犬のリンパ腫1

 特定の腫瘍になりやすい犬種というのがあります。ハイリスク犬種と言っています。リンパ腫のハイリスク犬種はボクサーやセントバーナード、バセットハウンド、ブルドック、そしてゴールデンレトリバーです。テレビCMで登場したり、映画などで特定の犬種が紹介されたりすると人気犬種というのが出てきて、また次の機会に別の人気犬種が出て前の犬種にとってかわりなどして、流行のように人気犬種が変わり、それによって飼育される頭数も変化していきます。従順で家族として迎えやすいゴールデンレトリバー、私は個人的に大好きな犬種ですが、そのゴールデンレトリバーの数はずいぶん減りました。この犬種が減少したことだし、もともとそのほかのハイリスク犬種は日本でそんなに数が多いわけではないし、そして彼らにとって代わってその数を増やしたダックスフンドはリンパ腫のローリスク犬種。だからリンパ腫もきっと減るに違いない、なんて甘く考えていました。ですが見込み違いもはなはだしい。どうもリンパ腫の発生は以前に比べて増えてきているように感じます。

そんなわけで今日からリンパ腫についてお話ししようと思います。

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<リンパって何?>

リンパ系の組織はリンパ節と脾臓です。あの、「リンパの流れが悪いの」とか言われる「リンパ」は「リンパ液」です。血管系と同じように全身に張り巡らされた「リンパの流れ」の途中に無数の豆のようなリンパ節があります。リンパ系の細胞がここに集まっています。豆のような大きさのリンパ節は全身では数百にも及びます。全身各所にあるリンパ節の小さいものでは個別の名前ももたない組織ですが、要所では大きなリンパ節になっていて、それにはそれぞれ名前がついています。リンパ節には細かな網目状の繊維があって、そこにいるリンパ球などの細胞はリンパ液に乗って流れてきた異物を処理する仕事をしています。たいていはリンパ球が細菌を食べる、みたいな処理方法です。大きな腫瘍の手術をするときに一緒にリンパ節も切除すると聞いたことがあるかもしれません。これは腫瘍細胞がリンパ節に流れ着いて、リンパ節から全身に流れ出すのを留め置く、いわば関所のような仕事です。このように総合するとリンパは免疫系の仕事を行っています。

そしてこのリンパ系の細胞(リンパ球)が腫瘍化したものがリンパ腫です。

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<リンパ腫の発生の特徴>

犬の血液系の腫瘍(造血器腫瘍)の中で最も発生が多いのがリンパ腫です。年間の発生率は犬10万頭のうち1324頭くらいがかかるといわれています。来院されたときの犬の年齢は6歳から9歳くらいで、若い犬では6か月くらいから高齢の犬では15歳の幅で発症していますが、やはり中高年齢に多い病気です。オスもメスも同じくらいの比率で発生しています。ハイリスク犬種について冒頭でお話ししましたが、どんな犬種でも発生します。

犬のリンパ腫の原因は分かっていません。猫のような白血病系のウィルス感染は知られていません。なんらかの遺伝子異常によって発生するものと考えられています。海外では特定の化学工場近くの発症が多いことから、化学物質との関連も疑われています。

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<発症する部位によって臨床的な分類がされています>

1)多中心型

身体の表側、皮膚のすぐ下にあって外部から容易に触れるところのリンパ節が侵されます。あごの下、首から胸の前、わきのした、足の付け根、膝の後ろなどに比較的大きな「名前の付いた」リンパ節があるのですが、これらが腫瘍化して硬く大きくなります。犬ではこのタイプが一番多いです。

2)前縦隔型

赤ちゃんの頃に胸の中にあった「胸腺(きょうせん)」は徐々に小さくなっていく不思議なリンパ組織です。リンパ球にエリート教育をしているといわれているこの部分が腫瘍化し、大きくなると胸の大部分を占め、肺や心臓を圧迫するようになります。白血病ウィルスに感染した若齢の猫に多いタイプです。

3)消化器型

腸は長いホース状の組織で、この中を食べ物が通過する間に体は様々なものを吸収します。吸収というのは体内に入ることです。腸に分布している血管やリンパ管を通じて体に入ります。腸のところには長い腸を束ね、腸に分布するたくさんの血管やリンパ管を走らせている膜状の構造物があります。腸間膜です。ここには栄養素とともに腸から入った物をいち早く処理するリンパ節が無数にあります。腸間膜リンパ節はこれら無数のリンパ節の総合の名前で、ここが腫瘍化して大きくなると膜が一つのお団子のようになり、やがて腸管をぎゅーっと巻き込むようになります。これは比較的若齢のミニチュアダックスや中高齢の白血病ウィルスに感染していない猫に多いタイプです。

