慢性腎臓病とFGF-23

 前回、慢性腎臓病の猫ではリンのコントロールが重要なことをお話ししました。リンのコントロールをしないと、腎性二次性上皮小体機能亢進症を発症してしまうし、腎性二次性上皮小体機能亢進症は身体にいろいろ悪さをしてしまうから、というのがその理由です。

上皮小体ホルモン(PTH)は骨のミネラル代謝に関係するホルモンで、慢性腎臓病ではIRISの分類でいうステージ3ころから上昇を始めます。PTHの検査は日常的に実施するようなことはありません。もっぱら血漿中のリンとカルシウムの値を調べています。これらの結果からミネラル代謝異常を知ることになるのです。

高窒素血症でも言えることですが、はじめは身体が異常を知ります。それでそこを補うように身体が反応します。代償作用です。検査で分かる数値は、代償作用ではもう頑張りが効かなくなってきてからの上昇です。

腎臓のGFRの低下を高窒素血症となるBUNCREの上昇で知るよりも早くSDMAで知るように、ミネラル代謝異常も血漿リン値が上昇するよりも早く異常を知らせてくれる指標が望まれます。

 

ところで、リンの代謝に深く関わっている物質で、FGF-23というのがあります。今日はFGF-23についておはなしします。

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FGF-23というのは>

FGF-23Fibroblast Growth Factor 23の略で、線維芽細胞増殖性因子、骨の細胞から分泌されるペプチドホルモンです。血漿中のFGF-23は腎臓からのリン排泄を促します。(リンを体外に出すように働きかけます。)それからビタミンD活性を抑え、上皮小体ホルモンの分泌や合成を制御しています。これはカルシウムとリンのバランスを取るための仕組みの一つです。骨からカルシウムが溶け出さないようにすること、正常な骨を造るためにはFGF-23が正常に分泌されることが必要のようです。

FGF-23は腎機能低下に伴って上昇しますが、それは血漿リン濃度が上昇する前の、早期の慢性腎臓病の段階から認められています。(高リン血症になるのは、腎機能低下がかなり進行してからのことです。)

 

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<猫のFGF-23に関する研究>

猫のFGF-23に関する研究はElliott先生たちのグループが行っています。2013年と2015年にその研究の発表がされています。「FGF-23の濃度が高い猫は病気の進行も早いし寿命も短かったこと」や「著しい上昇は死亡リスクの増加と関連があったこと」がわかりました。カルシウムとリンのバランスが崩れることは死亡率に重要な役割を果たしています。また「リン制限の食事療法を始めるとリン濃度と同様FGF-23濃度も下がること」や、「猫の基準的数値は人のそれに比べてはるかに高いこと」も分かっています。(ヒトでは8.254.3pg/ml、猫では56700pg/mlだそうです。)

 

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FGF-23は臨床にどのように応用できるのか>

FGF-23が慢性腎臓病の早期段階で上昇することやリン制限食で低下すること、腎臓病の進行によって上昇することから、

①早期発見のマーカー

②病気進行のマーカー

③予後判定のマーカー

としての使用が期待されます。

そして血漿リン値が高まる前に、その指標がいくつになったらリンコントロールを始めたら良いのかが具体的に分かるとなると、将来的に

④リン制限のためのエビデンスのある数値

ができるかもしれません。するとその指標の検査をこまめに実施することになり、もっとリンコントロールの重要性は知れ渡るのかもしれません。

 

残念ながら、現段階ではヒトのFGF-23も保険適応外なくらいなので、「うちの猫ちゃん」の数値を調べたり、結果から何かを推測していく、これをもとに治療の方針が変わる、とかいうことはまだ先のことです。そのうちには実用化に向けた芳しいお話しができる日が来ることを信じています。

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FGF-23のそのほかの働き>

ヒトではFGF-23が①心不全、②鉄の代謝と造血にも関与があるということがわかってきているようです。

ネズミの実験で、FGF-23が心臓の筋肉細胞にあるFGF受容体を介して直接的に心臓肥大を起こすことが実証されました。これまではリンの値が高くなっていることそのものが心臓病を引き起こすリスクになっていると考えられていましたが、この実験結果から、腎臓病でリン値が上昇することによってFGF-23が増加したことが心臓病のリスクを高めるのではないかというように考えが変わってきました。

Elliott先生によると、FGF-23が猫の心臓に対しても危険因子になっているのかどうかは、まだ不明だそうです。

 

それからご存じのように慢性腎臓病では腎性貧血が発生してきます。貧血を判断する検査項目の一つにPCVがあります。Elliott先生は、PCVは生存期間と優位に関連するとおっしゃっています。PCVが低下すると血液の酸素運搬能の低下から、悪くなっている腎臓が低酸素状態になる可能性があるそうです。PCVのわずかな変化が慢性腎臓病を悪化させ、低酸素により生存期間を短くさせる可能性があります。

