咬傷事件を起こさないために

犬が人を噛んでしまうと、なかなかたいへんなことが分かっていただけたかと思います。
それで、今回は、(前回の続きにしてはだいぶ日が開いてしまいましたが)事故を起こさないための注意点をお話ししておこうと思います。

 そもそも、犬が攻撃的になり人を噛むに至るまでには、いろいろな背景があります。

 まずは犬種、性別、血統といったたぐいのものです。
もともと攻撃的な要素を持った犬種であるかどうか、またけんか早い(キレやすい)血統であるのかどうかというのがあります。犬種や性別については事前に調べたりペットショップで飼育しやすい品種を紹介してもらったりできるでしょう。従順で飼育しやすい犬を選ぶと良いと思います。血すじまで追うことはできませんからこちらは諦めるしかないでしょう。

 
それから飼育環境にも影響されます。
「番犬を目的に飼っているのだから人に対して敵対行動を取ってもらわないと困る。」ということで、門扉近くで孤立した生活をしている犬は、よく言えば独立心が強いのですが、常に緊張を強いられており、家族を守るため、というよりは自分自身を守るために過度の防衛姿勢を取ることになります。人と協調関係が作れず、恐怖のために過剰攻撃をかけることになります。戦場の兵士の心境、とでもいったところでしょうか。

<付記>独立心の強さは家族に向けて出ることもあります。自分のエリア、という意識が強いため、首輪を交換しようとか、食器を洗おうとか、犬の世話のために手を出したのにもかかわらず、犬はテリトリー内への不意の侵入と捉えるので攻撃してきます。これは家族内の順位、ボスとみなしている人にはしませんが、自分より下位だと思っている人へ向けて特にそういう傾向が見られます。

家族内に閉じ込めてしまった場合でも攻撃は起こります。家庭内で大事に飼育されているのですが、「小型犬だから散歩なんかしなくても十分運動は足りるだろう。」ということで外に出ることがないと、社会化することができず、家族以外の人はみんな恐怖の対象になってしまうのです。お客さまがいらして、かわいい犬だからと手を出したときに、がぶりっとするのはこういう子たちです。犬が小さいから大丈夫ということはなく、ダックスやチワワ、トイプードルなどはこうした要素を十分に持ち合わせています。

<付記>家庭犬で家族の誰かを噛んでしまうのは、家族内で優位の順位が犬と人との間で逆転していることも考えられます。先ほどの屋外犬の例でも同じですが、犬の世界は縦の関係ですから、家族の最下位に犬がいない限り、家族に対し攻撃的に出ることになります。

IMGP1331.jpg 

そのほかにも原因はあります。相互の理解不足です。
「からかってただけなのに、本気になってきた!」というような場合、人が犬の我慢の限界を知ることができなかったと言えるでしょう。犬のサインに気づかず、遊びをエスカレートさせてしまっているとか、遊びから怒りに転じるポイントを感じ取れなかったというものです。
「いきなり噛んできた!」という場合もあるでしょう。これは犬のボディサインを読むことができなかったのです。
犬が怒っているときのサインはしっぽを下に下げる、耳を後ろに倒す、歯をむき出しにする、唸り声をあげる、など言われていますが、犬によってはその行動がかすかで分かりにくいときもあります。人が犬を十分に理解していないと、犬が良く思っていないのに嫌がる行動を重ねてしまうことになり、その結果犬の攻撃行動を引き起こしてしまうのです。

犬が誤解している時もあります。家族のものは「やめてほしい」と感じているのに、毅然とした態度で「だめ」「いけない」と意志表示をしていないことで、中途半端な「やだぁ」「きゃぁ」という叫び声に対して、飼い主さんが喜んでいると思い込んでいるのです。
いわゆる「甘咬み」といわれているものの中にはこうしたケースが多くあるように思います。

 

IMGP1322.jpg 

それにしても、家に用事があって訪ねてきた人を噛んでしまっては、人間関係も損なわれますし、犬を原因として、交友関係が狭まってしまうのも残念なことですから、これはなんとか改善したいものです。

 

で、注意点になります。

 

