肝臓が悪いときに使われるお薬

肝臓病のお話。7回目は肝臓に問題があるときに使われるお薬についてです。

肝疾患で処方される薬、「どのような効果があるのかはっきりは分からないけれど『肝臓にいい』と聞いたから飲ませている」ということが多いかと思います。または「良く分からないからもらった薬が終わってそのままになったのだけど、続けた方がよかったの?」ということもあるかもしれません。わたしたちも日常診療の中で薬一つ一つの丁寧な説明ができないのが良くありませんね。

肝臓の薬は飲ませたからといって急に何かが変わるわけではないし、薬をやめたからといって何かが変わるわけでもないです。でも、こんな効果があると知ったら「続けて投薬します!」に変わると思います。

 

1、ウルソデオキシコール酸

最も頻繁に処方することが多いのがウルソデオキシコール酸です。これは人工的に合成された(非毒性で親水性の)胆汁酸です。漢方薬の「熊の胆」(くまのい)「熊胆」(ゆうたん)に含まれる有効成分です。古くからある肝臓薬で安全性が高く、副作用は極めてまれなお薬です。

胆汁の流れを良くします。胆汁の流れがよくなると、肝臓の炎症性産物が排泄されやすくなります。本来の毒性の高い胆汁酸が薄められるので、毒性の高い胆汁酸濃度が低下します。免疫系に働きかけて、免疫反応を軽減させる働きもあります。抗酸化作用もあります。

肝外胆管の閉塞を除くほとんどの肝臓の病気に処方しています。

内服薬と注射薬があります。

 

2、グリチルリチン

甘草(かんぞう)の根に含まれる薬効成分を人工的に作ったお薬です。その名の通り、甘いお薬です。

肝細胞が傷害されるのを抑制します。肝細胞が修復し増殖するのを促進させます。炎症を抑える作用、免疫を調節する作用もあります。

人で肝炎から肝臓がんを発症するのを減少させる作用が認められています。

内服薬と注射薬があります。経口投与では利用効率が悪いようなので、多めに処方しています。

 

3、トレピブトン

胆汁や膵液が十二指腸に排泄される出口を緩めて、消化液を排泄しやすくするお薬です。それによって胆汁の分泌が促進され、胆嚢や胆管の内部圧力が低下します。胆のうの痛みを和らげます。

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4、S-アデノシルメチオニン(SAMe

肝細胞の天然の代謝産物です。グルタチオンの前駆物質になります。

酸化ストレスに対する防御に重要な役割を果たします。細胞の維持や修復などに関係する様々な化学反応を媒介し、活性酸素から身体をまもります。

従来はサプリメントの範疇にあったのですが、厚生労働省から医薬品成分に指定されました。それを受け共立製薬から発売されていたプロヘパゾンはプロヘパフォスに、ビルバック社から発売されていたノビフィットはリバフィットにそれぞれ名称が変わり、内容成分も変化しました。

残念ながら現在は海外からの個人輸入により入手するしかありません。

 

5、シリマリン

マリアアザミ(オオアザミ)の種から得られる成分です。肝臓の薬としてヨーロッパで古くから使われています。分類的にはハーブになるでしょうか。

酸化ストレスに対して防御的に働きます。活性酸素(フリーラジカル)を消去する働きを持つ酵素(スカベンジャー)です。

日本全薬から出ているヘパアクトの主成分になっているのがこのシリマリンです。

人体薬のヘパアクトはイソロイシン、ロイシン、バリンのアミノ酸で、動物薬のヘパアクトとは違います。

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6、ビタミンE

抗酸化作用を持つ栄養素です。

 

7、ビタミンK

出血傾向にあるとき、止血を目的に使う脂溶性ビタミンです。

 

8、スピロノラクトン・トラセミド

腹水が認められるときに使う利尿薬です。

 

9、ラクツロース

肝臓の血管系異常や門脈圧亢進により肝性脳症があるとき、または肝性脳症が予想されるときに使う合成二糖類のお薬です。

甘いシロップです。

大腸の細菌によって発酵されて短鎖脂肪酸になります。ラクツロースが大腸内を酸性化しアンモニアの吸収が抑えられ、ほとんどのアンモニアは糞便中に排泄されるようになります。

