「フィラリア陽性です」と言われたら

 毎年のことですが、フィラリアの血液検査をしていて、「陽性」の結果が出るわんこがいます。今日は「フィラリア検査結果が陽性です」となったわんこのお話しをします。

 

<フィラリア予防薬注意書き>

西尾地区はフィラリア予防薬の投与前に血液検査を受けていないわんこたちもいます。が、フィラリアの予防薬には注意事項があります。以下、某フィラリア予防薬に添付されている効能書の抜粋です。

 

1,制限事項

(1)本剤の投与前には健康状態について検査し、異常のある犬には投与しないこと。

(2)本剤の投与前には犬糸状虫感染の有無を集虫法、抗原検査法等により検査し、犬糸状虫感染犬に投与する場合は、成虫及びミクロフィラリアを駆除するなど適切な処置を行い、慎重に投与すること。

 …略…

2,副作用

 …略…

(3)本剤を犬糸状虫感染犬に投与することにより、急性犬糸状虫症(大静脈症候群)、食欲不振、嘔吐、下痢(軟便)、元気消失、歩様異常、けいれん、流涎及び皮膚アレルギー症状(発赤、搔痒)がみられることがある。(

 …略…

注意:獣医師の処方せん・指示により使用すること

 

つまり、

①投与前にはちゃんと診察に来て、健康状態をチェックさせてくださいね。

②そして血液検査でフィラリアに感染していないことを確認させてくださいね。

③ご自身で、ネットでお取り寄せして投与するのはいけないことなんですよ。

ということになっています。

 securedownload (3)
こちらが抗原検査キットです。
Tのところに縦線が浮かぶかどうかで判定します。
この子は陰性です。

<フィラリアの血液検査>

血液検査は、

①スライドガラスの上に薄くのばした血液を直接顕微鏡で観察し、血中にフィラリアの赤ちゃん虫(ミクロフィラリア)がいないかどうかを検査する方法(ミクロフィラリア検査)、
と、

②検査キットに血液を滴下し、フィラリア成虫が関係する物質とキット内の物質が結合して反応が出る検査で、心臓内にフィラリアの親虫がいないかどうかを確認する方法(フィラリア抗原検査)

の二つがあります。

1X@20120321_025347.jpg
顕微鏡画面です。
糸くずのような虫が2ひき見えます。
長さは300ミクロン、ミクロフィラリアです。
ピンクのつぶつぶは赤血球です。

子どもの虫がいないこと(①)、親虫がいないこと(②)を両方確認するのです。それは万が一、感染しているのに予防薬を投与してしまうと、(☆)のような副作用を出してしまう危険があるからです。

 わんこはみんな、たぶん、みんな、採血は好きではありません。でも、がんばって受けてくれます。それに毎年のことだし、慣れてきます。もし病気になったときでも採血はつきものです。慣れてもらっている方が良いです。それについでに他の項目も検査して、健康状態をみることだってできます。わんこはみんないい子です。大丈夫。これまでやったこと無かったよ、という子でもちゃんとできます。もしまだのわんこがいたら、ぜひ血液検査をしましょう。(余談になりました)

 securedownload (1)
陽性だとTのところにも縦ラインが出て、
縦線が2本現れます。


<フィラリア検査陽性です!>

A病院でお薬をもらって毎年きちんとやってたんだけど、B病院で検査を受けたら「陽性」って言われちゃって、どうしていいのか分からない!」って連れてこられましたわんこがいました。

 こういうときは再検査です。

子どもをみるミクロフィラリアの検査は寄生する虫の数や、検査する時間帯によっては陽性であっても「陰性」に出ることがあります。しかし「陽性」の結果が出たときは間違いなく「陽性」になります。

成虫をみる検査キットはたま~に間違いが出ることがあります。本当は陰性なのに陽性にでてしまうことがあるのです。(この反対も無いことはありません。)こういうときは、もっと正確に結果を出せる検査機関に血液を送って調べてもらうこともできます。詳細な検査で陰性結果が出たら「一安心」です。ここで陽性結果が出たら「う~ん、今年から気を引き締めて、予防を頑張りましょう」になります。

