イベルメクチン

 今週はノーベル賞受賞のニュースで盛り上がっています。ノーベル賞を受賞した研究の内容というと身近なものからまるでさっぱり分からないものまで、いろいろありますね。ただ、おそらく犬猫にも関係するものとして、今回の大村智先生の医学生理学賞は、キュリー夫人のレントゲン以来の大きな関わりを持つのではないでしょうか。

今日はイベルメクチンについて、お話ししようかと思います。先生の発見された抗生物質は「エバーメクチン」として紹介されていますが、動物用には「イベルメクチン」。みなさんおなじみのフィラリア予防薬です。

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<フィラリアの虫が目の中に?>

フィラリアというのは蚊に刺されて犬の心臓に虫がわく病気です。犬の心臓糸状虫、フィラリア(Dirofilaria immitis)もまれにヒトに感染することもありますが、人の糸状虫症は別の虫が原因となっておこります。分類的には仲間の虫になります。象皮病を起こすバンクロフト糸状虫やオンコセルカ、回旋糸状虫(Onchocerca volvulus)です。アフリカや中南米に住む人もフィラリアに苦しんでいました。

オンコセルカによって発症する病気ですが、川のほとりで発病し、目が冒され失明するため、「河川盲目症」(River blindness)といわれています。

 

犬でも同じようにフィラリア虫体が前眼房の中に迷入することがあります。犬糸状虫の生活環ですが、蚊に刺された後、感染子虫は犬の体内を巡り脱皮して心臓に入ります。その心臓に入る前の段階で、このような思わぬところに迷入してしまうのです。犬の目の中(結膜をめくった部分)にまれに虫を見ることがありますが、これは角膜と結膜の間に居るもので「眼虫」です。犬糸状虫の感染子虫は前眼房の中、角膜とレンズの間に入るのです。点眼液で洗い流しても虫を取り除くことができません。

早崎先生のお話。

http://nichiju.lin.gr.jp/mag/06608/a5.pdf

 

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<フィラリア予防薬の歴史>

そんな犬糸状虫症の予防薬、イベルメクチンは今でこそ当たり前になった「1カ月に1回投与」の予防方法の先駆けになった薬です。

それまではジエチルカルバマジン(DEC)でした。フィラリアの感染期間中、毎日投与して予防しなくてはならなかったのです。とても苦い薬でしかも裸錠。甘いコーティングもされていなかったのです。直接口に入れて投与するにも口の堅い犬、気症が荒い犬では手に負えません。好物のお肉やチーズに潜り込ませてもだませません。薬入りの食物は食べないか、またはぷいっと出してしまいます。みなさん投与に苦労されていました。予防しようと意気込んでも犬の方がごくんとしてくれないので予防が成立しなかったのです。

その後動物が好むおやつタイプ(この頃はクッキーのようなサプリメント様のものでした)のDEC製剤、「フィラリビッツ」が出て、少し投与が楽になりました。これが発売されたのは昭和55年です。1970年代はこのお薬に助けられました。

その後イベルメクチン製剤が表れました。1カ月に1回投与すれば予防できる、安全性にも有効性にも全く問題がない薬です。大革命でした。

しかし、薬が普及するにつれて、この薬のウィークポイントがシェトランドシープドックにあらわれました。たいていの薬は脳に影響しないように血液脳関門というバリアがありますが、コリーやシェトランドシープドック等の牧羊犬のある系統のものにイベルメクチンをブロックすることができない犬がいたのです。遺伝子型によるものでした。ふらつき、協調運動ができなくなり、嘔吐やけいれんを起こして死亡する例も出てきました。シェルティーだけはイベルメクチンの恩恵に取り残されたようになってしまいました。1980年代のことです。

その後、構造の似たマクロライド系抗生物質が開発され、これらの心配が懸念される犬種も別のお薬で安全に予防できるようになりました。

その後、錠剤で登場したイベルメクチンもおやつのジャーキーのような剤形「チュアブル」が出てきました。これも革命です。投薬は簡便になり、月に1回の投薬はおやつとして愛犬が待ち望むくらいの位置づけになりました。

そうして、イベルメクチンは動物薬の中で販売額においてトップを走っています。たぶん20年くらい。

 

