脱水と熱中症・熱中症予防

「脱水」が「水」だけが不足しているのではなくて「電解質」も不足している状態なのだというのは、もうお分かり頂いていると思います。

脱水するとからだはどのようになるのか、そこからどうして「熱中症」につながるのかお話しします。

 

 <脱水すると血液の量が減ります>

血管の中をめぐる水分の減少は血圧の低下につながります。すると肝臓や消化器系組織(胃腸など)をめぐる血液量が減ります。必要な栄養素を吸収する力に欠けるだけでなく、食欲不振になります。脳に行く血液量が減ると考えることをしたくなくなります。腎臓をめぐる血液が減ると老廃物の排泄が滞ります。同時に電解質も減りバランスが崩れると神経や筋肉に影響が出てきます。やる気が起こらない脱力につながります。

これらをそのまま自分のからだに置き換えると、「食欲がなくて、なんだか疲れたような感じ」です。「夏バテ」かしら、と思う症状に似ています。

 

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<脱水と症状>

「脱水していますね」、と私たちがお伝えするとき、動物の体にどのような変化があるかというと、

・粘膜が乾燥している

・皮膚をつまんで離すときにテント状になって残る

・目がくぼんで眼窩にすきまができる

・体重が減っている

・脈が早い、脈が弱い

などです。

清書では5%脱水の時はこんな風で、6~8%の時はこんな風、10~12%ではこんなところまで、というように大まかな区分ですが症状を分けており、体重の10%が失われるほどの重度脱水ではショック状態になりますが、軽度の脱水では見た目には分からないくらいのものです。

実際に「脱水」していますよ、と診断した犬の飼い主さんが、こんな症状が出ているので病院にきましたという「主訴」では

・食欲不振

・嘔吐

・下痢

・元気消失

・弱っている

というもので、「脱水」だからこんな症状が出る、といった特徴的な症状はありません。

 

このようなものですから飼い主さんからみてはっきり「脱水」と見てとれる症状がないだけでなく、ごく軽度の脱水では症状が表れにくいということもあるのではないかと思います。これを「かくれ脱水」と言うことにしています。からだの中の水はとても大切で、多くの重要な仕事をしているので、傍目には分かりにくくても不足しているとからだは不調に陥るのです。そしてこの「かくれ脱水」こそが「夏バテ」であって、「脱水症と熱中症の始まり」だと思うのです。

 

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<かくれ脱水はすでに始まっている>

「具合が悪いです」といって犬が連れてこられる時、ほんとうは犬のからだの中で調子が悪いのが始まってすでに2~3日は経過しているのかもしれないと思います。

暑さの始まりのころは消化器症状を訴えてくる患者さんが多いと以前お話ししましたが、気温の上昇などで不感蒸泄が増えると、食欲も減退し、体液が減少します。軽い脱水です。それから消化管への血流が減少するので消化や吸収がうまくいかなくなり、嘔吐や下痢などの症状を出すことになります。この結果、水分の喪失に拍車がかかり、電解質も失い「脱水症」になってしまいます。

暑さの始まりのころは晴れた日中は暑いですが、夜は涼しいので寝苦しいこともありません。このような気候だと、日中仕事で家を留守にしている飼い主さんには、犬の昼間の様子が分かりにくいだろうと思います。食欲不振や嘔吐、下痢になってはじめて身体の不調に気づくのではないかと思います。

屋外で土の上に居る犬の場合では、飲んだ水を嘔吐していても浸みこみ乾燥してしまい吐物の跡が残らなければ夕方帰宅された飼い主さんは気づくことができません。嘔吐では「水分」と「電解質」を喪失しているわけですが、その後犬が水を飲んで、なんとかからだに収まったとしても、補われるのは「水分」だけで「電解質」は補われませんから、専門的にいうところの「低調性脱水」を起こしていることになります。

 

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<熱中症を起こしやすい犬>

体温上昇と脱水を起こしやすいのが熱中症のリスクの高い犬です。

1回目のお話で熱射病になりやすい犬についてお話ししました。同じことになりますが再度載せておきます。

熱射病は効果的な呼吸ができない犬に多く発生します。

ブルドックやパグ、ペキニーズなどの短頭犬種が起こしやすいのはご存知かと思いますが、そのほか、肥満犬や黒い被毛の犬、年齢的には幼犬や老齢犬で危険は高いです。呼吸器(気管や肺)、心臓に病気を持っている犬、高熱になる病気や全身性の発作を起こす病気を持っている犬、過去に熱射病の病歴がある犬でもリスクが高いです。

