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肛門のう腺癌

 先週の続き。今日は悪い方の腫瘍のお話しです。
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<肛門のうアポクリン腺癌?>

肛門嚢腺癌(こうもんのうせんがん)といわれることもあります。犬の肛門周囲には肛門嚢(こうもんのう)の内に分泌物を出す役割をしている複数の腺組織があります。その中の一つがアポクリン腺です。アポクリン腺は汗腺(あせをつくる腺)として聞いたことがあるかもしれません。このエリアで一番頻繁に観察されるのが肛門嚢アポクリン腺癌で、腫瘍全体から見るとごくごくまれな腫瘍(わずか2%!)です。発生傾向ですが、以前は9歳から11歳くらいの中高年に多く、オスよりもメスに多いとされていました。たしかに女の子ばっかりだと思っていましたが、今の調査では性別による発生差はありません。発生の多い年齢層は今も変わっていません。報告の多い犬種はジャーマンシェパード、コッカスパニエル、ゴールデンレトリバーですが、これも日本の今の人気犬種とは異なっていますので、うちの子がこの犬種ではないからと言って安心できるわけでもありません。ボーダーコリーやダックスで経験があります。

とにかく悪性です。

どうして悪性なのかというと、①がんと正常組織の境目がはっきりしていないから、というのと、②簡単に近くのリンパ節に転移してしまうから(初めての診察のときに既に転移が見つかることも珍しくないのです)、というのと、③遠くの組織(肝臓や肺、骨!さらに心臓、腎臓、副腎、膵臓!)にも転移してしまうから、そして、④高カルシウム血症で全身に害を及ぼすことがかなりの高率でみられるからです。これは獣医さん泣かせの悪者腫瘍です。

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<飼い主さんにわかる症状は?>

肛門の周りが大きいことです。犬は不快な感じを示します。「お尻が腫れている」とか「お尻から出血する」、「擦って組織を壊してしまう(舐め壊すことも入ります)」のが来院理由上位3つです。お腹の中のリンパ節が腫れて、うんちの通り道が細くなり、「うんちが出にくい」ことが起こるかもしれません。先ほどお話しした高カルシウム血症になっていると、「お水をたくさん飲む」「オシッコがたくさん出る」「食欲がない」「寝ていることが多い」などの症状を出しますが、これらは年取ったな、などと思われてしまいそうな症状です。

 

<診断のための検査>

まずは外から見て、大きさを確認させて貰います。お尻から指を入れて、膨らんでいるところを直腸から触ってみる(直腸検査)も行なってみます。それからこれだけではわからないので、レントゲンの検査や超音波検査の画像から身体の中の様子も見ます。血液検査もスクリーニング検査として実施し、カルシウムの値に注目です。すべての腫瘍について言えることですが、細胞の塊から細胞を取り出して、腫瘍細胞を顕微鏡的に調べる検査は必須です。病理の先生にも意見を伺うことになります。

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<総合的な治療が必要です>

お尻周りにできた腫瘍組織(原発巣といいます)をいかに制御するか、つまり、しっかり取り切れそうか、または小さくするだけ(減容積といいます)になってしまうのかというのがひとつ。そしてもし転移している組織があるならば(実はまず100%は有るだろうという想定の中で考えるわけですが)これをどう制御していくのかというのがもう一つの問題です。

転移している組織も、うんちの通り道を閉鎖するほどに大きくなっているのであれば、なんとか無くすか小さくするかしてあげないと、「排便困難」の問題は解決されず、犬にとってのクオリティー高い生活が望めません。手術で取れそうか、術前に化学療法(抗がん剤です)で小さくしてからなら取れそうか、が最初の検討課題です。また取りこぼしが考えられる場合、はじめから放射線療法を加えた治療を行なう方が良いのかなども治療プランに加わります。さらに、術後に化学療法を行なう場合も、どの抗がん剤をどのように使っていくかについても、リンパ腫のように決まったプロトコールがないので、実にさまざまな治療が考えられます。

従来の化学療法剤のほかに、肥満細胞腫の治療に承認された抗血管新生薬による治療にも反応していることが知られています。こうした経口薬も治療のオプションに加えることが可能です。

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<支持療法も必要です>

腫瘍を積極的になんとかする根本療法に対して、不都合な症状を緩和させるための治療も考えなくてはいけません。高カルシウム血症に対する治療、食欲がなければ点滴も行います。排便困難に対する治療はQOLの高い生活をもたらすものです。便を軟らかくする薬や、繊維分を含む療法食なども含まれます。術後の疼痛緩和のための鎮痛薬なども支持療法に入ります。お尻周りの皮膚に軟膏などを塗ることもあります。これらは退院後、ご家族の人にお願いする処置になるでしょう。

 

<治療の先にあること>

一般に言われている生存期間中央値というのは、治療をしてからどれだけ生きていてくれたのかを全体でならしてみた数値です。どのような治療をするとどのくらい生きられそうなのか、これまでの報告から数値を抜き出してお知らせすることは可能です。けれど、発見されたステージ(どの大きさの腫瘍で、どこにどの程度の転移した塊があって、とか、そういう諸々のことです)もそれぞれ違うため、一概にどの治療を行なったときの余命があとどれくらいという数字を個別に当てはめることはできません。あと何ヶ月(ごめんなさい、何年とは書けません)という具体的な数字をお示しすることはできませんが、単位としては「年」ではなく「月」が妥当だな、と思っています。手術をして、放射線もあてて、化学療法を組み合わせた、最も積極的な治療を受けた犬で2年以上という数字が見つかりました。再発を遅らせる方法や、遠くの組織に転移するのを予防する方法は調べても見当たりませんでした。

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<まとめです>

肛門の近くにできる腫瘍には悪性の腫瘍があります。代表的なのは肛門嚢アポクリン腺癌です。(良性の腫瘍もあります。この腫瘍とは違うものです。未去勢のオス犬によく見られます。)

お尻に「何かある!」と発見することが多いかもしれません。が、「便秘みたい!」で、うんちの出にくさが目立つ症状のときは、お腹の中のリンパ節が腫れて直腸を圧迫していることが多いです。

たまたま血液検査をして、「高カルシウム血症」がみつかるとき、「まさかリンパ腫かアポクリン腺癌か?」と疑って腫瘍を見つけ出すこともあります。

腫瘍がわかったらレントゲン検査や超音波検査、細胞の検査を実施し、治療計画を立てます。

腫瘍は、基本は手術で切り取るものですが、この腫瘍は手強いのでいろいろな方法を組み合わせて挑まなくてはいけません。

早期に発見して小さいうちに対処することが重要だと思います。尻尾の陰に隠れてしまう肛門部を観察するのは十分意味のあることです。

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