犬の子宮蓄膿症・4

犬の子宮蓄膿症の4回目。

どうしてもすぐに外科手術をすることができないほど症状が悪かったらどうしましょうか。内科療法についてお話します。

 

繰り返しますが、どんな場合でも、子宮蓄膿症の治療といえば外科的卵巣子宮摘出術が一般的ですし、いちばん推奨されている治療法です。

あまりにも高齢であったり、臨床症状が重篤でとても外科手術が困難でしょうという場合は内科的な治療を行うことになります。

そのほか、犬が若いので今後できれば繁殖したいと考える場合や、外科手術をするのが嫌だから内科的な方法を選びたいと考える場合もあると思います。これらの場合は最良の治療ではない第2の選択肢となる治療を選ぶことになり、これによる不利益もあることもくみしてください。

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内科的な治療の概要です。

外科に持ち込めないほどの重症ですので、循環を維持し(DICの予防でもあります)、水分と電解質を補充するため(腎不全のための治療でもあります)点滴を行います。細菌感染があるので抗生物質の投与も行われます。そしてこの治療の中核となるホルモン療法を行います。

 使用するホルモン剤はプロスタグランジンです。このホルモンは子宮頚管を緩み開かせるのと、プロジェステロンのホルモン値を下げる効果があります。その結果子宮は細菌や膿を排出させます。

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こわいお話をしておきます。それはこの治療が外科手術に比べれば「安いだろう」「簡単だろう」という考えから発作的に選択するべきものではないことを重ねてお伝えするものです。

1つめ。内科的な治療法は治癒するまでに時間がかかります。注射後すぐに反応はあるのですが、臨床症状がすぐに改善するわけではありません。たいていは48時間かそこいら、場合によってはそれ以上かかることもあります。

2つめ。特殊なホルモン剤による治療のため、注射後一過性ですが副作用が出現します。腹痛のために落ち着かなくなったり、はぁはぁと呼吸が荒くなったり、嘔吐したり、便の失禁がみられたり、よだれを垂らしたりします。閉鎖性子宮蓄膿症では強い子宮収縮のために子宮破裂が発生することもあります。これは子宮内の膿が腹腔内に出ることになります。腹腔内感染は腹膜炎へと発展し、生命を脅かすほどの深刻な状態です。

3つめ。卵胞のう腫や卵巣腫瘍などの卵巣疾患を併発している場合(高齢の場合高頻度です)は効果が見られない場合もあります。

4つめ。細菌毒素の血中濃度が高い場合(腎不全が強く疑われます)は内科治療を行っても治療効果が表れる前に死んでしまうこともあります。

5つめ。若い犬に繁殖目的で使用した場合ですが、治癒に至っても次の発情後の「発情休止期」に高い確率で再発することがあります。また次の機会に再発がなかったとしても、そのまた次の機会にも再発することがあり、発情を繰り返すたびに再発率は高まります。

6つめ。再発した場合の治療は外科的な治療を選択せざるをえません。ですから数回の内科的治療は経済的に無駄になることがあります。もちろん危機的な状況を内科治療で回避し、持ち直してから外科治療に入るというのは順当な方法です。

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この治療の反応率について重要な統計がありますので示しておきます。

1.開放性子宮蓄膿症を治療するための成功率は7590%です。

2.閉鎖性子宮蓄膿症の場合はわずか2540%です。

3.再発率は5075%です。

4.次の繁殖の成功の可能性は5075%です。

 

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このように、外科的な治療も困難であり、内科的な治療にも多くの問題があるということで、どちらの選択にも迷いが生じることだろうと思います。

そこで、「もし、犬を治療しないとどうなるのか」という疑問にもお答えしておきます。

手術をせず、プロスタグランジン治療もしない場合の治癒は極めて低いです。無い、といっても過言ではありません。すみやかに治療を行わない場合は、細菌の出す毒素によって多くの場合、致死的結果になります。子宮頚管が閉鎖している場合は、子宮破裂の結果から子宮内の感染症を腹腔内にも広めることになるでしょう。まさに致命的です。