腎性貧血の原因は腎臓から分泌される造血ホルモンであるエリスロポエチンの不足からというのが一般的な答えですが、鉄が不足しているとエリスロポエチンを注射で補っても貧血は改善されにくいです。また鉄は身体の中にあってもその分布から、うまく利用されず貧血改善に反映されてこないこともあります。猫のFGF-23の研究がさらに進むと、ヒトと同様の結果が証明されるかもしれません。今は貧血を鉄とエリスロポエチン軸だけで考えていますが、貧血改善にはリンの安定も必要だという答えが出るのかもしれないと思います。

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今春、猫の腎臓病のために新しいお薬も発売になりました。ベラプロストナトリウムというお薬で、これまでも人体薬として肺高血圧症に貢献してきたお薬です。血流を良くする作用があります。血の巡りが良くなることで、慢性炎症を抑え、組織が回復するのを助けるわけです。今後、処方することが増えていくと思います。猫の腎臓病の未来に明かりがまたひとつ灯りました。

というところで、今日のお話はここまでです。

猫の慢性腎臓病、未来のお話しが中心になりました。

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腎臓病と高リン血症のこと

 慢性腎臓病と分かったら、血液中のリン(P)やカルシウム(Ca)の値に注目します。リンやカルシウムはともに骨の主要な構成成分です。これらのミネラルが骨を強く硬くしています。

腎臓と骨。ちょっと関係がなさそうに思える二つの組織ですが、リンとカルシウムを介して密接なつながりがあります。今日はリンと腎臓のお話をします。

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ヒルズさんからの腎臓疾患用療法食です。
はじめに猫用のものを紹介していきます。
Elliott先生の研究のもとになっているのはこちらの療法食です。

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こちらの療法食も世界的なシェアが大きい食事です。

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セレクション。
ロイヤルカナンさんは2種類のラインナップ。

<骨と腎臓の関係>

骨を強くするためには「カルシウムの多い食品を摂ること、できれば腸での吸収の好いものがいいですね。それから日光浴もしなければいけない。」という話も聞いたことがあるかと思います。「日本人は1日に必要なカルシウム量を十分摂れていないから、健康になるためにはカルシウム強化牛乳を飲んでみましょう、おやつには小魚やナッツを食べましょう。」と、カルシウムは身体に良い食べ物として信じられています。絶対的な信頼度でこれを犬や猫に応用されている方もいらっしゃいますよね。事実その通り、骨を強くするためにはカルシウムは必要です。

そして、腸でカルシウムの吸収を高め骨へのカルシウム定着を促す仕事をするのは活性型ビタミンD(カルシトリオール)で、これも強い骨の形成に欠かせません。腎臓はこの活性型ビタミンDの生成に関わっています。ビタミンD(脂溶性ビタミンです)は食事から摂取し、紫外線を皮膚に浴びると体内で合成され、肝臓や腎臓の働きを経て、この活性型ビタミンDに変換されます。ビタミンDが十分活性化されないと、体内で必要なカルシウムが不足するため、骨からカルシウムを溶かして出すことになります。つまり腎臓の機能が低下すると、ビタミンDの活性化が低下してしまうため、「骨がもろくなって」いきます。

そしてカルシウムとともに骨の構成成分となっているのがリンです。リンは骨を強くするほか、エネルギーの運搬をしたり、細胞膜の成分になったりと、やはり身体に欠かすことのできないミネラルです。リンは食事とともに体内に入り、一部腸から吸収され、残りは便と一緒に体外に排出されます。健康なときは吸収されたリンと同じ量のリンが腎臓から 尿中へ排泄されますが、腎機能が低下してくると吸収したリンを排出することができなくなります。腎臓の機能が低下すると、リンは体内でたまって「高リン血症」をおこします。
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日清製粉さんからの療法食です。


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サニメドシリーズはオランダ産です。
いろんなメーカーさんから腎臓病食が出ているので
一つ二つで食べなかったからといって
あきらめないで、いろいろトライしてください。

<異所性石灰化>

高リン血症が進むとリンとカルシウムが結合して、骨以外の組織にくっついてしまうことがあります。「異所性石灰化」といいます。たとえば関節が石灰化を起こすと関節炎になります。腎臓に石灰沈着をおこすと、それは腎臓そのものを悪くすることになります。腎臓が悪くなるとリンがたまり、リンがたまると腎臓を悪くします。そいう悪循環です。

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ヒルズさんの犬用の腎臓疾患用療法食。
お試しできることを知っていただくために
サンプル袋を写真に撮りました。
猫用でもサンプルはご用意があります。
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ロイヤルカナンさんの腎疾患用療法食です。
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猫用と同様、犬の療法食も2種類用意してくれました。

<腎性二次性上皮小体機能亢進症>

腎臓の機能が低下すると、血清リン値が上昇するとともに、活性型ビタミンDの産生が低下して血清カルシウム濃度が低下します。この二つの状況から、上皮小体ホルモン(パラソルモン:PTH)が過剰に分泌されることになります。PTHはリンを排出させる働きがあります。初めのうちはリン排泄の良好な代償作用になるのですが、進行するとリンの排出が滞ってリンがたまってきます。体内の組織のリン過剰がやがて高リン血症をもたらすことになります。それからPTHは骨に作用して、骨からカルシウムとリンを流出させます。その結果骨はもろくなります。これが腎性二次性上皮小体機能亢進症です。

