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歯周病のこと・つづき

 先週、歯周病のお話をしました。で、ご質問をいただきました。「歯肉炎、歯周炎、歯周病は、どう違うんでしょう。」そうですよね。そこ、根本的な問題です。すごく大事。とてもいいご質問です。私たちの良くないところは、わかって貰っているつもりでお話しを先に進めてしまうところです。今週、もう少し歯周病の話題で幅を広げます。

 

<歯周病は?>

歯周病は歯肉炎と歯周炎を含めた病気の総称です。

歯肉炎は歯と歯茎が接するふちのところが赤く腫れているだけです。歯肉に赤いラインができているのがわかるくらい。歯が植わっている歯槽骨には何も問題は起こっていません。治療をすれば後戻りが可能な歯肉の炎症です。

歯肉に限られていない歯の周囲組織、とくに歯槽骨にまで炎症が及び、元に戻ることが不可能になった状態まで進行しているのは歯周炎です。軽度の歯周炎ではこの歯槽骨が壊れるために歯周ポケットができます。「歯と歯の間に隙間ができたね」という段階です。さらに歯槽骨が壊れて歯周ポケットが深くなってくるに従い、中等度の歯周炎になります。「なんとか抜歯せずに残せるかしらね」というのがこの段階です。さらにさらに歯槽骨が壊れてしまうと、もう歯を残すことも難しくなってしまいます。歯槽骨の骨折にもつながりかねないほどの段階が重度歯周炎です。

歯肉炎と歯周炎はたった一文字しか違わないのですが、大きな違いがあるのがおわかりでしょうか。歯肉炎なら後戻りが可能、歯周炎になると自然な骨の再生は見込めないため、後戻りが不可能な状態です。(重度歯周炎では骨補填剤を入れて、歯周組織の再生を促す治療を行ないます。)
歯周炎は犬の好発疾患になっていて、2歳の段階で80%の犬はかかっているだろうとも言われています。人と同じようにサイレントディジーズ(静かな病気)ですから、静かに密かに進行して行きます。

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クルルちゃんの歯です。
歯みがきしていると10歳でもキレイですよ。

<歯の汚れと歯肉の炎症はちがう>

注意していただきたいのは、歯が汚れていることと、歯周囲の組織の炎症とは同じレベルではないということです。歯に色が付いて一見汚れているように見えても、歯肉の炎症はさほどでもないことがあります。これはラッキーな場合です。

困るのは逆のとき。一見すると歯の汚れがたいしたことはないのに、歯肉の炎症はけっこう進行していることがあります。

歯の汚れと歯肉の炎症にはぴったりした相関関係がないので、歯の汚れを指標にしていると気づいたときに後戻りできない歯周炎に進行している場合があります。

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診察の時に使っているプレートの拡大図です。

<だれにも正常な時があった>

子犬なら、乳歯から永久歯への生え替わりの時は歯がもぞもぞして何でもカミカミしてみたいときですので、歯ブラシ練習を始めるのに最適です。「いつからやればいいの?」という飼い主さん、「わんこが家にやってきたら、もうそのタイミングで」お願いしたいです。

でも、たいていは「オシッコのしつけしなくちゃ!ちゃんと成長してるかな?太りすぎ?痩せすぎ?食べる量はこのくらいでいいの?鼻水が多い気がするけどこれって普通?鼻は濡れてなくちゃいけないんだよね?えー、紐つけたら歩けるんだと思ったのに歩けない!散歩嫌い?」などなど、健康に関するご心配やらしつけのことなどで頭がいっぱいで歯のケアまで頭が回りません。そんなもんです。みなさんそう。

だから、気にはなっていたんだけど、どうしよう。と思ったそのときが大切です。診療ってほどじゃないけれど、気になったときに、ご相談でいらしていただければ、または診察途中に思い出していただいたら「歯のこと」をお話しください。歯ブラシ年齢が少し過ぎてしまってからでも、やばいかなぁというときでも、今の状態に合った歯科ケアをご提案したいと思います。

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歯槽骨に問題はありません。

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こちらも別の冊子の拡大。

<歯肉炎の段階での治療が重要>

歯肉炎レベルのときにはまだ歯槽骨へ炎症が波及していません。歯に痛みもないくらいの状態です。この時に歯の見えている部分に当たる「歯冠」の歯石を落とし、歯肉と歯が接している面(歯肉に隠れて見えない部分)の汚れを掻き取る治療をすると、また若い頃の歯と歯茎の状態に戻すことができます。このレベルの歯は、ちょっと見たくらいでは十分に健康そうな状態に映るかもしれません。「このくらいならまだ大丈夫だろう」と思っておられる飼い主さんがほとんどです。ですが、それが落とし穴。この段階こそ、しっかりやっておくべきところです。

この段階で定期的にスケーリングとポリシングに来院されるわんこたちは、常に口腔内がきれいで、同年齢のわんこの飼い主さんに驚かれます。実は隠れた努力もされているわけです。毎日の歯科ケアです。すべてのわんこたちに、ここを目指して貰いたいと思っています。

