嘔吐のおはなし・その10

嘔吐のおはなし10回目です。

 

今日は急性の膵炎についておはなしします。

 

膵臓は膵液を作って十二指腸へ分泌しています。腸管は食べ物の通り道で身体の外に当たりますので、これは外分泌です。膵液はトリプシン、リパーゼ、アミラーゼといった消化酵素を含んでいます。それぞれタンパク質、脂質、炭水化物を消化する酵素です。

膵臓はこのほかに、インシュリンやグルカゴンといった血糖値を調節するホルモンを作って血液中に分泌しています。血管は体の中にあり、外とは通じていません。それで血中に分泌されるのは内分泌です。

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さて、膵臓から分泌される酵素により自己を消化してしまうことがありあす。消化酵素が十二指腸に届かないうちに活性化してしまうのです。これが短期間で急激に起こるのが「急性膵炎」です。

 

発生リスクとなる因子がいくつか知られています。高脂血症、脂っこい食事、コルチコステロイドなどの薬、それから遺伝的要因(発症しやすい犬種:ミニチュアシュナウザー、ミニチュアプードル、ヨークシャテリアなど)。また甲状腺機能低下症などの内分泌障害や前回お話したGDV(胃拡張捻転症候群)の後などもリスクとしてあげられています。

このリスク因子に引き金となる機序が働いて急性膵炎を発症します。

 

体重過多で、中年齢(5歳以上)の上記のような好発品種の犬が、皮膚炎などでコルチコステロイドを服用していて、無分別な食事を摂取した。というのは、急性膵炎の物語を作るのに必要なプロフィールを整えたことになります。

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一般的な臨床徴候は嘔吐、下痢、食欲不振、静かにしている、おとなしい、といったことのほか、腹部の疼痛から来る背中を丸めた姿勢、少々お尻を持ち上げるようなお祈りの姿勢をとることもあげられます。疼痛は呼吸数を増加させますし、黄疸があると尿色の黄色が強くオレンジ色に近くなることもあります。

 

身体検査では腹痛が最もよく観察されるのですが、元気消失、脱水、ショックなど、重症になっていることもあります。

 

血液検査では身体の情報がいろいろわかります。また、身体の状態を知るため、また腹痛を示す他の病気との鑑別のために尿検査を実施することもあります。専門的な検査ですが、外注して膵特異的リパーゼ(cPLIfPLI)を調べることもあります。画像診断(レントゲン検査や超音波検査)を行うこともあります。

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膵炎の初期治療は膵臓から出る酵素の働きを抑える薬を中心にした点滴治療と、消化管に働きかける薬の注射です。数日~1週間程度の飲食中止(NPO)も治療の一環です。こうして急性期を乗り切ってからは内服薬と、低脂肪食による食事療法です。再発に考慮して、この食事はずっと続けていただきたいと思います。

 

急性膵炎も決してあなどってはいけない病気です。もし、あなたの愛犬が発症リスクの高い犬種であるのならば、高脂肪食をむやみに与えるのは大変危険です。普段のおやつにも注意してください。

 

ちなみに猫にも急性膵炎は発症します。犬と違う症状を出すこともありますが、予後は犬に比べて良くなく、要警戒レベルです。

 

このあたりで嘔吐に関するお話をおしまいにします。

    
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嘔吐のおはなし・その9

 嘔吐のおはなし、9回目です。

 

胃拡張―捻転症候群についてお話しましょう。

胃拡張―捻転症候群はGDVGastric Dialation Volvulus)と略して言われることも多いかと思います。大型犬種、ことにグレートデンやジャーマンシェパード、アイリッシュセッター、セントバーナード、ドーベルマン等で発生しますが、ダックスフンドやペキニーズなどの小型犬種でも発生がないわけではありません。胸の深い犬では、解剖学的な構造から胃の回転が起こりやすいようです。

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どのようにして起こるのかというと、

1、早食いによって急に胃が拡張する

2、ついでに飲んだ水によって胃の中でドライフードが大きく膨らむ

3、その後の運動により過換気から空気を呑み込みさらに胃が膨らむ

4、もともと不安定だった胃がねじれる

5、胃が膨らんでガスがあるけれどゲップで出せない

6、膨らむ一方

…といった具合です。

 

とにかく、こうした大型犬の場合、食後急にお腹が膨らんできた、ハアハアと浅い呼吸をしている、顔が青ざめている様子などが見られたのであれば、直ぐに動物病院に駆けつけるべきです。このブログを悠長に読んでいてはいけません。もし深夜であるならば、かかりつけ医を起こそう、と考えるよりも、深夜対応の高度医療センター的な病院に連絡をとり、スピード違反で取り締まられない程度の高速で飛ばし、緊急処置を、場合によっては手術になるわけですが、施していただかないと残念な結果に終わることになります。