繋留飼育の場合は首輪が抜けないように首の太さと首輪のサイズを見直してください。知らないうちに痩せていて、首輪がゆるくなっているかもしれません。頭部が小さく顎の張っていない犬種では胴輪の方が安全なこともあります。それから犬を繋いでいる紐が千切れそうになってはいないか、チェーンが腐食してはいないか確認してください。繋ぎ止めている金具はどうでしょうか。場合によってはしっかりしたものに新調する必要があるかもしれません。庭に繋いでいる場合、門扉から玄関までの通路上に犬が寄ってこれないよう可動範囲を狭める必要があります。繋いでいた紐やチェーンが切れて放浪している間、これはあなたが知らない間であっても、法律上は「犬は繋いで飼う」ことになっていますから、全面的にあなたに非がまわってきます。十分注意してください。

屋外犬舎飼育の場合は、出入り口の錠が壊れていないか、犬舎の下に隙間は開いていないかどうか、また屋根に当たる部分からの飛び出しがないかどうか、犬舎の構造を見直してください。地面にそのまま犬舎を設置しているようなとき、夏の間に土をほじくり、モグラのように通路を作ってしまっていることがあります。木陰で見えにくいことがあるかもしれませんが、抜け道がないかどうか、見てください。太いワイヤーを縫うようにしてつくってあるフェンスを壁面に利用しているような場合、顎の力が強い犬ではワイヤーを咬んで抜け道を作っている場合もあります。縦だけの場合は肩幅の狭い犬ではすり抜けることができます。金属の柱が縦横の十文字になっていると水平部に足をかけてよじ登ることができます。屋根部分がないとか、軽く乗せてあるだけとか、建てつけによって剥がれやすくなっている部分があるような場合は、犬舎内の置物を踏み台にして、または跳躍によって屋根部分から脱出する場合があります。

 敷地内だから自由にしていた、というようなときでも外部の門扉が自由に開けられる状況ですとこれも問題です。扉の開閉が簡単に出来てしまわないかどうか確認する必要があります。

 屋内自由飼育の場合では急な来客で飛び出す場合があります。玄関チャイムやドアフォンで来客を確認した後、愛犬をケージに入れてからお客さまをお通しするなど、犬が自由に出られないようにしてから玄関を開けるようにすることが大切です。

 散歩のときに公道上でトラブルが発生することもあります。散歩時のリードの長さは、とっさのときに制御が効く長さにしてください。首輪が抜けないかどうかの確認ももちろん必要です。立ち話に話が咲いてしまって犬の観察がおろそかになってしまうこともあります。十分気を配ってください。公園など、多数の人が過ごす場所では、犬好きの方が犬を撫でようとしてくることもあるでしょう。そのようなとき、愛犬へのご挨拶を遠慮するのは失礼なことには当たらないかもしれません。

続きを読む

スポンサーサイト

テーマ : 動物病院
ジャンル : ペット

人を咬んでしまった!

「犬が人を咬んでしまった!」

 今度は咬まれた方ではなく、うちの犬がよそさまを咬んでしまった時の対応について、時系列でお話しします。

 
IMGP1225.jpg

最初に犬を安全な場所に移します。犬が自由に人と接触できないようにしてください。

被害者の方にはすぐに病院へ行くようお願いをしてください。けがの程度が軽くても必ず受診するようお願いしてください。

犬が受けている狂犬病予防の記録を提示し、相手の方を安心させてあげてください。これは病院から発行される予防接種済み証明書でもいいですし、今年度の注射済み票のプレートでもその証になります。

動物保護管理センターに、書類を提出に行く必要があります。「飼い犬事故届出書」です。愛知県の「動物の愛護及び管理に関する条例第11条の規定」によるものです。センターで今後、どのようにしたらよいのか、詳しく教えてくれます。

西尾市、安城市、碧南市、幸田町は豊田市にある動物保護管理センター(本所)ですが、蒲郡市は東三河支所に、政令指定都市になっている岡崎市は市役所にお尋ねください。

 