現在、犬糸状虫予防はノミ・マダニ予防と一緒にできる皮膚滴下式の薬(1カ月に1回)や、注射(6カ月に1回、1年に1回)などとバリエーションが広がっています。

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 <フィラリア予防と犬の寿命>

犬糸状虫予防が大変だったころ、予防率は大変低く、感染率はとても高かったです。予防をしない犬が初めてフィラリアの症状を出すのは4歳前後、そして寿命は8歳くらいでした。今、犬の寿命が延びたのは栄養管理がよいからとか、飼育の仕方がよいから、獣医学が発展してきたからなどと言われています。子犬のころの死亡率を思うとワクチン接種率の高まりもあるでしょう。そしてそれに続いて予防獣医学の要となっている犬糸状虫の予防率が向上したことも無関係ではないと思います。

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 <皮膚病の治療薬としても貢献している>

イベルメクチンは犬糸状虫予防のほか、皮膚疥癬症の治療にも効果を発揮しています。外遊の多い猫では、遊び友達から簡単に感染してしまいます。またこの寄生虫は人にも感染するものです。強い痒みが出ます。さすがに1回の投与では完治は難しいのですが、23回の注射で見違えるほどきれいな皮膚になります。皮膚疥癬症の治療も何度も薬浴しなければ治らなかった病気ですから画期的なことです。

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<他の動物にも感染する>

犬糸状虫は犬以外に、単蹄類(馬)、偶蹄類(鹿)、海獣(オットセイ、アシカ、アザラシなど)からも感染が見つかっています。猫での感染もあります。そしてこれは珍しい話では無くなっています。

現在、猫のフィラリア症予防に最も簡便なのはノミ予防として知られているスポット剤です。イベルメクチンと近い構造をした「セラメクチン」が主成分です。 

 

 

イベルメクチンの開発につながった川奈ゴルフ場ですが、川奈ホテルはプリンス系列になっていますね。四季折々の花が咲き、オリジナルパウンドケーキも魅力的です。ゴルフのたしなみはありませんが、ぜひお泊まりしてみたいですね。

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フィラリア予防薬はいつまでのませればよいのか

 暑い夏がやっと終わり、待ち遠しかった秋が来ましたが、この秋は短く、すぐに冬が来そうな感じです。こんなに涼しく、というか寒く感じられる日が続くと、フィラリア予防の薬は忘れられそうです。「まだ、予防薬は飲ませないとだめかい?」という質問が来ました。

フィラリア投薬はいつまで続けるのが良いのでしょうか。今日はそのあたりのお話をします。

 

そもそもフィラリアは「フィラリア感染子虫」を体内にもった「蚊」に刺されることで、感染するもの。「蚊」に刺されなければ大丈夫です。でも、私たちは家の中に居ても、ぶぅーん、と飛んできた蚊に刺されてしまうのですから、これを避けるのはなかなか難しい。夕方の散歩は蚊の活動が活発になる時刻。それにぴったり重なるように出かけ、しかも犬は草むらが大好きです。屋外の木もやの下に犬舎があるのなら、日がな一日、犬の上を蚊の大群が飛び交っていても不思議ではありません。「血を吸うのは雌の蚊だけだろ、それも、交尾直後に限定されているんだろー」、なんて言っても、それがなかなかの確率で刺され、吸血されます。

 

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そんなわけで、フィラリア予防期間というのは「蚊」の活動期間に合わせて決まってくるものです。日本全国で投与期間が異なるのはそのためです。蚊の活動期間はどうかというと、結構低温でも活動しています。「蚊」が活動するのは夏だけ、と思っていると大間違いで、数値で言うと気温15℃。これが蚊の吸血開始気温です。

 

一口に15℃、といっても分かりにくいかもしれません。それで、気温とそれにふさわしい服装の関係を記してみます。

蚊が活発に活動する温度は26℃から30℃です。実はそれ以上だと蚊もじっとしています。だから夏の日中は意外と蚊に刺されにくく、夕方の方が狙われやすいのです。で、服装ですが、私たちは間違いなく半袖1枚です。

