています。そのほかの部分が内分泌機能の(インスリンなどのホルモンをつくる)部分になります。

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猫専用のインスリンできました。

<二つのタイプ>

猫は膵炎のために膵臓を痛めることが多く、消化酵素に関わる部分だけでなく、内分泌に関わる場所にもトラブルがおこります。膵炎に併発した糖尿病はわりと発生しやすいです。それから重症化しているのもこちらのタイプです。インスリン注射をしていても効きが悪いとか、調子いいなと思ってるとまた悪くなったりすることもあります。

肥満の猫で、食べるのにやせてきて、水をたくさん飲み、尿も多い、というのは膵炎に関係なく発生した糖尿病かもしれません。血液検査や尿検査でもグルコースが高いこと以外は極めて普通。ほかに病気を持たないシンプルタイプがこちらです。

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オーナーさま向けの冊子があります。

<飲み薬で治せますか>

人の糖尿病の罹患率は今、11人に1人の割合で、糖尿病の患者さんは増加傾向にあるのだそうです。人では摂取エネルギー過多から来る糖尿病は「2型糖尿病」に分類され、このタイプはぜんぶの糖尿病患者さんの90%に相当するのだそうです。で、「猫が糖尿病」と聞くと「自分(または家族)と同じだよ~」という反応をしてくださる患者さんがいらっしゃいます。猫の糖尿病も膵炎の関与がないものは2型に相当しますから、病名だけでなく、分類型も同じになりますね。人の2型はインスリン非依存型のため、食事管理や運動療法で治療され、はじめからインスリン注射を行うのではないと伺いました。

さて、人での周知度の高い病気の場合、確定診断がつくと、ご理解が早いです。でも治療法も同じだと思われて「食事療法でいいですか」「飲み薬でお願いします」「インスリン注射はしたくないです」というご希望が出されます。猫の糖尿病は、膵炎に併発したやっかいなタイプでなくても、食事や運動(猫で運動療法は難しいのはご理解いただけるようです)、そして内服薬ではコントロールできません。インスリン注射が絶対必要です。

これは糖尿病だと判明したときに残っている膵島細胞の数や機能に人と猫とでは違いがあるからで猫は残りの細胞がわずかすぎて仕事をしていません。

猫では今インスリン注射をしていると、時間経過とともに残る細胞が再び機能しはじめて注射不要になる日が来るかもしれません。がんばってください。

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注射の方法など丁寧に解説されています。

<糖尿病のときの検査>

糖尿病の診断に必要な検査は血中のグルコース(GLU)と尿検査(GLUの検出)だけですが、猫はストレスに反応して血糖値がびゅん!っと上昇し、ある一定の濃度を超えるとたくさんのブドウ糖を腎臓が処理しきれなくて再吸収されないまま尿に排泄(尿糖が出る)されるので、複数回この2つが持続していることを確認して診断します。いつも緊張しストレスを抱えているときに検査をすると高血糖で尿糖陽性になります。確実にするためには「糖タンパク」を調べます。

それから、身体の状態を知るためにそのほかの検査も必須です。血球検査や肝臓や腎臓、膵臓、血中の脂肪や電解質などを確認する検査です。膵炎があるときや肝臓に問題があるときは肝酵素(ALTAST)が上昇します。高脂血症(TG上昇)がみられることもあります。食事がうまくできず脱水などを起こしているときには高窒素血症(BUNCRE高値)があります。電解質(NaKCl)に異常値がみられるのはケトアシドーシスを予感させます。

これらの検査は定期のフォローアップ検診で来院していただいた折にも実施します。病気が安定しているかどうかによって、検診の頻度や細かな検査を実施する頻度も変わります。

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薬の取り扱いについても解説しています。

<糖たんぱくというのは?>

検査に用いられる糖タンパクには「糖化ヘモグロビン」(HbA1c)と「糖化アルブミン」(GA)があります。以前は「フルクトサミン」というのもありました。

糖に結合するタンパク質に寿命があり、ヘモグロビンは半減期がおよそ120日、アルブミンはおよそ20日です。この違いから、糖化ヘモグロビンは最近1ヶ月くらいの、糖化アルブミンは最近23週間の高血糖状態を知ることができます。高血糖になっている時間帯が長いと高くなります。