このほか体毛が冬向き(寒冷地が産地になっている犬種)の犬もリスクは高くなります。アンダーコートが密でグルーミング不足になっていると冬の毛布を身にまとったままの状態で夏を迎えることになるので、体温を体内にこもらせやすいのです。シベリアンハスキーやチャウチャウは珍しい犬種になってきましたが、柴犬も彼らと同様、アンダーコートがみっちり生えているのでハイリスクになります。

人と同じように高齢の犬も起こしやすくなっています。腎機能をはじめ様々なからだを維持するための機能が衰えているので体調を崩しやすいためです。また筋肉は水分を多く含む場所ですが、筋肉量が低下している老犬は常の水分保持量があまりありません。心臓病の犬では、溜まりやすくなった水分を排泄しやすくする薬(利尿薬)を処方されている犬がいるかもしれません。これらは尿量が増えるので体液を失い易くなっています。腎機能の低下が傍からは明らかになっていない時(代償期)も高リスクです。

幼齢の犬も脱水を起こしやすく注意が必要です。成犬に比べ体液量が多いのですが、不感蒸泄が多く、腎機能が未発達です。脱水症に対する予備能力も低く、気付くのが遅れると命取りになりかねません。

しかし、どの年齢層のどのような犬種のいぬでも、飼育環境が屋外だろうが屋内だろうが熱中症に罹患します。うちの犬はハイリスクにリストアップされていないから大丈夫、ということはありません。

 

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<脱水を守るために体熱が上昇する>

今回、脱水症を中心にお話ししていますが、「高熱」にやられるのが「熱射病」で、「水不足」にやられるのが「熱中症」みたいな感じになっています。

ちがいますよね。「熱中症」は「高熱と脱水」両方でおかしくなります。

面白くも無かった3回目の「水」のお話に戻ります。水は体温調整の仕事もしています。からだじゅうをめぐる体液は深部の熱い熱を、血液が体表面を通過するときに血管を太くして外に逃がそうとします。皮膚の表面に温度の上がった血液を集めているかんじです。それでも体温と外気温の温度差がほとんどないとここからの熱の放散はできなくなります。

パンティング呼吸でも体内の熱を放散しています。しかし湿った呼吸や涎、不感蒸泄の増加で徐々に水分が減り、脱水になります。一定以上の体液が奪われるとからだはそれ以上の体液喪失にブレーキをかけます。そのため、初めは有効に働いていた体熱放散システムも水分保持のためにやむなく停止してしまいます。それでひとたび脱水のレベルが高くなるとあとは「汗もかいていないのにからだがぐんぐん熱くなっていく」ことになるのです。そして「熱中症」はそのまま重症化していきます。

 

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<初期の熱中症を見逃さない>

長くなりました。熱中症の実態、お分かりいただけましたでしょうか。

結局、「熱中症」は「夏バテ」とも言える「軽い脱水症」から始まります。

熱中症の予防というと、

①熱い車内に放置しない

②暑い時間帯の散歩を避ける

③屋外犬は日陰で風通しの良いところに犬舎を動かす

など、犬の環境に重点を置いた注意事項ばかりが紹介されていると思います。

「かくれ脱水」が「熱中症の始まり」という観点に着目すると、生体そのものの状態から予防できることは何か、と考えられます。すると、初期の小さなサインを見逃さず、脱水を補正していくことが予防になることが分かります。

①なんだか機嫌が悪いみたい

②なんとなく元気がないみたい

③食事が進まない、全量食べるのに時間がかかる

くらいの段階で、動物病院の門をたたき、早めに対処するのが熱中症を重症化させない秘訣だと思います。

 

 

長くなりました。

今回で熱中症のお話はおしまいです。

どうぞ、くれぐれも重度の熱中症を起こさないで健やかに夏を超すことができますように。

 
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体液について

熱中症についてのお話、3回目です。


「熱中症」は「体液の不足」と「体温上昇」が原因で発生するトラブルであるとお伝えしました。前回までは主に「体温上昇」に視点を置いたお話しをしてきました。熱中症は「高体温症」だけでなく、脱水症とも密接な関連があります。今回からは「体液」に視点を置いたお話しをしていきます。