 F症尿
辛そうな表情をしているコロちゃん。
フィラリアは予防をしないと
年々成虫が増えてしまいます。

もらったお薬を投与していたにもかかわらず陽性結果になっているのは、いくつか原因が考えられます。

①はじめに薬を処方して貰ったときより、体重が増えてしまって、薬の量が不足してしまった。

②お薬を投与したのに、知らないところでわんこがペッとはき出していて、実はのんでいなかった。

③投与期間中、1か月ごとのはずが途中で間が開いてしまった。

④冬まで投与しないとイケナイのだけれど、秋になって涼しくなったからもうイイヤと早めに切り上げてしまった。

などはよくあるケースです。

 また譲渡施設から保護してきたわんこの中にはこれまでフィラリア予防をして貰ってなかったわんこもいますし、飼育中のわんこでもご家族のよんどころない事情で予防の時季にどうしても病院に来れなかったというわんこもいます。それから「フィラリア症」という病気について知らなかったから予防する機会が無かったわんこもいます。みんな、いくつかの夏を越し、今があります。

 securedownload_201705211333347f5.jpg
なっちゃん、緊張の面持ち。
保護当時の面影はありません。
今では体重も増え毛のつやも良好です。



<陽性だったらどうする?>

では、フィラリア検査「陽性」のわんこは今後どうしたら良いのでしょうか。

心臓には親虫が、血液中には子どもの虫がいます。そして蚊にさされると感染子虫がさらに体内に入り、そのままだと成虫が増えることになります。

<ミクロフィラリア退治>

①はじめは、予防薬を投与するのに副作用を起こすもとになるのは子どもの虫を退治します。これにはフィラリア予防薬の極少量投与を行います。期間を空けて、少しずつ投与量を増やしていきます。フィラリア予防薬はノーベル症を受賞した薬を代表格として、それに似た「いとこ」の構造の薬も有り、ミクロフィラリアに対する作用が比較的穏やかなものがありますので、そちらの薬を使用します。使い始めの季節にもよりますが、春から始めると夏の終わりまでには安全に本来の投与量に近い分量にまで増量することができます。そしてほかのみんながお休み期間になる冬の間もそのまま投与を続けますと、翌年の春には検査で「陰性」になることが大半です。

<成虫の退治>

②心臓内の成虫に対しては、絶対安静の状態できつい駆除薬を注射し、成虫が死ぬのを待つ方法があります。成虫の生存期間は約5年なので、一度も予防をしたことがない場合には5年分の成虫が心臓内にいることが予想されます。心臓内の成虫が一度に沢山なくなると、血液の流れに沿って虫は心臓から肺へと流れ込み、急性の肺塞栓を発症することがあります。成虫を内科的に駆除するのは危険が伴います。おすすめしていません。

②’外科的に成虫を取り出すのは開胸、開心手術です。現実的ではありません。

②’’たまたま大静脈症候群を発症した場合は、開胸しなくても、心臓内の成虫が頸静脈から入れた長いフィラリア鉗子(フィラリア成虫をつかむために作られた特殊な外科器具です)で引っ張り出すことができます。人工的にこの状態を作り出し、この方法で手術をしようとするのも現実的ではありません。偶然こうなったら、手術しましょう。

②’’’心臓内の成虫は5年くらいの生存で、寿命が来ます。5年間予防に専念していると、自然に無くなるというわけです。死んだ成虫は肺に流れるわけですが、1年分ずつ(少しずつ)徐々に流れるため、人為的に駆除したときのような激しい肺塞栓になることは少ないようです。

<感染子虫の退治>

③感染子虫に対しては、他のわんこと同様の、いわゆる「フィラリア予防」になります。ただし、1年分の予防を1回の注射で済ませてしまいましょうという「注射による方法」を選択することはできません。1か月に1回、(ミクロフィラリアに対して比較的安全なタイプの予防薬を選んで)体重量よりオーバーにならないくらいの分量を(低用量ぎりぎりくらいで)予防していきます。①に連動します。

