副腎皮質機能低下症・3

 副腎皮質機能低下症のお話の3回目、今日でおしまいにしたいと思います。

安定期に入ってからの治療と継続についてお話します。

 

<維持期の治療>

晴れて点滴から脱却できるのは、自分で起き上がって水を飲んだり、食事をとったりできるようになってからです。

こうなったらあとはお薬を飲んでいただきます。

 

この薬は長期の管理に必要な薬です。投薬している間に病気が治って薬が不要になることはありません。

 

①ミネラルコルチコイドの補給をします。

 酢酸フルドロコルチゾン、商品名フロリネフを使います。

 このお薬にはグルココルチコイド作用もあります。

 12回の内服投与です。

 大変高価なお薬です。が、代用できる他の薬はありません。

②グルココルチコイドの補給をします。

 ヒドロコーチゾンです。プレドニゾロンを使うこともあります。

 フロリネフのグルココルチコイド作用では不足するときに併用します。

 安価なお薬です。

 こちらだけで維持したくなるかもしれませんが、ミネラルコルチコイド作用がないのでだめなのです。

 フロリネフだけで大丈夫な場合でも、ストレスが予想される状況になることが分かっている場合、ショック状態にならないよう予防策としてこの薬を常備しておくと安心です。

 

海外ではミネラルコルチコイドの注射薬があります。ピバル酸デソキシコルチコステロン(DOCP)です。約25日効果が続くとされています。25日に1回病院に来てもらって注射をするという、とても楽で良さそうだなぁ~という治療法ですが、おすすめはしません。微妙に必要量が変わってくるかもしれないミネラルコルチコイドの補充量をこまめに変化させることができるのは毎日の投薬しかないからです。

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<治療がうまくいっているかどうか>

モニタリングが必要です。

飼い主さんに日常チェックしていただきたい項目があります。一つは薬の量が少なすぎるかもしれない時にあらわれる症状で、投与前の症状の再来になります。

①食欲がなくなる。

②飲水量が減ってくる。

③無気力で元気がない。運動ができない。震える。

④嘔吐や下痢。

 

もうひとつは薬の量が多すぎるかもしれない時にあらわれる症状で、クッシング症候群に似た症状を現わします。

①水をたくさん飲む、尿量が増える。

②たくさん食べる。

③はぁはぁ、パンティング呼吸をする。

 

病院でおこなうモニタリングは、体重のチェックや臨床症状の変化、そして血液検査です。とくにナトリウムやカリウムについてはしっかりみていきますが、検査の値そのものに従って薬の量を調整するというよりは身体のコンディションをしっかりみることに重きをおきたいと思います。

また薬については、高い薬でもあるので、必要最小限を保つようにしていきたいと思います。

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<寿命は短くなるのでしょうか>

適切なホルモン補充療法を行い、クリーゼを繰り返さないようにすれば予後は決して悪くなく、寿命をまっとうすることのできる病気です。

生涯にわたって、お薬とお付き合いする必要があります。

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<おわりに>

今まで飲ませなくても大丈夫だったんだし、高い薬というのは怖い作用があるのかもしれないから、先生は12回と指示してくれたけど、2日に1回くらい飲ませるだけでも行けるんじゃないか。あんまりたくさん飲ませるといけないんじゃないか。そう思ってしまわれる方がおられます。この薬は元気な犬では身体から作られ、自然に全身を流れているホルモンです。正しく使用していれば危険なものではありません。指示どおりに飲んでいただかないと、アジソンクリーゼをおこす危険があります。アジソンクリーゼに陥らないように維持していくことが大切です。

それから、投薬することに積極的な飼い主さんでも、なんとか少しでも安価な薬を手に入れたい、ということで個人輸入をお考えの方もいらっしゃるかと思いますが、マークのつくほどのお薬です。絶対におすすめしません。薬の値段の差に負けて、いつでも相談ができ愛犬の身体を理解してくれる主治医を喪失してしまうのはあまりにも浅はかなことだと思います。副腎機能不全は死に至る危険のある病態ですし、過剰投与による副作用についてもしっかり把握していただいたうえで、賢明な判断をされることを切に望みます。

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副腎皮質機能低下症・2

犬の副腎皮質機能低下症のおはなしの2回目です。

どのように診断が導かれていくのか、検査について、それから急性期の治療についてお話します。

 

<診断に向けて>

副腎皮質機能低下症は「とんだ食わせ物!」というあだ名の付いている病気です。決め手の無い症状で悪い、良いを繰り返し、診断がつかないまでも対症療法を行うとなんとなく治ってしまうという「身をくらます」術にたけている病気だからです。ぐずぐずしていたのに、なんとなく治ってしまった。だけどまた、あの時と同じような症状が今日も。腸炎?膵炎?心臓循環器系の不具合?疲れやすい肝臓性?心理的なさびしがり屋さん?いろいろと悩ませてくれます。