 

10、スクラルファート・ラニチジン・オメプラゾール

胃粘膜のただれや潰瘍に対して用います。気持ちが悪いとか嘔吐しそうになるのを抑えます。

 

11、メトクロプラミド・マロピタント

嘔吐があるときに使う制吐剤です。

 

12、抗生物質、抗菌薬

細菌感染を抑えるために使います。

メトロニダゾール、アモキシシリン、セファレキシンなどのほかキノロン系の薬も使うことがあります。

エリスロマイシンは抗生物質ですが、胆のうの運動改善を目的にして使います。

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13、鎮痛薬

非常に激しい痛みがあるとき、点滴内に入れて持続的に投与し続ける方法を使うことがあります。このときに使われるのはブトルファールというお薬です。

内服で用いるときはメロキシカムなどです。

 

14BCAABranched Chain Amino Acids:分岐鎖アミノ酸)

肝性脳症があるとき、または肝性脳症を発症する心配のある場合、食事に添加し、神経症状の発作が出るのを防ぎます。

大塚製薬のBCAAや、ベジタルサポートホエイがこのアミノ酸製剤です。

肝性脳症発症時の点滴製剤でもアミノ酸製剤を点滴します。

 

15、処方食

肝臓用の処方食としてL/Dや肝臓サポートなどがありますが、これらの処方食は「肝性脳症」「門脈体循環シャント」「腹水を伴う肝硬変」(これらは高アンモニア血症を伴う病気群です)と「銅蓄積性肝炎」の場合に限って有効です。もし、肝臓が悪い、肝臓用にいい処方食はないだろうか、ということでご自身の判断でインターネットからこれらを購入しているとしたらすぐにやめてください。低タンパク質なこれらの処方食は、他の肝障害の場合肝臓の修復を妨げる結果になり身体に良くありません。

「日常最もよく見られる肝臓の病気」としてあげた「高脂血症関連性肝疾患」=「空胞性肝障害」や「膵炎に伴う肝障害」、「胆管閉塞」のとき、また「肝疾患ではないけれど肝酵素が高い」=「反応性肝障害」の時におすすめしているのは低脂肪の処方食です。I/Dローファットや消化器サポート低脂肪などです。水溶性繊維と不溶性繊維がバランスよく配合されているベジタブルサポートファイバーを添加するのもおすすめです。

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16、ペニシラミン

銅蓄積性肝炎や銅蓄積性肝炎のときに、銅のキレート剤(銅よりも強く結合し、銅をはねのける働きがある)として処方します。免疫調整機能や抗線維化作用もあります。

 

17、そのほか

・コルヒチン

痛風の発作を抑える薬として知られています。

コラーゲンの生成を減少させたり、分解を促進させる作用があります。慢性肝炎のとき肝臓の線維化を抑えるのを目的に使うことがあるかもしれません。

・グルタチオン

酸化障害から細胞を守る働きがあります。

・チオプロニン

抗酸化作用があります。

L-カルニチン

脂肪酸代謝に関係するビタミン様物質です。

・メチオニン

肝機能を高める効果があります。

 

 

以上、使用頻度の高いものから順にお話ししました。
獣医療ではいま、診療の標準化、治療の標準化がいわれていますが、肝臓のお薬もいろいろあり、心臓のお薬同様、先生によって使い勝手が違うので、似たようなお薬でも違うものを処方されている場合もあると思います。今回挙げたお薬は当院で使うものを当院の処方頻度からご紹介しました。
肝臓の病気ももっとたくさんありますがALTやALPなどの「肝酵素が高い」場合どのような病気が多いのか、これも当院での診察頻度の順にご紹介しました。

