「手術を受けさせたいけれど身体は大丈夫でしょうか」とおっしゃる方がいるかと思うと、「うちの子は高齢だから手術はさせたくないです」とおっしゃる方もいらっしゃいます。積極派と消極派ですね。おそらく実年齢と身体年齢の問題で悩んでいらっしゃるのだろうと思います。
麻酔をかける前に検査を実施します。これで分かることというと、
①血液検査
貧血ではないか、出血した時の血の固まる能力はあるのか、肝臓や腎臓にダメージはないのか、など。
②レントゲン検査
肺の機能はどうか、気管支に異変はないか、肺に影はないか、心臓のかたちはどうなのか、腹部の内臓に発生している異変はないかなど。
③心電図検査
心臓の能力はどうか、リズム正しく動いているのか、など。
④超音波検査
レントゲン検査だけではわからなかった各種臓器の内部構造はどうなっているのか、体内のリンパ節が大きくはないか、など。
これらすべてを実施しても、事前情報として安心できることのすべてにはならないでしょうが、中止するに足りる情報はここから得ることはできます。無理をすることはなかった、ということはここで事前に把握することができます。
さて、動物も高齢になると「予備能力」が非常に少なくなってきます。若い動物であれば小さなストレスが加わっても、それを跳ね除け、再び前のように身体を働かせる「恒常性」を取り戻すことができます。しかし、高齢になると、この跳ね除けることのできるストレスの大きさ、と事前に予測することができないのです。実年齢は高齢でも、検査を実施すると青年期のそれと大差ない場合もあります。身体年齢の若々しい動物です。それでもこの「予備能力」を推測することは不可能です。悩ましいところです。「麻酔と手術等の処置を実施するリスク」と「放置しておいて訪れるであろう障害のリスク」を計りにかけるしかありません。
ただやみくもに「痛いことをするのはかわいそうだから」と処置を回避していても、状態はもっと悪化してしまうかもしれません。しかし、「あの時だったらまだやりようがあった」、というのでは遅すぎます。思いもかけぬ事態が起こっていて冷静に判断するのも難しい状況下にあるかもしれませんが、ご家族の方みなさんが冷静になって熟慮し、腫瘍を患った家族に対しどうするのが最良の方法なのかを考えていただくのが大切なことだと思います。そして分からないことや疑問は何でもご相談いただけるとうれしいです。