子宮蓄膿症は迅速な治療を必要とする深刻な病状です。

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犬の子宮蓄膿症・3

犬の子宮蓄膿症の3回目。


犬の子宮蓄膿症の臨床兆候はどのようなものでしょうか。
子宮頚管が開いたままなのか、それとも閉じているのか、によって兆候は異なります。

開いている場合、これを「開放性子宮蓄膿症」と呼んでいますが、子宮内の膿が膣を通じて外に排出されています。尻尾の裏側の毛や陰部周囲の毛に膿が付着し、汚れているのが分かります。犬が寝ている敷物や、居空間のお尻が触れる高さの家具などを汚すこともあります。発熱したり、動きが悪く、うつろな感じがしたり、食欲が低下したり無かったり、ということもありますが、これらが全く見られない場合もあります。

子宮頚管部が閉じている場合、これを「閉鎖性子宮蓄膿症」と呼んでいますが、閉じているために子宮内の膿は排出されていません。そのため腹部を膨張させることになります。もちろんこの膨らみの元は、膿を含んで膨れた子宮です。細菌が血液中に入り、毒素が体中に運ばれます。閉塞性子宮蓄膿症の場合は、開放性子宮蓄膿症に比べると症状が重篤です。それも急激に悪化していきます。非常にうつろな感じで(元気がない、と表現されることが多いと思います)、脱力し、食欲はほぼありません。嘔吐したり下痢を伴っていたりすることもあります。

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毒素(エンドトキシン)は細菌に由来するものです。子宮蓄膿症の原因となる細菌は大腸菌(
E. coli)のことがほとんどだと前回お話ししました。この細菌毒は腎臓に大きなダメージを与えます。尿を濃くする機能が失われた腎臓により、大量の尿が出ます。そしてそれを補うように大量の水を欲しがり飲水量が増加します。たくさん水を飲んで、大量の尿を出す症状は解放性子宮蓄膿症でも閉鎖性子宮蓄膿症でも見られる症状です。毒素を産生しない細菌(ストレプトコッカスStreptococcus sppやスタフィロコッカスStaphyrococcus sppなどのグラム陽性菌)の感染の場合は、臨床兆候が軽症のことがあります。

 

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子宮蓄膿症はどのように診断されるのでしょうか。

 

病気の経過のうち、初期段階で発見される場合ですが、一般身体検査で膣からのわずかなおりものを認める程度で、他の兆候を示さないことがあります。ところがこの時期に発見される犬は珍しく、ほとんどはもっと病気が進んでから連れてこられます。

「水をたくさん飲むようになった」として連れてこられる犬で、最近「熱っぽい感じがあった」という病歴がある場合、この犬が未避妊の雌犬であると私たちは子宮蓄膿症を疑うことになります。発情歴をお伺いします。膣からの分泌物があるとか、お腹を触ると嫌がるとか、腹囲が増したということがあるとなおさらです。

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血液検査では、通常、白血球が増加しています。総タンパク(TP)ことにグログリン(GLB)が上昇しています。

尿検査では、腎臓の毒性作用のため多飲になっているので尿比重が低下しています。

しかしこれらは「非特異的」な検査所見でほかの病気のときでもこのような数値を出すことはあります。

毒素による影響が強く出ている場合は、血中尿素窒素(BUN)値、クレアチニン(CRE)値、の上昇が認められます。毒素の血中濃度とBUN値やCRE値は相関関係にあることが知られていて、これらの値が高いことは腎機能の低下が強く疑われると同時に病気の予後も好ましくないことがみてとれます。

またC反応性たんぱく質(CRP)値も増加していることがほとんどです。

 

閉鎖性子宮蓄膿症の場合はX線検査で拡張した子宮を確認出来ます。開放性子宮蓄膿症の場合、最小の肥大した子宮を認めます。通常の腹部X線検査で子宮を見つけることはできません。

超音波検査では、拡張した子宮を特定することに有力です。また、この検査では正常な妊娠子宮との鑑別もできます。子宮の大きさ、子宮内部の流動物、子宮壁の厚みなども見ることができます。

 

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子宮蓄膿症が診断されたら、どのように扱われるのでしょうか。

 