肝臓関係のお話はひとまずおしまいです。

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慢性肝炎

 肝臓の病気、6回目は「慢性肝炎 :Chronic Hepatitisです。

肝臓の病気が進行し、慢性化したものが「慢性肝炎」です。

慢性肝炎で多いのは「特発性肝炎」です。

犬種によって、銅が肝臓内に蓄積することが害になって発症する肝炎がみられます。「銅蓄積性肝炎」、「銅関連性肝炎」です。

「慢性肝炎」は進行性の病気で、最終的には「肝硬変」へと移行していきます。

これまで5回ほどよくある肝臓の病気についてお話ししてきましたが、その中でも一番手ごわいのがこの「慢性肝炎」です。

 <特発性肝炎>

慢性肝炎では、細菌やウィルスなどの微生物が原因となったもの、毒物や薬物など化学物質が原因になったもの、免疫の関係するもの(免疫介在性疾患)、銅の代謝障害によるものなど、さまざまなものが肝臓に慢性的に障害を起こしています。しかし原因が特定できないことも多く、それらは「特発性肝炎」と呼ばれます。突然発症するわけではありません。「突発性肝炎」ではなく「特発性肝炎」、原因を特定することができない肝炎です。

一番心配しているのは少量ずつの化学物質が長い年月をかけて肝臓に障害を起こすものです。「犬が喜んで食べるから」と与えているジャーキー類は私たちが食べるサラミソーセージと良く似ています。が、サラミソーセージと違って冷蔵庫に入れる必要がありません。そのまま常温に置いても腐らないのです。カビが生えてくることもありません。虫がわくこともありません。そのように作られているからです。実は犬用の食品には規制がありません。大きなメーカーさんは自主的にAAFCOの基準に沿うようにペットフードを作っています。しかし基本的にどのようなものを元にして作っても、何を混ぜてもよく、その意味では犬の健康に対して責任を持ちません。嗜好性を良くした商品、家族の手間がかからないようにした商品、それがナチュラルな製品とほど遠いものであっても自然志向であるかのような広告を打って経済性を追求した商品、それらが市場にはたくさん出回っています。すぐに健康を損なう急性毒性を示すものは入っていないでしょう。しかし食品添加物はすべてが安全なわけでもありません。また問題のない物質であっても酸化という変化により体に害を及ぼすようになる物質もあります。このような微量な化学物質から肝臓がむしばまれてしまうことがあります。

AAFCOについて:

「AAFCO」とは米国飼料検査官協会(Association of American Feed Control Official)の略称です。AAFCOでは、ペットフードの栄養基準、ラベル表示などに関するガイドラインを設定しており、日本のペットフード公正取引協議会の規約でも、AAFCOの栄養基準を採用しています。AAFCOは基準を提示している機関であり、フードの検査を行ったり、認定や承認は行いません。

 <銅蓄積性肝炎、銅関連性肝炎>

ベドリントンテリアでは常染色体劣性遺伝で肝細胞内に銅が蓄積し、銅蓄積性肝炎になることが分かっています。銅の代謝異常によるもので「銅蓄積性肝障害 Copper-Associated Hepatopathy」とも言われています。

ベドリントンテリア以外の犬種、ウェストハイランドホワイトテリア、ダルメシアン、スカイテリア、ドーベルマンピンシャー、スプリンガースパニエル、ラブラドールレトリバーなどでも慢性の肝障害で、肝臓の組織検査や肝臓の銅重量の検査をすると肝細胞内に銅が大量に蓄積しているものがあります。しかしこちらの犬種の場合、銅蓄積が原因となって肝障害を起こしているのか、肝障害の結果銅が蓄積しているのかよくわかっていません。そこで「銅蓄積性肝炎」と区別して、「銅関連性肝炎」とか「銅関連性肝障害」と呼ばれています。

 <肝硬変>

肝硬変は慢性肝炎の最終段階になります。正常な肝臓の構造が壊れ、障害のあった部分が線維組織で置き換わった状態です。肝硬変は元に戻ることができない変化です。

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<症状は?>

飼い主さんが気づく症状で、多いものから挙げていきます。

・食欲低下

・嘔吐

・多飲多尿(水をたくさん欲しがる、飲む、尿が多量に出る)

・活動的でなくなる(元気がない、という表現をされることが多いです)

・体重が減る(痩せてきた、と言われます)

・黄疸(尿の色が濃い、目が黄ばんでいる)

