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犬と猫の乳腺腫瘍

 乳がん月間の今月も、ほかの月と同じように初診で乳腺腫瘍を診察します。「こんなに大きくなるまでわかってやれなかった!」と半べそで連れてこられる患者さん、ここで初めて乳腺腫瘍を確認することになって驚かれる患者さん。まだまだ予防も早期診断もままなりません。治療を中心に行う高次病院とは違って、私たちは病気予防を中心にして犬や猫を護っていくのが本分と思う今日この頃、乳腺腫瘍も「予防できる病気」のひとつであることを伝えきれていないようでがっかりしています。

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1か月遅れになりますが、院内の掲示板は
乳腺腫瘍をテーマにしました。

<もう一度、乳腺腫瘍のこと:犬>

犬の乳腺腫瘍はメス犬に発生する腫瘍の中で一番多い腫瘍です。報告されている腫瘍の50%を乳腺腫瘍が占めています。そしてそのうちの半分(50%)が悪性の腫瘍で、そのまた半分(50%)が転移します。これが「505050ルール」と言われるやつです。乳腺腫瘍が発生する年齢は平均で8歳くらい。ただ、診療にいらっしゃる年齢はもっとずっと後で、13歳から14歳で発見されることもよくあることです。(気づいたときには大きくて、そう、何年越しなんだろうか、というのもみられます。)「これが乳腺腫瘍ってやつだったのか」、としこりには気づいていたけれどそのままにしていたケースもあるくらいです。

日本で人気犬種であるトイプードル、ダックスフンド、マルチーズ、ヨーキーなどのほか、イングリッシュスプリンガースパニエルやコッカスパニエルは好発品種です。品種によって発生率に偏りがあるというのは、腫瘍を発現させる遺伝子や抑制させる遺伝子の関係があるのだろうと思われます。

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避妊手術が遅れ予防ができなかった子たち、
早期発見に努めましょう。
乳腺腫瘍モデルの枕を作りました。
しっかり触って感触を確かめてください。

<私たちはどうして避妊手術をせかしてしまうのか>

まだあどけない赤ちゃん犬のときに、ワクチンのお話の延長線で避妊手術のお話をしています。性ホルモン刺激は乳腺腫瘍発生の危険性を増加させるので手術時期と乳腺腫瘍発生とは深いかかわりがあるからです。

2歳よりも前の段階で卵巣子宮摘出手術(いわゆる避妊手術です)を行うと、乳腺腫瘍発生の危険性を大きく減少させます。未避妊のメス犬に発生を100としたとき、最初の発情以前に手術を行ったときはわずか0.51回目の発情後(かつ2回目の発情前)に行った場合は8という発生です。残念ながら2回目の発情以降で手術を行った場合については乳腺腫瘍発生を抑制させると思われる数字ではありませんでした。

生存期間(長生きできるのかどうか)の調査も行われていて、①2歳以前の手術、②2歳過ぎの手術、③手術をしない、の3つのグループで比較すると2歳前に手術が行われた①のグループは有意に生存期間が長くなっています。そういう意味からも避妊手術のタイミングはとても大事です。

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猫ちゃんの乳腺腫瘍は
残念ながら悪性のことが多いです。

<猫のデータは?>

猫の乳腺腫瘍は、造血系の腫瘍(白血病やリンパ腫)、皮膚の腫瘍に次いで3番目に多い腫瘍です。犬の乳腺腫瘍に比べ悪性のことが多いです。犬では良性腫瘍と悪性腫瘍との割合は11ですが、猫の場合は80%が悪性です。(日本だけのデータでは75%という報告があります。)

 

<猫も避妊手術をしておいた方がいい>

猫でも犬と同じように避妊手術が乳腺腫瘍の抑制になるというデータが出ています。未避妊のメス猫は避妊手術を済ませたメス猫に比べ、7倍も発生の危険度が高いというものです。なりやすさを数値で表すと、未避妊のメス猫の発生を100としたとき、6か月齢よりも前に卵巣子宮摘出術を受けたメス猫では9で、6か月から1年の間に手術を受けたメス猫では14という具合です。2歳以上で避妊手術をした場合では未避妊の場合と比べ、乳腺腫瘍のなりやすさに違いは見られませんでした。

経口避妊薬として使われることがあるお薬(合成プロジェステロン)には乳腺腫瘍発生と強いかかわりを持つものがあります。つまり、このお薬を使用すると乳腺腫瘍になりやすいのです。猫の乳腺腫瘍にも犬と同様、性ホルモンの受容体があるしるしです。ですから経口薬で発情をコントロールするよりも外科的な方法できっちり避妊を行う方が乳腺腫瘍発生に対しては危険度が低下します。