現在の糖尿病マーカーの主流になっている2つの検査項目のうち、猫で主に利用されるのは糖化アルブミン(グリコアルブミン:GA)です。全部のアルブミンのうち、糖と結合したアルブミンが占める割合を示しています。糖化アルブミンの猫の基準値は6.716.1%ですが、糖尿病では30%まで行かないことを目指しています。院外の検査ですので、当日結果をお知らせすることはできません。

糖とタンパクが結合したものが糖化たんぱくです。お料理の得意な方だと、お肉のタンパクに砂糖やみりんなどを表面で結合させ、おいしそうな焼き色をつける「メイラード反応」をご存じかと思います。それから病気で入院しているときに、上下の部屋に分かれた大きな点滴バッグを開通させて点滴を受けたことがある方がいらっしゃるかもしれません。糖とアミノ酸が別々の袋に入っています。はじめから合わさっていると褐色になってしまい、効果が得られません。それで別々の袋に入れ、点滴を開始するときに合わせます。こうした色のついたのが糖化たんぱくです。余談でした。

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困ったときの対処方法も分かりますよ。

<合併症は白内障?>

猫は犬ほど白内障を発生させることは無いようです。むしろ神経症のために後ろの足を引きずりながら歩くようなことがおこります。

人のように糖尿病性腎症をおこすことはないようですが、糖尿病を発生している猫は比較的高齢であることが多く、いわゆる高齢猫の慢性腎臓病を発症することはあります。長期の観察の中で、ある程度の高血糖があると「多飲多尿」の状態に慣れすぎていて、腎臓が悪くなっていることに気づかれにくいことがあります。定期検診で腎臓の検査を含めたいのはこのような理由からでもあります。

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さらに毎日の健康日誌もできています。

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健康観察日誌の中はこんなかんじです。

前回はうまくコントロールができない猫の糖尿病のことをお話ししましたけれど、

http://heartah.blog34.fc2.com/blog-entry-823.html 

7月にお話ししたように、

http://heartah.blog34.fc2.com/blog-entry-923.html 

猫のための専用のインスリンが開発されて、たいへん具合が良いです。


こちらのインスリンは結晶になっています。白く混濁しています。インスリン同士をつなぎ合わせている鎖が時間で少しずつほぐれ、バラバラになったときに仕事をする仕組みです。だから作用時間が長持ちなのです。薬を乱暴に扱うと、注射をする前に瓶の中でつなぎ合わせている鎖が切れてしまうことになります。注射前に勢いよくシャカシャカ振ったりしないように、やさしく転倒混和してください。また、小さいお薬なのでつい冷蔵庫のドアポケットに入れてしまいがちですが、ここに入れると冷蔵庫の開け閉めのたびに薬が揺すられてしまいます。保存するときは冷蔵室の方に平らのままで、頻繁に出し入れする物の前には置かないようにお願いします。

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針付き注射筒、専用のシリンジがあります。
目盛りが細かくなっているので微量のインスリンを吸いやすいです。
また正確に計りとれます。
医療廃棄物として処分しやすい専用の廃棄物容器も
付いています。
手前がインスリンです。


高齢猫の体重減少のお話

http://heartah.blog34.fc2.com/blog-category-104.html 

でもお伝えしましたけれど、高齢猫の病気というと、腎臓病は認知度が高いのですが、糖尿病や甲状腺機能亢進症もコントロールが可能な病気ですし、関節症も気づいてケアしてあげると生活の質が向上します。また腫瘍も小さいうちの発見を目指し早期に対処したい病気です。

糖尿病では内科的なエマージェンシー事態が起こることがあります。糖尿病性ケトアシドーシスといいます。これについては後日お話しします。 

 

今日のお話はここでおしまいです。

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猫の糖尿病に関する論文から

猫の糖尿病のトピックスをお伝えしましょう。

 

猫さんに限ってはインスリン注射が不要になることがあるとお伝えしました。しっかり治療したあとのご褒美のように、ある日の検査で低い値が出るとか、インスリン注射するとなんだか調子が悪くなることから、もうインスリンが必要ない、というのが分かります。決してインスリン不要になるのを目指して治療するわけではありません。そのまま不要にならない猫さんたちも大勢います。

さて、この幸運なインスリンが要らなくなった猫さんたち、「糖尿病」ときっぱりお別れができたのでしょうか。

 

面白い研究があります。こちらです。

Glycemic Status and Predictors of Relapse for Diabetic Cats in Remission.
J Vet Intern Med. 2014 Nov 24. doi: 10.1111/jvim.12509. [Epub ahead of print]
Gottlieb S, Rand JS, Marshall R, Morton J.