・下痢

・お腹が膨らんできた

これらの、この病気特有ではない(ほかの病気でも同じようにみられる)症状が、場合によっては数カ月くらい前から続いている、というのが大方の飼い主さんから聞かれます。

(これらの症状のすべてが当てはまるのが慢性肝炎、ということではありません。ひとつでも二つでも、慢性肝炎になっていることはあります。)

 

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<身体検査>

病院で身体を診させていただくと、筋肉が萎えていることが多いです。

腹水があるとお腹は大きくなっていますが、腹水がない場合は、外から見ただけでお腹が大きく張っているのがわかるほど肝臓が腫れているというのはあまりありません。

眼結膜を見て、黄疸がすぐにわかるものもありますが、貧血のために白っぽく見えるものもあります。

その他は肝臓が悪いかどうかは見た目では分かりません。

 <血液検査>

肝臓が悪いのかどうか、全身状態はどうなのか、を目的に血液検査を行います。外から見ただけでは肝臓が悪いのかどうなのかは分からないので、肝臓に絞った検査を行うわけではありません。

スクリーニング検査でALTALPなどの肝酵素の上昇を確認し、その後、追加の検査として総胆汁酸(TBA)アンモニア(NH3)など、肝臓に特化した項目も検査します。たいていは基準範囲の上限を超えています。

黄疸がある時は総ビリルビン(TBil)が上昇します。

アルブミン(ALB)は肝臓で作られるたんぱく質で、肝臓が悪くなると低下してきます。

糖代謝、尿素回路などがうまく回らなくなると、ブドウ糖(Glu)や尿素窒素(BUN)が下がってきます。

さらに血液凝固系検査を実施することもあります。肝臓は血液凝固に関係するたんぱく質を作っているため、肝機能が低下するとこれらのたんぱくが作られなくなります。その結果、出血した場合、血の止まりが悪くなります。

 <超音波検査>

肝臓の実質がどのようになっているのか、胆のうの様子はどうか、肝臓に入る血管は太くなっていないか、腹水はないか等を見るのに超音波検査を行います。

 <肝臓の病理検査>

肝臓の状態を把握することは大切で、そのために最も良い検査は、太い針を用いた組織検査と、銅関連検査です。しかし、肝臓が悪くなってくると、出血もしやすく、また組織の修復も悪くなってきます。

徐々に悪化していく慢性の肝障害では、修復が難しくなってくる肝硬変のステージより前の段階での検査はおすすめします。肝硬変と思われる所見が超音波検査その他で見られた段階ではあまりお勧めしません。この段階以後では危険率が増してくるからです。検査情報が得られることが危険リスクを上回ると判断した場合は組織検査を実施します。

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<肝臓を保護する内科治療>

意外かもしれませんが、プレドニゾロンが処方になります。

肝酵素を上昇させる要因のひとつにコルチコステロイドがあります。内因性のコルチコステロイドも、医薬としてのプレドニゾロンも肝酵素を上昇させることもお話ししました。しかし慢性の肝障害、ことに免疫介在性の場合はプレドニゾロンが治療薬になります。プレドニゾロンには抗炎症作用があるからです。このほか、抗線維作用もあります。コルチコステロイド療法に関しては
Strombeck先生の研究、1988年のものですが、95頭の慢性肝炎の犬で治療薬にステロイドを加えたものと加えなかったものとの比較で、加えたグループの方が長生きできたという結果があります。

また酸化ストレスが病気の進行に重要な役割を果たしていることが分かっています。抗酸化剤は慢性肝炎の治療に役立つと考えられています。

 抗酸化剤を中心にした「肝障害があるときに使われるお薬」については次回お話しします。

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胆のう粘液のう腫

 肝臓の病気のお話、5回目。

「胆のう粘液のう腫」(Gallbladder MucoceleGMです。

 

胆のう粘液のう腫は、胆のうの中に粘液様の物質が充満し、中で動かなくなった状態で、胆のうが異常に大きくなっている病気です。内容物は色の濃いコーヒーゼリーの様なものです。

まれな疾患と考えられていましたが、近年は好発犬種を中心に中年齢から中高年齢での発症がときどき見られるようになってきました。

 

 