「脱水があります」というと、「あんなにお水を飲んでいたのに脱水になるの?」というご質問を受けることがあります。脱水は単純な「水」ではなく、からだを構成する「体液」が不足するものですから、「水分」だけでなく体液を構成する「電解質」が不足しても脱水になります。


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<体液というのは>

人と同じように健康な成犬もからだの60%(体重比)は水でできています。年齢や性別、栄養状態により少し変動があり、若齢動物では70%から80%にも上りますが、老齢動物では50%から55%です。

この水は「水分」と「電解質」からできていて「体液」と呼ばれています。

①細胞の中、

②細胞と細胞の間(組織間)、

③血管の中(血液成分として)に、

およそ
831の比率で入っています。

60×1/831)=5。からだの約5%が血液の中の水分になっています。

細胞の中の水分(①)は細胞内液(Intracellular fluid:ICF)、

細胞と細胞の間や血管の中の水分(②+③)は細胞外液(
Extracellular fluid:ECF)と

呼ばれています。細胞内液と細胞外液では、中に含まれる溶質の濃度が大きく異なります。

 

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<電解質というのは>

電解質というのはナトリウム(Na)やカリウム(K)、クロール(Cl)、カルシウム(Ca)、マグネシウム(Mg)などで、イオンになって体液に溶け込んでいます。

細胞内液(①)には高濃度のナトリウム、カルシウムとごくわずかなカリウム、そのほか重炭酸塩、リン酸塩、たんぱく質などが含まれています。

 細胞外液(②+③)ではカリウム、リン酸塩、マグネシウムが主要な電解質になっています。

血液検査では血管内の血漿(③)中に含まれる(細胞外液の)電解質を調べています。

電解質は陽イオンと陰イオンがありますが、細胞膜を通して細胞の中に特定の物質が入り込んだり出ていったりしてその細胞が活躍するので、大切なのです。心筋の活動をおこしているのもイオンの働きです。

 

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<体液は平衡に保たれています>

飲水ができる状態の健康動物では体液の平衡が保たれています。つまり、入ってくる水の量と出ていく水の量のバランスがとれています。

からだにとっての主要な水の供給源は飲み水と摂取する食物に含まれている水分ですが、そのほかに代謝からも水が産生されています。(1Kcalの熱量が産生されるとき0.1gの水ができます。)

電解質のバランス(電解質の一部が増加したり減少したりすること)も、酸塩基バランス(からだが酸性になったりアルカリ性になったりすること)も均衡がとれています。おもに腎臓がそのような仕事をになっています。

 

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<脱水がおこるとき>

脱水している時、これは①水分摂取量が減少しているか、②水分喪失が増加しているかが原因です。その他に③腹水などのように水分が本来の場所以外のところに入っていき(サードスペースへの喪失といいます)機能的に利用できなくなっていることもあります。

①水分摂取量が減るのは、何か基礎疾患があって食欲や飲水欲が低下している(もしくは廃絶している)ときや、飲みたいなと思ったのに水が近くになくて飲めなかったようなときに起こります。

②水は尿、糞便、唾液、呼吸、汗、じくじくしている傷口などから体外へ失われていきます。尿路からたくさん水分が出ていく病気の代表的なものは腎疾患や糖尿病、クッシング症候群などで、これらの病気をもつ場合は脱水へのリスクが高いということになります。体外に水分が失われていくもう一つの重要な経路は消化管です。健康であれば糞便中に排泄される水分はごくわずかですが、嘔吐や下痢をした場合は、水分喪失を考えなくてはならないほどの(有意な)量の水分が失われてしまいます。(また嘔吐や下痢になっている時は水分の摂取量も減少しています。)

少々詳しいお話しになりますが、胃からの嘔吐がある場合失われるのは水分だけでなく、HClNaKもあり、十二指腸からの逆流もある場合は、HClNaKのほかHCO3も喪失するので、脱水だけでなくからだが酸性に傾く「代謝性アシドーシス」も起こしやすくなっています。

 

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<夏の時期に多い脱水>

なんとなく食欲がない、食事の摂取量が減っている、時間はかかるけれど、まぁなんとかいつもの量は食べられたかなぁ、というような場合は①の水分摂取量の低下につながります。

