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犬と猫の高血圧症

 犬と猫の高血圧症についてお話しします。

 

<高血圧症>

「全身性の高血圧症」という用語は、収縮期血圧(わたしたちが血圧測定をしたときの高い方の値です)が持続的に高いときに適応されます。高血圧症は大きく3つに分けられます。ひとつは①環境や状況のストレス要因から引き起こされる高血圧で、もうひとつは②病気に関連して起こる高血圧、そして③考えられる病気がないのに起こっている高血圧です。①は「状況性高血圧症」と呼んでおきましょうか。不安や興奮によるもので、人の「白衣性高血圧」を思い浮かべていただくとわかりやすいと思います。②は「二次性高血圧症」です。代表的な原因疾患は犬では慢性腎臓病、急性腎臓病、副腎皮質機能亢進症、糖尿病で、猫は慢性腎臓病、糖尿病、甲状腺機能亢進症です。また珍しい病気なのですが原発性高アルドステロン症では高血圧を持つ割合が高いです。それからある種の薬剤によっても高血圧を引き起こすことがわかっています。そして、二次性高血圧症を引き起こすことが知られている明らかな病気が発見できない状態で高血圧が生じているようなときは③の「特発性高血圧症」に分類されます。

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<高血圧をコントロールしなくてはいけない理由>

慢性的に血圧が高い状態が続いていると、身体の大切な器官に障害を引き起こすことになります。「標的器官障害」といいます。(人では標的臓器障害と言っています。同じことです。)高血圧を治療する目的はこの障害の予防です。

標的臓器には、腎臓や眼、脳、血管や心臓などがあげられます。

どのような困ったことが起こるのかというと、以下の通りです。

    慢性腎臓病がより急速に進行する

    蛋白尿を悪化させる(より多くの蛋白が尿に流れ出てしまいます)

    網膜剥離等により失明の危険が高まる(高血圧性眼症といわれています)

    脳血管障害から来る神経症状が発生する(高血圧性脳症です)

    心臓肥大を起こす

高血圧性眼症については以前お話ししました。
http://heartah.blog34.fc2.com/?preview_entry=&editor=&key=4176e98086535e1e386993409ed84eafa48aa0ae17449f4c2c94683c5b91cc17&t=1557457459

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<高血圧症かどうかの検査>

高血圧症になるかもしれない原発疾患をもつ動物であれば、フォローアップ検診のときに常に気にしながら血圧測定をすることが望ましいです。(はじめは慣れなくて、腕や尻尾にカフを巻かれると興奮してうまく測定できないかもしれませんが、継続するうちには動物も慣れてなんとか測定できるようになります。)

もし標的器官障害に似た症状があれば、高血圧症を発症しているかもしれないと、診断する上でチェックしていくことになります。

高血圧症は目で見てわかることはありません。Brown先生によると、実験的に高血圧にした猫の臨床症状は、動かない、寝ていることが多い、食欲が変化する(どうやら増えることもあったらしいです)などで、これといった特徴的な症状ではありませんし、私たちが「高齢だからね」と思ってしまう状態と同じ、いわば微妙な症状です。だからこそ、より意識的に血圧測定を日常にしていかないといけないことなのかもしれません。(とくに10歳になる前、9歳ころから血圧測定の練習ができるといいなぁと思っています。)

犬や猫の高血圧症の有病率は知られていません。見かけ上健康な犬を用いた調査では400頭の調査で0.5%、1000頭の調査で0.9%、215頭の調査で2%などとなっています。常々、シェットランドシープドックが犬種的に怪しい(罹患率が高い)と思っていますが、(これは全くの個人的な見解で獣医学的な根拠は何もありません。体感的にそう思うだけです。)たまたまこの犬種だけに絞った調査があって、それによると13%となっていました。(きっと偶然しょうけれど。)

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<血圧測定>

血圧は「静かなところで、飼い主さんと一緒に、落ち着かせてから」測定する、というのが測定法の定番です。けれど犬や猫によっては飼い主さんがいると落ち着かず抱っこをせがむなどして興奮が収まらないため、「できるだけ静かな状況を作る」のに飼い主さんが同室でない方がベターな場合もある(むしろその方が多い!)ことをお伝えしておきます。

意識化の動物はこの機械がいいとか、あの機械では問題が出るとか論文レベルでは機械の評価が有りますが、良好なデータを得るのには、とにかく動物に慣れて貰うことが一番です。当院では今、二つの異なる機械を使用しています。一方は推奨されている機械で、音で聴取し判断していく機械です。こちらを使って測定していくのには時間がかかります。慣れない犬猫では必要なデータを数回測定しようとする前に嫌になってしまうようです。もう一方は、数値を目視することが可能で、比較的楽に測定ができます。安定している犬猫で二つを比べると、非常に関連性の高い記録が得られます。慣れない犬や猫では、カフの圧迫が気になるようで、手早く済ませようと考えています。

1回の測定で5回から10回くらい測定します。最初のデータと、あまりに動いたりするなどで安定性に欠けるデータを除いた数回の平均値を採用しています。人なら待合室で(場合によってはお風呂屋さんの脱衣室などで!)ご自身で腕を通して測定してきていただけるのに、犬や猫は手間がかかります。

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<高血圧の診断>

高血圧かどうかは、1回の測定だけでは判断しません。少し離れた2日で測定し、2日目も高かった場合に「高血圧です」としています。

数値的には、収縮期血圧が

140mmHg未満~正常です。標的器官障害のリスクは最小限です。

140159mmHg~プレ高血圧です。標的器官障害のリスクは低いです。

160179mmHg~高血圧です。中等度の標的器官障害が心配されます。

180mmHg以上~重度の高血圧です。標的器官障害のリスクが高いです。

というように判断しています。

IRISが定める慢性腎臓病の二次分類はこの数値とは異なります。)