最も好ましい治療は外科的に感染した子宮と卵巣を取り出すことです。これは正常な雌犬に行われる避妊手術と同じ手技によるものです。初期段階に診断され、手術される犬の予後は良好ですが、入院期間は一般の避妊手術よりは長くなるでしょう。

そのほか手術前後の状態を安定させるために(循環の確保や電解質、水分の安定)点滴が必要です。また抗生物質も細菌を殺すために必要です。

 

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犬の子宮蓄膿症・2

 犬の子宮蓄膿症の2回目。

犬の子宮蓄膿症はどのように発生するのでしょうか。ホルモン周期と合わせて説明します。

 

発情前期、発情期はおもにエストロジェンのホルモン支配を受けています。この時期は通常、感染に対して防御するように出来ています。エストロジェンには免疫増強作用があり、発情期には、膣粘液に白血球が多く含まれるようになり、細菌が子宮内に入るのを防いでいます。またこれは精子がこれらの細胞により傷つけられたり壊されたりせず、安全に生殖器から入ることを助けることにもなります。

発情期が終わると約2カ月続く発情休止期に入る、と先回ご説明しました。この時期はプロジェステロンの上昇している時期です。プロジェステロンの分泌されている期間は子宮内の白血球の機能は抑制されます。プロジェステロンの影響で妊娠や胎児の発育の準備のために子宮内膜は厚くなります。妊娠が発生しない場合、子宮内膜組織内に「のう胞」を形成するほどに暑さが増していることもあります。これは「のう胞性子宮内膜増殖症」などといわれる変化です。子宮腺からは液体が分泌されますが、これは細菌が増えるのにとても都合のいい環境です。プロジェステロンが高いまま維持されているので、子宮内にたまった液体や侵入してきた細菌を排出するための子宮壁の筋肉が収縮するのが阻害されます。なお子宮内に液体貯留がみられるのは「子宮水症」とか「子宮粘液症」とよばれます。液体の内容によって名前がちがいます。

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子宮への入り口には「子宮頚管」という壁が厚く、内径が狭いところがあります。これがいわゆる関門になっていて、発情期以外はしっかりと閉じられています。ここは発情期には精子が子宮内に入ることができるように緩和されます。子宮頚管が開いているか、緩んでいるようなときには膣内にある細菌が簡単に子宮内に入ることができます。子宮が正常であれば子宮内の環境は細菌の生存に有害なのですが、プロジェステロンによって子宮壁が厚くなりのう胞をためている子宮内は細菌の増殖のために好条件です。それに加えて、子宮液を排出する筋肉の働きが弱っているため、細菌は子宮外に排出されないことになります。

 

子宮蓄膿症の原因となる細菌ですが、膿液から検出される菌のほとんどは大腸菌(Escherichia coli)であることが知られています。健康的な子宮の中には細菌は存在しませんが膣内には大腸菌をはじめ多くの常在菌が存在することが分かっています。子宮蓄膿症は肛門や外陰部周辺、膣内の細菌が子宮頚管を通って子宮内に侵入して感染すると考えられています。

 

子宮蓄膿症はこのようにプロジェステロンが高濃度になっている「発情休止期」に発生しやすいので、通常は発情が終わった後、28週間あとに発生します。

 

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どのような犬が子宮蓄膿症を発症しやすいのでしょうか。

一般的には高齢犬に多発します。発症年齢の平均値は79歳ですが、若い犬では4カ月齢、高齢では16歳を超えることもあり、どのような年齢でも発症があることがわかります。

また、一度も出産をしたことのない犬は出産経験のある犬に比べて発生のリスクが高い、という報告があります。それでは何回出産経験があれば子宮蓄膿症を発症しないのだろうか、というと、これは資料がありません。

高齢の未経産の犬が発症しやすい背景には、犬がプロジェステロンの支配下にあった時期が長いからなのかもしれません。

しかし発症しにくくなるから、といって妊娠や出産をさせればこの病気にならないのだろう、という安易な考えに至るのは良くありません。交配、妊娠、出産、授乳にもそれぞれ犬に対するリスクがあるからです。

 

