犬に噛まれた!


非常にお恥ずかしい話ですが、久々に強く犬にかまれ、それにまた傷が悪い方向に走り、今回ばかりはいろいろへこみました。まぁ、こんなときもあるさ。です。それで、いくつか思うことをお話しします。

 

<患者さんへの気づかい>

まず私たちは、咬まれても、めったに患者さんにその姿をさらすことはありません。それは咬まれるのが処置中で患者さんのいらっしゃらないことが多かったりするからです。そのため、スタッフのどこかに傷があっても、いつ、誰がやらかしたことなのかわからないので、たいていは特定の患者さんに心苦しい思いをさせないで済んでいます。もしくは患者さんのいらっしゃるところで発生したことでも、派手にせず、極力平静を装います。ほんとは咬まれたのだけれど、「車のドア閉めるときにへましちゃったの」なんて嘘言ったりもします。これは私たちの仲間、みんなそうです。スタッフみんな痛いのをこらえ、やりにくい仕事をいつも通りにこやかにこなしています。

だから、もしスタッフの誰かのどこかに「あれれ?」と思うような傷を見つけたら、「動物病院のスタッフは動物に痛いことしているのだから、嫌われて咬まれても仕方がないだろう」なんて思わないで欲しいです。ははー、こんなこともあるのだなーと、それでも無言で頑張るスタッフに声援を送ってください。(私はこらえ性がないので、こうして書いてます。えへへ。)

 

<犬はしつければ友好的になるのか>

獣医学的な処置を友好的に行えるように、病院を大好きになって貰いたいと、多くの獣医たちはパピースクール(パピーパーティー)などを開催し、子犬のときからのしつけを提案しています。しかしもともと咬む気質のある動物の矯正は難しいだろうと思います。だから「うちの犬はしつけが悪くて」と嘆く必要はないでしょう。しつけでなんとかなるのは「吠え癖」のようなレベルです。恐怖性の攻撃を行う犬というのは、ある程度は我慢することに慣れても、ぎりぎり一線を越えてしまうと必ず攻撃行動を起こします。そして我慢レベルが非常に低い犬は訓練をしても一定数残ります。こうした犬の場合、しつけというよりはさらに高度な獣医行動学の治療が必要な場合が多いです。

(注:ここではご家庭で行う教育を「しつけ」、プロの訓練士にお願いして教育したものを「訓練」と使い分けました。)

しかし「だから仕方ない」とこのままにしておくのではなく、犬を社会化させる努力をしてもらえるとうれしいです。「散歩は怖がるから行かない。うちの人にはなんでもさせるし、病院も年に1度のことだから困らない。美容院にも行く必要を感じない。」等言われることもありますが、行動学の治療が必要だと切に思うのはそのような犬にも、もし何かあったらと考えるからです。攻撃性行動は自分や家族、もしくは同居犬に向けられない限り、費用を捻出して治療しようとされないのも仕方がないとあきらめてはおりますが、やはり、家庭犬として生きていく中で犬は喜びとか楽しみの半分が欠如しているようでかわいそうに思います。獣医行動学は人と動物の絆を堅く結ぶための治療です。ご理解いただけるとうれしいです。

 

<初期治療はすみやかに>

さて、今回事故に遭った日は、それは多忙を極めておりまして、昼休みもとれないくらいでした。また患者さんが診察室にいらしたため、派手に自分の処置をすることができませんでした。そのまま次の診療を継続しなければならなかったし、その次の診療もまたひどくお待たせしている状況でしたから、やっと落ち着いて抗菌薬をのんだのも少し時間が経ってからでした。また傷を追った手を十分護ることもできず、激しく圧迫するグローブをつけて外科手術にも応じました。

こんなマイナスの条件が重なり、夜には大層腫れてしまいました。翌日、翌々日と診療がお休みでしたので、この2日で治すつもりでいましたが、翌日には全身性に発熱し、食事もとれないどころか、立つのさえ億劫な日を過ごしました。受傷から4日目、総合病院の看護師をしている当院の患者さんに助けられて、整形外科をようよう受診でき、局所麻酔下での傷治療、連日の抗菌薬点滴と内服という治療メニューになりました。

どうかみな様には、こんなたいへんなことになる前に、咬まれたら何を差し置いてもすぐに受診。休日であっても受診。夜間でも受診。お仕事のある日でも休んで受診。初期のしっかりした治療を行うことを切におすすめいたします。