 

血液検査や腹部のレントゲン検査、尿検査などを行います。

血球の検査では貧血がみられ、白血球のバランスも通常と異なってきます。

血液生化学検査では低血糖や高窒素血症、低コレステロールや低アルブミン血症などが出てきます。

電解質はとても特徴的なパターン、低ナトリウム、高カリウムを示します。

血液の電解質異常が飛びぬけて異常値が出た場合は副腎皮質機能低下症を疑い、次の検査に進みます。

電解質異常が認められない非定型アジソンの場合は、それまでの病歴や臨床症状から疑いをもつことになります。

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ACTH刺激試験>

クッシング症候群のときにも行う検査です。この検査が確定診断につながります。

正常な状態ならばACTHの注射をするとコルチゾールの分泌が増えます。

副腎皮質機能低下症の場合は、ACTHの注射をする前も後も、コルチゾールの値が検出できるかどうかくらい低い値です。なにせコルチゾールを分泌する場所が壊れているのですからACTHに刺激されようがされまいが、このホルモンが作られようがありません。

同時にアルドステロンも検査にかけますが、こちらも注射前、後ともに低い値で出てきます。

 

残念なことに、外部の検査機関に委託して行う検査のため、すぐに結果が出るわけではありません。治療の進行に伴い、もしや、と思って行った治療がうまく反応しているから、きっとそうだろうなぁ、と思っている頃に結果が返ってきて、「あぁ、やっぱりそうだった。」となるわけです。

 

 

副腎皮質機能低下症を疑う犬がショック状態で来院した時はびっくりして、えっさか、わんさか検査や治療を進めていきます。とても落ち着いた雰囲気ではないことが多いです。それはこの「アジソンクリーゼ」(hypoadrenal crisis)と私たちが呼んでいるショック状態が死に直面しているからです

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<急性期の治療>

そんなショック状態で来院されたときは集中的な治療が必要です。

治療は

①輸液で脱水を改善すること。

②循環血液量を増やしてショック状態から脱却させること。

③電解質や酸塩基平衡を正しいバランスにもどすこと。

④欠乏状態にあるホルモンを補充すること。

を目的に行います。

 

①②③の目的を達成させるのは点滴です。

 高くなっているKを含まず、Naを含む輸液剤を選びます。

 常に低Naの状態が続いている身体に、高い濃度のNaを含んだ輸液剤を急激に入れると脳に障害をおこしてしまう危険があるのでいくつかの輸液剤を混合して調整することが多いです。

 低血糖がひどい時にはブドウ糖を入れます。

 アシドーシスの状態が進んでいる時には身体をアルカリ性に傾ける作用のある薬を入れます。

④のためにグルココルチコイドを注入します。

 合成副腎皮質ホルモンの中で、静脈内に注入できるものがあります。これを使います。

 ACTH刺激試験の途中にある場合はデキサメサゾンを、検査後はヒドロコルチゾンを使います。

検査の値に影響されないようにするためです。

そしてあとは尿量などをモニターしながら反応を待ちます。

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こんな状況なので、「お命、お預かりします」ということで入院治療になります。ほんとうに、ここの状態をクリアーしないと次がありません。ひたすら、「がんばって!治療に反応してよ!」と祈りながら治療をすすめています。

 

ここまでひどいショック様でない場合でも循環血液量が少なく脱水気味で高窒素血症を示しているようなときはアジソンクリーゼを予防する目的で同様の治療を行います。自力で水を飲み食事を食べられるのかどうかにより内服治療で済むのか、点滴治療を進めなければいけないのかが決まります。

 

 

今日のお話はここまでです。

次回は急性期を乗り越え、安定してからどのような治療を行うのかについてお話します。

 

    

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副腎皮質機能低下症

 内分泌疾患のお話が続いていますが、実は同じ時期に内分泌疾患の初診さんが続いたのです。

クッシング症候群のナナちゃん、甲状腺機能亢進症のチャコちゃんのお話を続けてきました。

今日はもうひとりの患者さん、リリーちゃんです。彼女は副腎皮質機能低下症でした。

 

今日は副腎皮質機能低下症についてお話します。

 

 

<リリーちゃん>

リリーちゃんは3歳の女の子。きれいにテディベアカットされている細身体型のトイプードルさんです。

「食べないんです。なんか、ぶるぶる震えるんです。1回もどしてました。ウンチはいいウンチが出てるんだけど、なんかお腹が痛いのかな、おかしいんです。」

って連れてこられました。

触診してもお腹を硬くすることはないし、体温測定しても高くもないし。一般身体検査では問題になるところが見つかりません。何でしょう?膵臓の具合でも悪いのかしら?胆のう炎なんてことがあるかしら?未避妊だから子宮蓄膿症にでもなっちゃったのかな?