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治療の主体は外科手術です。
手術方法はいろいろ。

<乳腺腫瘍の治療は原則手術>

乳腺腫瘍の治療の中心は外科手術です。大きさやできている部位、数などにより、手術の方法は異なります。

一つならそこだけ切除する(部分切除)だけで済むかもしれませんし、二つの乳頭にまたがって二つ以上あるとか、二つの乳頭の真ん中あたりにできている場合は乳腺を2つか3つつなげて切除(領域乳腺切除)する必要が出てきます。犬の乳頭は左右5対あり、乳腺は頭寄りの3つと、尻尾寄りの2つがつながっているため、このひとくくりをまとめて切除するのです。複数の腫瘍ができているとき、片側の乳腺組織を頭の方から尻尾の方まで全部切除(片側乳腺全切除)することになります。これは根治的切除ともいわれ、まだ発生していない乳腺での再発の危険性を減少させることができます。さらに、右側にも左側にもできているときは段階的な両側乳腺切除が行われます。先に右または左の切除をしたら、創が治ったと思われる1か月くらい後に残るほうの乳腺を切除するという2段階(またはそれ以上)にわたる大掛かりな手術です。どんな腫瘍でも同様ですが、明らかな腫瘍がある部分よりも外側を切り取り線にします。肉眼的に正常だと判断できる部分まで含めて左右の乳腺を大きく切り取ると、残った皮膚を縫合したときに腹壁の皮膚が強く緊張して腹腔への圧力が増加します。犬は不快に感じるし、創口が開いてしまうリスクが高まるので、一度に手術をすることを避け段階的な手術を行います。手術範囲の大小(全層にわたって切り取るか一つだけ取るか)によって、その後の生存期間が変わることはありませんが、腫瘍から切り取り線までが不十分だと切り取り線上に残っていたかもしれない腫瘍細胞から再発が見られます。猫の場合は犬よりもより大きい範囲の手術を行うことになります。それは悪性であることの方が多いからです。

なかなか手術の決心がつかないからと手術を延ばしてしまうのはいけません。そのままにしていると腫瘍は徐々に増大し、腫瘍の大きさはその後の経過に大きく影響するからです。腫瘍径が1cm未満なら予後は良好ですが、大きくなるにつれ生存期間は短くなります。発見したらできるだけ早く心を決め手術への段取りを組むことにしてください。

未避妊の場合、同時に卵巣子宮摘出術を行うかどうかの判断もしなくてはいけません。これにより乳腺腫瘍の再発を防止するとか生存期間を延長させるといった明らかな証明はありません。しかしすでに子宮の病気を持っているときは実施するべきと考えます。また性ホルモンの影響によりこれから子宮の病気に発展するのを防止することがあることも考慮に入れ、しっかり検討してください。

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予防は早期の避妊手術です。

<手術以外の治療法はない?>

気が付いたときは犬が高齢のこともあり、なんとか手術以外の方法で対処したいと思われるようです。しかし残念ながら、犬の乳腺腫瘍に対して、抗がん剤による治療、ホルモン療法、放射線療法のどれもが、手術による治療以上には効果はありません。

猫の乳腺腫瘍は、悪性であることが多いため、術後の補助療法として(手術に併用するかたちです)、また、どうにも手術をすることができなかった場合の唯一の治療法として、抗がん剤による治療をチャレンジすることがあります。生存期間は延長されるようですが、腫瘍が消失することが目的地点にはなれません。腫瘍が増大してきたり、ほかの病気が発生してきたなどの理由で治療を中止することになることがほとんどです。

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過去の乳腺腫瘍に関するブログ文章など
印刷して一緒に置いておきます。
詳しいことはこちらをどうぞ。

<おわりに>

高齢になってから発生することが多いのが腫瘍です。なかなか手術に踏み切れないし、ましてや子宮の病気も同時に見つかったとなると(まれに膣の腫瘍を併発することもあります)なおさら決断が鈍ることでしょう。けれど、今の決断がのちの安定生活の礎になることは間違いありません。

なお、手術の前には肝臓や腎臓、心臓や肺など麻酔にかかわる機能を調べるためいくつかの検査を行います。また転移が見られた場合は予後が大きく変わるため、転移の有無を確認する検査も行います。術後1か月余りで亡くなってしまったという話を耳にすることもありますが、お隣のわんことうちのわんこでは病状が大きく異なるかもしれません。マイナス情報ばかりを信じ込むのも良くありません。

また、犬や猫でも免疫療法的なものに走ると、せっかくの残りの一生を棒に振ることになります。

 

何よりも大切なのは、早期に避妊手術を行うことだということをもう一度付け加えておきます。

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テーマ : 動物病院
ジャンル : ペット

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