- 2017-05-28 :
- 犬猫の皮膚病いろいろ
皮膚科トピックス
今日のお話しは皮膚病に関する報告です。2件とも、海外の論文からの内容になります。
<脱毛症>
一つ目の論文です。ハードなお仕事でストレスがたまるとできると思われている円形脱毛症(Alopecia Areata Universalis)ですが、調べていたら犬にもあることが分かりました。さらにマウスやラット、馬でも同じ脱毛症の報告が見られました。
あら、犬もストレスを感じてできるのかしら。なんて思いましたけど、どうやら原因はストレスでは無く、T細胞が関与した自己免疫性疾患でした。赤血球を破壊する「免疫介在性溶血性貧血」(IMHA)や「免疫介在性血小板減少症」(IMTP)、「エバンス症候群」などと原因が同じで、攻撃される場所が「赤血球」や「血小板」ではなく「毛根部」なんですね。
ちなみにヒトではストレスは発症の一つの因子という見方で、原因ということでは無いそうです。
報告されていた犬は9歳オスの猟犬の雑種。脱毛の期間は1年くらい続いていたそうです。毛の無かった部分ですが、全身の被毛のほか、まつ毛の部分も抜けて毛がなくなっていたそうです。脱毛している部分の皮膚を病理組織学的な検査を実施すると「炎症のない脱毛」で、免疫系の疾患だと診断されました。それでお薬は免疫抑制剤であるシクロスポリンが使われました。1年半くらい投薬は継続され、全身の被毛は回復しましたが、まつ毛やひげは生えてこなかったそうです。それから薬を中止し、5か月経過しても脱毛が再発することは無かったそうです。
マウスやラットでの発症はそのまま、ヒトの疾患モデルになりそうとのこと。ヒトの円形脱毛症の研究にひと肌脱げそうですね。
<皮膚糸状菌症>
もうひとつの興味深い報告は「皮膚真菌症」に関するものです。
皮膚真菌症は真菌(カビ)による皮膚病で、被毛が円形に脱毛します。真菌症はカビの胞子で感染する皮膚病で、先ほどの話題の「円形脱毛症」に比べたら発生率はとても高いです。そして皮膚真菌症の怖いところは、皮膚病になった犬や猫の被毛から私たちも感染してしまうことがある点です。動物の治療は薬浴をしたり、外用薬を皮膚に塗ったり、真菌に有効な薬を内服することです。また感染した動物を治療する飼い主さんの手も消毒してもらい、感染予防します。
ところで、感染動物が日常的に使用している敷物や、薬浴後に使用するタオルですが、真菌の胞子で汚染されているはずです。汚染した布類はどのように洗濯したら衣類からの再感染が防げるでしょうか。それが今回の論文内容です。
今回は敷物、という仮定ですが、感染した動物を膝に載せて処置をすれば、飼い主さんの衣類も同じように汚染されるはず。私たちは白衣を塩素系漂白剤に、薬浴後に使用したタオルは薄いヨウ素液に浸漬して洗うのですが、ご家族の方の衣料はそんなわけにもいきません。そのような意味で、皮膚糸状菌に汚染された洗濯物の除染というタイトルは興味深いものでした。
実験は水温30℃、60℃、塩素系漂白剤有り、なし、タンブル乾燥有り、なしの異なる条件下で布を洗濯した結果、布にまだ真菌が残っているのかどうかを検査したものです。
結果にはおどろきました。洗濯方法のどれもが結果的に培養陰性になっていました。冷水で水洗しただけの段階では培養は陽性に出ましたが、感染レベルは最小という結果で、2回の洗浄ののちにはそれも陰性になっていました。さらに、すすぎ水は胞子によって汚染されていなかったし、洗濯槽も機械的な洗浄と、その後の消毒剤で簡単に汚染は除去されたということです。
カビの胞子に汚染された布類も「しっかり攪拌できる態勢で(あんまり衣類を入れすぎないということですよね)、洗濯時間は長めに設定して2度洗いを行えば、水温は高くなくても塩素系の漂白剤を使用しなくてもカビの胞子は除去できる」というわけです。
ジーンズに白いまだら模様をつけることなく、普通の洗濯をしていれば大丈夫!ということですね。
安心しました。
さて、皮膚科に関しては、昨年からアトピー性皮膚炎のための新薬(ヤーヌスキナーゼ阻害薬)が出ていますし、この春からはアレルギー性皮膚炎のための新しい特別療法食も登場しました。アトピー性皮膚炎ですが、原因が明らかになっていても原因除去となる環境整備が難しいことから、治療の3本柱は①皮膚ケア、②投薬、③食事管理です。①に関しても薬浴剤はいろいろ開発されています。皮膚の状態に合わせたシャンプーを選ぶことや適した使用量を惜しみなく使うことなどももちろんですが、薬浴方法(薬浴の頻度、好ましい湯温、薬浴時間、泡シャンプーその他)についても新しい情報が出てきています。そして「皮膚の炎症」を抑えるため、Ω3脂肪酸をはじめさまざまなサプリメントなども使用が望まれるわけですが、今度の療法食にはそうした「入ってくれてるとウレシイ」栄養素や抗酸化物質などもよいバランスで添加されていて、たいへんおすすめです。
今日も午後から皮膚関連のセミナーに出かけるのですが、いよいよ本格的な痒みの強い季節に突入になります。薬浴の頻度も増しますし、場合によってはお薬の種類など増やさないと乗り切れないわんこも出てくるかもしれません。いつもながら治療のご理解とご協力ありがとうございます。そして今シーズンもよろしくお願いします。