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がんばったわんこ・そら君

 今日は久しぶりに「がんばったわんこ」のお話です。残念ながらそら君はすでに虹の橋を渡って行っています。9月第2日曜日、今日はペットメモリアルデー(World Pet Memorial Day )、虹の橋を渡ったペットたちについて思い起こし、わたしたちの心を癒やすための日です。思い出のわんこについてお話しするとともに、犬の前立腺がんのことを知っていただく目的でお話しします。

 

<そら君>

89ヵ月、去勢手術済みのロングヘアードダックス、そら君が今日のお話の主人公です。引っ込み思案で我慢強いわんこでした。これは何度か飼い主さんが変わるなどして度々生活に変化があったことが原因だったのかもしれません。最初の飼い主さんが「飼えなくなったから保健所に連れて行く」という情報を聞きつけ、次の飼い主さんが引き取ってくれました。それから一人暮らしをされている二番目の飼い主さんの病気と入院で三番目のお宅に行きましたが、先住猫さんが彼を快く受け入れてくれず、猫さんの2倍から3倍も体格のあるそら君でしたが、毎日をぼんやり過ごしていました。その後縁あって最終になる今のファミリーと暮らすことになり、現在はこの生活をとても喜んでいたようです。自分からは要求を出さない遠慮がちなそら君、照れ屋の甘えん坊さんになっていました。

よくありがちなことではありますが、食べることが大好きなわんこでした。生後10ヵ月のときに去勢手術を行ったのですが、徐々に体重を伸ばし、4歳の頃にはジュニア期の体重を遙かに超える(理想体重の1.5倍にもなる)超肥満犬になっていました。けれど減量作戦に成功してからもリバウンドすることなく、よい体重を維持していました。スリム体型に変えられたのもニューファミリーの愛情のたまものだったと思います。

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<そらの様子が変だ!>

そんなそら君の調子が良くないと病院に連れてこられたのは「何回もオシッコをしている」ことのほかに、「うんちが出にくそう」にしているのに気づいたからでした。オシッコの症状だけのときは「寒いのかな。膀胱炎かな。膀胱に石ができちゃったのかな。」と思われていたそうです。けれどそれがちょうど年末年始のお休みにかかってしまい、お休みが明けるのを待って病院に来院されました。

「うんちが出にくい膀胱炎なんて、いくらなんでもオカシイ」と思われたそうです。

 

<様子をじっくりお伺いしました>

たしかに膀胱炎ではウンチの出方までおかしくなることはありません。

オシッコの出方について聞いてみました。

「時間まで待てなくなった。

少しの量のシッコを日に何回もしている。

それがちびちび漏らすようなかんじで出て来るようになった。

オシッコの最後の方でオシッコといっしょに血が出てきた。」

なるほど、なるほど。たしかに膀胱炎や尿道結石のときとよく似た症状です。

さらにウンチの出方について、くわしく聞いてみました。

「はじめはげんこつ飴くらいのウンチをポトリと落としていた。

もともとはコロコロで「蹴飛ばせば転がる」くらいだったのに、次第にゆるゆるになって「蹴飛ばしたら靴にくっつくだろうな」くらいの柔らかさになってきた。」

そうです。それから

「ひと月前のウンチはふつうにいきんで出していて、形は筒型、太さもしっかりあった。

それが今は平べったい、きしめん状のウンチになって、太さも細くなっている。

ウンチをする気があって、うんうんときばっているけれど出にくい。

なかなかウンチが顔を出さない。」

これはウンチを出すのに相当苦労していそうです。

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<いやな予感がする>

オシッコ、ウンチともに出にくくなってくるのは、未去勢の犬ならば前立腺の病気が一番疑われます。前立腺肥大症です。さらに「会陰ヘルニア」で直腸や膀胱の位置が変わっていたりしてもこのような症状を出します。けれどそら君はジュニア期に去勢済みです。身体検査でおしり周りを触っても「会陰ヘルニア」のようなぶよぶよする感じは全くありません。脳裏をかすめたのは「前立腺がん」でした。

 

<検査をするよ>

手順は①直腸検査、②レントゲンの検査、③エコー検査、④尿検査と細胞の検査、そして⑤血液の検査をすることにしました。普通は血液を採取してから画像検査に入ることが多いですが、今回は排便困難の原因を調べるのがいの一番。いつもと順序が違って、検査データを出すのにロスタイムが生じるかもしれませんが、画像検査を先に行いました。

 