4)皮膚型

「皮膚病なのになかなか治らない、なんなの?このぼつぼつ!」っていう皮膚病の中に、実は皮膚病ではなくて、皮膚型のリンパ腫だった、というのがあります。そんなに発症は多くありません。

5)そのほか

目や目の奥、神経系、骨、腎臓、鼻の穴の中など、どこでもリンパ腫の発生は見られています。とても稀です。

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<リンパ腫で見られる症状>

それぞれの臨床型によってみられる症状に違いがあります。

①多中心型では、最初に病院に連れてこられる理由が「しこりがある」ことです。それは体表から触知が可能なリンパ節の腫れです。あごの下、わきの下などが最初に気づかれることが多いです。または健康診断などで獣医師によって指摘されることがあるかもしれません。

全身症状として、食欲不振や体重減少、元気消失、熱っぽいことがあります。これらはないこともあります。

②前縦隔型では、上記の全身症状に加えて、腫瘍の大きさにより発生する呼吸困難やおう吐がみられます。

③消化器型にみられる症状は上記の全身症状に加えておう吐や下痢です。特にいつからかはっきりしないけれど食欲不振や体重減少、行動性の低下があります。

④皮膚型は皮膚だけでなく口の粘膜にも見慣れないぶつぶつができて、盛り上がり、はぜてはまた別のところにできるのを繰り返し、なかなか治らない皮膚病のような様相です。

⑤そのほかの部分にできるタイプに共通した症状は、目や鼻などのように顔の様相の変化で分かるものから全く分からないものまでいろいろです。

どのタイプでも全身症状が悪化してくると痩せてきます。

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<リンパ腫かも!という段階で行う検査>

もし体の表層にある(触れる)リンパ節が腫れて大きくなっているのであれば、ほかの腫瘍の時と同じようにノギスでサイズを測ります。

見えない部分の場合はX線検査や超音波検査で広がりを見ます。表層のリンパ節の腫大の時も、肝臓や脾臓の様子を見るのにこれらの画像検査を加えることもあります。

血液検査を行います。貧血はないのか、血小板数は減少していないのかといった数に関するものを調べるのと、血液細胞や腫瘍細胞が出現していないかを顕微鏡で形態的に調べる血球の検査と、血清を生化学的に調べ、肝臓や腎臓の隠れた機能や悪性度の指標となるカルシウムの値を調べるなど、血液検査の目的はたくさんあります。特に末梢血の中に腫瘍化したリンパ系の細胞が流れ出ていないかどうか、高カルシウム血症になっていないのかの結果は注目のポイントです。

 

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<細胞の顔でリンパ腫を診断し、さらに細かく分類する>

それから細胞診とか病理組織検査を行います。これは腫れて怪しいリンパ節から細胞または組織を採取し、細胞の特徴から腫瘍かどうか、またどんな動向を持った細胞なのかを調べる検査です。

リンパ節はリンパ球のたくさん集まっている組織ですから、正常なリンパ球もそこには存在しているわけです。たまたま採取した針の太さくらいのリンパ組織から得られた細胞群によって、これは正常、これは炎症、これは反応性の過形成、そしてこちらはリンパ腫!という風に判断されたものが「病理診断」です。正常なリンパ球の形態や、集まってきているそのほかの細胞などからリンパ腫かそうでないかを見分けるものです。

さらにリンパ腫の顔をしたリンパ球の中にも個性があります。リンパ球の顔つきだけでなく、盛んに細胞分裂を繰り返している様子も知ることができます。高分化型、低分化型、中間型としてリンパ腫はさらに細かく分類されます。(ハイグレード、ローグレードということもあります。)

それから特殊な免疫染色をすることで細胞のタイプを知ることもできます。B細胞型とT細胞型とに分けられます。

このような細分化によって、リンパ腫の挙動がある程度わかります。挙動というのは、腫瘍の進行度合い、つまり大きくなるスピードが早いのか遅いかということと、治療に対する反応性、すなわち抗がん剤によって小さくなる度合いが強いのか、抗がん剤を投与しても抵抗性があって小さくなる度合が短いのかといった事柄です。

総合すると、腫瘍細胞の特性によって腫瘍の進行状況が違うのでリンパ腫の治療方法も変えた方がよいし、それによってもリンパ腫のわんこのこれからのことが違ってくるし、どのくらい生きられるのか、なども大雑把に予測してざっとですがお知らせすることもできるのかな、というのがあって細かな分類まで行うようになってきています。

 

今日のお話はここまでです。

リンパ腫の概要と検査のことをお話ししました。次回は「リンパ腫の経過」と気になる「予後」についてお話しします。

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