 

<患者になる>

さて、獣医療に携わるものが、たまに医療を受ける側に回ると、患者としての気持ちがわかります。ここには私たちが常に見逃しているポイントがあります。

待つ時間が長いことは、そのつもりでいるわけですけれど、案外読書するのとか集中はできないものです。呼ばれる時間とか小刻みなのですよね。何かを用意してもそれがはかどるわけではないのです。頑張って、いかに待たせないようにしないといけないなぁ、と思った次第です。

それから、待合室で初めて会う方とおしゃべりしたりします。なんだか、気が紛れていいですね。それから、今回は偶然にも当院の患者さんにもばったり出くわしたりしましてね。和みました。うちの待合室は賑やかにおしゃべりしてくださる患者さんがいて、なぜか患者さん同士が仲良くなったりしている不思議な病院なのですけれど、初めての方の気持ちをほぐしてくださっているのですよね。ますますおなじみ患者さんってありがたいなぁと思うのでした。

 

<医療は痛いです>

それから、患者を経験すると、動物の気持ちにもなります。

ふだんは「さぁ、ちょっとだからいいこにしててね~」「痛くないですよ~」とか言って注射とか処置をしていますけど、痛いものは痛いですね。針刺しも失敗が重なると泣けてきます。やっぱり技術を磨いて、一回で済ましてあげないとかわいそうですね。動物はものが言えないだけに、よけいに頑張らないといけません。

さらに。お薬の副反応はつらいです。薬の作用もわかっているし、継続しなければならないその理由も、人一倍よく理解しているわけですが、お薬による有害反応とどの当たりで折り合いをつけましょうか、と思いました。これはもしひとつ薬が増えるだけで、有害事象を避けることができるのであれば、ぜひ加えるべきです。症状が出たら対処する薬を、じゃなくて、症状を出さずとも起こりうる反応であれば、事前に加えてあげるべきですね。

 

とまぁ、このようなことを思い、治療に励む毎日を過ごしました。

 

どうかみな様、およそのわんこに咬まれませんように。そしておうちのわんこにもお気をつけて。もし、咬まれたらすぐに治療にお出かけください。もう一度いいます。す・ぐ・に・受診してくださいね。

それからどういったいきさつでこのような事故が発生したのか、じっくり思い出し、しっかりとメモしてお近くの動物病院に、場合によっては獣医行動学の専門医にご相談なさってみてください。治療がうまく運ぶと犬は見違えるほどに変わるのです。

この世に不幸な犬が生まれないように。単に「暑いから犬もイライラするのかしらね~」で済ませないように、お願いしたいです。

今日のお話、こんな個人的なお話で済みません。

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犬に噛まれた!

 「犬に噛まれたのですが、だいじょうぶでしょうか」、というご質問を受けることがあります。何に対して大丈夫なのか、分からないのですけれども、「大丈夫なのか」、というご質問です。何か、すごく怖い病気にかかりそうな気がするのかもしれません。犬に噛まれることによって何が起こるのかわからないけど恐怖なのですね。咬まれていなくても、鼻先の冷たく濡れた部分が皮膚に当たっただけでも「咬まれた」ということになってしまった事例もあります。

 何だかわからないから「怖い」のかもしれません。犬や猫に噛まれたとき、どんな病気になる可能性があるのか、お話しします。知らないよりは知っていた方が怖くないと思います。

ちょっと長くなります。お急ぎの方は、先に一番最後の<まとめ>を読んでから、<はじめに>と<1、傷の化膿症>のところを読んでください。

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<はじめに>

まずは、犬に噛まれたらどうしたらよいでしょうか。ここからです。

とにかく、咬まれたらすぐに傷を水道水でしっかり洗い洗浄することが一時処置として必要なことです。もし傷が大きく開いていたり、出血が激しい場合は、清潔なガーゼなどで傷口を覆い、止血できるように包帯などできつめに巻いてください。それから、どちらにしても一刻も早く病院へお出かけください。

犬や猫が咬まれた場合はそのまま動物病院へお越しください。水で洗うと毛が濡れるため処置がしづらくなることがあります。傷がぱっくり開いていて、なんとか包帯巻きできそうな部分でしたら巻いてくださって結構です。ただ、興奮していて処置をさせてくれないことが多く、動けばさらに傷からの出血がひどくなることもあります。