腎臓病をもつ猫の2/3は高リン血症を発生しているといわれています。高リン血症は腎性二次性上皮小体機能亢進症の原因になります。腎性二次性上皮小体機能亢進症は慢性腎臓病をもつ猫の臨床症状の一つでもあるし、慢性腎臓病を進行させる要因でもあります。それから猫の生存期間を縮めてしまうし、猫の具合そのものも悪くさせてしまう、悪いことだらけの病気です。

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ドクターズの療法食は、あの「ヨード卵光」で
みなさんご存じの日本農産さんが作ってくれています。
もちろん、国産が強みなんです。

<高リン血症の発生>

高リン血症は慢性腎臓病がだいぶ進行してから発生します。その段階ではすでに身体の中で、大きな問題が発生しています。腎臓病が悪化した犬や猫はみな高窒素血症(BUNCreが高い値になっている)を発生していて、食欲の低下や時折の嘔吐などを示しますが、高リン血症があっても特徴的な臨床症状を出しません。検査をしないと分からないのです。しかし高リン血症なら腎性二次性上皮小体機能亢進症ですといえますが、リンの値が正常範囲内に入っていても腎性二次性上皮小体機能亢進症ではないとはいえないと言われています。

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猫用のウェット食。
缶詰やアルミパック、パウチがあります。
液体のものは経鼻カテーテルなどにも使えますが、
味も悪くなく、そのままお口からの投与OKです。

<高リン血症を避ける方が良い理由>

高リン血症があると

     上皮小体ホルモンの排出が高まります。

     腎性二次性上皮小体機能亢進症をおこします。

     活性型ビタミンD(カルシトリオール)が低下します。

     骨からカルシウムやリンが溶けて骨がもろくなります。

     骨以外のところに石灰沈着をおこします。

     猫の具合を悪くします。

     結局、猫の生存期間を縮めてしまいます。

リンを制御すると、

     腎臓病の猫は調子が良くなります。

     生存期間が長くなります。

     腎臓病の進行も遅くなります。

「高リン血症でなくても腎性二次性上皮小体機能亢進症になっているかもしれない」ということは、高リン血症を起こしていなくても腎臓病であるのがわかっていたらリンのコントロールをしていった方が猫にとって有益だ、ということですね。

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犬用の缶詰、アルミパックとリキッドです。
液剤はハイカロリーです。
食欲不振時でも嘔吐さえコントロールできれば
最低限度の栄養を確保できます。

<高リン血症の治療>

リンのコントロールは食事療法と薬物療法で行います。

腎臓のための特別療法食は、すでにリンが制限されているので、一般食から腎臓病食に切り替えるだけで、第一段階のリン制限はクリアされます。リンはタンパク質が豊富な食品に含まれているので、タンパク制限をすると、同時にリンの過剰摂取を防ぐことができます。

このときにおやつや副食としてリンの多い食品を与えないように注意することも必要です。リンが多く含まれていて、猫に与えがちだけれど、それにはふさわしくない食品をあげておきます。肉類、魚類、小魚、桜エビ、牛乳、チーズ、ヨーグルト、するめ、アサリ、ナッツ、ハム、ソーセージ、かまぼこなどです。

リンを制限した食事で生存期間が延長することが分かっています。2000年のElliott先生たちの研究によると、一般食だと264日、リン制限食の場合だと633日という驚くほど生存日数が違う結果が出ています。

血清リン値は食事を変更してすぐに低下していくわけではありません。気長に治療していきます。6週から8週くらい開けてモニタリングします。目標達成まで数ヶ月かかる場合もあります。

なかなか下がらない場合は、「療法食+薬」だったり、別の種類の薬を2つ組み合わせ「療法食+薬+薬」にして対応します。それからどうしても療法食への切り替えがうまくいかなかった猫では「薬」だけで下げるようにします。

 

<経口リン吸着薬>

経口リン吸着薬は消化管内で食事に含まれるリンと結合して、腸内にとどまりそのまま便とともに排泄されます。結果として体内に吸収されるリンが減少することになります。

リンの吸着薬には、水酸化アルミニウム製剤、炭酸カルシウム、炭酸ランタン、クエン酸第二鉄、リン酸結合性ポリマー(塩酸セベラマー、ビキサロマー)などがありますが、安価なもの、高価なもの、それぞれの利点欠点もさまざまです。これらはすべて人体薬です。各先生で得意な薬、処方慣れしている薬があるかと思います。

動物薬として出ているものがあります。これらは、すべてサプリメント扱いです。

     レンジアレン
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鉄剤を主にしているので貧血を伴う腎臓病猫さんには
こちらはおすすめです。
旧ノバルティス社から出ています。

塩化第二鉄や炭酸ナトリウムを主成分にしています。

個包装で、1日に1~4袋を食事と一緒に食べさせます。

     カリナール1
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低カリウムになりがちな猫の腎臓病に
おすすめです。
リンに続いてカルシウムも高値になってしまった
動物では別のものをおすすめします。

