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重症筋無力症

 「すぐにへばって動かなくなるんだよね。まぁ、ちょっと休むとまた動けるようにはなるんだけど、また少しすると、またへたれる。」と言うことで来られる犬の中には「心臓病で運動不耐症が起こっていますね」という犬や、「あらら、肝機能が落ちていますよ」という犬、「片方の足の筋肉が落ちていますよ、関節症の悪化かもしれません」という犬などがいます。おうちの方が感じている「歩けないわけじゃないけど、少し歩くと一休みしてしまう」という症状には、心臓病や肝疾患、関節症などさまざまな病気が隠されている可能性があります。そして、これらの病気のほかに重症筋無力症のこともあります。これはちょっと厄介な病気です。今日は「重症筋無力症」のことをお話しします。

 

<いくつかのタイプがあります>

重症筋無力症には臨床症状から分けたいくつかのタイプがあります。

「食べるけどゲロをはく。ぜらぜらという音がする。」

「よだれが出る。口のまわりがいつもずるずるして汚れている。」

「顔が前と違う。頬がたれてる。」

このようなことで来られる犬の検査をすると、巨大食道症を見つけることがあります。巨大食道症では食道の一部が拡張しています。食道は筋肉でできていて、ぜん動運動により食べたものをじゅんぐり胃の方へ押し進めていきますが、その動きが悪く、筋肉がだるっと弛緩したところが広がっています。こうなると食べたものがここで停滞してしまい、しばらくすると重たくなった食物を口から吐き出すことになります。胃まで行ってからもどすのは嘔吐(おうと)、胃までいかないうちにもどすのは吐出(としゅつ)といって、わたしたちは同じように見えるこの二つの現象を分けています。(胃の調子が悪くて嘔吐するのではない場合があることをご理解ください。)

また、よだれで顔が汚れているのは嚥下困難(えんげこんなん)のためです。飲み下しの機能が落ちているせいでこのような症状が出ます。

さらに顔面神経の麻痺により頬の筋肉がだるんとしていて、顔の表情が変わってみえることもあります。

全身の筋肉にも障害が出てくると、冒頭でお話ししたような全身の筋肉の虚弱による症状が見られます。

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勢いよく走れたはずなのに。。。



<こんな子が注意?>

中年齢から高齢の犬で見ることが多いです。でも若い犬にも発症はあります。

ゴールデンレトリーバーやコッカスパニエルに多いような気もしますが、シェルティーやシュナウザーでも診察の経験があります。どの犬にも見られる病気といっていいと思います。

 

<どんな病気?>

筋肉を動かすために神経から信号が来ます。「動きなさい」という神経の命令が筋肉に伝えられる手段は「神経伝達物質(アセチルコリン)の分泌」です。神経の末端部から伝達物質が放出され、神経と筋肉の接合部で筋肉の伝達物質を受け取る部分(受容体)に伝わり、筋肉は命令通り動き出します。先天的にキャッチする側の機能障害がある犬もいますが、たいていは後天性の自己免疫性疾患で、キャッチ部分(受容体)の数が減っているために命令が十分に伝わらず筋肉が動かなくなっています。

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どんな歩き方かな?



<検査します>

はじめは軽く「飲み込みが悪い?」くらいのことが、「吐き戻す」、それも「繰り返す」になってきます。飲み込みに障害があると「誤嚥性肺炎」を起こしやすいので、疑いのある犬は食道拡張を確認することのほか、肺炎を起こしていないかを確認するために胸部のレントゲン検査を行ないます。

歩き方の検査は繰り返し行ないます。はじめは普通に歩いているように見えていても、歩幅が狭いことがあります。繰り返し歩かせているうちにロボットのような歩き方になったり、ぴょんぴょん飛びのような歩き方になったりします。そこまで数分です。そして少し休ませるとまた同じように普通に歩けるようになります。

顔面神経の(特に目を瞬きさせる様子を調べる)検査も同じで、何回か繰り返します。連続して検査をしているうちに瞬きをしなくなってきます。

特殊な薬を注射して、その反応を見る精密検査がありますが、これは疑いが深いとき、二次病院などで実施して貰います。その方が安全だからです。

ほかの自己免疫性疾患(IMHAIMTPなど)を併発していることがあるので、血液検査も行ないます。また甲状腺機能低下症を併発していることが多いため、甲状腺ホルモンの値も調べます。これも血液検体で可能です。

 

<治療とケア>

抗コリンエステラーゼ薬が主薬です。

免疫介在性疾患ではプレドニゾロンなどの免疫を抑える薬を使うのが主ですが、プレドニゾロンは長く使うと筋力が低下してしまうので、この病気だとわかったときには使いません。そのほかの免疫抑制剤を使うことにします。

巨大食道症の犬には、身体を支えてやりながら、頭を高い位置に保ち食事をさせるようにお願いしています。大型の犬の場合など特にこうした食事介助は困難であることが多いですが、ご協力お願いします。

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予後は良くないことも。。。



<この先のこと>

軽い場合は、お薬で良くなってしまうことがあります。その場合は少しずつお薬を減らしていきます。経験はありませんが再発もあるようなので、一度良くなっても注意は必要です。

すでに経過が長い場合は症状が悪化していることが多く、薬に対する反応もあまり良く無いことが多いです。誤嚥性肺炎に気をつけながら食事をとらせていきますが、やはりたいていは痩せてきます。胃ろうチューブを設置したこともありますが、必要栄養量を管から注入するのもなかなか大変ですし、これによって肺炎を完全に回避できるわけでもなく、全体的な予後はあまり芳しくありません。

まれに甚急性に症状が進んでしまう犬がいます。呼吸も筋肉によるため、呼吸筋障害(筋無力性クリーゼといいます)があると人工的に呼吸をさせること以外生きる道がなくなってしまいます。楽にしてあげることも考慮に入れなくてはいけません。こうした場合はお気の毒ですとしか言えません。ごめんなさい。

 

 1129日は「いい肉の日」だそうです。筋肉の調子もいい日でありますように。

 ちなみに、犬に発症する「筋ジストロフィー」の遺伝子治療は、米国テキサス大学と英国王立獣医科大学との共同研究により成功しています。
https://www.wired.com/story/crispr-halted-muscular-dystrophy-in-dogs-someday-it-might-cure-humans/

筋ジストロフィーは遺伝性疾患で、徐々に筋肉が壊れていきます。筋ジストロフィーは常に進行性に悪化していきます。重症筋無力症は、神経と筋肉の接合部の免疫系疾患。この二つは名前のニュアンスが似ているかもしれませんが、異なる病気です。重症筋無力症には遺伝子治療はありません。
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