トキソプラズマのお話し

 先日、新しく猫を飼育始めた患者さんに「トキソプラズマ症」が心配であるとのご相談をお受けしました。トキソプラズマ症はこれからお母さんになろうという年齢の方には特に関心の高い人獣共通伝染病です。今日は「トキソプラズマ症」についてお話しします。

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感染性を持つ成熟オーシストを
経口摂取すると感染します。
そのほかシストやタキゾイトのかたちの
ものからも感染します。





<トキソプラズマは寄生虫>

トキソプラズマは猫を終宿主とする寄生虫で、犬や鳥に寄生するコクシジウムと同じ原虫の仲間です。おなかの寄生虫としてよく知られている「回虫」や「鉤虫」は線虫類で、腸管のなか(食べ物の通り道である管腔の中)にいますが、原虫は腸粘膜の細胞の中にいます。腸管をちくわに例えると、線虫類はちくわの輪っかの真ん中、チーズやキュウリを通す部分に住んでいます。原虫はちくわがチーズに接触する部分の、ちくわの表面だけどちくわそのものの中に住んでいます。線虫はミミズのようなかたちで目でも確認できますが、原虫は顕微鏡でなければ確認することはできません。細胞の中に入ってしまうくらいですので、すごく小さいです。そして、成長の過程でかたちが変わります。うんちの中に排泄されるときは「オーシスト」と呼ばれる小さな楕円型をしています。10×12㎛の大きさです。体内に入って急速増殖するときは「タキゾイト」と呼ばれるまが玉みたいなかたちです。2×6㎛の大きさです。増殖を中止し、ひとまず落ち着いてなりを潜めるときは「シスト」と呼ばれ、比較的大きな球の中に沢山の分子を蓄えたくす玉のようなかたちです。「オーシスト」「タキゾイト」「シスト」はそれぞれ増殖段階のステージ名になります。

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猫の体内では腸管だけでなく
他の臓器にも分布していきます。
 

<猫のトキソプラズマ症>

猫にトキソプラズマが感染していると、どのような症状が現れるのでしょうか。

ほぼ、無症状のことが多いです。虫自体は非常に小さく、また増殖する場所がさまざまな場所であるため、寄生場所により、寄生された猫の様子も異なります。そして寄生場所がいろいろあるので、猫がトキソプラズマに感染しているかどうかの検査方法は糞便検査だけでなく、血液検査や組織検査に頼ることになります。

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豚肉にはトキソプラズマ感染性のものがあります。
見た目には分かりません。

 

<トキソプラズマはどこから感染するのか>

猫はトキソプラズマの「オーシスト」か「シスト」を含んだネズミ(の生肉)を食べるとトキソプラズマに感染します。傷や粘膜から「タキゾイト」が侵入してくることもあります。母さん猫から胎盤を介して感染することもあります。

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猫の腸内、腸絨毛の上皮細胞内で増えていきます。
細胞が破れ、糞便中に出てきます。




<猫のトキソプラズマ症いろいろなパターン>

①腸管

経口感染したトキソプラズマは猫の腸粘膜の細胞の中で増殖します。一度に大量感染すると、粘膜細胞も一時に壊れるため、下痢などの症状は重篤になります。でも子猫や猫免疫不全ウィルスに感染した猫以外は、無症状であることが多いです。

②全身

状態の悪化した猫では、発熱したり、リンパ節が腫れるなどの全身症状を出すこともあります。妊娠猫では流産をおこすこともあります。

③中枢神経(脳)

進行性の麻痺をおこすことがあります。

④眼

ぶどう膜炎の症状(眼が赤い、角膜が濁って白いなど)をおこします。繰り返されることもあります。

 

<猫のトキソプラズマ症の検査>

猫がトキソプラズマに感染しているかどうかは糞便検査と血液検査で調べます。

①糞便検査

トキソプラズマが沢山増えると、腸粘膜細胞を破ってオーシストが出てきます。このときは糞便検査で「オーシスト」を確認することができます。とても小さいため、数が少ない場合は見逃してしまうこともあります。また、他のコクシジウム類との鑑別はできません。

トキソプラズマが腸粘膜細胞を破っていないときは糞便検査でオーシストを見つけ出すことは出来ません。外部委託の糞便を利用した検査は、特異的な遺伝子検査によるものです。オーシストを見つけ出せなかった場合もトキソプラズマを見つけ出します。

②血液検査

血液検査も外部委託検査です。感染が認められた猫にはトキソプラズマ抗体ができています。血清中のトキソプラズマ抗体の量を調べます。

このほか

③組織検査

④マウスに接種する検査

がありますが、これらは実際的な臨床検査ではありません。

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始めて感染するのが妊娠時だと
胎盤を介して胎児に影響します。




<抗体検査についてもうちょっと>

ヒトの妊娠時のトキソプラズマ検査は抗体価と同時に特異的IgMIgGを測定すると、感染間もない感染なのか、過去の感染なのかを鑑別することができるそうです。(抗体価は感染があったかどうかをみるものですので、あるから心配、ないなら安心ということではありません。詳しい解釈については産科の先生にお尋ねください。)

猫の場合は、この特異的検査はできません。今の感染なのか、過去の感染なのかを判断するのは少し時間を空けてから(たいていは2週間から3週間)もう1回測定して、前回と今回の2つの価を比較する方法で調べていきます。抗体価に変化がなければ過去の感染で、抗体価が急上昇しているようなら今回の感染、今が急性感染期であることになります。

 