  バイエル社から出ています。

炭酸カルシウム、グルコン酸乳酸カルシウム、クエン酸カリウム、キトサンなどが成分です。

1日に備え付けのスプーンで1~2杯を食事に混ぜて与えます。

     イパキチン
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ベトキノール社から出ていたIPAKITINEですが、
日本でも昨年から入手可能になっていました。
キトサンが硫化物も吸着するようです。
高カルシウム血症の動物には
おすすめではありません。

  日本全薬社から出ています。

炭酸カルシウム、キトサンなどが主成分です。

 

④海外の水酸化アルミニウム製剤(動物用)

*Alu-capR :3M社から。

⑤同、炭酸カルシウム製剤(動物用)

*pronefraR :Virbac社から。

*Easypill Kidney Support CatR :VetExchange社から。

*IpakitineR :Vetoquinol社から。

<おわりに>
リンのコントロールで長生きできます。
今日はリンの少ない腎臓疾患用特別療法食の代表的なものと、リンの吸着薬として扱われるサプリメントをご紹介しました。

他にもあります。
とにかく、いろいろあります。

動物病院の先生がおすすめしてくださるもの、いろいろ試してみてください。
一つだけで「食べなかった」とあきらめてしまうのはもったいないです。
「療法食+薬」だからリンが下がるみたいで、「一般食+薬」ではあまりリンは下がらない感があります。

それから、高窒素血症が高くなっているとき、例えば初診から間が無く「今から補液治療で高窒素血症をコントロールしましょう」というときにはまだ始めないでください。先生から療法食の紹介が無いのは「今は悪気や嘔吐をコントロールしたいとき」だからです。こういうときに無理に療法食を与えると、療法食のことが大嫌いになってしまいます。BUNやCREの値が下がってきて、気分も良くなり、これまでの食事ものどを通るようになってから、食事変更をしていきたいです。
それから、第4期になるとこれもやっぱり食欲が湧きません。ここからは栄養補給を主目的にして、無理なく好きなものを食べてもらいたいと思います。 

 

次回、リン代謝に関与するペプチドホルモンについてお話しします。

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腎臓機能のバイオマーカーSDMA

 犬の10頭に1頭が、猫の3頭に1頭が腎臓病になるといわれている現在、腎臓病を早期に発見し早いうちから腎臓を守っていくことは、動物の健康寿命を延ばし、QOLの高い生涯を提供することができます。

今日は腎臓のバイオマーカーとして、今年から積極的におすすめする検査項目、SDMAについてお話しします。

 

<腎バイオマーカー>

バイオマーカーというのは、病気があるのか無いのかということや、病気があるという場合その病気の程度を、血液中のタンパク質などの物質の濃度として知ることができる検査項目です。

腎臓の機能は大きく二つの系統から調べることができます。腎臓を構成しているネフロンの構造からこうなります。

一つ目は

①糸球体濾過率(GFR)で、身体の中で不要になった老廃物を漉しとる「糸球体」の力を調べるものです。

もう一つは

②尿濃縮能で、尿が漉されてからも再利用できるものをもう一度身体の中に戻す仕事をする「尿細管」部分の力を調べるものです。

一般によく知られている腎機能をみる検査項目は血中尿素窒素(BUN)と血清クレアチニン(CRE)値です。これらは二つとも糸球体の機能をみています。一方、尿細管の機能をみるのは尿比重(USG)になります。

初めて聞く検査項目かもしれませんが、腎バイオマーカーとして腎臓病の早期発見に用いられる検査にシスタチンCとSDMAがあります。これらは二つとも糸球体の機能をみる検査です。

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症状を出す前の健康診断で病気を早く発見していくことが大切です。

 <求められる検査>

腎臓の機能を調べるとき、糸球体濾過率(GFR)は絶対的信頼のおける検査です。しかし検査が煩雑で大変なため、犬や猫では簡単に調べることができません。人では年齢や性別、血清クレアチニン(CRE)値からGFRを求める計算式もできていますが、犬猫にはそれもありません。そこでGFRに代わる何か適切な検査がどうしても欲しいところです。

腎バイオマーカーには、

     できるだけGFRとぴったり重なり合うような検査結果が出るようなもの(正確性)、

     簡素な検査で調べられるもの(利便性)、

     誰もが無理なく受けられるもの(経済性)、

     他の因子に影響を受けないもの(単独性)

が求められます。そして、

     早期に病気を発見できること

は健康診断などのスクリーニング検査では大変重要なことです。

 

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腎臓病は隠れて進行していきます。

<これまでの腎機能検査の経過>

もともとは臨床症状が出て初めて来院され、検査をして病気を知り、治療を始めていました。臨床症状がはっきり分かるのは尿毒症のような状況になってからです。がんばっても良い結果が出ることはありませんでした。「腎臓を悪くするとそれはおしまいを意味する」と思われていました。こんな時代もありました。(今でも情報を広くお届けすることができず、猫や犬に腎臓病があることを知らないで来られた患者さんもいて、ずいぶんと病状が進行してしまっていることもあります。それはそれで仕方がないので、この時点から頑張って治療をスタートさせます。昔に比べると治療も進歩してきましたから、まだ頑張れることが沢山あります。)