 

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モカちゃん、舌の色も鮮やか。
体調良好です。


<この先起こりそうなこと>

それでも、心臓内に成虫がいて、血中には子どもの虫がいるので、今は元気でも今後フィラリア症の症状や、後遺症を出すことも考えられます。

①急性犬糸状虫症は前大静脈症候群などとも呼ばれます。急な元気消失、食欲不振、赤色尿を特徴にしたものです。もしこんな病態になったら、一大決心をして貰い、外科手術に踏み切りましょう。

②数年後、運動を喜ばなくなったり、呼吸が苦しそうだったり、咳をするなどの症状を出すことがあるかもしれません。心臓内に成虫がいた結果、三尖弁の調子を悪くしたり、肺に流れた成虫が溶解した後に肺動脈の内壁が石灰化をおこして肺の機能を悪化させてくる可能性があります。このときは心臓や気管支のための薬を投与します。また、さまざまな影響から肝臓や腎臓の機能を低下させることも有り、フィラリア寄生がないわんこに比べると寿命が短くなる可能性もあります。

大量感染を何年も繰り返していた昔に比べ、「やせこけているのに腹水のために腹囲だけがぽっちゃりする」体型の典型的な「フィラリアわんこ」は少ないです。よくある「フィラリアの犬」として目にする絵のような状態になることは、「陽性」確認後すぐに対応してもらえたわんこではまれかと思います。

 F.jpg
急性のフィラリア症、前大静脈症候群では
こんな風な茶色いオシッコが出ます。
高速回転させていますが、膀胱炎の血尿のように
上澄みが黄色くなることはありません。

F症血液
右が前大静脈症候群のときの血液です。
左の正常わんこの血液と比べてみると、
血清が赤色になっている(溶血している)のがわかります。

 <おわりに>

「フィラリア陽性です」と言われると、皆さん、「頭が真っ白になってどうしたらよいのかわからない」、「獣医さんに話しは聴いたはずだけど全く頭に残っていない」という感想を持たれるようです。大丈夫。分からなかったり、心配になったりしたら、何度でも聞けば良いんです。

先日は遠方からお越しいただいたのにお時間が無くてお話しできずに終わってしまった患者さんには、お電話で失礼いたしました。「フィラリア陽性」が分かったときにお話しする内容はだいたいこんなお話しです。個別だと、疑問についてピンポイントでお話しができるのでもっと良いのでしょうが、紙面ではこんな感じのところです。

 

今年のフィラリア予防はまだ始まったところです。もし、まだのわんこがいたら、どうぞお早めにお連れください。そして、「めんどくさいから検査はパスしたいなぁ」とおっしゃる患者さん、「血液検査って大事なんだね」って分かってもらえるとうれしいです。

 

今日のお話はこれでおしまいです。

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イベルメクチン

 今週はノーベル賞受賞のニュースで盛り上がっています。ノーベル賞を受賞した研究の内容というと身近なものからまるでさっぱり分からないものまで、いろいろありますね。ただ、おそらく犬猫にも関係するものとして、今回の大村智先生の医学生理学賞は、キュリー夫人のレントゲン以来の大きな関わりを持つのではないでしょうか。

今日はイベルメクチンについて、お話ししようかと思います。先生の発見された抗生物質は「エバーメクチン」として紹介されていますが、動物用には「イベルメクチン」。みなさんおなじみのフィラリア予防薬です。

 IMGP7541.jpg

 

<フィラリアの虫が目の中に?>

フィラリアというのは蚊に刺されて犬の心臓に虫がわく病気です。犬の心臓糸状虫、フィラリア(Dirofilaria immitis)もまれにヒトに感染することもありますが、人の糸状虫症は別の虫が原因となっておこります。分類的には仲間の虫になります。象皮病を起こすバンクロフト糸状虫やオンコセルカ、回旋糸状虫(Onchocerca volvulus)です。アフリカや中南米に住む人もフィラリアに苦しんでいました。

オンコセルカによって発症する病気ですが、川のほとりで発病し、目が冒され失明するため、「河川盲目症」(River blindness)といわれています。

 

