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猫の歯肉口内炎

 猫で口腔内の病気というと、「歯周炎」に次いで「歯肉口内炎」が多いです。単に「口内炎」とだけ言うこともありますし、「口狭炎」ということもあるかもしれません。どの年齢層の猫でもかかりますが、比較的中年齢から高齢の猫に多いように思います。見つかるのがこの年齢になったときに多いということだけなのかもしれません。歯科疾患のひとつのかたちとして存在していた頃もありました。今は独立した疾患名になっていますが、歯垢や歯石と全く無関係というわけではなさそうです。歯肉の組織と口腔粘膜の炎症が歯肉口内炎です。

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口周りに黒汚れが付いているのが外から見てわかる目印。
頬をきゅっと後ろに持っていくと臼歯と口角が見えます。

 

<痛みが激しい>

とにかく、激しい痛みがあります。

水を飲むときも、食事をするときも、猫は細心の注意を払っているようです。慎重さのあまり、飲むのをためらっているようにも見えてきます。食べるときも同じです。硬いものを食べるときはそのまま呑み込んでいます。ドライフードを噛むカリカリした音を聞くことはないです。

ウエットフードでも、ゼリー状のフードや水分量の多いフードをへちゃへちゃ舐めて飲み込むようにして食べています。ことによると、口角(口の左右の部分)に当たらないように食べられるスティック状のフード(ちゅ~るなど)を舐めるだけということもあります。飼い主さんの観察力によるところなのですが、「これだけは食べる」ということが「このやり方だと食べる」「この形状だと食べやすいようだ」と解釈するのか、「これはおいしいらしい」「これが好きみたいだ」と解釈するのとの違いになるのでしょう。フードの形状の違いで食べたときの痛み(しみる?)の出やすさに違いがありそうです。

口が痛くてもお腹は空きますから、努力して食べていますが、十分量に満たない分量しか食べられません。そのため、体重が減ってきます。ここは「食べているから大丈夫」「食欲はある」と勘違いしないでいただきたいと思います。

痛みのため、常にイライラした状態です。そのせいで「性格が変わった」ように見受けられることもあります。逆に動きが不活発になり、「元気がない」ように見えるかもしれません。痛みのためグルーミングをしなくなるため、毛並みが悪いです。「年のせいだ」と誤って解釈しないようにお願いします。

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歯肉のラインだけでなく、後ろの方まで赤みがつながっています。
腫れもわかります。

<炎症がある>

口の中の粘膜は上顎の奥歯を中心に、奥の方(喉に近い方)まで赤くただれていることが多いです。「炎症」には「炎」という文字がつきますが、まさに、かっかと燃えているような様相です。見た目に痛々しいわけですが、口を開けようとすること自体、痛みのために抵抗され、難しいこともあります。「いくよ、あけるよ、はいっ!」で開けて「うぎゃー!」という叫び声になることもしばしばです。

炎症は「赤い」「腫れている」「盛り上がったところがある」のほかに、「ただれている」「えぐれている」などの状態まであります。また、炎症の部分も歯肉だけのものから、頬の内側の粘膜、口の奥(喉に近い部分)、上あごの粘膜、舌など、進行するにつれて広範囲の粘膜が赤くなっていきます。

 

<原因はいろいろ>

どうしてこのようなことが起こるのか、直接的な原因はまだつかめていません。多頭飼育しているとか、混合ワクチンを接種していないというのはリスクが高いと言われています。

原因はありとあらゆるものが関与するといった方が正しいかもしれません。

  ウィルスの関与として猫カリシウィルス(FCV)が炎症部から分離同定されることが多いようです。そのほか猫白血病ウィルス(FeLV)、猫エイズウィルス(FIV)、猫ヘルペスウィルス(FHV)、猫コロナウィルス(FCoV)、猫伝染性腹膜炎ウィルス(FIP)、猫汎白血球減少症ウィルス(FPLV)感染も関係があるとされています。

  また細菌感染が関係する可能性もあります。とくにバルトネラヘンセラは関与が強く疑われています。ほかはポルフィロモナス菌、クラミドフィラ菌やマイコプラズマ菌、パスツレラ菌は分離菌として名前が挙がります。

  免疫系の状態も関係すると言われています。血中の免疫グロブリンが上昇しているのに口腔内の局所免疫機能が低下している可能性があるようです。

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おおきく口を開けると喉の方まで赤みが
つながっているのがわかります。

<診断>

肉眼的に見るだけで診断することが多いです。

この検査を行なって、このような結果が出ると歯肉口内炎の診断が確定される、という検査がありません。理想を言うと、血液検査で裏付けを取り、病理組織学的に炎症の組織像を観察し、歯周病の時に同じように口腔のX線検査を実施すると、猫の身体の全体像が見えてきて、治療をしたり予後判断をしたりする上で良いのだろうと思います。

口腔内に炎症を起こす病気が他にもあります。腎臓を悪くして尿毒症になったときの口腔内潰瘍、食事性アレルギーに関連した好酸球性肉芽腫症候群、口腔内にできた扁平上皮がんなどです。判断に苦慮する場合は病理検査をさせていただくことがあります。

 

<検査>

治療の補助にするために検査をさせていただくことがあります。(「治療はしません」って言われますと、検査はしづらく、残念な気持ちになります。)