この数値をもとに、次の検査をいつ頃するのか、それをどう判断し、いつから治療を始めるのか、どんな治療をするのかを考えていきます。

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<高血圧の治療>

治療の目的は、標的器官障害の可能性を減らすこと、もし起こったとしてもその重症度を減らすことにあります。

目標は標的器官障害のリスクを最大限に減らすところまで下げる、数値的には収縮期血圧を160mmH未満になるように達成させることです。(ですから数回の測定で160mmHgに満たないプレ高血圧症に入る犬や猫たちは今のところ治療の対象にしていません。)

収縮期血圧が160mmHgを超える犬猫の、血圧を高めるもとになる病気を同時に発見したとき、まずはじめの病気の治療をして血圧の変化を見ながら高血圧治療に入るときと、見つけた時点で同時に高血圧治療を始めるときがあります。これは、もとの病気がお薬でコントロールされるのを待つ時間的な余裕があるかどうか、一度にいくつもの薬を処方してそれを動物が(これは投与する飼い主さんが、に言い換えることもできるかと思いますが)受け入れられるかどうかにもかかってきます。基本的には同時に治療を始めたいです。200mmHgを超えるようなときは、「お願い、頑張って!」の祈るような気持ちです。

血圧を下げることは全身性低血圧を引き起こしてしまうリスクも合わせ持っています。急激に血圧を低下させるのはかえって危険なことになります。何度か測定をしながら、「うちの子」の「今の状態」にちょうどいいお薬(もとの病気の治療薬も含め、場合によっては1種類だけにとどまりません)と、投与量を探っていきます。つまり、開始するときのお薬はよりマイルドなものでマイルドな量を選びます。維持していくのにちょうど良いと思われる薬の種類と量が決まるまで、1週間とか2週間の間隔で来院をお願いしています。

再診のたびに血圧測定をしていくと、動物たちもいよいよ慣れてきます。ほぼ毎回一定の数値になっていると安心です。それでも、その日のコンディションや診察までの待ち時間の過ごし方によって簡単に数値が変化します。毎回高いとなると、それはお薬の見直しをする必要があるというサインとして捕らえています。

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<高血圧症のときに使われるお薬>

犬ではRAAS阻害薬と、カルシウムチャンネル遮断薬が広く使われているお薬です。RAAS阻害薬は高タンパク尿作用(これはそのまま腎保護作用になります)のため、もとの疾患に腎臓病を持つ犬では間違いなく第一選択の降圧薬です。RAAS阻害薬として有用なのがACE阻害薬ですが、これは僧帽弁疾患などの心臓病の初期開始薬としてずっと使われてきたお薬でもあります。薬のパンフレットでも僧帽弁閉鎖不全症についての記述が紙面のほとんどを閉めています。そのため、この薬がうちの子の「高血圧のために」処方されていたことをすっかり忘れてしまう飼い主さんも出てくるようになります。そのくらい「僧帽弁疾患」のために処方されることが多いからです。「心雑音の有無」だけがこのお薬の処方の目安ではないこともご理解ください。

一方猫では、カルシウムチャンネル遮断薬がずっとファーストチョイスになってきていましたが、猫でもRAAS阻害薬を併用します。長い目で見ると腎臓をまもる仕事をしてくれるRAAS阻害薬系統のお薬ですが、とくに脱水を起こしていることが多い慢性腎臓病の猫では、脱水を改善させないうちに用いると腎臓機能を悪くさせてしまいますので、点滴治療で脱水を改善させ、腎機能を守れる状態にしてから使い始めます。

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<おねがいしたいこと>

高血圧こそ、沈黙の状態です。標的器官障害は長時間かけてゆっくりと発生しています。適切な治療と、経過観察をないがしろにしないことはとても重要です。何かを予防するお薬は、投与しなくてもすぐにその予防していた病状を発症するわけではないので、お薬の恩恵を過小評価しがちです。すぐに薬の利点は見えないわけですが、高血圧の管理によって飼育動物の生活の質が高い状態で維持できていく(現在進行形です)ことをご理解いただきたいと思います。将来のための治療薬が高血圧管理のお薬です。

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<おまけ・塩分の高い食事と高血圧>

517日は「世界高血圧デー」なんですけれど、同時に「減塩の日」でもあります。塩分摂取と高血圧についてお話する機会が多いことをここでもお伝えします。

食餌中のナトリウムの問題は専門家の間でも、多くの論議が出るテーマになっています。正常な犬や猫の血圧は、塩分の影響は受けにくいようだという報告が出ていました。犬や猫では、自然に発生した全身性高血圧症で高ナトリウム摂取が高血圧に与える影響そのものは体系的に評価されていないようです。今のところわかっているのは、ナトリウム制限だけでは血圧を低下させることはないということです。そして、慢性腎臓病の猫では塩分の摂取量が多いと悪影響を及ぼすことがあります。それで、犬と猫の高血圧に関するACVIM(米国獣医内科学会)の合意声明を出した委員会のメンバーは「食餌性Naの多量摂取について避ける」よう勧めています。IRISでも慢性腎臓病があるときのNaは「お薬と併用して徐々に制限する」ように勧めています。適切な食事としてNaは不可欠な栄養素ですし、併発疾患や嗜好性の問題もあるので、個々で考える必要があると思います。

今週、体調不良により日曜日の更新予定が遅くなってしまいました。17日に間に合ってヨカッタ~!
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