クッシング症候群2

 クッシング症候群のお話の続きです。前回は症状と検査についてお話しました。

今日は専門性の高い検査と治療についてお話します。
 

<専門性の高い検査>

一番簡単なのが尿中コルチゾール・クレアチニン比(UCCR)を測定する検査です。朝一番のおしっこから判断します。この値が基準値の中にあればクッシング症候群ではない、ということが分かりますから、まずはここから実施するとお財布にやさしいかもしれません。

 

これで基準値以上の結果が出た場合はやはり疑いが濃くなります。けれど正常でも高値になる場合がありますので、UCCR検査だけではクッシング症候群とすることはできません。

次に行う検査はACTH刺激試験です。下垂体から出るACTHホルモンを人為的に過剰に注射し、副腎がそれにどう反応するのかを見るものです。クッシング症候群であればACTHを投与した後のコルチゾール値(副腎から分泌されるホルモン)は一般より高く出るはずです。注射前後の2回の採血で検査を行います。検査は外注ですので後日結果が判明するわけですが、検査当日は半日で済みます。

 

残念なことにこの検査でも100%確実に分かるわけではありません。臨床症状からは十分に疑わしいのにこの検査結果からは陰性またはグレーゾーンで出てくる時もあります。そうなるとさらに次の検査を実施する必要が出てきます。

低用量デキサメサゾン抑性試験(LDDST)というものです。正常な視床下部→下垂体→副腎の機能がある動物であれば、生理的な作用を発する程度(低い用量)のグルココルチコイドを投与すると、視床下部や下垂体に作用して下垂体のACTH分泌を抑制し、結果として副腎から分泌されるコルチゾール値が低下するはず、という理論です。クッシング症候群では生理的に抑える仕組みは破たんしているため、最終のコルチゾール値は低くなりません。

このような検査をしてもなかなかはっきりと分からないこともあり、さらなる検査が続いてしまうこともあります。

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<検査の限界について>



内分泌疾患(ホルモンの病気)ではクッシング症候群に限らず、ホルモン値を分析しても100%の感度や特異度である完全な検査項目もありません。ほとんどのホルモンの分析は検査機関に委託する必要があり、費用も高価で、1項目だけでなく複数の分析をする必要があります。また結果を解釈するに当たって、私たちが「グレーゾーン」と呼んでいる範囲があり、それは正常値と異常値の範囲が重なるためなのですが、それで「その疾患であると確定する」でもなく「その疾患ではない」と言い切れるわけでもない数値が存在します。また、検査の値が正常値であっても病気が疑われる場合もあります。

★感度:この病気に罹っているのに罹っていないという検査結果が出てしまうことがある(見逃し)。罹っているものをきちんと罹っていると判断する検査が感度100%です。

★特異度:この病気に罹っていないのに罹っているという検査結果が出てしまうことがある(擬陽性)。罹っていないものは検査で陽性と出さないことが特異度100%です。




 下垂体性クッシング症候群であることが判明した場合、元の病変が下垂体の腫瘍によるものなので、きっちり見ておきたいと考える場合(理想的には)、頭部の画像診断(MRICT)で下垂体の大きさを見ておくのがよいということをお伝えしておきます。必ずしておきましょう、ということではありません。

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<治療のこと>

下垂体性クッシング症候群の治療は内科療法(お薬を投与してもらいます)、放射線療法(下垂体に照射します)、外科療法(下垂体の腫瘍を摘出するものです)の3つがあります。ほとんどの場合、お薬を飲ませる内科療法になることが多いと思います。しかし原因のおおもとは下垂体にできた腫瘍ですので、内科療法は最終段階のところだけ手を付けているにすぎないことを頭の隅にとどめておかないといけません。

 

内科的療法の中心になるのはトリロスタンというお薬です。動物用のお薬があります。ステロイドホルモンの合成を抑制する働きがあります。すぐに効果が表れ、重い副作用もないことから、これまで使われてきたミトタンにとってかわりました。

それでも副作用は皆無ではありません。心臓や腎臓、肝臓が悪いことが分かっている時、膵炎があるとき、貧血があるときには使いません。また僧帽弁閉鎖不全症のときに使われるACE阻害薬や特定の利尿薬との併用もできません。元気や食欲がなく、だらっとしたり、身体を震わせたり、嘔吐や下痢などが見られたときは、次の回の投薬は中止し、すぐに病院にいらしてください。

 

トリロスタンによる内科療法の目的はクッシング症候群に見られる不都合な症状(たくさん水を飲んで尿量が増えたり、皮膚の調子が悪かったり、運動をしなくなったり、ハァハァ呼吸が見られたりなど)をなくし、元気に生活し食欲もしっかりあることです。検査の数値が高くても症状が安定しているようでしたら、無理にお薬を投与することはしなくてもいい、という考えの先生もいらっしゃいます。私もその意見に賛成です。薬を投与することに神経を集中させるのではなく、検査結果の数値から頻繁に投与量や投与回数を上げ下げするのでもなく、しっかり犬の状態を見ることを大事にしたいですね。

