猫の下部尿路疾患(FLUTD)と食事

今日お話をしようと思っているのは猫の下部尿路疾患(FLUTDFeline lower urinary tract disease)と食事についてです。

 

<猫の尿石症について歴史的なこと>

病院を開設したのは今から30年ちょっと前のことですが、この頃、猫の下部尿路疾患といえば尿路結石症が中心でした。そして尿路結石もリン酸アンモニウムマグネシウム(ストルバイト)の石が主体でした。ストルバイト尿石が膀胱にできて、砂粒状の細かな石が雄猫の細い尿道を閉塞させてしまう病態(尿道閉塞症)は命にかかわる救急疾患であることは今でも変わりありませんが、寒い冬の日の夜間休日救急診療といえば犬はフィラリアの前大静脈症候群、猫では尿路閉塞症、というくらいこの病気の比率が高かったように思います。雌猫でも尿石症は見られますが、閉塞を起こさないために膀胱炎症状だけで、閉塞症のように派手な症状はなくもっと地味な感じです。今でも猫の尿石症というとストルバイト結石をイメージされる飼い主さんが多いと思います。

 

近年リン酸アンモニウムマグネシウムの石に追いつく勢いで増加傾向にあるのがシュウ酸カルシウム結石です。こちらは膀胱ではなく、腎臓や尿管で発見されることが多い石です。腎臓から尿管へ石が落ちた時に、激しい痛みとそれに続く腎不全兆候で来院されます。性別は関係なく重症な状態で診断されるか、またはほかの目的で検査をしていて偶然見つけられることもあります。ストルバイト結石の猫さんよりも中高齢の年齢の猫さんに多く見られます。

2010年に猫の尿路結石を分析した国内の調査では42.3%がストルバイト結石で、40.4%がシュウ酸カルシウム結石、残りがその他の石になっています。(獣医泌尿器学会誌から)

 DSC_8088.jpg

<ストルバイト結石症は減少してきた?>

ストルバイトによる尿石症は減少してきているという印象を持っています。当院が救急診療を行わなくなったせいで少なくなってきたのかしらと思っていましたが、北米の獣医科大学付属病院で診断された猫の尿道閉塞症の発生と会陰尿道造瘻術の調査でも1980年から1999年までの20年のうちに猫1000頭当たりの発生頻度が尿道閉塞19.4頭から7.4頭に、手術の方も14.8頭から4.5頭に減少していますので、うちの病院だけではなさそうです。猫のストルバイト結石症についての理解が進み、結晶尿を抑える処方食が普及した効果が表れているのかもしれません。喜ばしいことです。

 

 

なのに今年はなぜかストルバイト尿石症やストルバイトが関連していると思われる尿道栓子による尿路閉塞症の猫さんが多い年です。例年下部尿路疾患は発生しているのですが、特発性膀胱炎(FICFeline idiopathic cystitis)の方が多いです。

 さて、そんなわけで、もう過去の病気になったはずと思っていたストルバイトの尿路結石症ですが、食事で予防が可能な病気なので、もう一度、そこいら辺をお伝えします。

 DSC_8090_20150207155619ac7.jpg

 

<下部尿路疾患は食事で予防が可能です>

猫の下部尿路疾患(FLUTDFeline lower urinary tract disease)のうち、尿石症、尿道栓子はストルバイト結石(またはミネラル成分)が関係していて、これには食事管理が有効であることが分かっています。実は今FLUTDとして最も多く見られるのは特発性膀胱炎(FICFeline idiopathic cystitis)ですが、こちらにも食事療法は有効です。そうなると、猫の下部尿路疾患は尿石症であれ、尿道栓子であれ、特発性膀胱炎であれ、食事で予防ができる、という結論になってしまいます。厳密に言うとその他にも病因はあるのですべてのFLUTDに対し予防ができるというわけではありませんが、大半はこの3つが占めるので、相当な割合で食事管理が可能です。またシュウ酸カルシウム結石についても再発を防ぐ食事療法が考慮されています。

 

 DSC_8086_20150207161002546.jpg

<ふたたび歴史的な背景について>

猫に自然発生したストルバイト結石を食事によって溶解させることができたという初めての報告は1983年のことです。

以来、猫のストルバイト尿石症は、猫の尿pHを調整しミネラル分を制限するなどの特徴を持つ処方食により溶解させ、溶けてからは再形成防止の処方食に切り替え石を作らせない、という内科的な方法で管理するのが一般的な方法がとられてきました。別の組成の石や複合結石(ストルバイトだけでなく他のミネラル成分も合わさっている石)の場合は溶解させることができないため、外科手術により治療してきました。

 

このような流れの中で、猫のストルバイト結石症に対しては多くのフード関連研究所で研究され、また専門の先生方により臨床研究もされてきました。

 

 DSC_8089.jpg

<エビデンスのある最近の研究>

2013年にDr.ルーリッチらがJAVMAに発表した研究をお知らせしましょう。

レントゲン検査で膀胱に結石が見つかった猫37頭の追跡調査です。細かな条件については省略しますが、参加したのは膀胱結石以外の病気が認められておらず、投薬も疼痛緩和のための薬以外は投与されていない猫たち37頭です。

ルーリッチ先生たちは膀胱結石のある猫の一つのグループに溶解食を与え、もうひとつのグループには再発防止食を与え、石が溶けていく様子を調査しました。

すると37頭のうち32頭で石が溶けました。溶解できなかった5頭の猫には手術が行われました。が、外科的に摘出した石を分析すると、どれもストルバイト結石ではありませんでした。

溶解食を与えられたグループでは溶けるのに要した日数は6日から28日、溶けるまでにかかった平均日数は13日(±2.6日)でした。再発防止食を与えられたグループでは、溶解にかかったのは7日から52日で、平均27日(±2.6日)でした。

少々時間がかかっても再発防止食でも十分に溶けることが分かったのです。

DSC_8087.jpg 

<この研究から>

猫のストルバイト結石は内科的な溶解が有効で外科に比べると安心で費用もかからないという利点があります。

猫に併発した疾患がある場合は早く石を溶かして別の病気のための処方食に切り替えることができます。

はじめから再発防止食を選択すると途中で食事を切り替える必要がありません。また予防食という側面から、同居猫がお相伴しても大丈夫だし、他疾患がなければみんながこの食事を食べてもなんら問題はないでしょう。

 

 

というところで、今回はおしまいです。具体的な商品名はこちらでは控えさせていただきます。尿路閉塞症、尿石症のほか特発性膀胱炎などにかかったことがある猫さんはこの食事に切り替えてもらうと再発が防げてよいと思います。

今はほんとによい食事がありますね。研究者の皆さまに感謝です。

 

この処方食の特性については次回お話します。 
スポンサーサイト

テーマ : 動物病院
ジャンル : ペット

プロフィール

ハート動物病院

Author:ハート動物病院
ハート動物病院です。
〒445-0062
愛知県西尾市丁田町杢左51-3
TEL/0563-57-4111
オフィシャルサイト:http://www.heart-ah.com/

最新記事
最新コメント
最新トラックバック
月別アーカイブ
カテゴリ
ブログランキング
検索フォーム
RSSリンクの表示
リンク
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QRコード