あくまでも、「標準では」ということになりますが、体調はどうか、獣医学的に積極的な補助をしないといけない状況ではないかどうかを見ていくことや、積極的な治療としての麻酔をかけた処置に入れるかどうかを判断するために検査を行なうものです。

具体的に言うと、血球の検査は貧血の有無、白血球の数や内訳、止血に関与する血小板の数などを見ます。電解質の検査や生化学的な検査は、今の身体の状況(肝臓は?腎臓は?)を知るために行ないます。総蛋白やアルブミンの検査から、グロブリン値、A/G比を算出します。免疫的に亢進した状態であるかどうかを知ることができます。予後の判断のために猫のウィルス検査(FelvFIVのスナップ検査)は有効です。さらに血清アミロイドASAA)の検査で、炎症の度合いを知ることができます。

血液のラボ検査の結果から、「麻酔をかけて処置をしよう」とご決断いただけたら、胸部のレントゲン検査など心機能に関係する検査も行ないます。

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典型的な歯肉口内炎です。

<基本の治療が歯を抜くこと>

口内炎の治療は、基本が全抜歯です。大丈夫な歯か、大丈夫ではない歯か(歯根が歯槽骨に生きて座っているかどうか)の判断はなく、すべて抜くのです。そのため人気がない治療法でもあります。ときに、臼歯(奥歯)だけを抜いて様子を見ることもあります。

抜歯による治癒率は「60%程度がうまく治癒、20%くらいに再発があり、13%くらいは内科的な治療を併用しなければならず、残る7%くらいの猫で効果が見られない」という厳しい結果が出ています。この数値からは「やってみようかな」という気になれないというのもわかりますし、勧める方としても積極的に推奨するに心苦しい数値です。近年(2015年)の新たな研究ではこれまでのデータに比べると治癒率は上がってはいるものの効果がみられるまでに1年から3年ほどかかった猫もみられます。

 

<ほかには治療がないの?>

歯を全部失うことになっても完全な効果が得られない猫が一定数は出るとなると、こうした処置に踏み切れない飼い主さんがいらしても、しごく当然なことと思います。

ほかにも内科的な治療を中心にいくつかの治療法があります。

   症状の強さにもよりますが、まずは非ステロイド性の鎮痛消炎剤(たいてい口が痛いのでシロップ剤を選択しています)で痛みをコントロールするのをお勧めしています。長期の服用によって腎臓を痛めたり、嘔吐や食欲不振などの消化器系の好ましくない症状を出すことがあるので、インターバルを置いて投与してもらいます。

   非ステロイド性鎮痛消炎剤では痛みのコントロールが不十分だろうと思われる(結構重症かなと思われる)猫にはステロイドのお薬が選択できます。錠剤を直接投与できない場合、食事に混ぜるなどの手法を用いなければなりません。内服投薬が難しい状況だと判断する場合には2週間ほど効くお注射に頼ることになります。ステロイドのお薬は炎症を抑え、痛みを軽減します。食欲も回復してきます。効果が目に見える治療法です。けれど長く続けているうちに薬の望ましくない作用を起こすことがあるので、時に血液検査をして困ったことが発生していないかどうかを確認します。また、長期使用によって効果が徐々に減弱するようなこともあります。何よりもよく効く薬ではありますが、できればステロイドに頼った治療法を長期にしていくのは避けたいのが本音です。

   たいていは抗菌薬を併用します。

   インターフェロンを局所に注射するとか、全身に注射するという方法をとることもあります。

   免疫抑制剤を使うこともあります。液剤で投与はさほど苦痛にはならないと思います。

   抗酸化物質をはじめとするサプリメントは初期に有効だと思います。ラクトフェリンのように口腔内の病変部に溶解液を滴下して貰うのが困難な場合は、ソフトカプセルを飲ませていただく方法もあります。残念なことにサプリが有効なうちに診せていただけることは少ないです。

   歯を抜くことには抵抗はあるけれど、麻酔下で歯石や歯垢を取ったり、レーザー治療を行なうくらいまではと同意していただけることがあります。この治療でスッキリすることがあります。ただし単独の治療で他のことをしなくてもずっと良好のまま維持できるというものではなく、一時的な良化を得られるのでやってみましょうか、というところです。処置後、他の治療も併用して良好な状態が長く維持できることを目標にしています。

   食事性アレルギーの関与が考えられるということは、食事を低アレルゲン食に変更するのは試してみる価値があると思います。有効であったという報告もあります。

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上を見上げたときに口周りは一望できます。
この瞬間でも黒汚れを見つけることが可能です。

<痛いけど併用したいケア>

慢性になった歯肉口内炎の管理としてできれば取り入れていただきたいのが「口腔ケア」です。毎日が無理だとしても、週に2回から3回、口腔内の細菌数を減らすために洗浄したり、軟らかい素材で歯みがきを行なうといいと思います。歯ブラシは、新生児用のラバーブラシのような物を使うといいと思います。痛みがあるとき人の指を口腔内に挿入すると噛まれてしまうことがありますから、指での処置はお勧めしません。

 

<長期的な予後>

根気よく治療していくことで、痛みから解放され食事を取ることができます。食べられず痩せて体力を無くすことがないように継続治療をお勧めしたいです。治療法もいろいろあるので一つであきらめずチャレンジできたらと思います。

 
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