20℃から25℃くらいですと長袖1枚でしょう。もちろん個人差がありますので、20℃を超えれば半袖、という方もいらっしゃるかもしれません。

16℃から20℃くらいの気温、ちょうど今くらいの時期の平均的な最高気温に相当するのかもしれません。これだと半袖に薄手の上着を羽織りたくなる温度です。

そしてボーダーラインともいえる15℃を下回ると暖かさを感じられるジャケットが欲しくなります。春だと、まだスプリングコートを手放したくないな、という温度です。寒がりさんだと暖房器具に手を伸ばす温度ですし、猫なら丸くなって寝る温度です。

 

さて、15℃。これは薄手の上着を羽織るだけでは寒いよね、もう一枚欲しいよね、に相当するわけです。とすると、半袖に上着1枚羽織れば気分良く過ごせる温度であるうちは蚊に刺されるのです。もちろん15℃を下回って、暖房をつけたらすぐにそれ以上に温度は上昇するわけですから、屋内であればその時点でまた蚊に活動のチャンスを与えてしまうことになりますね。

 

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そしてもう一点。

フィラリアの予防薬はフィラリアの感染終了後1カ月に投与することになっています。つまり、「蚊」に刺されて、感染子虫(L3)が体内に入ってきますが、入ってきてすぐの虫ではなく、1ヶ月くらい身体の中を動きまわり、もうひと段階成長した虫(L4)を殺すのがフィラリア予防薬の得意とするところです。1か月も後だなんて、心配!という方もいらっしゃるかもしれません。大丈夫。まだこの段階では虫は心臓内に到達していません。到達する前の大人になりかけの虫です。ちなみに、L4から大人の虫(L5)になるまでに50日~60日かかります。残念なことに心臓内に入った成虫(L5)は簡単に取り出すことはできません。だからなんとしても身体の中を動いている間のL4の段階で死んでもらわないといけないのです。それが1カ月ごと、という投薬間隔に反映されます。前回の投与日から2カ月が過ぎてしまった!という場合、ちょうど殺しやすい段階の虫を通り越してしまいます。ですから、この1カ月ごと、という投与間隔はぜひとも守っていただきたいのです。また、もし忘れてしまったような場合も、次の投与日まで待たずに、気がついた日に投与してください。

 

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というわけで、理論です。

今年最後に気温が15℃を上回った日の1ヶ月後。この日がフィラリア予防薬の最終投与日になります。西尾市あたりでは12月上旬から中旬、というのが例年の投薬最終日になりますが、いつまでも暖かいので、確実なのはクリスマスころかと思います。

今月のフィラリア予防薬、忘れていませんか。もうすこし、お薬は続けてください。

「あー、面倒くさい」といわれるあなたは、注射薬を選択されると良いでしょう。病院に連れてくるだけで後は何もしなくて大丈夫です。

 

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おまけ>>

フィラリアは脱皮しながら大きくなっていく虫で、L1からL5に分類されます。L1は成虫が産んだ子虫でミクロフィラリアと呼ばれます。犬の血液中に現れます。大きさは300ミクロンです。L1は蚊に刺された時に犬の血液中から蚊の体内へと住まいを変えます。その後、蚊の体内で脱皮して大きくなっていき、L1⇒L2⇒L3となります。L3は感染子虫と呼ばれるもので、蚊から再び犬の体内に入ります。そして犬の身体の中をめぐる間にさらに成長を続け、L3⇒L4⇒L5となります。

L5は完全な成虫で犬の心臓内(正確には肺動脈内)に入り込みます。大きさはオス虫で20センチメートル強、メス虫ではそれよりさらに一回り大きい30センチメートル弱くらいの長さがあります。細い素麺状の虫ですが、くるくるっと丸まって狭い心腔内に入っています。

 

フィラリア成虫は大型犬に感染する虫も小型犬に感染する虫も、もちろん同じ大きさです。心臓の大きさは「握りこぶし」くらいの大きさと言われます。小さなチワワやトイプードルの足先を見てください。この足をグーっと握らせた大きさ、しかもその中に素麺を1~2本入れて見ることを想像してみてください。そのような状態で、血液が全身を回るように心臓が働くでしょうか。室内の小型犬だから予防しなくても大丈夫、ということにはならないし、小さければなおさらのこと、フィラリアに心臓を占拠されてはまずいな、ということがお分かりになると思います。

 

