飼い主に向けられた攻撃行動・最終回

飼い主に向けられた攻撃行動・その6回目

予後について

 

90%の犬が、この治療法に基づいて行動療法を実行すると2ヶ月で大きく改善されるようです。また70%の犬で「完全に治った」ととらえることができるまでに改善されるようです。しかし依然として10%の犬は充分な効果が得られないのも現実です。

 

どういった犬がこの、残る10%に入ってしまうのでしょうか。

①治療前の攻撃性が非常に強い場合。これは遺伝的要素が強いかも知れません。このような犬では治療には反応しません。

②幼少時から攻撃性が始まっている場合。生後3~4ヶ月齢で発症しているようでは治癒はかなり難しいです。

③攻撃性の持続期間が長い場合。たくさん我慢してこられた結果がこれでは、飼い主さんにはお気の毒ですが、すでにしっかり身につきすぎています。

④犬が大型である場合。コントロールするのが難しいのです。

⑤攻撃のレベルがひどい場合。噛み方がシビアであると、難しいです。

⑥家族の危険度が高い場合。行動療法を実施するにも家族に危険があるようでは限界があります。

⑦家族の、犬に対する働きかけが充分取れない場合。これも行動療法そのものを実施することが難しいです。

 

 

さて、治療を開始し2ヶ月で成功した70%の犬たちのその後はどうでしょうか。たいてい23ヶ月もするとプログラムを緩めることができるようになっています。しかし、ルールを緩めて攻撃性がまた復活する場合もあります。その場合はまた厳しいルールに戻してやり直しです。中には生涯にわたって厳しいルールを与えていかなければならない場合もあります。

 

そして、飼い主が高齢者である場合や、家族が多い場合、攻撃対象が子供に向けられた場合などは、非常に残念ですが、安楽死に持ち込まれるケースがあります。大変悲しい結末です。2年に1度くらい、このような事例を経験します。

以前はジャーマンシェパードや秋田犬などがしつけの難しい犬種としてあげられていましたが、今はそのような犬たちを一般のご家族が家庭犬として選択することは無くなっているため、これらの犬種での事故は減ってきました。

最も事例の多いのがオスの柴犬で、次にミックス犬です。これらの犬たちは当初の飼育目的を「番犬」と位置づけられていることが多く、「人に慣れてはいけない、敷地内に人が入ってきたら威嚇するくらいがちょうどよい」という概念を持って育てられているケースもあります。攻撃性のある犬になるように育てられた結末として「飼い犬に噛まれる」ようでは本末転倒です。幼児期からの正しいしつけについて、ご相談も受け付けております。犬のいる暮らしが楽しいもの、幸せなもの、とオーナーさま皆さんが感じられますように。今日も願ってやみません。

 

 

家族に対する攻撃性について、今回で終了です。

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家族に向けられた攻撃性行動・5

飼い主に向けられた攻撃行動・その5回目

そのほかの獣医学的治療法について

 

1、薬物学的治療

ランクの上にある犬ではセロトニン濃度が高く、不安や恐怖を感じない安定した様子が見られたのに対し、同じ上位の犬でも優位性行動を取る犬ではセロトニン濃度が低かった、という研究報告があります。彼らに共通するのは、こころを穏やかにする物質であるセロトニンを上昇させる必要があるということになります。

 

ここで「脳内物質」について少々お話しておきましょう。

脳の中で「感情」を左右する物質があります。アセチルコリン(ドーパミン)と呼ばれる物質は喜びや快楽をもたらすもので、自分で調節する機能はありませんが、学習した記憶によって高まるものです。こういうことをしたら、こんないい結果が待っていた、というようなモチベーションをあげるようなことに関わります。ノルアドレナリン(エピネフリン)と呼ばれる物質は、恐怖や不安、緊張状態をもたらすものです。からだの内外の環境から突発的で不快な刺激を監視する役目を担っています。オートリセプターがあるため、たくさん出ても、やがて消えて少なくなります。いつまでも過緊張が続かないような仕組みになっているわけです。そして三つ目、セロトニン(5HT)と呼ばれるこの物質は、「ほっとする」「おちつく」「よく眠れる」などの作用をもたらします。

 