それから、それではあまりに悲しいので「腎臓が悪くなる前に知りましょうよ」ということで、定期の健康診断で血液検査を受けてもらうことになりました。BUNCreの数値から腎臓が悪くなっているのを発見しました。けれどこれらの数値が上昇し始めるのは、腎臓の機能が約75%失われた段階です。見つかったときには残りが1/4という寂しい結果です。それでは遅すぎると誰でも思います。

それで、今度は「定期健康診断の血液検査に加え尿検査や血圧測定なども実施出来ると良いよね」ということになりました。まだBUNCreがあまり高くなっていないうちに腎臓の機能の低下を知り、早いうちから腎臓を守りましょう、ということになりました。尿比重はクレアチニン値の上昇が始まるより少し前に低下し、腎臓病をより早期に発見することができます。しかし様々な要因によって飲水量が増えると当然のこととして尿比重も下がりますし、糸球体の機能(老廃物を漉しとる力)というより、尿細管の機能(尿を濃くする力)をみるためのものですからGFRとの相関がぴったり合うものではありません。また猫から尿を採ることはそう簡単ではありません。病院で採尿しようにも、連れてこられる前にトイレを済ませた後で膀胱に尿がたまっていないこともあります。

こうなると、やはり血液検査で腎臓の変化を知ることが出来るのはとても便利なことです。今回ご紹介するSDMAは血液検査で調べることができます。そして何より、今までよりももっと早期に腎臓病を発見できることができます。

SDMAの値を調べるのは院内のラボでは出来ませんが、昨年からIDEXXさんで、今年からは富士フィルム・モノリスさんでも検査を実施してくださいます。信頼できる外注検査機関です。

 

腎臓は30万とか40万個ある腎臓内のネフロンそれぞれの働きで成り立っていて、個々のネフロンが少しずつ働けなくなってやがては全部のネフロンが働かなくなってしまうものですから、働けるネフロンが減少してきたら、残るネフロンには無理をさせず、ぼちぼちでいいのでなが~く仕事をしてもらうのが、腎臓を長生きさせる秘訣になります。臨床症状を出していない、一見健康なときから腎ケアをし、腎臓寿命を延ばしていくことが大切なことになります。

これまでは血中尿素窒素(BUN)や血清クレアチニン(CRE)濃度を中心に腎臓を評価してきました。これからもこの2つの検査項目は腎臓をみるのに外すことができない項目であることに変わりはありません。SDMAに関しては、それらに加えて腎臓機能を知る強いメンバーが登場したということです。

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まだ腎臓の機能を残しているうちに異常を発見します。

SDMAというのは>

さて、腎機能評価項目、SDMASymmetric dimethlarginine(対称性ジメチルアルギニン)の略です。前述の通り、血液検査で数値を知ることができます。SDMAはクレアチニンとの相関も高く、腎臓の機能を表すことができます。腎機能が約40%失われた段階で上昇を始めるので、早期診断に役立ちます。これまでの検査に比べ、どのくらい早く腎機能の低下を知ることができるのかといいますと、2015年のACVIM Forumで報告された内容からすると、血漿クレアチニン値が上昇する(2.0mg/dlよりも高値になる)前、犬では平均11か月、猫では平均17か月くらい前に、血漿SDMAは異常値としている数値を超えたということです。

この検査は身体の筋肉量に影響されないため、筋肉量の少ない小型犬や高齢の動物、痩せている動物でもそのまま腎機能を見ることが可能です。

ただし血液が溶血していたり、黄疸があったり、高脂血症がある場合はそれらの影響を受けるので、それらが無い場合に数値を判断します。

動物の腎臓病を気にする飼い主さんには、もちろん私たちにとっても、うれしい検査項目です。

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猫さんは慢性腎臓病を発症することが多いです。
でも腎臓病は猫ちゃんだけの病気ではありません。
わんこも要注意!

<もうすこしSDMAのこと>

SDMAが身体でどのような役割のある物質なのかはよく分かっていません。「対称性」という頭が付くくらいですから、非対称性のジメチルアルギニンもあります。Asymmetric dimethlarginine ADMA)です。どちらもタンパク質がメチル化してできたものです。ADMAはさらに分解され、別の物質になります。腎臓からの排泄は20%くらいです。(SDMAは分解されること無く90%以上がそのまま尿中に排泄されるので、腎臓機能の指標になります。)

ADMAは人で心血管系の病気の発生と関連があることが分かっています。高血圧や血管内皮の障害にも関与しているようです。もしかすると犬や猫のSDMAも心血管系疾患の発生に関与しているのかもしれません。

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早く治療を始めれば、病気の進行を遅らせることができます。

SDMAIRISCKDステージ>

ここまでなら腎臓は大丈夫、これ以上だと心配というラインを引くところのSDMAの数値は14㎍/㎗です。

クレアチニン値が参考範囲(犬ではCre1.4mg/dl、猫では1.6mg/dl)に入っていてもSDMAが続いて(1回だけで無く複数回の検査で)14㎍/㎗を超えていればIRISCKDステージ1に入ることになります。ステージ1では、尿検査や血圧測定などが実施され、それぞれに異常が見られたら治療を開始することになります。高窒素血症になる前の最も早期の段階で腎臓の危険信号を発見できて、ラッキーな犬猫たちがこのグループになります。