さて、そこであなたは犬に「狂犬病の鑑定」を受けるように言われるでしょう。そうしたら動物病院へ愛犬を連れてお越しください。

鑑定のための診療は1週間ごと3回行われますので、当日、来週、再来週のパターンで、同じ曜日に時間を作っておこしください。この2週間は狂犬病ではないかどうかをみる観察期間になりますので、どんなことがあってもこの犬を手放すことは許されません。また、この間は新たな咬傷事件が起こらないように十分配慮してください。

 IMGP1227.jpg

鑑定のための問診事項はざっと次のような内容です。これは狂犬病としての症状を発症していないかどうかを見極めるものです。「観察期間」ですから、犬をしっかり観察していただかなくてはいけません。診療日に質問されて「分かりません」「さぁ、どうだろう?」がないようにお願いします。

 

1、口を閉じられず、半開きのようになっていませんか。

2、遠吠えのような訳の分からない鳴き方をしていませんか。

3、舌が口からはみ出していませんか。「赤ずきんちゃん」に出てくる狼のようになっていませんか。

4、たくさん水を飲みたがりますか。

5、水を飲む動作に以前と変わったところは見られませんか。飲みにくそうではありませんか。

6、吐きそうな動作をすることはありませんか。嘔吐しませんか。

7、寝ていることが多くありませんか。

8、熱っぽく感じられることはありませんか。

9、近付くものに対して攻撃的に咬みつきませんか。

10、ケージの柵や繋がれているリードなどに意味もなく咬みつくことはありませんか。

11、うろうろ歩きまわることはありませんか。

12、歩く足取りはしっかりしていますか。ロボットのようになっていませんか。

13、疲れやすく、すぐに座りこむことはありませんか。おねえさん座りになっていませんか。

14、ふらついて立ちあがれないことはありませんか。

IMGP1230.jpg 

狂犬病はRabiesというのが英名で、「狂った」という意味のラテン語がその由来だそうです。狂犬病はウィルス病です。ウィルスは咬まれたところから体に入り、神経系の組織に入り込むので出てくる症状は主に神経症状です。

上記のような症状は狂犬病以外の病気でもみられます。今、うちの犬はこれに当てはまるのだけど大丈夫だろうか、と心配になられる方が出てこられるかもしれませんが、これらの症状は神経系の病気であれば狂犬病でなくても現れるものだったり、別も病気でもみられるものだったりします。心配な点が出てきたら病院へお越しください。

 IMGP1232.jpg

3回の診察が終了すると、「狂犬病鑑定書」をお渡しします。鑑定書に書き入れるものを紹介しますと、当該犬を特定するためのもの、犬種、性別、毛色、名前などのほかに犬の産地(日本生まれの犬なのか、清浄国ではない国から来た犬なのか、ということです)があります。また咬傷事故の発生場所、発生年月日、発生状況なども記入事項です。それで事故の起こった背景もくわしくお伺いすることになります。

この鑑定書をもって、最寄りの保健所へお出かけください。

 

咬傷事件が発生し、被害者の方とうまく話し合いがつくとよろしいのですが、医療費のほか賠償保険やら問題が出てくることがあります。民法上、飼育している犬が問題を起こしたとき、その責任は飼育者が負わなければなりません。いろいろ大変だと思いますが、冷静になって、少しずつ問題解決に向けがんばってください。

 

参考

民法第718条(動物の占有者等の責任)

1、動物の占有者は、その動物が他人に加えた損害を賠償する責任を負う。

ただし、動物の種類及び性質に従い相当の注意をもってその管理をしたときは、この限りではない。

2、占有者に代わって動物を管理する者も、前項の責任を負う。



 

次回は咬傷事故を起こさないために、どのようなことに注意をすればよいのかお話しをします。

テーマ : 動物病院
ジャンル : ペット

プロフィール

ハート動物病院

Author:ハート動物病院
ハート動物病院です。
〒445-0062
愛知県西尾市丁田町杢左51-3
TEL/0563-57-4111
オフィシャルサイト:http://www.heart-ah.com/

最新記事
最新コメント
最新トラックバック
月別アーカイブ
カテゴリ
ブログランキング
検索フォーム
RSSリンクの表示
リンク
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QRコード