セロトニンの作用って素敵ですよね。イライラがなくなって穏やかに過ごせそうです。そこで、この作用が強まるお薬を利用することになります。

 

Clomipramine(クロミプラミン)はセロトミンが脳の神経細胞に吸収されるのを防いで、脳内の血中濃度を上昇させるお薬です。このお薬を使うことで、前回までお話してきた行動療法をよりスムーズに成功に導くことができます。(このほかにも似たお薬は数種類あります。)

 

そんなにいいお薬があるのなら、もっと最初に紹介してくれたら良かったのに、と思われるかも知れません。しかし、あくまでもこのお薬は補助的立場にあり、主役は行動療法です。お薬だけ与えても問題は解決しません。犬の、飼い主に対する攻撃性の治療は、そんなに甘くはないのです。ご理解ください。

 

2、外科的治療法

もうひとつ、実行する価値のある治療法として、雄の去勢手術があります。

去勢手術をすると「支配欲」「テリトリー意識」「攻撃性」などが低下してきます。そしてそうすることで二次的にしつけしやすくなります。これは行動療法も実施しやすくなります。

飼い主さんが直接手を下す必要もないものですから、これは受けてみる価値は充分あると思います。

 

ただし、すでに攻撃性を備えている雌犬に対しての避妊手術の実施はおすすめではありません。余計に攻撃性を増す結果になることもあるからです。

 

さて、こうした治療を継続し、どこまで効果が得られるのでしょうか。非常に気になるところだと思います。予後については次回お話することにします。







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家族に向けられた攻撃性行動・4

飼い主に対する優位性行動・その4回目

リーダーシッププログラムについて

 

前回、治療方法についていくつかご紹介しました。この中で、このリーダーシッププログラムはなかなか重要な位置を占めています。内容が濃いものですので、今回、これについてだけ、独立してお話しすることにしました。

 

基本事項をお話しておきます。

それは「生活をする上で、何かをしなければ、何も得られない」というルールを犬に知らせることです。

 まず、このことを犬にしっかり教えなくてはいけません。食事も、おやつも、なでてもらうことも、注目してもらうことも、犬が好むこと、すべて、このルールに当てはめなければいけません。

 

 例えば食事前。頭のいい犬は「お座り」を言われる前にちゃんと「座って」食事を待っているでしょう。しかし、「座って→待つ」この行為、考えてみてください。ウェイターが食事を運んでくるときの私たちの態度ではありませんか?つまり、あなたは食事を運ぶ給仕人であり、食事をもらう犬は運ばせている側になっているのです。上下関係はどちらが上位にあるでしょうか?

 

 食事を与えるときには、何か行動をさせなければいけません。ウェイターが「何かしろ!」と命令を下せばこちらの方が上位になります。そこで「立て」または「伏せ」という命令を出して、再度座らせるのです。また、「立て」や「伏せ」のコマンドに対し、1回で反応しなかったら食事は与えません。「座れ」の命令に3秒で反応しなければ与えません。次は2秒。そのまた次は1秒。分かっているのに反応しない、頭のいい犬です。コマンドに対するレスポンスの速度、これが反応性になります。

 

 そして食事時間。一般の犬では30分以内に食べきらなければ片付けるのが基本ですが、これらの犬では10分間に短縮。この間に食べきらなければ取り上げます。残りがあっても取り上げます。自分の好きなときに食べる、という状況を作らないようにしましょう。ただし、残った餌が食器にあるときに取り上げるときは、噛まれないように充分注意してください。

 絶食期間はたいてい3日間です。最長で7日間続くこともあります。犬は頻繁に食べる動物ではないので、気にしないようにしましょう。水は与えておきます。もし、数日間絶食した場合は、いきなりいつものものをいつもの量与えると良くないので、食べ始めは少量からスタートしてください。(このあたりのことは、健康を損ねる可能性がありますから、必ず獣医師と相談のうえ、実行してください。勝手にやって失敗しないように。)

 

 とにかくまずは基本の「座れ」をいつ命令されてもできるようにすることが肝心です。

 「座れ」の命令を実行すれば「食べ物にありつける」という公式をしっかり身につけさせましょう。

 また撫でるときも「座れ」の命令をかけます。もしこのときに座らなければ「触られたくないのだろう」と解釈してください。何度もコマンドをかける必要はありません。犬にも拒否する権利はあります。