犬でも同じようにフィラリア虫体が前眼房の中に迷入することがあります。犬糸状虫の生活環ですが、蚊に刺された後、感染子虫は犬の体内を巡り脱皮して心臓に入ります。その心臓に入る前の段階で、このような思わぬところに迷入してしまうのです。犬の目の中(結膜をめくった部分)にまれに虫を見ることがありますが、これは角膜と結膜の間に居るもので「眼虫」です。犬糸状虫の感染子虫は前眼房の中、角膜とレンズの間に入るのです。点眼液で洗い流しても虫を取り除くことができません。

早崎先生のお話。

http://nichiju.lin.gr.jp/mag/06608/a5.pdf

 

IMGP7561.jpg 

<フィラリア予防薬の歴史>

そんな犬糸状虫症の予防薬、イベルメクチンは今でこそ当たり前になった「1カ月に1回投与」の予防方法の先駆けになった薬です。

それまではジエチルカルバマジン(DEC)でした。フィラリアの感染期間中、毎日投与して予防しなくてはならなかったのです。とても苦い薬でしかも裸錠。甘いコーティングもされていなかったのです。直接口に入れて投与するにも口の堅い犬、気症が荒い犬では手に負えません。好物のお肉やチーズに潜り込ませてもだませません。薬入りの食物は食べないか、またはぷいっと出してしまいます。みなさん投与に苦労されていました。予防しようと意気込んでも犬の方がごくんとしてくれないので予防が成立しなかったのです。

その後動物が好むおやつタイプ(この頃はクッキーのようなサプリメント様のものでした)のDEC製剤、「フィラリビッツ」が出て、少し投与が楽になりました。これが発売されたのは昭和55年です。1970年代はこのお薬に助けられました。

その後イベルメクチン製剤が表れました。1カ月に1回投与すれば予防できる、安全性にも有効性にも全く問題がない薬です。大革命でした。

しかし、薬が普及するにつれて、この薬のウィークポイントがシェトランドシープドックにあらわれました。たいていの薬は脳に影響しないように血液脳関門というバリアがありますが、コリーやシェトランドシープドック等の牧羊犬のある系統のものにイベルメクチンをブロックすることができない犬がいたのです。遺伝子型によるものでした。ふらつき、協調運動ができなくなり、嘔吐やけいれんを起こして死亡する例も出てきました。シェルティーだけはイベルメクチンの恩恵に取り残されたようになってしまいました。1980年代のことです。

その後、構造の似たマクロライド系抗生物質が開発され、これらの心配が懸念される犬種も別のお薬で安全に予防できるようになりました。

その後、錠剤で登場したイベルメクチンもおやつのジャーキーのような剤形「チュアブル」が出てきました。これも革命です。投薬は簡便になり、月に1回の投薬はおやつとして愛犬が待ち望むくらいの位置づけになりました。

そうして、イベルメクチンは動物薬の中で販売額においてトップを走っています。たぶん20年くらい。

 

現在、犬糸状虫予防はノミ・マダニ予防と一緒にできる皮膚滴下式の薬(1カ月に1回)や、注射(6カ月に1回、1年に1回)などとバリエーションが広がっています。

 IMGP7578.jpg

 <フィラリア予防と犬の寿命>

犬糸状虫予防が大変だったころ、予防率は大変低く、感染率はとても高かったです。予防をしない犬が初めてフィラリアの症状を出すのは4歳前後、そして寿命は8歳くらいでした。今、犬の寿命が延びたのは栄養管理がよいからとか、飼育の仕方がよいから、獣医学が発展してきたからなどと言われています。子犬のころの死亡率を思うとワクチン接種率の高まりもあるでしょう。そしてそれに続いて予防獣医学の要となっている犬糸状虫の予防率が向上したことも無関係ではないと思います。