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ちなみに、発症後、生体でどのようなことが続いて起こるのかというと、

7、ねじれた胃は脾臓も巻き込み、胃への血流が途絶える

8、循環不全によるショックやDICを引き起こす

9、袋状の胃が膨らむ限界に達すれば、破裂する

10、食べた物が腹腔内にちらばり腹膜の炎症を誘発する

11、………

9の段階まで手術に踏み切れなかったオーナーさんもいらっしゃいましたが、7以降の予後はきわめて悪いです。

 

皆さんに課せられることはただひとつ。迷わず、早急に処置への同意をしていただくこと。それだけです。

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レントゲン検査、その他の検査からGDVであると診断した私たちは、ガス排除処置をかけます。それと同時にショック状態であることがほとんどなので、輸液その他の内科的な処置も行います。処置には鎮静処置が必要なことがほとんどです。そしてそれに続いて麻酔下で開腹手術を行い、胃のねじれを戻し、胃を腹壁に固定する手術を実施します。固定は捻転の再発を防ぐのを目的にしています。

 

というこわいお話をしたところで、嘔吐を主症状としていないのかもしれない、と気がつきました。気持ち悪そうなのに、吐けない、という状況ですね。嘔吐をする、しないという判断で病院へ連れて行く、様子を見る、を決めるのは誤りであることを覚えておいてください。とにかくこれは緊急性の高い病気ですので、病院に連れて行くのも、行かれた後も、判断は早急にしてください。

今日はこれでおしまいです。

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嘔吐のおはなし・その8

 嘔吐のおはなし、8回目です。

 

胃からの排出遅延、と呼んでいる事象についてお話します。

 

胃は入り口と出口がある、筋肉でできた袋状の構造物です。内容物が沢山入ると筋肉が伸びて袋が大きく拡張します。ぐにゅぐにゅ運動し、内容物は少しずつ出口に運ばれ、そこから出て十二指腸へいきます。入り口にも出口にもしっかりした閉じ口になる筋肉の輪があります。入り口は「噴門」(ふんもん)で、出口は「幽門」(ゆうもん)と呼ばれています。

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「胃の排出遅延」には、
①機能的に胃袋の運動が障害されているか、または
②出口に機械的な閉塞があるか、
という二つの問題があります。もちろん両方の組み合わせによることもあります。

①の機能性胃運動障害は食道や胃の炎症、電解質に問題があるとき、糖尿病や腎臓病などの代謝性の病気があるとき、膵炎や腹膜炎、肝臓の病気、便秘などで起こります。また、手術の後にも起こることがあります。

②の胃からの流出路閉塞は、胃内異物や幽門筋肥厚や腫瘍、膵炎に併発した膵膿瘍などで起こります。

食べてからしばらく経過してから、どろどろにこなれた食物を含む液状のもの、または液体そのものを嘔吐します。うえっ、うえっ、といった嘔吐の前兆がないことがほとんどです。食事をしたあと、お腹がふくれていたり、気持ち悪そうにしたりすることもあります。

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身体検査では脱水が見られたり、お腹周りを触るといやそうにするとか、膨れているとか、つかみどころのない感じです。臨床検査をしても、電解質の異常があるかないかで、特別異常値を得られることがありません。X線検査では液体で膨張した胃を確認できます。造影検査をすると、時間が経ってもなかなか内容物が排出されないことがわかります。また狭くなっている幽門部や胃内の異物や腫瘍が映し出されることがあります。超音波検査で手がかりを見つけられることもあります。内視鏡で内側から観察すると閉塞を確認することができます。

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①の胃の運動障害がある場合、ほかの原因に寄らなければ、食事療法と内科的な薬物療法で治療をすすめます。低脂肪、低タンパク、高炭水化物の食事に水分を加え、ミキサーでどろどろにしたものを少しずつ何回かに分けて与えるのです。使う薬は消化管運動促進薬です。

 

しかし、②の排出障害が流出路に起因するものであれば、詳細な検査と治療をかねて手術する必要があります。異物であれば単に胃を開いて取り出すだけですが、腫瘍や膵膿瘍、膵偽のう胞がある場合はとても高度な手術になります。また幽門部の筋肉の肥厚が認められた場合(幽門洞肥厚症候群、幽門狭窄、慢性肥厚性幽門胃障害)も胃の流出路の再建術という難しい手術が必要です。

ちょっと厄介な病気です。手掛かりをつかむために検査も必要ですし、治療のために外科的な手段を取らなくてはいけないことも、儘あります。

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嘔吐のおはなし・その7

嘔吐のおはなし、7回目です。

 