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<おわりに>

トリロスタンはとても高価なお薬です。個人輸入で安価なお薬を入手しようという考えの方もいらっしゃると思いますが、個人で扱うには大変危険な薬です。定期的なフォローアップ検査を実施するのも、現在の投与量が多すぎていないだろうか、しっかり効いているのだろうか、という問いの答えを求めてのことです。個人の判断で間違った投与をするなど、間違った方向へ暴走しないようにくれぐれもお願いいたします。また、ミトタンの方が確かに安価ではありますが、トリロスタンに比べコントロールが難しいお薬ですから、トリロスタンで効果が得られなかった場合を除いては、おすすめではありません。

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犬のクッシング症候群1

 今日から内分泌疾患(ホルモンの病気)についてお話していこうと思います。

クッシング症候群について、まだお話したことがなかったようです。

 

「お水をたくさん飲んで、お漏らししてしまう」、ということでナナちゃんが来院しました。ナナちゃん、未避妊の女の子です。「もう生理が終わるはずなんだけど、まだパンツが汚れちゃう」ということでした。診察をすすめていきますと子宮蓄膿症にクッシング症候群も併発していました。

では、そんなナナちゃんのお話から始めていきます。

 

<ナナちゃんのこと>

シーズのナナちゃん、8歳を超えたところです。お水をよく飲み、おしっこをたくさん出します。ときどきトイレのところまで間に合わなくて漏らしてしまうことがあります。

皮膚の、特にお腹のあたりの皮膚が薄くてぺらっとしています。おなかがぽっこり膨らんでいます。筋肉が薄くて太ももは脂肪でぽよっとした感じです。そしてハァハァ、ハァハァ、という浅い呼吸をしています。

血液検査では血糖値が高く、肝酵素(ALP)やコレステロール値も高くなっていました。

尿検査では尿糖は出ていません。ですが、ものすごく薄い尿です。

X線撮影すると、肝臓が大きいのが分かりました。膀胱もおしっこのために大きくなっています。

超音波検査で副腎を観察しました。少し大きめ、内部も白っぽく写りますが、シーズに特徴的にみられる奇形ではなさそうでした。

確定診断のための検査をするとクッシング症候群に特徴的なパターンをとりました。

ナナちゃん、卵巣と子宮を切除する手術を行いました。少々の貧血があるのでまだクッシング症候群のお薬が始められません。術後、しっかり回復するのを待っています。

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<クッシング症候群というのは>

さて、犬のクッシング症候群は、生体を維持するのに欠かすことができないホルモンであるコルチゾールが過剰に分泌された状態が続いた結果、筋肉などの組織が分解されたり、感染しやすくなったりなどの悪い影響が出てきてしまった病気です。

コルチゾールは副腎皮質から分泌されるホルモンですが、副腎皮質にコルチゾールを出すように命令しているのは下垂体のACTHというホルモンですし、また下垂体のACTHを出すように命令しているのは脳の視床下部から出るCRHです。クッシング症候群は下垂体のACTHが過剰に分泌されて発症するタイプ(下垂体性クッシング症候群:pituitary-dependent hyperadorenocorticism : PDH)と副腎腫瘍(adrenal tumorAT)によってコルチゾール分泌が過剰になるタイプがあります。ほとんど(90%くらい)はPDHATの割合は少ないですが、シーズやコーギにみられる第3のタイプ、副腎偶発腫もあります。

クッシング症候群は副腎から分泌されるホルモンの過多によるもの、ということで忘れてしまいがちなのですが、下垂体性クッシング症候群では下垂体にできた腫瘍による二次的な病気です。中には下垂体がものすごく大きくなってしまう場合があります。下垂体というのは脳の下にある組織で、脳からぶら下がっているように出ている小さな組織です。ここが大きく腫れてくると脳低部を圧迫して神経系の症状を出すこともあります。

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<症状は>

典型的な症状は、たくさん水を飲んでたくさんおしっこが出ることと皮膚の症状(皮膚が薄くなっていること、左右対称性の脱毛もあります、皮膚に黒っぽい色素が付いてしまったり、感染性の皮膚炎になりやすかったりします)、そしてお腹が膨らんでいること、ハァハァという短い呼吸(パンティングといいます)です。暑いわけでもないのに暑そうな呼吸です。

年齢は5歳から8歳以上のことがほとんどで、オスよりはメスによく発生がみられます。

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<検査のこと>

もしや、クッシング症候群では?という時に実施する検査があります。

血液検査は赤血球や白血球などの数を数える血算検査と生化学検査を行います。コルチゾールは骨髄を刺激して血液細胞を多く産生させる作用があります。また白血球の中でも細菌と闘うのが得意な好中球を多く産生させます。血糖値やアルカリフォスファターゼ、コレステロールなどが上昇することが多くみられます。

尿検査では主に比重の値に注目しています。また膀胱炎を併発していることが多いので膀胱炎をにおわす所見がないかどうかもチェックします。

X線検査で腹腔内の臓器のチェックを行います。膀胱や肝臓の大きさ、副腎が見てとれるほどに大きくなってはいないか、石灰沈着していることはないのかなどです。

超音波検査でも副腎や肝臓、膀胱などスクリーニングしていきます。

 

これらの検査を行っても、疑いがさらに色濃くなるだけで、確実にクッシング症候群だ、という診断には至りません。これまでの検査ではほかの病気でも数値が上昇したり、肝臓が大きくなっていたりすることがあるからです。

それで、確定診断のためには別の特殊な検査が必要になります。

 

 

長くなりました。専門的な検査と治療については次回に回します。

 

 

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