<原因は何?>

何らかの原因で胆のう壁の粘液産生細胞が過剰なムチン分泌を起こした結果、粘液様物質が貯留すると考えられています。胆のうの運動機能低下、胆のう炎、胆泥症、胆石症も何らかの関係があるかもしれません。

甲状腺機能低下症や副腎皮質機能亢進症などの内分泌疾患から併発しやすいことが分かっています。また脂質代謝異常(高脂血症)も発症に関係があります。発症にかかわる遺伝子(ABCB4)の変異があると言われていましたが、現在は、糖尿病関連因子と同じように否定的な見方が強まっています。

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<病気になりやすい犬は?>

好発品種はシェトランドシープドック、アメリカンコッカスパニエル、ミニチュアシュナウザーで、このほかビーグルやシーズー、チワワ、パピヨンを挙げる先生もおられます。

中年齢から中高年齢で、基礎疾患として甲状腺機能低下症や副腎皮質機能低下症、高脂血症のある犬も要注意です。

 

 

<症状は?>

胆のう粘液のう腫はゆっくりと進行する病気で、初期には症状はみられません。病態が進行すると胆のう炎、さらにひどくなると胆のう壊死(壊死性胆のう炎)を起こします。症状があらわれたときは非常に深刻な病態になっていることが考えられます。胆のうは「沈黙の臓器」ですから問題が起こるぎりぎりまで痛みや不快感を現わすことがないのです。

 

この病気が見つかる3つのパターンがあります。

①健康診断で肝酵素が高かったため、または別の病気があったため超音波検査を受けて偶然見つかる場合。

②元気や食欲がなく、吐き気やおう吐などを訴えて病院に来院し、病気が分かる場合。

③それまでずっと無症状で過ごしてきたのに、胆のうが破れたり、総胆管(胆のうから十二指腸への胆汁の通り道)が詰まったために、急に激しい症状を現わし、病院に来られて分かる場合。

①では無症状です。

②では消化器系の症状一般を現わします。

③では②でみられる消化器症状に腹痛と黄疸が加わります。

膵炎や腸炎を併発している時があります。同じように食欲不振、嘔吐、下痢、腹痛などの症状です。

このような症状が前にも起こったことがある、何回か繰り返しているという場合もあります。これは慢性化している徴候です。

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<診断は?>

血液検査ではアスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(AST)、アラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT)、アルカリフォスファターゼ(ALP)といった肝酵素の上昇のほか、総ビリルビン値(TBil)、総コレステロール値(TCho)の上昇、またあまり聞きなれないかもしれませんがガンマーグルタミルトランスフェラーゼ(GGT)なども上昇しているのが見られます。炎症の度合いによって、総白血球数(WBC)も増加するし、C反応性蛋白(C-Reactive Protein:CRP)も上昇します。

診断に最も有効なのは超音波検査です。胆のうが大きく拡張した中に、動かない内容物が見られます。いくつかのパターンはあるものの、キウイフルーツを輪切りにしたような象、放射状の象、星型の像などの特徴的な像が見られます。

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<外科治療が第一選択>

外科手術による治療がゴールドスタンダードです。胆のう切除術を行うことと、総胆管の閉塞があればこれを解除することが手術内容です。

胆のうは消化液である胆汁を貯めておく袋状の臓器です。胆のう切除術は胆石症など胆のうの病気のときに行われる手術で、さほど特殊な手術ではなく、一般的な手術の方に分類されます。また胆のうは切除されても術後、深刻な後遺症を残すことはありません。

手術の際に亡くなる確率が17%から40%と言われています。しかしこれは胆のうの穿孔や破裂がおこった場合と、無症状で破裂を起こしていない段階で行った場合とを分けて調べた数字ではありません。検査により偶然発見され無症状のうちに手術する場合の死亡率は高くありません。いつ手術をするのかが、成功へのカギになっています。

そのため、急性に激しい症状を現わしている場合、緊急的に内科的な治療で状態を改善させ、手術リスクを軽くしてから行う場合があります。静脈内点滴で脱水を補正し、抗生物質や肝庇護剤を投与します。また症状に応じた治療(嘔吐や痛みを止める)も行います。