血液検査をさせてもらうことにしました。少々の高窒素血症がありました。ですが電解質が異常値です。それもびっくりするくらいの。

あれれ?腎臓関連かしら?

尿検査もさせてもらいました。尿比重が低く、薄いおしっこが出ていることが分かりました。

チチーちゃん、ホルモン関連の検査をさせていただくことにし、同時に点滴治療も始めました。

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<はじめに>

副腎は腎臓の近くにある小さな臓器です。副腎の機能は皮質機能と髄質機能に分かれています。副腎皮質の機能は生命維持に欠かすことができないもので、ここからは糖質コルチコイド(グルココルチコイド)と鉱質コルチコイド(ミネラルコルチコイド)、あとは生殖にあまり大きく影響しない性ホルモンが分泌されています。副腎皮質は3層構造でできていますがグルココルチコイドが分泌される層とアルドステロンとも呼ばれるミネラルコルチコイドが分泌される層は違う場所です。

グルココルチコイドの分泌は視床下部(CRH)→下垂体(ACTH)→副腎皮質という経路のホルモン支配により制御を受けています。

アルドステロンの分泌は腎臓内にある傍糸宮体装置(ぼうしきゅうたいそうち)から出るレニンの刺激から始まるレニン・アンギオテンシン・アルドステロン系(RAA系)によって制御されています。

 

副腎皮質機能低下症は1855年にDr. Thomas  Addisonによって初めて人の病気として報告されました。この病気がアジソン病といわれるのはここから来ています。

「副腎皮質機能低下症=アジソン病」という風に思われていることがあるようですが、副腎皮質機能低下症にはグルココルチコイドとミネラルコルチコイドの両方が不足するアジソン病のほか、片方の分泌能が残っている別の病態があり、これらは非定型アジソン(グルココルチコイドだけが不足する)、選択的低アルドステロン症(ミネラルコルチコイドだけが不足する)と呼ばれています。また、ほとんどは副腎皮質の障害により発生した原発性ですが、下垂体からのACTH欠乏による二次性や医原性(投与した薬の影響による)に発生する場合もあります。

非定型アジソンの場合はやがてミネラルコルチコイドも欠乏してくるといわれています。

原発性の副腎皮質機能低下症の原因は免疫介在性の破壊です。それで壊される層がどこなのかによって不足してくるホルモンに違いが出てきます。

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<この病気の傾向>

この病気に罹った犬に共通点があるかどうかを調べたものがあります。

若齢から中年の犬に多く発症していました。80%以上が7歳以下で平均年齢は5歳という報告があります。

メス犬に多い傾向もありました。70%がメス犬だったという報告があります。

日本での好発品種はトイプードル、パピヨンなどです。

 

 

<過去の病歴があります>

ある日突然ぐったりしてショック状態で連れてこられることがほとんどなのですが、たいていは前の日に興奮するなどしたエピソードを持っています。嬉しくてはしゃいだ、ということのほかストレスのかかる事件があったなども入ります。

よくよく伺っていくうちに、これまでの間に調子が悪くなったり、また良くなったりということを繰り返してきていたことが分かります。そうこうしながら、悪くなったときのレベルがひどくなってきているようです。

この病気を発症する犬たちに共通しているのは太っていないこと。

痩せてスマートな犬たちです。

 

過去に調子が悪くなったときの症状ですが

①食欲がなかった。

②嘔吐してた。

③下痢をした。

④なんとなく力がなかった。元気がなかった。

⑤お腹を痛そうにしてた。

⑥ぶるぶる震えていた。

⑦ぐったりしていた。    などです。

 

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<来院時にはこんな症状がみられます>

①おとなしい。とても静か。不安そう。

ぐったりしている時もあります。

②筋力がなくなっています。

ふるえがあるときがあります。

③脱水しています。

④脈が弱く、またスローです。

⑤下痢。血便になっていることがあります。

⑥お腹を痛そうにしています。

⑦ショック状態になっていることもあります。

低体温のときがあります。



それで、とてもびっくりして、検査と同時に治療の準備も始めていきます。




 今日のお話はここまでです。

次回は診断に向けての検査についてお話していきます。

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〒445-0062
愛知県西尾市丁田町杢左51-3
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オフィシャルサイト:http://www.heart-ah.com/

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