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 <心配される病気>

皮膚は身体と外部を隔てる膜です。ここが破れると外部の細菌が体内に侵入してきます。これが「怖いこと」につながります。

 1、傷の化膿症

最初に傷を洗浄することは犬や猫の口腔内細菌(または猫の爪先についた細菌)が傷口から侵入するのを極力抑えることができます。皮膚の傷は小さくても皮膚の下の組織のダメージは案外大きいのです。そんな部分はあとになって紫の痣(あざ)になります。皮下出血が広範囲にあった様子をあらわしています。咬む力が強い犬に噛まれた時は特に皮下のダメージは強くなります。組織が広く傷つき崩れている部分で細菌が繁殖すると化膿の範囲も広くなります。

これを防ぐには、自己流の消毒だけでおさめず、病院できっちり消毒をしてもらい抗菌薬等の処方をしてもらうことです。また、決められた投与方法を守り投与し、「もう大丈夫」と言ってもらえるまでは続けて薬を飲んでおきましょう。

 

動物の場合、皮膚の傷が大きくないと出血もないし、毛が密な犬では傷そのものを見つけることができないかもしれません。出血の具合をもとに「たいしたことないから大丈夫だな」と判断するのは早計です。皮膚の傷が見つからなくても、動物病院を受診したほうが安心です。私たちは痛がる部分を頼りに、身体の表面をくまなくさわり、毛をかき分けて傷の場所を探し当てるようにしています。

咬まれたことで化膿するのは口腔内細菌によるものだけでなく、皮膚に常在している菌(ブドウ球菌や連鎖球菌)が傷口から侵入することもあります。傷まわりの毛を広く刈り、傷とその周囲の消毒をするのはそのためです。もちろん抗菌薬も使用します。投与回数や投与期間についても守ってください。

 

2、破傷風

人の場合、治療の一環として「破傷風」のワクチン接種をしてくれる病院があります。破傷風は犬や猫の口腔内にいる細菌ではありません。土壌中にいる細菌です。それも芽胞菌といって、空気の無いところでは卵のような殻につつまれている菌です。ですが、犬に噛まれたり猫に引っ掻かれたりして、皮膚に傷がある状態で土いじりをすると、その傷から菌が身体に入ります。この菌は嫌気性芽胞菌といって空気の有る状況だと殻に閉じこもり、周囲が自分の住みやすい環境に変わると芽胞から菌を出して増殖を始めるというユニークな活動をしています。ちなみに破傷風菌が嫌気性菌であることを発見したのは、北里柴三郎先生です。破傷風の症状は筋肉が硬直し痙攣するなどとても怖い病気ですが、病気自体はワクチンを接種してあると「怖いこと」から逃れることができます。

動物の場合、破傷風ワクチンを接種する慣例は有りません。


3、パスツレラ症

パスツレラ症は人の病気です。パスツレラ・ムルトシダは、犬猫の口腔内にいる細菌の中で一般的な菌です。犬の75%、猫では100%がこの菌を保有していると言われています。犬や猫に咬まれても、健康な人であれば抗生物質の助けで菌との戦いに勝利できるのですが、ご自身の抵抗力が弱まっている人で、このパスツレラとの戦いに敗れてしまうことがあります。

このパスツレラ症は、咬まれた傷だけでなく、口移しで食物を与えたり、動物とキスしたり、お顔をぺろぺろ舐められるなどの接触の仕方をする場合でも問題が起こっています。傷の化膿だけでなく、なかなか治らない呼吸器感染や、骨髄炎、髄膜炎、敗血症などが知られています。

有効な抗菌薬が有るので、いい加減な消毒や投薬は行わず、医師の指示に従ってください。また、免疫力が低下していると思われる方はもちろんですが、それ以外の方も、動物との濃厚接触をしないようにしてください。

 

4、カプノサイトファーガ症

カプノサイトファーガ症も人の病気です。カプノサイトファーガ・カニモルサスも犬猫の口腔内に常在する菌です。症状は発熱やだるい感じ、腹痛や頭痛などです。発症は稀ですが重症になると怖い病気です。

パスツレラ同様、初期にしっかり治療しておくこと、過剰な接触をしないようにすることが大切です。

 

5、ネコひっかき病

ネコひっかき病は人がかかる病気です。バルトネラ・ヘンセラは、飼い猫の7.2%くらいが保有しているとされている菌です。ノミの感染と関係があります。ノミの糞中に排泄された菌を猫が歯や爪に付着させているため、猫に噛まれたり引っかかれたりするとこの菌に感染します。リンパ節炎をおこしますから、傷の腫れと、そこから最も近い身体よりのリンパ節の腫れが特徴です。熱を出したり、身体がだるかったり、関節が痛かったりします。