このようにして、ある場合は緊急的に、またある場合は症状を鎮め状態が改善してから手術が行われますが、手術を乗り越えた後の経過は良好です。短命になることもありません。

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<手術は嫌だ!>(内科治療)

しかし今は症状がなく落ち着いている、または緊急的な内科治療で症状が鎮まったという場合では、どうしても手術に踏み切れない、手術はいやだ、という気持ちになるのが人情ですね。症状がおさまると、このまま内科療法を継続することにして手術はしないで済ませたいと思う飼い主さんがおられます。ただ、残念ながら内科的治療のエビデンスはありません。2か月後、3か月後に消失した、という報告が2つありますが、これらは非常にまれなことです。

では、そのような場合には治療のオプションはないのかというと、科学的な根拠には非常に乏しいのですけれども、希望をもって内科治療を継続するというのが残された道になります。術前の緊急的内科療法とは違い、家庭で内服薬投与をする方法になります。
お薬の内容ですが、もし、基礎的な疾患、甲状腺機能低下症のようなものがあればこちらの薬をまずお願いします。それから利胆剤や肝庇護剤、抗菌剤、オッジ括約筋を弛緩させ胆汁を出やすくする薬、胆のう運動を改善する薬などもお願いします。さらに抗酸化薬や
酸化ストレスを防ぐ薬などが加わることもあります。けっこうたくさんの薬が処方になります。

内科療法を希望される場合は動物を注意深く観察していただくとともに、定期的なフォローアップ検査に来院していただくこと、また消化器系症状そのほか異常な点が見られたら速やかに病院に来ていただくことをお願いします。しかしこのような投薬とともに経過を観察をしている間に、病状が急変してしまう可能性がないわけではありません。温存されていた胆のうが穿孔したり破裂した場合の外科手術は、無症状で安定しているときの手術に比べるとハイリスクになってしまいます。

そうならないことを祈って治療を続けることになります。

*お薬について、もう少し細かな説明をしようかなと思います。7回目(次の次)にお話しします。




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肝臓の結節性過形成

肝臓のお話。4回目。

「肝結節性過形成」Hepatic Nodular HyperplasiaHNH)です。

今日の肝臓の病気は腫瘍と間違えそうなんだけど、腫瘍じゃない肝臓の病気です。

超音波検査で、均質に映し出されるはずの肝臓の組織に、大きさのまばらな水玉模様のように密度の違う部分がみられる時、腫瘍をはじめとした新生物を疑います。しかし肝臓でみられるこのような病変は悪性の腫瘍であることよりも、良性の結節である方が数多くみられます。今日はその、結節性過形成についてお話しします。

肝臓にできる良性の結節(Hepatic Benign Noduls)には、肝臓の良性の腺腫(Hepatic Adenoma)、結節性再生(Nodular Regeneration)と結節性過形成(Nodular Hyperplasiaがあります。腫瘍に比べると遭遇する頻度はこちらの方が圧倒的に高いです。

けれど良性の結節なのか、悪性の腫瘍(Malignant Neoplasia)なのかは病理学的検査の前には区別がつきませんから、一概に楽観するのもいけません。

 *注)さらに調べたいな、と思われた方の手掛かりになるように病名だけ英語表記しています。

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<どんな病気?>

高齢の犬で、超音波検査を通して偶然に発見されます。肝臓内にひとつ、または複数で通常の肝臓とは違う部分が塊状になっているのが見つかります。腫瘍のように見えます。驚いて病理学的な検査をすると、「悪いものではなかった、よかったね」という結果になります。そんな病気です。

8歳を超えた犬で、わりとよく見つかります。14歳までにはほぼすべての犬に発生がみられる、という先生もいらっしゃいます。

球形から卵型の腫瘤が肝臓の全域に不規則にできています。

このような異変が肝臓内にあっても、大きな問題はありません。

 

 <特有の症状が出る?>

特に症状はありません。まれに水をたくさん飲む、おしっこがたくさん出るという症状がみられることがあります。

 

