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慢性腎臓病と栄養

 腎臓病も心臓病と同じように栄養学的サポートが重要です。腎臓病に適した食事によって寿命が延びることも研究によりわかっています。今回は腎臓病のときの食事、栄養についてのお話しです。

 

<腎臓病と食事>

腎臓は糸球体と尿細管から構成されているネフロンの集まりですが、いろいろある腎臓の働きを集約すると、①糸球体で代謝物を濾過して血流から老廃物を無くす「除去」と、②尿細管で水分をもう一度血流に戻し入れる「水分の節約」ということになります。(そのほか、もっとたくさんの仕事も担っています。)腎臓の機能がある一定のところを超えてしまうと、尿素やリンなどの有害な老廃物が体内に戻り始め、また体内の水分がより多く失われるために脱水につながります。

このような問題は食事によって(部分的ですが)対処が可能です。高品質で身体を維持するのに余剰分が出過ぎないレベルの蛋白質とリンを抑えた食事にすれば尿素やリンの生成量は減るので、「除去」という仕事を腎臓に過剰に強いることがなくなります。また水分の多い食事であれば「脱水」の予防に役立ちます。

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極端な分類ですが、
犬は「漉す」力が弱まるタイプ、
猫は「水を節約」する力が弱まるタイプの
腎臓機能低下が多いです。
 

<腎臓病の動物に合った食事をすること>

腎臓病は治る病気ではなく、進行していく病気です。だから残る腎機能を大切に使い、進行を遅らせることが大切です。その一つが栄養管理です。個々の腎臓病患者さんの状況に合わせた治療の一環に食事療法を組み合わせて、腎臓を長持ちさせていきます。

腎臓病用療法食は長年の研究で、通常食を食べた群と比較して長生きするという結果も得られています。

腎臓病療法食の特性についてお話しします。

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犬も猫も腎臓病療法食で長生きすることができます。

  リンが制限されている

 腎臓病療法食として設計された食事はどれもリンが制限されています。体内から排泄されるリンはすべてが腎臓を介して尿中に出て行きます。腎機能が損なわれると、排泄が滞るため体内のリンレベルが上昇し始めます。血中のリン濃度を抑える最も簡単な方法は犬や猫が摂取するリンの量を抑えることです。病気の初期段階では少し制限するだけで良いのですが、病気が進行していくに従い、より多くのリンを制限する必要が出てきます。それでも体内にリンが滞るようになったときは腸管内でリンと結合する「リン吸着薬」を服用する必要が出てきます。それで体内にリンが入るのが制限されます。(初期段階からリン吸着薬を服用する必要はないです。)

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リン制限をしてある療法食と、普通の食事では
生存期間に大きな差が出ました。

  ちょうどいい量の良質な蛋白質が入っている

 食餌中の蛋白質は多すぎると有害になる可能性があります。蛋白質を多く含む食品には必ずリンが多く含まれています。また余剰な蛋白質は分解されて窒素分が高くなります(血液中の窒素レベルが上昇します)。腎臓病で筋肉の衰えが目立つ猫に食餌中の蛋白質が制限された食事を与え続けるとさらに筋肉を消耗することになります。そのときの状態に合った「ちょうどいい量」はそれぞれ違うので、個別対応をしたいです。

 一般に、初期の腎臓病には低レベルの蛋白制限をし、病気が進行するに従って蛋白制限は低レベルより中レベルに抑えられているものを選択します。腎臓病療法食でも「初期用」と「進行時用」にステージにより異なるラインナップができています。

 「良質な蛋白質」というのは良く聞くワードかと思います。最上級A5ランクの牛肉と週末スーパーで購入する大袋入りの鶏ささみの違いでしょうか。いいえ違います。蛋白質は分解されてアミノ酸になりますが、アミノ酸の中でも身体が必要とする、すなわち筋肉量を促進させる「必須アミノ酸」をすべて一定レベル以上バランス良く含むことが「良質」と評価されます。

 タンパク質の少ない食事を与えることに加えて、肉、ジャーキーなどジャンクなおやつ、チーズなどの高タンパク質のおやつを与えないようにする必要もあります。

 蛋白が尿から漏れ出てしまっているのに、もっとたくさんの蛋白質を補わなくていいのかしらという考えをお持ちの患者さんもおられるかもしれません。食餌中の蛋白量は少ない方が漏出する量も少ないという研究結果が出ています。そのほうが腎臓に対する負担も少なくなりますので、ぜひ蛋白制限食を与えてください。

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筋肉の痩せをみるスコア表(犬)です。

  エネルギー(カロリー)の必要量が補えるようになっている

 エネルギー要求量と食餌中のエネルギー量が見合っていないと身体は痩せてきてしまいます。必要量に十分足りる量を与える必要があります。腎臓病で高窒素血症が出てくると、嗜好性も低下し、食欲不振になってきます。しっかりした量を猫自身がカバーできなくなってきますので、少量でも十分なエネルギー量がまかなえるような高カロリーな食事が望ましいのです。腎臓病用療法食は一般にハイカロリーに作られていることが多いです。

 また、それぞれのメーカーさんは嗜好性に対する研究にもしのぎを削っています。「チキン味」のほか、日本の猫がより嗜好性を示す「魚味」などバラエティーも豊かです。

 それでもなお筋肉を削っていくような場合は、カロリーを補う薬を添加します。

 

  缶詰食VSドライフード?