 

この研究の概要をお話します。

 

糖尿病を過去に患ったことはあるけれど今は普通に生活することができている猫さんたちに、インスリン不要になってから3か月くらいの時点で、いつもの血糖の検査を実施しました。病院でお預かりして24時間絶食にした後、

①空腹時の血糖値

②フルクトサミン値

③猫膵リパーゼ値

をチェックしました。それから、

④ブドウ糖負荷試験(ブドウ糖を静脈内に注射して何時間したときに正常な血糖値に戻るのかを調べる検査。耐糖能といいます。)

を行いました。

 

その結果、

①空腹時の血糖値では19%の猫さんが異常値を示しました。

④の耐糖能に至っては76%の猫さんが異常値を示しました。

 

それからさらに9ヶ月間、この検査に協力してくれた猫さんたちがその後どうなるのか、モニターされました。

 

すると30%の猫さんはまた糖尿病が再発してしまい、インスリン注射が必要になりました。空腹時血糖値が高かったこと、耐糖能が低かったことと関係がありました。具体的な数値でいうと、空腹時血糖値は135mg/dl以上、耐糖能は血糖値117mg/dlに戻るのに5時間以上かかることが再発と深い関連がありました。

 

 

というわけで、

一度糖尿病になったことのある猫さんでは、インスリンが不要になった後も耐糖能に異常がみられるようです。治ったから大丈夫、ということで不摂生な生活を送っているとまた糖尿病にもどってしまうようです。養生をおねがいします。

    

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猫の糖尿病

 11月は糖尿病予防月間。その中でも8日から14日は糖尿病予防週間です。犬や猫でも糖尿病はあります。糖尿病については以前にも6回お話しましたが、猫の糖尿病については犬と異なることもあり、一概に同じように捉えることはできません。「猫の糖尿病でなんだかうまくいかない」ということを中心に追加のお話しをします。

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今月の掲示板です。

猫の糖尿病の原因

糖尿病になる原因は犬と猫とは、もちろん人とも大きく違います。よく言われるのは肥満を危険因子として発生する(ヒトでいうところの)2型糖尿病ですが、猫では慢性膵炎に併発した糖尿病が圧倒的に多いのです。この慢性膵炎を原因とする糖尿病は、膵島(ランゲルハンス島ともいいます。インスリンはここの細胞から分泌されます)が膵炎により徐々に破壊されてインスリン不足になり、糖尿病を発症するというものです。

 

初期管理の問題点・インスリンが効かない?

インスリンが効かない、というのは犬よりも猫で多く聞かれます。併発症に目を向けていなくて、糖尿病の治療だけを行っている場合に多いように思います。

「猫さんの調子が悪い⇒検査を行う⇒糖尿病をにおわす所見が現れる⇒糖尿病に的を絞って診断を行う⇒やっぱり糖尿病だった」

この流れで行くと、最低限の検査で糖尿病の診断はできます。

「こんなに簡単に診断ができてしまった⇒なにか見落としていることがあるかもしれない⇒これもチェックしてみよう⇒あらら、こっちが仕掛けた悪さが先発だった」

という流れで診断をしていくと併発症が見つかる、というものです。

できれば高価な検査はナシでお願いします、とオーナーさんに言われると後者の流れをとることができないので、糖尿病だけを診断するにとどまり、併発症という落とし穴に入ってしまうため結果として期待通りの治療効果が得られない可能性があります。

やはり初診時には併発症も含めたチェックが必要になってきます。

 

それから、猫に犬と同じインスリンを使っても作用時間が短く、効いていないように感じられることがあります。11回なら注射できるけれど2回はできない、としてしまうと24時間のうちインスリンの効果が得られるのがそのうちの数時間だけ、ということになってしまいます。内気な猫さんを入院させ1時間ごとに採血して検査、血糖値の推移をグラフにする(日中曲線を描く)検査を行うのも、それなりに費用がかかるのですが、これもパスしてしまうと、効果のある時間帯、効果が終わってしまった時間帯を知ることができません。本当は短時間だけだけれど効果があったのに、効かないと判断されるような結果になってしまうことがあります。猫さんを預かって時間の経過を追って多数回検査をする方法をとる方が結果的には最適なインスリン薬や注射量を決定するための近道になってきます。

 