 ボール遊びをする前も、もちろん「座れ」です。もし、座らなければボールはしまい、最低でも1時間は遊びません。知らん振りしてください。

 

 このようなリーダーシッププログラムを始めると、たいてい2ヶ月程度で犬の態度は改められます。

 とにかく、飼い主さんはすべてのやり取りにおいて、主導権をとってください。犬の要求に屈してはいけません。

 こころを鬼にして頑張りましょう。
 
まだまだお話は続きます。

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家族に向けられた攻撃性行動・3

飼い主に対する優位性行動・3回目

 

その治療についてです。お話の内容がたくさんになってしまいました。まず、初歩的なことからおはなしします。今回は行動学的な治療法についてのみです。

 

1、馬鹿な真似はしないようにしましょう。

 我々からすると、それをやったら犬の機嫌を損ねるよね、ということを平気でされている飼い主さんもいらっしゃいます。犬の行動と気持ちを充分理解していない。つまり、初歩的なミスを犯しているのです。どんな時に噛まれたのか、をしっかり思い出して書き連ねてみるといいと思います。分析です。どんな場所でしたか?ものを取ろうとしたときですか?からだのどこかを触ろうとしたときですか?

 このようなことを「対立の回避」と呼んでいます。これは最低でも2ヶ月は続けてください。「必要だったから、やってみた」というのはいけません。

例1)食事中に食器に触ったときに噛んできた。

 このような方法を訓練のひとつとして取り上げているトレーナーさんもいますが、このような事例のある犬では止めてください。食事中にウェイターがあなたの食器を触ったら、あなたはどのような気分になるでしょうか?

例2)与えたおもちゃを引き上げようとしたときに噛んできた。

 遊び終わったらおもちゃは取り上げるように。これも訓練の基本です。しかし、このような犬ではそれは止めておきましょう。おもちゃは与えません。子供に刺される、と分かっていながら、子供にナイフをおもちゃとして与えるでしょうか?

例3)からだに触れたときに噛んできた。(その部位は?)

 犬がいつでも撫でてもらいたいと思っているわけではありません。触られて気分がすぐれないときもあります。うっとうしい触り方、というのもあるかもしれません。頭をくしゅくしゅっと触ってみたり、頭頂部をぽんぽんとしたりというのは犬を触る人に良くみられる行動です。しかしこれを好ましく思わない犬もいます。

例4)犬が選んだものを奪い取ろうとしたときに噛んできた。

 「あれ!どこから見つけてきたんだろう!」というように、飼い主さんがしまって置いたはずの物を、どこからか見つけ、得意げにしている犬はよくいます。この、自分で見つけてきた宝物を取られるのは気分が悪いようです。飼い主さんとしてはびっくりしてすぐに取り上げようとしますが、これはうまくいきません。他の手段で関心をそらせましょう。玄関チャイムを鳴らしてもらう、散歩に行く、おやつを見せる、など。ほかに方法はあるものです。

2、身体的体罰は絶対に行わないでください。

 からだを押さえつける、首筋をつかむ、縛り付ける、丸めた新聞紙で大きな音を立てて驚かす。これらの行為はやがて、「強くなろう」とする意識を芽生えさせます。こうした罰は「いかに罰から逃れようか」ということだけを犬に学習させることになります。結果的には犬と人の関係を悪化させることになります。

 同様に、あそびのなかでも、「ロープの引っ張り合い」は良くない遊びです。(気弱な犬にわざと勝たせるのはokです)また、高いところに乗せるのも良くないことです。犬の目線が高くなるため、犬のほうが優位に立ってしまいます。

3、しっかりしたリーダーシップをとりましょう。

 これについてはたくさん、お願いしたいことがあります。内容が濃いので次回にお話します。

4、食事に気をつけましょう。

  基本的に低タンパク食にすることがおすすめです。他のプログラムはあれこれ大変なこともありますが、こちらは食べるものの種類を変えるだけ、という非常に簡単な治療法です。これは試してみる価値があると思います。

