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犬のクッシング症候群1

 今日から内分泌疾患(ホルモンの病気)についてお話していこうと思います。

クッシング症候群について、まだお話したことがなかったようです。

 

「お水をたくさん飲んで、お漏らししてしまう」、ということでナナちゃんが来院しました。ナナちゃん、未避妊の女の子です。「もう生理が終わるはずなんだけど、まだパンツが汚れちゃう」ということでした。診察をすすめていきますと子宮蓄膿症にクッシング症候群も併発していました。

では、そんなナナちゃんのお話から始めていきます。

 

<ナナちゃんのこと>

シーズのナナちゃん、8歳を超えたところです。お水をよく飲み、おしっこをたくさん出します。ときどきトイレのところまで間に合わなくて漏らしてしまうことがあります。

皮膚の、特にお腹のあたりの皮膚が薄くてぺらっとしています。おなかがぽっこり膨らんでいます。筋肉が薄くて太ももは脂肪でぽよっとした感じです。そしてハァハァ、ハァハァ、という浅い呼吸をしています。

血液検査では血糖値が高く、肝酵素(ALP)やコレステロール値も高くなっていました。

尿検査では尿糖は出ていません。ですが、ものすごく薄い尿です。

X線撮影すると、肝臓が大きいのが分かりました。膀胱もおしっこのために大きくなっています。

超音波検査で副腎を観察しました。少し大きめ、内部も白っぽく写りますが、シーズに特徴的にみられる奇形ではなさそうでした。

確定診断のための検査をするとクッシング症候群に特徴的なパターンをとりました。

ナナちゃん、卵巣と子宮を切除する手術を行いました。少々の貧血があるのでまだクッシング症候群のお薬が始められません。術後、しっかり回復するのを待っています。

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<クッシング症候群というのは>

さて、犬のクッシング症候群は、生体を維持するのに欠かすことができないホルモンであるコルチゾールが過剰に分泌された状態が続いた結果、筋肉などの組織が分解されたり、感染しやすくなったりなどの悪い影響が出てきてしまった病気です。

コルチゾールは副腎皮質から分泌されるホルモンですが、副腎皮質にコルチゾールを出すように命令しているのは下垂体のACTHというホルモンですし、また下垂体のACTHを出すように命令しているのは脳の視床下部から出るCRHです。クッシング症候群は下垂体のACTHが過剰に分泌されて発症するタイプ(下垂体性クッシング症候群:pituitary-dependent hyperadorenocorticism : PDH)と副腎腫瘍(adrenal tumorAT)によってコルチゾール分泌が過剰になるタイプがあります。ほとんど(90%くらい)はPDHATの割合は少ないですが、シーズやコーギにみられる第3のタイプ、副腎偶発腫もあります。

クッシング症候群は副腎から分泌されるホルモンの過多によるもの、ということで忘れてしまいがちなのですが、下垂体性クッシング症候群では下垂体にできた腫瘍による二次的な病気です。中には下垂体がものすごく大きくなってしまう場合があります。下垂体というのは脳の下にある組織で、脳からぶら下がっているように出ている小さな組織です。ここが大きく腫れてくると脳低部を圧迫して神経系の症状を出すこともあります。

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<症状は>

典型的な症状は、たくさん水を飲んでたくさんおしっこが出ることと皮膚の症状(皮膚が薄くなっていること、左右対称性の脱毛もあります、皮膚に黒っぽい色素が付いてしまったり、感染性の皮膚炎になりやすかったりします)、そしてお腹が膨らんでいること、ハァハァという短い呼吸(パンティングといいます)です。暑いわけでもないのに暑そうな呼吸です。

年齢は5歳から8歳以上のことがほとんどで、オスよりはメスによく発生がみられます。

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<検査のこと>

もしや、クッシング症候群では?という時に実施する検査があります。

血液検査は赤血球や白血球などの数を数える血算検査と生化学検査を行います。コルチゾールは骨髄を刺激して血液細胞を多く産生させる作用があります。また白血球の中でも細菌と闘うのが得意な好中球を多く産生させます。血糖値やアルカリフォスファターゼ、コレステロールなどが上昇することが多くみられます。