というところで、大変長くなりました。今日はこんなところでおしまいです。

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がんばったわんこ・チョコちゃんその3

さて。せっかくフィラリアの話題になったので、もうすこしお話しておきます。

 

心臓や血管という循環系は閉鎖された空間ですから、心臓内にいるフィラリア成虫は手術以外には体外に取り出す方法はありません。心臓内でおよそ5年の虫の寿命が来て死んだとしても、この虫体は肺静脈を抜け、肺へ行き、最終は肺胞周囲の細い血管を閉鎖して終わるのです。肺塞栓というこの病態はとても苦しいです。また、詰まって血液が通わなくなった血管は石灰沈着が起こり、カチカチになり、その変化は咳を引き起こします。(咳の原因は他にもあります)強い咳が起こると犬は血を吐くようになります。これが喀血(かっけつ)です。咳とともに泡状の真っ赤な血が出ます。

 

フィラリアの虫はこのように肺に流れるわけですが、心臓内にいても血液の流れを悪くするために肝臓や腎臓などに害をもたらします。また、腹水などをもたらすことにもなります。

 

心臓内に成虫がいること(またはいたこと)によって、右心房と右心室の境目にある三尖弁の動きが悪くうまく閉じなくなり(閉鎖不全症)、千切れてしまう(腱索断裂)ことがあります。弁はパラシュートの形をしています。ふんわり屋根が弁で、それを攣っている紐が腱索です。この紐が切れたらパラシュートの布部分がひらひらして思うように動かないのは想像できますね。

心臓にある弁は各部屋の仕切りであり、血液の流れ出るドアです。血液は心臓でも血管でも一方通行が基本です。ところがこの弁に異変が起こると部屋の戸締りがぴったりいかないため、逆流してしまうのです。こうした血液の動きはエコー検査でわかります。カラードップラーは向かってくるもの、去っていくものを色別表示する仕組みです。さらにこの逆流は渦を巻き、長期に渡るとこの逆圧迫で局所的な拡張が生じます。これはX線で心臓の形が変化するのでわかります。もちろん弁の動きの悪化、逆流は血液循環そのものを悪くします。

 

体循環と肺循環の模式図です。

 

血液の動きの悪い部分があると、その前で血液は滞ります。右心系は全身で使われた血液が帰ってくる場所ですから、右心房に入る手前というのは大静脈です。この部分にとどこおる大量の血液を貯めておく場所といえば肝臓になります。このようにして肝臓に血液がたまり(うっ血肝)、肝臓の機能が弱められます。この肝臓にも血液が入りきらず溢れかえるほどになると、肝臓を通過する手前の門脈に影響が出てきます。入りきらなくなった血液のうち、分子の小さな液体成分が血管からはみ出るのです。これが循環不全性の腹水です。

 

それだけではありません。血液循環が悪いと、常に大量の血液が流れ、その機能を果たしている腎臓に影響が出ます。体内の代謝でできた老廃物がしっかり流れてこなければ、これを尿として排泄することができなくなるからです。腎臓そのものは機能を持っていても、仕事をする元の原料が届かないことによるものです。また、腎臓自身にも供給されるはずの血液の栄養が滞りがちになると、やがて腎臓もその機能をなくすことになるのです。

 

さらに心臓内に親虫がいると常にミクロフィラリアが産生されます。ほんとに小さなサイズですから毛細血管、細血管、いたる所に入り込んでいきます。皮膚炎をおこすこともありますし、アレルギー反応が起こることもあります。

 

つまり、どこもかしこも悪い影響を受けるのです。

 

今回は難しい病態生理のお話が長くなってしまいました。面白くありませんでしたね。でも、怖いんだ、大変なんだ、ということだけで結構ですので頭に入れて置いて下さい。

 

フィラリアはなくなった病気ではありません。今もある病気です。そして、蚊の活動期間プラス1ヶ月の予防薬投与で、あなたは確実に愛犬を守ってやることができます。

もし去年まで、ただなんとなくフィラリア予防をしておられて、時々飲ませ忘れちゃったわ、とか、飲ませたけど吐いていたみたい、とか、めんどくさかったから冬まで薬をやらないで終わっちゃったわ、なんてことがありましたら、ぜひ今年からは「きっちり予防すること」を心がけて下さい。