 IMGP7552.jpg

 <皮膚病の治療薬としても貢献している>

イベルメクチンは犬糸状虫予防のほか、皮膚疥癬症の治療にも効果を発揮しています。外遊の多い猫では、遊び友達から簡単に感染してしまいます。またこの寄生虫は人にも感染するものです。強い痒みが出ます。さすがに1回の投与では完治は難しいのですが、23回の注射で見違えるほどきれいな皮膚になります。皮膚疥癬症の治療も何度も薬浴しなければ治らなかった病気ですから画期的なことです。

IMGP7604.jpg 

<他の動物にも感染する>

犬糸状虫は犬以外に、単蹄類(馬)、偶蹄類(鹿)、海獣(オットセイ、アシカ、アザラシなど)からも感染が見つかっています。猫での感染もあります。そしてこれは珍しい話では無くなっています。

現在、猫のフィラリア症予防に最も簡便なのはノミ予防として知られているスポット剤です。イベルメクチンと近い構造をした「セラメクチン」が主成分です。 

 

 

イベルメクチンの開発につながった川奈ゴルフ場ですが、川奈ホテルはプリンス系列になっていますね。四季折々の花が咲き、オリジナルパウンドケーキも魅力的です。ゴルフのたしなみはありませんが、ぜひお泊まりしてみたいですね。

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フィラリア予防薬はいつまでのませればよいのか

 暑い夏がやっと終わり、待ち遠しかった秋が来ましたが、この秋は短く、すぐに冬が来そうな感じです。こんなに涼しく、というか寒く感じられる日が続くと、フィラリア予防の薬は忘れられそうです。「まだ、予防薬は飲ませないとだめかい?」という質問が来ました。

フィラリア投薬はいつまで続けるのが良いのでしょうか。今日はそのあたりのお話をします。

 

そもそもフィラリアは「フィラリア感染子虫」を体内にもった「蚊」に刺されることで、感染するもの。「蚊」に刺されなければ大丈夫です。でも、私たちは家の中に居ても、ぶぅーん、と飛んできた蚊に刺されてしまうのですから、これを避けるのはなかなか難しい。夕方の散歩は蚊の活動が活発になる時刻。それにぴったり重なるように出かけ、しかも犬は草むらが大好きです。屋外の木もやの下に犬舎があるのなら、日がな一日、犬の上を蚊の大群が飛び交っていても不思議ではありません。「血を吸うのは雌の蚊だけだろ、それも、交尾直後に限定されているんだろー」、なんて言っても、それがなかなかの確率で刺され、吸血されます。

 

 IMGP0589.jpg

 

そんなわけで、フィラリア予防期間というのは「蚊」の活動期間に合わせて決まってくるものです。日本全国で投与期間が異なるのはそのためです。蚊の活動期間はどうかというと、結構低温でも活動しています。「蚊」が活動するのは夏だけ、と思っていると大間違いで、数値で言うと気温15℃。これが蚊の吸血開始気温です。

 

一口に15℃、といっても分かりにくいかもしれません。それで、気温とそれにふさわしい服装の関係を記してみます。

蚊が活発に活動する温度は26℃から30℃です。実はそれ以上だと蚊もじっとしています。だから夏の日中は意外と蚊に刺されにくく、夕方の方が狙われやすいのです。で、服装ですが、私たちは間違いなく半袖1枚です。

20℃から25℃くらいですと長袖1枚でしょう。もちろん個人差がありますので、20℃を超えれば半袖、という方もいらっしゃるかもしれません。

16℃から20℃くらいの気温、ちょうど今くらいの時期の平均的な最高気温に相当するのかもしれません。これだと半袖に薄手の上着を羽織りたくなる温度です。

そしてボーダーラインともいえる15℃を下回ると暖かさを感じられるジャケットが欲しくなります。春だと、まだスプリングコートを手放したくないな、という温度です。寒がりさんだと暖房器具に手を伸ばす温度ですし、猫なら丸くなって寝る温度です。

 

さて、15℃。これは薄手の上着を羽織るだけでは寒いよね、もう一枚欲しいよね、に相当するわけです。とすると、半袖に上着1枚羽織れば気分良く過ごせる温度であるうちは蚊に刺されるのです。もちろん15℃を下回って、暖房をつけたらすぐにそれ以上に温度は上昇するわけですから、屋内であればその時点でまた蚊に活動のチャンスを与えてしまうことになりますね。