 <検査で異常値が出る?>

身体検査の所見は正常です。

血液検査をすると、アラニンアミノトランスフェラーゼ値(ALTGPTと同じです)やアスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ値(ASTGOTと同じです)の割に、アルカリフォスファターゼ(ALP)値が高くなっていることが多いです。あとは特別な上昇は見られません。

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 <病理学的検査>

針で肝臓の病変部を刺して細胞を診る検査よりは、大がかりになりますが、全身麻酔をかけ手術で、異常な部分の一部を(小さなひと塊として)切除し病理検査を行った方が正確な結果が得られます。

 <治療は?>

結果が良性のものなので、緊急的な集中治療の必要はありません。定期的に血液検査や超音波検査を行ってフォローアップしていきましょう。だいたい半年ごとでいいかな、と思います。

 <経過は?>

予後は良好です。

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<病理検査を受けなければいけない?>

肝臓にできる腫瘍と区別するために、受けていただく方が安心です。

肝臓にできる腫瘍は、肝細胞癌、胆管細胞癌、カルチノイド、血管肉腫などがあります。頻度はどれも非常にまれですが、「うちの子に限ってそんなまれな病気にはならないわ!」とは言えません。

また、肝臓は肺と並んで、悪性腫瘍が転移するのが多い場所です。リンパ腫などの腫瘍が他部位にできていないのかを確認する必要があります。この場合、肝臓ではなく、大きくなっているリンパ組織などから細胞を採取します。

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 <手術が必要なの?>

結節性過形成では手術の必要はありません。

もし、病理検査で原発性の肝腫瘍(肝細胞癌など)が疑われる結果になったときは、1か所だけで取りきれる場所にあるものなのか、数か所あってそれがまばらになっているのか、その大きさはどうなのかなどを複合的に見たうえで、愛犬にとってより良い方法を考えていきます。ご家族の考えなども反映されるよう、話し合いがなされるのがよい方法です。 

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肝微小血管異形成

肝臓の病気3回目です。
これまでの2回に比べ、今回の病気は肝臓の病気らしさがあり、心配度合いが高いです。が、この病気に遭遇する頻度は前回、前々回の病気に比べるとだいぶ下がります。

今日お話しする予定の肝臓の病気は「肝微小血管異形成」:Hepatic microvascular dysplasia(HMDMVD)です。「原発性門脈低形成」:Primary hypoplasia of the portal vein(PHPV)といわれることもあります。生まれつきの病気です。

小柄な犬、トイ種の中でも特に小さくて可愛い犬がいます。このような犬で心配な病気です。

 

 

<どんな病気?>

確認できないくらい細かい血管(微小血管)で本来の系統とは違う血管同士がつなぎ合わさっている先天的な異常です。

「門脈体循環シャント」は腸管からの栄養をたっぷり含んだ太い血管(門脈)が肝臓に入る手前で体循環の血管と結合しているのですが、「肝微小血管異形成」は肝臓内部の細かなレベルで似たようなシャントが起こっているのではないかという仮説が挙げられています。立証されていないのでこんないい方になります。

門脈シャントは生後6か月齢から8か月齢くらいで発症し、確認されますが、肝微小血管異形成の臨床兆候が出てくるのはもっと遅く、3歳近くになったころ(さらに遅く発見されることもあります)に見つかることが多いです。

ケアンテリアは遺伝することが分かっています。他にはトイ種。ヨークシャテリア、マルチーズ、パピヨン、シュナウザー、ノーフォークテリア、チベタンテリアなどに発生があります。人気犬種からするとヨーキー、マルチーズ、パピヨンの発生が多いように思います。

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<どのように発症?>

肝臓の中を走る血管は肝臓に酸素を送る肝動脈と、腸などから運ばれた栄養素やその他の成分をたっぷり含んだ門脈があります。この二系統はそれぞれ枝分かれして規則正しく整列している肝細胞の間を走ります。門脈からの血液は肝細胞内で様々な物質が化学的に処理されたあと、体に無害な物質につくり変えられて肝静脈から体循環に乗る仕組みになっています。しかし微小なレベルで血管が結合してしまうと代謝前の物質を含んだ血液が全身循環に入り、血中アンモニア値や、尿酸値が上がります。

