体温調節と熱射病

 梅雨明けが待ち遠しい今日この頃です。そして暑くなってきて天気予報でお知らせしてくれるのが「熱中症指数」。

ところで「熱中症の予防対策」はよく聞かれますが、「熱中症」というのはどのような症状を出す病気(病態)なのか、はっきり理解していらっしゃる方は少ないのではないでしょうか。

「熱中症」は「体液不足」と「体温上昇」の二つが原因となって発生する病気です。

動物の場合、清書的には「熱中症」よりも「熱射病」で紹介されていることが多いです。熱射病は体温上昇が著しく、緊急度の高い病態です。

今日は体温調節と熱射病についてお話ししようと思います。

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<犬は体温を低下させる機能が低い>

犬の身体は、暑いときに体温を下げるしくみよりも、寒いときに体温が下がらないようにするしくみのほうがうまく働くようにできています。

寒いときは代謝によって発生した熱が外に逃げず、閉じ込められるようにふわふわな毛(アンダーコート)が毛布の役目をしています。

一方、暑いときに効率よく熱を下げるしくみは汗をかくことですが、犬にはそのシステムが備わっていません。ハァハァという短い呼吸、パンティング呼吸といいますが、これで自分の体内の熱く高湿度な空気を蒸発させ、熱を放散しています。パンティング呼吸は、休息時の呼吸が1分間20回から30回なのに対し、10倍くらいの速さで行われていますが、パンティング呼吸の間は肺で換気がされていません。一定回数するとパンティング呼吸をやめて、適切な換気のための呼吸をしています。

パンティング呼吸のほかにもからだを冷やすしくみがあります。
冷たい水を飲むことは消化管を介して体温を下げるのに役立っていますが、大量の水を飲むと消化酵素を薄めますし、酵素が働くための適温を低下させるので消化機能を低下させてしまいます。
体表面近くの血管を太くして、体温よりも低い外気温と温度を交換する仕組みもありますが、被毛があると効率的ではありませんし、外気温が高くなってしまうとこれもうまくいきません。
「暑いからサマーカット」というように全身の被毛をバリカンで短くカットされた犬も見ますが、被毛は太陽光を遮るのに役立っています。

 

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<熱性疾患には体温調節システムが働く>

一般に体温は脳下垂体の視床下部で調節されています。視床下部はからだが38.5℃前後の正常体温で維持できるようにサーモスタットとして働いています。体内で熱が産生されるようにしたり、体表から熱が放出されるようにする活動です。病的状態の発熱の場合、39.5℃から41℃くらいの間になるように制御されていて、それ以上になることはあまりありません。しかし熱射病では体温が域値を超えて発熱していてもリセットされないので、潜在的に危険な体温である41℃を越えて上昇してしまいます。

発熱は食欲低下だけでなく、エネルギーの喪失や脱水を引き起こします。

*注意:感染や免疫介在性疾患、腫瘍などでも原因不明の高熱となることはあります。

 

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<体温上昇とそれに伴うからだの変化>

激しいパンティング呼吸になると、舌が鮮やかな紅色になります。

それから特に分かりやすいのは目の結膜ですが、粘膜も舌と同じように充血し真っ赤になります。

さらに唾液が濃く、ねばっこくなります。

たいていは嘔吐があります。

このあたりまで来ると、直腸温は40℃を越え、場合によっては43℃くらいにまで上昇します。たいていの体温計で測定できるのは42℃までです。

犬は落ち着かなくなります。

さらに経過すると血液を含む下痢をするようになります。

そうしてショック状態になると、唇や粘膜は青紫色になります。

全身性のけいれん発作を起こしたり、脱力したり、意識が遠のいて昏睡状態になります。

このような経過をたどって、死に至ります。

 

 

<体の中で起こっている変化>

深部体温が上昇すると炎症系のサイトカインが産生されます。炎症系が活性化するのと、熱による直接的な損傷によって、血管の内側の壁が障害を受けます。(これによりさらにサイトカインの産生は亢進してしまいます。)細かな血管で血液の流れが滞り、血栓が形成されます。もう少し太い血管の中でも血液が凝固し(播種性血管内凝固:DICといいます)、血液の流れが止まってしまいます。重要な臓器が仕事を行うのに必要十分な血液が届かなくなります。多臓器不全に陥ります。また脳血管関門も障害されます。脳浮腫が起こり、意識は混濁します。

 

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<熱射病というのは>

熱射病(Heat Stroke)は深部体温の上昇によっておこります。外気温の過度な上昇によって起こるのが熱射病です。同じような病態でも、内因性の問題、全身性の激しいけいれん発作によって発生するものは高体温症(Hyper Thermia)です。

 

 

<熱射病を起こしやすい犬は>

熱射病は効果的な呼吸ができない犬に多く発生します。

ブルドックやパグ、ペキニーズなどの短頭犬種が起こしやすいのはご存知かと思いますが、そのほか、肥満犬や黒い被毛の犬、年齢的には幼犬や老齢犬で危険は高いです。呼吸器(気管や肺)、心臓に病気を持っている犬、高熱になる病気や全身性の発作を起こす病気を持っている犬、過去に熱射病の病歴がある犬でもリスクが高いです。

 

 

<熱射病をおこしやすい状況は>

あらためて言うまでも無く、炎天下で車内に放置されるというのは非常に危険度の高い状況です。日陰に停車していても、窓を開けていても車内はすぐに60℃を越える高温になります。数分(!)のうちに熱射病になる状況は整ってしまいます。

また車内でなくても、炎天下で日陰に移動できない状況、つまり繋がれたままの状態も危険です。

同じように、狭く、換気が不十分になりがちなキャリーの中に閉じ込められるのも危険な状況です。

高温多湿の天候下で激しい運動をするのも危険です。

屋内でも口輪をしたままドライヤーをかけられるというのも危険な状況になります。

 

 

 

今日のお話はここまでです。

次回は、危険な状況のサインと、行動を起こすべきタイミング、家での対処方法についてお話します。

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