さらにIRISのステージ2、ステージ3とSDMAの数値とを見合わせて、従来の結果からはステージ2(または3)と評価されていても、その上の段階、ステージ3(または4)の範囲に入ることになる場合もあります。早々に次の段階の推奨される治療に入っていくことになります。今回は早期発見の意義としてのSDMAの紹介のため、具体的な数値は割愛します。

腎機能低下が進行するとSDMAの値はそれに伴って高くなっていきます。そのため、SDMAは早期発見の指標となるだけでなく、慢性腎臓病の進行具合を見たり予後を考えたりする参考にもなります。

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症状に気づいてからでは遅い!
気づく前の検査が重要です。

<まとめです>

SDMAは糸球体濾過率(GFR)と相関して数値が上昇します。これはクレアチニン(CRE)とほぼ同じです。ですが、クレアチニン(CRE)よりも少し有用です。それは患者の筋肉量に影響を受けることがないからです。それからクレアチニン(CRE)濃度が上昇するよりも早くSDMAが上昇するので、このバイオマーカーを使うと、慢性腎臓病を早期に診断することができます。SDMAは腎臓の悪化具合を示すバロメーターにもなります。腎機能の悪化に伴ってSDMAの数値も上昇するので、病気の進行の指標にもなりますが、予後の判断をする材料にもなります。

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猫の慢性腎臓病・長期管理2

 猫の慢性腎臓病の管理についてのお話、続きです。

前回は脱水、栄養、高窒素血症、高血圧の管理についてお話ししました。

 


5、タンパク尿のコントロール


タンパク尿は腎臓病の進行を速めてしまいます。IRISのサブステージ分類ではUPC0.4を超えたものを治療対象にしていますが、境界性タンパク尿である0.20.4のものでも治療を始めた方がよいだろうとする先生も多くいらっしゃいます。

ベナゼプリル(ACE-I)やテルミサルタン(ARB)で治療します。フォルテコール、セミントラはどちらも動物用のお薬です。(フレーバー錠、水剤)

目標数値は0.4未満です。

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6、高リン血症のコントロール

血清リン濃度を適正値におさめるのに、脱水の修正は不可欠です。腎臓病が疑われ検査した時点である程度進行している腎臓病だとわかったときに、血清リン濃度がとても高くなっていることがあります。高窒素血症をともなったこの時点で、いきなり高リン血症のコントロールのためのお薬を投与するのは難しい場合が多いです。早くリンの値を下げて、腎性二次性上皮小体機能亢進症(長い名前ですね)を制御したいと気持ちがはやるかもしれませんが、おう吐をコントロールし、内服薬を投与しても吐くことがなくなってから使用すると猫に無理がないと思います。

リン吸着薬にはいろいろな種類がありますが、当院では主に水酸化アルミニウムを使用しています。(水に溶いて使う白濁液剤)アルミニウムについては長期使用において不安な点を指摘する見方もありますが、猫の慢性腎臓病ではヒトに比べ使用期間は極めて短い間になります。また胃壁をカバーするので尿毒症性胃炎にも有用です。(胃潰瘍の時にも使用されるお薬です)

高リン血症が点滴療法やリン吸着薬療法で低下させることに成功すると安心です。たいていは高窒素血症のコントロールと同時に高リン血症も低下させられると思います。

維持期には、食事は療法食(これはリン制限されています)を選択します。リン制限食を食べられない場合一般食になりますが、この時はリン吸着効果のあるサプリメントを使います。レンジアレン、カリナール1といったものです。動物用に作られたものです。(細かい顆粒)

目標数値はIRISのステージにより異なります。ステージ2では4.5mg/dl以下、ステージ3で5.0mg/dl以下、ステージ4で6.0mg/dl以下です。

 

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7、貧血のコントロール

慢性腎臓病では赤血球をつくるホルモン、エリスロポエチンの不足が貧血を招くため、エリスロポエチンの補充療法がとられます。遺伝子組み換えエリスロポエチン製剤を注射します。

これらの効果を最大限に生かすには、不足している鉄剤の補充も不可欠です。(顆粒)

採血の頻度を下げ、1回の採血量を少量にすることも私たちにできる目標事項です。

ひどい貧血で食事もままならない状況では適合ドナーからの輸血も効果的な治療法です。一時的にせよ、食欲回復に役に立ちます。ひとたび食欲が回復すれば、栄養面からのサポートができるからです。

目標のヘマトクリット値は2730%です。

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8、低カリウム血症の管理

食事からの摂取量が不足することや尿からの排泄が増えることから血液中のカリウム濃度が下がります。カリウム値が下がると筋肉が弱まり、食欲も低下します。

療法食にはカリウムが添加してあります。

それでも低カリウムになる場合にはグルコン酸カリウムを投与する必要があります。(散剤)

カリウムが投与できるサプリメントがあります。動物用で、フィトケアといいます。(液剤)