猫さんの体型によってもインスリンの効果が期待したように現れないことがあります。インスリンは筋肉や脂肪に作用するため、適度な脂肪組織が必要です。また逆に脂肪がありすぎてもインスリンの吸収が悪く、作用時間も短い傾向にあります。このような特性のためにやむを得ないところもあります。標準体重を維持したいのは、このインスリンが作用する組織を適正量つけたいためでもあります。すぐにしっかりした筋肉組織も欲しいところですが、安定してから追々筋肉をつけていくことにします。

 

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糖尿病についてです。

食餌療法の注意点

さらに猫さんの治療を難しくしているのが食事療法かもしれません。

太っている、もしくは太り気味の糖尿病猫さん向けに高線維食(食後の血糖値が急激に上昇するのを抑える処方食)が第一選択とされてきました。高蛋白質の処方食というのも糖尿病の処方食として推薦されている食事ですが、糖尿病が悪化し痩せてきてしまった猫さんではうまくたんぱく質を利用することができず体重が増加していかないことがあります。もともと猫さんは「これまでに食べたことがある味」「慣れ親しんだ味」に興味を示すのですが、処方食はそれまでの食事と異なるため嗜好の面で猫さんに人気がないことがあります。しかし食べない食事を食べるまで待っていようとか、極度の肥満体形を急激にスリムにしようと極端な減量にチャレンジしようとすると肝リピドーシスを招くのでよくありません。

 

併発症に適応した処方食(膵炎ならば消化器系用のもの)を第一に考え、併発症がない場合は糖尿病用の処方食を選択するようにしますが、どうしても処方食に反応しないのならば今まで通りの食事で、カロリー計算に基づいた量を与えるというのでも良いと思います。標準は理想体重に対し、1kgあたり60~80kcalになるように設定し、これを1日数回に分けて与えるのが食後の血糖値が急激に上がるのを防ぐ食事法になります。

 

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1カ月くらい掲示している予定です。

長期管理上の問題点

これは犬猫共通の注意点になりますが、長く糖尿病の猫さんを管理していると、途中から「管理日誌」をさぼってしまう傾向があります。「昨日も今日も同じだった。はい、〃〃」、と印をつけて終わりにしてしまうのです。またフォローアップの検査も、安定しているし、そんなに頻繁に病院に行かなくても大丈夫、ということで再診間隔が延びてしまうのです。診療費の節約にはなるかもしれませんが、気がついたら安定どころか、悪化していたということになってしまいます。糖尿のコントロールがうまくいかなかったり併発した膵炎のうごきが怪しかったりすると肝リピドーシスを起こしやすく、重症の場合は予後がとても悪くなります。毎日が同じようで変化があるのです。どんなに間隔が開いたとしても6週間くらいでは再診をお願いしたいですし、日々の観察も怠らないようにお願いしたいと思います。

 

 

感染症の心配

これも犬猫共通ですが、感染症を起こしやすいのが糖尿病の特徴です。ブドウ糖は細菌にとっておいしい食糧源。これが尿に含まれているわけですから膀胱に細菌が感染すると瞬く間に繁殖し、細菌性膀胱炎を発症します。また真菌も同様です。再診間隔を短くしておけば膀胱炎が悪化しないうちに発見が可能です。感染症は膀胱だけでなく他の組織でも発生しますが、特に多いのが膀胱炎です。

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ハートニュースも同じ内容です。

腎臓病の併発

猫では高齢になると高い割合で慢性腎臓病が認められるようになります。糖尿病性腎症ではなくて高齢猫によく見られる慢性腎臓病の可能性が高いと思われます。高窒素血症になっていないかどうかは定期のフォローアップ再診でチェックが可能です。もし慢性腎臓病を併発するようになったら、皮下補液をおこない処方食も腎臓病用のものに変更し、あとはいつもの糖尿病の管理を行うだけです。高窒素血症になったから糖尿病性腎症になったと考えるのは早計です。そしてこれで終わりになるわけではありません。諦めないでください。

 

インスリンが不要に?