尿検査では主に比重の値に注目しています。また膀胱炎を併発していることが多いので膀胱炎をにおわす所見がないかどうかもチェックします。

X線検査で腹腔内の臓器のチェックを行います。膀胱や肝臓の大きさ、副腎が見てとれるほどに大きくなってはいないか、石灰沈着していることはないのかなどです。

超音波検査でも副腎や肝臓、膀胱などスクリーニングしていきます。

 

これらの検査を行っても、疑いがさらに色濃くなるだけで、確実にクッシング症候群だ、という診断には至りません。これまでの検査ではほかの病気でも数値が上昇したり、肝臓が大きくなっていたりすることがあるからです。

それで、確定診断のためには別の特殊な検査が必要になります。

 

 

長くなりました。専門的な検査と治療については次回に回します。

 

 

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クッシング症候群2

 クッシング症候群のお話の続きです。前回は症状と検査についてお話しました。

今日は専門性の高い検査と治療についてお話します。
 

<専門性の高い検査>

一番簡単なのが尿中コルチゾール・クレアチニン比(UCCR)を測定する検査です。朝一番のおしっこから判断します。この値が基準値の中にあればクッシング症候群ではない、ということが分かりますから、まずはここから実施するとお財布にやさしいかもしれません。

 

これで基準値以上の結果が出た場合はやはり疑いが濃くなります。けれど正常でも高値になる場合がありますので、UCCR検査だけではクッシング症候群とすることはできません。

次に行う検査はACTH刺激試験です。下垂体から出るACTHホルモンを人為的に過剰に注射し、副腎がそれにどう反応するのかを見るものです。クッシング症候群であればACTHを投与した後のコルチゾール値(副腎から分泌されるホルモン)は一般より高く出るはずです。注射前後の2回の採血で検査を行います。検査は外注ですので後日結果が判明するわけですが、検査当日は半日で済みます。

 

残念なことにこの検査でも100%確実に分かるわけではありません。臨床症状からは十分に疑わしいのにこの検査結果からは陰性またはグレーゾーンで出てくる時もあります。そうなるとさらに次の検査を実施する必要が出てきます。

低用量デキサメサゾン抑性試験(LDDST)というものです。正常な視床下部→下垂体→副腎の機能がある動物であれば、生理的な作用を発する程度(低い用量)のグルココルチコイドを投与すると、視床下部や下垂体に作用して下垂体のACTH分泌を抑制し、結果として副腎から分泌されるコルチゾール値が低下するはず、という理論です。クッシング症候群では生理的に抑える仕組みは破たんしているため、最終のコルチゾール値は低くなりません。

このような検査をしてもなかなかはっきりと分からないこともあり、さらなる検査が続いてしまうこともあります。

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<検査の限界について>



内分泌疾患(ホルモンの病気)ではクッシング症候群に限らず、ホルモン値を分析しても100%の感度や特異度である完全な検査項目もありません。ほとんどのホルモンの分析は検査機関に委託する必要があり、費用も高価で、1項目だけでなく複数の分析をする必要があります。また結果を解釈するに当たって、私たちが「グレーゾーン」と呼んでいる範囲があり、それは正常値と異常値の範囲が重なるためなのですが、それで「その疾患であると確定する」でもなく「その疾患ではない」と言い切れるわけでもない数値が存在します。また、検査の値が正常値であっても病気が疑われる場合もあります。

★感度:この病気に罹っているのに罹っていないという検査結果が出てしまうことがある(見逃し)。罹っているものをきちんと罹っていると判断する検査が感度100%です。

★特異度:この病気に罹っていないのに罹っているという検査結果が出てしまうことがある(擬陽性)。罹っていないものは検査で陽性と出さないことが特異度100%です。




 下垂体性クッシング症候群であることが判明した場合、元の病変が下垂体の腫瘍によるものなので、きっちり見ておきたいと考える場合(理想的には)、頭部の画像診断(MRICT)で下垂体の大きさを見ておくのがよいということをお伝えしておきます。必ずしておきましょう、ということではありません。