重度の低カリウム血症では点滴の液剤にカリウムを加えてゆっくり補液します。

血清中のカリウム濃度は4.0mEq/l以上を目標にしています。これはいわゆる標準値といわれる数値範囲の「中から高」になっています。

ステージが上がり、尿生成が落ち、乏尿になったころ、身体が酸性に傾くのと一緒に高カリウム血症になることがあります。体の変化に敏感に気づくために定期的な検査は欠かせません。

 
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9、尿路感染症の管理

慢性腎臓病の猫では尿路感染をおこしやすくなっています。定期的に尿検査を実施します。細菌尿が認められる場合には抗菌薬を投与します。数週間から数か月間薬が必要になる場合もあります。

尿の培養検査を実施し、どのような薬剤に感受性を示すのかを検査してから効果的な抗菌薬を選択することが望ましい方法です。

ヒトでそうであるように、猫でも尿路感染症が認知症の症状を発症させることがあるらしいです。高齢猫の尿路感染症の管理は生活全般にも影響を与えそうです。

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10、おまけ:感染症の予防

腎臓病だと定期的に接種しているワクチンをどうしたらよいものか悩まれる飼い主さんがいらっしゃいます。腎臓病では感染症に対する抵抗性が低くなっているため、感染した場合は重症化しやすくなります。安定期であればワクチン接種も可能です。予防医療はとても有益な医療です。

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<飼い主さんと動物病院の結びつき>

腎臓病の病態は個々で違います。誰かが飼う猫の病態は自分の飼う腎臓病の猫とは異なった様相をとるので、誰かの猫に良かった治療方法がすっかりそのまま当てはまるわけではありません。また腎臓病は常に進行しています。Eliott先生は「腎臓病はエスカレーターではなく、階段状に進行する」とおっしゃっています。ある時までは平たんで穏やかな安定期があり、ある時ひょいっと1段昇るような感じで進行するということです。

そのようなわけで、腎臓病だと診断されてから、次の再診までしばらく間を開けるということがなく、できるだけ密なコミュニケーションをとっていきたいと思います。再診されたときには些細なことでもお知らせしていただき、心配になっていることが腎臓にとっていいことなのか、ほんとはよくないけど仕方のないことなのか、絶対に避けるべき悪いことなのかなどアドバイスしていきたいと思います。定期的な検査はもちろんですが、状態が変化したときにも確認の検査を行い、ちょっとの悪化を見逃さずすぐに対処するのがベターな方法だと思います。それには病院に来やすいということが不可欠でしょう。日ごろ病院に来ていればこそ、こうしたフットワークの軽さが生まれるものと思います。

時にはがっかりし、暗い気持ちにさせてしまうことがあるかもしれませんが、そんな時こそしっかりサポートさせていただこうと思います。

病気についての正しい知識を飼い主さんが持ってくださると、飼い主さんが望むことの中で、今できること、ぜひするべきこと、もうできなくなってしまったことなどが明確になってくると思います。もちろん猫さんが望むことも徐々にわかってくるだろうと思います。

猫の慢性腎臓病について4回にわたってお話ししました。今回で一旦終了します。


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ジャンル : ペット

猫の慢性腎臓病の長期管理

 猫の慢性腎臓病の管理(治療)

 

この前は慢性腎臓病を診断する検査のこと、診断されてから行う検査のことをお話ししました。

慢性腎臓病だとわかって、身体の様子もわかり、IRISのステージ分類もできました。合併症の有無についても確認ができました。その後病気を進行させないように管理するにはどういう治療をすればよいのだろうか、というところを今回お話していきます。どうしてそれを管理する必要があるのかについては先回お話ししましたので、今回はちょこっとだけ。

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1、脱水のコントロール

水分摂取は何がともあれ最重要事項です。代償性機能のために腎臓病初期は飲水量が増加します。多尿により体から出た水分を飲水で補うのです。この自然の機能を大切にし、脱水が起こらないようにします。脱水は腎臓機能を悪化させ、高窒素血症を高めます。これにより悪心やおう吐を招き、栄養不良になってしまいます。

猫に強制的に水を飲ませるのは難しいので、のどの渇きを覚えたときにいつでもどこでも十分に飲めるように工夫していただくのが水分摂取対策になります。それぞれの猫の好みがあるので、水食器は高さや広さの違うものをいろいろ用意し、あちこちに置き、水を並々と入れておきます。流れる給水器を置くのもよいですし、洗面所や風呂場(の蛇口)にもアクセスできるようにし、洗面器に水をためておくという方法もありです。洗面器は清潔さを保てるように洗って湯垢を落としてくださいね。野生の猫はどんなところから水を飲んでいるのかを想像すると、これらの方法は似ているな、と気づかれるかもしれません。池のほとりからアクセスする並々とたまった水、泉から湧き出る水(動く水です)、沢の落差からちょろちょろと流れる水などのように。

いよいよ飲水量を上回る排尿量になってくると体の水分不足が起こります。定期的な点滴を始める時期です。通院で可能です。またおうち点滴でもよいですが、その際は最大1か月間隔で再診にいらしてください。