<ヒトのトキソプラズマ感染経路>

ヒトも経口感染でトキソプラズマに感染します。

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猫の糞便中に排泄されたオーシストは
成熟すると感染性となり、
土や砂の中でしばらく生きています。



①猫の糞から

猫の糞に混じっていた成熟オーシストを口にしてしまうと感染します。でも猫の糞を口にするというのはどのような状況でしょうか。ヒトは猫のウンチを食べることはありません。しかし家猫が感染していたとき、おうちの中の猫トイレで排泄した猫の便を片付けるときに、もしかしたら手に付着してしまうのかもしれません。昔から「危険ですよ」と言われてきたのは、公園の砂場です。公園の砂場に外猫が排泄した便があると、子どもが砂場遊びをするときに一緒に遊んでいたお母さんの手にトキソプラズマの成熟オーシストが付着することがあります。公園で砂場遊びをする機会は減っているかもしれませんが、猫は良く耕されてふわふわになっている土が大好きです。畑仕事をされるアグリお母さん、家庭菜園でも、ガーデニングでも条件は同じことになります。

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生肉を下処理するとき、
まな板や包丁にシストが付着します。
調理器具の洗浄が不完全だと感染します。




②不十分な加熱処理の豚肉から

「牛肉はレアで食べても良いが、豚肉はしっかり加熱調理して食べましょう」というのを聞いたことがあるでしょうか。豚はトキソプラズマの中間宿主になっていて(ヒトも中間宿主です)、お肉の間にトキソプラズマのシストがあるかもしれないからです。不十分な加熱による経口摂取は、獣肉加工品であるソーセージ(生のもの)の場合も関係してきますが、まな板の上で生の豚肉を下処理した後、まな板や包丁を十分に洗わず、生で食べる野菜を処理したときにも感染の心配が出てきます。むしろこのパターンが一番多いのではないかと言われてきました。今、人気のジビエ料理ですが、野生動物(シカなど)も感染の危険はあります。

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加熱不十分な豚肉とその加工品から
感染することがあります。







 <ヒトのトキソプラズマ感染>

ヒトがトキソプラズマに感染した場合、終宿主である猫の感染とは少し違ってきます。腸の血管内に侵入したトキソプラズマは増殖体であるタキゾイトのかたちで全身に運ばれ、あらゆる組織に入り込み、増殖していきます。特に薬や抗体が届きにくい場所である脳、筋肉、眼などでは、シストを形成して生き残ります。妊娠中であると、胎児にもタキゾイトは侵入します。流産を起こしたり、胎児の発育不全が起こります。

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妊婦さんへの感染の主だった経路は3つで
猫だけが犯人ではありません。
注意すれば感染を防ぐことが可能です。


 

<トキソプラズマからの感染を防ぐ>

ヒトの感染を防ぎましょうという内容です。

①飼い猫をクリーンに

家猫がネズミを捕食するのはトキソプラズマ感染の危険を持ちます。豚肉の入っていたトレーをいたずらしたネズミは豚肉からトキソプラズマ感染を受けているかもしれません。するとネズミの身体にトキソプラズマのシストがあるわけです。猫の捕食行動は止めさせることはできないかもしれませんが、もし見つけることがあれば摂食は止めさせてください。

②家猫からの感染防御

糞便中に排泄されるオーシストが感染能力を持つ「成熟オーシスト」になるまでには1~2日かかります。猫の排泄した便は速やかに、そしてビニール袋などを使ってお掃除してください。

③野猫からの感染防御

屋外で野猫が排泄をするかもしれない砂場や畑の土はビニールやゴム製の手袋をつけて扱うようにします。

④食肉からの感染防御

豚肉は十分に加熱調理するようにしてください。また調理器具の取り扱いにも注意してください。(平成17年から22年の出荷豚のうち抗体陽性であるものは平均して3.9%ほどあるそうです。)

 

<おわりに>

今日は人と動物の共通感染症であるトキソプラズマについてお話ししました。

飼い猫からの感染に不安があっては、猫さんを十分に愛することはできません。不安があるときは検査にお越しください。

 

猫を飼うと、「癒やされるぅ~」と思います。
猫がまだ子猫で、自由奔放に遊んでいると、それを見ているだけで私たちは癒やされ、元気になれます。
それから少し猫が年を重ねていくと、なかなか人の様子を読むのがうまくなります。「今日は疲れているみたいだな」、とか「やばい。怒ってるぞ」、というのが分かるようになるみたいです。知らんぷりしているようで、実はなかなかいいパートナーシップを取ってくれています。ありがたいです。こちらのメンタルな部分も含めて、理解してくれてそのような行動に出てくれるのです。そしてこの頃になると、私たちは猫に頼って、猫に甘えて生きていくようになってしまっているかもしれません。猫を相手にした語りかけが増えていきます。

もう少しすると、これもあっという間で早いのですが、自分の年齢を超えてしまっています。「あれ?老けた?」と感じた頃から、「猫に語りかける」のを卒業して「猫の声を聞く」ようにしてもらえるとうれしいです。そこからは今まで以上に「猫を甘やかしてあげる」ようになってほしいです。

それから、「猫の声を聞いて欲しい」ので、あなたは元気でいてください。猫が高齢になってからはなおさらです。猫を飼育するやさしいあなたにはぜひ、ぜひ、いつも元気でいてもらいたいです。
そんなわけで、暑い日が続いておりますが、ご自愛ください。

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テーマ : 動物病院
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オフィシャルサイト:http://www.heart-ah.com/

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