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前庭疾患

 「頭が傾いている、ふらふらする、食欲がない、食べたけど吐いてしまった」などで連れてこられる犬を観察すると、目がぐるぐる回っていることがあります。歩く様子を見ると同じ方向に輪を描いて回っていることもありますが、支えないと足がもつれてしまったり、止めても止まらない、芋虫ごろごろのように(身体の軸に沿って)回転してしまうなど運動機関にも問題が発生しています。これらは「前庭系」と呼んでいる、身体を真っ直ぐにさせることに関係する器官に障害が発生したときにみられる特徴的な兆候です。このような症状を出している病気を総称して「前庭疾患」といっています。今日は前庭疾患についてお話しします。

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<からだが真っ直ぐに立っていること>

耳の仕事はもの音を聴くことのほか、からだのわずかな動き(傾き)を関知して体位を保つ(重力に対して垂直になるようにバランスを保つ)という平衡感覚の仕事も行っています。砂時計を反転させたときに上から砂がさらさらと降りてくるわけですが、傾いていると下の容器に真っ直ぐ入りません。このような砂の動きを身体の器官がキャッチして、身体を真っ直ぐにさせる神経伝達が起こります。この仕組みに関与しているのが前庭神経です。体操競技の選手がさまざまな技で身体をひねっていても、フィギュアスケートの選手たちがくるくる回転しても、その後身体を真っ直ぐに立てるのはこうした平衡とバランスの機能がからだに備わっているからです。

 

<前庭疾患にみられる神経学的な変化>

まず飼い主さんがはじめに気づくのは「ふらつき」です。平衡感覚がなんかオカシイというとき、おそらく荒波の中の船にいるような感覚ではないかと思います。真っ直ぐに立っているのか、傾いているのか、次々に状況が変わるので身体が対応できていない状態です。船酔いは「食欲不振」と「おう吐」をもたらします。前庭疾患も乗り物酔いのときと同じように「食欲不振」と「おう吐」を起こします。

病院で発見できるからだの変化として「姿勢の変化」があります。「首をかしげている」のは軽度です。傾きが大きくなると「身体の軸が傾いている」状態になります。そしてそこから「横になってしまう」、さらにそれが連続して「回転してしまう」などの変化もあります。

立っていられる場合は歩き方を観察します。犬は真っ直ぐ歩いているつもりかもしれませんが、大きく輪を描いて頭を傾けている方向に進み、さいごはまた元の位置に戻ってきます。旋回運動といっています。

「目の動き」にも注目です。「目玉があっち、こっちに向いている」ことや「目がぐるぐる回っている」ことなどが起こります。視線が合いません。

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<原因は何だろうか>

学問的には脳の問題(中枢性)か、または前庭部分の問題(末梢性)か、に分類していますが、臨床的に区分を付けるのは難しいことが多いです。髄膜脳炎や小脳部分の血管性の問題(小脳動脈の閉塞や出血など)、腫瘍などが中枢性の原因として知られています。MRICT、脳脊髄液の検査なども含め精査が必要です。これはおかしいぞ!という場合に高次病院を紹介することになるパターンです。末梢性の原因としては、内耳に発生した炎症が元で前庭症状が出る場合です。それから、きっとこれが一番多いのだろうと思いますが、高齢犬に発生するタイプで「特発性前庭疾患」です。「特発性」というのは「原因不明の」と同じ意味ですが、内耳の中のリンパ液に異常があるのではないかとか、前庭器官が酔っているのではないかとか、自己免疫性疾患から発症しているのではないかなど疑われています。

この病気を人でいうところの「メニエール病」みたいに目が回って気持ちが悪くなる病気です、と紹介することもありますが、人の病気と正しく相関する病名ではありません。人では「突発性難聴」でも急なめまいが起こるわけですが、犬ではすでに老犬性難聴になっていることも多く、前庭疾患を機に難聴が発生したかどうかを見極めることも難しいです。

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<実施する検査>

発生の経過は飼い主さんでなければ分からないことですが、ゆっくりと進行してきたのか急に発生したのかは診断を進めるのにヒントになります。

意識レベルの確認や、立っているときにみる神経学的な検査の反応が高次病院へ繋げた方が良いかどうかを見極めるポイントになります。

内耳の検査は特殊なため、外耳の検査を行うくらいしかできません。耳鏡で耳を覗いて観察することです。けれど必ずしも外耳炎を伴っているとも限らないので、外耳炎があれば炎症が中耳や内耳に及んでいるだろうと想像しますが、外耳の炎症が無かったといっても内耳が無事かどうかの判断は難しいです。

血液検査は他の病気を併発していないかどうかを確認することも含め実施します。クレアチンホスホキナーゼ(CPK)は筋肉に大量に存在する酵素ですが、神経の損傷があるときにも高い値になるため注目する項目です。自己免疫疾患が特発性前庭疾患の原因の一つとして疑われていることもあり、C反応性タンパク質(CRP)の値にも注目します。さらに甲状腺機能低下症が前庭疾患の原因のこともあるため、内分泌学的な検査(T4)も行います。

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<支持療法と対症療法>

はっきりとした原因がつかめれば、原因に対処した治療を行いますが、大方は原因の特定はできないので、特効薬はありません。それでも「食べられない」「おう吐してしまう」といった問題に対しては輸液で脱水しないようにする支持療法や、吐き気を抑える注射をするなどの対症療法を行います。一般に静脈を経由して点滴を行うわけですが、ぐるぐる回転がひどいときは点滴の管もぐるぐる巻きにしてしまうことがあり、皮下補液に切り替えざるを得なくなります。乗り物酔いに似た前庭疾患は、おう吐をコントロールするのに酔い止めの薬も併用します。内耳の炎症が細菌感染からおこることがあり、抗菌薬を使用します。自己免疫性の病気が疑われる場合はステロイドの薬です。甲状腺機能低下症が確認されれば甲状腺ホルモンの薬です。あまりにもぐるぐる回転が著しく静かにできないからという理由で、鎮静関連の薬を使用する先生もおられます。当院ではトランキライザーは使用していません。

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<治りますか?>

たいていは数日で目の回転が抑えられます。しっかり止まるまでには至らないにせよ、回転スピードが遅くなるとかの変化は見られます。そして1週間から10日くらいの経過で食事もとれるくらいに回復し、2週間から3週間もすると以前と同じ生活をすることができるようになります。しかしひどく「芋虫ごろごろ」状態になってしまった場合の回復にはもっと日数が必要です。ひと月近い経過になる場合もあります。根気強い治療の継続が必要です。

それでも首の傾きは残ってしまうことがあります。特発性前庭疾患で治療後に追跡調査を行うことができた49頭のうち26頭で2か月後にも首の傾きが残っていたという報告があります。半分くらいの犬で完全な元通りにならないということになります。



寒い時期の方が前庭疾患の発生が多いように思います。頭をかしげてよたよたしているときは早めにお越しください。

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テーマ : 動物病院
ジャンル : ペット

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