肝臓の病気のお話、頻度の高い方からお話ししています。前回は「あまり怖くない肝臓病」のおはなしでした。
2回目の今回は「胆泥症」(Biliary Sludge)についてです。これも良くみられるものです。
<胆泥って何?>
胆泥症というのは胆のうの中に泥状から砂状の物質が入っている状態です。普通はさらさらした液体の胆汁が入っています。黄色い液状物を嘔吐することがありますね、「胃液をもどしました」とおっしゃる飼い主さんが多いのですが、あれが胆汁です。十二指腸に分泌された胆汁が胃の方に逆流して嘔吐したものです。どうして胆汁の内容物がさらさらの液状ではなく泥状または砂状になっているのが分かるのかというと、超音波検査で独特の像がみられるのです。エコー検査が始まり、それまでは知られていなかったものが分かるようになったのです。1970年代ころからエコー検査は犬で施されるようになりましたから、比較的新しい概念ということになります。
<胆泥の中身は何?>
コレステロール微小結晶、ビリルビンカルシウム微細顆粒がムチンとその他のたんぱく質からできた粘液の中に包み込まれた状態(Pazzi 2003)といわれています。
現段階では、胆のう炎の産物である白血球や線維素、壊死組織など(debris)も広い意味での胆泥(sludge)に含まれています。
<どうして胆泥ができるの?>
胆泥の発生機序はまだはっきり分かっていません。
胆のうが収縮する力が弱まったせいで、胆汁が溜まり、長く胆のう内に滞るうちに水分が抜けるなどして成分が変化するのではないかと考えられています。
またこれが胆石を形成する前段階になるのではないかとも考えられています。
胆のう内の胆汁のカルシウム濃度の増加は色素胆石の形成の要因になる可能性があると言われています。
人では、ある種の抗生物質がカルシウムを含む点滴と同時投与されていた場合やコレステロールを排泄させる作用があるピルなどは胆石を形成させやすくするようです。
細菌感染を受けた胆汁が胆泥になるというのもあります。
<胆泥症になりやすい病気がある?>
胆のう炎、肝炎、胆管閉塞症、腸炎、膵炎、甲状腺機能低下症、副腎皮質機能亢進症などは胆泥症を併発しやすいようです。
中年以上の犬での発現率が高くなっています。
<胆泥症に特有の症状は?>
胆泥があっても無症状です。
<胆泥症の経過は?>
自然に消失するか、そのまま継続して存在するか、胆石を形成することになるか、胆のう粘液のう腫に進行するかなどが言われています。
ときに胆のう炎を発症することもあります。
また胆泥が特発性膵炎の原因になるとする報告もあります。
<胆泥症は必ず治療?>
血液検査でアルカリフォスファターゼ(ALP)が上昇している犬に超音波検査を実施すると50%の犬で胆泥を発見します。胆泥があっても臨床的な症状は一切存在しません。それで治療の必要性があるのか、もしあるとするなら何を目的に治療をするのか、ということで「治療の必要はないのではないのか」という先生もおられます。
胆のうは沈黙の臓器の一つです。臨床兆候は病態が悪化しないと認識できません。胆泥があること自体は深刻な病気があることを示すものではありません。しかし何かの病気が潜んでいる可能性はあります。まるきりそのままにしておくのも将来的な不安が残ります。胆泥症が進行して胆石を形成したり、膵炎を発症させてしまう心配もあるのですから、治療をしないまでも定期的にフォローアップ検査を実施していくことは必要なことだと思います。
<どんな治療?>
検査を実施している間に胆泥症を起こしていると思われる疾患が見つかればこれを治療します。甲状腺機能低下症や副腎皮質機能亢進症などです。
そうした疾患が見つからなかった場合の治療法は内科的な治療および経過観察です。
胆汁の排泄を促進させる利胆剤、胆泥を予防する(これ以上増やさない目的です)肝庇護剤、胆のうの収縮を増進させる薬などを中心とし、胆のう炎の心配があれば抗生物質もこれに加えます。
食事は低脂肪食にし、おやつなどは与えません。
胆泥症の外科治療は適応基準がありません。経過観察中に胆石ができたとき、胆のう粘液のう腫に発展したとき、内科的な管理ができない重度の胆のう炎があるとき、肝外胆管閉塞が生じたときなどは胆のう破裂の危険性が生じます。手術を検討しなければいけません。胆のう切除や総胆管を洗浄するなどの処置を行います。
胆泥症のおはなし、長くなりました。
治療はいいや、と思っても、定期的な検査は受けてください。また「経過観察」とか「様子を見ましょう」というのは決して「何もしない」ということではありません。犬の様子を「良くみて」何かあったら「すぐに病院に連絡をする」ということです。大丈夫なのか、と安心して放置するのとは違います。
今日のお話はここまでです。