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蛋白漏出性腸症

蛋白漏出性腸症のお話しです。

 

慢性的に下痢が続いている犬の中には、消化管から蛋白質が漏出し、低タンパク血症になっている犬がいます。血液検査で総蛋白(TP)もアルブミン(ALB)も低くなっています。もしくは、下痢はないのだけれど、少々の体重低下が有り、血液検査をしてみたらこのような結果に出たという犬もいるかもしれません。

身体の蛋白質が失われているのが腸管からではなくて腎臓からかもしれないという心配は尿検査を行なって確認をします。潜在的にアルブミンを作ることが不足しているかもしれないという懸念は胆汁酸(TBA)などの肝機能検査によって覆します。副腎皮質機能低下症(アジソン病)も血液検査(コルチゾール値)で否定ができます。それらのどれにも当てはまらず残った犬たちが「蛋白漏出性腸症」です。(確定診断には内視鏡検査と組織検査が必要です。)

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うんちはゆるくないこともあります。

<蛋白質が逃げて行ってしまう>

「蛋白漏出性腸症」では、どうして消化管から蛋白質が逃げて出て行ってしまうのでしょうか。その原因は二つ考えられています。一つは腸粘膜が傷ついているから、もう一つは腸のリンパ管がおかしくなっているからです。

微細構造については後述します。

このような病態を発生させる病気はいろいろあります。粘膜を傷つける結果になる病気として、炎症性腸疾患、感染症(パルボウィルスとかサルモネラやキャンピロバクターなど)、副腎皮質機能低下症(内分泌系の病気です)、膵外分泌不全症があげられます。腸リンパ管の異常を起こす病気は、腸の炎症や腫瘍、リンパ管炎、また原因不明のリンパ管拡張症のこともあります。最も頻度が高いのは、炎症や腫瘍に続発する「リンパ管拡張症」です。

 

<深刻な栄養障害です>

これは深刻な問題です。体内に蛋白質が供給されないと必要な蛋白質を作る手段はからだの蛋白質を壊して得るしかありません。優先順位の高い蛋白質は血液蛋白であるアルブミンで、それを得るためには筋肉が分解されます。

アルブミンは失うことができない蛋白質です。アルブミンは肝臓で産生され血流を循環する蛋白質で、血液中に溶けない物質をアルブミンに乗せて運ぶ役割をしています。血液循環が道路だとしたら、アルブミンはバスのようなものです。またアルブミンは一定の濃度により血管内の血液の水分量を維持する仕事も担っています。血中のアルブミン値が低下すると血流に水分を保持できなくなり、血管から水が漏れ出し、組織の中に水を留めるようになります。むくみ(浮腫)や、胸水、腹水です。

「蛋白漏出性腸症」ではアルブミン以外の蛋白質も失われます。それは免疫力に関わる蛋白質、血液凝固(止血システム)に関係する蛋白質、消化に関係する酵素蛋白質などです。これらのからだの運営に欠かすことができない蛋白質も失っており不足しています。

からだは筋肉などから蛋白質を分解し、肝臓でアルブミンなどに再構築させることで一時的にしのぐことはできますが、筋肉組織を常に犠牲にしています。

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体重減少はほぼどの犬にもみられます。

<リンパ管・リンパ液>

リンパは血液と同じように体内を循環する液体です。リンパ液はリンパ管の中をゆっくりと巡っています。血液循環は心臓というポンプ場がありますが、リンパ循環にはそれはありません。筋肉の収縮に伴って送り出されています。静脈圧にも流れは左右されます。リンパ液は血液の液体成分となる組織液と似た構成で、無色の液体で、蛋白質とリンパ球に富んでいます。所々にリンパ節と呼ばれる場所があります。リンパ節はリンパ液の中に入り込んだ細菌や腫瘍細胞、異物を捉えるフィルターの役目をしています。リンパ節でつかんだ免疫情報を持ってリンパ球は全身に出て行きます。リンパ球は免疫担当細胞です。

 

<腸リンパ管>

「リンパ管拡張症」は腸のリンパ管が拡張していることを意味します。リンパ管は周囲の筋収縮によって受動的に縮まってリンパ液が送り出されるわけですが、リンパ管拡張症では、何らかの炎症によって流れがブロックされた可能性があります。腸リンパ管は太く、内圧は高くなっています。

 

<リンパ管拡張症の腸絨毛>

腸絨毛は小さな指のような構造をしています。腸リンパ管はこの中心を走っていますが、リンパ管が高圧になると、柔らかな乳頭部が破裂します。犬の回腸の腸絨毛は走査型電子顕微鏡で見ると「細い葉のよう」だと形容されるように細いのです。エノキタケの先端の傘部分が落ちてしまう感じです。こうなると脂肪分を吸収するというよりも、壊れた先から内部のリンパ液が漏れて出てしまうことになります。リンパ液の成分はタンパク質とリンパ球です。こうしてタンパク質とリンパ球は失われます。血液検査を行なうと低タンパク血症とリンパ球減少症が確認されます。また脂肪分も抜けていきますから、脂肪(脂質)が便中に出てきます。

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ヨークシャテリアは好発品種です。

<消化された栄養素と通り道>

食事中にある主な栄養素(エネルギーを生み出すもの)は炭水化物、タンパク質、脂質です。炭水化物はブドウ糖、タンパク質はアミノ酸という小さな分子に分解されて、腸の血管系に入り、門脈を通って肝臓に向います。脂肪はこれらに比べると分子が大きく、また「油性」という特徴もあることから、分子を小さくし(ミセル)、さらに水に溶けるかたち(カイロミクロン)に変え、腸絨毛の中心を走る乳び管(腸リンパ管)に吸収させます。腸リンパ管は腸の乳び管内に吸収した脂肪をからだに届ける最初の入り口になるところです。
脂肪の中でも、炭素の鎖が10個以下の短い脂肪酸(短鎖脂肪酸)はブドウ糖やアミノ酸と同じように門脈を経由して肝臓に向かい、腸リンパ管に負担をかけません。これが治療するときに低脂肪食を食べていただきたい理由です。


今日は「どうして?」「なんでなんだろう?」の疑問に関わるお話しばかりで具体的なところまでお話しできませんでした。次回は治療のお話しを中心にしていきたいです。

 

 

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