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<治療のこと>

下垂体性クッシング症候群の治療は内科療法(お薬を投与してもらいます)、放射線療法(下垂体に照射します)、外科療法(下垂体の腫瘍を摘出するものです)の3つがあります。ほとんどの場合、お薬を飲ませる内科療法になることが多いと思います。しかし原因のおおもとは下垂体にできた腫瘍ですので、内科療法は最終段階のところだけ手を付けているにすぎないことを頭の隅にとどめておかないといけません。

 

内科的療法の中心になるのはトリロスタンというお薬です。動物用のお薬があります。ステロイドホルモンの合成を抑制する働きがあります。すぐに効果が表れ、重い副作用もないことから、これまで使われてきたミトタンにとってかわりました。

それでも副作用は皆無ではありません。心臓や腎臓、肝臓が悪いことが分かっている時、膵炎があるとき、貧血があるときには使いません。また僧帽弁閉鎖不全症のときに使われるACE阻害薬や特定の利尿薬との併用もできません。元気や食欲がなく、だらっとしたり、身体を震わせたり、嘔吐や下痢などが見られたときは、次の回の投薬は中止し、すぐに病院にいらしてください。

 

トリロスタンによる内科療法の目的はクッシング症候群に見られる不都合な症状(たくさん水を飲んで尿量が増えたり、皮膚の調子が悪かったり、運動をしなくなったり、ハァハァ呼吸が見られたりなど)をなくし、元気に生活し食欲もしっかりあることです。検査の数値が高くても症状が安定しているようでしたら、無理にお薬を投与することはしなくてもいい、という考えの先生もいらっしゃいます。私もその意見に賛成です。薬を投与することに神経を集中させるのではなく、検査結果の数値から頻繁に投与量や投与回数を上げ下げするのでもなく、しっかり犬の状態を見ることを大事にしたいですね。

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<おわりに>

トリロスタンはとても高価なお薬です。個人輸入で安価なお薬を入手しようという考えの方もいらっしゃると思いますが、個人で扱うには大変危険な薬です。定期的なフォローアップ検査を実施するのも、現在の投与量が多すぎていないだろうか、しっかり効いているのだろうか、という問いの答えを求めてのことです。個人の判断で間違った投与をするなど、間違った方向へ暴走しないようにくれぐれもお願いいたします。また、ミトタンの方が確かに安価ではありますが、トリロスタンに比べコントロールが難しいお薬ですから、トリロスタンで効果が得られなかった場合を除いては、おすすめではありません。

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クッシング症候群とお薬

クッシング症候群に使うお薬に欠品情報が出て、ドタバタしました。
クッシング症候群は、腎臓近くにある小さな組織である「副腎」で作られる「コルチゾール」というホルモンが過剰に分泌されて起こる病気です。犬のホルモン系の病気というと、知名度が高いのは糖尿病ですが、発生割合は糖尿病より多いかもしれません。8歳を超える高齢犬、オスよりもメスに多く見られる傾向があります。
今回はさらっと概要についておはなししてから、お薬にまつわる注意について追加します。

<見過ごされているかもしれない!>
クッシング症候群の症状は
① 水をたくさん飲む、オシッコの量や回数が多い
② 食欲が旺盛、食事量が多い
③ 皮膚が薄い、脱毛部がある
④ お腹がふっくら、ぷっくり膨れている
⑤ 動くのがキライ
⑥ いつもハァハァ、暑そうな呼吸をしている
などです。
全部の症状が必ず発生するわけではありません。この中で一つ二つでも「えっ!うちの子、そうかも!」と思われる節があったら検査をおすすめします。
「太っているからこんなもんだと思っていた」、というのはよくあるケースです。「こういう病気だから、お腹もでっぷりし、それなのに食欲は止まるところを知らなかったんだ」、「肥満なんじゃなかった」、というのがあります。