 

 IMGP0611.jpg

 

そしてもう一点。

フィラリアの予防薬はフィラリアの感染終了後1カ月に投与することになっています。つまり、「蚊」に刺されて、感染子虫(L3)が体内に入ってきますが、入ってきてすぐの虫ではなく、1ヶ月くらい身体の中を動きまわり、もうひと段階成長した虫(L4)を殺すのがフィラリア予防薬の得意とするところです。1か月も後だなんて、心配!という方もいらっしゃるかもしれません。大丈夫。まだこの段階では虫は心臓内に到達していません。到達する前の大人になりかけの虫です。ちなみに、L4から大人の虫(L5)になるまでに50日~60日かかります。残念なことに心臓内に入った成虫(L5)は簡単に取り出すことはできません。だからなんとしても身体の中を動いている間のL4の段階で死んでもらわないといけないのです。それが1カ月ごと、という投薬間隔に反映されます。前回の投与日から2カ月が過ぎてしまった!という場合、ちょうど殺しやすい段階の虫を通り越してしまいます。ですから、この1カ月ごと、という投与間隔はぜひとも守っていただきたいのです。また、もし忘れてしまったような場合も、次の投与日まで待たずに、気がついた日に投与してください。

 

 IMGP0600.jpg

 

というわけで、理論です。

今年最後に気温が15℃を上回った日の1ヶ月後。この日がフィラリア予防薬の最終投与日になります。西尾市あたりでは12月上旬から中旬、というのが例年の投薬最終日になりますが、いつまでも暖かいので、確実なのはクリスマスころかと思います。

今月のフィラリア予防薬、忘れていませんか。もうすこし、お薬は続けてください。

「あー、面倒くさい」といわれるあなたは、注射薬を選択されると良いでしょう。病院に連れてくるだけで後は何もしなくて大丈夫です。

 

IMGP0567.jpg 

 

おまけ>>

フィラリアは脱皮しながら大きくなっていく虫で、L1からL5に分類されます。L1は成虫が産んだ子虫でミクロフィラリアと呼ばれます。犬の血液中に現れます。大きさは300ミクロンです。L1は蚊に刺された時に犬の血液中から蚊の体内へと住まいを変えます。その後、蚊の体内で脱皮して大きくなっていき、L1⇒L2⇒L3となります。L3は感染子虫と呼ばれるもので、蚊から再び犬の体内に入ります。そして犬の身体の中をめぐる間にさらに成長を続け、L3⇒L4⇒L5となります。

L5は完全な成虫で犬の心臓内(正確には肺動脈内)に入り込みます。大きさはオス虫で20センチメートル強、メス虫ではそれよりさらに一回り大きい30センチメートル弱くらいの長さがあります。細い素麺状の虫ですが、くるくるっと丸まって狭い心腔内に入っています。

 

フィラリア成虫は大型犬に感染する虫も小型犬に感染する虫も、もちろん同じ大きさです。心臓の大きさは「握りこぶし」くらいの大きさと言われます。小さなチワワやトイプードルの足先を見てください。この足をグーっと握らせた大きさ、しかもその中に素麺を1~2本入れて見ることを想像してみてください。そのような状態で、血液が全身を回るように心臓が働くでしょうか。室内の小型犬だから予防しなくても大丈夫、ということにはならないし、小さければなおさらのこと、フィラリアに心臓を占拠されてはまずいな、ということがお分かりになると思います。

 

というところで、大変長くなりました。今日はこんなところでおしまいです。

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がんばったわんこ・チョコちゃんその3

さて。せっかくフィラリアの話題になったので、もうすこしお話しておきます。

 

