FC2ブログ

僧帽弁疾患の治療

 今年も休診日にはしっかりお休みをいただいておりました。すみません。お勉強のできるセミナーなどは日曜日のことが多いのです。「お休みの日に限ってうちの子は体調を壊すわ」というわんこやにゃんこさん、いらっしゃいました。ごめんなさい。そして飼い主さんには不安な日を過ごさせてしまったこと、お詫び申し上げます。

今年のおでかけ勉強の中でも心臓病のこと、とくに僧帽弁疾患に関して自分の中でスッキリできることがありましたので、今日はそのお話。

まずは前置きが長く続きます。

 DSC_1132_edited-1.jpg

<僧帽弁疾患>
僧帽弁疾患(専門的なことばでは粘液腫様僧帽弁変性症:
Myxomatous mitral valve degeneration:MMVDといいます)は世界中の先生方が大規模な研究をされています。(VETPROOFSVEPHECTOREPICなど。)それらは進行性であるこの病気で、うっ血性心不全が発生するのを遅らせるのが目的の研究です。こうした研究の結果が発表されると推奨される治療にも変化がおこります。

実は、いつから治療を始めるべきなのか(治療開始時期)について、常にもやもやしたものがありました。私がお薬を始めたいなと考えている段階よりも少し進行したステージから治療を開始することが推奨されているからです。進行していくのがわかっている病気なのに「まだこの段階では治療を始めない。もう少し病気が進行するのを待ってから治療に入る。」というのは地域のわんこの健康を守ることに主眼を置いている町の獣医さんとしてどうなのか。エビデンスに基づいた治療にしてみれば、私が考える段階で投薬を勧めるのは「行き過ぎな治療」になってしまいます。このジレンマを国際セミナーでジョシュア先生にご回答いただけました。この答えは最後にいたします。

<僧帽弁疾患のステージ分けのこと>

僧帽弁疾患は小型室内犬にとって、中高齢になったらほとんどのわんこが罹患している病気(13歳以上の犬の85%、キャバリアキングチャールスなら100%!)と言っても良いくらい日常で診察を行なう機会がある病気です。私たちが診察する循環器病のうち、3/4くらいは僧帽弁疾患です。

進行具合によって、病期のステージがからDまであります。キャバリアキングチャールスのように(残念ですけれど)リスクが高い犬種だと、既にステージはAです。まだ初期段階で心不全兆候を出していない段階はステージBです。うっ血性心不全兆候(=肺水腫と考えても良いかもしれません)が発生したらステージC、これは過去に発生したことがあるものも含めています。さらに進行したステージDですが、ここは普通の管理では難しい段階です。ステージBは心臓の拡大があるかないかでB1B2に細分されています。
DSC_1012_edited-1.jpg

 <研究から勧められるようになった治療法>

VETPROOF studyでは、うっ血性心不全が発生する前段階(ステージB2です)でアンギオテンシン変換酵素阻害薬(ACE阻害薬)を使うと、この薬を投与しない場合と比べて生存期間が5か月くらい延長するという結果が出ました。また、心不全兆候が発症するまでの期間も7か月から8か月くらい延長しています。一方SVEP studyでは、ここまでの差は出ませんでした。この研究では対象にしている犬がキャバリアのみでしたのでこのような結果になったのかもしれません。

これらの研究から心不全兆候が現れていない段階の僧帽弁疾患に対して70%以上の心臓病の専門医たちはACE阻害薬を推奨することになりました。ただ、あるときからこの薬だけでは希望する効果が十分に得られなくなることもわかってきました。(アルドステロンブレイクスルーと言っています。以前はACEエスケープと言っていました。)それで抗アルドステロン薬であるスピロノラクトンを加えるとどうなるだろうか、という研究も始められました。昨年Hezzell先生たちは、「スピロノラクトンはステージB2の左心拡大を遅らせることができる。」と発表し「加えると良いぞ!」という結論になったわけです。小型犬は複数の薬を飲むのが苦手のわんこが多いです。今ある(ベナゼプリル+ピモベンダン)と同じような(ベナゼプリル+スピロノラクトン)の組み合わせの薬(合剤)が早く出現して欲しいです。(期待しています。エランコさん!)

実は猫では慢性腎臓病のために、アルドステロンブレイクスルーを起こしにくいとされているアンギオテンシンⅡ受容体阻害薬であるARB(商品名セミントラ)が発売されています。犬ではまだ健康犬でのデータしかないのですが、いずれ心臓病の犬でも研究結果が出るのではないかと心待ちにしています。もちろん犬用のお薬の販売もです。(こちらはベーリンガーさんに期待します!)

ピモベンダンは当初「不整脈を招くのかも」とか「急な休薬をすると突然死するのでは」ということで使用に際して神経を使った薬です。EPIC studyでは、ピモベンダンを投与された犬は投与されなかった犬に比べて心不全に陥るまでの期間が15か月くらい延びるという結果が出ました。これはQOLの高い期間が長く続くということです。それからこれまで言われてきた現象も、ピモベンダンを飲んでいようがいまいが有意な差はないということもわかりました。それで、使い始めの時期は以前よりも早いステージB2からになりました。(以前はおっかなびっくりこの薬を使う感じでしたが、今はいい薬だなぁ、頼もしいやつだなぁという感じで使わせて貰っています。)