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まとめです。

犬の子宮蓄膿症の発生はホルモン的な要因が主になっていて、細菌感染は二次的な要因です。高齢や出産の経験がないことも発生に影響をおよぼす重要な要因になっています。なお交配の有無や偽妊娠を繰り返すこととの関係は不明です。

 

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犬の子宮蓄膿症・1

 犬の子宮蓄膿症について今週から4回連続でお話しします。

1.初めは犬の発情について。偽妊娠、乳腺の腫れについてもかるくふれておきます。

2.次が子宮蓄膿症の発生するしくみについて。

3.それからこの病気の臨床兆候と診断、治療について。

4.特別な治療として、内科的治療について。

以上の内容です。 

 

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それではまず犬の発情について。

雌犬の発情には脳下垂体や視床下部、卵巣などから分泌されるホルモンが関わっています。LHLuteinizing hormone:卵巣形成ホルモン)、FSHFollicle stimulating hormone:卵胞刺激ホルモン)、プロジェステロン、エストロジェンはお互いに関与していて、どれかの量が増え、どれかの量が減少する、という形で発情の周期をつくっています。一般にみなさんが「発情」というのは「発情前期」と「発情期」の両方を含んでいます。「発情前期」では外陰部が腫れて、陰部からの出血(正確には血のような分泌物です)がみられます。犬によっては陰部を気にして盛んに舐めています。この時期が終わるころ、雄を受け入れる体勢が出来てきます。続いて訪れる「発情期」には、お尻のあたりを刺激すると尻尾を横にそらし陰部が見えやすくなるような交尾許容という動作がみられるようになります。このころには分泌物の色合いが薄くなります。発情前期は平均9日前後、発情期は平均9日前後といわれています。

 

このあと来るのが「発情休止期」です。雄を許容しなくなるときからが始まりですけれど、はっきりした境目のころは分かりません。交尾すると「妊娠」し「分娩」するわけですが、「偽妊娠」に入ることもあります。すべてこの「発情休止期」に起こることです。約2カ月続きます。

 その後「無発情期」に入ります。平均すると45カ月続きます。


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「分断発情」というのがあります。いわゆる発情周期は6カ月ごとに来ることが知られていますが、発情期の直前になって突然発情期が止まってしまい、そのあと、24週間くらいするとまた発情前期が訪れます。交配適期を前に急に発情が終わってしまう、この現象を「あいざかり」というブリーダーさんもいます。このあと正常な周期が戻るので心配はいりません。

 

「発情期がだらだらと長く続く」のは卵巣機能に異常があります。卵巣のう腫や卵巣腫瘍などが心配ですからこちらの場合は動物病院で診察を受けてください。

 

そのほか、発情間隔が延長したり短縮したりすることもあります。不妊につながることが多いようです。

 

 

「偽妊娠」は妊娠しなかったものの、発情休止期のおわりごろに妊娠しているかのような様子が身体にみられることをいいます。こころなしかお腹が大きくなったように見えたり、お乳が膨らんで乳汁が分泌されます。小さな縫いぐるみを抱えて育児行為をすることもあります。たいていは23週間で消失します。犬では正常な反応です。

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追記>

乳房うっ積への対応について

たいていの飼い主さんは、愛犬のお乳が腫れてくると湿布をしたり、マッサージしたり、搾乳したりしてなんとか腫れを引かせようとするようです。また犬の方も気にしてさかんに舐めるようです。これらのことをすると、乳腺に「授乳をしている」のと同じ刺激が伝わるため、さらにお乳をつくり次の授乳に備えるようホルモン(プロラクチン)が働くことになります。乳腺の腫れが気になるかもしれませんが、こうしたことはやめてください。出来れば犬にも舐めさせないようにカラーをつけると良いでしょう。食事や飲水の制限をすると自然に引いていくこともあります。しかし乳房が腫れて熱を持っていたり、乳腺が赤や紫に色づいていたり、硬くなっていたり、犬が痛みを感じているようならば乳腺炎をおこしている可能性があります。また乳腺腫瘍でもこのような症状を表わすことがありますので、注意深く観察し、場合によっては動物病院へいらしてください。

 

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愛知県西尾市丁田町杢左51-3
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オフィシャルサイト:http://www.heart-ah.com/

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