心臓や血管という循環系は閉鎖された空間ですから、心臓内にいるフィラリア成虫は手術以外には体外に取り出す方法はありません。心臓内でおよそ5年の虫の寿命が来て死んだとしても、この虫体は肺静脈を抜け、肺へ行き、最終は肺胞周囲の細い血管を閉鎖して終わるのです。肺塞栓というこの病態はとても苦しいです。また、詰まって血液が通わなくなった血管は石灰沈着が起こり、カチカチになり、その変化は咳を引き起こします。(咳の原因は他にもあります)強い咳が起こると犬は血を吐くようになります。これが喀血(かっけつ)です。咳とともに泡状の真っ赤な血が出ます。

 

フィラリアの虫はこのように肺に流れるわけですが、心臓内にいても血液の流れを悪くするために肝臓や腎臓などに害をもたらします。また、腹水などをもたらすことにもなります。

 

心臓内に成虫がいること(またはいたこと)によって、右心房と右心室の境目にある三尖弁の動きが悪くうまく閉じなくなり(閉鎖不全症)、千切れてしまう(腱索断裂)ことがあります。弁はパラシュートの形をしています。ふんわり屋根が弁で、それを攣っている紐が腱索です。この紐が切れたらパラシュートの布部分がひらひらして思うように動かないのは想像できますね。

心臓にある弁は各部屋の仕切りであり、血液の流れ出るドアです。血液は心臓でも血管でも一方通行が基本です。ところがこの弁に異変が起こると部屋の戸締りがぴったりいかないため、逆流してしまうのです。こうした血液の動きはエコー検査でわかります。カラードップラーは向かってくるもの、去っていくものを色別表示する仕組みです。さらにこの逆流は渦を巻き、長期に渡るとこの逆圧迫で局所的な拡張が生じます。これはX線で心臓の形が変化するのでわかります。もちろん弁の動きの悪化、逆流は血液循環そのものを悪くします。

 

体循環と肺循環の模式図です。

 

血液の動きの悪い部分があると、その前で血液は滞ります。右心系は全身で使われた血液が帰ってくる場所ですから、右心房に入る手前というのは大静脈です。この部分にとどこおる大量の血液を貯めておく場所といえば肝臓になります。このようにして肝臓に血液がたまり(うっ血肝)、肝臓の機能が弱められます。この肝臓にも血液が入りきらず溢れかえるほどになると、肝臓を通過する手前の門脈に影響が出てきます。入りきらなくなった血液のうち、分子の小さな液体成分が血管からはみ出るのです。これが循環不全性の腹水です。

 

それだけではありません。血液循環が悪いと、常に大量の血液が流れ、その機能を果たしている腎臓に影響が出ます。体内の代謝でできた老廃物がしっかり流れてこなければ、これを尿として排泄することができなくなるからです。腎臓そのものは機能を持っていても、仕事をする元の原料が届かないことによるものです。また、腎臓自身にも供給されるはずの血液の栄養が滞りがちになると、やがて腎臓もその機能をなくすことになるのです。

 

さらに心臓内に親虫がいると常にミクロフィラリアが産生されます。ほんとに小さなサイズですから毛細血管、細血管、いたる所に入り込んでいきます。皮膚炎をおこすこともありますし、アレルギー反応が起こることもあります。

 

つまり、どこもかしこも悪い影響を受けるのです。

 

今回は難しい病態生理のお話が長くなってしまいました。面白くありませんでしたね。でも、怖いんだ、大変なんだ、ということだけで結構ですので頭に入れて置いて下さい。

 

フィラリアはなくなった病気ではありません。今もある病気です。そして、蚊の活動期間プラス1ヶ月の予防薬投与で、あなたは確実に愛犬を守ってやることができます。

もし去年まで、ただなんとなくフィラリア予防をしておられて、時々飲ませ忘れちゃったわ、とか、飲ませたけど吐いていたみたい、とか、めんどくさかったから冬まで薬をやらないで終わっちゃったわ、なんてことがありましたら、ぜひ今年からは「きっちり予防すること」を心がけて下さい。

薬を飲まないのよ、食べないのよ、という犬にも、予防方法を注射にしてしまえば簡単です。半年に1回です。どんな方法でもいいのです。あなたの愛を実行して下さい。

 

