がんばった猫さん・シビにゃん

 久しぶりに。がんばった猫さんのご紹介。

 

今回はひどい外傷を乗り越えた猫さんのお話です。

 

シビにゃんはまだ14か月の若い猫さんです。

おうち猫さんですが、自由にお外にも遊びに行けました。それがある日、おうちに帰ってこなかったのです。おうちの方の心配がつのりにつのった10日後、右腕に大けがをして戻ってきました。ずっとお外にいてお腹が空いていたのでしょうか、戻るとすぐにドライフードをカリカリ食べておうちの方を安心させてくれたそうです。それからすぐに動物病院に連れて行って治療をしてもらいました。けれど思うように回復できなかったようです。体力も落ちていて、病気と闘う力が弱ってしまっていたのかもしれません。

 当院のドアをくぐってくださったのは、発見されてからさらに10日ほど経った日のことでした。居なくなったその日に受傷したのだとすると、すでに21日経っていました。 


初めての診察の日、シビにゃんは横になったままで、腕の先がすでに腐ってきていました。皮膚がはだけた開放性の傷で、皮膚の下の部分から化膿した組織がむき出しになっていました。激しい痛みのせいで涎が出ています。時折、激痛が走るのかもしれません。発作的に飛び上がるような様子が見られました。食事もままならなかったようですが、傷から出てくる水分量に見合うだけの水分摂取もできなかったようで、身体が乾いていました。いろんな検査も我慢強く受けてくれましたが、この腕はこのままでは治る見込みがありませんでした。かわいそうですが、腕を落とさないと命が落ちてしまいます。即日手術になりました。


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こうした開放性の傷で化膿がある場合、どのような細菌がここに巣くっていて、どの抗菌薬に弱い菌なのかを調べる必要があります。そこで「細菌培養、同定、感受性検査」を依頼しました。化膿している組織をぬぐったものを特定の容器に入れ、暖かくして菌を増やして検査をするのです。培地での育ち方は細菌の種類によって異なります。また増えた菌を顕微鏡で見たときに菌の形や染色液による染まり方なども細菌の種類によって異なるのでこの検査をすると菌の種類がわかるのです。また抗菌薬を含ませたパッチの周りでの細菌の増え方を観察すると、薬があってもへいチャラで育っていく場合と、その薬の周囲で広く菌の増殖が抑えられている場合が出てきます。それでその抗菌剤に対する感受性が分かります。こうして菌の増殖を強く阻止することができる抗菌薬が分かるので、これを選んで使うというわけです。本当に細菌の感染があるかどうか分からないようなときや時間的に余裕がある場合は、抗菌薬の耐性を作らないようにするため、むやみに抗菌薬を使ってしまわない方がよいのですが、今回のように細菌感染が疑う余地もなくある場合、検査結果が出るまで薬を使わないで待っているわけにはいきません。当たりをつけて薬を選び、投与します。素直な細菌だと古くからある薬で効きますし、ひねくれものの細菌だとまさかこの抗菌薬に効果がないなんて!という結果が出るようなこともあります。

悪い菌でありませんように、と祈りながら、今回は広い範囲の菌に効くように2つの抗菌薬を組み合わせて使いました。

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大きな外傷がある場合にもうひとつ考慮するのが痛みの管理です。非ステロイド性鎮痛薬(NSEIDsNon Steroidal Anti-Inflammatory Drugs:エヌセイズと呼んでいます)を使用します。近年は猫さんでも安心して使える注射薬、内服薬ともにできています。昔は「動物は痛みに強い」とかいう迷信がありました。今でもそのように思われていることもありますが、やはり痛いものは痛いです。痛みは一つのストレッサーですから傷の治りも悪くなります。痛がっている動物には痛みのコントロールをした方が回復は早まります。NSEIDsは古くからある薬です。アスピリンは今や知らない人がいないくらいになりました。炎症を起こしたときに出てくる物質を抑制し、炎症や発熱をおさえ、痛みを出す物質をブロックするのがこの系統の鎮痛薬です。消化管の粘膜から日常的に出ている物質(Cox1)と炎症のあるときに出てくる物質(Cox2)に共通点があり、以前は両方をブロックしてしまう鎮痛薬が一般的だったので、この系統のお薬を長期連用すると消化管潰瘍ができて嘔吐や下痢を起こすことがありました。近頃は炎症のあるときに出てくる物質(Cox2)だけを選択的にブロックする薬が開発されたため、消化器系の副作用はほとんどありません。

 

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さて治療開始から2日もすると、涎も無く落ち着いてきましたが、依然、身体は横になったままで立ち上がれそうにありませんでした。細菌の出す毒素反応かしら、選んだ抗菌薬は効果があるのかしら、などと心配しながら、点滴を続けました。お口から食事を入れても「いやいや」と出してしまいましたが、時折、のどをごろごろ鳴らしてくれるので、全体としては良化傾向にありそうでした。

気になった細菌検査は、選んだ抗菌薬が効果大、という結果で返ってきました。やれやれです。食べてもらって、体力をつけること、それまでは猫さんによい環境を作ってやることです。

食べる気になるようにお腹が空くお薬も使い、お母さんにも好物の食事を運んでいただくと、その中で「湯がいたチキン」をぱくりっと食べたのでした。それからお母さんは毎日の面会のたびにおいしそうな食事を作ってきてくださいました。愛の力はすごいですよ。そのあたりからずっと横になっていたのが、頭を挙げて「にゃ~」っと鳴き声を上げるようになり、挙げた頭をそのままきょろきょろ動かす時間が長くなってきました。名前を呼んだ時の尻尾の振り幅は日に日に大きくなってきて、やがて普通のキャットフードも食べられるようになりました。点滴や注射は削られ、必要なお薬だけを残す治療に変わりました。

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横になって寝ていたのが、前足を曲げて伏せの姿勢を取ろうとするようになり、初めこそすぐにバランスを崩して倒れてしまいましたが、少しずつ伏せの時間が長くなってきました。残っていた左の前足を使って身体を支える要領がのみこめたのでしょう。突っ張っていた身体も軟らかくなり、猫らしい形がとれるようになってきて、ぴーんと伸ばしたままだった後ろ足は押し曲げると、力良く押し返す反応が出てきました。このまま、歩くことができないで終わってしまうのでしょうか、いや、なんとか元のように歩いて欲しい。神経賦活剤という分類に入るビタミン剤も使い、日に何度か後肢も起立させる運動を始めました。リハビリです。

 

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めきめき回復の兆しが見えてきたのは、おうちに帰って、お母さんが本格的なリハビリに参入してくださってからのことです。治療開始から20日が過ぎた外来診察の日、「歩けるようになったんですっ!」って診察室に入るや否や、お母さんがおうちでの様子を伝えてくださいました。その後はどんどん回復し、今はもう以前と同じくらいに活発な猫さんになっています。実はお母さんは運動のインストラクターさん。さすがですね。

 

 

さて、今年も残すところあと3日になりました。みなさん、お掃除やら、お正月さんのお支度やら、忙しくされているかもしれませんね。今年のお話はこれで終了です。明るい話題で終われたことをうれしく思います。ありがとうございました。

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テーマ : 動物病院
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