気温が高いと知らず知らずのうちに唾液や呼吸、汗などで水分が失われていく「不感蒸泄」も盛んになります。意識しないうちに失われていく水分、これが②にあたります。

普段は入る水と出ていく水のバランスは取れていますが、気温の高いところに長時間居たり、暑いときに激しい運動をしたり、体調を崩して嘔吐や下痢になったりすると失われる水分が増えます。摂取水分量がこれに見合う量にならないと水分のバランスが崩れ脱水になります。

 

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<体液は働き者>

体液はその中に栄養素や老廃物、酸素を溶かし、全身をくまなく回っていき、必要なものを必要なところに届け、不要なものを排泄できるところに届けています。そのあいだに体温調節も行っていますし、電解質や酸アルカリなど、体の内部の環境が一定に保たれるようにしています。「ホメオスタシス」(恒常性)です。

水の物理的な特徴と、それによる利点を挙げてみます。驚くほどの機能を持っていることが分かります。

①溶媒能が大きい(多くの物質を溶かすことができる)

②電媒係数が高い(多くの電解質のイオン化やその反応を発生しやすい)

③表面張力が高い(小さな隙間から入り込み細胞の奥まで届くことができる)

④比熱が大きい(体温が下がりにくく保持しやすい)

⑤熱伝導率が大きい(局所だけが高温になるのを防ぐことができる)

⑥気化潜熱が大きい(不感蒸泄によって熱を放散するのに都合がいい)

⑦融解潜熱が大きい(凍結からからだを守っている)

⑧短波長光線の透過性がある(紫外線を良く通してビタミンDを産生するのに適している)

 

まさかの物理学を持ち込みました。

からだの中の水がとても大切なものであること、有益な仕事をしているということをお伝えしたかったのです。今日のお話はつまらなかったですね。次回は脱水についてお話ししていこうと思います。

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熱射病の対処方法

 熱中症についてのおはなし。2回目です。

前回は熱中症の発生するメカニズムや重症になるとどのようなことが起こるのか、ということをお話ししました。とても危険なことだというのをご理解いただけると、予防の意義が分かっていただけるのではないかと、ハードなところまでお話ししました。

今回は、急に悪化していく熱射病の場合、危険を示すサインはどのようなものなのかと、行動を起こすべきタイミング、そしてお家での緊急の対処法についてお話しします。

 

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<どんな状況になったら行動すべきなのか>

パンティング呼吸は危険のファーストサインです。救急事態になる可能性を示しています。こんな呼吸は暑いときはいつでもしているし、べつに、大丈夫なんじゃないかな、という甘い考えだと危険回避はできません。

ハイリスクな犬にリストアップされていたらこの時点で行動を起こすべきです。

そしてこのようなとき、身体を触ると皮膚が熱くなっていることも分かると思います。毛の無い部分、腹部や太ももの内側、わきの下などを触ってみてください。

 

 

<家でできること>

意識があり、嘔吐や下痢などの症状を出していない場合はまず屋内の涼しい部屋に入れて冷却します。一部屋を閉め切り、冷房は最強にします。扇風機も併用し、風を犬に向けます。軽ければこの処置だけで改善します。

冷たい水を犬の身体にかけて冷却するように指示が出ているのを見かけますが、素人が行うには難しい方法ですし、濡れた状態で搬送することになっても大変なので、冷水浴による体温冷却処置はおすすめではありません。

もし、歩くのにふらつきがあったり、だらけていたり、立ちあがることができない、けいれんがみられる、涎が垂れている、嘔吐や下痢をしているなどがあれば重症の印です。猶予はありません。すぐに病院へ搬送しましょう。

 

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<病院へ出かける前の準備>

10分から15分程度様子を見て、変化がないときは動物病院に電話連絡します。現在の状況を知らせておくと、病院に到着すると同時に適切な処置を始めてもらえます。

車のエンジンをかけ、車内を冷やしておきます。

バスタオルを冷たい水で濡らし、犬の身体の上に乗せ、さらにその上から保冷剤などをあてがって病院へ搬送します。

 

 

<病院で行うこと>

身体検査ののち、血液や尿などの資料を採取し、検査に回します。

その間、すぐに冷却処置に入ります。体温をモニターしながら行いますが、冷水浴の場合、目指すポイント値になったら冷却から引き上げ、ドライ方式に変更します。

検査の結果から、輸液剤を選択し、補液を行います。電解質や糖などを補正します。

脳圧の亢進やけいれん、不整脈などの合併症があればそちらの処置も行っていきます。

 