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<特別な症状がある?>

日常的には何ら問題がなく過ごしています。

重度に血管が入り組んでしまった犬では、門脈体循環シャントでみられる徴候によく似た症状を現わします。

血中アンモニア濃度が高まると、異常な神経症状を現わします。元気がなく、うまく歩けないようなふらふらした感じです。おかしな行動を見せたり、変な鳴き声を出したり、休みなくぐるぐる丸く円を描くように歩き回ったりすることがあります。異常行動です。そのほか、よだれが垂れたり、目が見えなかったり(物にぶつかります)、けいれんやまひが起こったりします。(肝性脳症といいます)

ただ、このような激しい症状が出ることはまれで、食欲がない、嘔吐する、下痢になったなどの症状が繰り返されて、「この子はお腹が弱いタイプなのね」と思われていることが多いです。

多量の尿酸アンモニウムが尿中に排泄されると尿石を形成します。アンモニウム尿酸塩からできた尿石症を発症すると、何度もオシッコに行く、オシッコが赤い、ちょっとずつしかオシッコが出ない、オシッコを(便と間違えることもありますが)したいんだけど出ないような姿勢だけを取る、などの症状が出ます。これは膀胱炎の症状です。

 

 

<体つきに特徴がある?>

はっきりしたものではありません。体型の小さな個体が多いです。

「同じ犬種のおよその子に比べると小柄なのかな?でも小さいトイ種だからこのくらいが基準で、あちらの子が大きめなのかもしれないな」と感じていたオーナーさんがほとんどです。ですから、分からないと思います。

被毛の毛つやがよくない場合があります。

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<検査等で異常が出る?>

血液検査ではアルカリフォスファターゼ(ALP)、アラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT)等の肝酵素が上昇していたり、尿素窒素(BUN)の減少が示されたりします。

尿検査では通常は正常、アンモニウム尿酸塩の結晶がみられることもあります。

レントゲン検査では通常は異常がみられません。肝臓が小さいのが確認されることもあります。

通常行われるこれらの検査では異常値を見つけ出すことはなく、犬を診る獣医師側がこの病気を意識していれば何らかの小さな引っかかりを感じることもあるかもしれません。あやしいかな?と判断したら次の詳しい検査に入ります

血清の総胆汁酸(TBA)は食前と食後に数値を測定します。この病気のときには食後の数値が必ず上昇すると言われていますが、さほど上昇しないものも見られます。ただ複数回検査をしていると上下はするものの基準値よりも高い数値を示します。

肝性脳症の症状を示している時以外、血清アンモニア値(NH3)は標準値になっています。

確定診断になる検査は肝臓の一部を切り取り組織学的に検査することと、門脈の造影検査です。

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<治療は?>

肝性脳症の症状(前述:神経系の症状)が出たときには集中して緊急治療に入ります。

日常的にご家庭で長期治療に参加していただくのは、ひどい症状が安定してからです。

肝性脳症にならないようにする目的でお薬を服用していただいたり、食事を検討していただいたりします。処方になるのはアンモニア発生を抑えるお薬などや低たんぱくの治療食です。

肝性脳症を起こしていない犬の場合、内服薬は利胆剤中心の処方になります。

門脈体循環シャントでは大きな血管を操作する手術が適応になりますが、この病気は手術ができません。手術では治らない病気です。

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<注意することは?>

肝臓内部で血管がくっつきあっている状態は手術で整えることもできないし、薬で覆すこともできません。しかしほとんどのものは、さして進行することも無く経過していきます。つまりはっきりとした徴候を示さないものは予後良好です。心配することも無く寿命を全うすることができると思います。

経過観察(定期的に血液検査などのフォローアップをするということです)をしていると、肝酵素は微妙に上下を繰り返します。その時々で一喜一憂されなくても、そんなもんだ、という気持ちで臨んでいただけると助かります。

肝性脳症の徴候を示すものの予後は様々です。

鎮静剤や麻酔薬、肝臓で代謝される薬が必要になるときは慎重にならないといけないため、何か外科手術が必要になった場合は、一般の犬に比べハイリスクになります。 

テーマ : 動物病院
ジャンル : ペット

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