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ケモデクトーマ

 暑さの衰えを感じられない、暦の上では秋なのに、まだ盛夏そのものというかんじがする今日この頃。この季節に一番辛そうに見えたのが、鼻ぺちゃのわんこたちです。「苦しそう。」「酸素が十分行き渡るかしら。」心配になります。

身体には酸素が十分に行き渡っているかどうかのセンサーがついています。化学受容器といいます。酸素が不十分な状態になると、化学受容器は横隔膜に働きかけて呼吸回数を増やしたり呼吸を深くしたりします。そしてこのセンサーが慢性的な酸素不足をキャッチした結果、ある腫瘍になりやすくなることがわかっています。

今月はがん征圧月間。今日は発生がごくまれなのですが、「化学受容器にできる腫瘍」のことをお話しします。

 

<神経内分泌細胞と化学受容器>

神経内分泌細胞は、「神経内分泌ホルモン」と呼ばれる特殊な化学物質を産生します。これらの神経内分泌ホルモンは、神経系や他のホルモンと互いに作用し合って、化学反応の速度に影響を与え、身体の安定性を維持するように調整しています。

化学受容体は、血液中の二酸化炭素、酸素そして酸性度の変化を受け取って反応する、センサーの役割をしている細胞です。化学受容体は体内に広く分布していますが、心臓本体の大動脈が出て行くところ(心基底部)と、頸動脈には大きなものが存在しています。大動脈や頚動脈の外壁に神経組織が埋め込まれていて、そこには小さな細胞集団があり、犬の神経内分泌腫瘍は主にこの心基底部と頸動脈体部で発生します。

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<ケモデクトーマ>

ケモデクトーマは、化学受容器の腫瘍です。良性の腺腫と悪性の癌腫の両方が含まれます。悪性腫瘍でも、そこだけにとどまることが多く、体内の他の部位に転移するのは約30%です。良性腫瘍と悪性腫瘍の両方とも、主要な血管を包み込むように位置するため外科的に除去することは困難です。

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<ケモデクトーマの発生原因>

ある犬が腫瘍を発症する原因は単純ではありません。放射線や化学物質、ホルモンや感染症を含む「外部の因子」に対して、細胞の遺伝子が傷つき突然変異をおこした結果、腫瘍は発生します。突然変異した細胞は、細胞が何回細胞分裂を起すか、どのくらい生きて死んでいくのかといった細胞レベルでの正常な調節を混乱させ、限りない増殖を繰り返していきます。

ある特定の腫瘍に対して、ほかの犬よりも発生しやすい傾向がある犬がいることが知られています。また細胞がより多く分裂するほど、変異が起こりやすくなるため、高齢動物は若齢の動物よりも発生傾向が高くなっています。

ケモデクトーマはボクサーやボストンテリア、イングリッシュブルドッグ、フレンチブルドッグ、パグなどの短頭犬によく発生します。こうした遺伝的素因と合わせて、上部気道の構造的な特徴から慢性的な低酸素症があることもケモデクトーマ引き起こす原因の可能性があると示唆されています。高地に住む人々は海面に住む人々の10倍ケモデクトーマを発症しているということもあり、長期に低酸素状態になっていることがこのタイプの腫瘍を発症させる主な原因であることを意味しています。

 

<まれな腫瘍>

ケモデクトーマは稀な腫瘍です。ほとんどが8歳以上でみられ、オス犬はメス犬より影響を受けることが多いようです。腫瘍は心臓の基底部にできるのが一般的ですが、頸動脈と大動脈の両方に腫瘍ができるものもあります。

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<腫瘍が発生したときの臨床症状>

心臓にできたときの症状は

•咳、息切れ

•呼吸困難(呼吸が苦しそう)

•右のうっ血性心不全(CHF)の症状(腹水など)

•無気力(元気がない)、虚弱(動けない)、嗜眠 (寝てばかりいる)

•失神発作(ときどき気を失うような脱力がある)

などです。一方、頚動脈に腫瘍ができたときは、

•逆流・嘔吐(食べたものを吐き戻す)

•食欲不振、おやつへの関心が無くなる

•首の塊(しこり)、浮腫(首回りの皮膚がむくむ)

といった症状も出ます。

大動脈部、頸動脈部のいずれのタイプの腫瘍でも、

•血管内腫瘍による重度の出血があると突然死に至る可能性があります。

 

<腫瘍の発見>

エコー検査、レントゲン検査、CT検査で診断は進められますが、たいていの場合は無症状で、たまたま別の用件で実施された画像検査から発見されるという場合も少なくありません。

腫瘍の確定診断は病理学的な検査になるわけですが、場所が場所だけに、採材して検査するのも難しく、推定診断になります。

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<治療>

一般的に腫瘍の治療というと外科切除、化学療法、放射線療法になるわけですが、どのような腫瘍であっても腫瘍の位置、転移の程度、そして犬の全体的な状態によってとられる治療法が異なります。ケモデクトーマの場合、完全な切除を安全に行なうのは大変困難です。

この腫瘍の特性として転移が一般的ではなく、また進行も緩徐な傾向があるため、化学療法を使うのはそれなりの延命効果が期待できる可能性があります。化学療法剤は腫瘍の増殖を遅らせることを目的に使用されます。化学療法を行った犬で、661日間の中央生存期間をもたらしたという報告があります。実際、ここまでの延命が期待できるかどうかは犬のコンディションにもよりますので、そういうわんこもいた、という解釈になると思います。化学療法剤の中でもトラセニブは効能外使用にはなりますが、有効であるという報告もあり推奨されています。内服薬です。

心臓をつつむ膜(心嚢膜)の中に出血が起こってしまったとき、膜をやぶり出血による圧力を逃がす処置がとられます。

 

 

今日は思いも寄らない所にできる、というか、そんな場所があるなんて知らなかったレベルでしょうが、そこにできるとてもまれな腫瘍のことについてお話ししました。

そしてそんな腫瘍ができていてもがんばっているわんこがいます。治療がうまく運びますように。

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テーマ : 動物病院
ジャンル : ペット

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