 

<予後と転帰について>

症状の重篤度や合併症の有無、治療に対する反応などにより、順調に回復する場合もありますが、そのまま死亡してしまうこともあります。

 

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<注意していただきたいこと>

単純にハァハァの呼吸があったくらいで最終段階を予想することは誰にもわからないだろうと思います。しかし、目に見えないレベルでも体調が下り坂であったり、年齢を重ねたことで予備能力が落ちていたりして、「昨年まではこの暑さでも屋外で平気だったのに、今年は耐えられない」ということが起こってきます。また、「まだこの程度の暑さなのに」と思われることもあるかと思いますが、熱中症の発生ピークは暑くなり始めた初夏と涼しくなり始めた秋口に二峰性に高くなるグラフを描いています。真夏の暑い時期よりも、季節が変わっていく途中でからだが暑さに慣れていない時は危険なのです。油断せずに異常がみられたら早めに病院に連れてこられるのが良いかと思います。

 

 

<猛暑時に犬の体温を下げる方法>

「暑い時間帯に散歩に行かないように」など、熱中症予防に対する注意事項はすでに浸透していることと思います。そこで、少しでも涼しくなる工夫はどのようなことかについて屋内飼育、屋外飼育でひとつずつ。

屋内飼育であれば、節電を考えず空調設備を有効に活用することです。その際、扇風機も併用すると効果が高まります。「冷却マットを敷いているから大丈夫ですよね。電気代もかさむことだし、エアコンは家族が帰宅する夕方から夜の間だけ使います。」とおっしゃる方がおられます。でも一番温度が高くなるのは昼間、犬がひとりでお留守番している時です。冷却マットの能力は過信しすぎないようにしてください。

屋外であれば、日陰に移動できるようにしていただくのは当然ですが、ミスト噴霧装置を設置していただくと環境温度の低下になります。家庭用のものをDIYでこしらえてもらえるとありがたいです。ホースで水をまくとか、プールで水浴びをさせるというのは、そのあと濡れた体を乾かすのが大変だと思います。

いつでも自由に新鮮な冷たい水が飲めるようになっていることは言うまでもありません。

 

 

熱射病について2回にわたりお話ししました。

次回は「熱中症」のことについてお話します。「熱射病」も「熱中症」のひとつのかたちではありますが、とくに体温上昇による障害のイメージが強いと思います。熱中症は体液の不足がもたらす障害でもあります。次回は水を中心に熱中症をお話します。

 

 

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体温調節と熱射病

 梅雨明けが待ち遠しい今日この頃です。そして暑くなってきて天気予報でお知らせしてくれるのが「熱中症指数」。

ところで「熱中症の予防対策」はよく聞かれますが、「熱中症」というのはどのような症状を出す病気(病態)なのか、はっきり理解していらっしゃる方は少ないのではないでしょうか。

「熱中症」は「体液不足」と「体温上昇」の二つが原因となって発生する病気です。

動物の場合、清書的には「熱中症」よりも「熱射病」で紹介されていることが多いです。熱射病は体温上昇が著しく、緊急度の高い病態です。

今日は体温調節と熱射病についてお話ししようと思います。

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<犬は体温を低下させる機能が低い>

犬の身体は、暑いときに体温を下げるしくみよりも、寒いときに体温が下がらないようにするしくみのほうがうまく働くようにできています。

寒いときは代謝によって発生した熱が外に逃げず、閉じ込められるようにふわふわな毛(アンダーコート)が毛布の役目をしています。

一方、暑いときに効率よく熱を下げるしくみは汗をかくことですが、犬にはそのシステムが備わっていません。ハァハァという短い呼吸、パンティング呼吸といいますが、これで自分の体内の熱く高湿度な空気を蒸発させ、熱を放散しています。パンティング呼吸は、休息時の呼吸が1分間20回から30回なのに対し、10倍くらいの速さで行われていますが、パンティング呼吸の間は肺で換気がされていません。一定回数するとパンティング呼吸をやめて、適切な換気のための呼吸をしています。

パンティング呼吸のほかにもからだを冷やすしくみがあります。
冷たい水を飲むことは消化管を介して体温を下げるのに役立っていますが、大量の水を飲むと消化酵素を薄めますし、酵素が働くための適温を低下させるので消化機能を低下させてしまいます。
体表面近くの血管を太くして、体温よりも低い外気温と温度を交換する仕組みもありますが、被毛があると効率的ではありませんし、外気温が高くなってしまうとこれもうまくいきません。
「暑いからサマーカット」というように全身の被毛をバリカンで短くカットされた犬も見ますが、被毛は太陽光を遮るのに役立っています。