これでフィラリアのお話は終わりです。

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がんばったわんこ・チョコちゃん2

  チョコちゃんのお話、つづきです。

フィラリアはもう終わった病気でもなんでもありません。今もちゃんと存在する病気です。
今日は検査から手術について中心におはなしします。虫の写真も登場させます。

 

フィラリアの検査と言えば血液検査です。二つあります。

ひとつは血液中のミクロフィラリア、子供の虫を発見する検査です。スライドガラスに落とした血液を顕微鏡で覗きます。赤いのは赤血球です。たくさんの血球が固まっているため、皆さんが思っているドーナツ型にはなっていません。ミクロフィラリアの長さは300ミクロン。約0.3mmです。
DSC00410.jpg  
中央部に白い糸くずのように見えるもの、これがミクロフィラリアです。 

それからもうひとつの検査は心臓内の親虫がいないかどうかを確認するための検査です。フィラリア成虫に対する抗原検査です。

DSC09986.jpg 
毎年お渡しするこちらの検査のことです。

DSC09987.jpg
左が心臓内にフィラリア成虫のいない犬のもの。
右がチョコちゃんです。
青い線の下に赤いラインが入っています。


それからチョコちゃんは超音波の検査を受けてもらいました。超音波は海の中でお魚を見つける機械、魚群探知機と同じ原理です。水の中に動くものを見つけるのは得意です。「水は黒く、物は白く」うつします。
こちらが心臓のエコー写真です。心臓の4室をとらえた写真です。心臓内部は血液で満たされているので黒く、そして心臓の部屋を仕切る弁のような構造物は白く、もちろんフィラリアも白く写し出します。初めて見る方には分かりにくいかもしれませんね。
右心房(
RA)と右心室(RV)の間に細かな点々があります。黄色の矢印で示したDI周囲です。この点々が心臓の内部にいるフィラリアの虫体です。左上の左心室(LV)と左下の左心房(LA)の間を区切る横の線(僧帽弁)と同じように右の部屋は三尖弁で仕切られますから同じところにまっすぐの横線が現われるはずなのです。エコーは断面(切り口)で捉えるため、虫は線状ですがエコーでは点状に写ります。

DSC_2947.jpg 
黄色の矢印で示した DIの符号の付いているもの
がフィラリアの虫体です。 

 

さて、チョコちゃんはいくつかの検査の後、数時間して麻酔がかけられ手術室に向かいました。もちろん術中の虫の動向を見るために超音波の機械も手術室に移動です。物々しい雰囲気の中、手術はすすめられます。長時間の手術にモーツアルトを聞きながら、なんて話がありますが、院長は音楽をかけません。手術室に響くのはモニター機の心拍や呼吸をとらえる音、手術の進行を確認する声だけです。(楽しくなんてないんですよ。)

 

そうしてとれたフィラリアの成虫がこちらです。

DSC09752.jpg 
気持ちのいいものじゃないですね。
ごめんなさい。

DSC09758.jpg 
長さがわかりますか。

 

 

手術という人生の一大事を迎えたチョコちゃんですが、こうして虫を体外に取り出すことができたのはラッキーなことだったかもしれません。

術後、翌日にはオシッコの色も普通に戻りました。肝臓の治療も同時に行い、めきめき回復したチョコちゃんは、今後心臓の保護のためお薬を飲み、今年からフィラリア予防も再開されることになりました。元気になったチョコちゃん。入院中は病院のアイドル的存在でした。再診に来てくれるのが楽しみです。


毎年、4月から5月のどこかの土曜日に院内セミナーでお話をしていただいておりますが、おさらいになると思われる簡単なお話をします。フィラリアは怖い病気です。しっかり予防していただきたいので、しつこいようですがまとめておきますね。

続きは手術時の写真です。
ドキッとしてしまうかもしれないので、見ても大丈夫、という方は開いてみて下さい。

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プロフィール

ハート動物病院

Author:ハート動物病院
ハート動物病院です。
〒445-0062
愛知県西尾市丁田町杢左51-3
TEL/0563-57-4111
オフィシャルサイト:http://www.heart-ah.com/

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