治療をしているうちに、インスリンが不要になることがあります。糖尿病猫の25%から30%くらいの割合で不要になることがあると言われています。身体のインスリン要求量が減るためと言われています。併発疾患の管理ができたということかもしれません。ですから長く続けていくときに低血糖に注意する必要があります。これには日々の観察と管理日記が役に立ちます。インスリン注射をするとふらふらするというような場合はチェックする必要があります。大変だったインスリン治療生活を卒業できるかもしれません。

 

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ブルーの輪が糖尿病啓発のマークです。

長期管理が必要な慢性疾患

いつもお伝えしていますが、慢性疾患の長期管理は家族の中の特定の方ひとりでできるものではなく、みなさんの協力が必要です。

それから、「この子がいるから旅行に行けない」というお話をお伺いしますが、そういう時こそ動物病院を利用してください。少し息抜きしたい、という時もお手伝いさせていただきます。

先の長いことですから、根を詰めすぎないように、そしてもし手抜きをしてしまったとしても、また軌道修正していけばよいのです。長いマラソンのようなものですからダッシュで走り途中で疲れて走れなくなってしまうよりは、ときに歩いてでも走り続けられる方が良いのです。大変ですがよろしくお願いします。



追加のお話

このほど猫さんのためのインスリン注射ができました。耐性など悩みどころの多かった猫さんに朗報です。
詳しくは病院で。(2016.6書き込み)



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糖尿病・6

糖尿病のお話。6回目です。

思っていた以上にお知らせしなければならないことが沢山ありました。

今回はインシュリンを注射しても効かない。血糖値が下がらない。ということについてです。これは心配ですよね。

 

インシュリンの効きが悪いことの原因はいくつかあります。

①実はうまく注射できていない。

 飼い主さんは頑張っておられるのだけれど、毛の中に注射していたり、全量投与できていなかったり、もしくはバイアルから注射器の中に正しい量を吸い取っていない(ポンプの目盛りを読み間違えている)、などの技術的な問題が含まれることがあります。希釈されて使われている場合は、その希釈に問題があるかもしれません。時々確認してみてください。注射技術に関する問題は、動物病院での診察のときに「こんな方法でやっていますが、大丈夫でしょうか」と、獣医師や看護師の前で、注射するところを見てもらうと安心ですよね。

②インシュリンに問題がある。

インシュリンを冷蔵庫で保存するのを忘れていたり、古くなったものを使っていたりすることが原因になっていることがあります。体重の低い犬猫では、1回の注射で必要な量がごくわずかなため、1本のインシュリンが長いこともってしまうのですよね。ごく基本的な問題です。

さらにインシュリンはやさしく「転倒混和」して混ぜて使うのが基本ですが、中には「激しくシェイク」している飼い主さんがおられます。こうすると結晶を壊してしまうため、インシュリンは効かなくなります。

インシュリンにもいくつかのタイプがあります。それによってはうまく効かないことがあります。「注射の種類を変えましょうね」というご提案をすることがあります。

インシュリンの量が不足しているかもしれないと思われるときがあります。日中の血糖値を測定し、時間ごとのグラフを書いてみます。それにより、量が足りないと判断した場合は注射するインシュリン量を増量することがあります。

また投与回数が1日1回では無理そうだな、と判断すれば1日2回の投与に変更する場合もあります。

専門的になりますがソモギー効果(Somogy効果)ということがあります。インシュリン注射により低血糖になると、生理的にグルカゴンやエピネフリンが放出されてインシュリンに拮抗し、肝臓からグルコースが放出されてしまうのです。そのためインシュリン注射のあと1~2日はうまくコントロールできるのだけれどその後数日間うまくいかない、という周期的な悪い反応が出てしまうのです。こんな場合もあるのだ、という理解をしていただければ、と思います。

 

さて、そんなことではなく、インシュリンの効きが悪い場合があります。

③インシュリン抵抗性疾患を併発している。のかもしれません。

・炎症性疾患

・感染症

・腫瘍

・内分泌疾患

など、大雑把ですが、このような疾患があると、インシュリンの効きが悪くなります。



よくあるのは

①未避妊のメス犬で発情期が来たとき、
です。また

②甲状腺の病気、

③膵臓の病気、

④腫瘍、

⑤細菌性膀胱炎、

⑥歯科疾患があるとき

もうまく反応しません。お口がくさい、オシッコがにごっている、発情が来たなど飼い主さんでもわかる症状があればお知らせください。余分な検査をしなくてもターゲットを絞って検査し、原因を突き止めることができるかもしれません。


 

以上。糖尿病に関するお話。これで一旦終了です。また追加するかもしれません。とにかく内分泌疾患というのは複雑きわまる病気です。


 

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ハート動物病院

Author:ハート動物病院
ハート動物病院です。
〒445-0062
愛知県西尾市丁田町杢左51-3
TEL/0563-57-4111
オフィシャルサイト:http://www.heart-ah.com/

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