 ドッグフードに含まれるタンパク質の含有量と攻撃性との関係を検討した研究、なんていうのがあります。これによると、蛋白質の含有量が高い方が攻撃性を表す割合は高かったのです。

 セロトニン(これについては別の機会におはなしします)前駆体のトリプトファンは窒素量の高いアミノ酸が増えると、逆に減少することが分かっています。そして、このセロトニンが減少すると攻撃性は上昇します。

 食事中の添加物が悪影響を与えることもありますが、これを避けるには自家食しかありません。

 また、過剰な量を与えないのもポイントです。

続きは次週です。


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家族に向けられた攻撃性行動・2

問題行動・家族に対する攻撃性・その2

 

人に向けられた、犬の攻撃性は優位性行動によるものです。優位性行動についてまとめてみました。

 

犬の社会は、グループ内の安定を司るために順位ができています。この、犬の社会の中で誰が優位に立っているのか、というランク付けがはっきりしているとグループの中は安定しているのです。犬はボディラングェッジ(体位・体勢・姿勢)で優位を表現しています。このようにして、無駄な闘争が起こらないようにできているのです。

 

優位性はすなわち攻撃性である、ということではありません。グループのトップを「アルファ」をいいます。このアルファはグループの中で一番先に食事を決めたり求愛相手を決めたりすることができる存在です。誰がそのグループの中でアルファになるのかを巡って、一度はグループの中で争いは起こります。相手に敵意を見せるのが攻撃性です。優位性が高まれば攻撃性は弱まります。強弱が明らかな場合、無駄に攻撃を仕掛ける必要はないですから。攻撃性は優位性のひとつの局面なのです。犬を家畜化する段階で、攻撃性のメカニズムは低めてきました。犬に行動抑制をかけることで、犬は攻撃性を低下してきたのです。行動学の本の1ページめはどれもみな「ひと、オオカミに会う」から始まっているのですが、このような行動変化はオオカミにはおこっていません。家畜化された犬にだけおこっていることです。

 

ここで、葛藤による攻撃行動と、真の優位性攻撃が違うことをお知らせしておきます。家族がとんちんかんなために、犬が誤解している場合の攻撃行動は別物です。明らかに犬が嫌がっているのに飼い主がそれに気づかず繰り返す行動により、痺れを切らして攻撃する、というパターンはこころの葛藤、混乱によるものです。

 

さて、優位性のある犬の特徴をお伝えしておきます。非常に頭がいいです。学習能力に優れ、何でもすぐに覚えます。しかし、レスポンスは遅いです。それで、飼い主から「分かっていない?」と思われることもあります。その考えは違います。彼らは分かっているが、反応したくないから、わざと反応しないのです。ですから命令に対しては70%程度聞くのですが、あとは分かっているけど「やってられねーよ」的な反応です。私たちは診察や検査、治療のために彼らを押さえたりしますが、こういった行為を受けることを極端に嫌います。押しが強く、主張の激しいタイプです。相手が向かってきた場合、必ず攻撃します。服従姿勢はとりません。非常に冷たそうに見えます。独立心が強く、ひとりでも大丈夫な犬です。自信を持った強い姿勢で縄張りを持っています。けんかの相手は限られています。優位性の強い犬に対してだけです。

 

優位性行動を起こすときの態度ですが、からだは直立していて、頭の位置は高くなっています。唸ります。唇は上方に引っ張られ、歯茎を見せます。興奮すると毛が逆立つように見えるかもしれません。人の上にかぶさってくるようなかんじです。飛び掛るように突進し、攻撃をしてきます。マウンティングします。

 

こうした優位性行動は子犬のころにすでに見られることが多いです。成犬になり、これがマックスに達します。そして時間とともに悪化します。前兆として、ハンドリングするときに気に入らないところを触ると噛み付いてきます。たいていはリードを付け替えるために触った首や顔まわり、手足などです。優位性攻撃はグループ内の(家族の)ひとりに対して向けられます。老人や女性、子供が標的になります。「せっかち」という言葉が適切かどうか分かりませんが、「欲しい。今すぐ欲しい。こうして欲しい。早くよこせ」というタイプです。

 

次回は治療について書いてみようと思います。

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