猫自体のノミ感染予防をしておくことは予防として有効です。治療は抗菌薬です。

 

6、狂犬病

狂犬病は現在日本での発症はありません。防疫をしっかりしていることや、国内の飼い犬を登録し、予防接種を義務付けたことで撲滅したのです。しかし、大変怖い伝染病ですし、近隣諸国では発生もあります。海外の国から動物を輸入することもありますし、私たちも気軽に海外に出かける時代にもなりました。油断をしてはいけない病気です。

咬まれたのは海外なのか、国内なのか、もし海外であるならばそこが清浄国なのかどうか、またあなたを咬んだ犬が野良犬なのか、飼い犬なのか、もし飼い犬であるならば狂犬病の予防接種を受けているのかどうかは確認し、病院でその旨ドクターに伝えるようにしてください。

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<まとめ>

一般に一番起こりやすい病気は1の化膿症です。運が悪いと3,4,5になる可能性もあります。国内であれば6の心配はまずないといってもいいでしょう。2も条件付きで防ぐことはできます。

1から5までは細菌感染、6だけがウィルス感染です。細菌に関しては抗菌薬投与が治療になります。初期の傷の手当てさえしっかりしてあって、お薬もきちんと指示通りに使っていれば、悪い状態には進まないと思います。

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犬や猫に噛まれたとき

http://mainichi.jp/select/today/news/m20100618k0000e040078000c.html

こんな毎日新聞の記事が目にとまりました。念のため、本文はこちらです。↓


ペットの犬や猫の口の中にいる細菌「カプノサイトファーガ属菌」が人間に感染し、02年以降だけで6人の死者が出たことが、国立感染症研究所獣医科学部の今岡浩一室長らの調査で分かった。感染して発症する確率は低いものの、発症すれば重症化する恐れがあり、ペットとキスをするなど過度な触れ合いを避けるよう、厚生労働省は全国の自治体や医師会、獣医師会などに文書で詳しい情報を発信した。

 今岡室長らは学会報告などの検索で、02~09年に40~90歳代の14人(男9人、女5人)の患者を確認。いずれも重症例で6人が死亡し、14人中11人は全身で細菌感染による炎症が起きる危険な敗血症になっていた。感染原因は、犬にかまれた6例▽猫にひっかかれた4例▽猫にかまれた2例▽不明2例だった。

 さらに首都圏の動物愛護センターで犬325匹、猫115匹の口の中を調べると、カプノサイトファーガ属の中で人間が重症化しやすい「カプノサイトファーガ・カニモルサス」という菌を犬74%、猫57%が持っていた。健康な犬、猫が持つ常在菌と見られる。

 菌が、かみ傷やかき傷、口の中の傷などから人体に入り感染すると、2~14日の潜伏期間を経て発熱、腹痛、吐き気などを起こす。かまれた場合は傷口を流水でよく洗うことが重要で、抗生物質で治療も可能だ。

 海外の研究で感染後の発症率は1000万人に6~7人とごく低いが、発症後の死亡率は12%との報告もある。今岡室長は「有効な治療法があり過剰に恐れることはないが、高齢者や持病のある人は重症化すると危険だ。ペットとの過剰な触れ合いは控え、かまれた後に異常を感じたらすぐに医療機関を受診してほしい」と話している。【奥野敦史】

もし、犬や猫に手を噛まれたら、すぐに血を止めたくなりますよね。でも噛まれたところから、噛んだ犬猫の口腔内の菌が入るので、むしろ水道水できれいに洗った方がいいでしょう。噛み返しされたり、皮膚が引きちぎれたりしない限りは、傷口は歯型程度の小さなものかもしれません。しかし、油断はせず、医療機関で診察を受けてください。
みなさんが心配される狂犬病ですが、日本国内で、国内産の犬に噛まれたのであれば、狂犬病の心配はないと思います。
傷の化膿など、細菌による害を心配してください。
プロフィール

ハート動物病院

Author:ハート動物病院
ハート動物病院です。
〒445-0062
愛知県西尾市丁田町杢左51-3
TEL/0563-57-4111
オフィシャルサイト:http://www.heart-ah.com/

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