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2、栄養管理

腎臓病のための処方食は科学的根拠の最も高い治療法です(エビデンスレベル1)。1994Harte先生は処方食を与えると一般維持食と比べ腎臓障害の進行が遅れQOLが高くなることを、2000Elliott先生は食事マネージメントされた群ではそうでない群に比べ中間生存日数が大きく延長する(264日に対し633日)ことを、2002Jacob先生、2006Ross先生が管理食により尿毒症のエピソードや腎臓に関連した死亡が減少したことをそれぞれ報告しています。IRISのステージ2,3,4の段階の猫に効果が実証されています。ステージ1の段階ではまだライフステージに合わせた一般食で構いません。

腎臓のための特別療法食は蛋白質やナトリウム、リンなどを制限し、不足しがちなカリウムやビタミンBなどを添加しています。体が酸性に傾かないような工夫や抗炎症作用を示すω3脂肪酸なども加えられています。蛋白質からのエネルギー量を脂質から得るよう脂肪分は高く作られており、これが嗜好性を高めています。

食事療法を成功させるため、いくつかの注意事項があります。腎臓病を発見されてから間もなくの高窒素血症があるときには無理に食事変更をしないようにします。気持ち悪い時に新しい食べ物は気が乗りませんし、「気持ち悪い」という記憶と「腎処方食の匂い」の記憶が一緒になってしまうからです。

食事変更についてですが、徐々に変えていきます。昨日まで一般食、今日から処方食という切り替えでも食べられる猫はいますが、もっと長く、数週間かけて変更していくつもりで少しずつ今の食事に混ぜながら変えていきます。場合によっては3か月くらいの心づもりをしてください。それでも長い目で見ると療法食は良いのです。ドライフードよりウェットフードがよいと言いますが、猫はこれまで食べてきた形状のものを好むようで、ドライからウェットへの変更は難しい場合があります。もし、一つのメーカーの一つの銘柄を喜ばないとしても数社から数種類の異なったフレーバーのフードが出ていますからいろいろチャレンジしてください。

食欲減退の原因は「嗜好性に合わない」だけではありません。貧血や尿毒症性胃炎、脱水、代謝性アシドーシス(体が酸性に傾いていること)、低カリウム血症などでも食欲を失います。適切に判断し、合併症の治療をすると食欲が出てくる場合があります。適切な治療を併用したうえで検討してください。

腎臓病が進行しIRISのステージ4くらいになるとどうにも高窒素血症のコントロールが難しくなり食欲の確保ができなくなってきます。この段階からは療法食にこだわることなく「食べること」を優先させてください。ここでもし選択が可能でしたら、成猫用メンテナンスフードよりはシニア猫向けのフードの方が好ましいです。

正しい栄養管理は体重や体形に現れます。目標の体重は個体それぞれで違いますが、ボディコンディションスコアは(5/9)または(3/5)を目指します。

食欲を促すための食欲増進剤があります。シプロヘプタジンです。(錠剤、シロップ)

悪心やおう吐をコントロールするのにH2ブロッカーやメトクロプラミドを使うことができます。(錠剤、シロップ)

制吐剤としてのマロピタントは注射薬で、おう吐を中枢性に抑制できる良いお薬です。

食べる量が不十分になったとき、もしくはこれからの食事量に不安があるというとき、食道ろうや胃ろうチューブの設置処置をするという選択肢があることをお伝えしておきます。

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3、高窒素血症のコントロール

高窒素血症は代謝によって生じた老廃物のうち、窒素を含む物質がうまく排泄されず身体に残ってしまった状態です。BUNCREが指標になっています。高窒素血症はそのままにしておくと尿毒症に発展します。尿毒症は生命の危険に直結するよくないサインです。高濃度の窒素代謝物は吐き気を催させ、消化管の微細な出血を招くので、栄養不良や貧血にもつながっていきます。

腎臓を通過する血液量を増やして、残るネフロンの活躍を期待し、点滴治療を行います。

心臓の働きがよくない場合など、基礎疾患があればそちらの治療をします。

蛋白質を多く含まない食事(腎臓用療法食)によりBUN低下の補助ができます。

窒素代謝物の吸着薬があります。活性炭です。食事と一緒に摂取すると活性炭が窒素を吸着し糞便中に排泄されます。日本で開発されたお薬で、コバルジンは動物薬、クレメジンが人体薬です。(ごく小さな細粒)錠剤になっているサプリメントもありますが、信頼度の面から当院では使用していません。

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4、高血圧のコントロール

高血圧があると腎臓をさらに悪化させます。網膜症から失明などの二次的な影響も起こすためコントロールしておきたい合併症です。

食事中のナトリウム制限をすることは血圧コントロールの治療になります。

血圧降下薬であるアムロジピンが治療薬です。(錠剤)

これだけでも効果が得られますが、ベナゼプリルを併用することもあります。(フレーバー錠)

それでもコントロールできないときは他の降圧剤の併用が必要になることがあります。

軽症の場合はタンパク尿のコントロールに使用するテルミサルタンで効果がある場合があります。(水剤)

目標は収縮期血圧を160mmHg未満にすることです。

 

長くなりました。続きは次回に回します。

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