慢性胃炎は急性胃炎のように、集中して嘔吐するかと思うと自然に治ったり、またしばらくすると嘔吐したりと、間欠的に嘔吐を繰り返します。対症療法に反応しないのが特徴です。嘔吐のほかに食欲不振、食欲廃絶、体重の減少、腹痛も起こります。胃の粘膜に激しいびらん(ただれ)や潰瘍(えぐれ)があると吐物に血が混じります。便が黒色になることもあります。

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嘔吐が長引いて、対症療法に反応しない場合は、詳しい画像検査を受けていただいたほうがいいと思います。X線検査や超音波検査のほか、麻酔をかけて実施することになりますが、内視鏡検査は粘膜の状態を見るのに非常に有用な検査です。

 

慢性胃炎の原因はヘリコバクター属のらせん菌に関連するものや寄生虫由来、食物過敏症関連、薬物誘発性の傷害などさまざまあり、原因を特定できないものもあります。内視鏡検査とセットで行われる胃粘膜の病理検査で特に多く見られた細胞の種類によって、好酸球性、肉芽腫性、リンパ球―プラスマ細胞性などに分けられたりもします。

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慢性胃炎の治療は根気が必要です。食事も新奇タンパク食や非アレルゲン食にする必要があるかもしれません。内服薬も制酸剤、粘膜保護剤、消化管運動促進剤などの薬の他に、抗菌剤やステロイド薬、免疫抑制剤などを使わなければならないこともあります。

 
嘔吐は吐物があるので留守にしていても発見できますが、おえっ、おえっ、っと気持ち悪そうにする「悪心」は動作だけですから、観察していただかないと見過ごしてしまっている可能性があります。もし外出先から帰ってきて、吐物を発見したならば、いつもよりも気にかけて見てあげてください。気持ち悪そうなそぶりをしているかもしれません。

おかしいな、というときは早めにご来院ください。

    

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嘔吐のおはなし・その6

 嘔吐のおはなし、6回目です。

 

今回から、いくつかの嘔吐を主にする病気についてお話しようと思います。嘔吐を起こす病気がいろいろあることは初回に書きました。しかしすべての病気が嘔吐を中心にしたものではありません。もっと目立つ他の症状があります。主症状が嘔吐、という病気のいくつかをご紹介するつもりです。

今日はそのなかの急性胃炎についてお話しましょう。

 

突然の嘔吐と食欲不振が主な症状です。この中には不適切な食事(量的に沢山食べ過ぎてしまった、こなれの悪いものや脂っこいもの、腐ったものなどを食べてしまったなど)や、異物を飲み込んでしまったなど、思い当たる節がある場合もあるでしょう。また、知らないうちに植物性の刺激物(食べてはいけない植物)を食べていた場合もあります。食物不耐症や食物アレルギーをもつ場合は、その原因となるアレルゲンを食べたかもしれません。ウィルス感染(パルボウィルス、コロナウィルスなど)や寄生虫感染が原因のこともあります。薬によっても胃に刺激性のあるものがあります。アレルギーや免疫性疾患に使用するステロイドのお薬や、ステロイド以外でも抗炎症鎮痛剤は粘膜を痛めやすいお薬です。危険な化学物質(洗浄剤、除草剤、肥料など)を摂取していたかもしれません。このような胃に刺激のあるものが急性胃炎を引き起こします。

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しかし、多くの場合は対症療法によく反応するので、「もしかしたら原因はこんなことかもしれないね」というくらいで原因は確認されないうちに治ってしまうものです。(ウィルス感染の場合は簡単に治ることはありません。)臨床検査を行うと数値に異常が出る全身性疾患もありますが、通常、身体検査は正常です。脱水や発熱があるかもしれません。

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心当たりの薬剤がある場合は、それらの投与を中止します。そして、口から何も与えない(食止め、水止め=
NPOと呼んでいます)ようにし、電解質のバランスを考えた輸液をし、前回お話したような制吐剤を投与します。嘔吐が止んでも直ぐに食事を再開することはせず、制酸剤や胃粘膜保護剤などの内服と輸液とを併用して、胃を休めます。食事の再開はすっかり嘔吐が止んでからです。最後に嘔吐をみてから624時間後に、低脂肪食または非アレルゲン食を与えます。分量もごく少量からはじめ、与えても嘔吐をしないことを確認しながら1日に数回与えます。食事の量は徐々にもとに戻していきます。回数も同じように徐々に減らして、最終はいつもどおりの量、いつもの回数、いつもの食事内容にします。45日から7日もかけて元に戻していけば、ぶり返すこともありません。食事の再開時も気を使い、ゆっくりと行うことが疲れた胃にやさしい治療になります。しかし、いつもの食事に変更したとたんに悪化する場合があります。このようなときは食事が合わない可能性もあり、食事を変更するほうが賢明です。

 

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