薬を飲まないのよ、食べないのよ、という犬にも、予防方法を注射にしてしまえば簡単です。半年に1回です。どんな方法でもいいのです。あなたの愛を実行して下さい。

 

これでフィラリアのお話は終わりです。

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がんばったわんこ・チョコちゃん2

  チョコちゃんのお話、つづきです。

フィラリアはもう終わった病気でもなんでもありません。今もちゃんと存在する病気です。
今日は検査から手術について中心におはなしします。虫の写真も登場させます。

 

フィラリアの検査と言えば血液検査です。二つあります。

ひとつは血液中のミクロフィラリア、子供の虫を発見する検査です。スライドガラスに落とした血液を顕微鏡で覗きます。赤いのは赤血球です。たくさんの血球が固まっているため、皆さんが思っているドーナツ型にはなっていません。ミクロフィラリアの長さは300ミクロン。約0.3mmです。
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中央部に白い糸くずのように見えるもの、これがミクロフィラリアです。 

それからもうひとつの検査は心臓内の親虫がいないかどうかを確認するための検査です。フィラリア成虫に対する抗原検査です。

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毎年お渡しするこちらの検査のことです。

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左が心臓内にフィラリア成虫のいない犬のもの。
右がチョコちゃんです。
青い線の下に赤いラインが入っています。


それからチョコちゃんは超音波の検査を受けてもらいました。超音波は海の中でお魚を見つける機械、魚群探知機と同じ原理です。水の中に動くものを見つけるのは得意です。「水は黒く、物は白く」うつします。
こちらが心臓のエコー写真です。心臓の4室をとらえた写真です。心臓内部は血液で満たされているので黒く、そして心臓の部屋を仕切る弁のような構造物は白く、もちろんフィラリアも白く写し出します。初めて見る方には分かりにくいかもしれませんね。
右心房(
RA)と右心室(RV)の間に細かな点々があります。黄色の矢印で示したDI周囲です。この点々が心臓の内部にいるフィラリアの虫体です。左上の左心室(LV)と左下の左心房(LA)の間を区切る横の線(僧帽弁)と同じように右の部屋は三尖弁で仕切られますから同じところにまっすぐの横線が現われるはずなのです。エコーは断面(切り口)で捉えるため、虫は線状ですがエコーでは点状に写ります。

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黄色の矢印で示した DIの符号の付いているもの
がフィラリアの虫体です。 

 

さて、チョコちゃんはいくつかの検査の後、数時間して麻酔がかけられ手術室に向かいました。もちろん術中の虫の動向を見るために超音波の機械も手術室に移動です。物々しい雰囲気の中、手術はすすめられます。長時間の手術にモーツアルトを聞きながら、なんて話がありますが、院長は音楽をかけません。手術室に響くのはモニター機の心拍や呼吸をとらえる音、手術の進行を確認する声だけです。(楽しくなんてないんですよ。)

 

そうしてとれたフィラリアの成虫がこちらです。

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気持ちのいいものじゃないですね。
ごめんなさい。

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長さがわかりますか。

 

 

手術という人生の一大事を迎えたチョコちゃんですが、こうして虫を体外に取り出すことができたのはラッキーなことだったかもしれません。

術後、翌日にはオシッコの色も普通に戻りました。肝臓の治療も同時に行い、めきめき回復したチョコちゃんは、今後心臓の保護のためお薬を飲み、今年からフィラリア予防も再開されることになりました。元気になったチョコちゃん。入院中は病院のアイドル的存在でした。再診に来てくれるのが楽しみです。


毎年、4月から5月のどこかの土曜日に院内セミナーでお話をしていただいておりますが、おさらいになると思われる簡単なお話をします。フィラリアは怖い病気です。しっかり予防していただきたいので、しつこいようですがまとめておきますね。

続きは手術時の写真です。
ドキッとしてしまうかもしれないので、見ても大丈夫、という方は開いてみて下さい。

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がんばったわんこ・チョコちゃん1

がんばったわんこ。

久しぶりに病気じゃなくて、病気になったわんこに焦点をあてます。

今回はフィラリア症と闘ったわんこ、チョコちゃんです。

 