<どうして起こるのか>
原因の多くは「下垂体の腫瘍」ができていることです。脳にある下垂体から「コルチゾールの分泌を促すホルモン」が出ていますが、ここに腫瘍ができると過剰なホルモン分泌がおこります。それによって副腎から「コルチゾール」がたくさん分泌されます。
もう一つの原因は「副腎の腫瘍」です。副腎が大きくなって「コルチゾール」が過剰に分泌されます。
どちらが原因になっているのかは特別な血液検査で判断が可能です。グレーゾーンというどちらとも判断がむずかしいこともありますが、下垂体腫瘍が原因のことが多いです。

<手術とお薬>
治療は薬による内科的な治療と、手術により腫瘍を摘出する外科的な治療、放射線治療など選択が可能です。根治的な治療というと外科療法です。けれど非常に専門的な手術で難易度も高く、内科的な治療を選択される方が大半です。内科的な治療は、症状を緩和することが目的です。原因となる腫瘍はそのままになっているので、徐々に腫瘍が育って大きくなる日がやがて来ることは頭の隅にとどめておかなくてはいけません。

<お薬をのむときの注意>
このお薬(トリロスタン)をのむと、これまで盛んにお水を飲んでたくさん排尿していたのが、落ち着いてきます。水を飲む量も食事の量も適切になって、排尿量も減少します。これはそのまま循環する血液の量を減少させることですから、投薬量が身体に合っていないときは低血圧になってしまうことが考えられます。
また、心臓病や腎臓病のときのお薬の一部と併用すると、血液の電解質バランスが乱れ、腎臓から排泄されるべき窒素代謝物が滞って高窒素血症になってしまう可能性もあります。
お薬を飲み始めたら、定期的に血液検査を行ない、具合が悪くなっていないか、適正量でコルチゾール値をコントロールできているかどうかをチェックしましょう。

<モニタリング>
犬の状態にもよりますが、不安定な時期は2週間ぐらいで診察に来ていただきたいです。安定期であれば6週間くらい開けても大丈夫かと思います。
お家では活動的になっているか、飲水量、尿量、食欲の変化がどうなのかお伺いします。病院では皮膚の様子、体型に改善があるか、呼吸様相はどうかなどチェックします。
毎回ではありませんが、血液検査(電解質や腎機能項目)を実施するときに、血中のコルチゾール値を確かめることがあります。薬の量や投与回数が今の状態に合っているかどうかを確認したいのです。長期に渡って薬を飲んでいくと、薬に対する感受性が変化して、クッシング症候群の症状が再発したり、反対に副作用を現したりすることがあるためです。

<副作用>
クッシング症候群のお薬の副作用は、副腎の機能低下であるアジソン病と同じです。
① 元気がない
② 食欲がない
③ 脱力して動けない
④ 身体が震える
⑤ 嘔吐する
⑥ 下痢になる
⑦ 血便が出る
などの症状が出てきます。
副作用が出てしまったら、すぐに病院に駆けつけていただくか、または緊急用のプレドニゾロンを服用させてください。クッシング症候群のお薬は数日お休みにします。症状が軽ければ休薬するだけで1日か2日もすると状態が安定してきます。
そして薬の再開は慎重に行ないます。半分くらいにすることもあるし、もっと少なめの量から再スタートすることもあります。診察により、決定いたします。

<ストレスに弱くなる>
クッシング症候群のお薬で、からだはストレスに対処するのが難しい状況になっています。ペットホテルに預けに行く、トリミングに出かける、激しい運動を行なう、別の病気を併発した、入院が必要になったなどの場合、「うちのこ、ストレスに弱い!」とわかっているときは、1日とか2日前からお薬を控えます。そしてストレスのかかるイベントが終了したら薬を再開してください。
万が一、ストレス状況に陥った場合に備えて、ストレス対応ができるステロイドのお薬を持っていると安心かもしれません。


今日はクッシング症候群と、その治療薬、トリロスタン服用に際しての注意についてお話ししました。まだお薬は潤沢な流通という段階には至っていないようです。いつもと違うお薬になることも予想されます。ご迷惑をおかけいたしますがよろしくお願いします。

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ハート動物病院です。
〒445-0062
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オフィシャルサイト:http://www.heart-ah.com/

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