 

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<熱性疾患には体温調節システムが働く>

一般に体温は脳下垂体の視床下部で調節されています。視床下部はからだが38.5℃前後の正常体温で維持できるようにサーモスタットとして働いています。体内で熱が産生されるようにしたり、体表から熱が放出されるようにする活動です。病的状態の発熱の場合、39.5℃から41℃くらいの間になるように制御されていて、それ以上になることはあまりありません。しかし熱射病では体温が域値を超えて発熱していてもリセットされないので、潜在的に危険な体温である41℃を越えて上昇してしまいます。

発熱は食欲低下だけでなく、エネルギーの喪失や脱水を引き起こします。

*注意:感染や免疫介在性疾患、腫瘍などでも原因不明の高熱となることはあります。

 

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<体温上昇とそれに伴うからだの変化>

激しいパンティング呼吸になると、舌が鮮やかな紅色になります。

それから特に分かりやすいのは目の結膜ですが、粘膜も舌と同じように充血し真っ赤になります。

さらに唾液が濃く、ねばっこくなります。

たいていは嘔吐があります。

このあたりまで来ると、直腸温は40℃を越え、場合によっては43℃くらいにまで上昇します。たいていの体温計で測定できるのは42℃までです。

犬は落ち着かなくなります。

さらに経過すると血液を含む下痢をするようになります。

そうしてショック状態になると、唇や粘膜は青紫色になります。

全身性のけいれん発作を起こしたり、脱力したり、意識が遠のいて昏睡状態になります。

このような経過をたどって、死に至ります。

 

 

<体の中で起こっている変化>

深部体温が上昇すると炎症系のサイトカインが産生されます。炎症系が活性化するのと、熱による直接的な損傷によって、血管の内側の壁が障害を受けます。(これによりさらにサイトカインの産生は亢進してしまいます。)細かな血管で血液の流れが滞り、血栓が形成されます。もう少し太い血管の中でも血液が凝固し(播種性血管内凝固:DICといいます)、血液の流れが止まってしまいます。重要な臓器が仕事を行うのに必要十分な血液が届かなくなります。多臓器不全に陥ります。また脳血管関門も障害されます。脳浮腫が起こり、意識は混濁します。

 

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<熱射病というのは>

熱射病(Heat Stroke)は深部体温の上昇によっておこります。外気温の過度な上昇によって起こるのが熱射病です。同じような病態でも、内因性の問題、全身性の激しいけいれん発作によって発生するものは高体温症(Hyper Thermia)です。

 

 

<熱射病を起こしやすい犬は>

熱射病は効果的な呼吸ができない犬に多く発生します。

ブルドックやパグ、ペキニーズなどの短頭犬種が起こしやすいのはご存知かと思いますが、そのほか、肥満犬や黒い被毛の犬、年齢的には幼犬や老齢犬で危険は高いです。呼吸器(気管や肺)、心臓に病気を持っている犬、高熱になる病気や全身性の発作を起こす病気を持っている犬、過去に熱射病の病歴がある犬でもリスクが高いです。

 

 

<熱射病をおこしやすい状況は>

あらためて言うまでも無く、炎天下で車内に放置されるというのは非常に危険度の高い状況です。日陰に停車していても、窓を開けていても車内はすぐに60℃を越える高温になります。数分(!)のうちに熱射病になる状況は整ってしまいます。

また車内でなくても、炎天下で日陰に移動できない状況、つまり繋がれたままの状態も危険です。

同じように、狭く、換気が不十分になりがちなキャリーの中に閉じ込められるのも危険な状況です。

高温多湿の天候下で激しい運動をするのも危険です。

屋内でも口輪をしたままドライヤーをかけられるというのも危険な状況になります。

 

 

 

今日のお話はここまでです。

次回は、危険な状況のサインと、行動を起こすべきタイミング、家での対処方法についてお話します。

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ハート動物病院

Author:ハート動物病院
ハート動物病院です。
〒445-0062
愛知県西尾市丁田町杢左51-3
TEL/0563-57-4111
オフィシャルサイト:http://www.heart-ah.com/

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