そのようなわけで僧帽弁疾患はステージB2になったら、ACE阻害薬、ピモベンダン、スピロノラクトンの3種類のお薬を処方するのがスタンダードになりました。

 DSC_1029.jpg

<ステージB2は範囲が広い>

ステージB1B2は、心雑音が聴取されるだけで、画像検査でも特別心臓は大きくなっているとは認められませんでした(B1)、と心雑音があって画像検査してみたら心臓が拡大しているのがわかりました(B2)という「心臓が大きくなっているかどうか」の差です。この大きさも、「計測してみると基準を超えるよね」から「一見して、でかいでしょ!」まであります。

「検査したら大きいのがわかったから、B2のステージ」と分類した中でも、「咳が出ます」「散歩をしたくなくなってる」「ピンポーン、でダッシュして玄関に行ったのに今は知らんぷり」という犬もいる一方で、「え?何ともないよ。今までと変わらないけど。うちの子の心臓でかかったの?」という犬もいます。

それで、ステージB2でも飼い主さんが感じられる明らかな症状が無い場合は1種類または2種類のお薬から始めることにしました。お薬が決まったからといって、そのままではなく、定期検診に来ていただき、心臓の様子を知るため血圧測定をしたり、もっと頻度は低くなりますけれど(少なくても1年に1回くらいは)血液や画像の検査で進行状況を診ていきたいと思っています。徐々に進行していく病気ですので、1種類から始めたお薬も2種類になり、スタンダードの3種類にと、足し算で増えていくことになるかと思います。

時々「えっ!心臓病の薬を飲ませているのに悪くなっちゃったの?」って言われまして、心苦しいのですが、お薬をのんでいても病気は進行していきます。進行を遅らせ、QOLの高い日々を1日でも長くさせるのを目標に置いた治療です。ご了承ください。また「これだけ飲んでるのに、なんか効かなくなっちゃったのか、近頃咳が多い」というときもあります。薬を増量をしたり、同じACE阻害薬の仲間でも別のものに変えたりするなどで対応します。また咳の原因が気管や気管支にあることもあり、こちらのせいだなと思われるときは呼吸器に対して働くお薬を別に追加します。これだけ飲んでいるからもう無理なんだろうと思わないで、いろいろ日常の様子をぶつけてください。

 DSC_1047_edited-1.jpg

<どうしてB1で治療をスタートさせないの?>

心雑音があるけれども心拡大がないときには、(のちのち心臓が大きくなることがわかっていながらも!)代償機能が働いているので身体に任せる。だから治療介入しない。というのが、現段階でB1に投薬不要の理由です。これが長いあいだ私をもやもやさせていました。でも「行けるところまでがんばれ。だめになったら応援してやる。」でいいの?という疑問というか不安ですね、これはとても簡単に解決されました。

「エビデンスがないから。」

たった一言でした。つまり、
B1から治療を始めたグループとB1から治療を始めていないグループとを比較検討した研究がないということです。「理論的には治療してもおかしくはない。」ということでしたが、エビデンスがない治療に関しては「飼い主さんの同意が得られれば、理屈は合っているから問題がないよ。」でした。

 <じゃ、始めてみるの?>

私の出した結論は、「NO」です。

もし処方するとなると、スタートはACE阻害薬。これで長生きになります。けれど長期服用によってアルドステロンブレイクスルーを起こしやすくなるでしょう。それと、「将来の不都合」に合わせていても「今の不都合」に寄り添っていません。今は不都合がないのですから。逆に投薬という不都合を飼い主さんに強いることになります。もうしばらく様子を見ることにします。ただし、心臓が大きくなっているという確認がなくても、全身性の高血圧が認められたら、そこは腎臓を守るために使います。

 DSC_1134_edited-1.jpg

<エビデンスに基づいた治療>

結局、エビデンスに基づいて診療をするとはいうものの、必ずしも教科書通りのことにはならず、この治療が「病気の犬や猫」に対して利益があるのか「飼い主さん」にとってはどうだろうか、で判断します。でも基本の指針をわかった上でアレンジすることになると思います。だって、人生いろいろ、わんこもにゃんこもいろいろ、ですものね。

 

さて、今年も残すところ今日明日の2日となってしまいました。お忙しい中、この長いブログにお付き合いくださった皆さま、本当にありがとうございます。

今年、いろいろなことが降りかかってきた飼い主さん、年末はことさらお忙しかったことと思います。体調を壊されてはいませんでしょうか。今年一年、お疲れさまでした。ほんと、頑張りましたよ。こちらの画像を送らせていただきます。ご笑納ください。

DSC_1139.jpg 

来年も、小さく芽生えた病気の疑問を晴らすため、お出かけ勉強は続けるつもりです。すみません。でも、必ず診療でお返しします。

 年末のご挨拶を直接言えなかった皆さま、あらためまして。本年のご来院ありがとうございました。そして、ブログを読んでくださった皆さま、おつきあいありがとうございました。

 どなたさまも、今年の苦労はこのまま集結しますように。そして晴れて明るいお正月を迎えられますように。それから来年はもっともっと良い年になりますように。 合掌

 
スポンサーサイト

テーマ : 動物病院
ジャンル : ペット

コメントの投稿

非公開コメント

プロフィール

ハート動物病院

Author:ハート動物病院
ハート動物病院です。
〒445-0062
愛知県西尾市丁田町杢左51-3
TEL/0563-57-4111
オフィシャルサイト:http://www.heart-ah.com/

最新記事
最新コメント
最新トラックバック
月別アーカイブ
カテゴリ
ブログランキング
検索フォーム
RSSリンクの表示
リンク
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QRコード