 缶詰やパウチ食はドライフードに比べ水分含有量が多いため、脱水が起こりやすい腎臓病の猫に勧めることが多いです。ただし、その水分量がカロリー密度を下げていますので、ある程度の分量をたべていかないとドライフードに比べて体重維持が難しいこともあります。

 ドライフードよりウエットフードを好んだ場合の注意点は、嗜好性の継続性です。缶詰食に切り替えた当初は喜んで食べてくれるかもしれませんが、その後も嗜好性が維持されるとは限らないのです。もし十分量が食べられず、体重低下があるときはドライとの混合にする、ドライフードにもどすというのも妥当な選択肢になります。絶対に缶詰食の方が勝るというわけではないので臨機応変にとらえてください。

 一方、缶詰食やパウチ食には見向きもしない猫もいます。各社努力はされているのですが、猫は気むずかしい生き物ですので、私たちの意図と希望にすんなり沿ってはくれません。いろいろ試してお気に入りが見つかると、皮下補液を始めるまでの期間を延長させることができるのにと思いますが、これも猫次第のことです。

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おなじく、猫の筋肉スコア表です。
しっかり栄養摂取をしないと筋肉を壊していきます。
(異化亢進状態が進んでしまいます)

  低ナトリウムになっている

 腎臓病では高血圧になっている猫が多いことや、ナトリウムそのものが利尿につながることから、脱水を促進させてしまうため、食餌中のナトリウム量は少なくなっています。

 高塩分(ナトリウム)の食事は血圧を上昇させ、腎臓の損傷を悪化させる可能性があるため、腎臓病のペット用に設計された食事はナトリウムが少ないです。ナトリウムは利尿につながるため、猫の脱水を促進させてしまいます。また、チーズ、パン、多くの市販の犬猫用おやつなどは高塩分ですので、これらを与えることも避けてください。カロリーあたり1 mgkcal)未満のナトリウムを含む食品やおやつは許容できる範囲の量であれば大丈夫です。低ナトリウムのおやつには、果物や野菜が含まれます(ただし、ブドウ、レーズン、玉ねぎ、ニンニクは避けてください!)

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しっかりお水を飲ませてください。


   オメガ3脂肪酸が含まれている

 オメガ-3脂肪酸・EPA(エイコサペンタエン酸)およびDHA(ドコサヘキサエン酸)は、炎症の軽減に役立つことが知られています。慢性腎臓病が進行すると、「フリーラジカル」(酸素代謝中に生成される活性酸素分子)の形成により腎臓が傷つけられる可能性があります。オメガ3脂肪酸は腎臓の血流を良くし、糸球体内圧を下げます。腎臓病用療法食には、糸球体と尿細管間質の健康維持のため、オメガ3脂肪酸が増強されています。

 

  アルギニンが含まれている

 アルギニンが強化されている療法食もあります。アルギニンは、酸素と反応して一酸化窒素を生成する必須アミノ酸です。一酸化窒素は、血管の平滑筋を弛緩させ、血圧を低下させます。うっ血性心不全を有するヒト患者は、血管一酸化窒素のレベルが低く、血管機能障害により運動不耐性が増加し、生活の質が低下すると言われています。アルギニンの補給は、血管機能を改善し腎臓病の動物にも利益をもたらします。

 

  身体を酸性にしないようにできている

 腎臓病用に設計された食事は、身体が非酸性になるように設計されています。(多くのドッグフードとほとんどの猫用食品は酸性になるように設計されています。)腎臓病の猫は酸性になりすぎる(代謝性アシドーシスといいます)ことが多いため、この問題に対処するように設計された腎臓病用療法食を利用しない手はありません。

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食欲がないときに腎臓病療法食に変更すると食べません。
急性悪化期は治療で状態が安定してから食事をスタートさせます。
食事を温めるなどの工夫で嗜好性が高まることがあります。

<手作り食・そのほか>

腎臓病の進行に伴って食欲が減ってきます。健康な体重が維持できなくなってきます。「なんでもいい。食べて欲しい」と思うようになります。けれど特定の食品だけを与えるとそのときは良い選択であったように見えますが、そればかりを与え続けるのは良い方法ではありません。手作り食といえども栄養が不完全にならないよう研究して、安全で栄養価の高いレシピに基づいて衛生的に調理してください。完全手作り食を希望される場合はレシピをお作りしますので、「適当に」作らないでください。

 また、ネット上には多くの「腎臓に良い」と名打った猫用食品が出ていると思いますが、腎臓病療法食とは異なるものです。(本当に間違いのない製品ができたのであれば、彼らはまず動物病院へ売り込みにきているはずです。)賢い消費者であってください。

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病気と食事についてのガイドブック。
待合室の書架にあります。
腎臓病以外の病気食についても書かれています。
お手にとってご覧ください。

<早期発見と早期治療介入>

早期(IRISのCKDステージ1のとき)に積極的な治療介入をすることについては大規模な研究がないため「エビデンスがない」ということになります。けれど血液検査上で異常値が認められるようになるまで何もしないで待つよりは、理論的に合っている食事でケアを開始していくのは、QOLの高い期間を長く過ごさせてやれるのではないかと思います。腎臓に負担のかかるお薬を使わないこと以外にも、お水や食事で腎臓を守っていきたいです。
それから、IRISのCKDステージが2以上の段階では、ここでお話ししてきたような特性を持つ従来の腎臓病用療法食は十分なエビデンスがあります。ぜひこれまでの食事から切り替えていただけたらと思います。

 

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テーマ : 動物病院
ジャンル : ペット

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