<直腸検査>

直腸検査というのは、直腸に指を入れ触れることができるエリアを確認する検査です。直腸そのものに心配があるときにウンチの通り道になる粘膜面に触れて検査をします。ウンチの通路の途中に狭くなっているところはないか、名前のように「真っ直ぐ」になっていなければならないはずの「直腸」が折れ曲がったり、ポケットのような部分ができてウンチを出しにくくなっていたりしていないかを探ります。粘膜面にポリープのようなおできがないかどうかも触って確認します。また直腸を介して、解剖学的にすぐ下にある前立腺にも触れることができるので、その大きさや固さ、弾力性のほか、左右対称になっているか、表面がつるんとしているかなどを調べます。

そら君の直腸は真っ直ぐで寄り道のない、太さもしっかりある立派な直腸でした。しかし前立腺に触れる部分は狭まっていて、指で押すと反射的にいきみが出ました。また痛そうでもありました。ふくれている前立腺は硬く、右と左の大きさが不揃いで、表面はでこぼこしていました。

「う~ん。この感触は、まずいなぁ。」前立腺がんの疑いが深まりました。

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<レントゲン検査>

前立腺の大きさやかたち、それから直腸との位置関係、ウンチの滞り、さらに腰椎や骨盤の骨、近くのリンパ節がどんな状況になっているのかを一目で判断できるのはレントゲンの検査です。腹部のレントゲン撮影を行いました。さらに、万が一(肺の方に転移してはいないだろうか)のことも頭に入れて胸部の撮影も行いました。

前立腺は大きく、内部に所々白っぽい部分が見えました。小さな膀胱でオシッコを貯めていられない様子が伝わってきました。

心配していたリンパ節や骨の部分は正常、肺にも転移は見られませんでした。腎臓も大きく腫れている様子はなく、オシッコはきちんと流れていそうでした。

「そっか。疑いは濃いけれど、まだ、最悪の事態にまで進展していることはなさそうだ。」

 

<超音波検査>

膀胱は小さくて、内張りの壁が厚くなっていました。オシッコを出そう出そうと力を入れている様子がわかりました。膀胱の内部、尿が貯留しているところは少しもやもやが見えました。オシッコの中に細胞成分が入っていたりするとこんな風に見えてきます。

前立腺の形が左右に違いがあって、内部も均質ではありませんでした。濃い白色の部分と黒い部分が、グレーの組織の中にまだらにあります。

「なんで、そら君にこんなことが起きちゃうかなぁ」じわりじわりと診断がついていく中、悲しいものがこみ上げてきました。

 

<尿検査、細胞の検査>

とにかく、病理の先生に最終診断をお願いしなければいけません。前立腺に直に針を刺して細胞を採取する方法を選ばれる先生もおられますが、刺した針を通して採取した腫瘍細胞をおなかの中にばらまいてしまう危険もあります。尿を採ってから、前立腺をマッサージして膀胱を通して細胞を採ることにしました。

尿検査ではたくさんの上皮細胞も出てきました。マッサージ液からも多くの細胞が採れました。とれたものを病理の先生に送り「膀胱や尿道に見られる普通の細胞なのか、腫瘍性の細胞なのか、もし腫瘍性だとしたら良性のものなのか、悪性のものなのか」などを調べてもらうことにしました。もちろん先生に渡す前に材料の一部を使い、院内で染色して顕微鏡で確認してみます。

そこには日常見受けられない細胞がありました。腫瘍細胞はどんどん増えていく細胞です。細胞分裂をしている途中の細胞に出くわすことが多いです。そら君の標本にはそうした「怪しい細胞」がたくさん見られました。

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<血液検査>

スクリーニング検査と呼んでいる血液検査は、今現在の体調について教えてくれます。貧血状態ではないか、白血球や血小板の数はそろっているか、肝臓や腎臓の機能が衰えていないかどうかというのは、もし内科的な治療(抗がん剤による治療)を選択する場合には不可欠の検査です。

そら君、腫瘍細胞があるときに高くなる項目と炎症を示す項目が高いほか、問題になる結果はありませんでした。

 

<そら君はおそらく前立腺がんです>

「十中八九、前立腺がんでしょう。確定診断が返ってくるまでに、治療方針を決めていきましょう。」とお話をしました。根治手術がなかなか大変だということも、もし手術をしない場合の余命が大変短くなるだろうということもあり、今後のプランを決定するのは悩める問題です。しかし、ファミリーさんは一つの決めごとをしていたことを伝えてくれました。それは「何かあっても手術はしません」ということでした。これは飼育当初に決めたことだそうです。

それでも、何もしないでいたら今の状況がますますひどくなるだけです。前立腺がんの細胞特性からすると、腫瘍の増大を抑えるための鎮痛消炎剤に反応する可能性があることを伝え、消極的ではあるけれども投薬による内科治療を始めました。

続きは次週に。




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テーマ : 動物病院
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