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歯槽骨が壊れてきます。

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軽度の歯周炎です。
 
<歯周炎が始まっている>

見た目にも歯石ががっちりついてくると「そろそろやった方がいいかな」と思われる飼い主さんが出てきてくれます。または「今やらないと、もっと歳をとってきちゃうから」とタイムリミット的にこれが最終段階かもしれないとご判断される飼い主さんもいらっしゃいます。ぜひとも、麻酔下での歯石クリーニングや歯肉の調整を行なうべき段階です。本当は、もうちょっと前に決断して欲しかった!ということも多いですが、それでもまだ、中等度の歯周炎で歯科処置に踏み切れる飼い主さんはエライのです。

歯が歯肉から離れ始め、歯周ポケットが形成されていても、ここまでに一度なんとかしておきたいと思う段階です。というのも、この時期を逃してしまうと、年齢的にほかの慢性疾患を持つことになり、麻酔のリスクも上がることになります。もちろんこの段階でお勧めしても「どうしようか」と悩まれる飼い主さんは大勢いらっしゃいます。あなただけではありません。それでも決断してもらえると、もう一度リセットできて、今後望ましいレベルの歯科ケアを行なっていける可能性が生まれます。それが歯の寿命だけでなく、身体そのものに良い影響を与えます。

治療の内容は、歯冠のスケーリングと歯周ポケットの中の歯垢や歯石を除去する処置です。これは歯周病を治す治療になります。また予防的な処置として、歯根表面に付着した歯垢や歯石を取ってきれいにして(ルートプレーニングといいます)から歯を磨きます(ポリシングです)。

ぜひ、ご決断ください。


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歯槽骨がひどく壊れます。

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歯を抜かなければいけない段階になってしまっています。

<進行してしまった歯周炎>

顎の骨が壊れてくる中等度から重度の歯周炎の段階では「やらざるを得ない」といって麻酔下の処置に入れる場合と、「どうにもこうにも無理だろう」とあきらめてしまう両方のパターンが生まれます。みなさん、本当に悩まれます。必要だとわかっているけれど選択するのが怖い、というところです。「腫瘍ができています。これを取らないと死んでしまいそう。」なら選ぶはずの処置も、歯科になるとそうはいかないようです。

治療内容はより複雑です。スケーリングやルートプレーニングのほかに、抜歯処置も行なう必要が出てきます。抜歯した後は歯根の穴をきれいにして抗菌薬を補填する処置を行なうとか、周囲の歯肉を切り取ったり剥がしたりして穴を塞ぐように縫合する処置を行なうなどの必要があります。また融けてしまった骨の再生を促すために骨補填剤を充填する必要があるかもしれません。

このように複雑で大変な処置になるわけですが、歯科処置をする方を選んでくださった場合には明るい未来があります。処置後のブラシングケアなどとうていできないという場合でも、そのほかのケアできれいな状態を維持する必要はあります。

このままの状態で治療ができないと、重度歯周炎はどんどん進行してしまいます。病的な額骨の骨折や骨髄炎が起こることもあります。血液中に細菌が入り(菌血症)、この細菌に身体が打ち勝つことができず(敗血症)、全身に影響するさまざまな悪い状況が発生することもあります。なにせ歯周病というのは歯が汚れる病気ではないのです。細菌によって引き起こされる感染症。いろいろな病気を起こさせる細菌の塊を常にお口の中に持っている状態なのです。この段階こそ、決断をしなくてはいけないのです。

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最終目標は歯周にもブラシが入る先端がとがった歯ブラシで歯を磨けること。

<おまけ>

同じように過ごしてきても同じくらいの年齢になったときに「案外キレイ」なわんこと「うっそ!どうしちゃったの!」と叫んでしまうくらいのレベルに状態が悪いわんこがいます。この違いはどうして起こったの、に答える一つの情報があります。

歯周病を起こす細菌のひとつにポルフィロモナス菌があります。この菌は遺伝子的に3つのタイプがあり、そのうちのタイプCは病原性が強いことがわかっています。お口の中にポルフィロモナス菌がいるかどうか、そしてどのタイプの菌だったのかは口腔内細菌の検査によって調べることができます。うちの子のお口にポルフィロモナス菌タイプCがあるかどうか、しっかり歯みがきをしないといけない口腔内環境にあるのかどうかを調べたい方はその旨お知らせください。

なお、この菌と検査の詳細については来年に回すことにします

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もう一度、クルルちゃんの反対側の歯。

<おわりに>

歯科の治療はどうしても全身麻酔下でないとできません。そのためご家族の方は「どうしよう」「こわいな」とブレーキをかけることになると思います。
代替医療の中には「これで腎臓病が治る」とか「こうしたらがんが消える」と大々的に銘打って述べられているものがあります。あのくらい強気に「治ります」を押していけると良いのですが、悲しいかな「ワタシ失敗しないので!」と言えるほどのものも持ち合わせていないので、
100%の保証で歯科治療を(始めいろいろな手術も)請け負うことはできません。何か説明をした後でも、これによって余計に不安を煽るようなことになってしまったのではないかと反省することもあるのですが。

常のことですが、私たちはどんなことをするときにも「絶対に大丈夫」と言うことはありません。科学的根拠(エビデンスといいます)に基づいてしか伝えられないからです。嫌な言い方になりますけれど、「○○%の確率でこのようになります」、とか「○○%ではこのような好ましくないことが発生します」と言うのです。「このくらいの確率だから大丈夫です」「こうしましょう」と言った方が、飼い主さんにとっては心強いし、こうして背中を押してあげた方が決断しやすいかもしれないとは思いつつも、100%の安心を差し出すことができません。ごめんなさい。どうかご了承ください。

 
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