フィラリア症は減ってきました。みんなちゃ~ぁんと予防してくれていますからね。けれど過去の病気なわけではありません。病気が減ってくると、ほら、結核みたいに

「そんなの今時、大丈夫じゃないの?」

なんて気になってしまうものなんです。だから

「そうじゃないの。ちゃんと予防しないとだめなの」

そういうお話をしてみようと思いました。

 

で、チョコちゃんに話を戻しますね。

生後数年間はチョコちゃんも予防をしてもらっていました。そのうち、飼い主さんは

「この薬、飲ませなくても大丈夫なんじゃないのか?」

っていう気になってしまったようです。それも分からないわけじゃぁ、ありません。だって飲んでるからって何かが変わるわけじゃないんですものね。それで1年サボりました。なんともありません。2年経ちました。特別な変化は現われません。安心して予防を怠りました。そして数年たったある年の冬、咳をするのが気になって近くの病院に行かれたそうです。そして検査で「フィラリアになっている」事実が判明しました。少しの間「咳」に対する薬を処方してもらって飲んでいたそうです。そうしたら春になって暖かくなったら咳もなくなって、その年のフィラリア予防もしないままに終わってしまったそうです。それから2年が経った今年の春。

「オシッコが赤い!」

ということで当院に連れてこられました。

 

「オシッコが赤い。」

「え?オシッコが赤くてフィラリア?咳じゃなくて?お腹がふくれるとかじゃなくて?」そう思われる方も多いでしょう。

この主訴から「フィラリア症」を結びつけるのにびっくりされる方も多いとおもいます。「オシッコが赤い」といったら膀胱とか腎臓、前立腺の病気の方があてはまると思いますよね。

 

「赤いオシッコ」には「血尿」と「血色素尿」の二つのカテゴリーがあります。赤血球がそのまま出てくるのは「血尿」で、赤血球の色素ヘモグロビンが出てくるのが「血色素尿」です。オシッコを容器に入れて高速回転し、上澄みが黄色かったら「血尿」、上澄みまで赤かったら「血色素尿」です。

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 左がチョコちゃんのオシッコ。右は健康な犬のオシッコです。
赤いのがわかりますね。

実は「フィラリア症」の中でも「前大静脈症候群」という病態があります。「Venae Cavae  Syndorome」といいます。「ベナケーバ症候群」とか「ベナキャバ症候群」のように言われることもあると思います。私たちは略して「VCS」と表記することが多いです。

 

心臓内のフィラリア成虫は、ふつう右心室から肺動脈内にいます。それが何らかの要因で右心室から右心房へ、さらに右心房に入る前の大静脈に虫が移動するのです。それで、この出現した部位の名称を取って、上述のような名前で呼ばれています。

 

さて、ここに虫が来るとどうしたわけか血液の中の赤血球が壊されます。それで血球内の色素であるヘモグロビンが溶け出す「溶血」が起こり、その色素がそのままオシッコに流れ出て「血色素尿」になる、という仕組みです。「溶血」によるオシッコの赤さは赤ワインとか薄口醤油、アメリカンコーヒーのような赤といっても黒々した赤が特徴です。

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高速回転させた血液。
右がチョコちゃんで左が健康な犬のものです。
おしっこと逆になってしまいました。
ごめんなさい。

 

「溶血」は他の原因でも起こります。たまねぎ中毒や自己免疫性の病気のときなどが代表的です。でも、「VCS」のときは特殊な心雑音を聴取できます。それで心臓のエコーをとり、該当部位にフィラリア虫体を確認できれば、確定です。

 

この病態は「フィラリア症」のなかでも唯一、心臓を開けなくても虫を取り出すことのできる病態です。なぜなら頚静脈から心臓入り口の前大静脈までは一直線。そこからちょっと入ると右心房。ここに虫が居たならまっすぐ伸びた長い器具が入ります。その器具で虫を挟み、掴んで取り出すことができるのです。そして手術をしてやれば、食欲がない、疲れやすい、といった病状も取れて速やかに回復に向かいます。むしろ、早急にそうしなければいけません。

 

さて、チョコちゃんですが、手術をすることに決まりました。

ってところで今週はおしまい。

続きは来週でーす。

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ハート動物病院です。
〒445-0062
愛知県西尾市丁田町杢左51-3
TEL/0563-57-4111
オフィシャルサイト:http://www.heart-ah.com/

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